魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回は龍騎組がメインになりますが、あのライダー及び魔法少女史上、最恐最悪のあの2人が登場!


11.N市の狂者

「うっし! 今日の活動はこんぐらいだな!」

「結構平和だったな〜」

 

トップスピードが集合場所になっていたビルの屋上に足をつけると、龍騎もドラグレッダーから降りて腕を伸ばした。トップスピード、ナイト、リップルのチームが主に拠点としているのは高速道路であり、時折スピードの出し過ぎを注意したり、その近辺で起こっている揉め事を解決したりするのが主だった仕事になる。もちろん、モンスター退治も忘れずに。

この日初めてメンバーに加わった龍騎は、緊張しながらも3人の活動についていった。とはいえ、この日はスピードの出し過ぎの忠告を一件片付けただけで、比較的平和に活動を終えた。

 

「さてと。そんじゃあ……」

 

そう言ってトップスピードはビルの隅に置かれていた風呂敷を持ってきて、レジャーシートを広げた後、3人を手招きした。

 

「ほら、こっち来て座んなよ」

「? 何があるんだ?」

「……おい。まさか」

「ったりめぇだろ。飯だよめし!」

 

笑みを浮かべながら風呂敷を広げてみると、そこには赤飯のおにぎりや唐揚げ、ポテトサラダ、そしてデザートの杏仁豆腐がそれぞれタッパーに入れられていた。かなり豪勢な料理の多さに、龍騎はおぉ、と感嘆した。一方でそれらを見たリップルは舌打ちをした。

 

「……多過ぎるし、夜食は女の天敵」

「細かい事は気にすんなよ。偶には良いだろ? それに今日は新人のレクチャーとかで腹ごしらえする時間無かったからさ。ほら、手をつけないのももったいないし、食ったくった」

 

リップルの言い方からして、この日は龍騎を歓迎する意味で、普段より多く作ってきたらしい。ちょうど小腹もすいていた龍騎は目を輝かせながらレジャーシートに腰を下ろした。

それからカードデッキを外して変身を解き、手を合わせた。

 

「んじゃあ、いっただっきま〜す!」

「おう! たらふく食ってくれよ! どれも自信作だしな!」

「うん! 美味い!」

「(また不用意に変身を……)」

 

ナイトは正史の行動にまた呆れつつも、このまま帰るのも癪にさわるので、リップルと共に2人の近くに座った。リップルとトップスピードは変身を解かなかったが、仮面ライダーは文字通り常に仮面を付けている為、何かを口にするには一旦元の姿に戻る必要がある。

ナイトがカードデッキを外すと、露わになったのは黒いロングコートを羽織り、首からネックレスを提げている青年だった。正史は唐揚げに噛り付きながら、初めて見るナイトの本来の姿に目を丸くした。

 

「あんたがナイトの変身者……」

「……秋山 蓮二だ」

 

ぶっきらぼうにそう答えた後、赤飯のおにぎりを口にした。

中々に美味な料理を堪能した後、正史と蓮二は再び変身し、4人は解散する事となった。

 

「とまぁ、こんな感じで俺らは活動を続けていく方針だから、しっかり覚えとけよ。後々龍騎もレクチャーする側になるかもしれないし」

「無理だな。こいつに任せるぐらいなら、面倒だが俺が引き受けた方がそいつの為になる」

「なっ……! お前また俺の事をバカにして……! 俺だってやれば出来るんだよ! モンスターだって俺1人でも頑張って倒せた事もあっただろ⁉︎」

「……モンスターだけならな」

「えっ? それ、どういう……」

「いや〜、あんたら本当に仲良いな。やっぱチームに入れて正解だったわ」

「「誰が⁉︎」」

 

トップスピードがケタケタと笑いながらそう言うと、2人は同時に叫んだ。一方で蚊帳の外にいたリップルは3人を見て軽く舌打ちしている。

それから少しばかり啀み合った後、龍騎は自宅に戻る事にした。すると背中越しにトップスピードがこんな事を告げた。

 

