魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

コロナウイルスの影響は、依然として各方面に大打撃を与えていますね。特にアニメの延期や、大会イベントの中止等が悔やまれます……!
少しでも改善出来るように、一人ひとりが意識して体調管理をする事が重要です。頑張りましょう。

さて、今回でまた1つの決着がつきます。


127.勝利を求めて

「あぁ、蘇る……! あの興奮が、喜びが……! 私が、私らしくいられる……! これほど嬉しい事はありませんよ……! この試験は、『当たり』ですね……!」

 

森の音楽家クラムベリーが見せるその瞳は、ラ・ピュセルサバイブには向けられていなかった。頬を朱色に染め、欲望の赴くままに、体を動かす。飽くなき欲求が、クラムベリーの原動力なのだと、相手は否が応でも思い知らされる。事実、クラムベリーの過去を端的に聞いたラ・ピュセルサバイブの全身は、側から見ても震えている。

 

「魔法騎士ラ・ピュセル。あなたは素晴らしい。スノーホワイト同様、改めて価値を見直す必要がありますね。生き残っている魔法少女と仮面ライダーは、間も無く10人を切ろうとしています。敬意を表して、手加減なしでやらさせていただきたいと思います。……原形も留めないほどの死体に、変えて差し上げましょう」

「……っ! やられて、たまるか……!」

 

気力だけで持ち直すラ・ピュセルサバイブ。死にたくない。生きたい。仲間を守りたい。理想を叶えたい。そんな感情が、言葉に出ずともヒシヒシと伝わってくる。

クラムベリーにはそれが滑稽に思えた。戦いに意味など求めてどうするのだろうか。どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。結局のところ、この戦いの行方は2つに1つだ。余計な思考は、戦いの勝敗を大きく左右する事に、彼女は気づいているのだろうか。

 

「名残惜しい所ではありますが、決着をつけましょうか」

「……そう、だな」

 

ラ・ピュセルサバイブは、大剣を片手に、呼吸を整える。先程のような、エクソダイバーとの連携による奇襲は先ず効かないと見て良いだろう。そう何度も偶然が続くはずもないし、向こうも対策は練っているはずだ。相手は本気でこちらを殺しにかかってくる。しかし力量の差は明らかだ。殺し慣れている相手に対し、どうにも良心は捨て切れない自分。だが、ここまで来て逃げる選択肢は選べない。ここで背を向ける事、即ち仲間を危機に晒す事に直結する。

 

「(だったら……! 大地や小雪、みんなの手をこんな奴の血で汚さない為にも……!)」

 

次で、一撃で決める。どんな形でも良い。相手をリスペクトする事はもうやめよう。理想をかなぐり捨ててでも、勝利を掴みとる。それが汚いやり方だとしても、今この場で、自分達の敵を倒す。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

咆哮と共に、地面を蹴るラ・ピュセルサバイブ。真っ直ぐとクラムベリーに向かっていく。

見透かされている事を前提に、力技で相手の懐に潜り込もうとしているようだ。猛ラッシュを仕掛けて、動きを封じる事が出来れば、首を飛ばせるほどの一撃が届くと思っているのだろう。

 

「(遂に万策でも尽きた……という事でしょうか)」

 

対してクラムベリーは呆れが生じていた。奇襲を仕掛ける気がないとはいえ、あまりにも直線的すぎる。同じ手を食うつもりはないとはいえ、つまらないにも程があるだろう。

軽くバックステップを踏みながら、ラ・ピュセルサバイブとの距離を離そうとするクラムベリー。しかし向こうもしぶといものだった。大剣の質量を物ともせず、更に加速する魔法騎士。これもサバイブの恩恵なのだろう。

クラムベリーには、どうでも良い事だったが。

 

「この……痴れ者が!」

 

業を煮やしたのか、超音波のカッターを放つが、これを跳躍してかわしたラ・ピュセルサバイブは、クラムベリーの頭上を越え、彼女の背後に回る。クラムベリーの舌打ちが聞こえてきたのと同時に、ラ・ピュセルサバイブはマジカルフォンをタップし、唯一まだ使っていない武器を召喚する。

