魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

先日、私の愛読書の一つ、『ズッコケ三人組』シリーズの作者、那須正幹さんが亡くなったと知り、ショックを受けました。
私自身、今日まで小説を書いて投稿するのを趣味にしてこれたのも、このシリーズを読み、読者の楽しみを直に味わったからに他なりません。ズッコケ三人組シリーズと出会わなかったら、こうやって小説を通じて皆様との交流もなかったわけですので、ご冥福をお祈りすると共に、今後も可能な範囲で無理せず投稿していく方針です。
この『まほいく✖️龍騎』シリーズも、残すところ僅かとなりましたが、最後まで応援よろしくお願いします。

さて、今回はタイトルからも分かる通り、あの曲を題材に物語を進めております。




133.叫べ

[挿入歌:叫べ]

 

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!」

 

ただ、ひたすらに叫んだ。

走っている感覚すらない。それでも、目の前の敵に拳を振り下ろす為に、九尾は彼に近づく。

 

「愚かな……。何故そうまでして、運命に抗う?」

 

しかし、オーディンは至って冷静だった。九尾の攻撃を難なくかわし、背後を取って回し蹴りを叩き込む。九尾の口から溢れた赤い液体が、地面を濡らす。

 

「美しい夢を見続けるお前達も、やがては気づくだろう。……否、既にお前は気づいているはずだ。この世界は既に、醜く汚れきっている事を。このゲームの内容が、それを物語っている。お前達が見つめているのは、嘘ばかりの世界。愛という名の、描かれただけの暗闇でしかないのだ!」

「……信じる」

「……何?」

「俺は、それでも、信じるぜ」

「信じるだと?愛か?友情か?人同士の信頼か?……実にくだらん!」

 

そう吐き捨てたオーディンは、転がっていたゴルトセイバーを拾い、九尾に一太刀を浴びせる。腕から流れた血を庇う事なく、ただジッと、黄金のライダーを睨み続ける。

 

「信じる、だけだ。あいつらが守ろうとした、この日常を、守る。……それだけだ!」

 

例え心を無くしたとしても、あの笑顔を、守り抜く。

九尾の無言の圧からは、そのような気迫を感じさせる。オーディンはそう直感するが、尚も彼は嘲笑する。

 

「愚かな!この腐れきった世界に、信じられるものなど、微塵もない!明日も明後日も、未来永劫、酷い憎しみだけが、人間を支配しようと手を伸ばす!それがこの世界の、運命だ!」

 

大きな金属音が、ミラーワールドに響き渡る。オーディンのゴルトセイバーによる一太刀を、フォクセイバーで防いだのだ。

 

「だったら……!」

 

超えるべき嘆きの嵐さえ、許したくはないのが、人間の本性。そんなのは辛い、怖い、知らないと、目を背ける。

だが、それでも、この少年だけは、逃げなかった。腕からは、先ほど負った傷が広がり、更に血が流れる。例えこの傷が塞がらずに痛みを伴い続けたとしても、守りたいものが彼にはある。

 

「決められた限界を……!今、壊して、超えるだけだ!」

 

ガッ!と不意に九尾の腕に力が入り、ゴルトセイバーが打ち上げられた。不意の一手に驚くオーディンに向かい、腕に握られたものを振り下ろす。が、オーディンは咄嗟に背後に回り込む事で回避する……はずだった。

 

「グァ……!」

 

オーディンの体から、火花と血が散った。九尾の攻撃が、振り下ろされると同時に、体を捻らせて、その勢いでフォクセイバーを振り上げたのだ。否、その手に握られていたのは、フォクセイバーではなかった。

 

「(オルタナティブ……⁉︎)」

 

オーディンは、初めて自分の見た光景を疑った。九尾の手に握られていたのは、スラッシュダガー。それだけなら驚きはしないが、彼の立ち振る舞いが、そのスラッシュダガーの持ち主と瓜二つだった。しかし目を凝らせば、目の前には息を荒げた九尾がいるだけ。

その九尾は剣を放ると、一気に距離を詰めた。その瞬発力に、さしものオーディンも、回避が間に合わない。

一発いっぱつが、致命傷に程近いダメージを負った体で、どこにそんな力があるのか説明がつかないほど、重い。その的確な拳の攻撃。オーディンには見覚えがあった。

 

「(ヴェス・ウィンタープリズンの……!)」

 

そして右拳が胸に当てられた時に気づいた。その右手には、黒いドラグクローが付けられており、そこから放たれた黒炎が、オーディンを吹き飛ばした。

 

「(リュウガ……!こいつ、一体何を……!)」

 

