魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

ようやく就職先が決まったのですが、またしばらくは忙しくなるので、何卒ご了承ください。

そしてしばらくこのシリーズを投稿していない間に、龍騎シリーズは画期的なものとなりましたね! まさか芝浦まで本人のまま出てくるとは思ってなくて……。

今回であの対決に決着がつきます!


123.母親としての、真の強さ

「ハハハハハハハハハハッ! そぉらそらぁ! どこまで耐えられるか、見せてもらおうじゃないかぁ!」

「チッ……!」

 

半壊しかけたビルの一角にて、一方的な銃撃戦が繰り広げられている。カラミティ・メアリの足元には、使い切った銃が何種類も。リップルの足元には、空となった薬莢がいくつも。

人質のいる現場から遠ざける事に成功したものの、脅威は依然として収まる事を知らない。メアリの乱射攻撃に、短刀一本で弾いて耐えてきたリップルも、限界に近づきつつあった。

 

「(威力も弾数も、前とは桁違いだ……! 本気で私を殺しに来ているのは間違いないし、私もそのつもりで来たのに、もうこの刀では……!)」

 

メアリの魔法によって威力が上がっている弾丸を弾く度に、短刀は削れていき、次第に使い物にならなくなる。そうなる前に体制を立て直したいところだが、狂暴性の増したメアリはそんな隙すら与えてくれない。

万事休すか、と思われていたリップルだったが、上空から聞き慣れた声が。

 

「上に飛べ、リップル!」

 

リップルが反射的に飛び上がるのと、龍の咆哮と共に炎が降り注いだのはほぼ同時だった。

飛び上がったリップルの右手を掴んだのは、彼女の予想通り、ラピッドスワローに跨ったトップスピード。その右腕にはドラグクローが装着されており、ドラグクローファイヤーが、地上にいるメアリの動きを阻害している。メアリは何事か叫んでいるようだが、2人の耳には入ってくる間も無く、一旦上空に飛び上がって距離を置く事に。

 

「大丈夫か⁉︎」

「あぁ、何とかな……。そっちはどうなってる」

「レストランの人達は多分無事だ! 浅倉は正史達に任せたし、契約モンスターの方も、スノーホワイト達に何とかしてもらってるみたいだ」

「間に合ったのか……」

 

気が抜けないとはいえ、少しばかりホッとするリップル。その様子に、仲間に芽生えた、丸く優しい性格を捉えたトップスピードは笑みを浮かべる。

 

「? 何……?」

「いや、別に。それより、こっからどうする? このまま身を引くって手もあるけど……」

「逃げる事は、しない」

 

そう、キッパリと言い切るリップルの目線は、現実世界で騒ぎになっていたファミレスに向けられていた。

 

「このままあいつらを放置してたら、また被害が出る。必要のない犠牲が生まれる。それが分かっているなら……。私は魔法少女として、あいつと同じ魔法少女として、絶対にここで因果を終わらせる」

「リップル……」

「ここから先は、私1人で決着をつける。万が一にも、お前がこの戦いで傷つくような事があったら、龍騎や昇一さんに顔向けできない。だから」

「ちょい待ち」

 

待ったをかけるトップスピード。

 

「確かに姐さん相手に勝ち目があるかは分かんないし、姐さんの破天荒さに憧れてた事もあった……。普通に考えれば逃げる方が、この場で誰も犠牲になる事なんてないだろうけど……」

 

それじゃあ、かっこ悪いよな。

そう呟いて、ラピッドスワローを握る手に力を込めるトップスピード。

 

「上等だ! ここでダチを残していけるほど、オレも腐っちゃいねぇよ! 姐さんを止めたいのは、オレも同じだしな!」

「トップスピード……!」

「中宿の時は言いそびれたけどな! オレだって魔法少女だ! オレも大事なもん守る為に、最後まで戦ってやる!」

 

ここまで言い切ったら、誰も真っ直ぐにひた走る彼女を止める事は出来ないだろう。その事を長い付き合いで理解している彼女は、深く息を吐いて、決意を固める。

 

「……なら、トップスピードは私が守る! そして2人で、メアリを倒す!」

「決まりだな! 正直気乗りしないけど、それで少しでも助かる人がいるんなら!」

 

トップスピードがそう叫ぶと、ラピッドスワローはその叫びに呼応するかのように変形して、より一層バイクに近い装甲と化した。アクセルを吹かし、ブースターに炎がともると、急発進する。リップルは振り落とされないように、トップスピードの腰にしがみつく。下方を確認し、いつの間にか屋上に陣取っていたメアリを視界に捉える。

