魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

今回はタイトル通り、最後の日常回です。と言っても2人しか出ませんが。

ゼロワンもいよいよ終わりが見えてきましたが……。
(新型コロナウイルスによる影響があったとはいえ)さすがに日曜の朝9時に、子供向けと称してあの内容は如何なものかと、首を傾げる今日この頃です。


128.最後の平穏

「残ってるのは、11人……」

 

自分1人しかいない室内にて、ベッドの上でうつ伏せになりながら、大地は呆然と呟く。外では参拝客らしき声が飛び交っている。世間一般で言う所の冬期休暇に入り、神社に出入りする人も増えてきているが、ほとんど耳に入ってこない。

先日のクラムベリー脱落から、早3日。この理不尽なデスゲームにも、いよいよ終わりが見えつつあった。生き残りの枠は8つ。現時点で残っている仮面ライダーと魔法少女の数は、計11人。数日の内には、3人がいなくなり、長きにわたる地獄から解放される。

しかし、それが何よりも怖かった。その3人の中に、同じ派閥として共に戦ってきた者が、最低でも1人は含まれてしまうのだ。仮に敵対勢力である王蛇とオーディンを倒せたとしても、まだゲームは終わらない。それに王蛇とオーディンは、共に仮面ライダーの中でもズバ抜けた戦闘力を兼ね備えている。強敵を前にして、勝てるビジョンが浮かばないのもまた事実。最悪の場合、同じチームの中から3人脱落する可能性を踏まえなくてはならない。

 

「どうすりゃいいんだよ……!」

 

頭を抱えて悩む大地。そんな彼の元に、今となっては嫌気が差すような声が聞こえてきた。

 

『あぁ、やぁっぱりここにあったのかぽん!』

 

それは、机の上に放ってあった、マジカルフォンと見た目は同じだが、少しだけ装飾がある円形の端末から浮かび上がった、魔法少女育成計画のマスコットキャラクター、ファヴの声だった。

その端末は、元々はクラムベリーの持ち物だったが、先日、ラ・ピュセルがクラムベリーを倒した後、九尾達が駆けつけ彼女を介抱。その際、足元に転がっていた端末を拾い上げ、手掛かりになるかもしれないと考えてそのまま懐に入れていた。後にその端末が、自分達が住むN市にいる魔法少女及び仮面ライダーの監督役である事を示す、魔法の国特製のマジカルフォンである事を、折れた左腕が完治しつつある颯太から聞かされた。監督役というのは、即ちクラムベリーである事は容易に想像できた。

やはり彼女は、このゲームの根本に関わっていた。できる事ならもっと情報を聞き出したい所だが、既に仲間の手で葬られた後だ。パートナーであるオーディンの足取りも掴めぬまま、行き詰まっていた所に、ファヴが姿を見せたのは、ある意味で好機だったのかもしれない。

だからこそ、ラ・ピュセルを唆し、同じ魔法少女を仕方なかったとはいえ殺害させるに至らせた元凶に怒りを覚えつつも、それを悟られぬように感情を押し殺しながら、起き上がって机の上に顔を向ける。

 

『クラムベリーがやられて、この端末がどこにあるのかずっと気になってたけど、森の中に放置されてなくて良かったぽん!』

「……言いたいのはそれだけか?だったら帰ってくれ。こっちは1人になりたい気分なんだよ」

『まぁまぁそう言わずに。仮面ライダーの中では新人でありながら、ここまで生き残っている功績者である九尾にこの端末を拾ってもらえるのは、こちらとしても有難い事なんだぽん』

「?どういう事だ」

『特別に教えてあげるぽん。実は後3名脱落しなくても、生き残れる方法があるんだぽん』

 

僅かに、ピクリと小さく跳ねる大地を目視したファヴは、意気揚々に語り始める。

 

『この試験を終わらせる方法。それは、マスターの脱落ぽん』

「マスター……。それってまさか、颯太が言っていた、この街を事実上牛耳っていたクラムベリーの事なのか……?」

『う〜ん、それじゃあ50点だぽん。確かにクラムベリーもマスターの1人である事に違いはないけれど……』

 

ここまで聞けば、大地もファヴが示そうとしている答えが見えてきた。

 