九尾の急激な変化に戸惑いつつも、オーディンは再び九尾の背後を取り、背中に打撃を打ち込む。地面を転がる九尾は、勢いをつけて立ち上がり、首を回して骨から音を鳴らすと、獣の如く、オーディンに飛びかかり、その顔面を何度も殴りつけた。その姿勢は、さながら最恐の王蛇を彷彿とさせる荒々しさが垣間見えている。それでもってスイムスイムのような、何を考えているかも分からないような動きで、オーディンの思考を遮る。

 

「(一体何が……!奴の動きは、まるで既に亡者となった奴らの動きを彷彿とさせる……!)」

 

そこまで考えが回った時、オーディンはハッと気づく事があった。

 

「(まさか……!今の奴のデッキには、消えていった者達の魂が宿り、その霊魂が、奴を本能のままに突き動かしているとでも言うのか⁉︎)」

 

彼に与えられたサバイブの力が、自分達の思わぬ形で、想像以上の力を覚醒させてしまった。そう考えてしまった今のオーディンは、久方ぶりの恐怖を感じた。九尾が、これまで携わってきた試験の中で異質を放っていたのは承知していたが、彼の信念がサバイブにここまで変化を促すとは、予想していなかった。

 

「……(もう大分、体の感覚が消えかかってる……。でも、何でだろうな。最後の一滴まで戦える。そんな気がする)」

 

カードデッキから伝わる、叶わなかった夢を見上げる哀しみ。絆という不実を求める、衝動。それら全てを受け止めて、彼は戦うと誓った。命を捧げても、この幸せだけは、勝利だけは、掴み取ってみせる。進む未来の先に、惨い哀しみが覆い隠そうとしても、それを突き破って見せる。

 

「ッ、ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

再び吠えた九尾は、狂ったように体を動かし、オーディンに殴りかかる。超えられない怒りの渦と、抱きしめられない本懐が、彼の体を支配していくのが分かる。それを面に見せないように、必死に抑えて、彼は殴り続ける。その姿勢は、人間らしさを見失っているようにも見えるが、今の九尾にはそれすら気に留める事はなかった。

例え最後には、化け物になったとしても、構わないとさえ思った。この力があれば、目の前の絶望など喰らいつくせる。最早迷いはなかった。今尚育っていく衝動を、なりふり構わず解放する。

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

ただ、ひたすらに叫んだ。体から流れ出る血を気に留める事もなく。

祈るだけなら簡単だ。明日も、何も変わらない日常を望み、目先の現実から目を背け、関わりを避け、自分の身を守る事など、簡単だ。

だが、彼は……彼らは知ってしまった。いつか、本当の意味で、自分が後悔しない選択をする為には、自分が自分らしくいられるには、証明するには、叫び続けなければ、戦い続けなければならない事を。

猛攻を止めない間、九尾の感情は、ぐちゃぐちゃに渦巻いていた。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

叫べ!

仲間を、チームを、パートナーを、大切な人を失った者達の嘆きを心に刻みながら。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

叫べ!

戦いの最中、その体に、心に、癒えぬ傷をつけながら、もがき苦しみ続けた者達の痛みを抑えつけて。

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

叫べ!

理不尽な戦いに巻き込まれ、大切なものを失い、夢を叶えられなかった者達の怒りを力に替えて。

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

今、この瞬間も、生きて戦い続けていく姿勢を、そこに刻む為に、彼は拳を振るった。それを直に受けて、遂にオーディンの体が地面を転がった。

 

「……例えそれが、嘘ばかりのものだったと、しても……!」

 

地面に膝をつき、起き上がるオーディン。そこで彼は、目を疑う光景を、目の当たりにする。

 

「抱き止めて、受け入れて、生きるって、決めたんだ……!」

 

そう叫ぶ九尾の両隣。薄っすらと、人の形をした『何か』が、立ち並んでいる。

 

「俺は……俺達は……!信じて、選び続ける……!自分だけの、夢を……!」

 

魔法少女、そして仮面ライダー。今はもういなくなったはずの存在が、幻影となって、彼の側に並び立っている。その中には、薄っすらと微笑む、エルフ耳の魔法少女の姿も。

 

「クラム、ベリー……⁉︎」

「見せてやるよ……!」

 

オーディンの声に重なるように、九尾は呟く。血染めのカードデッキから引き抜いた、1枚のカード。震える手で、それをフォクスバイザーに装填し、そして……。

 

「これが、俺の……!」

 

[FINAL VENT]

 

「心の叫びダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

そう吠えた九尾は、両足に力を込めると飛び上がった。と同時に、両隣にいた者達も飛び上がり、オーディンに向かっていく。

 

