魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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少し早いですが、今年度の『魔法少女&仮面ライダー育成計画』の投稿はこれがラストとなります。

皆さんは『平成ジェネレーションズforever』は観ましたか? もう凄かったですよね。特にあの人がサプライズ出演してくれた時は、もう興奮が収まらなくて……! 気になる方は是非とも劇場へ足を運ぶべし! 前作に続き、これはマジでオススメします!




121.人間であり続けたい

やりたくない事は絶対にやらない。

それが安藤(あんどう) 真琴(まこと)が唯一持っているポリシーである。

それもあってか、彼女は受験に失敗して、結果として中卒のフリーターに位置付けられた。親からは、なるべくしてなったと口酸っぱく酷評し、真琴自身も同感であった。彼女の両親は、ただひたすら、ぷらぷらしている真琴を捕まえては、色々な事を強要させており、真琴はそれが不服以外の何物でもなかった。故に彼女の寝床は友達の家を転々と泊まり歩く事がいつしか当たり前となっていた。実家には2週間に1回程度しか戻っていない。

もちろんずっと友達の家にいびり立ってはいられないので、食事は様々な方法でやりくりしていた。基本はバイト先のコンビニで廃棄予定の弁当をこっそり抜いて持ち帰って、それをホームレスを通じて知り合った人と隣り合って談笑しながら食べている。時たまに段ボールを分けて寝床を確保してくれているので、歳も性別も違う人ではあるが、決して不満はなかった。流石に結婚話までは断らせてもらってはいるが……。他にも、食べられそうな野草を見つけたらビニール袋に入れて持ち帰ったり、炊き出しに並んだり、ある時は鼻腔をくすぐるような立ち食い蕎麦の匂いを嗅いで空腹を凌いだりと、方法は様々だ。

親の言う事を聞いて真面目に勉強するよりも、こういった暮らしの方が性に合っている事を、堪え性があるのか定かではないにしても、真琴は全くもって間違ってはいないと思っている。

以前、『真琴ってけっこー可愛いんだしさー。もうちょっとお金の稼ぎようあるじゃん?』とアドバイスしてくれた友人が、『良い人』を紹介しようとしてくれていたが、真琴は直感的に『やりたくない事をやらされる』気がして、その日以降、連絡先を携帯から消去して、付き合いを綺麗さっぱり無くした事もあった。こういった事には敏感で、逆にそれ以外だと鈍感。それが真琴の特徴とも見て取れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、真琴が友人から引き受けた作業も『やりたくない事』であれば、決してやらなかった事だろう。面白みがなく、純粋な作業ではあったが、やりたくないわけではなかったので、一晩泊めてもらう事を条件に、その作業を引き受けたのだ。

その作業というのが……。

 

「『魔法少女育成計画』……。バイト先でも話には聞いていたけど、思ったよりクオリティは良さそうね」

「まぁ、レベルを上げるだけでいいから」

 

友人がメイクに勤しんでいる間、真琴は彼女がバイト先の客から貰ったとされるスマホを、教えてもらった操作方法の通りに指を動かしていた。

自作のアバターを操作して、敵を魔法でやっつけて、報酬としてマジカルキャンディーを得て、新たなレアアイテムを購入する。そんな単純作業を内心面倒だとは思いつつも、寝床の確保の為に文句を言わずに画面と向き合う真琴。とはいえ真琴も、友人が設定したとされる魔法少女のフォルムには口を挟まずにはいられなかった。

背中にはランドセルのようなブースター、腰にはウイング。小学生のような見た目ではあるが、明らかにロボットを模したようなアバターだ。何でこんなアバターにしたのかと尋ねると、友人が今付き合っている彼氏の趣味に合わせている、とあっさり返答してくれた。言われてみれば、友人の部屋にはロボット専門の月刊漫画誌や、プラモデルの箱がいくつか点在しており、なるほどと納得するように頷いた。

友人が学校に出かけた後も、黙々と作業を続ける真琴。友人は夜遅くまで帰ってこないらしく、恐らくそのまま彼氏と食事に出かけるのだろう。そういった事には疎い真琴にはどうでも良い事の類だった。

