魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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20話目を迎えて、皆様からの温かいコメントを読む事が毎日の楽しみになっている作者であります。

今回はタイトルからも分かる通り、あの魔法少女が大活躍!(パートナーも出ますよ)


20.夢の中での奮闘

チャットでの重大発表以降、N市での魔法少女及び仮面ライダーの目撃情報は増大し、まとめサイトは大いに盛り上がりを見せた。

 

『お姫様が怖い犬を追い払ってくれた』

『鮫のような人が、不良に絡まれた自分を助けてくれた』

『双子の天使が、うっかり手放してしまった風船を取ってきてくれた』

『ロボットみたいな小学生が自販機の下に落としてしまった硬貨を拾ってくれた』

『龍みたいな人が、箒に乗った魔女と共に、鏡から出てきた化け物を退治していた』

『白い学生服の少女が、落し物を届けてくれた』

『狐みたいな人が、木の上に引っかかったボールを取ってくれた』

 

……などなど、目撃情報が後を絶たない。

彼らが活動の幅を広げようとする分、人の目に触れる機会が増える。既にテレビ番組でも一部ではあるが、魔法少女や仮面ライダーを『謎の救世主』としてとりあげているぐらいだ。意図せぬ露出を増やした事でまとめサイトを盛り上げ、注目度を上げていたのだ。

しかし、魔法少女や仮面ライダーの活動出来る場所は、なにも現実世界に限った話ではない。彼らの中には、人目にはまずつかない、というよりも、一般人なら誰もその存在を覚えているはずもない者が、人知れず人助けをしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の目の前に広がる光景。それは、辺り一面が火の海と化している、普段から見慣れたはずの街中。そんな夜の街中を臆することなく堂々と進撃し、ありとあらゆる建造物を破壊しているのは、自分よりも何千万倍もの大きさを誇る、怪獣。

黒色の尖った鱗や、先の鋭い手足の爪、威圧感溢れる尻尾、そして激越な思いがこもっている赤い瞳。そんな特徴を持つ怪獣は、口から熱光線を放ちながら、周りを地獄絵図へと変えていた。

 

「あ、あぁ……!」

 

少年は恐怖のあまり、膝がこれでもかと言わんばかりに震え、尻餅をついたまま、口を大きく開けて唖然としていた。

怪獣が喜びを表すかのように咆哮し、窓ガラスを鳴動させる。それから周囲を見渡し、そして見つけた。赤い瞳の先に、恐怖に慄いている少年がいるのを。怪獣は思わず口元を歪めて牙を見せつけた。

ズシン、ズシンと道路に足型をこさえながら、怪獣はゆっくりと、しかし確実に少年に迫っていた。少年は一刻も早く逃げようと思ったが、足が動かない。このままでは踏み潰されるか、光線を当てられて死ぬ。そう感じた少年は無駄と分かりながらも叫んだ。

 

「た、助けてぇぇぇ!」

「まぁかせなさぁ〜い!」

 

不意に返ってきたのは、身に覚えのない声。怪獣にもその声が聞こえたのか、辺りをキョロキョロし始めたが、その人物は猛スピードで怪獣の腹めがけて体当たりしてきた。怪獣も不意の攻撃に対処できずに倒れた。

一体誰が助けてくれたのか。少年は驚きつつも正体を確かめようとした。その人物は、まだ倒壊してないビルの屋上に降り立った。あれだけのパワーを秘めているのだ。アメリカンヒーローか、もしくは最近噂になっている仮面ライダーか。そう予想していた少年だったが、ようやくその姿を確認できたところで、少年は思わず目を疑った。

ビルの屋上に立っていたのは、ウサギの柄が入ったパジャマ姿の少女だった。右脇には枕を抱き、身長より長い髪はビル風になびいていた。

 

「街を壊し、人を傷つける悪い怪獣めぇ! この魔法少女『ねむりん』が、やっつけてやるぅ!」

 

そう叫んだ後、少女は屋上から跳び、「とぅっ!」という掛け声と共に起き上がろうとした怪獣の眉間に飛び蹴りを入れた。怪獣は泣き声をあげた。尚も暴れようとする怪獣に対し、少女はその容姿からは信じられないほどに蹴ったり殴ったり、枕で叩きつけたりと、怪獣を圧倒している。

だが、怪獣もやられてばかりではいられないと思ったのか、反撃とばかりに少女を踏み潰そうと前進した。少年が、危ないと叫んだが、少女は冷静だった。

 