「!オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!」

 

オーディン自身、何年ぶりに腹の底から出したか分からない程、自然と吠えていた。正面から受け止めようとしている。

九尾の背後から、フォクスロードが出現し、その右足に巻き付くと同時に、勢いをつけてオーディンに向かっていく。

そして。周りにいた面々も右足を突き出すと、王蛇、シザース、ヴェス・ウィンタープリズン、シスターナナ、インペラー、タイガ、たま、ファム、ねむりん、アビス、ゾルダ、カラミティ・メアリ、ベルデ、ミナエル、ユナエル、ガイ、ルーラ、リュウガ、マジカロイド44、スイムスイム、クラムベリー、そしてオルタナティブの順に、オーディンに向けて強烈な蹴りが炸裂。黄金のライダーは、思わず後ずさる。

 

「ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!」

 

決められた限界を超える力。九尾の『ブレイズバーストキック』がオーディンに命中すると、オーディンは絶叫と共に吹き飛ばされ、彼を中心に大爆発が発生。熱風が九尾の全身を包み込む。

 

「ハァッ、ハァッ……!」

 

息をする度に、苦しさを覚えて、地面に膝をつく九尾。立ちあがろうにも、足が震えて、すぐには動けない。

 

「……そう、か」

 

ハッとなって煙の奥に目をやると、日本の足を地面につけている黄金色の、人の形をしたものが、立っているのが見えた。立ちあがろうとする九尾だが、逆に手を地面についてしまう。

煙が晴れて、オーディンの全体像が見えた時、九尾は不意に、肩の力を抜いた。彼は気づいたようだ。既に目の前に見える敵からは、闘志が消え失せている事に。

 

「それが、お前の、夢、というやつか……」

 

その声は掠れており、生気が失われつつあるのは、最早明白だ。

 

「……ならば、認めざる、を、得ない、よう、だな……」

 

そして、組んでいた腕を離して、震える右腕を突き出すと、九尾を指差し、そして、告げる。

 

「最強の、仮面、ライダー、は……。……お前、だ」

 

それが、彼の放った最期の言葉となり、背中から倒れ込む姿を、九尾は目視した。

 

「(……ユイ)」

 

直後のその呟きだけは、声に出る事なく、オーディンは動かなくなった。

決着がついた。九尾は、霞んでいく視界の中でそう判断し、自らも地面に横たわった。

 

「(……終わっ、た。本当に、倒した、んだ……)」

 

今まで以上に鮮明な耳鳴りだけが、耳の中に入ってくる。

 

「(これが、人を殺す……感覚)」

 

それは、14歳の少年にとっての、初めての感触。最後の攻撃で、オーディンにその全てをぶつけた時の感触は、体に染み付いている。

最悪な気分だった。

 

「(でも、終わったんだ。全部、終わらせたんだ……)」

 

やっとの思いで得られた、安堵感。自然と、仮面の奥で瞼が閉じようとしている。

 

「……ま、まだ、だ」

 

だが、瞼は最後まで閉じなかった。ようやく戻ってきた足の力を込めて、震えを止めて、腕を使って、起き上がる。

 

「帰らなきゃ、な……。あいつら、が、待ってるん、だ……」

 

横たわる亡骸に背を向け、片足を引き摺るようにして、ボヤける視界の先に見えた電話ボックスに向かって、歩み始める。途中でフラついて転ぶが、ゆっくりと息をしながら立ち上がり、倒れ込むように電話ボックスのガラスから、ミラーワールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐの事だった。九尾が元の世界に戻り、沈黙が包み込むミラーワールドの世界に、オーディンが倒れている所に、人影が現れた。その姿は、一般人に程近い身なりをした女性だったが、ミラーワールドに立ち入れる事を考えると、魔法少女なのだろう。オーディンよりも少し背の低い女性は、横たわるオーディンを見つめ、一雫の水滴が地面を濡らした。

 

「……」

 

その小さな呟きは、とても聞き取れるものではなかったが、膝を曲げてしゃがみ込むと、側に落ちていた、魔法の国特製の端末を手に取り、不思議と軽くなったオーディンを抱き抱えると、九尾が脱出した電話ボックスに向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《中間報告 その20》

 

【オーディン(本名不明)、死亡】

 

【残り、魔法少女5名、仮面ライダー4名、計9名】

 

【なお、両試験管死亡により、現時点をもって、B7026試験場での選抜試験を終了。合格者には、追って発表と同時に、諸連絡を通達する】

 

 

 

 

 

 

 




遂に、決着。

そして……。

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