魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
ストレス発散にはなるかも?
その日、大地は手提げカバンを片手に、商店街を歩いていた。
先日、とある出来事をきっかけに出会った、実は同級生だった小雪ことスノーホワイト、親友である颯太ことラ・ピュセル、そして占い師の仕事をしている手塚ことライアの3人に加え、九尾に変身する大地の4人でチームを結成し、協力して人助けやモンスター退治を積極的に行う事を誓い合った。
この日は各々の用事があるという事で、本格的な活動は夜を迎えてからという事になった。その間、どう暇を持て余そうか悩みながら帰宅していた大地だったが、N神社の敷地に入った途端、そんな心配は解消された。母親から買い出しを頼まれたからだ。面倒に思ったが、断る理由も見つからなかったので、渋々商店街に足を運んだ。
「……こんだけ買えば大丈夫だろ」
大地が覗いている手提げカバンの中には、大量の和菓子や紙コップ等がぎっしりと詰まっていた。N神社恒例の秋祭りまで間もなく1週間を切り、本格的に準備が進められていた。今日買い出しリストに載っていたのでのは、休憩用の備品や、市内から訪れるお偉いさんに差し入れとして提供するものの類だろう。
「こっちは夜に仕事を控えてる身なのに、人使いの荒い事で……」
もっとも夜に仕事が出来たのは単なる偶然である為、ボヤいても仕方がない。
商店街に立ち寄るのも久しぶりなので、もう少し見て回ろうとしてとある店に入ろうとした時、聞き覚えのある声が大地を呼び止めた。
「あ、大地君」
「? ……小雪?」
目線の先には、買い物袋を持って微笑みながら手を振っている小雪がいた。否、小雪だけではない。その隣には夫婦と思しき2人と、その子供であろう少年が母親と手を繋いでいた。
一瞬小雪の家族かと思ったが、大地は男性の顔を見てハッとした。その人物は大地にとって無関係とは言えなかった。
「やぁ、久しぶりだね、榊原 大地君」
「香川先生……!」
微笑みながら大地の名を呼んだ、メガネをかけた男性の事を、大地が忘れているはずもない。その男は、大地が小学生の頃の恩師、
「あなた。ひょっとしてこの子も小雪ちゃんと同じ学校の?」
「えぇ。2年生と6年生の時に、彼のクラスの担任にね」
よく覚えてるな、と大地は若干驚いた表情を浮かべた。香川に妻子がいる事は知っていたが、実際に会うのは初めてだ。なので、挨拶をする事にした。
「あ、俺、榊原 大地って言います。香川先生には、色々とお世話になってました」
「あら、良い返事ね。私は典子です。それから……、ほら、大地君にご挨拶」
「裕太でーす!」
「もうじき6歳になる、私達の息子ですよ」
「そうですか。よろしく、裕太君」
大地は裕太に目線を合わせて挨拶をした。
それから一同は立ち話もアレだという事で、少し歩いた先に広がる広場のベンチに腰掛けて、近況報告や世間話をしていた。
「けど、何で小雪がここに?」
「お母さんに買い物を頼まれたんだ。そしたら、偶々先生とそのご家族と会ったの。大地君もそんな感じ?」
「まぁ、な」
「紙コップに和菓子……。なるほど、来週の祭りに関係あるようですね」
「さすがですね。その通りです」
「……祭り?」
手提げカバンの中を覗いた香川がそう推測し、大地は首を縦に振った。一方、首を傾げている小雪は、「祭り」というワードに引っかかった。そんな彼女に、香川が説明した。
「大地君の家は、N神社で代々神事を務める家系なんですよ。それで毎年祭りの時は一家で仕事を手伝っている。そうですよね?」
「えぇ、まぁ……」
「えぇ⁉︎ 大地君ってそんなに凄い家の人だったんだ!」
「凄いって言えるもんか……?」
大地がそう呟くが、小雪は興奮のあまり、耳に入っていないようだ。
「そういえば、そうちゃんがこないだから祭りの事を話してる時が多かったけど、そういう事だったんだ」
「そうちゃん……?」
典子の疑問に、香川が答えた。
