魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

転職して色々と大変ではありますが、頑張っていく所存です。

では、どうぞ。


132.榊原大地は仮面ライダーである

『シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』

「ハァッ!」

 

煙が立ち込める商店街の大通りでは、龍騎ら8人の仮面ライダー、魔法少女が、レイドラグーンやハイドラグーンを相手に、激闘を繰り広げていた。

 

「ったく!ホントに数減らないなオイ⁉︎」

「トップスピード、大丈夫か⁉︎無理すんなよ!」

「心配すんな!前はバイク乗り回してた時にやたら色んなヤツらに絡まれたからな!ビビるもんでもないし!っと……!」

「!危ない!」

 

背中合わせでドラグセイバーを構えながら戦っていた龍騎とトップスピード。不意にトップスピードが体当たりを受けて転がる。武器を手放してしまい、万事休すかと思われたが、すかさず龍騎が彼女の頭上を超えてレイドラグーンを押さえつける。その隙に、トップスピードはマジカルフォンを操作して、右手にドラグクローを装着。ドラグクローファイヤーを至近距離でぶつけて、近場のレイドラグーンを一掃する。

 

「サンキュー龍騎!」

「ヘヘッ。これくらい頑張れるぐらいには、強くなれたと思ってるからさ!」

 

『FINAL VENT』

 

「ハッ!ハァァァァァァァァァァァ……!ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

守るべきものを守る為に。未だに終わりは見えないが、それで挫けるほど、龍騎も脆くは無かった。それを裏付けるようにドラゴンライダーキックを、頭上から強襲してきたハイドラグーンにぶつける。

 

「フッ!」

 

そこから少し離れた地点では、ラ・ピュセルとハードゴア・アリスが善戦していた。アリスが黒いドラグクローで周囲の敵を焼き払い、討ち洩らしをラ・ピュセルの一振りで薙ぎ払う。互いに息のあったコンビネーションでほとんど敵を寄せ付けていない。

とはいえ長引く連戦は、次第に彼女達の体力を消耗させていく。ようやく視界から敵の姿が見えなくなった頃には、互いに肩で息をしているように、体が上下に動いていた。

 

「あ、アリス、平気か……?」

「はい、大丈夫、です……。まだ、休む時では、ありません、から……」

「そう、だな。辛いかもしれないが、今は辛抱だ。大丈夫、きっと九尾が、何とかしてくれる……!」

「……はい。今は、堪える、時間です」

「このままスノーホワイトの所に向かおう!アリス、動けるか?」

「問題、ありません。私も、彼女を守りたい。今度こそ……!」

「……あぁ!」

 

そうしてラ・ピュセルとアリスは、別場所で戦っているスノーホワイトの所へ、駆け足で急行する。幼馴染みで、命の恩人である彼女が、何よりも心配だった。何より、スイムスイムに手をかけたあの日以降、目立った戦闘をしていない為、剣を取って戦う事に支障をきたすのでは無いか。そうなっては彼女の命に関わってくる。だからこそ、彼女の支えになろうと、2人は決めたのだ。

 

「スノーホワイト!そのまま突っ込め!」

「はい!ヤァッ!」

 

そんなスノーホワイトだったが、隻眼のリップルから見ても、めぐるましい成長ぶりに、場違いながら安心感を覚えた。

一度は同胞との戦いから目を逸らし、逃げ出した彼女も、戦う理由を見つけた頃から、数週間程で見紛うほどに動きのキレが良くなった。特訓を重ねる度に、その吸収率の高さが見て取れた。

それでも、不安はあった。スイムスイムを殺した時だ。殺されそうになったリップルを助ける為とはいえ、彼女は自らの手で、『争わず、手を取り合い、世のため人のために頑張る』魔法少女像を壊してしまった。その原因を招いてしまったリップルも、自責の念に陥っていた。

それでも、彼女は立ち上がった。その間に何があったかは分からないが、彼女にとっての真の理想。即ち『皆を幸せにする』魔法少女になるという夢は、諦めていないという事だ。その気持ちが、こうしてスノーホワイトに戦う力を与えた。最初は平和を愛し、なるべくしてなった魔法少女だと認識していたリップルも、今となっては評価を改める必要がある。

