魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

気がつけば、今年も残り1ヶ月弱……。
何としてでも年内の完結を目指さなければ……!




136.培ってきた繋がり

「呼び戻す……だと?」

 

蓮二の呟きは、その場にいた8人の心情を代弁するものであった。

突如として彼らの前に姿を現した魔法少女。彼女はこう言った。

まだ終わりではない。九尾を呼び戻す。つまりそれは……。

 

「大地は……、まだ、生きてるのか⁉︎」

 

つばめは藁にもすがるような勢いで、前のめり気味に声を張り上げた。意気消沈していた彼女にとって、その一言は鶴の一声にも等しいものだった筈だ。だが、華乃は冷静に彼女を止めた。

 

「待って。無条件に信じすぎだ。何を根拠に、そんな事が言える?」

「確かに、彼女の言う通りだ。素性が分からない相手に、過度な信用は危険だ。先ずは、君の事を明かしてもらいたい」

 

手塚の言葉を聞いて、魔法少女は無言で頷く。

 

「……私は、『ユイ』と言います。見ての通り、魔法少女であり、代々、魔法の国の繁栄に尽くしてきた一族の1人です」

「!つまり、ファヴやシローと同じ国の出身……!」

 

華乃が気力を振り絞ってマジカルフォンに手をかけようとするが、それを遮るように、彼女は会話を続けた。

 

「私がここに来た目的はただ一つ。兄の愚行を止める事、それが最初の目的でした」

「グコウ……?それに、お兄さんって……」

「この試験の管理者を担っていた仮面ライダーオーディンは、私の、実の兄にあたります」

 

ほぼ同時に、こちらに視線を向けていた者達の目が見開かれるのを、オーディンの妹は確認する。

 

「どういった経緯でこの試験を知ったかなど、詳細は後ほどお話しいたします。何にせよ、兄を止める事は出来なかった。これは、せめてもの、一族を代表しての償いです。兄を、憎しみの呪縛から解き放ってくれた彼の息を吹き返す為には、あなた方の力が必要なのです」

「どういう、事なの」

 

震える声でそう尋ねるスノーホワイト。ユイは目線を、倒れている少年に向けた。

 

「私には、その人が持つ魔力を敏感に感じ取る素質があります。彼の中には、ほんの僅かですが、魔力の残滓があります。つまり、彼はまだ死を迎えているわけではないという事です」

「!マジか!」

「とはいえ時間がないのもまた事実です。彼の中の魔力は枯渇しかけている。このままでは数分も経たないうちに、魔力は底を尽き、本当に助からなくなる。そうなる前に、魔力を供給し、生命線を繋ぎ止める必要があります」

「どうすれば……!どうすれば、大地は助かるんだ!」

 

ここまで確信めいたような事を言われては、ラ・ピュセルも必死にならざるを得ないだろう。ユイが頷くと、足を動かして、すぐそばにあった公園に踏み入れると、何か呪文のようなものを唱え、懐から古びた本を取り出すと、地面に置いて、右手を表紙にかざす。再び詠唱すると、右手を離して数歩退がると同時に、本を中心に水が沸き始めたではないか。

一連の流れに呆然とする一同の目の前で、あっという間に、人1人が入れそうな池が形成された。亜子が尋ねるよりも先に、ユイが説明を始めた。

 

「これは『生命の泉』と呼ばれる、私達一族が代々守ってきた、魔法で出来た泉です。この水に含まれる魔力は特別で、この泉を巡っては、血が流れるほどに大規模な争いが起きたと言われているほど、その効力は確かなものがあります」

 

ですが……、と、ここでユイの歯切れが悪くなる。

 

「長年、有事の際に使われ続けてきた事もあり、この泉の純度は低くなっています。怪我を治す程度なら問題ありませんが、瀕死の者の魔力を完全に回復させるには、魔力が圧倒的に足りない」

「じゃあ、どうすれば良いんだよ⁉︎」

「足りないものを補う為に必要なもの。それが、あなた方が所持している魔力なのです」

「所持?」

「今回の試験では、人助けの度合いを数値化する為に、『マジカルキャンディー』が普及していましたよね?あれには魔力が含まれています。その魔力を全て泉に注ぎ込む事で、助かる確率が飛躍的に上がります。ただ、それだけではまだ足りません。彼を助ける為のアイテムは、もう一つあります」

「な、何が必要なんだ?」

「『兎の足』」

 

ユイの説明を受けて、ハッとなるスノーホワイトと亜子。

懐に手を入れたスノーホワイトが取り出したのは、白い毛の塊のアイテム。激レアアイテムと称して、寿命6年という対価と引き換えに、アリスが手に入れたものであり、直後にスノーホワイトの手に渡ったもの。

