魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

前回お知らせした通り、番外編の前編をやっていきます。

今回は本編でもちらほら名前だけ登場していた、あの魔法少女が関わってきます。


EX.スノーホワイト&九尾育成計画(前編)

魔法少女『ピティ・フレデリカ』が、その2人を自分のものにしたい、という欲望が生まれ始めたと自覚したのは、彼女の部下の1人、仮面ライダーアビスが試験の中で脱落した頃だった。

無論今のままでも、部下や弟子の数は事足りていると言えば、足りているのだが、それとは別に、彼女には野望があった。

 

『理想の魔法少女、仮面ライダーを作り上げる』

 

かつて、森の音楽家クラムベリーと仮面ライダーオーディンが目指した領域。フレデリカにとって憧れの存在だった2人が掲げていたものを、彼女も欲している。

当然ながら、崇拝していたその2人が執り行った試験に関心を持ったのは当然の事。とはいえ新人のスカウト兼試験官という立場にある自分が、参加者として携われるわけがないので、2人に気づかれないように、有能な候補生を現地に派遣し、仮面ライダーに仕立て上げる事で、その試験の経過を観察する事にした。その人物こそが、とある会社の副編集長を担当し、裏では残忍な思想を持ち合わせている男、鎌田春水だった。

彼女の魔法を使い、鎌田を介して、試験の流れは誰にも悟られる事なく観察する事に、フレデリカは悦を感じていた。尤も、アビスの死でそれ以上の生き残った者達の動向は分からなくなって少々落胆したが……。

が、好機が訪れるまでさほど時間は掛からなかった。魔法の国が、クラムベリーとオーディンの最期の試験での生き残りとなった者達の指導役を求めてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件が発覚してから暫くのうちは、告発した者として英雄視されたり、可哀想な被害者として同情されたりしていた。だが、そんな中でも、この2人だけは頑なで、崇めようとする視線も慰めようとする視線も一切払い除けてきた。クラムベリーとオーディンの試験が残虐、残酷な殺し合いだったという犯罪の告発者であり、被害者の名に挙がっていたにも関わらず、他の生き残りとは一線を越えていた。やがて末端の関係者で、2人と拘わろうとする者はいなくなった。結果的に、2人は自身の言動によって魔法の国の中で鼻つまみ者とされたのである。

とはいえ、個人としては拘わりたくなくても、魔法の国としては、そういうわけにはいかない。2人を含め、この試験に生き残った者達全員の処遇は明確にしておく必要があった。それはつまり、『我々魔法の国は、事件の被害者に対してこんなにも誠実なんですよ』とアピールし、他の面々に不満や不安が波及するのを防がなければならない、という事だ。その場しのぎ的なやり方をとるのが、今の魔法の国なのだ、とフレデリカは考えている。

そしてその考えは、後日生き残った者達に、魔法の国の『名誉住人』という異例の高待遇を提示した事で、正しさを物語らせている。誰がどう見ても、あからさまな飴ではないだろうか。

この待遇をもって魔法少女や仮面ライダーを続けるのか、それともそれらに関する記憶を全て消し去り、一般人として元の社会に戻るかを選ばせた結果、驚くべき事に、全員が異能の力を手放す事なく、活動を続けるという選択をした。

ここだけの話、魔法の国としては、できれば辞めて欲しかった筈だ。その方が後腐れも面倒もないし、これ以上魔法の国の地位が揺らぐ事もない。試験の中で見せた彼らの性格ならば、全員とまではいかないにしても、後者を選んでもおかしくない筈だ。それでも、彼らは力を捨てる事はなかった。

そうなると、魔法の国としても、正当な試験を受けていない彼らが名誉住人になるのであれば、誰かが真っ当な魔法少女や仮面ライダーになるように教化する必要が出てきた。言ってみれば、これは花嫁修行のようなものだ。

これを知ったピティ・フレデリカは、すぐに手を挙げた。彼女は比較的まともな試験で選抜された魔法少女だ。居住地は、彼らの担当地域とはさほど離れていない。そこそこ良い立場にいて、割と暇を持て余しているベテランだ。魔法の国の覚えもまずまずで、指導役としての条件は満たしている。立候補さえすれば選ばれるに違いなかった。

そして、彼女は選ばれた。……というよりも、フレデリカ以外に、指導役に立候補する者がいなかった。前述の通り、彼女以外、近づこうとする者がいなかったからだ。この頃になると、フレデリカの興味は2人にしか向かなくなった。幻滅するどころか絶望するような試験をした筈なのに、魔法少女で、仮面ライダーであり続けようとした不思議な子供。アビスの定例報告、彼の死後の独自調査を照らし合わせてみても、何故この2人は、という気しかしない。気になったからこそ、彼女は立候補した。

審査もなく選ばれた彼女は、早速連絡をとった。最初に相手にしたのは、魔法少女『スノーホワイト』。丁寧な挨拶から、『あなたの指導役になりました』とメインの用件を簡潔に伝えて、『時間的な都合で直接会うのは難しい為、電話でのやりとりが主になります』と断りを入れてから、【困った事があったら何でも相談してほしい』という、自分でも心が全くこもっていない、型通りの言葉で締めた。スノーホワイトからは、気のない返事が聞けたぐらいだった。特別、あなたと親しくなりたくはないという感情が、電話越しにヒシヒシと伝わってくる。

 

「何でも良いんです。ちょっとした悩みとか、問題とか。私だって駆け出しの頃はつまらない問題で思い悩み、先輩に相談したらしましたから」

 

