魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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後編になります。

先日、ゆゆゆ3期が最終回を迎え、大円団となりましたが、皆さんどうでしたか?私はこの上なく素晴らしい作品だと、鬼滅の刃や呪術廻戦といった話題作に遅れを取らないような仕上がりだと思いました。多くは語れませんが、是非とも色んな人に知ってもらいたい、後世に残したい作品だと実感しました。


EX.スノーホワイト&九尾育成計画(後編)

スノーホワイトも九尾も、着実に成長しているのが水晶玉越しに見てとれた。目的意識がしっかりと一方向に向かっているようだ。

スノーホワイトはフレデリカの言いつけを愚直に守っているらしく、今まで以上に瞑想に費やしているようだ。魔法少女のままで、心の中で戦っているのだ。強くなる実感は、途上において最も楽しいものだ。フレデリカ自身、経験者の1人だから、気持ちは分かる。九尾の方は、慣れない事に若干戸惑っているようだが、多少無理してでも真似ようとしている様子だ。少し前まで庇護の対象だったパートナーが日に日に強くなっている事に触発されているのかもしれない。

順調にシナリオ通りの展開が進んでいる事に安堵したフレデリカは、ファイルに新しくコレクションとして追加した写真に注釈を加えつつも、2人の『完成図』を思い浮かべ、そして描く。

美しく育っている。模擬戦で教えられた事以上のパフォーマンスを見せているスノーホワイトの姿勢を確認したフレデリカは、そこで水晶玉の映像をオフにして、魔法の端末に目を向けた。試験官という立場上、あの2人ばかりにかまけている訳にもいかなくなったのだ。終わらせなければならない事が山積みなのだ。通常業務も滞っている。ちゃんとメリハリをつけてこなしていかなくてはならない。

現在の優先順位として取り組まなければならないのは、次の新人選抜試験だ。スカウト役として、指導役として、『理想とする優れた人材』を、候補生を集めて競わせ、選別する。悪を討ち、正義を掲げる正しいヒーロー、ヒロインを見出す為に。その為にも準備が必要だ。もうすぐ執り行われる事になっているが、フレデリカとしては、もうワンアクセント入れたくなった。登録されている参加者の顔をざらっと眺めてみる。が、どうにも決め手に欠ける人材ばかりだ。要は、触りたくなるような髪の毛の者がいないのだ。こうなると、工夫が必要だ。そこで思いついたのは、試験の舞台を遊園地にする、というものだった。龍騎に初めて会った時のデパートの屋上のような、遊具や屋台に囲まれた夜の施設というのも、なかなかな雰囲気がある。フレデリカは早速その思いつきを形にするべく、ファイルを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1ヶ月近くは、余さず、とはいかないにしても、概ね順調だった。選抜試験にかかりきりだったフレデリカは、2人の様子を観察できなかった訳だが、互いに切磋琢磨しつつ、御涙頂戴レベルの、この短期間での成長は、予想以上に素晴らしいものだと感心した。

このように、2人の育成に関しては上手くいっていたわけだが、その反面、本業の方は真逆だった。デパートの屋上にある種の感銘を受け、遊園地を舞台とした試験は、結論から言えば、無駄な徒労だった。スノーホワイト達のように、激しい特訓の中で遊具等が壊れると子供が悲しむという配慮のもとで稽古場を山に移した事と反比例して、参加者は血の気の多さからか、遊具や施設をいたずらに傷付けながらその椅子の座を争っていた。おまけに、十数人いた参加者は、誰1人としてその椅子に座る事はなかった。フレデリカは自分を慰めるように、自室でファイルを眺め、ペラペラとページを捲る。そこには、参加者全員の処理済みの髪の毛が収められている。新しい資料となった事もあり、そういう意味では完全に無駄とはならなかったが、刺激剤とはならなかった。写真に注釈を書き添えながら、自分のやっている事が義務と惰性でやっているような気がして、思わずため息をつくフレデリカ。

