魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回はタイトル通り、色んな意味でお祭り騒ぎになります(笑)。


14.お祭り騒ぎ

榊原 大地は、N神社の神主を務めてきた家系の一族の男性と、当時同級生だった女性との間に生まれた、2番目の子供である。

そんな彼が神社の行事や運営に携わるのは必然だった。もっとも、仕事の大半は兄の律木が受け持ってくれており、大地はそのバックアップ程度の働きだけで充分だった。

ところが約1年前から環境が一変。律木の消息が途絶え、それまで律木が行っていた仕事を自然な流れで弟の大地に回ってきてしまい、以来、次期当主として、自由な生活から疎くなってしまった。

そして今、大地は年に数回しかない大掛かりな仕事を果たす為に、準備を進めていた。

 

「今年も成功すると良いですね」

「え、えぇ。まぁ……」

 

着付け担当の女性に対し、ぎこちなくそう答える大地は現在、N神社の家紋が入っている装束を身に纏っていた。

こんな事よりも、人助けやモンスター退治の方がよっぽど気楽かもな……、と思いつつも、何百年と続いている伝統を自分の代で絶つ訳にもいかない。

着付けが終わり、鏡を見ながら身なりを整えた後、深く息を吐いてから、気持ちを切り替えて、この後行われる行事の動きを頭の中でシュミレートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合併都市のN市が誇る観光スポット『N神社』は、連日参拝客が途絶える事なく祈願しに来ている。特に大晦日や元旦、そして年に夏と秋に行われる祭りには、普段の倍以上の人が訪れる。

そして今日、秋祭りが開催し、神社のみならず、その周辺に立ち並ぶ屋台や石段、道路には大勢の観光客でごった返していた。

 

「ウヒャ〜。やっぱ相変わらず凄い人集りだな」

 

石段の先にある鳥居まで人が並んでいる様子を見て、正史は自然と口を開けていた。伝統ある祭りという事もあって取材に出かけているのだが、この後行われる行事の主役として、知人にあたる大地が登場するとあって、是非ともその勇姿を間近で見たいという思惑もあるのだ。

 

「そろそろだな。遅れないように、今のうちに行くか」

 

正史は列に並んで本殿へと向かった。

ようやく石段を登り終え、人混みの間をぬって奥へと進んでいくと、目の前に中学生ぐらいの男子が6人ほど固まって歩いているのが見えた。その内の1人の顔に見覚えがあったので、正史は声をかけた。

 

「あ! 颯太君!」

「この声……。城戸さん!」

 

男子グループの1人、大地の親友である颯太が正史の存在に気づいて手を振った。

 

「知り合いか?」

「あぁ。大地の近所に住んでてさ。大地と遊んでる時によく見かけてたんだ」

「久しぶり。何か前見たときより大きくなったね」

「まぁ、2年も経てばそれぐらい……」

 

颯太は照れ笑いしながら、ふと思い出したかのようにこう言った。

 

「そうだ、城戸さんもこれから本殿の方に行くんですよね。だったら一緒に行きませんか? 僕達もこれから向かうところです」

「そっか。ならそうしよっか。……ところで、その子達は?」

「同じ部活の仲間です」

「へぇ。あ、俺、城戸 正史。新聞記者やってるんだ。よろしく!」

『はい! よろしく!』

 

正史は、颯太が連れてきた男子達に自己紹介した。

それから前に進もうとした時、前を見ていなかった正史は向かってきた人と肩がぶつかった。

 

「あ、ごめんなさ……あ!」

「お前……」

 

正史はぶつかった人物の顔を見て驚きを隠せなかった。なんとその人物は、仮面ライダーナイトとして、日々正史と共に活動している秋山 蓮二だったのだ。よく見ると、その傍らにはリップルの変身者、細波 華乃もいた。

 

「お前、何でこんなところに?」

「店主が、今日は祭りがあるから暇になるだろうって言われてな。無理やり駄賃も渡されて、断るのも面倒だから、2人で来た。これならバカでも分かりやすい説明になっただろ?」

