魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

年明け以降の『仮面ライダーゼロワン』の展開が凄すぎますね。
中でもあの1000%社長は……。過去に類を見ないぐらいのクズっぷりを遺憾なく発揮してますね。仮面ライダードライブの蛮野博士に次いで、改めて『人に対する殺意』をラーニングさせられましたよ。
カッとなって人を衝動的に殺す方々の気持ちが、今ならよく分かります。(これ言い過ぎかな……?)

……それはさておき、いよいよこの2人が対決します。


126.竜狩りの騎士vs狂獣の音楽家

『いや〜、こればっかりはファヴも予想だにしない、刺激的な展開だったぽん!』

 

夜明け前の船賀山。その一角にある廃屋の中で、黒白の球体がこれでもかと鱗粉を撒き散らしながら、興奮冷めやまぬ様子を、ベッドで仰向けに寝転がっている音楽家に見せていた。

 

『まさかあの穏健派だったスノーホワイトが、ダントツのスコアを叩き出していたスイムスイムをやっつけるとは、夢にも思わなかったぽん。いやはや、やっぱり魔法少女も仮面ライダーも、可能性に満ち溢れているぽん! ファヴの想像を軽〜く超えてくる辺り、今回の試験は大当たりで間違いないぽん!』

「……そうかもしれませんね」

『? 珍しいぽん。クラムベリーがファヴの言葉に同調するなんて』

「そうでしたか? まぁ、どうでもいい事ですけど」

 

平然を貫き通そうと、天井を見つめ続けているクラムベリーだが、その顔が恍惚に満ちている事に、本人は気づいているのだろうか。

事実、魔法少女の中ではねむりんに次ぐ最弱候補と罵っていたスノーホワイトが、殺し合いを幾度となく否定してくる印象の強かった魔法少女が、同じ同種族を、それも冷酷で効率的な精神性を併せ持ち、参加者の中でもトップクラスの魔法を得ていたスイムスイムを殺した、と言われても、当初はクラムベリーもファヴからのそのような報告を信じていない節があった。

しかし、結果は結果だ。どのような経緯があったかなど、クラムベリーにとってはどうでもいい事だった。ただ、スノーホワイトがスイムスイムを殺した。その事実があれば、高揚感を底上げさせられる。

 

『これなら、スノーホワイトを最終候補に残してあげてもいいかもしれないぽん。生かしておけば、もっとも〜っと刺激的なものが見れそうだぽん。てな訳でマスター』

「……欲しい」

『ぽん?』

 

不意に手のひらを挙げたクラムベリーを見て、首を傾げるような動作を見せるファヴ。

 

「ウィンタープリズンやオルタナティブと戦った時のような感覚、そしてラ・ピュセルの代わりにと出向いてきた九尾との死闘。特に九尾は、期待通りに随分と楽しませてくれました。ウィンタープリズンとオルタナティブの2人とやりあえなかったのは心残りですが、そろそろあの時のような手応えが欲しくなりましたね。誘われるまで待とうかと思いましたが……」

 

気が変わりました。

上に挙げた右手で拳を作り、口の両端をつりあげるクラムベリーの顔は、朝日に照らされていた。

 

「私は参加者であり、この試験におけるマスターでもある。やりたいようにやる権利はあります。……スノーホワイト。評価を改める必要がありますね。彼女と死力を尽くして戦う事が出来れば、……フフフ」

 

以前戦った時は、相手が弱腰だった事もあってワンサイドゲームになっていたが、今回は、失望する事もなさそうだ。候補生だか何だか知らないが、強者へのし上がろうとする彼女と戦い、血色がよく似合う花にしてみせよう。

 

『……』

 

そんな彼女をジッと見つめていたファヴは、音を立てる事無く、端末から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

