魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

気がつけば年は明けて、2月半ばに……。リアルが忙しかったのもありますが、どうにか頑張っております。今年はまほいくがアニメ化されて5年目という節目でもあるので、どうにかして完結させる所存です。




130.モンスターが選ぶ道

 

〜イライラしたから〜

 

浅倉 陸にとって、数多の悪事に手を染めた理由は、その一言に尽きる。もっとマシな言い訳はないのか、と呆れる者もいるかもしれないが、それが彼の本音なのだから、仕方ないのだ。

家庭環境は、決して良いとは言い難いものだった。父からのDV、それを受けた母からの八つ当たり、ただ泣き喚くだけの弟。それらが複雑に絡み合い、浅倉の中は、得体の知れないもので毎日煮えくりかえっていた。

そんな中での、彼の唯一のストレス発散といえば、ケンカだった。相手は誰でも構わなかった。歳下の子供だろうが、ヤンキー上がりの高校生だろうが、拳を振るえる相手がいるだけで、満足していた。

自分の中に理由もなく溢れてくる、闘争心と憎悪、更には常に暴力の中で生きてきた事が積み重なった結果、ある時を境に、彼は頭のネジが外れたのか、自分以外の家族が寝静まっている間に、家に火を放ち、全焼させると同時に3人の親族を葬った。当時13歳の彼が警察に疑われなかったのは、彼がやったという明確な証拠が一切残っていない事や、まさか中学生が、自分の家族を手にかけるなどありえない、などといった配慮もあって、結果として当時の警察の調べでは、『両親が火の管理を怠り、偶々外に出ていた彼だけが助かった』という形で一旦幕を下ろす事に。その後は遠い親戚の援助もあり、高校に通いながらアルバイトを転々とするなど、人間らしい最低限の行動はしていたが、その間にも、彼の中で世間に対する苛つきが溜まり続けており、ある日を境に、彼は人間を辞めた。

それ以降は自分でも歯止めが効かなかったらしく、『イライラした』という理由だけで、常に標的を求めては襲撃し、強盗や暴行などの犯罪を、警察に追われながら続けていた。酷い時には殺人も犯しており、殺した数は、本人曰く『イライラし過ぎてて、殆ど記憶にない』との事。

長い逃走劇の末、若手の刑事だった『須藤 充』らを初め、多くの警察官の動員の成果もあり、遂に浅倉は逮捕。尚も暴れ続けるその凶暴性に危機感を覚えた一同は、即座に拘置所に放り込まれた。

捕まってもなお、外に出たい欲はあり、弁護士として悪名高い『北岡 賢治』に弁護を求めるが、その彼を持ってしても、あまりにも罪状が重いという事で、どれだけ手を尽くしても懲役10年が限界だと告げられた時には、『役立たず』と称して、生まれて初めて、明確な殺意を覚えた。

どうにかしてあの弁護士を殺したい。早く外に出て、このイライラを発散したい。そんな自分を夢見ていた時、それは轟音と共に、唐突に訪れた。

 

「あんたにチャンスを与えてやりに来たのさ」

 

後に開催されたデスゲームのパートナー、魔法少女『カラミティ・メアリ』が、牢屋を破壊したとされるバズーカーを片手に、笑いながらそう語っていた。最初は喧嘩の相手が増えただけだと思っていたが、彼女は自分の事を気に入ったのか、協力的な姿勢を見せ始めた。類は友を呼ぶ、とまではいかないかもしれないが、浅倉自身も、この魔法少女に対してはさほどイライラしなかった。似たような境遇にいたからなのかもしれないが、ともあれこれで再び自由を得られたのに変わりはない為、互いに狂気に満ちた笑い声を響かせながら、シャバの空気を満喫する事に。

拘置所を脱獄して最初にメアリに案内されたのは、人目につかない森の中。誰かと待ち合わせをしているようだ。しばらくして彼の前に姿を見せたのは、薔薇のエルフを彷彿とさせる魔法少女と、黄金色の不死鳥をモチーフとした仮面ライダーだった。

 

「こんばんは、浅倉 陸さん。私は森の音楽家クラムベリー。話は隣にいるオーディンから全て伺っております」

「ようやく会えたな」

「……アァ?どういう意味だ」

 