「一言余計なんだよいっつも……! っていうかその子は……」

「細波 華乃。バイト仲間だ」

「……どうも」

 

華乃は軽く会釈しただけで黙り込んだ。ヤンキー風な目つきをしており、颯太の部活仲間は軽く萎縮していたが、美的な黒い容姿は申し分なかった。正史は彼女を見てある事を察した。

 

「ひょっとして華乃ちゃん……だっけ? 君ってまさかリッ」

 

正史が言い終わる前に、蓮二は襟を掴んで黙らせ、顔を近づけた。

 

「ちょ、何すんだ……」

「人前でその名前を出すな」

「あ、ごめん……」

 

危うく華乃の正体が颯太達にバレるところだった事に気付き、正史は素直に謝った。が、この時すぐ側で正史と蓮二の会話を聞いていた颯太は、華乃に目をやった。

 

「(リッ……? リップルの事か? ってかひょっとしてこの3人って……!)」

 

颯太は心臓をバクバクさせながら、なるべく平常心を貫いた。まだ確信を持った訳ではないが、もしかしたら正史を含むこの3人は、自分や大地、小雪、それに手塚と同じ力を持った者ではないかと推測した。

そんな颯太の様子に気づく事なく正史は話を進めていた。

 

「あ、そうだ! 良かったらさ。このまま俺達と一緒に本殿に行こうぜ! 知り合いが祭りに出てるからさ」

「何でお前達と行かなきゃならない」

「いいだろ? どうせブラブラ歩いてるだけなら、暇だしさ。ほら、行くぞ!」

「おい、離せ城戸!」

 

無理やり腕を引っ張られて強引に連れていかれる蓮二と、先陣を切る正史を見て、舌打ちした華乃は一瞬だけ颯太の方を向いてから、2人の後を追った。

颯太はよく舌打ちをする魔法少女の顔を思い出して、やっぱりかと言わんばかりの表情を浮かべながら、なるべく平然を装って部活仲間を連れて正史達についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、この時人が密集する本殿周辺に構えている屋台の所々で、一際目立つような事が起きていた。

 

 

 

 

例えば射的屋。

 

「お、おぉ……! 全弾命中はあんたが初めてだぜ」

「マジ? こんなの外すとかみんなショボすぎでしょ」

 

ヘラヘラと笑いながら、撃ち落とした商品を受け取ったのは、大学生の男性だった。コルク銃の銃口を向ければ百発百中。その腕前を間近で目撃した観光客達は、彼の後ろ姿をマジマジと眺めていた。その視線を気にする事なく、男性は景品をぶら下げながら、さもつまらなさそうに呟いた。

 

「あぁ〜あ。もっと面白いゲームがあれば良いのに、やっぱ屋台のもんじゃワンパターンだよなぁ〜」

 

 

 

 

 

例えばたこ焼き屋。

 

「へいお待ち! 出来立てだぜ」

「ありがとうございます」

 

店主から湯気の立ったたこ焼きをお礼を言いながら受け取ったのは、少し小太りな女性だった。その傍らには、縞々のスーツ姿で、誰振り構わず魅了されてしまうその美貌からはさながら『プリンス』と呼ぶに相応しい人物がいた。一見美を兼ね備えた男にも見えるが、その美貌の下には、特徴的な形の良い2つの塊があり、その人物が女である事を決定づけるものだった。

 

「先生や美華も来れたら良かったのに」

「仕方ないさ。2人とも今日は用事があるって言ってたから。今日は僕達だけの時間を楽しもう」

「そうね」

 

小太りな女性は1つのたこ焼きに竹串を刺して、息を吹きかけて冷ましてから、ボーイッシュな女性に差し出した。

 

「はい、雫。あーん」

「うむ。いただこう」

 

雫と呼ばれた女性は顔を近づけて、直接たこ焼きを咀嚼した。互いに笑みを浮かべた後、今度は雫が竹串を受け取ってもう1つのたこ焼きに刺してから、小太りな女性に同じように冷ましてから差し出した。

 

「奈々。君も」

「えぇ。いただきます」

 