そこまで説明を受ければ、手塚もようやくユイの真意を理解できた。

 

「!そうか、兎の足は窮地に陥った際に、一定の確率で効力を発揮するアイテムだった筈……!」

「はい。このアイテムは魔法の国でも出回っていて、確実性がない事から、常に所持している者は少ないのも事実です。が、事今回においては、このアイテムの存在が大きな鍵となります。彼の息を吹き返すファクターとして、兎の足に魔力を注ぎ込みます。これでこのアイテムが効力を発揮する確率を上げます」

「け、けどどうやって、このアイテムに魔力を入れるんだ?」

「それは私の魔法が有れば造作もありません。マジカルキャンディーに培われている魔力を、兎の足の魔力に変換する。言うなれば私の魔法は、無機物を有機物に、水から火に変えるような事を可能にするものなのです」

 

理屈はよく分からなかったが、大地を助けてくれる事に必死になっている。そう感じとった一同は、僅かな望みに賭けてみる事に。スノーホワイトから兎の足を受け取ったユイは、皆にマジカルフォンを手にとってもらうように指示する。各々の端末には、ここまでの戦いで敵味方問わず、生き残る為に手に入れてきたマジカルキャンディーが大量に蓄積されている。

そのマジカルキャンディーを、一旦彼女が持っていた魔法の国特製の端末に注ぎ込むと、彼女が魔法を行使して、大量の魔力を兎の足に注ぎ込んだ。兎の足から、段々と輝きが発せられている。

 

「後は、彼がこの魔力に反応して、適合できるかどうかにかかっています」

 

そう呟いたユイは、大地の体を抱き上げて、兎の足を彼の右手に握らせると、生命の泉の中に、その体を入れた。下ろし終えた彼の体は、自然な流れで泉の底に沈んでいく。一同は本当に大丈夫なのか、と不安が募る中、スノーホワイトはただ1人、彼の声がもう一度聞けるようになりたい、と刹那に願うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水の流れる音が、頭の中に響いてくる。

体は、動かない。ただ、潮流に身を任せながら、底知れぬ所へと、沈んでいくのが分かる。

これが『死』なのだろうか。それとも、まだ自分はその瀬戸際に立たされて、これからその地へ向かおうとしているのか。

考えたくもなかった。考えられなくなる。考えた所で、今の自分に、何ができる……?

もう、楽になりたい。自分が背負ってきたもの全てを、投げ出して、もしも、もう一度人間に生まれ変われるのなら、その時は……。

 

『どうした』

 

……?

何だ。誰かが、背中に、手を当てて……。

 

『まさか、もう全てを終わらせた気では……、諦めたわけではないだろうな。あの程度で、心が折れる奴ではない筈だ。仮にもお前は、この私が認めた、最強の仮面ライダーなのだからな』

 

その声……。ついさっき、聞いた事がある、ような……。

 

『大地君。確かに君は、本当によく頑張ってくれました。死に絶えた私達の事を、その想いを力に変えて、繋げてくれた。……ですが、あなたはまだこちらに来るべきではありません』

 

……あぁ、その声。懐かしい。その手の感覚、小学生の時に撫でてくれたものだ。

 

『思い出してみてください。あなたは、私や、私の教え子達を再び繋げてくれただけではありません。頑なだった者達の心を、否、多くの者の心を、あなたは紡いでくれた筈です』

 

俺が、紡いだもの……。

 

『敵対していた者、この世界の理不尽さに嘆いていた者、幸せを望んでいた者、頂点を目指していた者、憎しみを抱いていた者、愛する人を守ろうとした者……。魔法少女や仮面ライダーという枠組みを越えて、あなたは、その覚悟を背負い、戦ってきた』

『そして愛を知り、守るべき者が出来た。それは素晴らしい事だ』

『だったら、あなたにはまだ、やるべき事が残っている筈よ』

『大丈夫です。いつだって、私達はあなたの力になってあげますよ。そして、あなたならきっと、私と雫が成し遂げられなかった境地に、たどり着く事が出来ますよ』

 

また3つの手が、俺の背中に……。

俺に……、こんな俺にも、まだ、あいつを、愛する事が、出来るのか……。

 

『ん〜。多分大丈夫だよ〜』

『そうだ。お前の背には、多くの意志が集まっている。そして、俺や正史と同じ過ちを犯さない為にも、お前はあの女の愛を理解する義務がある』

『あなたはかつて、私のしてきた事を偽りの正義と称しました。ならば、本当の正義を貫いてもらい、見せてもらう必要がありますね』

 

?何だ……?背中越しに沢山の手が……。

 

『力が足りないってんなら、俺も手を貸すぜ!俺は幸せになれなかったけど、代わりにお前がなってくれよ!』

『君なら、真の英雄にも、なれるかもしれないね……』

『そーそー。ここまで生き残れたんだったら、それなりに頑張ってもらわないとねー』

『お姉ちゃんマジクール。でもま、とりあえずガンバ!』

 

お前ら……。

 

『ハンッ、こんな所で休んでもらうようじゃ、無様にも程があるってもんだ。生き残ったんなら、それなりの責任ってやつをとってもらわねぇとな」

『この私を差し置いて生き残ったのだからな。精々生き恥を晒し、カッコ悪く足掻いてみせなさい!』

 

相変わらず嫌味しか言わねぇペアだな。言われなくたって……!

