魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

……所で皆さん。この話を投稿した日付から遡る事20年前、何が起きたかご存知でしょうか?大抵の方は知っておられると思いますが、2001年の『9.11同時多発テロ』から、今年で丁度20年目となったのです。この歴史的事件は、その後の各国の政治活動だけに留まらず、メディアにも多大な影響を与えました。

特撮やアニメもまた然り。詳細は割愛いたしますが、このテロがきっかけとなり誕生した作品。それこそが50年近く続く仮面ライダーシリーズの中でも、異彩を放つ『仮面ライダー龍騎』であり、この作品に影響を受けて作られたのが、2011年に社会現象を巻き起こした、『魔法少女まどか☆マギカ』。ダークファンタジーとして魔法少女系アニメという枠を超え、その後のアニメ作品にも少なからず影響を及ぼしました。その結果生み出されたのが、2012年に原作が始まり、今から5年前にアニメ化された『魔法少女育成計画』でした。

……長くなりましたが、今日この日が、このクロスオーバー作品に多大な影響を与えていた事を理解してもらうと同時に、この一件を決して忘れてはならず、一人ひとりに、改めて『本当の正義』とは何なのかを、考えてもらえたら、書き手として幸いです。

では、壮絶な戦いの果ての物語を、見届けてください。



134.退屈な事なんて、なかったんだ

目の前にいた敵が、突然ガラスが割れる音と共に、消滅していく。

手持ちの武器をほぼガムシャラに振り回すほど、疲弊していた龍騎は、ようやく足を止めた。自然と、肩で息をしているほどにまで戦い続けた事に気づき、隣に目をやる龍騎。パートナーもまた、足を震わせながら、額の汗を拭っている。

つい先程まで、悲鳴や轟音が飛び交っていた周囲に目を凝らす。既に不気味なほどにまで収まっており、火が出ている車や、逃げ遅れた人々があちこちに拡散している。

ふと、遠くに目をやった龍騎は、先程レイドラグーン達に襲われていた、母親と逸れてしまったであろう少女の姿を捉える。木陰から辺りをキョロキョロしていたが、不意に彼女の側に駆け寄る女性の姿が確認できた。そして彼女を抱きしめた辺り、少女の母親なのだろう。

安堵して泣きながらも母親に抱きつく姿を見て、龍騎はホッとした感覚に陥る。それは隣にいるトップスピードもまた然り。

 

「そっちも、片付いたか」

 

横手から、ナイトとリップルのペアが現れた。さすがのベテランも、それ相応の苦戦は強いられたようで、足取りがやや悪い。遅れて、スノーホワイト達も彼らと合流。

 

「なぁ、モンスターが全部消えたって事は……」

「向こうも、決着がついたようだ。わざわざ占うまでも、無いな(だが、何だ……?何かが、おかしい……?)」

 

大地が、仮面ライダー九尾が、全てを終わらせた。その事に気づいた面々が、胸を撫で下ろす。あれだけの激しい戦いの中で、こうして立っていられ、全員の無事を確認できたのだ。

……否、ここにはまだ1人足りない。その事に、手塚だけが異様な胸騒ぎを覚えた。

 

「……だいちゃん……!」

 

それは彼女も同じだったのだろう。腕や足に切り傷を作りながらも、最前線で戦ってきた魔法少女が、パートナーの安否を確認するべく、彼が向かった方へ駆け出す。他の面々も、それに続く。

空は、曇天模様が広がりつつある。もうすぐ雨が降るかもしれない。

彼女達が足をピタリと止めたのは、大通り沿いの小さな公園が見えてきた時だった。公園の側には、燃えてはいないが、モンスターに襲われた衝撃でボンネットが大破した車が転がっているが、その脇に、煙に紛れて誰かが立っている。

 

「……!」

 

僅かに覗き見えた、狐の面のような顔。そこに立っている者の正体は、自ずと判断できた。

 

「九尾ぃ!勝ったんだな!」

「やったな!」

 