迷う事なく、トップスピードは前進する。対するメアリも、獲物を見つけて興奮したのか、両手に構えた銃を乱射した。

 

「罠にも気をつけて、トップスピード!」

「効かねぇっての! こちとら音速飛行にも耐え抜くだけの風防構えてるからな! 任せとけ!」

 

彼女が自信ありげにそう叫ぶように、前面を覆っている流線型の風防は、それなりの強度を誇っているらしく、銃弾が当たってもかすり傷程度しかつかない。

風を切るような音と共に、ラピッドスワローに跨る2人は風防に隠れるように姿勢を低くする。あらん限りに引き金を振り絞るが、こちらに向かって一直線に突っ込んでくる事に身の危険を感じたメアリ。しかしその時には、ラピッドスワローは床を抉り、あらゆる機材を巻き上げながら、フロアを横断していた。ミラーワールドで戦っている以上、中に一般人がいる事はまず無いので、躊躇う事なく破壊を選択する。壁を突き抜けて外に出ると、ターンして上空に飛び上がる。

 

「見たか! ラピッドスワローの音速飛行!」

 

そして身体強化によって上がった視力を頼りに、屋上の様子を把握する。すぐに舌打ちがトップスピードの耳に入ってきた。瓦礫の山と化した屋上の中から、覗き込むような姿勢のメアリを捉えた。ギリギリのところで回避したようだ。

こちらを睨みつける視線からは、闇よりも黒く、密度の高い、ドロドロと粘り気の強い殺気を感じさせる。リップルでさえ、ゴクリを息を呑んでしまう。

 

「ゲッ、まだ生きてやがる……!」

「そうだね……。さすがに、ここまでしぶとく生き残るだけはあるのかもな……」

「よぉし! もっぺん行くぞコラ! しっかり掴まっとけ!」

 

再度ブースターに再点火し、突撃するトップスピード。

ハッと身を強張らせるリップル。その理由は、メアリの不敵な笑みにあった。今までと何か様子が違う。この感覚は、中宿での戦闘で地雷を踏んでしまった時と同じだ。

よく見ると、メアリの手に握られている銃は拳銃でもなければ、自動小銃でもない、いわば狙撃銃のようなものに代わっている。銃身だけでも1m以上はありそうだ。

 

「そんな鉄砲玉、弾いてやん」

「避けろ!」

 

唇を歪ませるメアリを見て、リップルは反射的に前へと身を乗り出し、トップスピードのとんがり帽子やその中身を掴んで、全身の力と体重を乗せて押し倒す。ラピッドスワローの軌道が急激に折れて目標からズレるのと同時に、一際大きな破裂音がすぐ近くで鳴り響いた。だが、その音の正体を確かめる間も無く、制御不能となったラピッドスワローは2人を乗せたまま落下し、地上の倉庫らしき建物の屋上を突き破って着地した。

砕けた天井の破片がパラパラと舞い落ち、細かな粒子は煙状になってたなびいている。

 

「なーにしやがんだよ! 急に押し倒して!」

 

当然運転を邪魔されたトップスピードは腰をさすりながら、さも当然の権利とばかりに怒鳴るが、同じく腰を痛めたリップルはそれを無視して、そばに転がっているラピッドスワローを指差す。

 

「これ、見て」

「あん?」

 

リップルに言われてラピッドスワローに目をやったトップスピードは、そこで目を見開く事に。

風防の上部がよじれ、吹き飛んでいたのだ。無数の弾丸を受け止め、音を置き去りにする程の速度を叩き出してコンクリートにぶつかっても、ほとんど傷つかなかった盾が、無残に破壊されているではないか。

 

「何だこれ⁉︎」

「さっきの弾丸が掠った……」

 

トップスピードには見えていなかったが、メアリの狙撃銃から放たれた弾丸は、確かに風防を破壊していたのだ。リップルがとっさに軌道を変えた事で、上部を掠めるだけにとどまったのだが、直撃していれば、中の2人ごと貫通していた事になる。

 

「おいおい……! 音速にも耐えられる風防だぞ……。さっきまで全然通用してなかったのに、一体……」

「銃の種類が違ってた。多分、瓦礫の中でどさくさに紛れて持ち替えたんだと思う。まともに当たってたら、木っ端微塵だった」

「クソったれ……! こうなったら、もっぺん行くぞ!」

 