「あぁ。岸辺 颯太君のあだ名ですよ。小雪君の幼馴染みであり、大地君の大親友の名前です」
「あれ? 先生、そうちゃ……じゃなくて颯太君のあだ名、知ってたんですか?」
「あなたが彼の事をよくそう呼んでたのを覚えていましたから」
「香川先生が担任だったのって、3年生と5年生の時だけだったけど、その時にそうちゃんって言ってたのを覚えてたって事ですか?」
「正確には、勝手に覚えてしまった、というのが事実ですけどね」
「えっ?」
頭を指差してそう呟く香川を見てキョトンとする小雪と大地だったが、すぐにその意味を理解したのは大地だった。
「もしかして、瞬間記憶能力ってやつですか……?」
「瞬間、記憶能力?」
「一度見たら何でも覚えて、ずっと頭の中に残り続けるっていう、凄い才能の事だ。まぁ、実際にそんなもの持ってる人を見たのは初めてだけど」
「結構厄介な癖ではあるんですけどね。特別覚えてなくても良いものまで勝手に覚えてしまいますから」
香川は苦笑混じりに答えるが、2人も今の今まで知らなかった恩師の特技に唖然としていた。
「さて、少し話を戻しますが、颯太君の方はどうですか?」
「そうちゃんは大地君と同じ学校だから、大地君の方がよく知ってると思います。ね?」
「あぁ。お互い色々と忙しくなってからはそんなに会話してなかったんですけど、最近は俺も小雪も会う機会が増えて、まぁなんとかやってけてます。サッカーも気合い入れてやってるのを見かけますから」
「そうですか。夢に向かって頑張っているようで何よりです」
香川がそう呟くのには理由がある。小6の頃に颯太の、プロサッカー選手になるという夢を強く後押しし、応援してくれたのは他ならぬ彼であった。故に颯太にとって香川は大がつくほどの恩人でもあるのだ。
「しかし、私としてはあなた方2人がここまで仲良くなっているとは思っていませんでした。担任を持っていたとはいえ、2人はさほど接点が無かったはずですから……」
「え、えぇまぁ、ちょっと色々あって……」
「そ、そうなんです。アハハ……」
まさか同系統のゲームを介して仮面ライダーや魔法少女として知り合った、とは口が裂けても言えるはずもなく、2人はどうにかして誤魔化す事にした。
と、その時。2人がポケットの中に入れておいたマジカルフォンが、近くに潜んでいるモンスターの出現を知らせる音が鳴り響いた。
「「……!」」
2人は顔を見合わせて、緊張の面持ちになった。
「どうかしたの?」
2人の様子が変わったような気がした典子は2人に尋ねた。
「……あ、ごめんなさい。私、そろそろ家に帰らないと。お母さんが心配しちゃうから」
「俺も同じく」
「あら、そう」
典子は納得したように頷くが、どういうわけか、香川の表情は険しい。
それに気づく事なく2人は慌てて立ち上がり、買った品の入った袋を手に持った。
「それじゃあ、失礼します!」
「颯太にもよろしく伝えておきます! それじゃあまた!」
「バイバーイ!」
裕太が元気よく手を振り、2人も手を振り返すと、ダッシュして広場から去っていった。
「随分と急いでたみたいだけど、大丈夫かしら?」
「……」
典子がそう呟いている間も、香川は表情を崩さない。そればかりか、時折自分の服のポケットに目線を向けている。
やがて香川は、膝の上に乗せていた裕太を典子に預けた。
「すまない。ちょっと買い忘れたものがあったのを思い出したから、裕太と一緒に、ここで待っててください。すぐに戻りますから」
「え? えぇ」
「じゃあ裕太。少しだけ母さんと一緒に待っててね」
「うん!」
裕太は無邪気にそう返事すると、香川も笑ってその場を後にした。彼の向かう先は、先ほど小雪と大地が駆け抜けていった方向と同じだった。
「けど、よかったのか? お前モンスターと戦えるわけでもないのに」
「でも、大地君1人に任せておけないよ。困った時に、すぐに助けられるようにしないと」
「ま、その気持ちは受け取っておくか」
マジカルフォンの反応に従い、2人は路地裏に入り、物陰に袋を置いた後、鏡を見つける為に辺りを見渡した。
「! あそこ!」