「ちょっと待った。先に重要な事を教えとかないと」

「? 何?」

 

龍騎が振り返ると、いつになく真剣な眼差しを向けたトップスピードがいた。

 

「N市の城南地区には絶対に近寄るなよ。そこにいるテンガロンハットを被ったウェスタン風の魔法少女『カラミティ・メアリ』と、紫色の蛇みたいな仮面ライダー『王蛇』とは、無闇に関わらない方が身の為だ」

「あ、あぁ。分かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、正史はN城の付近で原付バイクを走らせていた。城の近くで行われていたイベントの取材を終えて、帰路につこうとしていた。すでに辺りは日が暮れて、街灯にチラホラと明かりがが灯り始めていた。

 

「(トップスピードの魔法は『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ』で、リップルの魔法は『手裏剣を投げれば百発百中だよ』か……。なんか俺が想像してた魔法とは全然違うものを使うんだなぁ、今時の魔法少女って)」

 

そんな事を考えながら走行していると、突然マジカルフォンから耳鳴りのような音が鳴り響いた。

 

「! モンスター……!」

 

正史は反応を追いながら、原付バイクを加速させた。しばらく進むと、正史の目に飛び込んできたのは、赤色のカミキリムシ型のモンスター『テラバイター』が、会社帰りらしき女性社員の体にしがみ付いて、ミラーワールドに引き込もうとしている光景だった。

 

「助けて〜!」

 

女性社員の悲鳴を聞いて我に返った正史はバイクから降りるとすぐさま飛び蹴りをしてテラバイターを引き離した。地面を転がっていたテラバイターは起き上がってすぐ近くの鏡からミラーワールドに逃げていった。

 

「早く逃げてください!」

「は、はい!」

 

正史は女性社員を遠くに逃がし、誰もいなくなった事を確認した後、テラバイターが逃げ込んだ鏡に向かってカードデッキをかざした。腰周りにVバックルがつけられると、正史は右腕を斜め上に突き出して叫んだ。

 

「変身!」

 

カードデッキをVバックルに差し込んだ正史に鏡像が重なり合い、仮面ライダー龍騎へと変身した。

 

「ッシャア!」

 

一声気合いを入れた龍騎はミラーワールドに突入。遠くに見えたテラバイターを必死に追いかけた。

すぐ近くの看板に、反転してはいるが、『この先城南地区』と書かれた文字がある事に気づく事なく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て〜!」

 

ミラーワールドから出てもテラバイターを追いかけ続けている龍騎だが、思っていた以上にテラバイターの足が速い。

 

「だったら……!」

 

龍騎はカードデッキから1枚のカードを取り出し、ドラグバイザーにベントインした。

 

『ADVENT』

 

上空から咆哮と共にドラグレッダーが姿を現し、火球を放つと、先を行くテラバイターを近くにあった公園の中央に吹き飛ばし、ようやく追いかけっこは終わった。

 

「もう逃がさねぇぞ!」

 

龍騎が新たにカードを取り出そうとしたその時、龍騎とテラバイターの間の地面が爆ぜた。

その衝撃で両者は吹き飛ばされて、地面を転がった。しばらく朦朧としていた龍騎だったが、先ほど爆ぜた地面は抉り取られており、直撃していたら命に関わっていただろうと思えるほどだった。

 

「イッテッテ……! な、何だよいきなり……!」

 

どこから攻撃されてのか。龍騎が慌てて周りを見渡すと、2人の人影が歩み寄ってくるのが見えた。土埃が晴れて、ようやくその全貌が明らかに。

1人は西部のガンマンよろしく、テンガロンハットを被り、上半身は豊満な胸を強調するかのように際どい豹柄の紐ビキニと保安官バッジ、下半身は限界ギリギリな程までに短いスカート、耳には尖った歯車のようなピアスをつけた、若い女性。その手には、平和な日本では絶対見かける事のないピストルが握られている。

もう1人は紫色の蛇をモチーフにした、仮面の戦士。

 