服の汚れを払い、とんがり帽子を被り直しながら、忌々しげにメアリがいるであろう屋上を睨みつけるが、すかさずリップルが呼び止めた。

 

「待って。また正面から突っ込めば確実に撃たれて死ぬ……」

「じゃあどーすんだよ⁉︎ オレは真正面からぶち当たる以外の事は、出来ねぇからな!」

 

トップスピードの言う通り、ラピッドスワローによる攻撃は直線的なものにならざるを得なくなる。この他にも、パートナーシステムによる武器の恩恵もあるが、決め手に欠けるのだ。ドラグセイバーは言わずもがな近接武器である為、どちらにしても正面から攻撃を仕掛けるしかない。唯一の中距離攻撃手段であるドラグクローも、先程使用してしまった為、再使用には時間を要する。リップルの武器も、豊富とはいえ威力が劣る為、やはり決め手に欠けてしまう。

 

「私も、それしか無理」

「だったら……!」

「……でも」

「でも?」

 

正面からの攻撃ではすぐに対処される事は、これまでの戦闘で身に染みている。生き残ったのは本当に運が良かっただけだ。だが時間をかけてはいられない。ミラーワールドでの活動時間には限度もあるし、これを逃せば、また被害が出てしまう。それを見越した上で、メアリを倒すには……。

リップルは辺りを見渡し、そして最後にトップスピードに目を向ける。

 

「次は……」

「次は?」

「……やっぱり、正面から行く。そして勝つ。その為に、生き残る為に、これを使う」

 

フッと笑みを浮かべ、リップルは懐からマジカルフォンを取り出す。その言動の意味を何となく理解したトップスピードは、同じく笑みを浮かべ、マジカルフォンを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、ムカつくぐらい良い反応してくれるね、お嬢ちゃんは……。さて、次はどう来る……?」

 

下界を見下ろしても2人の姿を確認できなかったメアリは、鼻で笑いながら、目線を手に持つ武器『KSVKアンチマテリアルライフル』に向ける。

メアリの魔法は、武器に魔法の力を宿すものであり、ゼロから武器を作り出せるものではない。よって奈緒子が魔法少女となって最初に取り掛かったのは、元となる武器を用意する事だった。

これまでメアリが使ってきた武器は全てロシア、もしくは旧ソ連製であり、西部開拓史時代のガンマンをモチーフとした自分に相応しい銃かと問われれば、疑問に思うところだ。メアリ自身、出来る事なら全てアメリカ製で揃えたかったのだが、近代都市のようなN市を介しても、中米の麻薬密売組織経由で手に入れた武器の数々は、横流し元がそれなりに偏っているのだ。それでも今となっては愛い奴らとして、重宝させてもらっている。

 

「フフッ。こいつの一撃は掠めるに留まったけど、あの2人は相当精神的にダメージを負ったはずだ」

 

そう呟きながら、マズルブレーキに舌を這わせる。鉄の味がした。

 

「(こいつにビビったあの2人は、真正面から策もなく突撃する事はもうないだろうしな。そうなると、1対1で勝てないと分かった今、数の有利を頼りにし、二手に分かれてくる)」

 

相手の動きが分かるなら、対処も簡単だ。だがその為にも、場所を変える必要がある。見晴らしの良い屋上でそのまま戦っても良いのだが、制空権のあるトップスピードを相手にするのは厄介だ。幸い、激レアアイテム『四次元袋』のお陰で、武器弾薬共に不足はない。KSVKに頼らずとも、適応した武器で確実に2人を仕留める。

そう決めたメアリは、地上を確認して、目に付いた建物の屋上を銃で破壊すると、その穴目がけて飛び降りた。魔法少女である今なら、高い所から飛び降りてもダメージにはならない。

そうして降り立ったメアリは、周りを確認する。聖マリア像が彫られたステンドグラスに教壇。そして十字架のモニュメント。どうやらここは教会のようだ。天井に穴が空いたが、地上からなら、入り口は一つしかない。

 

「おあつらえ向きだ……! リップルとトップスピード、ここをお前達の墓場にしてやるよ……!」

 

不敵な笑みを浮かべながら、四次元袋に手を入れるメアリ。

2人は今でもKSVKの威力に震えて、攻めあぐねている頃だろう。その時間を最大限に活用し、左右の壁や後方のステンドグラスに、地雷やグレネードなど、可能な限りの罠を仕掛けた。

 

