魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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先日アメトークで「仮面ライダー芸人」と称して全ライダーシリーズを紹介してましたが、観てましたか? 私としては龍騎の紹介の際にシザースが死んだ直後の所を採用するとは思っていませんでした。

話が逸れましたが、今回はバージョンアップについて明らかになります。


24.バージョンアップ

「(……本当に、死ぬんだ)」

 

もう何度目か分からない程にため息をつくスノーホワイトは、腰を下ろしている鉄塔の上から水平線上を眺めていた。

誰かに魔法少女である事を明かせば、その時点で魔法少女としての資格は剥奪され、死ぬ。つまり、両親や友人に自分が死ぬかもしれないと、相談する事さえ叶わない。

死にたくない。怖すぎる。そう思いつつも、結局ねむりんの死よりも、今後の自分の事ばかり心配していると気づき、自己嫌悪に至った。

 

「(ねむりんだったら、こういう時どうしたんだろう……)」

 

あれだけチャットで話し合って仲を深めたばかりなのに、いざその少女の死を受け入れようとすると、悲しい気持ちで胸がいっぱいだった。

スノーホワイトが顔を俯かせて暗く沈みきっている間、九尾、ラ・ピュセル、ライアの3人は一箇所に寄り添って、マジカルフォンを操作していた。電子音だけが鳴り響き、それに気づいたスノーホワイトが顔を上げ、気になって近づいた。

 

「何してるの?」

「うん。ちょっとね」

 

何かを確認しているようだが、一体何があるというのか。スノーホワイトの疑問は、3人の実演によって解消された。

 

「この表示を見ろ」

 

そう言って九尾はマジカルフォンの画面を見せて、マジカルキャンディーの所持数をスノーホワイトに覚えさせた。スノーホワイトが頷くと、隣にいたラ・ピュセルの持つマジカルフォンに近づけて、何やら操作をしていた。その後再びマジカルフォンを見せられた時、スノーホワイトはある変化に気づいた。

 

「……あれ? 減ってる」

 

記憶に間違いがなければ、九尾のマジカルフォンに表示されているマジカルキャンディーの個数が半分に減っているではないか。それから再び2人が操作をしてスノーホワイトに見せると、今度はちゃんと、最初に見せられた数値と同じになっていた。

 

「何、これ……?」

「これがファヴとシローの言っていた、新しい機能であるバージョンアップらしい」

 

ライアがそう解説した。

 

「これが……?」

「いわば、マジカルキャンディーの譲渡機能が追加されたという事だ。ちなみに相手のマジカルフォンがオフになっていても時間はかかるが、キャンディーのやり取りが可能だという事も実験で判明した」

「えぇっと、……それで?」

「多分、マジカルキャンディーを増やすのに協力してやれっていう、向こうからのメッセージだと思うんだ。今まで、モンスター退治だとキャンディーの稼ぎ分がこの中で一番少ないスノーホワイトに、僕達が均等になるように分け与えれるって事さ」

「ったく。こんなバージョンアップを考えてる暇があるんなら、魔法少女と仮面ライダーの人数を調節しておいてほしいもんだよ」

 

3人の会話を聞きながら、スノーホワイトは内心驚きながら3人を見返した。曇り空を背景にしつつも、スノーホワイトにはその3人が凛々しく、威厳に満ち溢れているように感じられた。

 

「みんなは、マジカルキャンディー集める気なの?」

「もちろんさ」

「あぁ」

「まぁ面倒ではあるけど、集めなきゃ文字通り首切られちまう。やった方がマシだ」

「……怖いとか、思ったりしないの?」

「お前は怖いのか?」

 

九尾にそう尋ねられ、スノーホワイトは包み隠さず吐露した。

 

「そりゃあ怖いよ。誰かが死んだり、自分が死んだりとか、そんなの嫌だよ。お父さんやお母さん、友達にも会えなくなっちゃう。もう魔法少女のアニメを見る事も出来なくなるし、美味しいものを食べたり、面白いものを見て笑ったりも出来なくなるなんて、そんなの……」

「怖い、よな。うん。僕だって怖い。怖くないわけないよな。九尾やライアだってそうだ」

 

ラ・ピュセルの呟きに、九尾とライアは頷いた。

 

「でもさ。怖いからって何もしなかったら、次に脱落するのは僕らになる。そんなの嫌だろ? だったらさ、ここにいるみんなで最後まで頑張ろうよ」

 

その真剣な眼差しを見ているうちに、スノーホワイトはこれまで視聴してきた魔法少女アニメを思い返した。彼女達も、大切なものを守る為にその決意を胸に秘め、如何なる強敵が立ちはだかろうとも、挫けず挑んでいった。その時の彼女達の表情は、今でも忘れる事が出来ないほど、強い印象を幼き日の小雪に影響を与えた。

