魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
気がつけば、今年も残り1ヶ月弱……。
何としてでも年内の完結を目指さなければ……!
「呼び戻す……だと?」
蓮二の呟きは、その場にいた8人の心情を代弁するものであった。
突如として彼らの前に姿を現した魔法少女。彼女はこう言った。
まだ終わりではない。九尾を呼び戻す。つまりそれは……。
「大地は……、まだ、生きてるのか⁉︎」
つばめは藁にもすがるような勢いで、前のめり気味に声を張り上げた。意気消沈していた彼女にとって、その一言は鶴の一声にも等しいものだった筈だ。だが、華乃は冷静に彼女を止めた。
「待って。無条件に信じすぎだ。何を根拠に、そんな事が言える?」
「確かに、彼女の言う通りだ。素性が分からない相手に、過度な信用は危険だ。先ずは、君の事を明かしてもらいたい」
手塚の言葉を聞いて、魔法少女は無言で頷く。
「……私は、『ユイ』と言います。見ての通り、魔法少女であり、代々、魔法の国の繁栄に尽くしてきた一族の1人です」
「!つまり、ファヴやシローと同じ国の出身……!」
華乃が気力を振り絞ってマジカルフォンに手をかけようとするが、それを遮るように、彼女は会話を続けた。
「私がここに来た目的はただ一つ。兄の愚行を止める事、それが最初の目的でした」
「グコウ……?それに、お兄さんって……」
「この試験の管理者を担っていた仮面ライダーオーディンは、私の、実の兄にあたります」
ほぼ同時に、こちらに視線を向けていた者達の目が見開かれるのを、オーディンの妹は確認する。
「どういった経緯でこの試験を知ったかなど、詳細は後ほどお話しいたします。何にせよ、兄を止める事は出来なかった。これは、せめてもの、一族を代表しての償いです。兄を、憎しみの呪縛から解き放ってくれた彼の息を吹き返す為には、あなた方の力が必要なのです」
「どういう、事なの」
震える声でそう尋ねるスノーホワイト。ユイは目線を、倒れている少年に向けた。
「私には、その人が持つ魔力を敏感に感じ取る素質があります。彼の中には、ほんの僅かですが、魔力の残滓があります。つまり、彼はまだ死を迎えているわけではないという事です」
「!マジか!」
「とはいえ時間がないのもまた事実です。彼の中の魔力は枯渇しかけている。このままでは数分も経たないうちに、魔力は底を尽き、本当に助からなくなる。そうなる前に、魔力を供給し、生命線を繋ぎ止める必要があります」
「どうすれば……!どうすれば、大地は助かるんだ!」
ここまで確信めいたような事を言われては、ラ・ピュセルも必死にならざるを得ないだろう。ユイが頷くと、足を動かして、すぐそばにあった公園に踏み入れると、何か呪文のようなものを唱え、懐から古びた本を取り出すと、地面に置いて、右手を表紙にかざす。再び詠唱すると、右手を離して数歩退がると同時に、本を中心に水が沸き始めたではないか。
一連の流れに呆然とする一同の目の前で、あっという間に、人1人が入れそうな池が形成された。亜子が尋ねるよりも先に、ユイが説明を始めた。
「これは『生命の泉』と呼ばれる、私達一族が代々守ってきた、魔法で出来た泉です。この水に含まれる魔力は特別で、この泉を巡っては、血が流れるほどに大規模な争いが起きたと言われているほど、その効力は確かなものがあります」
ですが……、と、ここでユイの歯切れが悪くなる。
「長年、有事の際に使われ続けてきた事もあり、この泉の純度は低くなっています。怪我を治す程度なら問題ありませんが、瀕死の者の魔力を完全に回復させるには、魔力が圧倒的に足りない」
「じゃあ、どうすれば良いんだよ⁉︎」
「足りないものを補う為に必要なもの。それが、あなた方が所持している魔力なのです」
「所持?」
「今回の試験では、人助けの度合いを数値化する為に、『マジカルキャンディー』が普及していましたよね?あれには魔力が含まれています。その魔力を全て泉に注ぎ込む事で、助かる確率が飛躍的に上がります。ただ、それだけではまだ足りません。彼を助ける為のアイテムは、もう一つあります」
「な、何が必要なんだ?」
「『兎の足』」
ユイの説明を受けて、ハッとなるスノーホワイトと亜子。
懐に手を入れたスノーホワイトが取り出したのは、白い毛の塊のアイテム。激レアアイテムと称して、寿命6年という対価と引き換えに、アリスが手に入れたものであり、直後にスノーホワイトの手に渡ったもの。
そこまで説明を受ければ、手塚もようやくユイの真意を理解できた。
「!そうか、兎の足は窮地に陥った際に、一定の確率で効力を発揮するアイテムだった筈……!」