「(これで良い……。左右は壁に阻まれた直線的な構造だ。攻撃は頭上か正面に絞れる。2方向で来るとしたら、上は絶対にトップスピード、正面はリップル……)」

 

各魔法少女の対処法はシンプルだ。

上から来るトップスピードには、飛び道具がないので、お得意の早撃ちで瞬殺できる。

正面から来るリップルには注意を払えば、先程のKSVKで木っ端微塵にする事など容易い。

万が一壁を破って来たとしても、罠によるダメージで怯んだところに銃弾を浴びせれば良い。

何度も脳内シュミレーションを繰り返し、勝利を確信していく。1番困るのは、時間だけが過ぎて、ミラーワールドから出てしまう事だった。そうなった時は、また現実世界にいる弱者を盾に誘き寄せれば良い。どんな手を使ってでも、少なくともリップルの死体だけはこの目に焼き付けておきたい。

しかし、その心配も懸念だったようだ。一つしかない正面入り口から、音と共に何かが迫って来ているのを、全方角に神経を研ぎ澄ませていたメアリは捉えた。

いよいよ、決着がつく。

 

[挿入歌:Revolution]

 

準備万端とばかりに機関銃の銃口を入り口に向けるメアリだったが、瞬時に困惑の表情を浮かべた。

 

「(何だありゃ? 壁が、走ってくる……⁉︎)」

 

視界に捉えたのは、人の形をしておらず、文字通り壁の形をした物体が入り口を突き破って突進してきたのだ。

 

「バカか⁉︎ 2人同時に来るとはね! 盾か何かのつもりか知らないけど、苦肉の策にも程がある!」

 

そうして引き金を引き、フルオートで銃弾の嵐を浴びせるが、一向に形が崩れる気配がない。思っていた以上に硬い。ただの壁ではなさそうだ。

壁の正体は、倉庫や百貨店の設備でよく見かける、防火扉だった。なるほど確かにコンクリートの壁よりかは頑丈だろうし、魔法少女でなら軽々と持ち運ぶ事も出来るだろう。なるべく硬くて頑丈な防火扉を、盾か遮蔽物として利用し、距離を詰めた所で、こちらが引き金を引く前に近接武器でトドメを刺す。そういう算段なのだろう。

 

「(だったらこいつでぶち抜くだけだ!)」

 

対してメアリは舌打ちをしてから、機関銃を捨てて、足元に置いてあったKSVKに持ち替える。いくら頑丈な防火扉だろうと、狙撃銃の中でも指折りクラスのKSVKを使えば、ラピッドスワローの風防のように弾け飛ぶ。そしてその威力は、標的と銃口の距離が近ければ近いほど、大きくなるものだ。

 

「(目一杯引きつけて……、後ろにいるお嬢ちゃん達もろとも吹き飛ばしてやる……!)」

 

防火扉は勢いを衰える事なく直進している。この強度ならメアリを打ち負かせられると、本気で思っているのだろう。

 

「(そうやってすぐに思い上がるのが、ガキのダメな所なんだよ! 思い知らせてやるよ、このクソッたれな世界に生き残れるのは、圧倒的な力のある奴だけだってことをなぁ!)」

 

遂にこの瞬間がやってきた。涎が滴り落ちそうだ。

 

「さぁ来い! そして、死ねぇぇぇぇぇぇ!」

 

引き金を引いた瞬間には、もう着弾していた。回避など、出来るはずもない。防火扉は爆ぜ、破片になってバラバラと落ちていった。カラミティ・メアリの表情に喜悦が広がり、そして……。

 

「……アッ?」

 

歪んだ。

喜んだからではない。不可解な状況を目の当たりにして、顔を歪ませている。

防火扉は確かに爆ぜて、カーペットの敷かれた地面に横たわっている。しかし……。

 

「(血の匂いも、飛び散る臓物もない……! 死体が、無い……!)」

 

そこには、死体はおろか、ラピッドスワローの残骸さえない。

どこへ行った。辺りを探す間も無く、肌を刺すような殺気を感じた。正面でもなく、左右の壁でも、真後ろのステンドグラスでもない。

 

「! 上か!」

 

感じた殺気に従い、真上を見上げるメアリ。トレカフに抜き替えようとするメアリだが、すぐに訝しんだ。

穴の空いた天井には、夜空が広がっていた。時期的にも日の入りが早い事から、月や星が見えても、何ら不思議ではなかった。

 

「(……星?)」

 