そして今、目の前の3人……九尾とライアは仮面で覆われている為表情までは読み取れなかったが、きっとその下ではラ・ピュセル同様、強い信念を抱いているに違いない。

自分に果たしてあんな表情が出来るようなものが備わっているのだろうか。置いてきぼりにされそうで不安に押し潰されそうになっているスノーホワイトの表情を察した九尾は、自然と手が動き、スノーホワイトの目にこびりついた水滴を拭った。

 

「だから、まぁ……。とりあえず泣くな。仮にも俺はお前のパートナーだ。簡単に死なせはしないさ」

「もちろん、九尾だけじゃない。俺やラ・ピュセルも同じ気持ちだ。それに、お前の運勢は悪くない。だからあまり気に病むな」

 

2人に続いて、ラ・ピュセルが鞘から剣を抜いて、柄をスノーホワイトに向けて膝をついた。

 

「例えこの身が滅びようとも、皆の剣となる事を誓いましょう。我が盟友、スノーホワイト、九尾、ライア」

 

やけに芝居がかった仕草や口調が目立つが、その表情は真剣そのものだった。頼もしさを感じる3人を見ているうちに安心感が生まれ、スノーホワイトは堪えていた涙が大粒となって流れ落ち、3人に、特に中心にいた九尾に抱きついた。鉄の鎧に覆われたその表面からは、夜風に当たった影響で冷たさしか感じられなかったが、密着している事で次第に温かみを感じた。九尾は、パートナーの気が済むまで、抵抗する事なく抱きしめられ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねむりんの死を嘆いているのは、何もスノーホワイトに限った話ではない。

 

「ねむりん……」

「……」

 

ビルの屋上の石段に腰掛け、手を目に当てて涙を流しているトップスピードと、黙って俯いている龍騎もまた、意気消沈していた。

トップスピードにとっては、自分の長話を最後まで嫌な顔1つせず聞いてくれた、数少ない魔法少女であり、龍騎の場合は、まだなって比較的日の浅い事もあってさほど接点もなかったが、やはり同胞を失うという事実は、龍騎を落ち込ませた。

単なる脱落程度なら、変身前の姿で会う機会があったかもしれない。が、蓋を開けてみれば、脱落する事は即ち『死』を意味するというものであり、チャットで知ったクラムベリーとオーディンを除けばいち早くその真相に気づいた正史は、悔やみきれない気持ちでいっぱいだった。

そんな2人に声をかける者達が。

 

「……おい。もういい加減落ち着いただろ」

「マジカルキャンディー集めの再会、いつになるんだか……。ぐずぐずしてると、他の奴らに置いて行かれる」

「ナイト、リップル……」

 

彼らと行動を共にするナイトとリップルが、嘆いている2人を見下ろしていた。

 

「……っと。悪りぃな2人とも。もう大丈夫だ。な、龍騎」

「お、おぅ……。何かゴメン。心配かけさせちゃったな」

「心配なんかしてないし……」

「でもずっと側にいてくれたじゃねーの。俺は嬉しいぞ。そう思わねぇか、龍騎?」

「……そっか。ありがとな」

 

2人にお礼を言われると、ナイトは鼻を鳴らし、リップルは舌打ちした。いつもながらの反応を見せて、笑みがこぼれたトップスピードは、パンと手を叩いた。

 

「うっし! 暗い話はとりあえずここまでだ。キャンディー集めの前に、1つ腹ごしらえといこうぜ! ちゃんと作ってきたからよ!」

 

2人もこっち来て座んなさい、と手招きして、2人は渋々承諾。龍騎とナイトは変身を解き、レジャーシートの上に座った。

 

「おっ、これ美味い!」

「だろ? ちょいとマヨネーズを加えてみたのさ」

「へぇ〜。それ良いな」

「お、そうだ正史。お前料理とかすんのか?」

「まぁ自炊ぐらいは出来るよ。あ、後は餃子が俺の得意料理なんだ。結構自分なりにこだわっててさ。それに関してはちょっとうるさいんだけど」

「おぉ、餃子か! 久しく作ってねぇなそいつは」

「今度機会があったら振る舞ってあげるからさ。楽しみにしといて」

「おうよ! ……あ。これ食ってみて。俺の自信作だぞ」

 

そう言ってトップスピードが差し出したタッパーの中にはかぼちゃの煮物が敷き詰められていた。が、蓮二は無表情で他の料理に手をつけるばかりで、リップルにいたっては眉をひそめていた。

 

「? 何? もしかして嫌いだった?」

「……そんな甘いの、おかずとして食える奴の気がしれない」

「えぇ、そっか〜? 美味しいじゃん。特別甘過ぎずって感じで」

「(……ここにいたか)」

 