フレデリカ自身、親しくなりたいので、もう少し粘ってみたが、それも30秒が限界だった。スノーホワイトとのやり取りを終え、今度は仮面ライダー『九尾』に電話をかけた。彼女と違って、その返事には何かしらの凄みを感じさせる。

 

「遠慮なく相談してくださいよ。仮面ライダーの事だけでなく、学校や家の事だって構いませんよ。全てが上手くいっているわけじゃないでしょう?」

『……』

 

ここまでは、先ほどのスノーホワイトとさして変わらない反応だった。違ったのは、その後の九尾の発言だった。

 

『……一つ、聞かせてくれるか』

「はい。私が答えられる範囲で有れば」

『あんたなら、強くなろうとする時、どうする?』

 

それは、簡潔なようで幾通りも解釈できそうな言葉だった。首を捻り、脛骨を鳴らす。期待した通りの、面白い逸材だ、と率直な感想を浮かべるフレデリカ。

 

「それは、どういう意味の強さでしょうか?心の強さでしょうか?」

『戦ってどちらが強いか、って方だ』

「ここだけの話、魔法少女や仮面ライダーに必要なものは強さではないと思います。優しさや愛らしさ、思いやり、友情、ひたむきさ、そう言ったものが必要になるのではないでしょうか」

『……まるで詭弁だな』

 

それだけ告げると、一方的に電話を切られてしまった。怒らせてしまったのだろうか。いやしかし、冷静に考えてみれば、九尾もスノーホワイトも、クラムベリーとオーディンの試験出身者だ。理想論を並べた所で、彼らが潜り抜けてきた生き地獄が理想郷に変化するわけではない。そこでフレデリカは、相手の非礼を咎めるよりも、もう半歩踏み込もうと、メールを打ち始めた。

 

『どうして強さが必要なのでしょうか?』

『私がやろうとしている事に、強さが必要だからです』

 

と、これはスノーホワイトの返信。彼女もまた、九尾に似て強さを求めている事が伺える。

 

『何をやろうとしているのですか?』

 

ここで返信は途切れた。指導役に話せない事なのだろうか。フレデリカはもう半歩踏み込む事に。

 

『あなたはクラムベリーとオーディンの試験参加者です。注目されています。違反行為は勿論、今はグレーゾーンに足を入れるのもマズいでしょう。暴力沙汰にもなれば、たとえあなたが正しかったとしても皆が口を揃えていう筈です。やはり』

 

……と、ここまで打ってから、文面を全て消して、打ち直す。

 

『あなたはクラムベリーの試験参加者です。他の事ならともかく、戦いに関してあなたに教えたがるモノ好きがいるとは思えません。いるとすれば、クラムベリーやオーディンに同調していた連中でしょうけど、そんな者達は魔法の国からそれなりの処置を受けています』

 

ここまで打ってから送信するフレデリカ。メールを打っただけでこの疲労感。心を休める必要がありそうだ。彼女は側にいた、とある魔法少女の魔法を利用して操っている青年に指示して、部屋の本棚から、バインダーを持ってこさせた。キッチンの椅子に腰掛け、ゆっくりとページをめくる。バインダーの中身は、今まで彼女が見てきてお気に入りと称した者達のプロマイド写真。とりわけ彼女の興味をそそるのは、写真に写る人物の髪だ。美しいそれを眺めるだけで、ストレスを和らげてくれるのだ。

しばしの間、心を休めて程なくすると、端末に着信が入った。テーブルの上にバインダーを投げて、内容を確認する。

 

『それなりの処置を受けたという事ですが、全員捕まったのですか?』

『巧妙に司直の手を潜り抜けた者がいます』

 

途中まで消して、再度打ち直す。

 

『巧妙に司直の手を潜り抜けた者がいるという噂もあります。ですが、私としてはそれがあくまでも噂に過ぎないと信じています』

『信じられるだけの根拠はあるのですか?』

 

案の定、この話題に食いついてきた。彼らが求めんとする事も何となく分かってきた気がする。彼らに興味を抱いた自分の嗅覚に間違いはなかった、とフレデリカは自画自賛する。『根拠はありませんが仲間達を信じたいのです』と空々しい内容のメールを送信後、端末の電源を切って変身を解除。今度は雑誌を手に取った。クラムベリーもオーディンも、常時変身状態だったようだが、フレデリカとしては、真似できない領域だった。家賃や税金をしっかりと支払い、生業は持たずとも、人間としての生活は維持する。娯楽に関しては、魔法少女としてより、人間の感覚を通して味わう方が、より楽しめるような気がする。根拠はないが、フレデリカ自身はそう思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ともあれ指導役となったフレデリカは、彼らに関する詳細な資料を、魔法の国了承のもと、閲覧する事ができた。その資料には、アビスから得た情報以上に、N市での凄惨な試験の内容が事細かく記されていた。

無料を謳い文句にしたソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』と『仮面ライダー育成計画』を餌に、プレイヤーの中から魔法の才能を持つ者を探し、半ば強引に魔法少女や仮面ライダーに仕立て上げる。管理者用端末を住処とし、そこから広大なネットの世界に繋がり、魔法以外のテクノロジーも使いこなす電子妖精タイプのマスコットキャラクター、『ファヴ』や『シロー』と組む事で可能になる選抜法を駆使したものだ。動物の指で不器用に魔法の端末を操作する従来の小動物型マスコットキャラクターには出来ない芸当だ。