 

『人生って、ゲームみたいなものなんだしさ。これからもっと面白くなりそうだから、もうちょっと頑張ってみたら?』

『あ、あの……!きっと、あなたなら、大丈夫だと思う……!こんな弱い私の力を使ってくれて、嬉しかったから……!だから、頑張って!』

『……私は、ルーラになれなかった。だから、あなたに、なってほしい。リーダーとして、みんなをまとめてくれる人に』

『あの方があそこまで着目した理由。今なら分かる気がする。これから先、どこまで成長するのか、地獄の果てで見させてもらおう』

 

どんどん、俺を支える手が増えていく……。

 

『ま、とりあえず足掻けるだけ足掻いてみたらどうよ?案外そういう人生も悪くないと思うよ』

『面倒くさい事もたくさんあると思いますが、溜め込みすぎない程度に頑張ってみてはいかがでしょうか?』

『戦えないのはイラつくが、俺の分まで、暴れてもらいたいもんだな』

『この世界はクソみたいな事で溢れ返ってやがる。なら、これからもこの理不尽な環境に揉まれるんだな。そうすりゃ、ちったぁマシなもんになれるだろ』

『さぁ、最強の仮面ライダーさん。もう、やるべき事は一つじゃありませんか?』

 

!みんなの、手のひらから、何かが、流れ込んでくる……!

何だよこれ……!これって……!

 

『分かりますか?多くの同胞達の意志が、あなたに力を与えているのが。それこそが、これまでに培ってきた繋がり。力が足りないのなら、皆の手を借りれば良い。それこそが大地君。あなたに与えられた、死者の想いを束ねる力「魂魄」の本質なのですから』

 

……!

段々、目の前が明るくなってるのが分かる……!あの光は……!

 

『繋がりが消える事はない』

『だったら、もう一度立ち上がれ!』

『心に火を燃やし、手を伸ばし続けるんだ!』

『伸ばした先に、あなたの帰りを待ってる人がいますよ!』

 

……そうだ。

俺はもう、1人じゃない。

大切な人達が、待っている。

退屈な思いをする事なんて、もうない。

俺は、これからも……!

 

『さぁ、前に向かって行くのです。あなたの為に、未来の為に、仲間の為に、……そして、愛する人の為に!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゃん、だいちゃん!」

「……!」

 

ハッと目を開けると、小顔の少女が、眼前に広がっていた。その瞳からは、水滴が零れ落ち、自分の頬に滴り落ちている。

最初は驚いたような表情をしていたが、次第に頬が緩み、瞳を潤わせ、自分の体と密着させるように抱き寄せると、一気に感情を爆発させた。

耳元で張り裂けるような大声を聞きながら、目線を小雪の背後に向ける大地。

乾いた笑みを浮かべながら目元を拭う颯太。

嬉しそうにこちらを見つめる亜子。

ホッと一息つく手塚。

「ッシャア!」とガッツポーズを取る正史とつばめ。

鼻を鳴らして、安堵の表情を浮かべる蓮二と華乃。

そして、手塚と同様に胸に手を当てて一息つく謎の魔法少女。

理由はよく分からないが、どうやら死にかけていた自分を心配してくれていたようだ。自然と、涙が零れ落ちる。

『SURVIVE』に込められていた力だけではない。ここにいる皆が、死の淵に沈みかけていた自分に、光を灯したのだ。

 

「だいちゃん……!本当に、良かった……!」

「小雪……。俺もお前も、隣にいなきゃ、まだまだ、半人前だからな。だから、これからも……」

「……うん!これからも……!」

 

そこまで交わせば、最早語るものは何もない。

自然と互いの顔が近づき、そしてその唇が重なり合う。ほんの数十分前と同じ外見だが、唯一違う点を挙げるのであれば、小雪に伝わってくるその感触には、命の脈動を感じさせるほど、温かく、とろけそうな……。そんな思いの丈が積み重なったような、目の前の男の子が、確かに生きている事を実感させるような、温もりが、彼女の全身に伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 




若干ベタな展開だったかもしれませんが、キリが良いので、今回はこの辺で。

次回は長きに渡って行われた、この試験の全貌が明らかに……!

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