項島台ダムの一角にある広場は、普段から人が寄り付かない場所だ。円状に石畳が敷き詰められていたり、木製のベンチが数台設置されているだけで、見栄えの無い所である。

そんな場所に、多量の花束が供えられていた。菊の花以外には、小学生向けの筆記用具等が置かれている。デザインからして、女児向けのものと考えられる。

その少女の両親や関係者と思しき人達が、肩を落とし、嗚咽を鳴らしながら立ち去っていく後ろ姿が見えなくなったのを確認した小雪は、近くの雑木林から出て、彼らが去っていった方を向いて立ち止まり、体を震わせながら、深々と頭を下げた。本当ならすぐにでも彼らの元に駆け寄り、謝罪したい気持ちだったが、どうにかして堪えた。

それから、花が置かれている場所の前に立ち、手に持っていた花束を備えた。線香の匂いが、僅かに鼻をくすぐる。その隣には、古びた絵本が置かれていた。『白雪姫』である。先ほど、母親と思しき人物が花と一緒に備えていたものだ。亡くなった少女の愛読書なのだろう。胸が締め付けられる気持ちで一杯だった。

花束を置き、一歩下がった小雪は、膝を曲げて、両手を合わせ、体を震わせながら、力強くその体勢を維持する。

 

「……んなさい。ごめん、なさい……! ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

震える声で、自分の手で少女にトドメを刺した時の事をフラッシュバックさせ、ひたすらその言葉をかけ続けた。こんなつもりじゃなかったはずなのに。ただ、殺されそうになったリップルを助けようとしただけなのに。今更謝っても、許してもらえないはずなのに。

それでも、ここに来る事しか、他に懺悔する方法が思いつかなかった。あの日から数日経ち、何を食べても味がせず、授業の内容が全く頭の中に入ってこず、友達と楽しく会話する気にもならない。何を想像しても、怖いとは思えなかった。あらゆる感覚が麻痺しているのだろうか。

これが、魔法少女になるという事なのだろうか。生き残る為に、あらゆるものを犠牲にしなければならないのが、正しい事なのだろうか。

ふと、何かに呼ばれたような気がした小雪が目線をあげる。

ピンク色のスク水と、ムッチリしたボディを兼ね備えた魔法少女が、無表情のまま、小雪を見下ろしていた。

 

「ヒッ……⁉︎」

 

反射的に立ち上がり、よろけながら後退する。実際には、そこには花束が置かれている以外、何も無いのだが、小雪には現実と幻の区別がつかない様子だ。意識が落ちかけ、目の前が真っ黒になりかけた時だった。背中に、ぶつかる感触があった。

 

「やっぱ、ここにいたか」

 

聞き覚えのある、低い声だった。背中を支えてもらいながら振り向くと、パートナーの姿が。

 

「だい、ちゃん……」

「相当やつれてるな。全然寝てない感じだ。……まぁ、こんな状態じゃ、無理ないか」

 

そう呟く大地の目元も、薄っすらと隈が見えた。

それから小雪を地面に座らせ、先ほど小雪がいた地点に腰を下ろし、どこかで拾ったであろう、一輪の花をそっと地面に置き、両手を合わせた。

 

「坂凪 綾名……か。どうやら本当にお姫様に憧れてたみたいだな。ルーラをあそこまで崇拝したのも、それが理由か」

 

備えられた絵本やネームプレートを見て、独り言のように呟く大地。それから、振り返る事無く小雪に問いかける。

 

「あの時の事、やっぱり気にしてるか」

「気に……するよ……! 私の、私のせいで、泣いてる人達が、いるんだもん……! みんなを、幸せにする魔法少女に、なりたかった……! それなのに、こんな……! 私はもう、魔法少女じゃない、人ごろ」

「お前は魔法少女だ」

 

返す刀で声を張り上げる大地。小雪は押し黙る。

 

「アリスから聞いたぞ。あの時、お前が手を出さなかったら、リップルが殺されていたかもしれないってよ。そうなれば、パートナーであるナイトはいざ知らず、トップスピードだって悲しむ。……勿論、俺やチームのみんなも例外じゃない。お前の行動が、結果としてリップルの『幸せ』を守った。だから、お前は何も悪くない」