とはいえ落ち込む必要は全くない。まだ、あの2人がいる。2人を最強の存在にさせる事が、魔法少女ピティ・フレデリカの最大の仕事なのだ。だから試験にちょっと失敗したぐらい、些細な問題だ。なんとなくテレビをつけると、原因不明のバスの事故で、十数人いた子供だけが全員死亡というニュースが流れていた。鎮痛な面持ちのニュースキャスターを見ているだけで、こちらも気が滅入る。すぐに電源をオフにして、魔法の国に提出すべき書類のでっち上げに取り掛かるフレデリカ。彼女が崇拝しているクラムベリーとオーディンを真似るようになった結果、試験内容は勿論の事、事故に見せかけるのは上手くなった。

筆を手に持ち、ふと顔を上げて、目線の先に見える、次の指示を待っているかのような男女2人の事を思い返す。この2人も、フレデリカが組んだ試験の合格者であり、複数の候補者同士の血で染まりあった環境の中で生き残った強者だ。試験にこそ合格したが、2人からの反感を買ってしまった。こんなやり方は間違っている、これが魔法少女、仮面ライダーのあるべき姿とは言えない、などと罵詈雑言を浴びせられたフレデリカだが、本人としては上出来だと自画自賛する。ここまで意志の強い者は滅多に現れない。この2人なら理想の存在になれるかもしれない。そんな期待を寄せたフレデリカは、敢えて2人を始末する事なく、魔法の国では『死の将軍』として恐れられている魔法少女が所有する武器の魔法を用いて、2人を洗脳する形で、事態の沈静化を計った。おまけにこの2人には兄や弟がいる事も独自の調査で分かり、それらが候補生に選ばれた事を知った際は、思わず笑みが溢れた。

……それはさておき、試験に関しては不慮の事故として上に報告すれば何ら問題ない。今書くべき内容は勿論、スノーホワイトと九尾は良い傾向にある、といったものだ。こういう時、ファヴのような相方がいれば、ずっと楽になるのかもしれない、と考えるフレデリカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで報告も終わり、偽りの報告書が受理されたのを確認したフレデリカは、いよいよかかり切りでいられるようになると思うと、嬉しくてしょうがない。自分が見ていない間、あの2人はどうなったのだろうか。水晶玉で確認するのも良いが、先ずは第三者からの意見を聞くのもアリだ。フレデリカは早速端末を手に取り、連絡先を交換した仮面ライダーに声をかけ、深夜になってチームが帰路に着くタイミングで、彼と会合する事となった。

山というのは人気がないほど神秘的で、満月の夜ともなれば、格段深みと味わいが増す。木々の連なりを超え、左右を岩壁に挟まれた谷底の川を遡って上流を目指す。魔法少女によって強化された脚力を活かし、テンポ良く岩を蹴って跳んでいく。

呼び出し相手は、上流付近にかかっている、山の中にしては比較的大きめな橋の上で、フレデリカの到着を待っていた。

 

「あ。久しぶり、になるのかな?」

「そうですね。私もどうしても外せない用事がありましたので」

 

外せない用事、と口に出した際、一瞬ピクリと反応する龍騎だったが、フレデリカは特に気にする事なく橋の下に目を向けながら、会話を続けた。

 

「それで、スノーホワイトと九尾の方は滞りなく?」

「う、うん。2人とも強いからね。最近じゃ、俺でも敵わなくなっちゃってる気がして、ちょっと焦ってるんだ」

「それでも鍛えていただけたようで、こちらとしても有り難い限りです。自らの理想を叶えようとするあの2人も本望でしょう」

 

2人を褒め称えていくうちに、フレデリカも興奮しているのか、段々と口調が早くなる。

 

「何より2人は若い分、成長速度が早い。相手の癖を洗い出し、逆手に取って引き出す事で、そこに不意の一手を与える。あれほどにまで強くなれば、私も安心し」

「何で」

 

不意に、龍騎の一言が話のコシを折り、フレデリカは顔を上げる。

 