奈々と呼ばれた女性は、もうそのまま唇同士がくっつくのではないかと思わさせるほどに顔を近づけて、たこ焼きを頬張った。おまけに雫は奈々の腰回りに手を伸ばしており、最早それはカップルと言われても不思議に思わないほどであった。

……見なかった事にしよう。誰しもがそう考えたのか、一斉に目線を逸らしていた事に、2人は気づいていない。

 

 

 

 

 

例えば金魚すくい。

 

「あぁ! 破けちゃった……。これほんと脆いってゆーか」

「だよねぇ。やっぱ金魚すくいってこういう所があるからつまんないよねぇ。こんなんに金かけるならそこの焦げ焦げの焼き鳥とかの方にしとけば良かったし」

「わぉ、お姉ちゃんマジストレート発言」

 

金魚を溜めておくお椀を渡し、破れた網を見つめながら文句を呟いているのは、顔つきや体型だけでなく、首から提げているネックレスや服装まで、瓜二つな双子の女性だった。唯一の違いがあるとすれば、ヘアピンを付けてる位置が左右対称になっているぐらいか。

そんな2人の背後には、2人の男性が立っていた。背の低い、チャラチャラした男性が2人を呼んだ。

 

「なぁなぁ、美奈ちゃん、優奈ちゃん。あっちにバザーやってる所あるからさ。そっちに行かない? ちょっと良さげなやつがあったからさ」

「えぇ〜? 私そろそろ帰りたいんだけど。まぁその前に、降りた所にあった肉まん食べてからだけどね」

「そーそー。そうしようよ光希」

 

金魚の入った袋を受け取った双子は光希と呼ばれた男性の意見に反対していた。光希もやれやれと思いながらも、2人に従う事にした。

 

「ま、いいや。またどっかの店で見つけたら買うか。じゃあ行こうぜ、智」

「……うん」

 

光希は横を向き、智と呼ばれた男性に話しかけると、智は頷いただけでそれ以上会話する事なく、4人で固まって石段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

例えばベビーカステラ屋。

 

「はい。一袋300円ね。毎度あり」

 

店主から可愛らしいクマの形をしたベビーカステラの詰まった袋を受け取った男性は、隣にいた少女に渡した。どうやら娘のようだ。

 

「はい」

「……ありがとう」

「でも綾名1人でそんなに食べれるの?」

 

その隣にいた母親らしき女性は、綾名と呼ばれた少女に問いかけると、綾名はこう言った。

 

「これ、ルーラやみんなにあげるもの」

「ルーラ……? 友達の名前かい?」

「……ううん。ルーラは私のお姫様」

 

ひょっとしたらアニメのキャラクターに一目惚れして、プレゼントを渡そうとしているのかもしれない。そう思った両親は微笑みながら娘を連れて別の屋台に足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本殿でのイベントが始まる頃になると、人集りは更に増して、境内で行われている儀式の様子を見物したり撮影したりと、団子状態となっていた。そんな中で大勢の注目の的となったのが、その儀式の主役でもある大地だった。普段着慣れない格好で鈴を鳴らし、祈りを捧げた後、木箱を献上するという動作を無駄なくこなした。表情は真剣そのものだが、内心では恥ずかしい事この上なかった。

大勢の視線を浴びながら、くるりと回って元の位置に戻ろうとした時、偶然視界にカメラを構えて連写している正史の姿があった。よく見るとその隣には颯太やその部活仲間もおり、傍らには大地が知らない男女がジッと見つめていた。正史の友人だろうか。そう思いながら目線を別方向に向けると、境内の隅で、覗き込むように見物している小雪の顔が見えた。

 

「(やっぱり来たのか……)」

 

先日再会した香川との会話で祭りの事を聞いて、小雪も見に来たのだろう。大地は恥ずかしさが最高潮に達しながらも無事に進行を進め、最後は大衆からの大きな拍手を受けながら、山場を越える事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽装に着替えた後、外の空気を吸う為に大地は本殿を後にした。後は大人が務める儀式だけなので、後片付けがあるまではフリーという事もあり、人気のなさそうな場所で休憩する為に腰を下ろした。と、そこへ1人の少女が歩み寄ってきた。