「でも……!」

「……結局さ。シスターナナの考えを否定するようになっちまうけど、敵も味方も死なせずに、穏便に済ませるなんて、ハナから無理な話だったのかもな。事実、俺の目の前で、多くの魔法少女や仮面ライダーが死んでいった。それが戦いの本質なのかもしれない」

「……」

「きっと他の連中も、死ぬ覚悟は出来ていたのかもな。生き残りたいという願望も強かったはずだ。スイムスイムには、スノーホワイトと比べてその強さを持ち合わせていなかった。だから負けた。それだけだ。だから、お前が負い目を感じる必要なんてないはずだ」

 

小雪が黙っている間、ダムから流れ出る滝のような音が、静まり返った広場を支配している。

 

「その通りだ。お前が負い目を感じる必要などない。遅かれ早かれ、こうなる事は運命付けられていた」

 

不意に小雪の背後で声が。2人同時に振り返り、腕を組みながら佇んでいる黄金色のライダーの姿を確認する。

 

「オーディン……!」

「スノーホワイトがスイムスイムを倒した。確かに予想外の展開ではあるが、魔法少女や仮面ライダーの本質に目を向ければ、それほど珍しいものではない」

「どういう、事……」

「ファヴやシローと契約を結んだ時点で、異能の力を得て魔法少女や仮面ライダーに選ばれた時点で、『人間』ではなくなっている事にまだ気づいていないのか? 力に選ばれた者が、より強くなる為に戦いの渦中に呑まれるのは必然。スイムスイムはその一環で失格の烙印を押されたに過ぎない。それでも本気で誰も傷つかず、争いを止められると思っていたのなら、能天気にも程がある」

「……っ」

「その事を、お前達はもう分かっているはずだ。力をぶつけ合い、勝ち残り、己の欲望を、願いを叶える。それが魔法少女であり、仮面ライダーである事に、もう気づいているはずだ。その理想を限りなく近づける為に何が必要なのか。だからその答えを確かめる為に、それを期待してここに来た。そうなのだろ?」

 

静かにそう問いかけるオーディン。小雪は何も言い出せないのか、拳を固めて震えている。そんな中、大地が小雪の前に立ち、こう言い放つ。

 

「……勘違いするなよ」

「?」

「俺は、小雪は、そんな答えを見つける為にここに来たんじゃない。俺達のあるべき姿をどう決めるか、それは、俺達で決める。お前の道案内は必要ない」

「ならばなぜここに来た」

 

オーディンの問いかけに答える前に一度、後方の花束に目を向ける大地。そして元に戻り、口を開いた。

 

「確かにスイムスイムは、俺達にとって敵だった。争いは避けられなかった。……けど、俺達と同じ『人間』だった事には、変わりない。そいつが生きていた証を、ここに刻む為に、俺達はやってきたんだ」

 

右の親指を左胸に立てる大地。そして次に、懐からカードデッキを取り出してオーディンに見せつける。

 

「そして今は、こいつの中にも引き継がれている」

「サバイブ……か」

「だから……!」

 

カードデッキを強く握りしめ、オーディンを精一杯睨みつける大地の後ろ姿は、とても大きなものだと、小雪は感じ取る。

 

「俺は、お前らのやり方を否定する。お前が何を企んでいようと、必ず俺が止めてやる。小雪には、これ以上手出しさせない。人間として散っていった奴らの分まで戦う……! 何ならこの場で……!」

 

そうして鏡のある場所を目線で確認しようとする大地だったが、不意にオーディンが待ったをかけた。

 

「やめておこう。お前とは、日を改めて決着をつけたい。戦いの舞台がこうも寂しげでは興に欠ける。せいぜい、その時が来るまで互いに傷を舐めあい、力をつけておく事だ」

 

『TIME VENT』

 

