魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回で脱落者が出ます。誰がなるのかは想像通りかと……。


21.最初の脱落者

 

 

「こいつは酷いな……」

「……なぁ、ここの家っておじいさんとおばあさんの2人暮らしだったよな」

「あぁ。まだ中に取り残されてるって話だぜ」

「でも、こんなに燃え上がってちゃあ……」

 

野次馬がそう口々に呟いている目先では、民家が炎に包まれており、何台もの消防車から一斉に放水されていた。が、予想以上に火の回りが強く、中に突入しようにもそれが出来ない。まだ家の中には老夫婦が救出されておらず、このままでは2人の安否も絶望的だった。

もはやこれまでか。誰もがそう思っていたその時、野次馬の1人がアッと叫びながら上空を指差した。側にいた何人かが見上げると、4つの人影が、遠くの民家の屋根から空高く飛び上がり、火事の現場に颯爽と突入していった。その道のプロである消防隊員でさえ突入を躊躇せざるをえないこの状況で、何者かが介入してきたのだ。

魔法少女や仮面ライダーだ。誰かがそう喚くと、野次馬達は思わず隣同士で目を合わせた。最近噂になっている謎の人物達の事か。火事の事はそっちのけで、そう口々に語り出していると、女性の声が聞こえてきた。誰かが倒れているらしい。慌てて何人かが声のした方へ向かうと、火事の現場から少し離れた路上に、老夫婦が倒れているのが発見された。気を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。すぐに救急車を呼んで、2人を病院に運び込ませた。が、不思議な事に、いくら探しても声の主であろう女性の姿を確認する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで少しばかり時間を巻き戻し、火事が起きた直後の頃。屋根の上を転々としながら、スノーホワイト、九尾、ラ・ピュセル、ライアは現場へと急行していた。偶然近場で炎が上がっているのを目撃し、駆けつけたのだ。

4人は炎に包まれた家が視界に入った辺りで立ち止まり、スノーホワイトは魔法を駆使して耳を澄ませた。

 

『た、たす……け、て……』

「! 聞こえる……」

「場所は分かるか」

「2階の右奥の部屋だよ! そうちゃん!」

「任せて!」

 

中に取り残された人の居場所を特定し、情報を伝えた後、ラ・ピュセルが真っ先に飛び上がり、剣を抜いて肥大化させ、人がいるという地点から少し外れた所に向かってぶん投げた。剣は易々と屋根を貫き、4人は一斉に中へ突入した。

しばらく進んだ先に、老夫婦が倒れているのが見え、九尾は指差した。

 

「あそこだ!」

「よし」

 

スノーホワイトとライアが2人に駆け寄ろうとした時、老夫婦の近くにあった木柱が2人めがけて落下してきた。炎に焼かれて脆くなっていたのだろう。

 

「! させるか!」

 

『SWORD VENT』

 

これを見た九尾は走りながら素早くベントインし、フォクセイバーで老夫婦の前に立ちはだかり、木柱を細かく斬り裂いて弾き飛ばした。おかげで老夫婦に怪我はなく、すぐに他の3人が老夫婦に駆け寄った。

 

「すぐに脱出するぞ」

「はい!」

「あぁ!」

 

老夫婦を担いだライアとラ・ピュセルを先頭に、スノーホワイト、九尾も続いて民家から脱出し、近くの路地に足をつけた。老夫婦を降ろした後、ライアは2人の安否を確かめた。

 

「煙を吸い込んではいるが、まだ意識ははっきりしている方だ。すぐに病院に運べば、後は彼らが何とかしてくれるだろう」

「なら、後は近くの人に任せるか。ラ・ピュセル」

「うん。……誰か来てください! 怪我人がここにいます!」

 

ラ・ピュセルが大声で叫び、人が来る気配を察知した後、4人は何事もなかったかのようにその場を去った。

サイレンの音も小さくなり、炎が小さくなった頃、4人はいつものように鉄塔で腰を下ろした。

 

「あの人達、大丈夫だったかな……?」

「多分大丈夫だ。さっき確認してみたら、マジカルキャンディーの数が一気に400個以上増えていた。あの2人が無事じゃなかったら、ここまでキャンディーは増えないさ」

 

ラ・ピュセルはマジカルフォンでキャンディーの数を確認し、2人が無事である事を知らせた。それを聞いて、スノーホワイトはようやく安堵の表情を浮かべた。

 

「良かった……」

「……それからさ」

 

と、ここでラ・ピュセルが少し口調を尖らせながらスノーホワイトに言った。

 

「この姿の時はそうちゃんって呼ばないでくれないか? 調子狂うっていうか……」

「ご、ごめんね。あの時は必死だったから、つい……」

 