 

「こんばんは、大地君」

「小雪」

 

現れたのは、先ほど顔だけ覗かせていた小雪だった。秋という事もあって浴衣姿ではなかったが、可愛らしい服装に身が包まれており、オシャレに時間をかけた感じが出ていた。普段見慣れない服装でやってきた小雪を見て、大地は思わず見惚れた。その視線に気づいた小雪は恥ずかしそうに身を縮ませて呟いた。

 

「へ、変かな……? こんな風にお祭りとかに出かける事なんてなかったから、そんなにおかしな格好にはしてこないつもりで来たんだけど……」

「だ、大丈夫。似合ってる」

「な、なら良いんだけど……」

「ていうか、友達とかは来てないの?」

「よっちゃんもスミちゃんも、今日は用事で来れないんだって」

「ふぅん」

「隣、良いかな?」

「あぁ」

 

そう言って小雪は大地の隣に座った。すると今度は颯太と正史、更には蓮二と華乃がやってきた。他のメンバーとは途中で別れたようだ。

 

「おっ、こんなとこにいたのか」

「こんばんは」

「そうちゃん。……あれ? その人は」

「あぁ、紹介するよ。俺の近所で暮らしてる城戸 正史さん。OREジャーナルって会社で新聞記者やってる人で、今日のお祭りも取材しに来てくれたんだ」

「どうも!」

「……なぁ颯太。その人達は?」

「秋山 蓮二さんと、細波 華乃さん。城戸さんの知り合いらしくてさ」

「知り合い……か。馴れ合ってるつもりはないが、まぁ良い。それでそいつが、城戸の言ってた知り合いか」

「榊原 大地です」

 

大地が軽く挨拶すると、蓮二と華乃も軽く頭を下げた。

 

「小雪の事も紹介しとかないとな。こっちは姫河 小雪って言って、僕の幼馴染み」

「初めまして。姫河 小雪です」

「小雪ちゃんか。よろしく!」

「小雪……、スノー……?」

 

華乃が何故か小雪の名を呟いたが、誰も聞こえなかった。

それから話題は、祭りで主役を演じていた大地の事に移った。

 

「でも大地君、とってもカッコ良かった。毎年あぁやって頑張ってるんだね」

「いや、まぁ本格的にああいう事やりだしたのは去年からだけどな。基本的には兄貴が全部やってたし」

「えっ? 大地君、お兄さんがいたの?」

「あぁ。5つ上のな」

「そうなんだ。でもそのお兄さんってどこにいたの? 大地君がいた舞台の上にそんな人なんて……」

「! 小雪……!」

 

不意に、大地の兄である律木の事を聞こうとした小雪に対し、事情を知っている颯太は止めようとした。が、大地は首を横に振って颯太を落ち着かせた。

 

「良いんだ、颯太。別に隠す事でも無いし」

「でも……」

 

颯太だけでなく、正史もまた事情をよく知る人物であり、戸惑いの表情を浮かべていた。小雪が困惑する中、蓮二が後を引き継ぐように質問した。

 

「お前の兄に、何かあったのか……?」

「……去年の今頃なんだけど、突然兄貴が俺達の前からいなくなったんだ」

「「「……!」」」

 

衝撃的な一言に、小雪は驚き、蓮二と華乃は驚きこそしなかったが、僅かに目を見開いた。

 

「警察も探してくれたんだけど、結局手がかり1つ見つからなくてさ。それで半年前から探すのを止める事になって、それで俺が兄貴の代わりに祭りに出てるんだ」

「そう、だったんだ……。ごめんね、大地君。嫌な事思い出させちゃって」

「別に謝らなくても良いって」

 

大地はしょんぼりした小雪を、慰めるように言った。

 

「それからなんだ。俺がこうやって祭りに出て仕事するようになったのは。毎日似たような事の繰り返しでさ。結構退屈だったんだ」

「なるほど。あの時の君の表情はそれが理由だったのか」

 

不意に別方向から声が聞こえてきたので、一同は一斉に振り返った。そこにいたのは仮面ライダーライアの変身者、手塚 海森だった。どうやら少し前から物陰に隠れていたようだ。