 

「(そういえば、あの一件の後、電子妖精タイプよりも旧来の小動物タイプが良い、なんて復権運動が起こってましたっけ)」

 

などとどうでも良い事を思い出しながら、資料を目線を戻す。

才能を見出された候補生は、途中参加した者を含めると、魔法少女、仮面ライダー、共に15名。これに試験官である2人を加えて、総勢32名での椅子取りゲームが開始された。魔力の枯渇という、あからさまなでっち上げを引き金として。

ゲーム内通貨であるマジカルキャンディーの多寡により脱落者を決定するというルールは、キャンディーの奪い合いを認めた事から、明確な殺し合いへと転じた。裏切りや陥れ、殺し合い、加速していく争い。殺伐とした雰囲気の中で、終盤、試験官である2人が殺された事で、試験は中止となり、事実上終了。ファヴが住処としていた端末が破壊された事で異常を察した魔法の国が特使を派遣し、そこで事件の全てが明るみとなった。

全てに目を通したフレデリカは、そこで顔を上げて深く息を吐いた。大変に血生臭い内容ばかりだが、違和感は拭いきれなかった。1つは、スノーホワイトの人物像だ。彼女に限った話ではないが、生き残った者達は、それほど殺伐とした性格を持ち合わせていなかった。手にかけた事があったにせよ、それもせいぜい1人ぐらいだ。中には間接的に関わっただけで、直接手を染めた者がいない程だ。スノーホワイトも、候補生の1人を殺害しているが、あれは不慮の事故と捉えられても仕方ないと思う。どうにも、電話やメールで話した魔法少女の人物像と一致しないのだ。もう一つは九尾が生き残った事だ。資料によれば、オーディンを殺害したのは彼のようだが、オーディンの実力を知っているフレデリカからしてみると、九尾が五体満足で生還したのは何か違和感を感じる。魔法の国が嘘をついているのか、この資料の内容が間違っているのかは定かではないが、彼の実力をこの目で確かめてみたいという欲求が強まったのは確かだ。

スノーホワイトに九尾。この2人が力を求める理由。何が彼らをそうさせたのか。本人と話すだけでは足りない。入念な観察が必要だ。

計画はすぐさま実行された。先ず、人間世界での彼らの現住所を調べ、スノーホワイト……『姫河小雪』が学校に通っている時間を見計らい、彼女の家に侵入した。この種の任務は慣れたもので、髪を手に入れるだけのオーソドックスなやり方なら、造作もない。下の部屋から、掃除機の騒音がBGMのように聞こえて来る。彼女の母親が居間で掃除をしているのだろう。難なく小雪の自室に侵入できたフレデリカは、カーペットの上に落ちていた髪の毛を拾い上げる。キューティクルで匂いも良い。そのまま口の中に収めてしまいたい欲求を堪えて、次の標的の部屋に向かうべく、そっと薄紙に挟んで、彼女の自室を後にする。続いて彼女がやってきたのは、N市でも観光名所の一つとして知られる神社。九尾……『榊原大地』の両親が営んでいる所だ。姫河邸と違って人目を気にしつつ、無事に彼の自室に侵入。目的の品を手に取ると、そそくさと退室した。退室する直前、部屋の机に置かれていた写真に注目するフレデリカ。大地の隣に立つ青年。彼の兄のようだ。世間体では行方不明となっており、彼は今でも兄を探し続けているのだろうか。必死になって探しまくる姿を想像したフレデリカはクスッと笑った。この先、彼を指導していけば、何れは彼も真実に辿り着くだろう。

誰かが言っていた。落とし物は、案外近くに転がっているものだ、みたいな。彼が兄のソレを知った時、どんな顔をするのか。怒るのか、それとも嬉しさが勝るのか。想像に耽っていた彼女だが、本来の目的を忘れるわけにもいかない為、一先ずこの件は保留にして、自室へと屋根を伝いながら戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に戻ると、従者の2人が何もせず、ジッと佇んでいた。相変わらず魔法の効力が効いているようだ。

彼女の手には、子供の頭部大もある大きな水晶玉がある。先程手に入れた髪の毛をそれぞれの手の指に結びつけると、水晶に、その髪の主が映し出された。同時放送は出来ないが、チャンネルの切り替えは可能である。その数は最大10本、つまり指の数まで替えられる。とはいえ今の所は、チャンネルの切り替えは必要なかった。途中、大地が乗り込んだバスで小雪と会合したからだ。この魔法、髪の毛のない、或いは指に巻けない程短い相手には使えないという弱点はあるが、フレデリカはさほど気にしていない。

魔法を発動すると、手の届く距離に2人が映る。実際、手を伸ばせば届くのだ。水晶玉の中に手を差し込み、こちら側に引っ張り出すのが、本来の彼女の魔法の使い方だ。今はそんな事をしては全てぶち壊しになる為、やらない。シルバーブロンドに手を伸ばしたくなる欲求を抑え、観察に徹する。

事前のリサーチによれば、2人は制服のデザインの違いから見て分かる通り、別々の学校に通っている。小雪の親友らしき2人組と交えて、会話もしている。尤も盛り上がっているのは女子達だけで、大地は適当に相槌を打っているように見える。やがて小雪がバスを降りて、その数分後に大地が降り、それぞれ学校に向かって歩いていく。ここから暫くはチャンネルの切り替えをする必要がありそうだ。