ミステリアスな雰囲気を醸し出す2人を前に、浅倉はイライラする以前に、理解が追いつかない様子だ。

 

「お前には、私と同じ仮面ライダーとしての資格がある。この力を手にすれば、人間を遥かに超越した、絶対的な力を手にする事が出来る。望みを果たす事も、造作もなくなる」

 

そう言ってオーディンが懐から取り出したのは、どこにでもあるようなスマホだった。浅倉自身は端末などの類は生まれた時から一度も手にした事がない為、興味津々だ。

 

「何だそれは」

「本来ならこの『仮面ライダー育成計画』をやり込む事で適合者を見出し、力を与えるのだが、お前は端末の操作を知らないだろうから、今回は特例だ。数を増やすのが目的である以上、時間をかけさせる訳にはいかないからな。既に準備は済ませてある。後は、その画面をお前自身の手でタップしろ。そうすれば、お前は力を得られる」

 

差し出された端末の画面には、鳥のようなマスコットキャラクターが、今か今かと待ち構えている。それをひったくった浅倉はしばらく画面を眺め続けていたが、次の瞬間には、狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 

「……こいつを押せば、北岡を殺せるのか?」

「正確には、そうする事が出来る力を手にするのだがな。ただし注意しろ。下手に一般人に正体がバレてしまった場合は、その時点で資格を剥奪する。その力で暴れるのは自由だが、慎重に相手を選ぶ事だな」

「知るかそんなもん。俺は、戦えればそれでいいんだよぉ!」

 

そう叫んで画面をタップする浅倉。次の瞬間には、浅倉の姿はオーディンとシローの手で予め設定されていたアバターと同じ姿になり、仮面ライダー『王蛇』は、変貌し自身を見回しながら、歓喜に満ちた雄叫びを、森の中に轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッラァァァァァァァァ!」

 

ベノサーベルが空を切り、壁から火花が散る。ナイトとライアを武器を突き出し、王蛇を後方に吹き飛ばすが、さほどダメージは入っていない様子だ。狂ったように笑いながらベノサーベルを振り回し、壁に破壊の跡を刻んでいく。比較的狭い路地では、格好の的になりかねない。2人は一旦表通りに戦いの場所を移す。周りにはモンスターはおろか、人の姿もない為、巻き添えをくらう事はないだろうが、仲間からの援護も難しいはずだ。

 

「(それでも、やるしかない……!)」

 

これまではどちらかといえば、シスターナナのような立ち位置で、争い……もとい殺し合いには極力関わろうとはしなかったライアだが、かつては教育係として育ててきたナイトが、最恐のライダーに立ち向かう姿勢。そしてパートナーであるラ・ピュセルを初めとした多くの仲間が、その手で運命を変えようと抗ってきた闘志。それが、ライアに戦う為の一歩を踏み出させた。

 

「ウォォォォォォォォォ!」

 

エビルウィップを振るい、王蛇に少量ながらもダメージを与えていく。

 

『SWING VENT』

 

「今度はお前が……!俺と遊んでくれるのかぁ!」

「ライア!」

「心配するな!気が狂った訳じゃない!」

 

ナイトの呼びかけにそう反応し、ライアはエビルウィップを王蛇の右腕に絡め取って、思いっきり引っ張る。眼前に来た王蛇に左手で殴り続けるライア。果敢な攻めの姿勢に、王蛇も足元がおぼつかない様子だ。

 

「フハハハハハハハハハッ!」

 

『STRIKE VENT』

 

だが王蛇はそんな事などお構いなしにと、メタルホーンを装着して、ライアを攻撃する。鋭い突きを回避しつつ、ライアは王蛇の右腕を掴み、動きを封じると、そこでようやく口を開いた。

 

「ライダーや魔法少女同士の戦いが始まって、最初は遠ざけてきたお前とは、嫌というほど戦ってきた……!お前と手合わせする度に、お前の事が、少しずつ分かってきた……!確かにお前は、戦いに飢えた、モンスターだ……!戦う事が、お前にとっての、唯一の生き甲斐……!お前は生まれた時から、抗いようのない運命に縛られて、戦い続けてきた……!そうなんだろ……!」

「知るかそんなもん……!グダグダ言わずに、戦えぇ!」

 

ライアを振り解き、突き出したメタルホーンがライアの右肩を掠め取る。ライアは右肩を抑えながら、語り続ける。

 