ちょっと待て、と冷静になるメアリ。田舎ならまだしも、街中でこんなにも星が輝いている光景など、見た事もない。しかもその星は、段々とこちらに落ちてきている。

あれは、星ではない。こちらに向かって飛来する無数の……手裏剣、でもない。幾ら何でも多すぎる。月光に照らされてキラキラと輝いているそれは、手裏剣ではなく……。

 

「大量のガラス片だと……⁉︎ クソどもが……!」

 

ミラーワールドだろうが、現実世界だろうが、辺りを見渡せばどこでも手に入れられる武器が、こちらに向かって的確に降り注いでいる。

刹那、メアリは思い出した。初めてリップルとやりあったあの日、彼女は自分に向けて多量の手裏剣を投げつけて戦っていた。しかもその軌道は、不自然な動きで確実にこちらに向かっていた。あの時はがむしゃらに撃ち落としていたが、今にして思えば、あれも魔法の類なのだろう。

彼女の魔法は、『手裏剣を投げれば百発百中だよ』。だがその『百発百中』は、手裏剣に限った事ではない。応用すれば、手にしたものなら、投げつければ標的めがけて確実に向かっていく。例えそれが、巨大な防火扉であったとしても。

それを自覚していたリップルは、防火扉を投げつけて、メアリの注意を上空から逸らす。そうして欺いている間に、空中に飛び、ガラス片を投げつけてダメージを与える。ガラス片であれば、いくらメアリが銃で乱射して砕こうとしても、分裂してより一層手数が増えるだけ。それらが全身に突き刺されば、例え魔法少女といえど、致命傷は避けられない。

 

「……とでもぉ、思ってたかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ベノスネーカァァァァァァァァァァァ!」

 

しかし、メアリは笑みを崩さなかった。背後のステンドグラスから飛び出してきたのは、パートナーの契約モンスターである、ベノスネーカー。とぐろを巻くように素早くメアリの全身を覆い、ガラス片は全てベノスネーカーの全身に突き刺さった。ベノスネーカーの悲鳴が轟くが、モンスター相手に、ガラス片によるダメージはかすり傷程度のようだ。そうして役目を果たしてステンドグラスに戻っていくベノスネーカー。その間に、本来ならダメージを受けるはずだったメアリがKSVKを構えて、上空に見える人影に狙いを定める。

 

「今度こそ……!」

 

再度引き金が引かれた。魔法少女の反射神経を弾速が凌駕している。

箒のような物体から、人影が落下したのを確認した。運転している人影までは落とせなかったが、ガラス片を投げたであろう張本人は、確かに頭から落下している。

今度こそ、喜悦に満ちた表情を浮かべるメアリ。この生き残りをかけたゲームに乗じて、因縁の対決に、決着がついた。自然と高笑いが教会内に響き渡る。

 

「……アッ?」

 

しかしその表情も、落下する人影が空中でガラスのように砕け散ったのを目撃した途端、消え失せてしまった。

背後に何かが降り立ったと気づき、振り返る間も無く、お腹周りに熱を感じた。眼前に、赤黒い液体が噴き上がり、目の前の地面を赤く染めていく。力が抜けていくのを感じた。

下に目をやると、鋭く尖った剣のようなものが、腹から突き出ている。不健康そうな液体が剣から滴り落ちている。振り返るまでもなく、背後に立つ人物の名を、恨めしそうに呟く。

 

「リッ、プル……! テメェ……!」

「不本意だが、対人戦に長けたお前をナメなくて良かったと思ってる。お前なら、あの二段構えの攻撃ぐらい、どうにかすると思っていたからな」

「さっき、あたしが仕留めた、奴は……!」

「分身だ。私はずっと、気づかれないように屋上で機会を伺っていただけだ」

 

薄紫色の忍者服に身を包んだリップルサバイブは、メアリの体を貫くダークバイザーツバイを握る手を緩める事なく、淡々と呟く。

防火扉を投げつけたリップルサバイブは、パートナーシステムの恩恵によって得た『シャドーイリュージョン』を駆使して、分身にガラス片を持たせて、トップスピードサバイブと共に上空から攻撃を仕掛ける。しかしメアリならその対策を練っていてもおかしくない。更なる奥の手と称して、別行動で屋上に先回りして、隙を見て背後から奇襲を仕掛けたのだ。

 

「サバイブの恩恵があったとはいえ、あんな重い扉を投げるのは、もうこりごりだけど」

 