「よぉし。せっかくだからこれを使っちゃおう!」

 

何をする気だと思っていると、少女はポケットから端末のような何かを取り出し、タップした。すると、少女の右腕に、カニのハサミのような黄色い武器が装着された。

 

「(何でカニ……?)」

 

少年が困惑する中、少女はオォッ、と呟きながら自身の右腕につけられたパートナーの武器『シザースピンチ』を眺めていた。

怪獣は警戒する事なく右足を振り上げた。それで少女を踏み潰そうというのだろう。だが少女の方が一手早く、再び飛び上がって逆にシザースピンチで怪獣の足を挟み込んだ。

 

「どっこいしょおぉぉぉぉ!」

 

少女は見た目からは想像もつかないほどの豪腕で、怪獣をあっさりと持ち上げてひっくり返した。

怪獣は転倒して、頭を強く打った衝撃で目が回っているようだ。動きが止まってチャンスと見た少女は眉間に両方の人差し指を当てて、ポーズを決めた。

 

「ひっさぁつ! ねむりんビーム! びびびびっ!」

 

稲妻状にギザギザに折れ曲がっているビームが眉間から放たれて、巨大な怪獣に命中。怪獣を雄叫びと共に金色の光に包み込まれ、段々と小さくなった。

やがて光が途切れた頃には、黒かった皮膚は薄い緑色に、角や牙はすっかり無くなり、稀によく見かけるトカゲぐらいのサイズになっていた。少女はトカゲと少年の前に降り立って、にこやかに呟いた。

 

「あなたを操っていた悪い心を浄化しました。さぁ、南の島にお帰り」

 

トカゲはお礼を言うようにぺこりと頭を下げ、陽気な動きでどこかへと去っていった。少女はしばしの間トカゲの後ろ姿を見つめていたが、しばらくして、とうっと飛び上がって空の彼方に消えた。

少年は唖然とした表情でその光景を見つめていたが、やがて辺りは光に包まれて、気がついた時には、ベッドの上で寝転んでいた。

夢……だったのか。頭の中でそう整理していると、下の階から母親の声が聞こえてきたので、少年は慌ててベッドから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綿あめのように真っ白な雲が果てしなく続くそこは、夢と現実の狭間にある世界。そんな世界で魔法少女『ねむりん』はフワフワな雲の上に寝転び、マジカルフォンを操作していた。画面からは立体映像として、マスコットキャラクターのファヴが浮かび上がっている。

マジカルフォンには、現在ねむりんが貯めてあるマジカルキャンディーの数が表示されているが、その数なんと、7兆5036億8568万9921個。

 

「今日の怪獣退治でいよいよ凄い数になっちゃったねぇ」

『あれだけ世界だの宇宙だの救っていればそうなるぽん』

「ねぇねぇ。これってカンストあるの?」

『カウンターストップの事ぽん? 数字の上限は設定上あるかもしれないけど、実際そこまで貯めた魔法少女や仮面ライダーはいないぽん』

「ふぅん。じゃあもっと頑張って貯めて、初めてキャンディーをカンストさせた魔法少女になろうかな」

『どうせなら現実で頑張ればいいぽん。シローも呆れてたぽん』

「現実で頑張ったら疲れるもーん」

 

ねむりんがあくびを1つすると、ねむりんの髪の毛の先を飾る、雲のような生き物、通称『ねむりんアンテナ』が反応を示した。

 

『パートナーガ来ルヨ!』

「ん」

 

それに反応してねむりんが体を起こすと同時に、ねむりんとファヴの前に光が現れ、そこから左腕にハサミ型の召喚機『シザースバイザー』を装備しているカニのようなライダーが現れた。ねむりんのパートナーである仮面ライダー『シザース』だ。

本来夢と現実を行き来できるのはねむりん以外いないのだが、シザースは特別だ。その理由は、パートナーシステムにあった。ねむりんとペアを組んだ事で、シザースにねむりんの魔法を使える新たなカードが付与された。そのカードは、『ドリームベント』。文字どおり夢に関する事なら何でも実現するのだ。夢の中に入る事はもちろん、誰かの夢の中で起きている事を現実世界に具現化させる事も可能なのだ。

 