エクソダイバーツバイ。ライアサバイブの召喚機でもあるこの武器には、中〜近距離では絶大な威力を発揮する技がある。

それは、巨大な弓矢。魔法によって光の矢を形成し、エクソダイバーツバイに装填する。弓を引いてチャージすれば威力が上がるが、この至近距離ならば、時間をかけずとも、絶大な威力をもって、敵を粉砕できる。

 

「(……なるほど)」

 

愚直に正面からしか仕掛けてこなかったのは、不意をついてこの状況を作り出し、背中を討つ為。高潔な騎士としてはあるまじき行為なのかもしれないが、それでも勝利を求めた結果、このような戦法に至ったのだろう。そこまでして勝利を得ようとする姿勢には、クラムベリーも評価していた。

 

「よせぇラ・ピュセル!」

 

不意に、ラ・ピュセルサバイブの耳に、九尾の声が届いた。何故ここに彼が来ているのか? 声のした場所を探ろうと、意識を目の前から逸らした。直後、それが間違いだと気づいた時には、クラムベリーの右肘が、みぞおちを直撃し、後退してしまう。

 

「(しまった……! クラムベリーの魔法は音を自在に操る事! さっきの九尾の声は、クラムベリーが僕を油断させる為に……!)」

 

だが体勢を整える間も無く、クラムベリーの右手がこちらに向けられている事に気付いた時には、すでにクラムベリーは笑っていた。鼓膜に響くほどの耳鳴りが、ラ・ピュセルサバイブの足を竦ませてしまう。

刹那、周囲の草が巻き上がり、後方の木々が軒並み吹き飛ばされた。轟音がラ・ピュセルサバイブの身を殴り、弾き飛ばされる。指向性の破壊音波である為、その分魔法の力を一点に集中させている為、威力は高い。地面に叩きつけられたラ・ピュセルサバイブの口と鼻から、生暖かい液体がドボドボと滴り落ちているのが確認できた。自分でも気づかないうちに、口の両端がつり上がっていた。

昔を思い出す。あの地下室で、この力でオーディンと共に悪魔を撃退したのだ。あの時の快感が忘れられない。忘れられないから、今でもこんな風に試験の中で、数多の魔法少女や仮面ライダーの候補生を吹き飛ばしてきた。ファヴに何度も殺してはならないと注意されても、本能のままに、魔法を行使してきた。

ラ・ピュセルサバイブが立ち上がってきているのが、遠目で確認できる。いつもならこの一撃で相手の息の根が止まっているのだが、単純に狙いが逸れたのか、相手の耐久値が高かったのか、まだ立ち上がろうとしている。

まだ勝利を掴もうと、抗おうとしているのか。なるほど確かに、ここまで生き残るだけの事はある。根性だけなら、他の魔法少女や仮面ライダーと比べても、トップクラスに入る。

 

「……でも、勝てないんですけどね」

 

そう呟いた時には、かざした右手は射程圏内を捉えていた。ハッとなったラ・ピュセルの素顔が見えた時には、上空に吹き飛ばされ、無抵抗のまま、地面に叩きつけられ、バウンドして草むらの中に消えたのが確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少々勿体無かった気もしますね。動きも良いですし、発想力も勘も良い。魔法能力も決して悪くはありませんでした。後は……、経験値の乏しさと、戦いの意味を履き違えたまま私の前に現れた愚行が、この結果ですかね」

 

顎に手を当てて、そう考察するクラムベリー。

強い相手が足掻き苦しみ、それでもクラムベリーによって討ち滅ぼされる。そしてクラムベリーはギリギリで凌ぎ、勝利する。そうやって彼女は、戦いに悦を感じられるように立ち回ってきた。本来、試験監督であるクラムベリーが勝ち残っては、強者を選別するという目的に反しているのだが、力量差も見抜けず、自分に粉をかけてくる間抜けが悪い。強さの違いが把握できていないのだから、その間抜けは選ばれるべき強者ではない。それがクラムベリーの持論だった。

殺し合いという分野に関しては、クラムベリーに勝てる魔法少女や仮面ライダーなど、N市内には存在しない。例えそれがパートナーであるオーディンだとしても、自分にはそれを上回る力がある。候補生の1人であるラ・ピュセルなど論外だ。

 

「……おや?」

 