彼女はもう、弱くない。

 

「ハァァァァァァァァァァァ!」

 

スノーホワイトの目に、迷いはなかった。これ以上被害を拡大させない為にも、今は別場所で戦っている、最愛のパートナーが帰って来られるように。迫り来る敵を冷静に斬り倒していく。

 

「私は……負けない!」

 

尚も襲ってくるモンスターに対し、自分にそう叱咤した後、足に力を込めて駆け出そうとする。

 

『『ADVENT』』

 

だがその直前、別方向からダークウィングとエビルダイバーが体当たりをかまし、レイドラグーンを吹き飛ばす。

 

「スノーホワイト!」

「!ライアさん、ナイトさん!」

「張り切ってはいるようだが、飛ばし過ぎだ。肩の力を抜け」

 

スノーホワイトにそう指摘したナイトは、周囲に目をやる。遠くから、ハイドラグーンの大群が押し寄せてきている。さすがのナイトも、パートナーを真似て舌打ちをする。

そこへ龍騎ら4人も、スノーホワイト達と合流する。ふと龍騎が、ライアの装甲の傷や、所々流れている血を見てギョッとする。

 

「!お、おい!それって……」

「気にするな。ここに来るまでに、浅倉と派手にやってな」

「!あいつも来てたのか……」

「それで、あいつは今どこに……」

「……既に奴の運命は変わった。もう俺達の前に姿を現す事はない」

 

その一言で、王蛇の結末を悟った一同。各々が複雑な心中を抱える中、敵の鳴き声が耳に届いた。後続の敵が迫ってきたようだ。それもかなり多い。

 

「とにかく話は後だ。一気に畳みかける!」

「俺はサバイブを使った後だから、しばらくは無理だ。このまま後方で戦う事に専念させてもらう」

「あぁ、後は任せとけ!」

「ッシャア!やるぞ!」

 

『『『『『『SURVIVE』』』』』』

 

そうしてライアとアリス以外の面々がサバイブを使用。先程よりも格段に上がったパワーの差で、モンスター達を圧倒していく。使用時間が限られている事もあるかもしれないが、皆奮起していた。

 

「一気に駆け抜けてやらぁ!」

「ハァァァァ!」

 

トップスピードサバイブがラピッドスワローを駆使して敵を翻弄し、リップルサバイブが俊敏に手裏剣を当てて怯ませる。

 

「「ヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」

 

そしてスノーホワイトサバイブとラ・ピュセルサバイブが、動きが鈍った敵を、拳や大剣で的確に攻撃していき、数を減らしていった。

アリスとライアも、持てる火力を駆使して、散らばった敵を倒していく。

 

『『FINAL VENT』』

 

そしてライダー勢も、最大限の火力で応戦。バイクモードに変形した契約モンスター達に乗り込み、地上と空の敵に向かって突き進む。

ドラゴンライダーストームと疾風斬が、地上の敵を薙ぎ払い、その余波が上空の敵にも当たり、煙が晴れた時には、敵の姿はなかった。

だが、敵の姿が完全に途切れたわけではない。未だに鳴き声が響いてくる。スノーホワイトサバイブの頭の中にも、助けを求める声が途切れない。苦悶に満ちた表情を見せながらも、彼女は足に力を込める。今、この状況で戦えるのは、自分達しかいないのだから。

何より、彼に託されたからだ。この街を守ってもらいたい、と。

 

「(だから、頑張るよ……!だいちゃんも、頑張って……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜もっと早く、気づくべきだった〜

 

先ず、そんな感情が朦朧とする頭の中を渦巻いた。

拳を握り、地面を殴りたくても、感情をぶつけたくても、体が反応しなかった。限界以上に動きすぎた反動だろうか。

狭まった視界に広がるのは、砂の地面にじわじわと広がる、生臭くて赤い液体。それが自分の腹部や口から流れ出ているものだと理解するのに、さほど時間は掛からなかった。片隅には、オーディンの黄金色の足も見える。上から目線で皮肉に満ちた事を語っているようだが、聴覚が麻痺していて、上手く聞き取れない。