「はい。このアイテムは魔法の国でも出回っていて、確実性がない事から、常に所持している者は少ないのも事実です。が、事今回においては、このアイテムの存在が大きな鍵となります。彼の息を吹き返すファクターとして、兎の足に魔力を注ぎ込みます。これでこのアイテムが効力を発揮する確率を上げます」
「け、けどどうやって、このアイテムに魔力を入れるんだ?」
「それは私の魔法が有れば造作もありません。マジカルキャンディーに培われている魔力を、兎の足の魔力に変換する。言うなれば私の魔法は、無機物を有機物に、水から火に変えるような事を可能にするものなのです」
理屈はよく分からなかったが、大地を助けてくれる事に必死になっている。そう感じとった一同は、僅かな望みに賭けてみる事に。スノーホワイトから兎の足を受け取ったユイは、皆にマジカルフォンを手にとってもらうように指示する。各々の端末には、ここまでの戦いで敵味方問わず、生き残る為に手に入れてきたマジカルキャンディーが大量に蓄積されている。
そのマジカルキャンディーを、一旦彼女が持っていた魔法の国特製の端末に注ぎ込むと、彼女が魔法を行使して、大量の魔力を兎の足に注ぎ込んだ。兎の足から、段々と輝きが発せられている。
「後は、彼がこの魔力に反応して、適合できるかどうかにかかっています」
そう呟いたユイは、大地の体を抱き上げて、兎の足を彼の右手に握らせると、生命の泉の中に、その体を入れた。下ろし終えた彼の体は、自然な流れで泉の底に沈んでいく。一同は本当に大丈夫なのか、と不安が募る中、スノーホワイトはただ1人、彼の声がもう一度聞けるようになりたい、と刹那に願うばかりだった。
水の流れる音が、頭の中に響いてくる。
体は、動かない。ただ、潮流に身を任せながら、底知れぬ所へと、沈んでいくのが分かる。
これが『死』なのだろうか。それとも、まだ自分はその瀬戸際に立たされて、これからその地へ向かおうとしているのか。
考えたくもなかった。考えられなくなる。考えた所で、今の自分に、何ができる……?
もう、楽になりたい。自分が背負ってきたもの全てを、投げ出して、もしも、もう一度人間に生まれ変われるのなら、その時は……。
『どうした』
……?
何だ。誰かが、背中に、手を当てて……。
『まさか、もう全てを終わらせた気では……、諦めたわけではないだろうな。あの程度で、心が折れる奴ではない筈だ。仮にもお前は、この私が認めた、最強の仮面ライダーなのだからな』
その声……。ついさっき、聞いた事がある、ような……。
『大地君。確かに君は、本当によく頑張ってくれました。死に絶えた私達の事を、その想いを力に変えて、繋げてくれた。……ですが、あなたはまだこちらに来るべきではありません』
……あぁ、その声。懐かしい。その手の感覚、小学生の時に撫でてくれたものだ。
『思い出してみてください。あなたは、私や、私の教え子達を再び繋げてくれただけではありません。頑なだった者達の心を、否、多くの者の心を、あなたは紡いでくれた筈です』
俺が、紡いだもの……。
『敵対していた者、この世界の理不尽さに嘆いていた者、幸せを望んでいた者、頂点を目指していた者、憎しみを抱いていた者、愛する人を守ろうとした者……。魔法少女や仮面ライダーという枠組みを越えて、あなたは、その覚悟を背負い、戦ってきた』
『そして愛を知り、守るべき者が出来た。それは素晴らしい事だ』
『だったら、あなたにはまだ、やるべき事が残っている筈よ』
『大丈夫です。いつだって、私達はあなたの力になってあげますよ。そして、あなたならきっと、私と雫が成し遂げられなかった境地に、たどり着く事が出来ますよ』
また3つの手が、俺の背中に……。
俺に……、こんな俺にも、まだ、あいつを、愛する事が、出来るのか……。
『ん〜。多分大丈夫だよ〜』
『そうだ。お前の背には、多くの意志が集まっている。そして、俺や正史と同じ過ちを犯さない為にも、お前はあの女の愛を理解する義務がある』
『あなたはかつて、私のしてきた事を偽りの正義と称しました。ならば、本当の正義を貫いてもらい、見せてもらう必要がありますね』
?何だ……?背中越しに沢山の手が……。
『力が足りないってんなら、俺も手を貸すぜ!俺は幸せになれなかったけど、代わりにお前がなってくれよ!』
『君なら、真の英雄にも、なれるかもしれないね……』
『そーそー。ここまで生き残れたんだったら、それなりに頑張ってもらわないとねー』
『お姉ちゃんマジクール。でもま、とりあえずガンバ!』
お前ら……。
『ハンッ、こんな所で休んでもらうようじゃ、無様にも程があるってもんだ。生き残ったんなら、それなりの責任ってやつをとってもらわねぇとな」
『この私を差し置いて生き残ったのだからな。精々生き恥を晒し、カッコ悪く足掻いてみせなさい!』
相変わらず嫌味しか言わねぇペアだな。言われなくたって……!
