魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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ちょっと長くなりそうだったので、前編と後編に分けました。

今回は短編集の方で読んでみて、結構面白いと思った話をベースに進めていきます。


15.女騎士は悩む(前編)

「……ふぅ」

 

魔法少女ならぬ魔法騎士『ラ・ピュセル』は、待ち合わせ時間よりも早く、鉄塔の上で座禅を組み、深呼吸をした後、心を無にして自分の世界に没頭した。いわゆる精神統一というものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ彼女がこのような事をするようになったのか。その原因は、1ヶ月ほど前にチームに加わった、幼馴染みの姫河 小雪が変身するスノーホワイトにあった。

改めて説明すると、スノーホワイトの魔法は『困っている人の心の声が聞こえるよ』というものであり、普通なら絶対に聴き取れないであろう音まで余さず拾ってしまうという、極めて扱いの難しいものであった。

もちろん魔法少女や仮面ライダーも例外ではない。

そして忘れてはいけないのが、ラ・ピュセルの正体が中学生男子の岸辺 颯太である事だ。中学の男子というものは人生の中で最も性的な事に触れて、関心を持つ機会が多い世代だ。つまり、どんな聖人君子でも、桃色の邪念が渦巻いていてもおかしくない。それは颯太自身もそうだし、親友の大地もそうに違いないと確信していた。

つまり、ラ・ピュセルが今現在抱えている悩みはただ1つ。スノーホワイトに、自分が疚しい事を考えている事がバレてしまったら、そこで自分の魔法少女人生はジ・エンド。それだけは是が非でも避けたいと思っているラ・ピュセルは、今宵も精神統一に励んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

颯太自身、アニメを視聴していた時はそれほど気にしていなかったのだが、いざ自分がその立場になった時、大変困った事があった。

 

 

 

露出度の高さである。

 

 

 

 

一番身近な例を挙げるなら、スノーホワイトだ。張り切って活動しているのは喜ばしい事なのだが、跳んだり跳ねたりするのが主だっているにもかかわらず、スカートは短い。なのでブーツとスカートの間の肌色部分についつい目がいってしまうのだ。同じチームメイトの九尾とライアも男なのに、よくその辺を気にしないなぁ、と不思議に思うほどだった。

普通に考えれば、女子同士何でその事を気にする必要があるのか、と結論付けて終了、となるのだが、ラ・ピュセルの場合はそうはいかない。

しつこいようだが、ラ・ピュセルの正体は男だ。まさか魔法少女の中に男が混ざっているなど、誰が想像出来ようか。

スノーホワイト以外にも、警戒心が薄いのか、露出を気にしない魔法少女はそれなりにいる。

 

 

 

例えばトップスピード。

彼女は魔法の箒『ラピッドスワロー』に跨って空を飛びながら行動するのが主流だ。空を飛ぶという事は必然的に下から見上げられる危険性が高くなる。おまけにスカートはスノーホワイト以上に短い。何をするにしてもスカートの中が見えてしまいそうで、常にドキドキさせられている。加えて本人はフレンドリー気質であり、やたらとハグしたり、肩を組んだりとボディタッチしてくる。背中や肩はもちろん、稀に尻を叩いてくるので密着状態になる事が多く、その度にラ・ピュセルの頭の中は真っ白になる。

 

 

 

 

トップスピードは最近入った新人の龍騎と、ベテランのナイト、さらにナイトに指導してもらっていたリップルの3人と共に行動している。その中でリップルは元ネタが忍者であるにもかかわらず、肩や臍、太ももを大胆に露出している。いつも本人がピリピリした雰囲気を漂わせているため、さすがにジロジロと眺めるような自殺行為には走ろうともしないし、そんな機会はない。ないのだが、つい先日ライアと会話していた際にトップスピードが3人を連れてやってきた時の事だった。偶然話題が『魔法少女のコスチューム』に及んだ際、トップスピードがラ・ピュセルの腰から生えていた尻尾を握ったのだ。単に感触があるのかを確認したかったのだろうが、その行為はラ・ピュセルを大変慌てさせて、後ろに転びかけた。思わず手を伸ばすと、近くにいたリップルの腹に手が当たってしまった。その時の感触を、ラ・ピュセルは未だに忘れていない。とにかく柔らかく、とにかく滑らかだった。それからすぐにリップルに謝罪したのは言うまでもない。その場ではトップスピードの方が悪いという事でリップルとナイトは、ラ・ピュセルではなくトップスピードを叱ったわけだが、ラ・ピュセルは心の中で色々と申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、門前町の辺りで活動しているルーラチームは、割と安心出来る魔法少女が多かった。ルーラチームには、リーダーを含む5人の魔法少女が属しているが、ルーラ本人は全くといっていいほど露出していない。極端に言えば、シュッとし過ぎていて微笑ましさしか感じられない。もちろん本人の前で言えば説教待ったなしなので、口が裂けても言えないのだが……。