「可哀想な奴だな……!戦う事を運命づけられているというのは……!だが、お前を知る事で、お前が本当に望んでいる運命も、分かってきた……!」

「何の事だ……!」

「……お前は。本当は、死ぬ事を望んでいるんじゃないのか?」

「⁉︎」

 

ライアの唐突な一言は、王蛇だけでなく、後方にいたナイトの手を止める事に。

 

「自分で気づいているかは分からないが、お前の度を超えた戦いぶりは、同時に自分の寿命を縮ませる。今にしたってそうだ。幾ら異常な精神力を持っているお前でも、人間の域を脱却する事は出来なかった。度重なる戦いの結果、お前の体は、既に限界に達している。その姿が、何よりの証拠だ」

 

ライアが指摘しているのは、王蛇の状態だ。ナイトも目視で確認した。確かに戦いばかりに目を向けていたが、よく見れば王蛇の足は震えているようにも見える。体の方が、追いついていないようだ。

 

「お前はもう疲れているんだ。戦いの果てに、死ぬ事を望んでいる。それを誤魔化す形で、力を振るい続けている。大した精神だが、今の俺には占いなどしなくても、お前の結末が見えている」

「……黙れぇ」

「今のお前は、死の運命を望んでいても、そうなる事を本能的に恐れている。だから、戦い続ける運命を選び続けてきた。お前は」

「黙って、俺と戦えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

王蛇は雄叫びをあげて、素手で殴りかかってきた。何発かはくらったライアは転がって後ずさるが、すかさずナイトがフォローに入る。

 

「ライア!こいつに言葉は通じない!覚悟を決めろ!」

「……元よりそのつもりだ」

 

心配無用、とばかりに立ち上がるライア。

 

「俺は、雄一の死が引き金となり、他人の運命を変えたくなった。最初は何をやっても変えられない事に焦り、同時に無理だと納得してしまう自分がいた。……けど、お前やあいつらは、違った」

「ライア……」

「人には、自分の意志で運命を変える力がある。それを目の前で指し示してくれた事で、俺の中の迷いは消えた」

 

そう言ってカードデッキから1枚のカードを取り出すと同時に、彼の周囲に電流が渦巻き始める。ナイトは一歩下がり、ライアはカードを強く握りしめる。

 

「運命は変えられる。王蛇……いや、浅倉!お前の運命は、俺が変える!」

 

[挿入歌:Revolution]

 

『SURVIVE』

 

エビルバイザーツバイに『SURVIVE 〜雷電〜』をベントインし、ライアサバイブに進化。王蛇は恐れる事なく、3枚のカードを引き抜く。

 

『UNITE VENT』

『SCYTHE VENT』

『STRENGHT VENT』

 

1枚目は、現在王蛇が従えている3体の契約モンスターを合体させ、ジェノサイダーを召喚させるカード。2枚目は、レアアイテムの1つで、アビスを倒した際に拝借した、極めて強力な武器。3枚目は、今は亡きパートナーの力を宿したパートナーカードで、手持ちの武器を強化。王蛇は、持ちうる戦力を最大限に引き出し、2人を殺そうとしているようだ。

 

『TRICK VENT』

 

ライアサバイブだけでは危険だと判断したナイトは、『シャドーイリュージョン』を使って手数を増やす事に。

 

「モンスターは俺がやる!お前は王蛇を!」

「あぁ!」

 

ライアサバイブは頷き、

 

『COPY VENT』

 

王蛇が持っている大鎌をコピーして、手元に構える。

 

「ウォォォォォォォォォ!」

「ハァッ!」

 

甲高い金属音が鳴り響き、激しく火花が散る。だが同じ武器であっても、王蛇の方はパートナーカードの効力で威力が上がっている為、実際にはライアサバイブが防戦一方のようだ。

 

「(今は、それでいい……!奴が力を使い果たした時が、勝負だ!)」

「ウォラァ!」

 

王蛇は、足が震えているにもかかわらず、果敢に攻めてくる。ライアサバイブに指摘されてもなお、戦う事を止めない。側から見れば狂人の域に達した行動。しかしライアサバイブにとって見れば、虚勢を張っているようにも見えたのだ。

哀れな奴だ。ライアサバイブがそう思っていると、遂に戦局が動いた。

 