ラ・ピュセルとトップスピードが、労いの言葉をかけながら歩み寄ろうとする。

 

「……やっと、やっとちょっとは、さ。……『答え』って、やつをさ。見つけられた、かもな」

 

不意に、仮面ライダーはそう呟く。

 

「……ちょっとぐらい、仮面ライダーになれて……、良かったって、思えるかもしんない」

 

でも……。

その直後、変身が解け、彼の全身が露わとなる。8人が息を呑むまで、さほど時間はかからなかった。

右腕がおかしな方向に折れ曲がり、左目は潰れたように閉じており、膝の部分が、皮が剥けて白い骨が見え隠れしている。全身の傷も、スノーホワイトの比ではない。口から尚も溢れ出る赤黒い液体を、地面に垂らしながら、唇を震わせる。

 

「もう、俺……。さす、がに、さ……。ダメ、かも、……しんない」

 

そこで気力が限界を迎えたのだろう。膝が折れ曲がり、片腕を8人に向けながら、ゆっくりと後ろに倒れ込む姿を、彼らは確かに目撃した。

 

「大地君!」

「大地!」

「!おい!」

「だいちゃん!」

 

駆け寄りながら、変身を解除する面々。

車のドアに寄りかかるように倒れた大地に群がり、必死に彼の名を叫び続ける。ドアにも血がベットリと付き、以前、颯太がトラックに足を挟まれた時とは比べ物にならないほど、痛々しい惨状を目の当たりにし、あの手塚ですら、動揺を隠せない。

段々と、呼吸が弱まっているのが明白だ。そんな中でも、大地は焦点をずらす事なく、一人ひとり、心底心配そうに見つめる者達の顔を見ながら、ポツポツと、語り始める。

 

「……ずっと、考えてた。退屈だとばっか思ってた、日常の中で……、何で、生きようと、思ってたか。ずっと考えてても、それでも、まだ……。らしい答えが、見つからなくて……。考えて……、考えて……」

「大地、さん……!」

「……でも、さっき、見つけたんだ。それを、伝えたくて……。ここまで、頑張れたんだ……」

「何だ、それは……!」

 

蓮二の問いに、大地は気道を確保するように咳をしてから、ゆっくりと答えた。

 

「生きるって事はさ……、『戦う』事なんだって、気づいたんだ……。ただ、のんびりと寝そべる事でも、決まった事ばかり、繰り返す事でも、ない……。畑を耕す爺さんや、子供を産む母親や、それから……、困ってる人の為に、手を差し伸ばす事……。それが、生きるって事だったんだよな……」

「……!」

「……情けねぇ、よな。今の今まで、全然、そんな単純な事に気づかないで、さ……。いつも通りの事を、当たり前の事を、退屈だと思って、大切な事、全部無視してさ……。ほんと、報われねぇよな、俺って」

「そんなわけ……無いだろ!」

 

不意に颯太の震える声が、大親友の言葉を遮る。

 

「大地だって……!今日まで僕や、小雪や、みんなの為に……!誰かの為に、必死に戦ってきたんだろ⁉︎だったら……!もうお前は、その答えに気づいてた!それを口に出さなかっただけで、心の底では、気づいてて、それで、こうして戦ってきたんだ!答えは……もう出てたんだ!」

「颯太君の言う通りだぞ!大地君は、スゲェよ……!俺なんかよりもずっと賢くて……!だから、自分を褒めたって良いんだよ!」

「……そう、なのかな。辛い時も、苦しい時も、めちゃくちゃあったけど、さ……。それでも、戦おうって、決めた……。それは、俺も、仮面ライダーの、1人として、みんなを、守りたいから……。退屈だと思い込んでた日常から、俺を助けてくれた、から……。今度は、俺も……、差し伸ばし、たいんだ。みんながくれた、大切なものを、守れるように……。戦う事が、正しいか、どうかじゃない。それが、俺にできる、精一杯……。やりたい事、なんだ」

「……だったら!」

 