『人生って、ゲームみたいなものなんだしさ。これからもっと面白くなりそうだから、もうちょっと頑張ってみたら?』
『あ、あの……!きっと、あなたなら、大丈夫だと思う……!こんな弱い私の力を使ってくれて、嬉しかったから……!だから、頑張って!』
『……私は、ルーラになれなかった。だから、あなたに、なってほしい。リーダーとして、みんなをまとめてくれる人に』
『あの方があそこまで着目した理由。今なら分かる気がする。これから先、どこまで成長するのか、地獄の果てで見させてもらおう』
どんどん、俺を支える手が増えていく……。
『ま、とりあえず足掻けるだけ足掻いてみたらどうよ?案外そういう人生も悪くないと思うよ』
『面倒くさい事もたくさんあると思いますが、溜め込みすぎない程度に頑張ってみてはいかがでしょうか?』
『戦えないのはイラつくが、俺の分まで、暴れてもらいたいもんだな』
『この世界はクソみたいな事で溢れ返ってやがる。なら、これからもこの理不尽な環境に揉まれるんだな。そうすりゃ、ちったぁマシなもんになれるだろ』
『さぁ、最強の仮面ライダーさん。もう、やるべき事は一つじゃありませんか?』
!みんなの、手のひらから、何かが、流れ込んでくる……!
何だよこれ……!これって……!
『分かりますか?多くの同胞達の意志が、あなたに力を与えているのが。それこそが、これまでに培ってきた繋がり。力が足りないのなら、皆の手を借りれば良い。それこそが大地君。あなたに与えられた、死者の想いを束ねる力「魂魄」の本質なのですから』
……!
段々、目の前が明るくなってるのが分かる……!あの光は……!
『繋がりが消える事はない』
『だったら、もう一度立ち上がれ!』
『心に火を燃やし、手を伸ばし続けるんだ!』
『伸ばした先に、あなたの帰りを待ってる人がいますよ!』
……そうだ。
俺はもう、1人じゃない。
大切な人達が、待っている。
退屈な思いをする事なんて、もうない。
俺は、これからも……!
『さぁ、前に向かって行くのです。あなたの為に、未来の為に、仲間の為に、……そして、愛する人の為に!』
「……ゃん、だいちゃん!」
「……!」
ハッと目を開けると、小顔の少女が、眼前に広がっていた。その瞳からは、水滴が零れ落ち、自分の頬に滴り落ちている。
最初は驚いたような表情をしていたが、次第に頬が緩み、瞳を潤わせ、自分の体と密着させるように抱き寄せると、一気に感情を爆発させた。
耳元で張り裂けるような大声を聞きながら、目線を小雪の背後に向ける大地。
乾いた笑みを浮かべながら目元を拭う颯太。
嬉しそうにこちらを見つめる亜子。
ホッと一息つく手塚。
「ッシャア!」とガッツポーズを取る正史とつばめ。
鼻を鳴らして、安堵の表情を浮かべる蓮二と華乃。
そして、手塚と同様に胸に手を当てて一息つく謎の魔法少女。
理由はよく分からないが、どうやら死にかけていた自分を心配してくれていたようだ。自然と、涙が零れ落ちる。
『SURVIVE』に込められていた力だけではない。ここにいる皆が、死の淵に沈みかけていた自分に、光を灯したのだ。
「だいちゃん……!本当に、良かった……!」
「小雪……。俺もお前も、隣にいなきゃ、まだまだ、半人前だからな。だから、これからも……」
「……うん!これからも……!」
そこまで交わせば、最早語るものは何もない。
自然と互いの顔が近づき、そしてその唇が重なり合う。ほんの数十分前と同じ外見だが、唯一違う点を挙げるのであれば、小雪に伝わってくるその感触には、命の脈動を感じさせるほど、温かく、とろけそうな……。そんな思いの丈が積み重なったような、目の前の男の子が、確かに生きている事を実感させるような、温もりが、彼女の全身に伝わった。
若干ベタな展開だったかもしれませんが、キリが良いので、今回はこの辺で。
次回は長きに渡って行われた、この試験の全貌が明らかに……!