それにしても……と、真琴は作業を続けながら思う。『魔法少女育成計画』は完全無課金を謳い文句にしていたが、真琴から言わせれば、時間の無駄に他ならない。同じ娯楽なら金になるものだってあるし、無料で暇つぶしをするくらいなら、小銭を稼いだ方が良い。何が面白いのか、サッパリ理解できない。

この辺りを見る限り、同じ魔法少女であり、リアルでは真琴に似て金に困っているリップルの変身者、細波 華乃と比べて見ると、娯楽に対する価値観が根本的に違っているようだ。

 

「ま、ホテル代と思えば……」

 

そうボヤきながら、友人からシャワーを使っても良いと言われていた事を思い出し、ひと段落ついたところで、リフレッシュしようとして立ち上がったその時、奇妙な現象が彼女の目の前で起きた。

 

『おめでとうぽん! あなたは魔法少女に選ばれたぽん!』

 

ファンファーレが鳴り響くと同時に、白と黒の球体が現れた。フワフワと漂い、周囲には鱗粉が漂っている。

何が起きたのか、理解に苦しむ真琴。単純作業と位置付けて、ろくに画面も見ずにボタンを連打していたが、ひょっとして間違った操作でもしてしまったのだろうか。もしそうだとすればマズい。やり直せるものなら良いが、取り返しがつかないものなら大変だ。流石に金で払えと言われる事はないだろうが、無料でネイルアートをしてくれる友人を失うのは、そこそこの痛手だ。

 

『どうしたぽん? 魔法少女になれて嬉しくないのかぽん?』

「ちょっと黙ってて。そんな事聞いてる場合じゃないから」

『わーん。黙ってろとか酷いぽん』

「ぽんぽんうるさいから。語尾を特殊にすれば可愛いとでも思ってんのか。鬱陶し」

 

慌てて画面をタップして事態の解決にあたろうとする真琴だったが、ここに来て、画面内のマスコットキャラクターと会話が成立している事に気付いた。だがそう思った時には、彼女は最後の引き金を引いていた。

不意に画面から光が溢れて、真琴を包み込み、そして……。

 

「……何、コレ」

 

口調がロボットっぽくなっている。まさかと思って鏡に目を向けると、そこには安藤 真琴の姿はなく、先ほどまで画面の中にしかいなかった筈のアバターがそこにいた。

不意に彼女は思い出す。『魔法少女育成計画』には1つの噂がつきまとっていた。数万人に1人の割合で、本物の魔法少女を生み出す、奇跡のゲーム。バイト先や友人が話していたそれを耳にした時は、随分とバカらしい迷信だと肩を竦めていたが、そんな自分がその噂通りになるとは、誰が想像できようか。

こうして真琴は、自分の所持するゲームでも、自分で作ったアバターでもないのに、魔法少女『マジカロイド44』として、非日常的な世界に足を踏み入れてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女になった際のレクチャー役が、常識も良識もぶっちぎった無法者、カラミティ・メアリだった事もあってか、マジカロイド44の中では、魔法少女も仮面ライダーも、非常識の塊だと認識していた。故にシスターナナが理想の王子様の事を意気揚々に話してきたりしても、何ら人間らしい共感を得る事はなかった。どうせ人間として生きていても、やりたくない事をやらされる機会が多々あるだろうから、いっそのこと、人間を捨てて生活するというのも悪くはないだろう。金にならない商売ではあるが、魔法少女でいるうちは金に困る事は先ずない。マジカロイドはそう考えながら、適当に夜の街をぷらぷら歩いていた。

そんな折に、彼女は鏡の中に潜む、ミラーモンスターと戦う羽目になり、面倒だとは思いつつも、鈍った体を動かすべく、戦いに出向いた。最初は楽勝かと思われていたが、自身の魔法がさほど戦闘向きではない事を悟り、後悔の念に陥った。そんな彼女を救ってくれたのが、緑色の、自分と同じメカニックな仮面ライダーだった。戦闘慣れしているらしく、『マグナバイザー』を駆使して敵を一掃する姿に、マジカロイドはいつのまにか感嘆していた。