大地の並々ならぬ意志を汲み取った華乃が、力の抜けた手を握る。異性の手を握るなんて、生まれて初めての感覚なのかもしれない。

 

「だったら生きて、その目標を……!叶え続けろよぉ!死んだら、それで、終わりなんだぞ……!」

 

こんなにも声を荒げた華乃は、初めて見る。誰しもが、そして自分自身も、そう思っているだろう。

 

「そう、なんだよな……。だから……みんなには、これから先、辛い事ばかり、かもしれないけど……、なるべく、長く、生きて、欲しいんだ」

「お前こそ生きろ!大地……、死ぬな……!死ぬなぁ!」

「……ハハ。蓮二さんに、華乃さんに、そんな風に、言ってもらえるなんて、……ちょっと、嬉しい、かも」

 

弱々しい笑みを浮かべながらも、己の意識が薄らぎ始めている事を悟った大地は、思い残す事のないように、蓮二の隣に目を向ける。

 

「手塚、さん……」

「大地……」

「手塚さんの、あの占いが、無かったら……。あの場所で、出会わなかったら……。きっと、仮面ライダーに、なれなかった……。運命は、変えられる……。今は難しくても、手塚さんなら、きっと……」

「……抗って見せるさ!(だから大地、お前も……!)」

 

そこから先は、喉がつっかえたように続かなかった。手塚が黙り込んだ後、目線は小柄な少女へ。

 

「……亜子」

「大地さん!死なないで、ください……!」

「気づいてやれなくて、ゴメンな。あの時から、お前も生きる事を、諦めないで、いてくれた。ちょっとした、自慢なんだ」

「あ……」

「……鍵、もう失くすなよ。失くすのは、俺が最後に、してくれよ……」

 

僅かに動く手で、亜子の小さな手に触れながら、そう呟く。

そして次は、膨れた腹に手を置きながら、泣きじゃくる女性。

 

「つばめ、さん……」

「お、おいやめろって!そんな今生の別れなんてやつ、聞きたくねぇぞ!オレは……!」

「多分次は、つばめさんが、戦う番だから……。産まれる子を、立派に、育てて、ください……。俺のように、ならないように、ちゃんと……」

「……っ!んなもん、言われなくたって、やってみせらぁ!」

 

目を覆い隠すように、腕をゴシゴシと擦り付けるつばめ。震える彼女の腹を、優しく撫でる大地。

 

「……正史、さん」

「大地君もういいから!これ以上喋ったら、本当に……!」

「正史さんの、強さは、俺が、1番、知ってるから……。つばめさんを、最後まで、守って、あげて、ください……」

「……!」

 

正史は、体の震えが止まらなかった。血を流し続ける彼の、背中を押す言葉に、何も言い返せなかった。

 

「颯太……」

「な、何だよ大地……!」

「お前が、俺の友達で……。本当に、良かった……。お前には、何度も、助けて、もらったよな……。ずっと1人だと思ってた俺を、外に、連れ出して、くれて……」

「そんな事言うなよ!俺だって、あの時お前が、助けに来てくれなかったら……!これからだって、俺達は、ずっと……、友達なんだろ!だったら、こんな所で眠るなよ!起きろよ!俺達で、まだやりたい事、たくさんあるんだぞ!」

「……ありがとよ、颯太。サッカーの試合、頑張れよ。魔法少女の、事も、忘れずに、な」

 

そして。

最後に気力を振り絞って、今最も気持ちを伝えたい少女に、目線を向ける。哀しげな表情で目線を合わせている。涙は、まだ出ていないようだ。本当に打たれ強くなった。そう思うと、大地は少し嬉しくなった。

 

「……こ、小雪」

「だい、ちゃん……。嫌だよ……!こんな……、こんなのって……!」

「……悪いな。最後の、最後に……、後味悪い感じに、しちまって……。でも、この戦いだけは、終わらせた。これ以上の犠牲は、なくなった……。それに……、お前は、強くなった。だからもう……」