「……! もしかしてあいつら……!」

 

龍騎は不意に思い出してしまった。それは昨晩トップスピードが言っていた、危険な人物達の特徴と目の前の人物達は一寸違わず一致していた。

魔法少女カラミティ・メアリ、そして仮面ライダー王蛇。

見るからに強者のオーラを放っているその2人はようやく地面に倒れている龍騎の方を見た。

 

「……アァ? 何だ、お前は」

「見かけないネズミが転がってるね。さしずめあんたが例の新人か」

「じ、じゃあやっぱり、あんたらも魔法少女に、仮面ライダー……」

 

龍騎が起き上がろうとすると、テラバイターが背中に背負っていたブーメランを投げてきた。カラミティ・メアリと王蛇は難なくそれを避け、龍騎は地面に伏せた。

 

「あ、あっぶないなぁ……!」

「……イライラするぜ」

「えっ?」

 

突然そう呟いた王蛇の方を見ると、王蛇はコブラ型の召喚機『ベノバイザー』にカードをベントインした。

 

『SWORD VENT』

 

上空から牙のような剣『ベノサーベル』を掴み、王蛇はテラバイターに襲いかかった。テラバイターは戻ってきたブーメランを盾代わりにして、王蛇の攻撃を防ごうとした。

 

「ハァッ!」

 

だが、王蛇から発せられるパワーの方が一枚上手だったのか、テラバイターは勢いに押されて後ずさった。王蛇は手を緩める事なくベノサーベルで攻撃していた。斬るというよりかは叩きつけるという行為を繰り返し、執拗にテラバイターを痛めつけていた。

テラバイターは一旦距離を置いて再びブーメランを放ったが、王蛇に当たる前に、銃声が響くとブーメランが破裂して、宙を舞っていた破片は跡形もなく消滅した。

龍騎が振り返ると、カラミティ・メアリが銃口から煙が出ているピストルを構えていた。先ほどブーメランを破壊したのは、カラミティ・メアリが撃った弾らしい。だが普通に考えてみると、ガトリングやロケットランチャーならともかく、小型クラスのピストルを数発撃っただけで大きなブーメランを破壊するのは到底不可能だ。

 

「(もしかして、魔法が関係あるのか……)」

 

龍騎がそう推測していると、テラバイターは王蛇に向かって駆け出した。龍騎が前に出て動きを止めようとしたが、それよりも早く王蛇が拳を後ろに振るって龍騎を殴り、その勢いのままテラバイターを殴り倒した。

 

「痛ってぇ! 何すんだよ!」

「……こいつらは俺らの獲物だ。邪魔するな」

「そういう事」

 

カラミティ・メアリは不敵な笑みを浮かべながら、テラバイターに向けて撃ち続けた。やはり火力が異常なまでに向上しており、テラバイターはなす術なく吹き飛ばされる。

龍騎が呆然としている間に、王蛇はベノサーベルをカラミティ・メアリに投げ渡し、新たにカードをベントインした。

 

『FINAL VENT』

 

すると、王蛇の後方から巨大な蛇型の契約モンスター『ベノスネーカー』が現れ、王蛇は地面を蹴って飛び上がった。空中で1回転した後、ベノスネーカーは毒液を吐き、その勢いに乗って王蛇が足を突き出した。

 

「ハァァァァァァァッ!」

 

王蛇はテラバイターに連続蹴りを叩き込んだ。王蛇の必殺技『ベノクラッシュ』をくらったテラバイターは、絶叫と共に爆散。炎の中から、何事も無かったかのように王蛇は現れた。

 

「つ、強ぇ……」

 

マジカルフォンから、マジカルキャンディーをゲットした事を知らせる音が鳴っても龍騎がたじろいでいたその時、カラミティ・メアリがベノサーベルを王蛇に返し、王蛇はそのまま龍騎に向かってベノサーベルを振り下ろした。

 

「おわっ⁉︎ 何すんだよ⁉︎」

 