スノーホワイトが申し訳なさそうに呟いていると、九尾が口を開いた。

 

「さっきの分も含めて、ここまでかなりマジカルキャンディーを集めたよな、俺達」

「あぁ。特にスノーホワイトはね。何せ僕達と行動してる時以外でもキャンディーを集めてるし」

「私は、キャンディーを集めるために頑張ってるわけじゃないよ。人助けがしたくて、頑張ってるんだ。そういう魔法少女にずっと憧れたんだもん。だから、魔法少女を辞めたくないのも事実だけど、こんなに頑張れるんだ」

「キャンディーの数に関してはおそらく順位に変動はないはずだ。スノーホワイト、九尾が1、2位を占めている。2人の協力もあるから、俺とラ・ピュセルの脱落もないだろう。2人には改めて感謝しなければな」

「うん。僕からも礼を言わせてくれ。本当にありがとう」

「別に大した事はしてませんけどね」

「そうそう。私達が頑張れたのも、ライアやそうちゃ……ラ・ピュセルがいてくれたからだよ」

 

またそうちゃんと言いかけたのを聞いて、九尾とライアは仮面の下で笑いを堪えられなかった。

それから話題はとある魔法少女に関する事に移った。

 

「ねむりん?」

「うん。最近チャットでよく話すようになったんだ」

 

スノーホワイトがそう語るように、ここ最近になって、彼女はねむりんとチャットで世間話をするようになった。きっかけは、以前ラ・ピュセルが抱えている悩みが何なのかを探ろうとしている中で、夢の中に現れて九尾らに相談してみては、とアドバイスをもらってからだった。以来スノーホワイトはねむりんを気に入って、キャンディー集めに必死になっている間も欠かさずチャットルームに向かい、そこでねむりんと日付が変わる頃まで話していた。

 

「私はあの子が好きだなぁ。話したい事が全部話せるから」

「そういう人は多いよ。いつもチャットルームにいて、楽しそうに人の話を聞いてくれるしね」

「どんな人なんだろう? 一度直に会って話したいなぁ」

「それは……、難しいかもな」

「えっ?」

 

ライアの呟きに反応したスノーホワイトだが、尋ねる前に九尾から声をかけられた。

 

「そろそろ時間だな。チャットルームに入るぞ」

 

それを聞いてスノーホワイトは表情を強張らせた。

今宵は成績発表の日。この後行われるチャット会で、ファヴとシローから最もキャンディーの少ない人物、すなわち脱落者が発表される。チャットルームにログインしてから、スノーホワイトはポツリと呟いた。

 

「脱落したら、永遠にその人とお別れになっちゃうんだよね。どんな人だったのかも分からないまま」

「あぁ。私達の半分がこれからそうなるわけだからね」

「長い闘いになるが、そうならないように、今は頑張るしかない」

 

スノーホワイトが頷くと、ファヴとシローがチャットルームに入ってきた。すでにほとんどの魔法少女や仮面ライダーがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャット内に、余裕そうなクラムベリーが奏でるバイオリンの音色が、BGMの如く鳴り響く中、最初にファヴが労いの言葉をかけた。

 

ファヴ:『みんな、お待たせぽん! まずはみんな、この1週間お疲れ様ぽん!』

シロー:『では、今週の脱落者を発表する前に、成績が最も良かったトップ3を発表する』

ファヴ:『今週のトップは、スノーホワイトだぽん! そして2位は九尾、3位は龍騎だぽん!』

 

予想通りといえば予想通りの結果となり、様々なコメントが出てきた。

 

龍騎:『ッシャア!』

トップスピード:『おぉ! やったな新人共!』

クラムベリー:『おめでとう』

オルタナティブ:『素晴らしいですね』

スノーホワイト:『みんなありがとう!』

九尾:『ありがとうございます』

ミナエル:『やっぱりねー!』

ユナエル:『本命だもんねー』

インペラー:『やっぱかなわねぇなぁ』

ルーラ:『……ふん。新人のくせに』

アビス:『まぁまぁ。ここは素直に3人を讃えましょう』

 

そして話題は、皆が最も気にしている最下位の発表へと移った。

 

シロー:『では、今週最もマジカルキャンディーが少なかった者を発表する』

 

一同が緊迫していると、ファヴからその人物の名が出てきた。

 

ファヴ:『今週の最下位は、「ねむりん」だったぽん!』

 

「えぇ⁉︎」

 

スノーホワイトが結果を聞いて、驚きの声をあげた。あまり接点のなかった九尾は特にリアクションを取る事はなかった。ただ、ラ・ピュセルとライアはさも予想通りと言わんばかりの表情と雰囲気だった。