そう愚痴りながら、深々とダークバイザーツバイを突き刺していくリップル。勢いに押されて膝をつくメアリ。急所を外している為、油断は出来ない。それでも、忍者相手に背中を見せたのが運の尽きだな、と思いつつ、トドメを刺そうとする。

 

「……すな」

「……!」

「あたしをぉ、そんな風に、見下ろすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

魔法のガンマン、カラミティ・メアリに逆らうな、煩わせるな、ムカつかせるな。

そんな怨念のこもった殺気が、リップルの全身を貫く。メアリの右腕には、四次元袋から取り出された拳銃が握られている。その銃口はメアリの胸元を貫く形で、リップルの顔面に向けられている。そのまま引き金を引けば、魔法によって威力が増した一撃が、メアリの体に穴を開け、同時にリップルの頭が破裂したスイカのように弾け飛ぶ。一瞬怯んでしまったリップルの足は動いていない。

メアリの目に迷いはない。リップルを確実に葬る為ならば、自己犠牲をも選ぶ。血を滴らせながら、メアリは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「……っめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

叫び声が聞こえてきたが、メアリにはどうでもいい事だった。この引き金を引いて、リップルを道連れにする。それで、全てが完結するはずだった。

 

「……ガハッ⁉︎」

 

今度は正面から痛みが全身を貫いた。目の前に、星のマークがついたとんがりハットを被り、首からお守りをぶら下げている魔法少女が見えた。その手にはドラグブレードが握られており、剣先が右手の甲を貫通し、胸元に届いていた。右手に力が入らなくなり、右人差し指が、引き金から離れた。拳銃が半壊した地面に音を立てて横たわる。

 

「お、前……」

 

吐血し、意識が薄れていく中、目の前の魔法少女は、目元がとんがりハットのつばで隠れて見えなかったが、自分の胸に突き刺さっているドラグブレードを握る腕は震えており、微かに「ゴメン、姐さん……!」と聞こえた。

そして同時にドラグブレードとダークバイザーツバイが引き抜かれ、体から流れ出た赤黒い液体が、地面に流れ落ち、前のめりに倒れこむ。

 

「姐さん!」

 

目の前にいたトップスピードサバイブが、彼女の体を支える。

 

「情けの、つもり、か……! あたしは、そういうのが、1番、気に食わなくて……!」

「分かってる! けどよ……! もう、姐さんを止めるには、こうするしか、無くて……! ホントに、ゴメン……!」

 

なぜ、彼女にとって敵であった自分の為に涙を流すのか、メアリは一向に理解できない。ならば相方はどうなのか。顔だけを振り向かせると、その表情はもの哀しさを感じさせた。見下されているのか定かではないが、最早怒りを露わにするだけの余力は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、話がしたい。

そう言ってトップスピードサバイブは、リップルサバイブに手伝ってもらう形で満身創痍のメアリを支えつつ、ステンドグラスを通ってミラーワールドから現実世界へと帰還した。

何一つ壊れていない教会に足を踏み入れたところで、メアリの体が光り、豊満なビキニ姿からは想像もつかないような、くたびれた歳上の女性へと変貌した。これが、あの無法者として恐れられてきた魔法少女『カラミティ・メアリ』の、人間としての本来の姿なのだと、誰が予想できただろうか。さすがの2人も僅かに目を見開く。

傷口に触れないように気をつけながら、2人は奈緒子を長椅子に座らせる。

 

「……何の、つもりだい。あたしを見せしめにして、嘲笑おうってのかい」

「そんなわけないだろ姐さん。ちょっと、聞きたい事があったんだよ」

「……何を」

「姐さんは、何でリップルをそんなに嫌うんだよ……? そりゃあこれまで魔法少女として因縁つけられてたのは見てたけど、あんな事してまで、リップルに手を出す理由なんて、あったのか……?」

 

まるで純粋な子供から問いかけられているような疑問。笑って無視してやろうかとも思ったが、トップスピードサバイブの真剣な眼差しを前に、つい黙り込み、そして吐露する。

 

「……あたしにも、いたよ。子供も、夫も。いわゆる、普通の家庭ってやつを、確かに持っていた。貧しくはあったけどね。それでもまぁ、最初のうちは上手くやってこれたと、思ってる」

 

それを聞いて、2人の目つきが変わった。それは2人にとって関わりのありそうなワードだったからだ。

 

「けど、あたしは、強さを追い求めるうちに、自分の弱さを知って、隠したくて、それでも毎日を楽しむ為に、酒に手を出して。……遂には、娘にも手を出すようになってたよ。それが、魔法少女になる前の、ストレス解消法だったから、ね」