 

「手塚さん……」

「すまない。盗み聞きするつもりは無かったんだが、祭りの事もあって見に来た時に偶然な」

「お前……」

「こうして会うのは久しぶりだな」

 

現れた手塚を見て、蓮二が複雑そうな表情を見せた。皆は知る由も無いが、かつてライアはナイトの教育係を務めており、その際に互いの素顔を目撃した事があったのだ。

 

「あれ? 2人とも知り合い?」

 

その事を知らない正史が尋ねてみたが、蓮二は黙り込み、代わりに手塚が自己紹介した。

 

「まぁ、色々とな。自己紹介が遅れたが、手塚 海森だ。出来るなら苗字で呼んでほしい」

「そっか。俺、城戸 正史。よろしく!」

「こちらこそ」

 

2人は互いに握手しあい、仲を深めた。

 

「そういえば手塚。さっき大地君の事で何か知ってたみたいだけど」

「あぁ。前に一度見かけた時に、退屈そうな顔をしてたから、占ってみたのさ」

「占い?」

「俺の趣味でな。結果的にその悩みは解消されたみたいだけどな」

「へぇ……。大地君、そんなに深刻な事考えてたのか。俺にも相談してくれれば良かったのに」

「あまり心配かけさせるわけにはいきませんでしたから、つい……」

 

大地がそう呟いたその時だった。

不意に所持していたマジカルフォンが鳴り出したのだ。その音に、その場にいた全員が反応した。

 

「おわっ⁉︎」

 

特に正史は驚きのあまり飛び上がって、ポケットからマジカルフォンがこぼれ落ちてしまうほどだった。

 

「! バカ……!」

 

華乃が注意しようとしたが、大地、小雪、颯太、そして手塚は正史の服のポケットから落ちたマジカルフォンを見て、目を見開いた。

 

「そ、それって……!」

「あ、こ、これは、その……」

 

正史がごまかそうとしていると、大地が口を開いた。

 

「何で正史さんがマジカルフォンを……」

「えっ⁉︎ みんな、これの事知ってるの⁉︎」

「……なるほど、そういう事か」

 

手塚だけは何かを察して、落ちたマジカルフォンを正史に返した。

 

「占い通りだな。今日、多くの出会いがこの地で訪れる。君もその1人だった訳だ」

「えっ、どういう事だよ?」

「ひょっとして手塚さんがここに来た理由って……」

「あぁ。それを確かめる意味もあってな。しかし、こうも関係者が集まるとは……」

「関係者って……、まさか⁉︎」

「そのまさかだ」

 

手塚の言葉を聞き、正史は理解した。蓮二や華乃だけではない。他の4人もまた、自分と同様に特別なチカラを得た者である事に。

 

「嘘だろ……⁉︎ 大地君達も、そうなの……?」

「じゃあ、城戸さんも……!」

「(やっぱりこいつらも……)」

 

真相が明らかになり、困惑する一同だが、モンスターの出現を知らせる警報は鳴り止まない。このままでは観光客が狙われてしまう。真っ先に手塚が口を開いた。

 

「とにかく今は、モンスターの殲滅が最優先だ。大地。近くに鏡がある所に案内してくれ」

「はい! こっちです」

 

大地が案内した先には、最初に大地が変身してモンスターと戦う際に飛び込んだ鏡があった。

先ず最初にアクションを起こしたのは手塚で、カードデッキを鏡にかざした。

 

「変身!」

 

右腕を突き出し、人差し指と中指を立ててからVバックルにはめ込むと、鏡像が重なり、ライアに変身した。

続いて、正史と蓮二がポーズをとって同時に叫んだ。

 

「「変身!」」

 

龍騎とナイトの姿を見て、大地はアッと叫んだ。

 

「城戸さんが、龍騎だったのか……!」

 

それに続いて、華乃がマジカルフォンを手に持ってタップした。

 

「変身」

 

そして彼女は光に包まれて、忍者姿の魔法少女『リップル』に変身した。それを初めて見た一同の反応は様々だった。

 