龍騎はギリギリのところで回避し、王蛇から距離を置いた。と、今度は横手から銃弾が一直線に龍騎に向かい、地面が抉れた。カラミティ・メアリが龍騎を狙っているのだ。

 

「あ、危ねぇだろ⁉︎ 当たったらどうすんだよ!」

「そんなの知ったこっちゃあないね。大体あたしらの縄張りに踏み込んだのが運の尽きだね」

 

龍騎の怒声を無視して、なおもカラミティ・メアリは躊躇なく弾を撃ってくる。どうにかして説得しようとする龍騎が逃げ惑っている間にも、王蛇が別方向から攻撃してきた。

 

「ハハハッ!」

「グァッ……!」

 

龍騎は背中を痛めながらも、必死に逃げ続けた。

そんな中、カラミティ・メアリはこう呟いた。

 

「なぁ、聞いた話じゃ、随分と人助けに勤しんでいるみたいだね。おまけにトップスピードのチームとつるんでるらしいな」

「そ、それがどうしたんだよ! そんなの当たり前だろ! 俺は仮面ライダーだ! 困ってる人達を助けるのが俺達の役目なんだろ! あんた達だって……!」

 

龍騎は逃げ回りながらもカラミティ・メアリにそう言った。

だがカラミティ・メアリから返ってきた返事は、龍騎の想像を絶するものだった。

 

「……くっだらない」

「は⁉︎」

「せっかく人並み外れた力を持ってるのにさぁ。モンスターぶっ倒す為ならともかく、何の取り柄もない人助けに役立てるなんて、ホント馬鹿馬鹿しい」

「そんな訳あるかよ……!」

「どうだか」

 

カラミティ・メアリが鼻で笑っていると、王蛇が龍騎を捕まえて、そのまま殴り倒した。

 

「グハッ……⁉︎」

「どうしたぁ……。もっと楽しませろよ、俺を」

 

尋常でない程に狂気に満ちた王蛇の猛攻に、龍騎は震え上がった。武器を手にしようにも、同じ仮面ライダーに手を出す事に迷いが生じて、カードを手に取る事さえ躊躇ってしまう。

そんな龍騎とは対称的に、2人は攻撃を続けている。

 

「ほらほらどうした⁉︎ 逃げてるだけかい? 別にやり返してもいいんだよ。あたしらはハナっからそのつもりだしさぁ!」

「(こいつら、マジかよ……!)」

 

話には聞いていたが、とんでもない奴らだ。龍騎はそう感じた。なおも続く銃弾の嵐とベノサーベルの突きを掻い潜って逃げる事に精一杯だった。

 

「……ふぅん。思ってたよりすばしっこいドブネズミだね。(単にバカなだけって訳じゃなさそうか)」

 

カラミティ・メアリは新たに弾丸を装填しながらそう呟く。装填が完了したピストルに加え、ホルダーに差しておいたもう一丁のピストルを抜いて、両手に構えた。

 

「でもまぁ、手を緩めるつもりなんてないけどさぁ!」

 

カラミティ・メアリは笑った。それは、痛ぶりがいのある獲物を見つけたハンターの如く。ただひたすらに目の前の相手を狙い撃つ。

銃弾の数が倍加して、ますます恐れをなして逃げ回る龍騎に対し、カラミティ・メアリは笑いながら叫んだ。

 

「おいおい、そんなに他の誰かに力を振るうのが怖いかぁ⁉︎」

「くっ……!」

 

わざと撃つのを止めたカラミティ・メアリと、その場で止まっている王蛇を見て、龍騎も息を荒げながら立ち止まった。

 

「力を恐れるなよ……。『暴力はいけない』なんて口を揃えて教え込む奴らがこの世にはいるけどさぁ。暴力がなくても生きていける奴らは結局、生まれや環境が恵まれてるクソったれだけ」

 

カラミティ・メアリは目を細めて、憎悪を吐き散らすように呟く。

 

「あたしらみたいに、何も持たずに生まれた奴はさ。力のある奴に黙って従い、依存するしかない。それが今の社会さ」

 