クラムベリーは首を傾げる。

森の音楽家は耳が良い。平均的な魔法少女よりも遥かに優れた聴力を持つ。当然ながら、ラ・ピュセルが全身を強く打ち、骨の折れる音も聞こえていた。仕留めたかと思っていたが、まだ鼓動も呼吸も止まっていないのが分かる。

 

「虫の息、ですか。2回も私の破壊音波をくらっていながら、でもまだ生きていようとは」

 

なかなかに打たれ強い。サバイブの力を得た事で、思った以上に耐久値が上がっていたのだろう。クラムベリーは苦笑する。ならば次に自分が取る一手はただ一つだ。

 

「フフフ……! 良いでしょう。ぐちゃぐちゃに踏み潰して差し上げますよ」

 

完全に息の根を止める為に、草むらをかき分け、倒れているラ・ピュセルに向かって歩み寄り、踵を上げる。後頭部を踏み砕いて、今度こそ終わらせようとしている。

 

「さぁ、これでお終いで……?」

 

直後、クラムベリーの表情が、恍惚から困惑へ。その原因は、目線の先に広がる光景にあった。

踵を向けた先に、ラ・ピュセルは、魔法少女はいなかった。人間の、それも中学生と思しき少年が、息も切れ切れに倒れているではないか。これがラ・ピュセルの変身前の姿である事にはすぐに気づいた。音波による攻撃で意識が途絶えて、変身が解除されたのだろう。

クラムベリーには、人間性が磨耗しているという自覚はあった。魔法少女だろうが、人間であろうが、必要があればどんな相手でも殺してきた。そこには、小学生だろうが大人だろうが赤ん坊だろうが老人だろうが、関係なかった。恩人恋人親兄弟、誰であっても抹殺する。年齢も関係性も度外視して。

しかし、ほんの一瞬だった。コンマ1秒の、半分もいかないくらいの短い時間ではあるが、踵を下ろすのを躊躇してしまった。

クラムベリーには、試験監督という立場上、この試験に参加する魔法少女や仮面ライダーについて、オーディンと共にデータを閲覧する権利があった。しかし戦闘狂である彼女にとって、個々の強さや能力には興味を持っていたが、正体に関しては全くの無頓着だった。それが裏目に出たのだろう。対峙した魔法少女の正体が、幼女でも熟女でもなく、異性であるという事実が、クラムベリーを戸惑わせた。

 

「(これが、ラ・ピュセルの正体……?)」

 

動揺し、心が乱れるクラムベリー。

ここで思い出してもらいたい。戦いにおいて、余計な思考は勝敗を大きく左右する事になる、という言葉。

変身、と小さな呟きが聞こえてハッとなった時には、光が解けて、男子中学生は魔法騎士へと姿を変え、右手に持っていた短剣が、クラムベリーの服を貫通した。貫通したとは言っても、実際に服を貫いて腹に食い込んでいるのは、剣先だけで、僅か数ミリほどしか傷が付いていない。咄嗟に放たれた一手は体力の疲弊によって、痛みにすら換算できていなかった。当然ダメージなどない。笑みを浮かべるクラムベリーは、勝利を確信する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に視界が歪み、その目線が上空に向けられている事に体が気づくまでは。

一瞬の事で、理解が追いついていない。下半身の感覚がない。血が、温もりが、腹の下から抜け落ちている。

腹から上、つまり上半身だけが上空を舞い、腸が地面に零れ落ちているのが理解できた。何がどうしてこうなったのか困惑するクラムベリーだったが、すぐにその原因が分かった。ラ・ピュセルの魔法は、剣の大きさを自在に変化させるもの。それが小さな剣であっても、一瞬にして大剣に変貌させる姿を何度も見てきた筈だ。

そして、体に突きつけられた短剣が魔法によって肥大化した場合、その体はどうなるのか。

巨大なギロチンと化した大剣が、クラムベリーの体を両断するなど容易い事だろう。力のこもった、懐に飛び込んだ明確な一撃だ。

相手を見て油断した事に対する後悔が頭に浮かんだが、それを搔き消すように、目の前に人影が。地面から飛び上がったラ・ピュセルだ。体を切断しただけでは足りないと思ったのか。徹底した攻めの姿勢に驚くクラムベリーだったが、不意に笑みが零れた。