仲間であるミナエルとユナエル、2人合わせて『ピーキーエンジェルズ』と呼ばれる双子の天使系魔法少女もまた露出とは程遠く、どちらかというとマスコットキャラクターに近いものが感じられた。もう1人、たまと呼ばれる魔法少女がいるのだが、名前からも察せる通り、チャットでの受け答えや挙動、アバターの容姿も犬にしか見えないものがある。

だからルーラチームはジッと見てても安心出来る。……かと思いきや、現実は非情だった。ルーラチームにも、露出度が極端に高すぎる魔法少女がいたのだ。

スイムスイムと呼ばれる、白のスク水系魔法少女である。

チャットで初めてアバターを見た時は何ら感慨も抱かなかった。せいぜい真夏の体育の授業で見かける衣装を着た少女ぐらいの評価だった。そんなスイムスイムの実態を知るきっかけになったのは、道に迷っていたお婆さんの手を引いて門前町まで案内した時の事だった。ルーラの事も知っていたので、お婆さんを案内し終えてからすぐに退散しようとしたのだが、そこで運悪くルーラに見つかってしまった。「私達の庭に無許可で足を踏み入れるとは何事だ」という理不尽な説教をくらっている最中、騒ぎを聞きつけてやってきたのは、ルーラチームに属する仮面ライダーの、ベルデとアビス、そして魔法少女のスイムスイムだった。そこでスイムスイムの全体像を初めて見た瞬間、悲鳴を押し殺した。

……とにかく大きかった。明らかにバランスが取れてないほどに。それが第一印象となり、ラ・ピュセルはルーラの小言がまるで耳に入らないほどに頭がクラクラしていた。気づいた時には後から駆け付けた、ラ・ピュセルの教育係であるライアがラ・ピュセルに代わって謝っている姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなルーラチームと敵対している危険な魔法少女、カラミティ・メアリの姿は1度だけ遠目で目撃した事がある。その時は港の方で用事があったらしく、いかにも怪しげな男達を引き連れて歩いていた。その頃はまだラ・ピュセルも魔法少女になりたてだったのでカラミティ・メアリの危険性を知らず、何か悪い取引でもしようとしているように見えたので、同じ魔法少女として咎めるべきか、と思って覗いてみたのだが、その姿も異常だった。上半身はヒョウ柄を使った面積の狭いビキニ、下半身は薄く短いスカートであり、何よりも特徴的だったのは、その体型だった。スイムスイムと互角、あるいはそれ以上かもしれない。どちらが勝つか分からないな、と考え込んでいたせいで、気づいた時には見失っていた。(後にライアから注意され、2度とその近辺に近づかないようにした)

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中でもとりわけダークホースとも呼ぶべき存在だったのが、ねむりんだった。もっとも彼女とは現実ではなく、夢の中で会ったぐらいだ。夢の中でもねむりんは気持ちよさそうに寝ており、起こすのもかわいそうに思えたラ・ピュセルはそのまま見届ける事にした。しかし時間が経つにつれて、上半身パジャマに下半身靴下だけという服装はかなりの破壊力をもつ姿だと気づいた。時折寝返りを打つ度に艶かしい素足やその奥が見えそうになって、どうしよう起こした方がいいのかいやしかし、と考え込んでいる間に目が覚めた。汗びっしょりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そもそも、ラ・ピュセル自身も他人のコスチュームをとやかく言える立場ではないのだ。下半身の装甲が水着や下着に等しいレベルなので、鎧らしきところが皆無なのだ。こんな事ならゲーム内のアバターもちゃんと鎧でガッチガチに固めておくべきだったと後悔しているが、それももう後の祭り。

ライアの紹介で知り合ったシスターナナに会う時も、「あなたはなぜ露出度がそんなにも高いのですか?」と指摘されないか心配だったが、それもすぐに解消された。なぜなら、シスターナナ自身も修道女をモチーフにしているにもかかわらず、ノースリーブでスカートには長いスリット、豊満な胸をベルトで強調し、白いストッキングをガーターベルトで吊っているという、謎の露出をしていた。背徳感のあるその姿を見て、ラ・ピュセルはいつも心を悩ませていた。