榊原大地の客観的な印象として、あまり友達は多くなさそうな雰囲気だった。フレデリカがそう思っていると、彼に声をかける人物がいた。大地も軽く手を振って挨拶をする。同級生の少年のようだ。その顔に見覚えがあった。あの事件の候補生のプロフィールの中に、同級生と同じ容姿の写真があった筈だ。フレデリカは早速資料を開いてみる。予想通りだった。この少年もまた、試験の生き残りだった。名は『岸辺颯太』。その正体は、魔法少女改め、魔法騎士『ラ・ピュセル』。魔法の国でも極めてレアキャラとも言える、異性が変身した魔法少女だ。かなりの魔法少女愛好家で、表向きはサッカー好きな少年を装い、暇があれば誰にも見つからずに魔法少女関連の書籍等に手を出してきたらしい。中々に面白い少年だ。そういえばクラムベリーを殺したのも彼だったと報告に挙がっている。それ相応の実力はありそうだ。機会があれば彼の指導をしてみても良いかもしれない。そんなこんなで観察を続けるフレデリカ。クラスは違うようで、少し会話した後、それぞれの教室に入っていく。

その後はチャンネルを切り替えながらも、特に目立った動きはなかった。こうしてみると、小雪も大地も、どこにでもいそうな中学生、という印象が強い。放課後になり、大地は図書室で暇を持て余していると、部活終わりの颯太がやってきて、そのまま学校を出ると、丁度校門前で待っていた小雪と合流し、並んで歩き始めた。学校が違うとはいえ、普段からこうして帰っているのかと思うと、微笑ましい。ところがしばらくして進むと、通りかかった公園の前で立ち止まる3人。誰かと待ち合わせをしているようだ。様子を観察していると、1人の少女が駆け寄って来るのが見えた。小雪と同じくらいの背丈の少女はペコペコと頭を下げており、他の3人は手のひらを見せて落ち着かせている。再度資料を目をやるフレデリカ。今やってきた少女は『ハードゴア・アリス』の変身者、『鳩田亜子』。数年前、家庭内環境の悪化もあって、母親を殺した父親が刑務所に入れられて以降、親戚に引き取られた、ある意味不幸な魔法少女だ。試験には途中参加となり、生き残った猛者だ。何よりも注目すべきはその魔法だった。魔法少女でいる間は無敵なので、魔法の国が注目するのも無理はない。そうして合流した4人が向かった先は、N市の一角にある、産婦人科だった。何故この場所に訪れたのか、首を傾げるフレデリカだったが、その理由はすぐに判明した。受付を済ませた所で、1人の青年が彼らを見かけて、声をかけてきた。スラッとしたスタイルの青年だ。名前は『手塚海森』。仮面ライダー『ライア』として試験で生き残った1人だ。彼の本業は占い師。彼の占いは恐ろしい程当たると評判で、今回の試験でも大きな影響を受けていたに違いない。何でも、今は亡き親友のデータを引き継ぐ事で仮面ライダーに選ばれたらしい。魔法の国にも、占いに精通している者はいるが、ライア程の手練れは、自分調べではいない筈だ。普段は街角で占いをしているようだが、今日はもう店仕舞いのようだ。

そんな彼の案内で訪れた病室の扉を開けると、パイプ椅子に座る青年と、ベッドの上で上半身を起こしている女性の姿が。2人の間にあった小さなベッドには、産まれて間もない赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てている。少年達はなるべく音を立てないように、挨拶もそこそこに、赤ん坊の頭を順番に撫でていた。病室にいた2人もまた、試験の生き残りだった。男性の方は、仮面ライダー『龍騎』の変身者、『城戸正史』。市内のOREジャーナルという会社で新聞記者として働いている青年だ。16人いた仮面ライダーの中では新参で、とにかく正義感の強い、おバカな印象の強い男、というのが資料に目を通したフレデリカの第一印象だった。水晶玉で確認してみても、概ねその見解は間違っていないようだ。隣で、赤ん坊の小さな手を握りながら口を開いているのは、赤ん坊の母親で、『室田つばめ』。魔法少女『トップスピード』の変身者だ。魔法少女になった当初は妊婦だったらしく、魔法少女姿になれば、お腹の事を気にせずに自由に何でもやれると思ったのか、常にラピッドスワローを片手に、最速記録を作ろうとしていたようだ。そんな彼女も、戦いに一区切りついた事で、本格的に準備を始め、数日前に、ようやく新たな命を産み落とす事に成功したようだ。名前は、まだつけられていないようだ。当初は正史との間に産まれた子供なのかと思ったが、調べてみると、つばめの夫は既に他界しており、試験の中で知り合った龍騎と仲を深め、今に至っているようだ。何がともあれ一つの幸せが叶ったのは事実だ。水晶玉越しに、小さく手を鳴らして出生を祝うフレデリカであった。

そうして30分ほど会話した後、病室を出た4人の少年少女が向かった先は、小さな喫茶店だった。『ATORI』という名前の看板の横を通り、店内に入ると、店主と思しきお婆ちゃんの他に、2人の店員と顔を合わせた。知り合いのようだ。フレデリカはすぐに資料に目を向けた。男性の方は仮面ライダー『ナイト』の変身者、『秋山蓮二』。少女の方は魔法少女『リップル』の変身者、『細波華乃』。どちらも似たような境遇の中で生まれ育ち、力を手に入れて、猛者との死闘を経て生き残った者達だ。2人は同じバイト仲間で、よく一緒のシフトになるらしい。恐らく店主の計らいだろう。温かい飲み物を注文して、他の客がいないのを良い事に、店員の少女と会話を交えていた。とはいえ店員の方は、他者と話すのが苦手らしく、その言動はぎこちない。何というか、そこが可愛い。