「!」
小雪が指差した先には鏡があり、その中を何かが猛スピードで横切った。モンスターに違いない。
2人は鏡の前に立ち、小雪はマジカルフォンを手にし、大地はカードデッキを鏡にかざした。
「「変身!」」
カードデッキをVバックルにはめ込んだ大地の姿は、鏡像が重なって九尾となり、マジカルフォンをタップした小雪の姿は、光に包まれてスノーホワイトになる。2人は目配せした後、同時に鏡を通じてミラーワールドに突入した。
「……なるほど。彼らも……」
だがこの時、2人の後ろ姿を後から駆け付けた香川が見ていた事に気づく事は無かった。対する香川も、どこか納得した表情で、2人が入り込んだ鏡を見つめていた。
「……ならば私も手を貸してあげる必要がありますね」
そう呟きながら香川がポケットから取り出したのは、黒いカードデッキだった。右手に持ったそれを鏡にかざし、腰にVバックルが取り付いた。カードデッキを上空に放り投げ、香川は左足を一歩突き出して叫んだ。
「変身!」
そして落下してきたカードデッキを左手でキャッチし、すぐさまVバックルにはめ込むと、鏡像が香川に重なり、コオロギをモチーフにした右腕にカードリーダー状の召喚機『スラッシュバイザー』がついた黒い仮面ライダー『オルタナティブ』へと変身した。そしてオルタナティブもまた、2人の後を追うようにミラーワールドへと入っていった。
一足先にミラーワールドにやってきた九尾とスノーホワイトはモンスターを探していた。
「どこにいやがる……」
「! 危ない!」
スノーホワイトが叫ぶと同時に何かが九尾に向かって突進してきた。九尾はギリギリの所で回避し、スノーホワイトを後方に下がらせた。敵もようやく立ち止まり、その姿を確認できた。両腕に盾を持ち、体から4本の角が突き出たイノシシ型のモンスター『ワイルドボーダー』である。
ワイルドボーダーは振り返るとすぐに2人に向かって再び突進してきた。
「わっ⁉︎」
「かなりスピードがあるな……!」
2人は飛び上がって回避し、九尾はカードを取り出してベントインする。
『SWORD VENT』
「はっ!」
フォクセイバーを持った九尾は、立ち止まった隙をついてワイルドボーダーに振り下ろしたが、頑丈な体で出来ているのか、ビクともしていない。ワイルドボーダーは九尾を吹き飛ばすと、今度はスノーホワイトに向かって突進してきた。
スノーホワイトは怯えながらも真正面から受け止めようとしたが、戦闘に不向きな少女では当然抑えきれるはずもなく、吹き飛ばされてしまう。
「きゃあ!」
「スノーホワイト!」
ワイルドボーダーは止まる事なく、目の前にあったコンクリートの支柱を破壊して前進した。4本の角の先から噴き出た気孔弾が硬いコンクリートを破壊したのだ。
続いてワイルドボーダーはそばに停めてあった車を動かし、2人に向かって押し出した。
「「!」」
2人は瞬時に飛び上がってボンネットの上を転がり轢かれずに済んだ。
ワイルドボーダーは雄叫びを上げて突進してくるが、今度は九尾も回避せずにカードをベントインした。
『GUARD VENT』
すると、九尾の腰から生えていた9つのフサフサな狐の尻尾が、意思を持ったかのように動き出し、九尾の全身を覆った。ワイルドボーダーと接触するも、後ずさりこそしたが、どうにかして受け止める事が出来た。だがワイルドボーダーも負けじと押し返してくる。
「くっ……!」
「私も!」
スノーホワイトは苦悶の表情を浮かべながら九尾が吹き飛ばされないように、後方から押して踏みとどまっている。しばらく拮抗が続いたが、ワイルドボーダーの方がまだ余力があるようだ。
「(さすがにこれ以上は俺もスノーホワイトもキツイな……。どうにかして反撃のチャンスを……)」
九尾が打開策を考えていたその時だった。
『ACCEL VENT』
女性の声でベントインを知らせる音が鳴り響いた。一瞬九尾が自身の持つアクセルベントのカードを使ったのかと思ったスノーホワイトだが、当の本人も困惑している。
では、一体誰が……?