一方でチャット内では他のメンバーによる別れの挨拶が始まった。

 

シスターナナ:『あなたとお別れだなんて寂しいです、ねむりん』

ねむりん:『今まで楽しかったよ、シスターナナ』

ウィンタープリズン:『どうか、お元気で』

ねむりん:『あなたもね、ウィンタープリズン』

ファム:『もっと話とかしたかったけど、もう無理なのね』

ねむりん:『そうだね、ファム。でも、ファムの話も面白かったよ』

トップスピード:『俺の話とかもちゃんと聞いててくれたしな! マジで感謝してるわ!』

ねむりん:『ありがとう、トップスピード』

 

皆のコメントから目線を外した九尾は、そこでラ・ピュセルとライアの方を向いて尋ねた。

 

「……なぁ。ひょっとして知ってたのか? 真っ先にねむりんが脱落するって事」

「知ってた……というより」

 

ルーラ:『まぁ、当然よね』

 

九尾の問いに答えるかのように、ルーラがコメントすると、ピーキーエンジェルズがこうコメントした。

 

ミナエル:『いっつもチャットルームに入り浸ってちゃあね』

ユナエル:『ねー』

ゾルダ:『そりゃあ仕方ないよな』

ねむりん:『てへへ』

 

ねむりんが照れたようにコメントしていると、ライアが口を開いた。

 

「大方予想はついていた。彼女は基本的に夢の中でしか活動しない。夢の中でのマジカルキャンディーの獲得数はダントツで彼女がトップだが、現実世界ではおそらく0なのだろう。それに」

「それに?」

「彼女もこうなる事を望んでいたように思える。いつまでも魔法少女ばかりを務めているわけにはいかないと考えて、脱落を選んだ」

 

それを聞いたスノーホワイトはいてもたってもいられずに、コメントを書き込んだ。

 

スノーホワイト:『ねむりん! ゴメンね、私、ねむりんの気持ちに気付けなくて……』

ねむりん:『へーきへーき。ちょっとしか絡めなかったけど、楽しかったよ、スノーホワイト』

スノーホワイト:『うん、私も』

 

そして最後に、パートナーのシザースが別れの挨拶を交わした。

 

シザース:『こうも早くパートナーがいなくなると寂しいものがありますね。ですが、後の事は心配せずとも、私は生き残ってみせますよ。それが、街のみんなの平和を守る私の役目でもありますから』

ねむりん:『うんうん。これからはまとめサイトで、シザースやみんなの活躍、観てるからね』

シロー:『別れの言葉は済ませたか?』

ねむりん:『うん。もう大丈夫』

ファヴ:『じゃあ、さよならぽん!』

 

ファヴがそう言ったその瞬間、チャット内からねむりんのアバターが唐突に消え去り、『ねむりんさんを削除しました』というメッセージが写った。

 

「!」

 

これにはスノーホワイトら4人だけでなく、何人かのメンバーも目を見開いた。

 

ラ・ピュセル:『おいおい、そりゃあないだろ⁉︎』

龍騎:『ちょっといくら何でも今のは……』

ファヴ:『仕方ないぽん。これは厳密たるルールだぽん』

インペラー:『ルールって……』

シロー:『とにかく、今週のチャット会はこれでお開きとする。次週もマジカルキャンディーの少ない者を脱落とする』

ファヴ:『みんなもトップのスノーホワイトを目指して頑張ろうぽん!』

 

それが締めの言葉だと捉えた魔法少女や仮面ライダーは、1人2人とチャットから退出していった。気がついた時にはスノーホワイト、九尾、ラ・ピュセル、ライア、そしてクラムベリー、オーディン、ファヴ、シロー以外誰もいなくなっていた。

 

「みんな、俺達も出よう」

「そう、ですね」

 

ライアの言葉に九尾は頷き、スノーホワイトとラ・ピュセルもねむりんがいなくなった寂しさを感じつつ、ログアウトのボタンをタップした。

スノーホワイトにとって、つい最近知り合った魔法少女がいなくなってしまったのは残念だったが、くよくよしていても仕方がない。4人は次週以降も脱落する事がないように誓った後、その日は解散となった。

ただ1つ、メンバーの中でクラムベリーとオーディンだけがなぜ最後までチャットルームに残り続けているのかだけが疑問に思う九尾であった。

 

 

 




というわけで、最初の脱落者はねむりんとなりました。やはりねむりんの脱落だけは避けきれないものですからね。

……ですが、物語はこれだけで終わるはずも無く。皆さんはもうお分かりかもしれませんが、次回はねむりんが……。

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