眼前には振り下ろされる大剣が迫っているが、その奥に見える、魔法騎士の瞳は、死が近づいている森の音楽家の瞳にしっかりと刻まれていた。月明かりをバックに、突き刺すように鋭く、獣のように研ぎ澄まされており、明確な殺意を持ってぶつけている、その目線。

嗚呼、これだ。確信すると同時に、目の前は真紅に塗りつぶされ、ラ・ピュセルの全体像は掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を荒げて地面に着地すると同時に、クラムベリーの上半身が音を立てて目の前に落ちてきた。その上半身には、大きく斜めに裂かれた傷跡がある。そこから流れ出る血がドクドクと地面の草を真っ赤に染め上げていく。ふと見れば、自分の体にも、クラムベリーの返り血が染み込んでいる。あれだけ至近距離で魔法を行使し、折れた左腕を庇いながらトドメを刺したのだから、こうなるのも無理はない。

 

「……っ! はぁっ……!」

 

膝をつくラ・ピュセル。目線が下降して、上半身から零れ落ちる腸や臓器が見えてしまい、吐き気を覚えるラ・ピュセル。そのきっかけを作ったのは自分だが、未だに実感が湧いてこない。

自分が、クラムベリーを殺した。この激しい命の奪い合い改めサバイバルゲームにおいて、重要とも言える役割を果たしたにも関わらず、満足感は微塵として受け入れられない。

 

「……フフフ。アハハ……!」

 

ハッとなって目線を上げると、未だに笑みを崩さないクラムベリーの顔が見えた。傷も深く、既に血が体内から流れ出て、いつ絶命してもおかしくない筈なのに。痛覚が麻痺しているのだろうか。

 

「……やっぱり戦いは、ゾクゾクする……! なんて、心地良い……!」

 

それから目線が、こちらを唖然とした表情で見つめるラ・ピュセルに向けられる。

 

「ラ・ピュセル……! ようやく、見つけましたよ……! わたしの理想に、相応しい魔法少女……!」

「!」

「生かして育てて、私のように、強さだけを、生き甲斐にし、最強を常に、目指し続ける……。九尾ならそれが出来ると、確信していましたが……! ここにも、いましたか……!」

 

段々と目線が外れかけている事に、本人は気づいているのだろうか。血を吐きながら、クラムベリーは笑みを崩さない。

 

「最後の最期で、造り上げた……! 私の、理想の、魔法……少女……! 勝利の、為なら……! 全てを捨てても、戦う……! ラ・ピュセル……! あなたは……」

 

そこまで言い切った後、静寂が続いた。上半身に力が入っていない。今度こそ事切れたようだ。

月明かりに照らされながら、膝をつくラ・ピュセルは、呆然と静止している。体は、冬場なのに火照っている。体内に流れる血がそうさせているのか、はたまたこの返り血が、そうさせているのか。

しばらくして、轟音を聞きつけて駆けつけたであろう、同じチームの魔法少女と仮面ライダーが姿を見せた。目の前に広がる光景に、一同は息を呑む。

ナイト、リップル、ライアはラ・ピュセルが生存していた事に安堵し、龍騎とトップスピードは両断された状態で事切れているクラムベリーを目の当たりにして、唖然としている。スノーホワイトとハードゴア・アリスは、どう声をかけるべきか分からずとも、ラ・ピュセルに駆け寄り、無事を確認する。彼らの存在に気づいたラ・ピュセルは、一度彼らの方を向いて、そのまま倒れかかる。咄嗟に九尾が彼女の体を支え、緊張から解放された反動からか、変身が解けると同時に、意識を手放した。

九尾は何も語る事なく、その体を抱き上げ、騒ぎにならないうちに、皆と共に撤退する事に。

一度だけ、九尾は顔だけを変わり果てた音楽家に向けたが、すぐに目線を外した。音楽家の、死して尚も恍惚な表情は、見るに耐えないものがあったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その18≫

 

【クラムベリー(本名不明)、死亡】

 

【残り、魔法少女5名、仮面ライダー6名、計11名】

 

 




クラムベリーは、原作でもスイムスイムの正体を知って動揺したのが敗因だったので、今作でもラ・ピュセルに置き換えてこのような展開にしました。

間も無く最終決戦。ここまで来たからにはやりちぎっていく所存です!

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