それに比べ、彼女の相方とも言えるヴェス・ウィンタープリズンは何ら露出していなかった。黒いロングコートやマフラーを身に纏ったその姿は、冬場なら一般人の中に混ざっても『綺麗な人だな』レベルで全く不自然なところはなかった。

だがこの露出度の少なさが、時として想像以上のギャップを生み出す事を、ラ・ピュセルは思い知らされる事になった。事の発端は、シスターナナやウィンタープリズンに加え、女性ライダーのファムと、颯太にとって恩師にあたる香川が変身した(という事実を後日九尾とスノーホワイトから知らされた)仮面ライダーオルタナティブ、そしてライアとラ・ピュセルの6人がビルの屋上で雑談する機会があった時の事。急ににわか雨が降ってきた際、ライダー達は装甲で覆われているので何ら問題なく、ラ・ピュセルも濡れる事をさほど気にしていないが、ウィンタープリズンはその優しさ故に、隣にいたシスターナナの頭に自身のコートを脱いで、かけてあげた。その時、ラ・ピュセルは目撃してしまった。普段はコートに覆われて気づかなかったが、その体は薄手のセーターを通しても均整の取れた肉付き、特に形の良い胸回りが見て取れたので、ラ・ピュセルは絶句とともに慌てて目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

このように、ラ・ピュセルにとって魔法少女達は危険な存在であり、疚しい考えを抱かせてしまう事に繋がってしまうのだ。もっとも、そういう事は口に出さなければ何ら問題ない。ラ・ピュセルが最も危惧しているのはスノーホワイトだ。前述でも述べた通り、スノーホワイトの魔法はかなり扱いが難しく、大雑把な範囲のところでしか、心の声は把握できないらしい。が、何らかの拍子で邪な考えを読み取られてしまったら、スノーホワイトは確実に自分を軽蔑する。もっと最悪なのは、それが九尾やライアにも伝染してしまう事だ。それだけは是が非でも避けたいラ・ピュセルは、3人といる時は心を無にする事を誓った。

今のままでは、胸に手を当てるだけでオォッと唸ってしまうし、立ち上がって尻を叩いた時に触れた感触の柔らかさに驚き、思わず手のひらを当てて、沈み込んでいく肉の心地よさに浸ってしまい、誰かに声をかけてもらうまで我を忘れてしまう。

ラ・ピュセルの孤独な戦いは、人知れず続いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、話って?」

「うん。大地君も気づいてるかもしれないけど……」

 

とある日の放課後。普段のように真っ直ぐ家に帰ろうとしていた大地に連絡を入れてきたのは小雪だった。尋ねたい事があると言われたのだ。なぜ夜にみんなで集まる時ではないのかが気になったが、断る理由もない為、家族に用事が出来たと連絡した後、待ち合わせ場所に指定してきたハンバーガーショップに足を運んだ。店の前で合流した後、適当に料理を注文し、席に座って一口含んだところで本題に入った。

 

「実はそうちゃんの事で聞きたい事があったの」

「颯太の……? あいつがどうかしたのか?」

「ほら、私の魔法って困ってる人の心の声が聞こえるってものでしょ? ここ最近そうちゃんと会う度にね、スノーホワイトに自分の考えを読まれたら困るって心の中で呟いてるの」

「ほぉ……」

「ほら、覚えてる? この間2人で早く鉄塔についた時に、そうちゃんが1人で怖い顔して座って待ってた時」

「あぁ、あったなそれ。……そういや前も、変なポーズしてたり、剣をデカくしてやたらと振り回してたな」

「そ、そうなの……? じゃあそれも知られたくない事と関係あるのかな?」

「さぁな」

 

大地からの新情報に、ますます首を傾げる小雪。

 

「同じ魔法少女だし、力になってあげたいけど、悩んでる事が全然分かんないし、無理に理由を聞き出すのも気が引けちゃって……」

 

本気で心配している小雪を見て、颯太も罪な奴だな、と思ってしまう大地であった。それから顔を上げた小雪がこんな事を言った。

 

「それでね。昨日寝てたら、ねむりんが夢の中に出てきたの」

「ねむりんが……?」

 