「どうしてスノーホワイトがそんな高度なテクニックを身につけたか、知ってるんだよ?あんた、自分の用事で全然連絡取り合ってなかったはずだろ?だったらどうしてその事を……」

 

内心マズい、と焦り始めるフレデリカ。いくら警戒心の薄い話し相手とはいえ、言葉の矛盾に気づいている様子だ。気を緩めてしまった。こちらも警戒するべきだった。そう反省したフレデリカは、話を続ける。

 

「私は見守る立場です。彼らが本当に正しい道を歩んでいけるかを。だから何となくそれくらいの成長を予想しただけですが、どうやら当たったようですね。それと、今後の事ですが……」

 

疑われているとはいえ、まだ交渉の余地はあるはずだ。龍騎レベルなら、誠意を目一杯引き出して説得すれば、無理矢理にでも納得してくれる……筈だ。

 

「……なぁ、フレデリカさん」

「何でしょうか?」

「……あの2人は、弱くないよ。きっと、あんたが無理にアドバイスしなくたって、もう、自分が何をすべきか、分かっている筈だ。だからあんたに、道案内をしてもらう事もない」

「それはあなたの解釈であって、私は」

 

その先は続かなかった。続けられる状況ではなかった、というべきか。反射的に横へ飛び退いた時には、白い毛並みのついた仮面の人物が刀を振り下ろしていたのだ。僅かに頬を掠め、少量の血が橋に染み込む。我ながらよくそこまで反応できたものだ、と思いながらも、全てが瓦解し始めている事も悟った。ギリギリまで殺気を隠し、こちらに奇襲を仕掛けたその人物は、刀についた血を拭う動作をし、目線を合わせた。仮面越しに、こちらを睨んでいるのは気配で分かる。

 

「ようやく会えたな、ピティ・フレデリカ」

「……っ!九尾……」

 

と、そこへ更にフレデリカにとって厄介な人物が。

 

「指導役なのに私と会おうとしなかったのは、私の魔法が関係していたから、だよね。私に知られたら絶対に困る事情があったから」

「スノーホワイトまで……」

 

白い学生服の魔法少女。凄惨な試験を経て、その表情は資料にあったような穏やかな面影だけでなく、明確な敵意を剥き出しにするまでに彼女を育てた。

彼女の言っている事は的を得ていた。頑なに2人との面会を断っていたのは、スノーホワイトの魔法によって、自分の事が見透かされてしまう事を恐れていたからに他ならない。彼女の魔法を知っている以上、心の動きを止める術はない。相手の魔法を知る事で、逆に不利になってしまう珍しいケースだ。それだけ、彼女の魔法は特別であり、彼女の魔法を行使できる九尾も要注意人物だった。

当然だ。あの2人が自分の行いを、本性を許すとは思えない。別に許されるとも思っていないし、許して欲しいとさえ思っていない。が、ここに来て龍騎を囮にしてまんまと誘き出されてしまった事に失笑を禁じ得なかった。もう少しで理想の存在に作り上げられたはずなのに。魔法の国にクーデターを起こす起爆剤になれた筈なのに。願わくば、自分の太股に2人の頭を乗せて、髪を撫でさせてもらえた筈なのに。

だからこそ、残念な気持ちになった。ここで彼らを始末し、一から振り出しに戻らなければならない事が、心底残念だ。夢を実現するために、必要な人材だったというのに。

 

「非常に残念です」

 

改めてそう呟いた後、懐から石ころのようなものを取り出して、地面にばら撒いた。3人が警戒する中、石ころは次第に形を変えて、槍を携えた人型の怪人へと変貌した。知り合いから譲り受けた兵隊がこのような形で役立つとは。フレデリカは思わず笑みを浮かべた。が、その直後に表情が歪むフレデリカ。フレデリカと召喚した怪人を取り囲むかのように、新手が現れたのだ。何れも九尾とスノーホワイトを観察する上で見知った面々だ。どうやら総出でこの場所に来ていたようだ。

 