戦いが終わった後、暇つぶしとばかりにお礼を交えつつ、『ゾルダ』と呼ばれるライダーと話し合った。変身者は弁護士で、それ相応に裕福な暮らしを満喫しているようだ。真琴とは対照的な生活を送っているその男性の話を聞くうちに、共感できる部分が見受けられてきた。次第に人間らしさを取り戻しつつある中、彼女はそのライダーがいる事務所で働かせてくれないか、と提案した。同じ異能の力を持つ者同士なら近い関係下にあった方が何かと都合が良いし、コンビニのバイトとは比べ物にならないほどの稼ぎにもなる。

面接をどうにかして乗り越え、真琴は『北岡法律事務所』のアルバイトとして、新たなスタートを切った。会計職に就いた彼女は、コンビニでの経験もあってか、さほど苦にはならなかった。給料もそこそこ出て、寝床も確保してくれた。ずっと前から秘書を務めていた由良 吾郎とは時たまに口論になったりするが、それでも最後には仲直りして、3人で食事に出かけたりする事が多々あった。中卒の自分でも、こんなにも満喫した生活を送れるなど、夢にも思わなかっただろう。

だからこそ、真琴は夢見ている。いつか互いにしわくちゃになるまで、人間として最期まで美しく飾るように生きていこう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何年も前に廃棄されたであろう工場に、例の如くニット帽を被った真琴の姿があった。おおよそ15歳の少女がいるには似つかわしくないその場所で、どうしてもやらなければならない事があるからだ。昔の自分なら、面倒事には巻き込まれたくない、と素っ気なく退避していただろうが、もうそんな悠長な事は言ってられない。

事前にやる事は済ませておいた。仮にここで自分が亡き者になったとしても、特別後悔はしていない。負け戦になる可能性が高いにしても、だ。

工場に足を踏み入れてすぐに、目の前に2人の人影が割り込んできた。くたびれたような女性と、ヘビ柄の服に身を包んだ、不機嫌そうな男性だ。

 

「少し時間が過ぎてしまいましたね。悪気はないのですが、ちょっと野暮用があったものでして」

「……おい待てよ。北岡は、どうした」

 

浅倉が、今最も戦いたい相手が来ていない事に気付いて、彼のパートナーを睨みつける。その隣にいる奈緒子も訝しんだ様子だ。

 

「おっかしいねぇ。あたしは北岡に用があって呼び出したつもりだけど、あんたまで呼んだ覚えはないよ」

「……先生なら、もう来ませんよ」

「アァ?」

「先生は大事な用事があって、今日はそちらを優先させております。なので代わりに来たのですよ。面倒ですけど、買い物も済ませたいので、そのついでという事で」

 

真琴の話が最後まで言い切る前に、浅倉が近くの木材を蹴り飛ばして、轟音がそれを遮った。

 

「俺は北岡と戦う為にここに来た! お前に用はない! さっさと北岡をここへ連れてこい!」

「それは今更無理な相談です。そんなにあの方と会いたいなら、先に私を相手にしてくださいな。ま、私を倒した所で、向こうに行っても手遅れでしょうけど」

「何だとぉ……!」

 

歯軋りする浅倉を他所に、奈緒子は肩を竦めて前に出た。

 

「結局お前も最後は、他人の為に戦うってか。全くどいつもこいつも愚図な連中ばかりだ。あたしが教育係として躾けた割には、もう龍騎とかに毒されたわけ?」

「まぁ、最初は鬱陶しいとは思いましたけど、色々と付き合いが長いと、案外悪い気はしませんでしたよ」

「……仮にもあんたは、あたしの下で教えられてた身だ。少しは情けをかけてやって、見逃してやるって手もあるけど、どうするんだい?」

「今更背を向けた所で、そちらのパートナーが許してはくれませんでしょうし、私もここで引き下がるつもりはありません。先生の分まで、ここで決着をつけた方が、何かと都合が良さそうですし」

「少しは慈悲を拾ってやっても良いだろうに、つくづく哀れな奴だね。……ま、いっか」

 

不敵な笑みを浮かべた奈緒子は、懐からマジカルフォンを取り出す。

 

「そういうズル賢い性格も、嫌いじゃなかったよ」

「早い所決着をつけて、買い出しに出かけたいので、速やかにお願いしますね」

 