 

再び咳き込み、血を垂らす奈緒子。トップスピードサバイブは自分でも気づかぬまま、拳を握っていた。娘を虐待した、という事実を目の当たりにして、複雑な心境なのだろう。

 

「……だから、だろうね。リップルや他にも魔法少女や仮面ライダーになったガキを見てると、昔の自分を思い出して、腹わたが煮えくり返って、イライラが収まらなくなって……。まぁ、龍騎の事も似たようなもんさ。良い子ぶって力を振るっているあいつが、ガキみたいで気に食わなくてな……」

「誰かを守る為に、変身する……か」

 

いつの日か、後にチームを組んで戦うようになった仮面ライダーの言葉を、自然と口にするリップルサバイブ。そして天井を見上げながら、昔を懐かしむように語り始める。

 

「……最初にお前と戦った時、私はこう問われたな。『どうして力を恐れる? お前も無意識に力を求めて魔法少女になったんじゃないか?』と。……今なら答える事が、出来ると思う」

「……」

「……そうだ。確かに私は期待した。私が私らしくいられる、存在理由が欲しかった。魔法少女になれた時、子供の頃に観た、アニメに出てくる魔法少女のように、誰かに頼られるような魔法を使えたら、お前と同じように、暴力の中でしか生きられなかった自分が救われる事を、密かに望んでいた」

 

だが、現実は残酷だった。

 

「私の魔法は、投げたものを必ず必中させるもの。誰かを幸せに出来る力ではない。そしてそれは、自分自身さえも、幸せには出来ない魔法だ……。そんな力を振るう事に意味があるのか、ずっと疑問だった。モンスター退治も、1人ではろくに出来なかった私を必要としてくれる人なんて、いないと思っていた」

 

でも……、と、天井から目線を横に向ける。青ざめつつある奈緒子と、真剣に見つめるトップスピードサバイブの顔が見えてきた。

 

「ナイトと出会って、トップスピードと出会って、龍騎と出会って、そして……。あのスノーホワイトと出会えて、九尾や他の仲間が増えていって、……やっと、力を手にした意味が、分かった気がした」

 

自分の手のひらの中にある手裏剣を見つめ、懐にしまいながら、リップルサバイブは語る。

 

「さっきも言ったが、私もお前も、暴力の中でしか生きられなかった。昔の私とよく似てるんだ。……ただ一つ、トップスピード達の存在があった事が、今の私を作った」

「……」

「お前のやってきた事を許す事は、金輪際ない。……でも、お前と魔法少女として出会えた事は、間違っていないと思っている。こうして自分を見つめ直して、やっと自分らしく戦える方法を、見つけられるようになったから」

「……そう、かい」

 

ただ一言、そう呟いただけだが、奈緒子は自然と、忌々しく思っていた少女の生き様を悟ったような気がした。

と、今度はトップスピードサバイブが口を開く事に。

 

「……姐さんにも、色々あったんだな。オレが自然と憧れを抱くようになったのも、頷けるな」

「……?」

「姐さんは、オレにとっての人生の先輩になってたかもしれないって事だ」

 

そう言ってマジカルフォンを操作すると、光に包まれて、室田 つばめの全身が露わになる。当然、奈緒子の目線はその膨れた腹に向けられる。

 

「! お前……」

「そうさ。オレももうじき、母親になるって訳。姐さんの事をもっと知ってたら、それはそれでアドバイスとかもらえたかもな」

「つばめ……」

「もちろん、子供絡みの事だけじゃないぞ。元暴走族のリーダーとして、姐さんの姿に、惹かれる部分もあったよ。……まぁ、あそこまで無法者だって知った時は極力関わらないようにしてたんだけどな」

 

ハハハ、と笑いながら、段々と冷たくなりつつある奈緒子の右手に、そっと自分の左手を乗せる。その流れで、リップルサバイブも変身を解き、細波 華乃となる。

対する奈緒子も、苦笑まじりに呟く。

 

「……なら、あたしの後を、追いかけなくて、正解だったな。あたしじゃ、母親らしい事なんて、何も学べなかった、だろうよ」

「まぁ、な……。虐待ってのはちょいと頂けねぇな。少なくとも、オレは自分の子供をそんな不幸な目に遭わせたくないし。……けど、姐さんがちゃんと今でも母親やってるのは、ちょっと嬉しいかも」