「こんばんは。また夢の中でマジカルキャンディー集めですか」

「うん。そーだよ〜」

『ちょうどいいところに来てくれたぽん。シザースからも言ってほしいぽん。ねむりん、現実世界で全然キャンディーを集めようとしてないぽん。パートナーとして、何とか説得してほしいぽん』

「ねむりんさん。分かっているとは思いますが、キャンディーの総数は確かにあなたがトップです。ですがそれはあくまでここの世界だけの話。現実世界には全く反映されていません」

 

シザースの言う通り、夢の中で稼いだマジカルキャンディーは夢の世界でしか通用しない。夢の中ならどんな敵であっても簡単にやっつけてしまう彼女がいくら荒稼ぎしようと、現実世界にはカウントされない。そして、ねむりんはこれまで現実世界で活動した事はない。つまり、現実世界においてはねむりんのキャンディー数は0なのだ。当然ファヴやシローが決めたルールが適用されるのは、現実世界でのキャンディーの総数である事は言うまでもない。つまり……。

 

「このままいけば、あなたの脱落は確定です」

『そうだぽん。現実でキャンディーを稼ぐべきぽん』

 

対するねむりんは再び雲の上に寝転がり、目をこすりながら微笑んだ。

 

「現実世界は、あなたや他の子に任せようと思ってるんだ〜。だってシザースって、普段はみんなの事を守ってるお仕事をしてるんでしょ〜? 現実世界で会ったの、シザースだけだもん」

「……そういえばそうでしたね。あなたの素顔を知ってるのは私だけかもしれません」

「確か、道を教えてもらおうって思った時にバッタリ会ったよね〜」

「えぇ。結局現実で会ったのはその時限りでしたけど」

 

2人が当時の思い出に浸っていると、ファヴが声をかけた。

 

『本当にねむりんはやる気ゼロぽん』

「だから、夢の世界はねむりんが頑張ってるから……」

「ですが、発表は明日です。そこであなたの名前が呼ばれたらあなたは脱落し、魔法少女ではいられなくなる。夢の世界で活躍できなくなりますよ」

「まぁ、そうなるよねぇ〜。楽しかった魔法少女生活もおしまいかぁ」

 

ねむりんはそう呟いた後、起き上がって背伸びしてこう言った。

 

「でも、これを機に魔法少女を辞めるのもアリだと思うんだぁ。いつまでもグータラやってるのも、それはそれでつまらなさそうだし」

「……魔法少女を辞めて、あなたは何をするつもりですか?」

「そうだねぇ」

 

ねむりんは少し考えた後、自らの今後を話し始めた。

 

「ニート卒業して、就職活動しよっかな」

「……そうですか。分かりました。あなたがそう言うなら、私も無理に引き止めたりはしません。出来るならもう少しペアで残って、その時の特典をゲットしてみたかったのですが」

「それはちょっと無理そうだね〜。ごめんね」

「お気になさらず。私は生き残ってみせますよ。必ずね」

「うん。頑張ってね〜」

「それじゃあ、私はこれで失礼します。良い夢を」

「お休みなさ〜い」

 

ねむりんは力の抜けた手の振りで、現実世界に戻るシザースを見送った後、眠りにつく事にした。

今宵もねむりんは良い夢が見れそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界である路地裏に戻ったシザースは、夜空を見上げた。

 

「……とんだ貧乏くじを引いたかと思いましたが、まぁ、彼女との縁も潮時だと思えば問題ないでしょうね」

 

それからシザースは、カードデッキから1枚のカードを取り出した。パートナーカードである。先ほどシザースが使用したそのカードは色が失われており、ベントインできない事を指し示していた。

 

「パートナーがいなくなっても、このカードの効力が消える訳ではないとシローは言ってましたし、今後も有効活用させてもらいますよ。私が生き残るためにね……」

 

それからシザースはカードをデッキに戻し、Vバックルからカードデッキを取り外した。シザースは黒いコートを着た青年となり、その場を静かに去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女として、仮面ライダーとして残る16人の枠に入ろうと、少しでも多くのマジカルキャンディーを手に入れようと、奮闘する者達が後を絶たない1週間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、長く思えたその7日間が経過し、遂に1人目の脱落者が発表される、その時を迎えようとしていた……。

 

 

 

 

 




余談で私事ですが、WIXOSSの大会で優勝出来て上機嫌になってます。やっぱりWIXOSSは奥が深くて面白いですね。

さて、次回はいよいよ最初の脱落者の発表となります。果たして誰が脱落するのか……。

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