そうして真琴もマジカルフォンを、浅倉は無言でカードデッキを取り出す。

 

「「「変身!」」」

 

3人はマジカロイド44、カラミティ・メアリ、王蛇に変身し、しばらくの沈黙の後、王蛇が八つ当たりするように、近くの木材を足でどかした。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

咆哮を轟かせて、王蛇が突撃してきた。対するマジカロイドはマジカルフォンを操作して、手元にマグナバイザーを召喚させ、銃口を向かってくる王蛇に向けて、ためらう事なく引き金を引く。王蛇は横に飛びながらも、銃弾を潜り抜けて、前に突き進んでいく。

四次元ポケットから銃身の長い武器を取り出すメアリ。不意に気配を感じて目の前を見ると、マジカロイドの手にはいつの間にかギガランチャーが握られており、すぐに火が吹いた。寸でのところで武器から手を離して回避するメアリ。銃そのものは魔法によって耐久力が高い為、壊れる事はなかったが、すぐには取りに行けない所まで吹き飛ばされてしまった。メアリは舌打ちしながらも、ベノサーベルを手元に召喚する。

 

『SWORD VENT』

『STRENGTH VENT』

 

同じく王蛇もカードをベントインしてベノサーベルを構え、獰猛な姿勢を見せる。マジカロイドは王蛇にもギガランチャーを向けて砲撃を撃ち込むが、同時にベントインしていたカードにより、メアリの魔法を受けて強化されたベノサーベルが盾代わりとなり、王蛇を止められない。振り下ろされたベノサーベルは、ギガランチャーを真っ二つに斬り裂いた。そのまま横に振るわれようとするが、間一髪で両足のブースターを噴かせて、後方に飛び退く。

それでもなお、執拗にベノサーベルを突きつける王蛇と、横から奇襲を仕掛けてくるメアリに押され始めて、メアリの蹴りがマジカロイドの腹に命中。呻き声と共に廃材の山に叩きつけられた。

チャンスとばかりに四次元ポケットから取り出したロケットランチャーを構えて、廃材めがけてぶっ放した。爆発と轟音が鳴り響く中、炎の中から出てきたのは、ランドセルや両足から火花をほとばしらせて、最大出力で飛び出てきたマジカロイド。すぐに第2波で狙い撃とうとするメアリだったが、マジカロイドの右手に握られているものを見て、とっさに飛び退く。

マジカロイドの右手には、ワイヤーのようなものが取り付けられており、それを地上めがけて一振りすると、2人の持つベノサーベルが弾かれたように手元から離れた。僅かに傷も付いている。そしてメアリは直前で手を離した事で無傷だったが、パートナーの方はそうではない。両腕に切れ込みが入って、装甲越しに血が流れ落ちた。多量とは言わないが、少量とも言い難いほどの赤い液体が地面を染めていく。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!」

 

だが出血しているにもかかわらず、王蛇は腹の底から唸り声をあげながら、マジカロイドを睨みつける。まるで空を飛び回る獲物を狙う獣を連想させる姿だ。

 

「(せっかく当たりを引いたと思いマシタのに。人間を捨てタ成れの果て、という事でしょうネ。私も先生と出会って無ケレバ、アァなっていたのかもしれませんネ)」

 

魔法を行使して手に入れた未来のアイテムは、いつにも増して戦闘にはうってつけのアイテムであったにもかかわらず、何人もの人の命を奪ってきた王蛇相手には、抑止力ともならないようだ。

その後もメアリによる銃弾のあられを避けつつも、反撃を試みるマジカロイドだが、イラつきがいつにも増している王蛇の猛攻を凌げず、小柄な体は軽々と蹴り飛ばされる。堪らずマジカロイドは両肩にギガキャノンを召喚させ、王蛇を退ける。

 

「そぉらよ!」

 

王蛇が吹き飛ばされると、代わりにメアリがアサルトライフルを構えて、マジカロイドを狙い撃ちする。足を銃弾が掠めて、バチバチと火花を散らしながら膝をつく。それでもなお執拗にギガキャノンから攻撃を繰り出すマジカロイドを見て、メアリは舌打ちをする。