ゴルトバイザーを出現させると、カードをベントインし、その場から姿を消した。時間を逆流させて、元いた地点に戻ったようだ。気配がなくなった事を確認して、カードデッキを下ろす大地。

 

「だいちゃん……」

「小雪。お前は、自分を見失うのが、怖いんだろ?」

「!」

「確かにお前は、魔法少女を殺した。それは事実だ。自分の理想を自分で否定してしまった事に恐れている。……でもお前はその分、他の魔法少女を守った。今回の事だけじゃない。お前の人助けで、助かった人達が大勢いる。中には亜子のように、命を救われた者だっている」

「それ、は……」

「その事に誇りを持って、生きる事を簡単に諦めるな。その力が誰かを傷つける事になったとしても、躊躇うな。お前には、守りたいものがあるはずだ。自分の信じた正義の為に戦うんだ。それを叶える為に戦えるのなら……」

 

不意に小雪の両肩を掴んだ大地は、そのまま自分の胸元に押し付けた。

 

「俺は、お前の分まで背負ってやる。哀しみだろうと、何だろうと」

 

力強くそう宣言する大地に抱かれて安心したのか、嗚咽と共に、パートナーの名前を呼び続ける小雪。ダムに吹き荒れる風が、多量の花束から発する匂いを運び、抱き合う2人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

時刻は少し飛んで、その日の夕方。

人気のない鉄塔でただ1人、座禅のように目を閉じて、集中している女騎士の姿があった。

思い起こされるのは、数日前に見た光景。スノーホワイトからの連絡を受けた後、出発に遅れてしまい、現場に駆けつけた時には、既に決着がついていた。雨に晒されながら泣き崩れるスノーホワイトには多量の返り血がついており、その側にはスイムスイムの変身者と思しき女児が事切れており、薙刀が深々と突き刺さっていた。

もっと早くこの事態に気づいていれば、スノーホワイトはその手を汚さずに済んだかもしれない。彼女を守ると誓ったにもかかわらず、その誓いを何一つ果たせていない自分に憤りを感じていた。

もっと強い自分でなくては。魔法少女ラ・ピュセルの決意は固かった。故にこうして1人で、イメージトレーニングに没頭しているのだ。

 

「……そろそろ時間か」

 

気がつけば、チームメイトと合流する刻限まで1時間を切っていた。そろそろ切り上げようと思って立ち上がった時だった。

 

『ラ・ピュセル、ラ・ピュセル』

「ファヴ? 何の用だ。僕は呼び出した覚えなど」

『わー、そう言わずに電源切る前に、ファヴの話も聞いてほしいぽん』

 

わざとらしく慌てふためくファヴに、冷めた目つきを浮かべるラ・ピュセル。そのまま本当に電源を切ろうかと思っていたが、ファヴの次の一言で、その指を止める事に。

 

『実はクラムベリーが、スノーホワイトに会いたがってるみたいで、でもスノーホワイトは気分が悪そうだからやめといた方が良いって言ってるのに、執拗に会おうとしてるぽん』

「……!」

 

スノーホワイトとクラムベリーの接触。前に、スノーホワイトがクラムベリーに絶命寸前まで追いやられた事をリップルから聞いている為、表情が強張るのも無理はない。

 

『それにここだけの話、クラムベリーはスノーホワイトを倒そうとしてるに違いないぽん』

「っ!」

『この前スイムスイムを倒したって知ってから、もう一度戦いたいだなんて言ってたぽん。ファヴとしては、こういう形で魔法少女を減らされるのは後味悪いぽん』

「散々僕らをたぶらかして、何を今更……!」

『じゃあスノーホワイトを見殺しにするぽん?』

 

ファヴにそう言われ、マジカルフォンを壊れる寸前まで強く握りしめるラ・ピュセル。

 