「ピティ・フレデリカ!お前の悪事は既に周知している。お前のような者を、魔法少女だなんて認めない!」

「そういう事だ。人の命を弄ぶお前には、ここで退場してもらう」

 

ラ・ピュセルとナイトが何かを言っているが、フレデリカには興味のない話だ。それよりも、自身への慰めとして、2人の遺髪をどう保管するかしか、頭になかった。次の逸材に出会える事を夢見ながら。

張り詰めた空気は唐突に引き裂かれ、戦闘が始まった。龍騎が、ラ・ピュセルが、ライアが、ナイトが、リップルが、ハードゴア・アリスが怪人を相手にする中、スノーホワイトと九尾は、フレデリカと対峙する事に。

 

「本当に惜しいです。勿体無い事この上ありません。あの2人が死んでから、唯一興味を持てた相手なのに。このような形で終わらせる事になるとは」

「随分自信ありげだな」

「えぇ。勝つのは私です。私とあなた方とでは、経験値に差があり過ぎますからね」

「……だとしても、ここであなたを、止める!」

 

スノーホワイトの言葉を皮切りに、同時に足を踏み出す2人。

場所を橋の上から川岸に移し、スノーホワイトが岩を割ってジャンプし、飛び蹴りを放つ。挙動が大きすぎる。この程度なら身体を少しズラせば当たる事もない。全力で攻撃しているのが分かる。自分が利用されていた事に怒りを感じているのか知らないが、首の骨を折れば皆黙る。スノーホワイトの攻撃を避け、その首に回し蹴りを

 

「!」

 

危なかった。回し蹴りの軌道上目掛けて、刀が振り下ろされるのに気づいたフレデリカは、その足で刀を弾く事に専念。その間にスノーホワイトは距離を置いて息を整える。それも僅か数秒の事で、九尾の斬撃に対処している間に、再び拳を握り向かってくるスノーホワイト。フレデリカは両者の攻撃に注意しつつ反撃を試みる。コンビネーションは悪くない。伊達にペアを組んでここまで生き残ってきた訳だ。

流れの中でスノーホワイトが足を引いた。前に出ようとする時にしてしまう、彼女の癖だ。が、彼女の足はそれ以上動かなかった。打撃が来る事を想定していただけに、九尾が振り下ろした攻撃を完璧には避けきれず、右腕から血がしぶいた。よろめきながらも距離を取ろうとするフレデリカに対し、2人は岩場を跳び交いながらついてきている。テリトリーという事もあって、地の利も向こうに分がある。だが、それだけの理由で勝ちを譲る気など毛頭ない。

続いて九尾が、2本握られていたフォクセイバーの一つをフレデリカに向けて投げつけた。真っ直ぐ向かってくるフォクセイバーに、フレデリカは見向きもしなかった。あからさまな陽動だ。フェイントにもならない。回避した後、次いで振るわれた攻撃を打ち、更に蹴りを入れる振りをして、スカートをはためかせて九尾の視界を遮る。一瞬の隙をついて九尾の死角から抉るように、つま先を喉元にぶち当て

 

「っ⁉︎」

 

彼女の算段は、スノーホワイトが放った攻撃が鋭い痛みを伴っていた事で中断し、身を翻して上流の岩場に駆け登る。肩から血が垂れている。別に、スノーホワイトの攻撃を想定していなかったわけではない。ただ、彼女の間合いを承知していて、ギリギリ届かないだろうという所で九尾にトドメをさそうと動いていただけだ。ふと見ると、スノーホワイトの手には血のついたフォクセイバーが握られていた。躊躇う事なく刀を振り下ろしてきた辺り、本気でこちらの命を刈り取ろうとしているのか。

あぁ、と気づいた。先程九尾が投げたフォクセイバーは、フレデリカへの攻撃ではなく、スノーホワイトへのパスだったのだ。彼女の攻撃ならそこまで気にする必要はない、とタカを括ったのが間違いだったか。休む間も無く、2人の斬撃がフレデリカに襲い掛かる。攻撃のタイミングが早く、そして噛み合っている。もしかしたら、事前に打ち合わせを、連携を取れるように鍛錬していたのかもしれない。だとすると、これまで自分が水晶玉越しに見てきた、瞑想をしていた時も、常にこのような事態をシュミレートしていた可能性がある。