「違う、よ……!そうじゃ、ないよ……!私は、まだまだ、弱虫だから……!みんなみたいに、だいちゃんみたいに、強くなって、ないから……!だから、ずっと、追いかけてた……!だいちゃんみたいに、強くなりたくて……!ずっと……!」

 

頬に、冷たい感触が伝わった。左手が彼女の右頬に触れ、目尻に透明な液体が浮き上がる。

 

「お前は、弱くなんか、ない……。だってさ……。ずっと、誰にも負けねぇ、強さを持ってたじゃ、ねぇか。『優しさ』っていう、誰にも負けない、真の強さをよぉ……」

「!」

「俺は、お前のその強さに、惹かれたんだ……。苦しむ度に、相手を労って、自分の胸に、しっかりと刻む。その気持ちは、俺を本当の意味で、救ってくれたんだ……!」

 

不意に息を詰まらせた大地は咳き込み、少量の血を口から垂らした。

 

「だいちゃん……!」

「お前が、俺の、パートナーで……、本当に、良かった……!」

「だいちゃんダメ!しっかりして!」

「……最後に」

 

全身の痛みを堪え、上半身を起こして、ぼんやりとなった視界に捉えた、大切な人に、顔を近づける。

 

「あの時の、答えを、お前に……」

 

ありがとう。

彼女にしか聞き取れなかった、その一言。言い返そうとしたその口を、相手の唇が、それを遮った。鉄臭い匂いが、相手の口の中から伝わってくる。初めての経験にも関わらず、動揺していない小雪は、唇を重ねながら、静かに目を閉じる。一筋の光るものが、頬を伝う。

沈黙の中、ほんの数秒の出来事にも関わらず、小雪にはそれが長く感じられた。出来る事なら、このまま時が止まっていてほしい。この時間を、永遠にしたい。それが叶ったら、これ以上に幸せな事なんて、無いのかもしれない。

 

「……っ!」

 

……それでも、現実は非情だ。唇が離れ、自然と握っていた手も離れ、そして、微かな笑みを見届けて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜これで、良かったんだ〜

 

「大地ぃ!」

 

〜試験は、終わった。もうこれ以上、犠牲が出る事も、無くなった〜

 

「大地!」

 

〜俺も、ここで終わりか〜

 

「大地さぁん!」

 

〜散って逝った奴らにも、少しは顔向け出来るかな……?〜

 

「おい、起きろ大地!」

 

〜最期に、みんなに会えて、良かったなぁ……〜

 

「目ぇ覚ませよ大地ぃ!」

 

〜……もし、()があるなら〜

 

「大地君……!何で……!」

 

〜その時は、そうだな……〜

 

「大地……!大地ぃ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退屈なんてしない、毎日を楽しめるような、そんな人間になろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポタポタと滴り落ちてきた水滴も、ザァザァとN市全域に降り注ぐまで、さほど時間はかからなかった。豪雨の影響で、辺りで燻っていた火も鎮火し、煙が晴れ始めた。

豪雨は、目を閉じて、仰向けに倒れている少年についていた、赤黒い液体を洗い流していく。胸は、上下に動いていない。

周りにいた8人にも雨が降り注ぐが、誰1人としては動かない。

虚空を見上げながら、目から溢れ出るものを止めない少女。

運命を変えられなかったと、地団駄を踏む青年。

目の前の現実にショックを受け、脱力したように、車にもたれかかる青年。

体を震わせながら、拳を強く握る少女。

口元を押さえながら、顔を下に向けて泣き続ける妊婦と、彼女を抱き寄せて体を震わせる青年。

悔しさのあまり、地面を殴り続けている少年。

そして、虚な目を向けたまま、ただジッと、動かなくなった最愛のパートナーを見つめている少女。

雨は一層激しくなり、9人の身体を、冷たい雫が叩きつけてくる。それは、息をしていない少年以外の面々の、心情を表すかのように、ずっと、降り続いていたのである……。

 

 

 

 




さて、次回は皆さんお待ちかね(?)の、あのシーンへと移りますよ……!

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