そんなこんなで気がつくと、夕陽も沈みかけていた事に気づいたのか、店を出た4人は解散し、家路についた。恐らく、いや確実に、また後で合流するような雰囲気だ。フレデリカの予想は正しかった。夜になると、2人は自室に入ってすぐに変身し、家を出て活動を始めた。彼らの活動内容は魔法の国で推奨されているものと寸分変わらなかった。東から西へと忙しなく動き、困っている人を的確に探して行動している。恐らくは、スノーホワイトの魔法を基にして動いていると見受けられる。目の前の相手に使う魔法だと思っていたが、思った以上に効果範囲が広い。読心系の魔法は魔法の国でも認知されているが、ここまで広範囲をカバーできる者は、先ずいない。それに加えて、今回はなかったが、鏡の中に潜むモンスターと戦える力を持っているのだから、この先の成長が恐ろしくも楽しみだ。

一通り仕事をこなしたスノーホワイトと九尾は、市内のとある児童公園に降り立った。同胞達と待ち合わせをしているようだ。30分後、待ち合わせ相手が姿を見せ始めた。言わずと知れた、龍騎達だ。ふとここで、リップルに目線を向けてみた。忍者を基調とした黒いコスチュームに、横へ流した長い黒髪が美しい彼女だが、何よりも特徴的なのが、顔面左側に鈍く重い刃物で抉られたような深く大きな傷跡が走り、左目を潰している点だ。報告によれば、魔法の国は彼女の左目を治療する事を提案したそうだが、自らの申し出で、治療を断ったとの事。それは、この試験を絶対に忘れないよう、そして他の魔法少女や仮面ライダーがこの姿を見れば否が応でも思い出すよう、自らを戒めているのか、それとも他に理由があるのか。真意は定かではないが、試験後も隻眼の魔法少女として活躍しているようだ。

単なる報告だけで終わるのかと思っていたフレデリカだったが、少し開けた場所に移動したかと思うと、スノーホワイトはライアと、九尾は龍騎と拳を交え始めたではないか。どうやら模擬戦のようだ。あれもまた、あの2人が強くなる事に固執している表れだろう。

彼らが更なる高みへ昇ろうとしているのは明白だ。その為には、やはり教導役は欠かせない。彼らをより強くする事ができる人材に、心当たりはない。身近にいる龍騎達では限度があるし、彼らが2人を本当の強さに導けるとは到底思えない。適任役がいるとすれば、それは真っ当な魔法少女である自分以外、他にいない。フレデリカの評価としては、この2人、魔法のセンスや適応力はこの上なく素晴らしいが、傲慢さが圧倒的に足りない。自分のやりたい事なら、何だろうと踏みつけて、悪びれない太々しさが足りない。自分のしたい事の為に全てを踏みつけてきた頂点に、クラムベリーとオーディンの名が挙がる。2人にとっては不本意だろうが、今の2人が目指すべき存在だ。

あれこれ思考を巡らせた後、いつの間にか模擬戦を終えて解散する姿が確認された。水晶玉の映像をオフにして変身を解くと、コーヒーミルを取り出し、じっくりとコーヒーを挽く。従者にやらせても良いのだが、自分が飲むコーヒーは自分で淹れたいものだ。しゅんしゅんと鳴るヤカンの音を聞きながら、2人について思案する。

異能の力を手にした自分が更に強くなるにはどうすれば良いのか、と考えてきた先人は数多いた。クラムベリー等が遺した資料を紐解いてきたフレデリカは考察する。個人の魔法の力や身体能力、戦闘技術。その何れも、誕生した時から大きな差が生じていると考えている輩が多いようだが、フレデリカは違う。どうしようもない差があるのだと『思っている』事が問題なのだと考えている。人間なら強くなるには、徹底した現実主義が必要となる。一方で自分達は魔法少女や仮面ライダーである以上、完璧なスケジュールに基づいたトレーニングなんて必要ない。必要なのは、志の高さ、目的意識、愛、愚かな行為に疑問を持たずに最後までやり抜く強い意志。つまり、『愚直さ』を伸ばす事に意味がある。魔法少女や仮面ライダーは、一人ひとりが主人公だ。それを忘れずに、側からみれば愚かでしかない行為に汗や涙を費やし、強さの向こうにある目的を目指し続ければ、地平は開ける。フレデリカ自身は面倒だしかったるいと思っている為、試そうなどとしないが、他者がやるなら別だ。あの2人も強くなりたいのなら不満もないだろう。

あの試験の影響を受けて、とりわけ2人は変わった。同胞達が殺し殺され、その中には2人の恩師も含まれていた。他の面々もそうだ。己の無力さを噛み締めた筈だ。全能感に満ち、異能の力に酔っているよりは、無力だと知っている方が良い。高みを目指すには、先ずは自分が低い位置にいるという自覚を持つべきだ。

結論が出た以上、あと少しだけ背を押せば、自分が求める魔法少女、仮面ライダーになる、かもしれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒頭でも述べたが、フレデリカには、スカウト兼試験官として活動してきた経験がある。彼女なりの『良い人材』を見つけた事は数える程しかいないが、それでも魔法の国から活動費をもらって口に糊している数少ない職業魔法少女だ。自負があり、人材を探す時のコツも掴んでいる。ただし、魔法の国が推奨しているものとは程遠い、独自の条件を設定して。