次第に追い込まれている事を実感するフレデリカ。力量は把握していたのに、全て見透かされ、息が合っていく。『実戦は時として戦士を大きく成長させる』というのを聞いた事がある。それに加えて『思いは人を強くさせる』事が上乗せされ、フレデリカが思案していた育成法の究極系が、目の前で繰り広げられているのかもしれない。水晶玉にも攻撃が当たり始め、追い込まれているにも関わらず、嬉しさが込み上げてくる。

その反面、勿体無さも湧き出ていた。2人の結びつきは固く、密に、そして一匹の獣の如く、尚も激しい攻撃をしてくる。これほどの素質を持つ逸材が、今日殺されてしまう事は本当に惜しい。せめて、2人の遺髪はセットにして飾ってあげよう。死後も仲良くさせてあげられるなら、それが1番だ。その髪を見つめながら、次の試験を思案する。なんて美しい未来図だろう。

舞台はいつの間にか、橋の上に戻っていた。龍騎達と怪人は、別の場所に戦いを移したようだ。

 

「ここまで私を追い詰めるとは、さすがと言うべきか。ですが、先程も申し上げた通り、私とあなた方では、経験値に差があり過ぎる」

 

故に、こんな事だって出来るんですよ。

そう言ってフレデリカは水晶玉に手を突っ込んだ。彼女の指には、逃げながら巻きつけた髪の毛がある。やがて引き抜いた手には、襟を掴まれている少女が。魔法少女ではない、ただの人間だ。素質もなく、どこにでもいる、小学生が、寝ぼけ眼でキョトンとした表情で、目を擦っている。自分が今どんな状態なのかも分かっていないだろう。

2人の表情……九尾は仮面に覆われているが、それでもスノーホワイトと同じ筈だ。驚きに目を見開いている。100点満点の反応だ。ピティ・フレデリカの魔法は『水晶玉に好きな相手の姿を映し出すよ』であり、その本質はピーピングにあるわけではない。水晶玉に映し出された対象をこちら側へ引っ張り出す事にあるのだ。対象がどこにいても、距離どころか世界の枠さえ問わず、電脳空間だろうと、引っ張り上げる事ができるのだ。

スノーホワイトも九尾も、真っ直ぐな面が強い。世の中にはフレデリカのような、救いようのないクズがいる事を、いかんせん想定し切れていないのだろう。良心が咎めないわけではないが、心の中で可愛く謝りながら、行動に移した。

 

「っ!お前……!」

 

九尾が舌打ち交じりに、スノーホワイトと並んで駆け出す。フレデリカは少女の身体を優しく放り、2人は橋の下に身を躍らせる。まず間違いなく間に合う。そうなるように投げる方向を計算していたのだから。あの2人なら、少女が叩きつけられる前に救えるだろう。

 

「(それこそが『隙』というやつなんですよ)」

 

目の前の命を救いたいなら、どうしても隙が生じる。2人の隙を突くためなら、無関係な命を投げ落とす事も躊躇わない。勝つ為に、弱者を踏みつけて勝利を手にする。相手が正義の味方を名乗るなら、それに見合う悪役として振る舞えば良い。それがフレデリカの考えだ。

水晶玉の映像を切り替えると、スノーホワイトが少女を抱き上げていた。続いて九尾の動向を確認。映像を切り替えると、橋の上に戻ろうと崖を伝って走っている。こちらに辿り着くまで多少の猶予はある。ならば狙うべきは……。

フレデリカは躊躇わなかった。先ほども述べたが、フレデリカはその魔法で、水晶玉に映った対象を引きずり出す事ができる。どのような状態で引きずり出すかは、本人の力加減による。首を掴んだ勢いで骨を折ってしまう事もある。

 

「(さよなら、私の愛した魔法少女)」

 