ジュースを一口飲んだ後、大地は小雪の発言を聞いて目を丸くした。

パジャマ姿の魔法少女『ねむりん』の魔法は、『他人の夢の中に入る事ができるよ』であり、文字通り夢の中で人助けをしている事をチャットのやりとりで知っていた。

 

「ねむりんって夢の中でも気持ち良さそうに寝てたの。風邪ひくかもって思って起こしたらね、そうちゃんの事で悩んでたのがバレて、正直に話したの。そしたら……」

 

『ここでねむりんがお悩み解決してあげられたらカッコいいんだけどねぇ……。対人関係のお悩み相談はねむりんの適用範囲外なのです……。というわけで、他の誰かに相談してみたらいいと思うよ。1人じゃ解決出来ないものっぽいし、ねむりん以外の誰かならきっと良いアイデア出してくれるよ。あそうだ、先ずは一緒にいる九尾にでも聞いてみたら……?』

 

「……で、そうちゃんがいない時に相談しようって思って」

「完全に投げやりだなオイ」

 

ねむりんに対応に対してそうツッコむ大地。とはいえ、ねむりんの意見も一理ある。なにせ大地と颯太は小学一年生の頃からの付き合いなのだ。小雪は幼稚園までは颯太といる時間が長かったが、小学校の分も計算に入れると、大地の方が今は多い。が、そんな大地をもってしても、返答に大変困り果てた。

 

「うぅ〜ん……。俺も中学に入ってからそんなに会う機会なかったしな……。今でこそよく話すようになったけど、さすがに何を悩んでるのかまではサッパリ……」

「そっか……」

 

少し残念そうに俯く小雪を見て、さすがに放っておけないと思った大地は声をかけた。

 

「よし、分かった。俺も手伝う」

「本当⁉︎ ありがとう!」

「とりあえず他の人に、こういう時どうすっか聞いてみるか。俺も正直、カウンセリングっていうの……? そういうのやった事ないしな」

「うん。でも、誰に聞くの?」

「ライアはまだ夜まで忙しいみたいだから後回しにして……。龍騎がいるチームの所にコンタクトとってみるか」

 

2人が今後の方針を決めていたその時だった。

 

「あ! 小雪じゃん!」

「こんな所にいたんだ」

「! よっちゃん、スミちゃん」

 

小雪が寄ってきた2人の少女の顔を見てアッと声をあげた。大地も2人を見て、いつも小雪が一緒にいる2人組だと悟った。

 

「ねぇスミ。この人、こないだバスにいた子じゃない?」

「あ、ほんとだ。小雪ぃ、あんたいつの間に彼氏作ってたのよぉ。おまけにデートまでしちゃってさ」

「か、彼氏⁉︎ ち、違うよよっちゃん! そういう関係じゃ……!」

 

顔を最高潮に紅くした小雪は、慌てて食べかけのハンバーガーをカバンにしまって大地の手を引っ張った。

 

「ほ、ほら大地君、行こう!」

「あ、あぁ」

 

大地は困惑しながらも、小雪と共に店を後にした。その後ろ姿を、2人は呆然と見つめていた。

 

「何気にむっちゃ良さげなムードだったね」

「あの大地って子。顔はまぁまぁイケてたけど、小雪のタイプって感じしなさそう。なんか向こうは全然その気じゃないっぽいし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉほぉ。他人に言えない悩みねぇ……」

「はい。あと一緒にいない時の様子もおかしくて……。なんていうか、良心の呵責に耐えてるような」

「ふーむ。魔法少女関係じゃなくて私生活の方か?」

「多分……。魔法少女に変身してる時は、大体4人で一緒にいますから」

 

店を出た2人はマジカルフォンで龍騎達に約束の取り付けをしたところ、今からでもOKと言われたので、即座に変身後、龍騎達が集合場所としているビルの屋上に向かった。そして現在、九尾とスノーホワイトは龍騎、そしてトップスピードに相談をしていた。その傍らではナイトとリップルが黙って聞いていた。

 

「家族の事とか、友人関係とかの線が濃さそうだけど……。お前らとラ・ピュセルって前から顔見知りだったんだろ? 思い当たる節ないか?」

「それはあまり無いですね……」

「う〜ん。俺もラ・ピュセルの変身者の事はちょっとだけ知ってるけど、そんなに家族の仲って悪いって話は聞いてないよ。九尾もそうでしょ?」

 

正史……もとい龍騎の問いに九尾も頷くしかなかった。

 