けどな……、と、瞬時にカラミティ・メアリは狂気に満ちた笑みを浮かべ、銃口を龍騎に向けた。

 

「あたしはそんなのごめんだね。力こそが全てだってんなら、あたしはその力を手に入れる。そういう意味じゃ、この力は理に適ってる。王蛇だってそうだろ?」

「……ハハッ。俺は戦えればそれで良い。先ずは俺をイライラさせる奴。それから、ムカつくぐらいに俺にたてつく奴。そいつらをぶっ潰せるこの力は、本当に最高ダァ……!」

 

歓喜しているのか、王蛇は体を震わせてそう呟いた。

 

「あんたはどうなんだい? あんただって力を手にして、何でも出来るって考えたら、人助けなんてくだらなく思えてこないか?」

「思うかよ!」

 

反射的にそう叫び、2人に指を指す龍騎。カラミティ・メアリは眉をひそめた。

 

「今のはさすがに頭にきたぞ! あんたらがどんな苦労をしたのか知らないけど、やっとの思いで力を手にしたんなら、自分より弱い人達を助ける事に使えば良いじゃないか!」

 

そう叫び、龍騎はようやくカードデッキから1枚のカードを取り出し、ドラグバイザーにベントインした。

 

『GUARD VENT』

 

龍騎の両肩に、ドラグレッダーの腹を模した盾『ドラグシールド』が2つ装着され、それらを両手に持った。

 

「へぇ。やっとその気になったのか知らないけど、そんな盾じゃねぇ」

「何でも良い。俺を、楽しませろよぉ!」

 

王蛇は耐えきれなくなったのか、ベノサーベルを振り上げたまま突撃してきた。

対する龍騎はドラグシールドを突き出し、振り下ろしてくる王蛇の攻撃を受け止めた。地面に跡が出来る程に後ずさる龍騎だが、王蛇とカラミティ・メアリの顔色を変えるには十分だった。

 

「……アァ?」

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

 

龍騎は反撃とばかりに王蛇を押し返し、よろめいている隙にベノサーベルを蹴り飛ばして、ドラグシールドを突き出して体当たりした。

 

「チッ!」

 

カラミティ・メアリは舌打ちして弾丸を放ったが、ドラグシールドの強度の方が高いのか、龍騎は吹き飛ばされる事なく、弾丸を弾き流すようにドラグシールドを振った。

 

「こいつ……!」

「アァッ!」

 

王蛇はイラついたようにベノサーベルを手に取り、龍騎に攻撃したが、龍騎は回避し、王蛇は勢い余って転倒し、地面を転がった。

それを見たカラミティ・メアリは笑みを浮かべて口を開いた。

 

「思ってたよりやるじゃないか。そんな力持ってるのに人助けなんてもったいない。今、存分に使いなよ! その力をさ! ほらほら、武器を出すぐらいの時間はくれてやるよ!」

 

挑発するように叫ぶカラミティ・メアリに対し、龍騎の答えは……。

 

「戦わないよ」

「……あ?」

「俺は、困ってる人達を助ける為に、それから、モンスターを倒す為だけに戦う」

 

ドラグシールドを強く握りしめて、龍騎は言い放った。

人助けの為に、そしてモンスター退治の為に、戦う。それはつまり……。

 

「誰かを守る為だけに、俺は変身するから」

 

ハッキリとそう宣言した龍騎を見て、カラミティ・メアリは心情が冷めていくのを感じた。

 

「イライラするぜ、お前……!」

「……随分と舐めた口をきくガキだなぁ。あたしらを本気で殺す気がないんなら、さっさとその報いを受ける事だね」

「……!」

 

ハッキリとした殺意を感じた龍騎は身構えた。ここからが本気で殺しに来る。カラミティ・メアリは2丁のピストルを龍騎に向け、引き金に手をかけた。そして王蛇はベノサーベルを片手に、雄叫びを上げて向かってきた。両者に挟まれる形で迎え撃とうとしたその時だった。