狙いを定め、そっと右手を差し込み、スノーホワイトの首に当て

 

[挿入歌:Revolution]

 

「え」

 

久方ぶりに、フレデリカは息を呑んだ。彼女が突き出した手は、スノーホワイトの首には当たらなかった。そればかりか、身体を反転させて伸ばした手を逆に掴まれてしまう。

 

『SURVIVE』

『STRIKE VENT』

 

ハッと顔を上げると、こちらに辿り着いた九尾が、デストクローをつけた状態で引っ張られたままの腕を引っ掻いた。血飛沫が上がり、呻き声と共に水晶玉から手を引き戻し、後方によろめいた。その後も激しい攻撃を回避し続けていると、スノーホワイトが欄干に降り立ったのが見えた。

 

『SURVIVE』

 

そして懐にあった端末を取り出し、その姿が光に包まれたかと思うと、昔人間界で流行った魔法少女アニメに酷似した衣装を見に纏ったスノーホワイトが、フレデリカの眼前に現れた。何とも美しい。そこでふと我に返り、九尾も姿が変わっていた事に気づく。

サバイブ。試験に関する資料の中にあった、魔法少女や仮面ライダーの魔力を底上げさせる為の、そして争いをより過激なものにさせる為に投与した激レアアイテム。2人ならどこかで使ってくるだろうとは想定していたが、それでもここまで不意をつかれるとは思ってもみなかった。一体何故。そう思考している間にも、フレデリカは次の一手の為、水晶玉に手を伸ばすが、

 

『BUBBLE VENT』

 

九尾サバイブの一手が早かった。手元に召喚されたバブルショットが、水晶玉を撃ち抜いて手元から離れ、橋の下に落下した。動揺するフレデリカに、スノーホワイトサバイブは接近戦を挑み、先ほどとは比べ物にならないほど俊敏な動きで、フレデリカに打撃を打ち込む。後ずさっていくフレデリカを見て、九尾サバイブは次のカードを引き抜いた。そしてスノーホワイトサバイブに目線で合図を送り、彼女も小さく頷く。

 

『WALL VENT』

 

刹那、フレデリカの足元の地面が勢いよく突き上げられ、彼女の身体は宙を舞った。如何に経験値の高い魔法少女といえど、空中では身動きが取れない。

 

『FINAL VENT』

 

並び立ったスノーホワイトサバイブと九尾サバイブは、同時に跳び上がり、一回転してから、右足を突き出す。九尾サバイブの右足に契約モンスターであるフォクスローダーが絡みつき、音を上げながらフレデリカめがけて『ブレイズバーストキック』が直撃。スノーホワイトサバイブとのダブルキックは、フレデリカの口から空気と共に、赤黒い液体を吐き出させ、身体をくの字に曲げながら、橋の下に落下し、大きな水飛沫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緩く流れる川から這い上がったフレデリカは、息も絶え絶えに大きな岩に身体を預けて、座り込んだ。湿っぽい地面から尻の方に、冷たさが滲みてくる。刻まれた傷は骨の半ばにまで達しているものもある。腹の激痛もあり、歩こうにも歩けない。荒い息で血中に酸素を送り、山の冷たい空気を吸う度に肺が痛くなる。

分からなかった。スノーホワイトはどうしてあの攻撃を読み切ったのだろうか。気配を殺すのは勿論の事、心を読まれるはずもない。あの状況で困っている事など微塵もない為、それで先手を読まれたとも考えられない。

バシャリと水音が響き渡る。サバイブを解除した、スノーホワイトと九尾が降り立って、こちらに向かって来ていた。フレデリカは動けない。そこで顔を上げた事で、フレデリカは2人の後方の、柔らかい地面に横たわって寝ている少女の姿を確認した。水晶玉越しの手を退けた後に、安全な場所に安置させておいたのだろう。

 

「なるほど……」

 