その条件というものの第一候補が、低い位置から上を見ている事だ。その条件さえ有れば、年齢は気にしない。幼稚園児だろうが、小学生だろうが。もっといえば、集団からはみ出しているものも含まれる。鬱屈し、鬱積し、内に篭ったエネルギーを外に出したくても出せず、そうした現状を打破するべく、力が、手段が欲しい。その為ならどんな代償を払っても良い。そうやって一方向に向けられた意志は強く輝き、高みへと導いてくれる。歪み、淀んでいれば尚更だ。それでも、フレデリカが求めている最高の人材には程遠い者ばかりだった。結局のところ、魔法を手にした事で、そこで満足してしまい、そこから先に進もうとしない者がほとんどだからだ。対象を大人にまで広げようとも考えたが、それにしても良い線までいって、決め手に欠ける者ばかりだった。そういう点では、やはり子供の方が適性を持つ率は高い。

そこに来て、スノーホワイトと九尾の存在を知った事は、フレデリカにとって大きかった。彼らは試験に参加し、大きな影響を受け、力を欲している。強さを得た先の目的までは分からずじまいだが、その欲求に終わりはない筈だ。少年漫画の如く、相手が誰であろうと絶対に負けない無敵の存在になるべく、自分自身を強化していく。強力な意志の元、それを実行する。漠然とした強さへの憧憬ではなく、彼らは選んだ側として、際限のない力を求め続ける。クラムベリーやオーディン、そして同じ試験の候補生がそうだったように、死ぬまで求め続ける筈だ。

とはいえ、直接会えないと先方に伝えてしまっている以上、今更それを直に伝えるのは難しいだろうし、ここで自分から強引に入り込んでしまっては、不審に思われる。この一世一代のチャンスを逃したくない。そこで彼女は、仲介役を作る事に決めた。それも、2人と親しい間柄がベストだ。

その人物もまた、スノーホワイト達と同様に人助けに従事しており、さすがにスノーホワイトのような魔法がない為、決まった順路に従ってパトロールをこなしていた。予め、彼が住んでいるアパートに忍び込んで入手した髪を使って動向を確認する。一通り仕事を済ませたところで小休止するべく、人気のないデパートの屋上に降り立って背伸びをし始めた所を見計らい、フレデリカは声をかけた。

 

「こんばんは、龍騎さん」

「オワッ⁉︎」

 

振り返ると同時に小さく飛び上がってズッコけた姿を見て、フレデリカは笑いを禁じ得なかった。これでクラムベリーやオーディンの末子と呼ばれるわけなのだから、世の中面白おかしい。素質は高いようだが、決して強者という風情は見受けられない。それでも試験を勝ち抜いた1人なのだから、見かけによらないものがあるのだろう。一先ず両掌を相手に向けて微笑む事で、こちらに敵意も害意もない事を示す。もう少し賢い者なら武器を持つ手を緩めないだろうが、目の前の仮面ライダーはあっさり受け入れて立ち上がり、転げた事で頭に手を当てて恥ずかしそうに体を動かす。チョロいと片隅で思いつつも、先ずは名刺を手渡すフレデリカ。管理者端末を持つような立場の魔法少女は、名刺の一枚も持っていると何かと動きやすいのだ。

 

「ど、どうも……。ピティ・フレデリカ……、試験官⁉︎」

「ご存知かどうかは分かりませんが、現在はスノーホワイトと九尾の指導役をしています」

「えっ、あの2人の?」

 

龍騎の反応を見るに、どうやら仲間には打ち明かしていないようだ。それならば好都合、とフレデリカは更に踏み込む。

 

「実は2人から相談を受けてまして」

「相談?」

「強くなるにはどうすれば良いのか、というものです。2人が強くなろうとしている理由はご存知ですか?」

「!それは、その……」

 

龍騎は躊躇う。あの事件の事を話題にして良いのか、悩んでいる様子だ。

 

「あなたもそうですが、スノーホワイトも九尾も、クラムベリーとオーディンが執り行った最期の試験の参加者です。故に周囲の目は厳しい。単に強くなろうとしているだけならともかく、あなた方にも知られたくないような、何らかの目的があるなら、あまり推奨できません」

「そ、それは……」

「言っておきますが、現段階で魔法の国に報告しようというつもりはありません。するつもりなら、こうしてあなたの前に姿を現す事もないでしょうし」

 

軽く笑って見せて、相手の警戒心を少しでも削ごうとする。昔からの癖だ。

 

「ただ、強さを求めている事が魔法の国に知られ、私がそれについて十分な説明が出来なければ、私は任を解かれてしまうでしょう。そうなると次に任を与えられる者がどんな人になるのか分かりません。場合によっては、クラムベリーやオーディンのような思想の持ち主が指導役に選ばれる事も……」

「そ、そんな……!」

 

龍騎の動揺ぶりは、仮面に覆われていても、手に取るよりも分かってしまう。良い感じに振り回せているようだ。

 

「龍騎さん、あなたの腕を見込んでお願いします。あの2人の真意を問いただしてもらえませんか?私も聞いてみたのですが、はぐらかされてるばかりで、進展していません。その答えが『正しい』ものであれば、私も惜しみなく協力します。今の2人には、あなたの手助けが必要なんです」