「? どういう、意味だい……。あたしはもう、気にしてないし、向こうだって」

「その娘さんの事を、ちゃんと口にして出してるって事だよ。本当に気にしてなかったら、今だってその事話してないだろ? だから、姐さんにもまだ、母親としての情は残ってるって、分かるんだ」

「何を、根拠に……」

「さぁね。オレの勘がそう言ってる。けど、ナイトとかはあんたや浅倉をモンスターって呼んでたけど、オレはそう思わねぇよ。例えそれが、娘さんを虐めた奴でも、前の旦那を殺した奴でも。……心があるうちは、人間だって、オレも龍騎も、そう思ってる」

「前の、旦那を……。そう、だったのか」

 

つばめの腹を見て、そう呟く奈緒子。

 

「だからさ、姐さん。こんな状況で今更かもだけど、自分のしでかした罪を、認めてもいいんじゃないか? 今ならきっと、赦してくれるかも、だぜ。そうしたら、オレも華乃も、姐さんの分まで頑張れると思うから」

「……ックックック。アッハッハ!」

 

不意に傷口が広がるにもかかわらず、笑い声をあげる奈緒子。そして次第に、その瞳に水滴が流れる。

 

「散々周りを苦しめてきたあたしが、今更赦されると? そんな都合よく、世界が出来てるとは、思えないけどねぇ……!」

 

それでも……、と奈緒子はステンドグラスと共に映る聖マリア像に目を向けて、弱々しく口を開く。

 

「……自分の弱さを、最初から知ってたら、色々と、変わってた、かもねぇ……」

「お前……」

「……だと、しても。この、クソったれな世界が、変わるなんて、ありえない。……結局は、その中で力を、どう使うか。それで全部、決まってくる気が、今ならするよ」

 

そうして奈緒子は、意識を朦朧とさせながらも、懐から、小さな袋を取り出し、華乃の手元に突き出す。

 

「! それは」

「あんたは、力の使い方を、今でも探してるんだったな……。なら、こいつを、くれてやる……。精々そいつを、使って、このクソったれな世界を、もっとよく、見てみる、んだな……」

「……」

 

華乃は無言のまま、四次元袋を手に取る。くれると言うのなら、断る理由はない。

 

「……らしく、ない事したけど。……最後ぐらい、人間らしい、事するのも、まぁ、悪くない、か、ね……」

 

そうして段々と目が細くなり始める奈緒子。口元ではボソボソと何かを呟いているようだが、2人にはその言葉は聞き取れない。

そして何かを言い切った直後、糸が切れたようにダラリと首を沈ませ、そして二度と動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

「どうした?」

「う、ううん。何でもない、けど……?」

「けど?」

「分かんないけど、ごめんなさいって、言われたような気がしてね?」

「……?」

「聞いた事がある声だったような……。ひょっとして……」

「ハハハ。まさか、あの女が言うわけないだろ。もうあの人の事は忘れても良いって、お父さんいつも言ってるだろ?」

「う、うん……」

「お互い、色々大変だったけど、これからはうんと幸せな人生を歩めるようにしてやるからな」

「うん!」

「じゃあ折角の給料日だからな。お前の好きなものでも食べに行くか!」

「うん! お父さん大好き!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正史達が教会に足を運んだのは、それから30分後の事だった。浅倉も撤退し、別行動を取っていた大地達とも合流し、一同は反応を辿って、つばめや華乃がいるであろうその場所を訪れたのだ。

扉を開けて彼らの目に飛び込んできたのは、つばめと華乃に挟まれる形でぐったりと座り込む、30代後半の女性だった。血は既に止まっており、顔も青白い。その表情からは、絶望や怒り、悲しみと言ったものは見えてこなかったが、少なくとも、憑き物は落ちているように感じられた……。

後に、つばめは語る。

 

『姐さんは、人間だ。オレと華乃は、そう思ってる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その16≫

 

【カラミティ・メアリ (山元 奈緒子)、死亡】

 

【残り、魔法少女7名、仮面ライダー6名、計13名】

 

 




というわけで、最後は人間らしく散った、カラミティ・メアリでした。

他の皆さんの作品を見てると、メアリは根っからの悪人として罰せられて悲劇的な最後を迎える事が多そうですが、私の場合は、少しベクトルを変えて最期を迎えるようにしたつもりです。残虐な行為こそありましたが、彼女だって元は人間です。そこを意識して、このような展開にしました。賛否はあるかと思われますが、私なりに考えた結論です。


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