背中に何かが刺さっているような気がする。血にまみれた腕が見える。変身は解けてしまっているようだ。そもそも何故、自分がうつ伏せになっているのか。

確か、オーディンのエターナルカオスを受けて、吹き飛ばされた所まではうろ覚えている。あまりにも差がありすぎた一撃だった。少しずつだが、体の体温が低くなっていく気がする。この感覚が、これまで散って行った魔法少女や仮面ライダーが間際に感じてきたものなのか。そして自分も、これからその仲間入りする事になるのだろうか。

 

「(もっと早く、気づくべきだった……)」

 

改めてそう考える大地。

スノーホワイトだったら、もっと頑なに否定してきた筈だ。魔法少女と仮面ライダーが、異能の力を手に入れた者同士が、争い奪い、そして殺し合う。そんなやり方で、選ばれた者が、本当に人を幸せに出来るのか、と。

今まではどちらかと言えば無頓着だった大地も、自らの死の間際に、思うように動かない体でどうしても考え込んでしまう。単純な事だったはずなのに、何故それをハッキリと否定してこなかったのか。もっと良い方法があった筈だった。皆が犠牲にならずして、自分らしく生きていられる方法が。

戦いの渦中、それが自分に出来なかった要因。もしかしたらそれは……。

 

「(本当は、俺が、弱かった、から……?)」

 

スノーホワイトのキャンディーを奪おうとし、結果として裏切られた『ルーラ(木王 早苗)』。

幸せを求めていたにも関わらず、信用できないからと切り捨てた『インペラー(東野 光希)』。

助けに来たのに逆に助けられ、自分の身代わりとなった『オルタナティブ(香川 俊行)』。

恩師の仇を討つべく、率先して敵地に突っ込んだ『ヴェス・ウィンダープリズン(亜柊 雫)』。

そしてその後を追うように散った『ファム(霧島 美華)』と『シスターナナ(羽二重 奈々)』。

仲間を求め、最期に弱気な自分から脱却した『たま(犬吠埼 珠)』。

お姫様に、そしてリーダーになろうと夢見ていた『スイムスイム(坂凪 綾名)』。

そして自分とは一見関係なく死んだ魔法少女や仮面ライダー。

もし、もっと早くからやめさせるように動いていれば、自分が今以上に強ければ、もっと多くの人の運命を変えられたかもしれない……。もし今の現状が、自分の弱さのせいで生まれた歪みの結果だとしたら……。

 

「(……何で、こんな事に、なっちまったんだ……)」

 

そもそも、最初からこんな人生を歩むつもりなどなかった。

優しい兄や両親に囲まれながら、神社の手伝いをし、学校に通い、勉強に苦労し、友達と遊んで、温かいご飯を口にして……。

そんな『ありきたりな普通』を、心の片隅で、望んでいた。理想とまではいかないが、時代の流行に合わせた普通を謳歌したかった。それだけで幸せだった筈だ。

それでも現実は違った。兄はいなくなり、友達と遊ぶ時間もなくなり、毎日が同じ流れである事を自覚し、次第にそれが当たり前だと決めつけ、やがて『不満』を覚え、退屈だと思い込み始めた。何の為に生きているのか、分からなくなってきた事もあった。

そう思っていた矢先に、選ばれたのだ。退屈を紛らわす為の力。人智を凌駕する力。本当の自分を見出す力。

最初は満足していた大地だが、やがてそれは、血を血で洗う、バトルロワイヤルへと発展するなど、思ってもみなかった。周りで命が奪われていく中、彼は考えた。人生を退屈だと思っていた筈なのに、どうして今なお生き延びようとしているのか。

 

『だいちゃん』

 

不意に過ぎる、彼女の声。

 

『私の夢はね。みんなを幸せにする魔法少女になりたいんだ』

 

デートの日、隣に座る彼女が、沈む夕日を見つめながら語った言葉が、蘇る。

 

『だから、もしそれを壊そうとするものがいたら、その時は、絶対に逃げたりしない。戦おうって、決めたの』

 

あの泣き虫な女の子からは、先日辛い経験をしたばかりの彼女からは想像もつかなかったセリフだ。

 