「マスターは他にもいると言う事か。だとしたら、パートナーのオーディンが……」

『大正解だぽん!この際だからネタバラシするけど、この試験はマスターの考案によって成り立っていると言っても過言じゃないぽん。選抜方法はマスターの采配によって幾らでもあるけど、クラムベリーとオーディンのそれは、明らかに異常をきたしている。これは九尾も嫌というほど味わったはずぽん?』

「……やはりこの戦いは、あいつらが」

『ぶっちゃけた話、ファヴもシローも、2人の言いなりになる事にうんざりしてたんだぽん。これまでも稀有な能力を持つ魔法少女や仮面ライダーは悉く2人の手で潰されてきちゃったし、そろそろ魔法の国としても人材確保の死活問題に関わってきそうだから、これを機に現状を打開しようと考え、こうして九尾にお願いしに来たんだぽん!』

「……それはつまり、残ったマスターであるオーディンを倒せ。そう言いたいんだな」

『そうだぽん。そうすれば、これ以上無駄な犠牲は無くせるぽん』

 

左右に小さく揺れながら、平然と答えるファヴ。最初からマスターを倒せばゲームが終わると分かっていたならば、何故もっと早く教えてくれなかったのか。鋭い視線を浴びせてくる大地を見て、ファヴはその質問に答える。

 

『や、あのね。本当はもっと早く教えてあげればなぁとは思ってたんだけど、クラムベリーに口止めされちゃってて、中々言い出せなかったんだぽん。それにクラムベリーもオーディンも、とっても強いのは知ってたから、正直脱落するとは思わなかったんだぽん。そこへ来てマスターの片割れがやられたから、ひょっとしたらって思いで顔を見せたんだぽん』

「……」

『本当なら、クラムベリーを倒したラ・ピュセルに、新しいマスターになってもらいたいなぁとは思ってたんだけど、本人は全然乗り気じゃないみたいだし、何となくマスターには不向きな感じがするぽん。ただオーディンを倒すだけなら、シローを通じて王蛇にもお願いしてもいいかな〜なんて思ってたけど、それはそれで後が困るぽん。彼は能力と殺人のセンスは天才的だけど、管理者としては全く向いてないし、頭の配線が何本か焼き切れているぽん。放って置いたら、今回以上に悲惨なゲームが開催される危険性があるぽん』

 

それは確かに、と同情しつつも、段々とファヴに肩入れしてしまっている自分に腹が立ってきている。

 

『とまぁ以上の点を踏まえて、現状オーディンに勝てる可能性のある仮面ライダー、九尾に是非ともお願いしたいんだぽん。九尾がマスターになってくれたら、安心できるぽん。てなわけで期待してるぽん!』

 

そう告げると、要は済んだとばかりにそそくさと端末から消えるファヴ。それと入れ替わる形で、今度は仮面ライダー育成計画のマスコットキャラクターが、隣に置いてあった自身のマジカルフォンから浮かび上がる。

 

『……ファヴからある程度の要件は聞かされたようだな』

 

シローは隣に目をつけてそう呟く。

 

「次から次へと……。同じ事を言いに来たのか?」

『まぁ、そんな所だ。取り越し苦労だったようだ。なら、早々に失礼させてもらう』

 

そう言ってすぐに消えるのかと思っていたが、何故かしばらくの間、そこに居座ってジッと大地を見ていた。

 

「……何だよ」

『少し忠告をな。オーディンが裏で何かをしている事は前にも話したが、いよいよそれが本格的に動き出しそうだ』

「!」

『後悔しないように心がける事だ』

 

そうして今度こそ姿を消したシロー。再び静寂が部屋の中を包み込む。ため息を一つついて、再び寝転がる大地。

オーディンの企みも気になるが、それ以上にファヴの話が脳裏から離れられない。オーディンを倒して、自分がマスターになる事で、このゲームを自身の権限で終わらせられる。当然、仲間を切り捨てる事なく、生き残れる。胡散臭い話ではあるが、状況証拠だけなら、辻褄があっているのもまた事実。