「最近はこういった事以外で付き合いがなかったからな。ただ、友人関係だと俺の知らないところでトラブってる可能性もなくは無いかもな……」

「じゃあアレだ。悪い友達がいるとか」

「えっ……?」

 

トップスピードの意見を聞いて、スノーホワイトの顔色が変わった。

 

「仲間の顔潰さない為に悪事付き合うってのはよくあるんだ。社会に出て揉まれればもうちょい変わるんだけど、中高生くらいのガキは、考え方にしてもやり方にしても、柔軟さがねぇんだよな」

「そ、そんな……」

 

ますます想像を膨らませて、たじろぐスノーホワイト。

クラスメートの男子が仲間内で悪ぶってみせたりしているのを思い出し、もしかしたら同じ中学生男子である颯太にもその兆候があるのではないかと考えた。

 

「あいつがそんなワルと付き合う姿は想像できないけど……」

 

九尾は腕組みしながらそう呟くが、あまり接点が少なくなっていた大地ではあてにならない。

そんな子と付き合っていたら、何れ魔法少女が幼稚に見えてバカらしく思い、魔法少女活動をやめてしまうんじゃないか。また1人だけ置いてかれる事を想像してしまったスノーホワイトは眉に力を入れた。

思えば、颯太と離れて以来、1人で魔法少女アニメを観るようになった時、真っ先に感じたのは孤独感だった。思い出すだけでも涙が零れそうになる。

 

「……そうちゃん。魔法少女、辞めちゃうのかな」

「! そんな……!」

「おいおい。魔法少女を辞めるなんて一大事だな。そんなにヤバい事になってたのか」

「いや、まだそこまでは断定出来ないけど……」

 

龍騎とトップスピードが深刻そうに呟いたのに対し、九尾は落ち着かせるように言ったつもりだが、2人は勝手に話を進めた。

 

「うっし、大体分かった! 俺もいざとなったら一肌脱ぐから、あんま心配すんな」

「俺もだ! 同じ仲間だし、何か困ってたら、いつでも助け合うのがライダーや魔法少女だからな! そうだろ、ナイト、リップル!」

「……チッ。私達に話を振るな」

 

突然龍騎に話しかけられたリップルは舌打ちしてそう呟き、ナイトも肩を竦めて言った。

 

「俺は降りるぞ。そういうのはおれの得意分野じゃないからな」

「つれないなぁ〜。ま、そういう事だ。少なくとも俺や龍騎はちゃんとお前らの味方だから。せっかくだし、他の意見も聞いといた方がいいんじゃねぇか? シスターナナとか、オルタナティブ辺りなら相談に乗ってくれるだろ」

 

トップスピードの意見を聞いて、2人も納得した。確かにシスターナナなら嫌な顔1つせず相談に乗ってくれるはずだ。加えてオルタナティブは、颯太の恩人でもある香川が変身したライダーだ。教え子が困ってるならきっと良いアドバイスがもらえるかもしれない。

2人は早速オルタナティブ達に連絡を入れた。今の時間ならまだ日も沈んでないので、ギリギリ間に合うはずだ。程なくして許可が出たので、2人は龍騎達にお礼を言い、オルタナティブ達が拠点としている場所へ直行した。

2人の後ろ姿を、手を振りながら見送っていた龍騎とトップスピードだが、不意にナイトは気になっていた事をトップスピードに質問した。

 

「トップスピード」

「ん? 何だ?」

「さっき悪い友達がいるんじゃないかと言ってた後、やけにそっちの方面に詳しそうだったが、経験あるのか?」

「まぁ、ね。こう見えて実はちょっとそういう非行に走ってた時期があってさ」

「え、マジで⁉︎」

 

トップスピードの意外な一面を知って、驚きを隠せない龍騎であった。ただ、リップルだけは普段の口調から、何となくトップスピードが以前から、バカ故に正しい道から逸れていただろうと察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。それで私達に相談を」

「はい」

「思春期の悩みって感じね」

 

辺りも暗くなった頃、2人はオルタナティブ達が拠点としている廃れたボウリング場で事情を説明した。

 

「不良と付き合いがあって、悪い道に誘われてるかもしれなくって。魔法少女も辞めちゃうかも……」

「いやちょっと待てスノーホワイト。なんか話が変な方向に大きく膨らんでる気がするぞ?」

「えっ? そうかな?」

 