『今はまだ弱虫な私だけど、いつか絶対、追いついてみせるから。だから、ね。だいちゃん。私は……』

 

不意に思い出す。自分のマジカルフォンに入れてあった、依然と自分が使った事のない、たった一つの戦利品の存在を。

震える手で、端末を握る大地。オーディンは、決着がついたと思っているのか、背を向けたままだ。チャンスは、今しかない。

取り出したアイテムは、瓶の中に一粒だけ残っていた。前の所有者が殆ど使ってしまったからだ。だが、一粒有ればそれで良い。全ては運命への叛逆の為。完全勝利に酔いしれている、あの仮面ライダーを倒す為。そして彼女達に、自分の中で見出した『答え』を、伝える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[挿入歌:Revolution]

 

「む……?」

 

不意に、背後から気配を感じたオーディンは瞬時に振り向く。そして僅かに組んだ腕がピクリと動く。

その少年は、変身解除後に、トドメとばかりに背中に突き刺したゴルトセイバーを、震える手で抜き取り、地面に放った。傷口から地面に流れ落ちる血が、より大きな水滴を形成する。誰の目から見ても、瀕死寸前だ。

何故立ち上がれる。その疑問は、彼の右手に握られていた瓶を見て察した。自分の記憶が正しければ、あれは激レアアイテムの一つ『元気が出る薬』が入った瓶。データ上ではユナエルが購入し、彼女の死後はスイムスイムが所持していた。その後の経緯は分からなかったが、どういうわけか、九尾の手に渡っている。

心当たりはあった。スイムスイムが殺された現場には、九尾を含め、チーム全員が訪れていた。立ち去る間際に彼が戦利品として僅かに残っていたその薬を回収していたとしたら。その薬を服用した事で、傷による痛みが和らぎ、立ち上がれる程に活性化していたとしたら。

 

「まだ抗うか」

 

それでもなお、オーディンはすぐに冷静さを取り戻す。アイテムに救われたとはいえ、戦況は変わらない。薬の効力などたかが知れている。効果が切れれば、その後の結末はほぼ見えている。だからこそ、黄金のライダーは問う。何故そうまでして、戦おうとするのか。

 

「……薬でキメるなんて、らしくないのは、自分でも分かってるよ……」

 

虫の息だった彼の喉から発せられる声は、血の粘膜がへばりついているのか、掠れていた。彼は、笑っているのか笑っていないのか、判断し難い表情だった。

物語の主人公なら、気合一つで立ち上がる所だが、そんな主人公補正など皆無だと自覚していた。だからこそ、彼は薬に頼った。周りからどれだけ不恰好だと、これ以上は無理だと言われても、彼は立ち止まろうとはしなかった。

どんなやり方であっても、この勝負に勝ちたい。そして仲間の所に帰りたい。そう思えるだけの理由を、導き出す事が出来たのだから。

 

「でもな……!」

 

震える手で、地面に落ちたカードデッキを拾う大地。激痛が走り、口から血が溢れる。

 

「それでも、この一つだけの、チャンスは、逃せないん、だよなぁ……!」

 

カードデッキを突き出し、腰にVバックルを装着する。

 

「諦めが悪いのは、人間の、良い所、だ……!それを、身をもって教えてくれた、奴らの為にぃ……!俺はぁ……!」

 

血に染まるカードデッキを、震えながらも装填する。

 

「変……、身!」

 

血走った眼をぶつけながら、その身を鏡像が重なり、仮面ライダー『九尾』へと変身する。

 

「……」

 

対するオーディンは、見るからに呆れた様子で身構える。

 

「……!」

 

九尾は、その様子に怒りを露わにしなかった。その必要さえなかった。たった一つの信念を貫く為に、己の生きる威力を武器に。

自ら孤独に逃げていた時には、退屈な時間を過ごしていた時には得られなかった、本当の強さを知ったからこそ、彼は戦う。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

自由と平和の尊厳を守る仮面ライダーとして、未来を担う1人の少年として、榊原大地は、立ち向かう。

 

 

 

 




キリがいいので、今回はこの辺で。

次回、遂に決着……!

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