正史が躊躇なくかぼちゃの煮物を箸でつまんで口に頬張る姿を見て、リップルは呆れ果てた。と、不意にトップスピードが高笑いした。

 

「はっはっは! 分かるぜそれ! 俺もおんなじでさ。若い頃はそう思ってたんだ!」

「(……じゃあ何で作った)」

「んじゃ、こっち食べれば? ほれ、蓮二も」

 

トップスピードは玄米の入ったおにぎりを蓮二とリップルに差し出した。今度は2人とも躊躇せずに手にとって、口に入れた。味はなかなかに美味だった。

玄米のおにぎりに続いて別のおかずを食す中、蓮二は冷静に今後の事を考えていた。蓮二とて説明がないまま生命の危機に追いやられ、挙句の果てにねむりんがその犠牲者になった事に怒らないわけではなかったし、自分が死ぬ事を想定して胸が痛む事もあった。リップルも同じはずだ。それでも蓮二は冷静さを貫いた。

ここから先は、文字通り死ぬ気でキャンディーを集めなければならない。そうしなければ、死を待つばかりなのだ。その為には、利用出来るものは可能な限り利用する。パートナーであるリップルはともかく、常に鬱陶しくなるほど自分達に絡んでくる龍騎とトップスピードには毎度苛立たせられるが、助けを求める人を見つけやすく、且つ人助けに前向きな姿勢で臨んでいる2人と行動していれば、必然と自分達のキャンディーの獲得数も上がり、脱落する可能性は低くなる。要は、利用価値があるから付き合ってやっているだけで、いざとなれば切り捨てて、自分だけが助かる手はずも整えてある。

ここまでくると、我ながら最低だな、と思う蓮二だが、それも仕方ないと言い聞かせていた。彼には、生き残らなければならない理由がある。こんな事で死んでしまっては、ある目的が果たせなくなる。だから、絶対に死にたくない。何としてでも生きてみせる。

そう決心した蓮二は、気持ちを切り替えて、目の前に広がる料理を見渡しながら呟いた。

 

「……ただ、アレだな。こんな時でも、よく飯なんて食べようと思えるのか」

 

魔法少女や仮面ライダーに変身している間は、眠くもならず、飢えもない。とどのつまり、こうして食事をする事はさほど意味を持っているわけではないのだ。が、トップスピードはいつにも増して頑固な口調で言った。

 

「こんな時、だからこそ食うんだよ。生きる為には食わなきゃ。いざという時に力が出ねーからな」

「うん。それすっごく分かる」

 

正史もおにぎりを力強く口に頬張りながら頷いた。

 

「それにな……」

 

不意にトップスピードは雲のかかった夜空を見上げ、首からぶら下げてあるお守りを握りしめながら呟いた。

 

「俺は、まだ死ねない。最悪でも、後半年は、絶対に生きるって、そう決めてんだ。あの人(・・・)に、そう誓ったんだ」

「あの人……? それに、半年って、何で……?」

「ん。何でもねぇ。こっちの話」

 

正史が、トップスピードの言い方に疑問を投げかけたが、当の本人は笑いながらはぐらかした。

死への恐怖ではない、生きる事への執着、揺るぎない生存への意志が、彼女からは感じられると蓮二は察した。

 

「……でも、俺だって同じだ。こんな事で死ぬなんてごめんだ。だから、俺は生き残りたいよ」

 

正史のその言葉に、蓮二は反応し、表情をきつくしながら呟いた。

 

「……それだけの理由でか?」

「それだけって……。別にいいだろ。誰だって死にたくないって思うし」

「つくづくその煮物みたいに甘いやつだ。俺にはあるぞ。生きて、やり続けなければならない事がある。でもお前には特別な理由はない。そんな事でこの先やっていけると思ったら大間違いだ」

「そ、そんな言い方」

「文句は生き残りたい理由を見つけたら聞いてやる」

「っていうか、お前こそ何でそんなに生きようって思ってんだ?」

「今のお前に答える義理はない」

 

そう言って蓮二は再び黙り込んだ。リップルはその表情を意味深な表情で見つめていた。

 

「ま、何にしたって俺達協力してこれからもやっていこうぜ! ほら、みんなもっと食っとけよ!」

 

トップスピードは元の勝気な表情に戻り、さらに食事を推進した。

その後、一同は問題を探し、マジカルキャンディーをゲットする為に、夜のN市を巡回した。全ては生き残る為に。

唯一龍騎が疑問に思っていたのは、トップスピードが何故半年という中途半端な期間を目標として掲げたのか、そして最後の方で彼女が呟いた、あの人が誰を指しているのか、という事だった。

 

 




トップスピードは……。本編ではなんて悲劇的な死を遂げてしまったのか……。

スイムスイム、マジで外道……。こんなんだったら龍騎とかまどマギの方がまだ可愛く見えますね。

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