当初の本題に尾ひれがついていそうに思えた九尾はスノーホワイトにそう告げた。

そんなやりとりを気にする事なく、全ての事情を知ったシスターナナは口元に手を当てて痛ましげな表情を浮かべ、隣のウィンタープリズンに目を向けた。

 

「ウィンタープリズンはどう思います?」

「え? 私?」

 

唐突に問われたウィンタープリズンはしばし目を細めた後、深く息を吐いてから話し始めた。

 

「良くない事を考えてしまう時は、体を動かした方がいい。汗だくに疲れてしまえば、良い悪い以前に何も考えなくなってしまうものだから。私も経験上、運動部に所属していたからそういう方法でどうにかしてた」

「ストレス発散も兼ねて、ですか……。でもそれならラ・ピュセルだって剣を振り回したり激しいストレッチしてたりして、体を動かしてる方ですけど」

「そうか……。まぁ、何だったら私が胸を貸してやってもいい」

 

こういう感じで良いのか? と言いたげな表情をシスターナナに向けると、当の本人は口元から手を外し、急に表情を引き締めた。それを見て思わず九尾とスノーホワイトも姿勢を正した。

 

「良いですか? 人は誰しも悪魔のささやきを耳にする事があります」

「悪魔のささやき……ですか」

「ズルをすれば楽になる。暴力を振るえば気分が良い。……そんなささやきに耳を貸せば、人はどこまでも堕落していくでしょう」

「いや、そこまで壮大な話になってるはずは……」

 

九尾は疑問を抱きながら口を開くが、シスターナナの話はそこで終わらない。

 

「事実、私もよく悪魔にささやかれてるのですよ。欲望の海に飛び込んでしまえと」

「え? シスターナナが?」

「ダイエットをしなければならないのに、このお菓子は美味しいぞ、と悪魔がささやくのです」

「あ、そういう事ね。それなら何度か見かけた事あったわ」

 

それを聞いてスノーホワイトとファムは思わず笑い、シスターナナもおっとり微笑んだ。オルタナティブと九尾も仮面の下で笑みを浮かべていた。

若干空気が柔らかくなったところでシスターナナは話を進めた。

 

「悪魔とは自分、ささやきもまた自分自身の心の声なのです。きっとスノーホワイトならこの言葉の意味がよくお分かりになるでしょう」

「はい。ちょっと分かる気がします」

「心に悪が芽生えようとしている時は、大切な人の顔を思い浮かべるのです」

「「大切な人の顔?」」

「えぇ。不善を為せば自分の事だけでなく、大切な人を間接的、直接的に巻き込んでしまうという事でもあります。例えば犯罪を犯した時、矢面に立たされるのは自分自身ではありません。家族や恋人が受ける傷は本人より大きなものになるでしょう」

「ははぁ……」

 

中々に理解し難い箇所もあったが、シスターナナの主張は正しそうに思えた。よく立てこもり犯を説得する為に親などの親類が呼ばれて拡声器を通じて声をかけたりするドラマのシーンがある事を考えると、間違ってはいなさそうだ。

ところが、九尾やスノーホワイトが颯太をどう説得しようか考えている間にも、シスターナナの話はヒートアップしてきた。

 

「私なら真っ先にウィンタープリズンを思い浮かべますけどね」

「待ちたまえ。ナナは悪い事なんてしないだろ」

「例えばの話ですよ。では、ウィンタープリズンは誰を思い浮かべますか?」

「そんなの言わなくても分かるだろ」

「うふふっ」

「あはは」

「(……あ、さすがにこれ以上は関わっちゃマズそうだな)」

 

九尾の心の声を聞いたスノーホワイトも苦笑いしながら頷き、オルタナティブとファムもシスターナナとウィンタープリズンのいちゃつきを放っておいて、4人は外へ退散した。

 

「ありがとうございました」

「こちらこそ。久しぶりに他の人と話せて楽しかったわ」

「じゃあ、俺達はこの辺で。一回家に戻らないと」

「そうですね。それじゃあ、私からもラ・ピュセルの説得に関して、1つやり方をお教えしましょう」

 

オルタナティブが提案した説得手段を聞いて、九尾とスノーホワイトは感心した。確かにそれなら颯太も心を開いてくれるかもしれない。ライアへの相談も控えながら、2人は一旦各々の自宅に戻り、いつものように鉄塔に集合し、活動に専念した。




今作の16人の魔法少女の中で、私的に一番露出度が高そうなのはリップルのような気がします……。

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