「グッ⁉︎ウォォ……!」

 

大鎌を振るい続けてきた王蛇の膝が曲がり、地面に触れる。足のバランスを崩したようだ。

 

「!ここ!」

 

『SHOOT VENT』

 

エビルバイザーツバイの先端に電気を溜めると、そこから雷を帯びた矢『ライトニングアロー』が放たれ、王蛇の右脇腹を貫く。血が流れ出て、呻く王蛇だが、その程度では、と言わんばかりにこちらへ駆け抜けてくる。

 

『THUNDER VENT』

 

だが手を緩めるつもりはない、と言わんばかりに、次なるカードをベントインし、上空にエクソダイバーを出現させると、腹の車輪が回転し、雷を落とす『ヴェイパースパーク』が炸裂。王蛇は回避する間も無く全身が痺れ、遂に大鎌が手元から離れる。手から離れた事でパートナーカードの効力が意味を成さなくなり、雷に打たれた大鎌は刃先が割れてしまう。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

『FINAL VENT』

 

あらん限りの雄叫びをあげて、王蛇はカードをベントイン。コピーを含めたナイトと戦っていたジェノサイダーの腹部が、ブラックホールのように漆黒の空間を作り上げる。ハッとなって後方を見ると、直線上にライアサバイブや王蛇の姿が。

 

『FINAL VENT』

 

「これで、終わらせる……!」

 

ライアサバイブも決着をつけるべく、カードをベントイン。上空を旋回していたエクソダイバーが急降下し、ライアサバイブは飛び上がって構える。王蛇は腹部を負傷しているにもかかわらず、気にも留めない様子で、ライアサバイブに向かって走ってくる。

 

「(雄一……。お前もさぞ無念だったろうな。こんな奴のせいで、運命を狂わされ、挙句死を選んだ。だから、ほんの少しだけ、お前の仇を討たせてもらう!だがこの一撃は、奴の運命を変える為のものだ!その事を間違えるつもりはない!)」

 

従来のハイドベノンに威力を底上げさせた『スーパーハイドベノン』が、王蛇の『ドゥームズデイ』と激突する。

 

「雄一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

互いの必殺技がぶつかり合い、膨大な爆炎が、ジェノサイダーやナイトを巻き込む。ナイトは呻きながら離脱したが、ジェノサイダーは素早く動けない事が仇となったのか、全身が炎に包まれて、雄叫びと共に消滅した。

 

「グハッ……!」

「!ライア!」

 

爆炎の中から吹き飛ばされる形で出てきたのは、サバイブの効力が消えたライアだった。その傍らには、王蛇が取りこぼした大鎌が落ちている。ナイトが駆け寄ろうとしたその時。

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

爆炎の中から雄叫びをあげて出てきたのは、全身を炎に包まれた王蛇。直線上に落ちていたベノサーベルを手に取ると、ライアにぶつける。胸部から血が噴き出たのが確認された。呻き声と共に崩れ落ちるライア。だが王蛇は手を緩める事なく、振り返りざまにベノサーベルを突きつける。

 

「手塚ぁ!」

 

思わず本名を叫んでしまうナイト。鈍い音が、ナイトの耳に届く。2人のいる地面に、血が滴り落ちている。仮面の下で驚愕するナイト。

 

「ウッ……!ガハッ……!」

 

だが呻き声が聞こえたのは、ライアではなく、王蛇の方からだ。見れば、ベノサーベルの先端は、腹部の装甲に当たってはいるが、貫通はしていない。腹部から血が出ているのは、王蛇の、肥大化した大鎌の先端からだった。

 

『ALTER VENT』

 

「皮肉なものだな……。パートナーカードの力を借りて、お前にトドメを刺すとは」

「ウッ……!グァァァァァァァァァァァァ……!」

 

王蛇はライアから離れ、よろけて、そして仰向けに倒れ込んだ。と同時に変身が解け、腹から血を流す浅倉の姿が露わとなる。ライアも起きあがろうとしているが、力を使い果たしてしまったのか、思うように動けていない。すかさずナイトが駆け寄り、肩を担いで浅倉から遠ざかる。

 