「やっぱり華乃ちゃんが……!」

「(この人が、リップルだったんだ……)」

「……カッコいい」

 

続いて変身しようとする大地や小雪だったが、颯太だけは躊躇っていた。それもそうだ。颯太が変身するという事は、ラ・ピュセルの正体が男だと他の4人にバレてしまう事になるのだ。

 

「? 颯太君、カードデッキは?」

「……うぅ(ど、どうしよう……! みんなの前で変身なんて、そんな事……!)」

「(マズイな……。関係者だと分かってしまっている以上、待機させるようには言えない……)」

 

ライアが颯太の心情を察していると、颯太の隣に大地と小雪が並び立ち、こう言った。

 

「そうちゃん、大丈夫だよ! 私達と一緒に変身しよう! ねっ!」

「で、でも……」

「心配すんな。俺も小雪もお前の味方だ。もちろん手塚さんもな」

「……!」

 

颯太はライアの方を見た。ライアが頷いたのを見て、颯太も覚悟を決めた。

 

「(……そうだ。今はモンスターを倒さなきゃいけないんだ。僕は魔法騎士として最前線で戦わなきゃならない……! 恥ずかしがってなんかいられない!)あぁ、いこう!」

 

大地と小雪は頷き、大地はカードデッキを鏡にかざし、小雪と颯太はマジカルフォンをタップした。

 

「「「変身!」」」

 

そして大地は九尾に、小雪と颯太はそれぞれスノーホワイト、ラ・ピュセルに変身した。

龍騎は知り合いが以前共闘したライダーに、リップルは今日出会った少女がチャットで気にかけていた魔法少女になった事に驚いていたが、それ以上に2人とナイトを驚かせたのは、颯太が魔法少女に変身した事だった。

 

「えぇ⁉︎ そ、颯太君が、ら、ラ・ピュセル……⁉︎」

「⁉︎」

「ライダーじゃ、なかったのか……?」

 

ラ・ピュセルの正体を知り、龍騎とナイトは思わずそう聞き返すほどに驚き、リップルは一瞬だけ嫌悪感を抱いたかのように一歩退いたが、すぐに事情を察知して平然を装った。

 

「えっと……。そういう、事さ。僕が、ラ・ピュセルなんだ……」

「あ、ごめん。別に変な意味で言ったわけじゃ……」

「とにかく話は後だ。急ごう」

「お、おぉ。分かった!」

「行くぞ、ラ・ピュセル」

「あぁ!」

 

そして4人の仮面ライダーと3人の魔法少女は鏡を通じてミラーワールドに突入した。

現実世界では人がごった返していたが、ミラーワールドではシンと静まり返っていた。そんな空間内を飛び回る5つの影を、7人は見つけた。

 

「いたぞ!」

 

龍騎が指差した先には、剣を持ったジガバチ型のモンスター『バスティンガー・ワスプ』と、両手にニードルを持つスズメバチ型のモンスター『バスティンガー・ホーネット』、ホーネットと同じ武器を持つ銀色のツチバチ型のモンスター『バスティンガー・フロスト』、弓を持つスズメバチ型のモンスター『バスティンガー・ビー』、ビーと同じ武器を持つ金色のクマバチ型のモンスター『バスティンガー・ブルーム』がいた。

5体のバスティンガーは7人に気づくと一斉に飛び上がって強襲した。

 

「ハァッ!」

 

ワスプを迎え撃ったのはラ・ピュセルであり、互いに剣を駆使して激しい戦闘を繰り広げていた。

 

『SWING VENT』

 

ライアはカードをベントインし、エイの尾を模した鞭型の武器『エビルウィップ』を持つと、ホーネットに向かって振るった。ホーネットはニードルを盾代わりにして攻撃を防いでいた。

 

『『SWORD VENT』』

 

「ダァッ!」

「やぁっ!」

 

一方、龍騎はフロストを相手にドラグセイバーで、九尾はブルームを相手にフォクセイバーで応戦し、互角の勝負をしていた。スノーホワイトも微力ながら、九尾と共にブルームに立ち向かい、パンチやキックを繰り出していた。