されど不安の方が全体を占めている。これまでに2回ほど対峙したオーディンだが、あれは他の仮面ライダーと比べても、異常な強さを兼ね備えている。最初に戦った時は、ラ・ピュセルと2人がかりでも圧倒された。その後、サバイブの力で戦った時も、苦戦する事は無かったが、それでも劣勢だった事には変わりない。そしてもう一つ、仮に今の自分の力がオーディンを上回ったとしても、完全に息の根を止めるだけの覚悟が、自分にあるのだろうか。以前、恩師であるオルタナティブをベルデに殺され、仇を取ろうとした事があった。しかし目前で躊躇った。故に今の自分に、自分の手を汚す事なんて無理だと思い知らされ、それでも無念に散った者達の意志を継いで戦っていこうと、スノーホワイトとの一戦で覚悟を決め、新たな力を手に入れた。

大地は瞑想する。こんな時、彼女ならどうするのだろうか。少し前に、仲間を守る為にその手を血で染めたパートナーなら、どんな事を思うのか。彼女の傷心を抉るようで躊躇いもあったが、悩んだ末に、大地はマジカルフォンを手に取り、彼女に確認のメッセージを送った。

この後、2人きりで会いたい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、久しぶり、だよね。こうやって、だいちゃんと並んで、歩くの」

「……そう、だな」

 

自分から誘ったにも関わらず、会話が長続きしない自分の不器用さに呆れを感じつつ、大地は小雪と共に住み慣れた街の商店街を歩いていた。特にプランはなかった。

冬休みに入り、すれ違う人の数もいつもと比べても多くなった。だが、いつもこの時期になるともっと人で溢れかえっていたような気がする。

 

「(まぁ、無理もないか)」

 

大地が心の中でそう呟くように、心当たりはあった。この街で相次ぐ、若者を中心とした不審死。中宿で起きた、日本国初のテロ行為。脱獄犯とその仲間と思しき女性が起こした立てこもり事件。これらの要因が、外を出歩くのを躊躇わせる要因なのかもしれない。

改めて見ると、いつも通りだと思われていた日常が、こうした綻びで変わってしまう事に関心がいく大地。いつも通りで変わり映えがなく、どこか冷めた感じで毎日を過ごしていた自分にも、微量な変化に気づくだけの心はあったんだな、と思い知らされた。

それから大地は、小雪に顔を向ける。あの日以来、やつれたような雰囲気が目立っていた彼女だが、少しずつ元の姿を取り戻しつつあるようだ。その事に少し安堵する大地。

 

「?どうかした、だいちゃん?」

「っ。いや、何でも……。それより、少しいいか?出来れば、ここじゃ話しにくいから……」

 

それを聞いて、彼女の顔が僅かに強張ったように見受けられた。何かを悟ったような顔つきだ。小雪は小さく頷くと、大地と共に商店街から離れるように小道に入った。

しかし冬休みという事もあってか、思うように人目から遠ざかる事が出来ない。仕方なく、人がいなくなったのを確認した2人が変身して、見つからないようにビルの上を飛び跳ね、人の気配がない場所へと向かっていった。

そうして2人が自然と足踏みを揃えて辿り着いた場所は、海水浴場前の鉄塔。まだ魔法少女や仮面ライダーになりたての頃、ライアとラ・ピュセルと共に待ち合わせ場所にしていた高台だ。依然として人の気配はなく、ここでなら気兼ねなく話せると思った。ただ、夕方とはいえ肌寒い風が肌を撫でる。変身を解除した2人は自然と寄り添った状態で腰を下ろした。

 

「懐かしいね。あの時も、こうやってみんなで仲良く話したりしてたの、覚えてる?」

「……あぁ」

「……ねぇ、だいちゃん。今更だけど、どうして、私に会いたいって思ったの?」

「……」

 

さすがにこれ以上は黙っていられない。そう思った大地は、小雪に顔を向ける。その真剣な表情に背筋がピンと伸びる小雪。

 

「……なぁ、小雪」

「う、うん」

「小雪は、さ。魔法少女になれて、後悔とか、してないか?」

 

それを聞いて、言葉が詰まる小雪。魔法少女に憧れていた彼女の、今の心境。明るく平和的なものだと信じていたものから裏切られた、暗くて残虐的な悲しみと絶望。この数ヶ月でどんな変化があったのだろうか。

 