「……わ、分かりました。俺で良ければ協力します!あ、でもその前に一つ……」

「?何でしょうか?」

「何で、あんたは……、そこまでして2人の事、気にかけるんだ?だって、会った事もない相手なんだろ?何でそこまで……」

「……心配、してるんですよ」

「心配?」

「えぇ。このままだと、2人とも無茶な真似をしでかすんじゃないかと。強くなりたいという思いを募らせるがあまり、自分の力量も把握できないまま、危険な行為を繰り返すのではないかと。実際、私が制止しても、聞く耳を持たないでしょう。龍騎、あなたならどうですか?もしあの2人が無茶をするなら、止められますか?」

 

その答えを、フレデリカは知っている。どんな言葉で弄そうと2人を止める事はできない。龍騎も何となくそれを感じている筈だ。

 

「要は、まずい事になる前に何とかしたい。それだけなのです」

 

そうしてアピールした事が功を奏したのか、龍騎はあっさりと答えた。

 

「……分かった。少しでも無茶しないように、話をしてみる!」

「頼もしい限りです。では、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『龍騎を唆したな』

 

翌日、九尾に連絡を入れると、開口一番、ドスの効いた声が耳に入ってきた。こちらもこちらで実に好ましい。

 

「あなたの指導役として交友関係も把握しておきたかったので。良い仲間をお持ちのようで安心しました」

『余計な事をするんじゃねぇよ』

 

声のトーンが若干大きくなった。こちらも高くならないように注意して口を開く。ここで挑発に乗ったらそれこそパーだ。

 

「余計な事ではありません。あなたもスノーホワイトも、側から見てそれくらい気をつけてないと、と思わされるくらいに危なっかしいですよ。……それに、あなた方がどうして強くなりたいのか、結局教えてもらっていませんから」

『教えるだけの信用が足りてない。それだけだ』

 

そう呟く九尾のトーンが僅かに下がったようだ。ここは畳み掛けるようにぶつかるのが最善だ。

 

「教えてもらえれば協力できるんですよ。あなた方が何をしたいのか、それが反社会的な事だったり、魔法の国の意向に反する事だったりしても、私は他所に漏らしたりはしません。魔法少女としての自分自身に誓いましょう」

 

魔法少女である自分にそれだけの価値があるかは定かではないが、2人がどう思ってくれるかまでは、知るところではない。

 

「強くなりたいという考えは今も変わらないでしょう。自分を犠牲にしてでも強くなろうとしているようですが、逆に自分以外ならどうですか?お友達や家族。親しい人達を犠牲にしても、それでもあなたは強くなりたいですか?……失礼、犠牲という言葉は好ましくないですね。……そう、『利用』です。利用してしまえば良いんですよ。あなたは何から何まで全部1人でやってのけようとしているようですが、それでは本当の強さにはたどり着けないと考えています」

 

相手は無言を貫いている。だが聞いてはいる。水晶玉に映さずとも、明白だ。

 

「練習相手がいなければ、龍騎達に更なる徹底した指導を要求すれば良い。私自身、クラムベリーなんかと比べたら、戦う事が得手とは言い難いです。でもこれまで幾人もの魔法少女や仮面ライダーを育ててきた実績があります。その点はクラムベリーにも負けないという自負があります。強くなる為に利用する相手としては、私がこの上なく適役だと思いませんか?」

 

ここで一呼吸挟んで、そして告げる。

 

「私を利用しなさい。その為に先ず意志を示し、何故強くなりたいのか。それさえ知れれば、私は適切な助言を入れる事ができます」

『……フン』

 

鼻息は荒いが、声の調子は落ち着いているようだ。極めて良い傾向だ。

 

『……なら、一つ聞きたい』

「何ですか?」

『あんたが俺達に利用されるメリットは何だ』

「指導役なんてそんなものですよ。人間世界の学校だって同じ事です。生徒は先生を利用して社会に出る。あなた方が私を利用して、目指すべき理想に近づけるのなら、私にとってそれほど嬉しい事はない。利用されるだけの覚悟を持って、この仕事をしているのですから」

 

再び沈黙が訪れたが、程なくして、相手が口を開いた。

 

『……明日』

「?」

『スノーホワイトと話し合って、そこで決める』

「そうですか。良い返事をお待ちしてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束通り、九尾はスノーホワイトと話し合った。フレデリカの魔法では音まで拾う事は出来ない為、会話の内容までは把握できなかったが、それなりに真剣なやり取りをしている。

龍騎の方も、それなりに熱を入れて組み手に付き合うようになった印象がある。全てが計画通りだった。

そして……。

 

『私のやりたい事は、みんなを幸せにする魔法少女になる事、です』

 

翌日、向こうから扉を開けてくれた。スノーホワイトが語ったのは、己が強くなろうとする目的。そしてその目標を叶える為に、九尾も最後まで自分についていくと宣言した事をはっきり伝えた後、フレデリカを指導役として認める旨を示した。思わず頬が緩んでしまう。

スノーホワイトのそれは、フレデリカの予想範囲内で、一切の驚きは感じなかったりが、一応は驚いたフリをする。彼女らしい理想だ。やれるかやれないかで言えば、やれるだろうと思う。スノーホワイトや九尾という要注意人物達でさえ、魔法の国の監視体制はゆるゆるだ。悪く言えば、いい加減な放任主義だ。こういう部分は未来永劫変わらないと思っている。『クラムベリーとオーディンの子供達』が表舞台に出れば色眼鏡で見られるだろうが、指導役兼監視役という名目で付いているフレデリカが協力してしまえば、幾らでもその肩書きは握りつぶせる。