その疑問は突如として横から猛スピードで突っ込んできた人影の体当たりによってダメージを受けたワイルドボーダーと共に吹き飛ばされた。
九尾が尻尾を元に戻し、2人が同時にある一点に目を向けると、そこには仮面ライダーが佇んでいた。その手には大型の剣『スラッシュダガー』が握られている。
[挿入歌:果てなき希望]
「あれは……!」
「オルタナティブ⁉︎」
2人はチャットで見た事のあるアバターと同じ姿の仮面ライダーの登場に驚いていた。
「お二人とも、怪我は無いようですね」
「は、はい! 助けてくれてありがとうございます!」
「困った時はお互い様ですよ」
3人が集まると、ワイルドボーダーが立ち上がり、九尾達に向かって突進してきた。
3人は横に飛んで回避するが、ワイルドボーダーは高速で動いて翻弄し、狙いを定めてオルタナティブの背後から突進した。オルタナティブは回避する間もなく正面から倒れこんだ。
「! 大丈夫ですか⁉︎」
「この程度なら問題ありませんよ」
「ハァッ!」
スノーホワイトが駆け寄り介護している間に九尾は連続キックでワイルドボーダーを遠ざけた。
オルタナティブが体制を整えた所で再びワイルドボーダーが動き出した。
九尾とスノーホワイトが壁や支柱を利用して飛び上がって回避する中、オルタナティブは全く動いていなかった。
「危ないですよ⁉︎」
「あれじゃあ敵の的になるだけ……!」
2人の想像通り、案の定ワイルドボーダーは狙いをオルタナティブに定めて、突進してきた。寸前の所まで接近してきたその時、オルタナティブは振り返り、スラッシュダガーを振り上げた。不意の攻撃を受けたワイルドボーダーは吹き飛ばされて、地面を転がった。
その様子に2人は戸惑いを隠せない。まるで計ったような動きで、あれだけ苦戦していたワイルドボーダーを地に伏せたのだ。
すると、オルタナティブは頭に指を当ててこう呟いた。
「私は動き、速度といったものを一度見ると、覚えてしまうんですよ。当然、攻撃パターンも、ね」
「! このセリフって!」
「間違いない。こんな事が言えるのは……」
「「香川先生!」」
2人が同時にその名を叫ぶと、オルタナティブは振り返り、頷いた。
「私の持つマジカルフォンの音が鳴ったタイミングとあなた方の行動がかなり一致してたものでね。あなた方の後を追わせてもらったら、案の定でしたね」
「まさか、先生が仮面ライダーオルタナティブだったなんてな……」
「こんな偶然ってあるんですね!」
「私も今ようやく合点がいきましたよ。お二人の仲が良かった理由がね」
そうこうしているうちにワイルドボーダーは起き上がり、再び攻撃を仕掛けてきた。3人は距離を置いて広い場所に出ると、オルタナティブが前に出た。
「では、これで終わりです」
『FINAL VENT』
オルタナティブが取り出したカードをスラッシュバイザーのスリット部分にスライドし、カードを消滅させると、2人の後方からコオロギ型の契約モンスター『サイコローグ』が走ってきた。そしてサイコローグは徐々にバイクの形となり、『サイコローダー』として接近してきた。オルタナティブは飛び上がり、2人の間を通り抜けたサイコローダーに搭乗し、一気にアクセルを吹かせた。ワイルドボーダーが突撃してくるが、それよりも早くオルタナティブがサイコローダーを操作して、コマのように高速回転を加えてワイルドボーダーにぶつかった。
オルタナティブの必殺技『デッドエンド』の勢いに競り負けたワイルドボーダーはその場で爆散し、オルタナティブはブレーキをかけて停車した。
「凄い……」
「あぁ」
2人はオルタナティブの強さに圧巻されていた。
「どうにか無事に解決しましたね。お疲れ様です」
オルタナティブは2人に歩み寄ると、2人を労った。マジカルキャンディーの獲得数を確認し、一言二言会話をした後、オルタナティブは背を向けた。
「それでは、先に失礼させていただきます。あまり妻子を待たせる訳にはいかないのでね。また機会を設けて会いましょう」
「はい!」
「今日はありがとうございます」
2人がお礼を言うと、オルタナティブは足早にミラーワールドから去った。
「先生が仮面ライダーか……。心強いな」
「後でそうちゃんにも教えてあげよっかな。きっとびっくりするよね」
「良いかもな。んじゃあ、俺達も出るか」
「うん」
そう言って2人もミラーワールドを後にした。
「まぁ、そうでしたか! あのお二人は先生の教え子だったのですね!」
「やっぱり先生は何かと他の魔法少女や仮面ライダーと縁が深いわね。ウィンタープリズンもそう思わない?」
「あぁ。現に僕達とも変身前ではゼミ生と講師という関係だからね」
その晩、拠点としている廃れたボウリング場の跡地ではオルタナティブに加え、彼の所属するグループのメンバーであるシスターナナ、ヴェス・ウィンタープリズン、ファムが夕方の件で会話を繰り広げていた。
因みにウィンタープリズンの会話にもあった通り、シスターナナ、ヴェス・ウィンタープリズン、ファムの変身者は皆、香川の現役の教え子でもある。香川は現在、大地達が通っていた小学校の担任ではなく、3人の通う大学の講師として、日々生徒を正しく導こうとしている。
「九尾もスノーホワイトも、先生に育てられたのですから、大変な人助けに勤しめるのも納得出来ますね」
「あの2人が感性豊かである事は知ってましたから、それが今も続いてるのは喜ばしい事です。これからも私達で見守ってあげましょう」
「もちろんですわ!」
ニッコリと微笑んでシスターナナがそう返事すると、ヴェス・ウィンタープリズンもファムも同情して頷いた。
オルタナティブも仮面の下で微笑み、空いた天井から僅かに見える夜空を見上げた。
今宵も煌めく月が眩しかった。
というわけで、オルタナティブ登場回でした。
次回は龍騎サイドで、あの2人と関わらせます。