そしてリップルは手裏剣を用いてビーに投擲しつつ、短刀とクナイで接近戦を仕掛けていた。ナイトも同じくビーに接近戦を挑み、攻撃をしていた。途中でビーが矢を連続で発射してきたが、ナイトはそれら全てをウィングバイザーで弾いていた。

しかし、どの個体も戦闘力が高く、今までのように易々と倒せる相手ではなかった。

 

「くっそ……! こいつら、強いぞ!」

「それでもやらなきゃ……! このまま逃したら、祭りを楽しみにしていた人が怪我しちまう……! それだけは避けなきゃ……!」

「九尾……。うん、その通りだ!」

 

九尾の言葉を聞き、ラ・ピュセルも元通りの自信を取り戻していた。

龍騎がフロストを蹴飛ばし、フロストが起き上がって龍騎に反撃しようとした時、突然猛スピードで何かが体当たりして、フロストを吹き飛ばした。

 

「えっ⁉︎」

「ヤッホー! 張り切ってるねぇ!」

「トップスピード!」

 

ラ・ピュセルが、現れた新参の名を叫んだ。どうやら偶然近くを飛んでいたらしい。

 

「にしても今日は随分と揃ってんな。ま、祭りがあったし当然か」

「無駄口を叩いてる場合じゃないぞ。お前も来たなら少しは手伝え」

「わーってるよ。そんなに気張るなって」

 

ナイトに向かってそう言ったトップスピードは、笑いながら7人の側に降りた。

更に1人増えて戦力が増し、戦況は一気に傾いたと言っても過言ではない。

 

「よっし! そろそろ決めてやる!」

 

龍騎はそう叫んで、1枚のカードをベントインした。

 

『STRIKE VENT』

 

龍騎の右腕にドラグクローが装着され、ドラグクローファイヤーの発射態勢に入った。すると、それまで他のライダーや魔法少女を相手していた4体のバスティンガー達は一斉に後退し、攻撃されようとしているフロストのもとに集まった。

 

「あいつら何を……?」

 

すると、5体は一点に固まって、高速回転を始めた。その勢いは凄まじく、下手に触れれば、触れた方が弾き飛ばされそうだった。そして龍騎のドラグクローファイヤーが5体に向かって放たれたが、攻撃が命中したにもかかわらず、5体とも健在だった。

 

「なっ⁉︎」

「嘘⁉︎ 全然効いてない⁉︎」

「タフすぎねぇか⁉︎」

「連携が取れてる……」

 

そして5体は再び分担して九尾達に襲いかかった。

 

「お、おい! どうすればいいんだ⁉︎」

「そ、そんな事言われてもよぉ……!」

 

龍騎とトップスピードが焦る中、九尾は軽い身のこなしでワスプの攻撃を回避しつつ叫んだ。

 

「落ち着いて! きっと反撃の糸口はあるはず!」

「ここは、僕達も息を合わせて攻撃しよう! それしかあいつらを倒せない!」

 

ラ・ピュセルも九尾の意見に賛同するかのように叫んだ。ライアもブルームの攻撃をかわしながら、攻撃手段を考えていた。

 

「奴らの連携は想像以上に硬い。1つの方向からの攻撃ではダメだ。他方向から攻撃するぞ」

「なら、もう一度同じ状況を作ろう!」

「だが、チャンスは一度きりだ。失敗すれば、逃してしまう。確実に決めるようにするぞ」

 

ナイトの言葉に真っ先に反応したのはラ・ピュセルだった。

 

「なら、僕が先陣を切る!」

「私も、動き回るぐらいなら出来るから!」

「決まりだな! 俺もスノーホワイトに続くぜ。リップルはラ・ピュセルと一緒に頼むぜ!」

「……あぁ」

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

先にラ・ピュセルが剣を肥大化させて特攻し、トップスピードがラピッドスワローに乗ってその後を追った。リップル、そしてスノーホワイトもそれに続いてバスティンガー達に向かった。