フレデリカは理解した。気配を殺し、ゆっくりとスノーホワイトの背後から忍び寄る右手は、彼女の死角にあった。だが見ている者はいた。そう、スノーホワイトに抱かれていた、囮役の少女だ。彼女は混乱の渦中にあったが、寝ぼけ眼でも見ていた。辺りは月の光程度しかなかったが、あの距離なら、『何かが飛んできている』ぐらいの認知はできる。その何かが少女にとって『困った』事態を運び込むものだと感じたのだろう。そうしてスノーホワイトのフルオート魔法が反応したのだ。結果、スノーホワイトはフレデリカの奇襲に気づいて、手を掴み返す事に成功したのだ。

 

「この私を利用して、ここまで……。嗚呼、素晴らしい逸材だ」

 

この2人の未来の事を考えると楽しい分、その未来を見る事ができないのが残念だ。理想の存在を作り上げるという目的を半ばまで叶えたのに、最後まで拘る事なく途中退場してしまうとは、なんたる事か。フレデリカにはなれなかったものに、この2人はなれる。魔法少女を、仮面ライダーを、実験動物程度にしか考えていない魔法の国を内から破壊する、希望の存在。誰にもできなかった事をやってのけられるかもしれない存在だったのに。隣に立ち、腐りきった魔法の国に立ち向かう最高の仲間になる魔法少女や仮面ライダーを作り上げたかったのに。あと少し、ほんの少し時間があれば……。

 

「どこで、間違って、しまったのでしょうか……」

「……ピティ・フレデリカ。前に話した、私が強さを求める目的。あれには続きがあるの。信用していなかったから、話す事もなかったけど」

 

スノーホワイトは深く息を吐いて、そして鋭い眼差しを、悪しき魔法少女に向けられる。

 

「私の夢は、みんなを幸せにする魔法少女になる事。その夢を叶えるのを妨げる……魔法少女を、仮面ライダーを不幸にするような存在がいるなら、その行為を止めたい。次に出てこない為に予防する。人間世界の大きな揉め事だって、止めに入る。……だから私は、力を求め続ける。その為に、私は魔法少女であり続ける。戦い続けるって、決めたから」

 

見誤っていた。スノーホワイトの目的は、予想を少しばかり超えて来ていた。ますます成長が楽しみだ。それを見届ける事が叶わないのが非常に残念だが。

 

「……殺しはしない。お前には、まだ生きててもらう必要がある。魔法の国の牢獄にぶち込んで、罪を償ってもらう」

 

九尾の周りに、怪人と戦っていた面々が降り立つ。やはりあの怪人では相手にならなかったようだ。殺意は感じられない為、少なくともこの場で死ぬ事はなさそうだ。何とも甘い考えだ。まだこちらには従者もいる。いざとなれば、異変を感じた彼らが、知り合いの魔法少女や仮面ライダーが脱獄に手を貸してくれる。そうなれば、指導役には選ばれなくても、違う手口で2人を理想像に染め上げられるかもしれない。

乾いた笑みを浮かべているフレデリカの手の甲に、フォクスバイザーが差し貫かれた。苦痛に顔を歪めながら、眼前に狐の仮面が迫る。

 

「何で生かされるのか、まだ分かってねぇようだな。なら教えてやる。……お前には、魔法の国の奴ら全員に、伝えてもらわなきゃならねぇからだよ。俺達の事をよ」

 

そして。安堵と共に薄れていく意識の中、仮面ライダー九尾は、断固たる意志を露わに、こう告げる。

 

「この街には、この国には、この世界には、俺達仮面ライダーが、魔法少女がいる事を忘れるな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば、12月20日にリップル役の沼倉愛美が第一児を出産したそうですね。おめでとうございます!
盟友のトップスピードが叶えられなかった夢を、その相棒が叶えたと思うと、感慨深いものがありますね……。今後ともお身体に気をつけて頑張ってもらいたいですね!

さて、長きに渡って投稿してきた『魔法少女&仮面ライダー育成計画』も、次回で最終回となります!ここまで長々と付き合ってくださった方々に感謝しながら、物語の行く末を描いていこうと思いますので、もう少しだけお付き合いください!



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