『んじゃ、特別に教えてあげるぽん。クラムベリーは君が魔法少女に選ばれるずっと前から魔法少女として居座っていたのは知ってるはずぽん。だからこの街の魔法少女の監督役を務めてきたんだけど、その地位を良い事に、悪い事をいっぱいしてるぽん。シザースを殺したのも、君やスノーホワイトを殺そうとしたのも、その一環に過ぎないぽん。ファヴもシローも、クラムベリーの性格には困り果てているぽん。それで、それに打ち勝つ魔法少女や仮面ライダーを探してて』

「……それが今回、僕らに巡り回ってきた、という事か」

『そういう事ぽん。言うなればこれは、君が望んできたドラゴン退治みたいなものぽん! 今こそ悪い(クラムベリー)を討伐して、君こそが主人公になる時だぽん!』

 

ファヴにそう言われて、考えるそぶりを見せるラ・ピュセル。決断に至るまでは、数秒もかからなかった。

 

「僕はお前の指示に従うつもりはない。主人公になるつもりなんてない。……けど、スノーホワイトが狙われているのなら、僕が戦うしかない。情報の提供には感謝する」

『ラ・ピュセルならきっと大丈夫ぽん。それじゃあ、頑張ってほしいぽん!(ふ〜ん。こういうのにはノってこないか。今回の試験に選ばれた連中はひと味もふた味も違う。面白いものが見れそうだ)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや。あなた1人で私に会いに来るとは。歓迎したい所ではありますが、私は強者を求める身。一度敗北を喫したあなたの底は知れています。そんなあなたにはもう興味なんてありませんよ」

「お前には無くても、私には大事な用だ。スノーホワイトには、手出しさせない」

 

船賀山の中腹で、月明かりに照らされながら向き合う、魔法騎士と森の音楽家。拠点を出て、街に降りようした矢先、見覚えのある魔法少女が待ち構えており、眉をひそめるクラムベリー。

 

「どうしても彼女に会いに行くというのなら、私を倒してからにしてもらおうか」

「やれやれ。どこからその情報を……なんて、答えは一つしか考えられませんね。大方、ファヴに唆されたのでしょう。随分と余計な立ち回りをしてくれたものです。……まぁいいでしょう。軽く準備運動を済ませてからでも遅くはありません」

「なら、その準備運動が、お前の最期の決闘だ!」

「相変わらず威勢だけは良いですね。でも、それだけで勝てるほど、現実は甘くありません」

 

『SURVIVE』

 

マジカルフォンをタップし、その姿をラ・ピュセルサバイブに変えると、剣を鞘から引き抜き、魔法の力で肥大化させた。対するクラムベリーも、マジカルフォンをタップしてゴルトセイバーを召喚。

先手を打ったのは、ラ・ピュセルサバイブだった。地面を蹴り、大剣を突き出す。それをヒラリと飛んで回避するクラムベリー。空中に上がったのを確認したラ・ピュセルサバイブは、大剣を持ち上げ、そのまま剣をさらに肥大化させる。クラムベリーの背後から大剣が迫り、両断しようと襲いかかる。が、クラムベリーは慌てる事なく両足の面を大剣につけて威力を殺す。更に力を込めて、クラムベリーを押し潰すように地面に叩きつけた。

土煙が晴れるのを待って敵の姿を確認しようとするが、それよりも早く、クラムベリーがゴルトセイバーを突き出して迫ってきた。剣を元の大きさに戻し、いなす事だけに集中するラ・ピュセルサバイブ。隙を見て足払いでクラムベリーを転がし、踏みつけようとするが、すぐに横に転がった事で、地面にクレーターが出来ただけだった。一旦距離を置いたクラムベリーは、不敵な笑みを浮かべる。

 

「フフ。まるでデジャヴですね。そういえば以前も、こんな風に屋根の上で向かい合い、ミラーワールドで死闘を繰り広げていましたね。でも、今度は時間切れなんて形で終わらせませんよ。それに九尾といった援軍もいないようですし、思う存分楽しめます」

「クラムベリー……! 今日こそ決着をつける!」

 