「一体何が起きた……?」

「簡単な事だ。パートナーカードで、こいつを肥大化させた。向こうの一手が届く前に突き刺すつもりだったが、そう都合良くはいかなかったか」

「それは分かる。それより、どうして奴の攻撃がお前を貫けなかった?メアリの魔法で強化されていた筈だ」

「それも単純明快だ。奴のパートナーカードの効力がたった今切れた。だからこの胸の怪我も、大した事にはならずに済んだ。どうやら、俺の中の悪運が、奴に勝ったようだな」

 

フッと笑いながら、徐々に足に力を込めるライア。

 

「……ここだけの話。俺の占いが正しければ、俺はこいつに勝つ事は出来なかった筈だった」

「!」

「俺の占いは当たる。だが」

「運命は変えられる……だろ?いい加減聞き飽きた」

「……よく分かってるじゃないか」

「とにかく、これ以上ここに長居する必要はない。こいつはどの道助からないだろうしな」

 

依然として腹部から出血している浅倉を見下ろしながら、ナイトはこの場からの離脱を提案する。ライアも、これ以上は無理だと判断したのか、それに同意する。

 

「……おい、待てよぉ!」

 

去る間際、浅倉が声を張り上げる。

 

「まだ、戦えるだろぉがぁ……!もっと、もっと戦いたいんだぁ……!俺と、戦えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!」

 

仰向けになりながらも、戦いを強要する浅倉に対し、ナイトに掴まりながら、ライアは淡々と呟く。

 

「変えられない運命ほど、変えたくなるものだ。お前はもう、戦い続ける必要はない。もうすぐ、そのしがらみから解放されるんだ。……死の運命を、受け入れるんだ、浅倉」

 

それだけ告げると、2人はその場を去る。浅倉はそれ以上引き止める事なく、腹部の激痛に耐えながら、起きあがろうとする。体が徐々に冷たくなっていくのを感じた。

 

「……死ぬ、のか?この、俺が……!」

 

如何に浅倉といえど、自分の死期が近づいてきている事を自覚しているようだ。

 

「……フフフ。フハハハハハハッ!」

 

だが、それでもなお、彼は笑っていた。まるで死ぬ事を、恐れていないようだ。否、事実彼は、死を恐れてはいなかった。彼の耳に、モンスターの鳴き声が複数聞こえてきた。バッと起き上がると、シアゴーストの大群がこちらに向かってきているのが確認できた。ナイトとライアの姿はない。シアゴーストの標的は、浅倉ただ1人に絞られた。獲物を見つけたとばかりに、シアゴーストは走り出した。

だがそれは、浅倉も同じ。戦う相手が、向こうから寄ってきてくれたのだから、出血など気にも留めていない様子だ。

 

「フハハハハハハッ!そうか、俺は死ぬのか!……だからどうしたぁ!俺はぁ……!俺はァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

今戦えれば、それで十分だ。例え最期の祭りであっても、浅倉は手を緩めない。ゆっくりと歩き始める浅倉のつま先に、鉄パイプが当たった。ここまでの乱闘で破壊された部品のようだ。拾い上げると、狂気に満ちた表情で鉄パイプを握り、そのまま獣の咆哮と共に、変身する事なくシアゴーストに殴りかかる。鈍い音がぶつかり合い、鳴き声が響き、地面を赤く染め上げる。

それでもなお、浅倉は笑い続けた。戦い続けた。全身を赤く染め上げながらも、戦いに悦を感じ、本能のままに腕を回し続ける。地獄と化したN市の繁華街の一角で、狂ったような雄叫びが、しばらくの間、轟き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

駆けつけた警察官の目についたのは、全身を噛みちぎられた痕を遺しながらも、狂ったような笑みを浮かべ、仰向けに倒れ込んでいる、脱獄犯の生き様だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《中間報告 その19》

 

【王蛇(浅倉 陸)、死亡】

 

【残り、魔法少女5名、仮面ライダー5名、計10名】

 

 




……というわけで、後の仮面ライダーシリーズ……もとい特撮全般において、多大な影響を与えたであろう仮面ライダー王蛇、ここで脱落とします。

実際、凄い影響力はあったと、龍騎の放送終了後から今日に至るまでの事を思い返すと、そう言わざるを得ないと思います。スピンオフを含めると出てくる回数も多いので、それだけ人気があったと伺えます。

さて、次回はいよいよ、最終決戦へ……!

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