王蛇の前に何者かが立ちはだかり、ベノサーベルを受け止めた。

 

「! お前……」

「……」

「! な、ナイト!」

 

ベノサーベルを受け止めたのは、ウィングランサーで押し留めているナイトだった。

 

「何のつもり……」

「姐さん!」

 

更に、カラミティ・メアリを止めるように現れたのはトップスピードだった。その傍らにはリップルがおり、カラミティ・メアリを睨みつけている。

 

「トップスピード⁉︎ それにリップルも……」

「姐さんお願いです! ここはどうか穏便に……!」

 

必死に懇願するトップスピードに対し、戸惑いの表情を浮かべるカラミティ・メアリ。ナイトと王蛇も、矛を収めるように離れた。トップスピードは帽子を取って、頭を下げた。

 

「すみません。前もって縄張りに入らないように言っておいたんですが……。きつく言っておかなかった俺の責任です。ここはひとつ、どうか矛を収めてください」

「と、トップスピードが謝る必要ないって! 元はといえば俺がモンスターを追いかけてて、勝手に入り込んじゃったのが悪いんだし……」

「バカの割には、悪い事をした自覚はあるんだな」

「だから一言余計だっつぅの!」

「バカをバカと呼んで何が悪い?」

「お前なぁ……!」

「こんな所で喧嘩するなよ⁉︎」

 

龍騎とナイトの言い争いを止めようとするトップスピードと、それを黙って見届けながら舌打ちするリップル。

それを見ていた王蛇は、

 

「……フン。くだらん」

 

とだけ呟き、背を向けた。カラミティ・メアリもため息をついて背を向けた。

 

「全くだ。もうちょっとで楽しくなりそうだったけど、もういいや。さっさと行けよ。次からは気をつけるように、そこのバカによく言っておくこった」

「またバカって言われた……!」

「あ〜もう! 一々口ごたえしない!」

 

龍騎を慰めるトップスピードを見てまた舌打ちしたリップルだが、彼女の耳にカラミティ・メアリの声が。

 

「そうだ。暇つぶしにリップル、こないだの続きでもやるか?」

「……!」

「……! よせ!」

 

直後、リップルはクナイに手を伸ばそうとし、ナイトがそれを咎める。

冗談だよ、とカラミティ・メアリは手をダラリと下げて笑いながら呟き、リップルは彼女に聞こえない程度に舌打ちをした。見兼ねたトップスピードは3人に言った。

 

「ほら、行くぞ! 龍騎、おぶってやろうか?」

「い、いいよ。そんなに怪我してないし」

「そっか。それならよかった。それじゃあ失礼します!」

 

龍騎はトップスピードと共にラピッドスワローに跨り、ナイトはリップルの手を掴んでダークウィングと合体して、カラミティ・メアリと王蛇に背を向け、その場を離れた。

王蛇はイライラが収まらないのか、すぐ近くの木を蹴り続けていたが、カラミティ・メアリはジッと4人の、特に龍騎の背中を見つめていた。

そして無言で銃口を龍騎に向ける。王蛇がそれに気づいて声をかけようとするが、それよりも早く引き金は引かれた。

が、ピストルから聞こえてくるのは、カチッという音だけ。

 

「……フフ」

 

カラミティ・メアリは不敵な笑みを浮かべ、ピストルを持つ両腕をダラリと下げた。

 

「弾切れ……か。あいつ、ツいてたな」

 

そう、龍騎の話を聞いてピストルを向けた時には、すでにカラミティ・メアリの手札は尽きていたのだ。その後の龍騎に戦う意志があったかどうかは別として、彼女には何もする事がなかった。

 

「ただの命知らずのバカかと思ってたけど、そうでもなさそうだな」

 

こうなると、龍騎の実力はまだ未知数という事になる。そう思ったカラミティ・メアリはこれまでに感じた事がない程に高揚していた。

 

「あぁいう奴ほど潰しがいがあるってもんだ。ますます気に入ったよ」

「……あいつは俺を一番イラつかせたな。何て名前だった?」

「確か……」

 