再び間合いを詰めるラ・ピュセルサバイブ。対してクラムベリーは左手のゴルトセイバーで受け止めて、右手のゴルトセイバーでラ・ピュセルサバイブに斬りかかろうとする。咄嗟の判断で、左足を振り上げ、ゴルトセイバーを弾き飛ばす。しかしその事に意識を向けてしまった事で、大剣による攻撃を緩めてしまい、ゴルトセイバーで弾かれると同時に、距離を詰められ、右膝による蹴りを腹に受けてしまう。一気に酸素が吐き出され、意識が朦朧とする。そこへクラムベリーが追撃とばかりにラ・ピュセルサバイブの肩を握り、近くの岩壁に叩きつけた。口元を掴み、そのまま拳を振り上げ、顔や腹に強烈な一撃を与えていく。鼻や口から血が溢れ出てくるが、こんなところでやられるわけにはいかないと意地を見せ、次に来る拳を、僅かに動く足蹴りで弾き、カウンターとばかりにクラムベリーを吹き飛ばす。

 

「ハァッ!」

 

攻撃の手を緩める事なく、大剣をふるって飛びかかるが、クラムベリーはしゃがんで回避し、元に戻る反動で、カウンターとばかりに回し蹴りでラ・ピュセルサバイブを蹴り飛ばした。地面を転がり、土埃がラ・ピュセルサバイブを覆い隠した。

 

「さっきの威勢はどうしました? これで終いですかね。ならば楽にして……」

 

クラムベリーの口が止まったのは、煙の中から出てきた、棘のついた鞭が彼女の全身に巻きついたからだ。煙が晴れると、いつのまにか召喚したエクソウィップを握るラ・ピュセルの姿が。両手両足を拘束したのを確認したラ・ピュセルサバイブは、一気に斬りかかろうと、前に出ようとするが、

 

「(……! ダメだ!)」

 

クラムベリーの余裕綽々な表情を確認したラ・ピュセルサバイブは立ち止まる。直感的にそれ以上踏み込むのは危険だと察知したのだ。そしてその勘は的中。

辛うじて動く右手を軽く動かしただけで、エクソウィップは刃物で切られたように千切れ飛び、その余波がラ・ピュセルサバイブに襲いかかる。右頬を掠め取り、血が流れたが、幸いにもそれ以上のダメージはなかった。もし不用意に距離を詰めていたら、バラバラに千切れて地面に落ちたエクソウィップのように、ラ・ピュセルサバイブ自身もズタズタに引き裂かれていたに違いない。

 

「中々に良い機転を利かしてますが、お生憎様。私に切れないものはないのでね」

「それが、リップル達の言っていた、音を操る魔法か……! 音が超音波カッターのように……!」

 

破壊力抜群の腕力に加えて、魔法を応用させた超火力攻撃、そしてパートナーシステムによる武器の運用。何れも、これまで戦ってきた魔法少女や仮面ライダーとは比べものにならないほどの威力を兼ね備えている。

 

「(強い……! 単純に魔法能力が、というわけじゃない。それらを活かす為の運動力も兼ね備えている! 最初から敵を殺し慣れているとしか思えない動作だ!)」

 

まさに、歴戦の魔法少女。幾多の屍を踏み越えて、頂点を極めようとする威厳が伝わってくる。ゴクリと息を呑むラ・ピュセルサバイブ。

 

「さぁどうしました。先ほどまでの威勢が欠けてますよ。もっと私を楽しませてください」

「っ! やるしか、ない!」

 

ここで引き下がれば、スノーホワイトが彼女と戦う事となる。背中を見せて逃げるなど、魔法少女の、竜騎士の恥だ。数や作戦だけで押し通せる相手でないと分かれば、後は力比べだ。僅かな糸口でも突破口を見つけるしかない。

 

「エクソダイバー!」

 

ラ・ピュセルサバイブはパートナーの契約モンスターを呼び出し、挟み込む形でクラムベリーを追い込もうとする。

 