「……キャンディーの数とかは、正直、どうでも良かったと思う。ただ、魔法の力で困ってる人を助けて、その人が笑顔になるのを見て、生きてるって自分に言い聞かせていたんだと思う。だから、魔法少女になれて、だいちゃんや色んな人達と出会えて、新しい世界に出会えたみたいで、凄く嬉しかった」

 

でも、魔法少女や仮面ライダーを笑顔には出来なかった。小雪は、スノーホワイトは、その部分を強調させる。

 

「みんな友達だと思ってたし、大切な人だと思ってた。ねむりんがいなくなった時も悲しかったけど、それ以上に、先生が死んじゃった時から、段々魔法少女や仮面ライダーが殺されて、いなくなる度に、心が苦しかった。こんな苦しい思いをするなら、魔法少女にならなければ良かった。そんな事を思ってた時もあった。スイムスイムを殺しちゃった時も、自分はもう、魔法少女じゃいられない。自分が何の為に生きてるのか、分からなくなった」

 

淡々と吐露する小雪を黙って見つめる大地。夕日は沈み、段々と街頭に灯りが入り始める。

 

「……でもね。だいちゃんが教えてくれたんだよ。大切な人を守る為に戦ったなら、それも魔法少女なんだって。あの一言があったから、私は立ち止まらなくて済むんだよ。スイムスイムを殺した罪は消えない。消えないから、今度は同じ過ちを犯さない為に、私は魔法少女として、今の日常を守っていきたいの。……なんて、変だよね。泣き虫で弱虫で、逃げてばかりだった私が、こんな事言えるなんて」

 

最後の方は苦笑いになりながら、己の生きる理由を語る小雪。その姿に、大地は自然と圧倒されていたのかもしれない。今まで、守るべき対象としか捉えていなかった彼女が、ここまで強くなっていたとは。

 

「……そうか。強いな、小雪は」

「えっ。そ、そんな事ないよ。だいちゃんの方こそ、みんなの為に一生懸命になって、頑張ってきたんだよ。私は、そんなだいちゃんにいつしか憧れて、もっと強くなりたい。自分の意志を持って魔法を使いたい。そう思えるようになったきっかけを作ってくれただいちゃんに、感謝してるんだよ」

「小雪……」

「選ばなかった事を後悔するんじゃなくて、後悔する前に、自分で選ぶ。もう遅いかもしれないけど、これからは、そんな魔法少女で在りたい。だから、魔法少女になれた事を後悔は、してないよ」

 

後悔はしていない。その一言を聞いて、大地はどことなく安堵した表情を浮かべる。ここに至るまで色々な挫折があったにも関わらず、最終的にはここまで強くなれたとは。

ならば、自分も後悔しない道を進んで行こう。これから先、スノーホワイトや仲間と共に。

 

「っと。そろそろ時間だな。みんなと合流しないとな」

 

決意を新たに、立ち上がろうとする大地だが、不意に小雪が彼の袖を握り、止まってしまう。

 

「ね、ねぇだいちゃん。その……。もうちょっとだけ、このまま一緒に、いてくれる、かな……?」

「……そう、だな。お前がそれを望むなら、何なりと」

 

そう言ってお礼と言っては何だが、小雪のわがままに付き合う大地は腰を下ろす。肌と肌が触れ合う寸前まで近寄り、冬の寒さに負けぬように、暖め合う2人。間も無く、夜が訪れる。魔法少女として、仮面ライダーとして活動するにはうってつけの時間帯だ。

もしかしたら、こんな景色が見られるのも今日が最後になるかもしれない。でも、もう一度見たい。一緒に並んで座りたい。その為にも、生き残りたい。その為には、戦うしかない。もう躊躇わない。大地は、握ろうとしてきた小雪の手を逆に握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ミラーワールドのとある川原では……。

 

「もうすぐ、全てに決着がつく。この世界に、人間の悪意が蔓延する限り、真の安息は訪れない」

 

そう呟く、黄金色の仮面ライダーの目線の先には、繭に包まれた物体が、川を埋め尽くしていた。彼は腕を組みながら目線を上げ、ジッと虚空を見つめている。

 

「全てを終わらせよう。人智を超えた力を持って、この世界に、粛清をかけるとしよう」

 




次回、遂に最終決戦の幕が上がる……!

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