ラ・ピュセルが狙いに定めたのは、ブルームだった。その意図に気づいたリップルは手裏剣を投げ、魔法を駆使してブルームに先制攻撃を与えた。そして剣と弓がぶつかり合い、火花が散った。スノーホワイトとトップスピードは近くにいたフロストやワスプを遠ざけるように動き回った。ビーとホーネットの相手は他の4人のライダーが担当し、ラ・ピュセルやリップルへの妨害を阻止した。

 

「ハァッ!」

 

ブルームを押し倒し、ラ・ピュセルは飛び上がってトドメをさそうとして、更に剣を大きくさせた。より重い一撃が来ると予想したのか、他の4体は一斉に起き上がろうとするブルームの周りに集まった。

 

「! 今だ!」

 

それを待っていたかのように、九尾、龍騎、ナイト、ライアは一斉にカードをベントインした。

 

『『『『FINAL VENT』』』』

 

「ハッ! ハァァァァァァァ!」

「ハァァァァァァァ!」

「ウォォォォォォォ!」

「ハァッ!」

 

龍騎と九尾は気合いを入れてから飛び上がり、ナイトは駆け抜けながらダークウィングと合体して飛び上がり、ライアは後方から現れた契約モンスター『エビルダイバー』の上に乗っかった。

加えてリップルも両手にクナイを計10本備えて、一斉に放った。

 

「ダァァァァァァッ!」

「ウォォォォォォォ!」

 

九尾の必殺技『ブレイズキック』と龍騎の必殺技『ドラゴンライダーキック』、ナイトの必殺技『飛翔斬』、そしてライアの必殺技『ハイドベノン』。更にラ・ピュセルとリップルの攻撃も加わり、他方向から向かってきた一斉攻撃に、さすがのバスティンガー達も防ぎきれず、5体とも同時に爆散した。

 

「ッシャア!」

「やった……!」

 

無事にモンスターを全て倒し、ようやく安堵の表情を浮かべた龍騎とスノーホワイト。マジカルキャンディーの獲得数もこれまでと比べて多く、万々歳となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一足先に帰還したトップスピードと別れ、一同は現実世界に戻ってきた。

 

「いや〜、なんとか祭りを守れたな、大地君!」

「えぇ。ありがとう。みんなのおかげだ」

「……ふん。俺はただ、モンスターを倒すために協力しただけだ」

「なんだよ、もっと素直になれよ。トップスピードも言ってただろ?」

「うるさい……! あいつと同じ事を言うな……!」

「またまたぁ〜」

「(ますますトップスピードに似てきたな。マジで鬱陶しい)」

 

蓮二がそっぽを向いてそう呟き、正史が肩をつついている様子を見て、華乃は心の中で舌打ちした。

その様子を苦笑しながら見つめていた大地達だったが、不意に颯太が顔を赤くしながら声をかけてきた。

 

「あ、あのさ……。僕の事なんだけど、ここだけの秘密にしておいてもらえると……」

「あぁ、その事? 別に気にしてないよ。カッコよかったしさ。俺は全然アリだと思うよ」

「……まぁ、秘密にはしといてやる」

「……私もそれで構わない」

「ありがとう、みんな」

 

颯太が精一杯感謝すると、本殿の方で人々がざわつき始めた。どうやらまたイベントが始まるようだ。

 

「次は君の両親が出るってやつだな」

「えぇ」

「おっしゃあ! みんなで観に行こうぜ!」

「はい!」

「おい! また俺を引っ張るつもりか! 離せ!」

「こうでもしなきゃこないだろ」

「このバカが……!」

 

文句を呟きながらも、蓮二はそれ以上抵抗する事なく正史と共に本殿に向かった。それに続いて、大地達も笑いながら(華乃だけは無表情で)2人の後を追った。

お祭り騒ぎの夜は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 




というわけで、今回は8人(1人だけ途中参加ですが)による、大乱闘回でした。
他にも、この物語に関わる様々なメンバーがちらほら出てきましたが、どんな人物が出てきたのかは、ご想像にお任せします。(大半は分かると思いますが)

さて、次回はラ・ピュセルの事を軸に話を進めていきます。

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