「(挟み撃ちですか。どうせどちらか片方が死角から攻め込むつもりなのでしょうが、そもそも私には、相手がどこにいるかなど、音を辿ればわかる事)」

 

ラ・ピュセルサバイブはクラムベリーの周囲を動き回りながら機を伺っているが、依然として正面に捉えている。となれば背後から仕掛けてくるのは……。

 

「(当然、契約モンスターしかいない。ですがモンスターの攻撃程度で私がやられると思って?)」

 

ならば先ずは、目の前に見えるラ・ピュセルサバイブの始末を。そう思って地面を蹴ろうとしたその時、爆発音と共に、クラムベリーがいた地点がせり上がった。エクソダイバーが放出した落雷が、クラムベリーの背後に落とされたのだ。

 

「(! 地盤ごと、地面を巻き上げて……!)」

 

バランスを崩し、注意を周囲に逸らしてしまい、地面を弾き飛ばすクラムベリー。横手からラ・ピュセルサバイブが急接近してくる事に気づいて、素早くマジカルフォンをタップし、ゴルトシールドを召喚。大剣とぶつかり合う。強い衝撃が武器に伝わり、互いの武器が弾き飛ばされた。すぐさま切り替えて、2人は地面に足をつけ、回し蹴りを叩き込む。

結果として、それぞれの蹴りは相手の頬に当たり、2人は吹き飛ばされた。共に地面を滑り、距離が離れた。

 

「掠っただけか……!」

 

口元の血を腕で拭うラ・ピュセルサバイブ。一方、クラムベリーは頬から血が流れている事に気付いて、それを手で触って確認する。先ほどの回し蹴りを受けた時、後ろ足についていた、竜の爪が頬に傷をつけたのだろう。

 

「……血だ。蹴られた頬が熱い……」

 

そう呟くクラムベリーを見て、ラ・ピュセルサバイブは畏怖を覚えた。ダメージを負ったにもかかわらず、その表情は恍惚としているからだ。

 

「フフ……! 良い、これですよ……! この時を待ちわびていた……!」

「……何なんだ」

 

そう、思わず呟いてしまうほど、ラ・ピュセルサバイブは知らないうちに震え上がっていた。

 

「何故、そこまでして殺し合いを望むんだ! 魔法少女は、こんな事をする為に生まれた存在じゃないはずだ! 一体何があったら、そんな事に……!」

「……純粋ですね。まるで、幼い頃の私を見ているようです」

 

不敵な笑みを浮かべながら、両手をダラリと垂れ下げるクラムベリー。余裕の表れだろうか。

 

「こんな事を言うと可笑しな話かもしれませんが、私にもかつて、あなた達のように、理想を夢見ていた時期がありましたよ。人間であった私が魔法少女として魔法の国に抜擢され、未知の世界への第一歩を踏み出す。期待と興奮で夜も眠れなかったと思いますよ。……でも、それ以上に私の本能を目覚めさせる事態が起きた。……一応は『事故』という形式でしたけど、私にはどうでも良い事です」

「事故……」

「『魔法の国』の住人として認められるには、魔法の国が課した選抜試験を受け、基準を満たして合格する必要があります。やり方はその試験の試験官……つまりマスターによって様々ですが、私の場合は、地下室に集められて、試験用に召喚された悪魔を相手に、個々の能力を見定めるものでした。そこで、事故は起きました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間『だった』頃の記憶は、とうの昔に薄れていた。

勿論、クラムベリーにも親はいたし、学校の友達もそれなりにいた。苗字は3文字で、名前は4文字。大して珍しい名前ではなかったはずだ。今となっては思い出す節もない。

ただ、魔法少女の候補生に選ばれたのが9歳頃だったのは覚えていた。喜びと期待に胸を膨らませていたに違いない。

その選抜試験には、自分以外にも候補生がいた。皆、自分よりも歳上であり、緊張していた自分を励ましてくれた。優しい人達ばかりで、試験が始まるまで、ずっと魔法少女になれた後の将来の事を語り合っていたような気がする。