カラミティ・メアリはマジカルフォンを取り出し、チャットでの記録を閲覧し、2人にたてついたライダーの名前を探し当てた。

 

「……あぁ、龍騎って奴だね。間違いない」

「……そうか、龍騎か……!」

 

王蛇は狂ったように意味もなく木を殴り続ける。

 

「あいつは一番ムカつくが、俺を楽しませてくれそうだなぁ……!」

「少なくとも、リップルよりかはマシな戦いが出来るかもね」

 

カラミティ・メアリはそう呟いてから、空を見上げた。

 

「こんなにもあたしをゾクゾクさせたのは、あいつが初めてだ。次は弾切れなんてショボい終わらせ方にはさせないよ」

 

これが俗に言う、武者震いってやつか。

カラミティ・メアリはしばらくの間、その笑みを崩さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、城南地区から脱出した龍騎達は、いつもの集合場所に降り立った。

そして開口一番、トップスピードによる説教が始まった。

 

「昨日注意したばっかなのに、何で首突っ込んでんだよ……!」

「う、ご、ごめん……。モンスターに襲われてた人を放っておけなかったし、あそこで逃してたら、また人を襲うかもって思ったから……」

「だからといって節度も考えるべきだ。命知らずにも程がある」

「……ごめん。本当に」

 

素直に謝る龍騎を見て、ナイトは何も言わなかった。

 

「……でも俺、あの2人の考え方だけは納得いかない。俺は、この力を、人助けやモンスターを倒す為だけに使い続けたいんだ。それが、バカな俺なりに見つけた、変身して戦う理由だから」

「……!」

 

ここで今まで無表情だったリップルの顔に変化を見られた。

 

「お前、本当のバカだな……」

 

ナイトはそう呟くが、不思議と嫌味には聞こえなかった。その証拠に、龍騎は仮面の下で自然と笑みがこぼれている。

トップスピードは鼻息を鳴らし、こう言った。

 

「ここだから言えるけどさ。あの2人はマジでダメだ。ネジが飛んでる。下手に逆らえば冗談抜きで命を持ってかれる。もし今度出会っても、絶対に挑発に乗るなよ」

 

そう呟くトップスピードの顔からは、本気で龍騎を心配している雰囲気があった。

 

「同じ仮面ライダーや魔法少女の拳は、チンケな争いの為に振るうもんじゃない。あんたが本気で誰かを守りたいっていうヒーローを目指すなら、その拳はその時の為だけにとっておけ」

「あぁ、分かってる」

 

龍騎がハッキリとそう呟くと、トップスピードもようやく元の勝気な表情に戻った。

 

「うっし! んじゃあ細かい話はここまでにして、早いとこ腹ごしらえといくか! ちょっとトラブルもあったけど、今日もパトロールするからな!」

「ッシャア! 飯だ!」

「(本当に反省してるのか……? 全然心が読めない奴)」

 

龍騎は変身を解き、上機嫌にトップスピードが持ってきていた、タッパーに入った料理を手に取った。この日は五目おにぎりだった。

同じく変身を解いた蓮二とリップルも、仕方なしにと五目おにぎりを頬張った。

 

「うん! 美味い! ホントにトップスピードは料理が上手い!」

「へへっ! お前食いっぷりが最高だな!」

 

さも美味しそうに頬張る正史を見つめながら、トップスピードは自然と首から提げてあるお守り袋を握りしめた。

 

「(誰かを守る為だけに変身する……か。龍騎だけじゃない。こいつらには、あの時のような事にならないように、俺がしっかりしてなきゃな。もう、あの人のような目には遭わせない)」

 

その瞳からは、哀しみを連想させるものがあった……。

 




というわけで、王蛇とカラミティ・メアリの登場回でした。

余談ですが、今週Youtubeで配信されている龍騎の31、32話はかなり良かったですね。あの話があったからこそ、龍騎が打ち切りにならずに済んだと言われている程ですからね。

次回は九尾サイドに話が移ります。

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