決まりだ。スノーホワイトを、九尾を、最強の魔法少女、仮面ライダーに育成する。フレデリカ自身が掲げる、理想の存在に近づく事も可能になる。旧弊を改め、カビが生えた魔法の国を変革できるかもしれない。久しく見ない才能を感じた。アビスの目も間違ってはいなかったようだ。指導役として腕が鳴るものだ。当局に行為を知られても容易に手出しできなくなるくらい大きな存在になれたらベストだ。魔法の国の放任主義を糾弾し、異名を奉られて悪党から恐れられ、逆に魔法の国からは悪党退治の象徴として利用されるくらいが良い。

異名については今後考えるとして、先ずは相手に返事を出す事から始めよう。

 

「……理解しました。私はあなた方の理想に協力します」

『ありがとうございます』

「いえいえ。気にしないでください。前に九尾にもお伝えしましたが、私を存分に利用してくれれば良いんですよ。指導役にとってそれが本望なんですから」

 

水晶玉でスノーホワイトを確認すると、申し訳なさそうな顔の向こうに、海が見えた。漁船の光が水平線近くで輝いている所を見るに、海に近い鉄塔の上で電話しているようだ。九尾は元より、他に誰もいない。

 

「では、コツを教えます。覚えておいてください。先ず一つ目に、なるだけ魔法少女でいる時間を長くしてください。人間としての活動時間を最低限にして、1人でいる時は基本的に魔法少女でいる事です」

 

人間と、魔法少女や仮面ライダーでは、時間感覚が違う。何かを学習しようとするなら、魔法少女や仮面ライダーでいた方が都合が良い。フレデリカのような場合を除けば、基本的にはそれが1番だ。

 

「人間の生活はあくまで見せかけのものであり、自分の本分は魔法少女にあると信じてください。思うだけでは足りません。信じるのです。その上で、魔法少女でいる間も、人間でいる間も、頭の中で戦いのシュミレーションを繰り返す事が大切です。単に思うだけでなく、殺し、殺される渦中にいると念じてください。願うだけでなく、信じる事です」

 

全く経験のない者には不可能だが、彼女も九尾も、少なからず戦う術を得ている。後はそれをスキルアップしていくようなものだ。至難である事に変わりはないが、不可能ではない。その一大要素として挙げられるのが、『想像力』だ。プロフィールによれば、スノーホワイトには『妄想癖がある』と記されている。妄想も想像も同じようなものだ。思い考え祈り信じる事が、『決して折れる事のない、太くてしなやかな魔法少女としての背骨』を形作る。プリミティブだが、スノーホワイトにはしっくりくる育成方法だ。無論仮面ライダーとて例外ではない。

 

「とにかく、飽きない事、疑わない事、真剣である事。この3つが重要です。私達は、世間一般の基準でいえば、存在そのものが馬鹿げています。だからこそ真剣にやるんです」

 

その確固たる例がクラムベリーやオーディンだ。フレデリカはそう考えている。

 

「人間社会での生活は添え物です。あなた方は受験生かもしれませんが、まともに受験勉強をする事もない。正々堂々と不正をして合格するか、勉強しなくても合格できる高校を受験するか、中学卒業を最終学歴にするか、何れかを選んでください。九尾にもそう伝えておいてくださいね」

 

無茶を通そうとすれば、意外と通るものだ。強くなる為の術をスノーホワイトに語り、彼女は内容への疑問を口にする事なく、最後までもれなくメモに書き残しているのを確認する。直接戦闘訓練を見てやれない事を詫びると、龍騎達が相手をしてくれている事を話してくれた。既に周知済みだが、敢えて黙っておく事に。その時の姿勢には可愛らしいものを感じさせた。案外、こういった部分が生き残る要因だったりするのかもしれない。魔法少女ならぬ魔性の女、といった所か。

ともあれ、ようやく第一段階をクリアした事を自覚し、ホッと一息つくフレデリカ。変身を解き、端末をテーブルの上に置いた後、キッチンを出て和室の引き戸に手をかける。和室の中では、空気を入れ替える為のファンが回転を続けている。引き戸を開いて足を踏み入れると、畳が僅かに沈む。去年辺りは漂っていた青畳の爽やかな香りも、ファンを回し続けていたからか、すぐに無くなった。この部屋は、左右を壁の代わりにスチール製の無骨な本棚が埋め尽くしており、ぎっしり並んでいたファイルの中の一冊を手に取って開く。そこには薄紙に挟まれた一本の髪の毛がある。暗い金髪で軽くウェーブがかかっている。コレクションの中でもお気に入りのやつだ。一本の髪を見ているだけで、色々な思い出が甦ってくる。だが、それだけに、いつまでも未練がましく持っていては、前に進めないような気がする。今のフレデリカには、スノーホワイトと九尾という、新たな対象ができたのなら尚更だ。

決断は早かった。その髪の毛を抜き取ると、キッチンのゴミ箱に捨てた。昨日、従者の少女が調理していたアボカドの皮の上に落とされた髪は、少し悲しそうに見えた。

恥ずかしい反面、新たに君臨するであろう、史上最強、絶対無敵の魔法少女、仮面ライダーの誕生を夢見るピティ・フレデリカなのであった。

 

 

 

 




久々の長文で疲れました(笑)。

思い返せば、まほいくが放送されてから間もなく5年目を迎えようとしていますね。このままラストスパートまで駆け抜けて行きたいと思いますので、最後までお付き合いください!

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