力に選ばれたのは、魔法少女だけではない。仮面ライダーと呼ばれる者達も、その会場にいた。皆男の子だったらしいが、彼らも仮面で素顔を隠しつつも、やる気に満ち溢れていた。

そして待ちに待った選抜試験。召喚された悪魔を目の前にし、果敢に魔法を駆使して立ち向かう候補生達。クラムベリーも負けじとその背中を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……少し暗めな雰囲気の地下室が、天井いっぱいまで真っ赤に染まり、腐乱臭が漂うような、地獄の空間に彩られるまで、さほど時間はかかっていなかったような気がした。

その悪魔を召喚した魔法少女が未熟だった為か、早い段階で暴走し、密室内で縦横無尽に暴れ始めたのだ。さっきまで仲良く試験を受けていたクラスメイト達が、1人また1人と潰され、溶かされ、捏ねられ、砕かれ、そして原型をとどめないほどに、グチャグチャにされ、気がつけば、周りにいた者達は、ほぼ全員肉塊と化していた。クラスメイトだけでなく、召喚した張本人や、それを止めようとした試験官も、既に事切れていた。

後ろに下がって、仲間達が次々と殺されていく姿を、震えながら立ち尽くすクラムベリー。当時9歳だった彼女にとって、気が触れんばかりの光景だ。

悪魔が、立ち尽くしているクラムベリーに目をつけた。新たな獲物を捕食するべく、炎を放つ。嗚呼、ここで死ぬのか。夢を叶える事なく全てが終わるのか。クラムベリーは受け入れる覚悟を決めた。

しかし、彼女に死は訪れなかった。ギリギリのタイミングで、横から彼女を抱き抱え、飛び退く人物がいた。

黄金色の仮面ライダー。しかしその上半身は、真っ赤に染まっていた。彼の体から流れたものなのか、誰かの血を浴びたものなのか、区別はつかなかった。そのライダーはクラムベリーを下ろすと、雄叫びをあげながら、2つの剣を持って悪魔に斬りかかった。あれほどの強敵を前に何故逃げ出さないのか、困惑するクラムベリーだったが、そもそも逃げ場がない事を悟り、クラムベリーは震える自分を叱咤し、前へと躍り出た。

長い戦いの末、2人の一撃が悪魔を引き裂き、消滅させた。辺りが静かになる中、クラムベリーはただ1人、笑みを浮かべていた。感覚が麻痺している事もあるだろうが、それ以上に強敵を倒せたという事実に喜びを感じていた。殺戮の愉悦に涎を垂らす暴力の化身と拳を交え、魔法を打ち合い、お互いに死力を尽くした上で、相手を屈服させる。

彼女は理解した。これこそが、正義のヒーローとしてあるべき姿なのだと。強敵と戦い、勝つ事が、真の正義なのだと。

事態が終息した後も、後頭部からつま先まで血に浸りながら、恍惚に満ちた様子で立ち尽くすクラムベリー。背中越しのオーディンも、だんまりとしている。

 

『いや〜、最高だったぽん!』

 

それは、試験官が持っていた端末から、立体映像として浮かび上がった。白と黒の球体だった。人事部門を担当している、『ファヴ』と呼ばれる使い魔だ。この選抜試験では、事故を防ぐ為のチェック機能として働いていたはずだ。

 

『ここんところ、決まりきってて退屈な試験には、飽き飽きしてたぽん。ここにはいないけど、ファヴと同じ使い魔も後で呼んで、一緒に手を組んで、マスターとしてもっと刺激的に生きていくぽん!』

 

あの至高の瞬間を、もう一度味わえる。そう聞き取れたクラムベリーは、両手についた血を眺めながら、一も二もなく引き受けた。

 

「もっと、強い奴と、戦えるのなら……!」

 

 




新型コロナウイルスの話題が尽きませんが、皆さんも体調にはくれぐれもお気をつけてくださいね。

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