ここまでしつこく食らいついてくるとは。ならば至近距離から弾丸をぶち込めば、流石に黙る筈だ。

 

「ウォォォォォォォォ!」

 

トレカフを取り出したメアリは、先端の刃を突き出す形でマジカロイドの心臓部分に狙いを定めて突撃する。対するマジカロイドはギガアーマーを突き出して防ぎ、

 

「ハァッ!」

 

飛び上がって拳を振りかざしてきた王蛇にはギガホーンを装着した右腕を突き出して、動きを止める。しかし、2人も腕に力を込めて押し返そうとしている。隙ができれば、トレカフから火が吹く。この至近距離で撃ち込まれれば、如何に身体強化されたこの肉体にも風穴が開く。

しかしそれも、マジカロイドは織り込み済みだったのだろう。

 

「ファイアァァァァァァァァァ!」

 

ギガキャノンが火を吹き、3人の目の前で小爆発が起きた。その反動で、3人は吹き飛ばされる。

 

「クソ……ガァ!」

 

腕が痺れて、その美肌から焦げたような匂いが漂ってくる。至近距離でトレカフが爆発して、火傷を負ったようだ。青筋を浮かべるメアリの目つきは殺意に満ちていた。

とはいえマジカロイドの方も無事では済まなかったらしく、体の至る部分から煙が出ており、ショート寸前まで陥っているのが伺えた。

 

「ヤッパリあなた方の相手は、面倒くさい事この上ありませんネ……」

 

口から煙を吐きながら、マジカロイドはヨロヨロと立ち上がる。

 

「……デスがネ。こんなどうしようもない私にも、ロボットみたいな見た目の私にも、人間のままいられる事が、どれだけ有り難い事なのか、少しは、理解できたんデスよ」

 

フッと笑みを浮かべたような表情を見せた……ように、メアリの目にはそう映った。

 

「面倒な事も、やりたくない事も、誰かの励ましがあって、不思議とやる気に、満ちるんデスよ」

 

それが分かっていれば、受験にも受かる事が出来たのではないだろうか。それが分かっていれば、もっと楽にお金を稼げていたのではないだろうか。それが分かっていれば、初めからこのような戦いなど……。

 

「……デモ、先生との出会いガ私を変えてくれたのも事実デス。ならば、それに恩義と受け止めて、その人の為に尽くすこの人生も、捨てタもんじゃないんデスよ!」

 

マジカロイドの気迫に鼓舞する形で、前方にマグナギガが出現。両腕と胴体にある銃口が、そしてマジカロイドの右手に握られたマグナバイザーが、教育係を担当してもらった魔法少女に向けられる。

歯軋りするメアリを見据えながら、立っていられるのもやっとな状態で、一歩前へ踏み出すマジカロイド。後はマグナバイザーをマグナギガの背中にセットして、引き金を引けば……。

 

『UNITE VENT』

 

不意に電子音が鳴り響き、マジカロイドの背後に、ベノスネーカーと、黒いメタルゲラスとエビルダイバーが出現。3体の契約モンスターは重なり、ドラゴンを彷彿とさせるジェノサイダーへと姿を変える。

ジェノサイダーは、マグナバイザーを構えるマジカロイドめがけて、口から毒液を放った。ハッとなったマジカロイドは弾かれるように地面を蹴ったが、その場で起きた爆発に巻き込まれて、マグナバイザーを手から離してしまう。

 

「ハハハハハハハハハハァ!」

 

『FINAL VENT』

 

そこへ聞こえてくる、狂気に満ちた高笑い。奥から、先程吹き飛ばされて地面に延びていたはずの王蛇が、ベノバイザーにカードをベントインさせてから、駆け抜けてこちらに向かってきた。必殺技を打ち込むようだ。その前にこちらが先手を打たなくては。

マジカロイドが地面に落ちたマグナバイザーを拾おうとするが、目の前でそれは爆ぜた。メアリの高火力攻撃で粉々に粉砕されてしまったのだ。成す術のないマジカロイドに向かって、王蛇が『ドゥームズデイ』を放ってきた。

身構えるマジカロイドの盾になるように割り込んできたのは、契約モンスターのマグナギガ。だがその巨体すらも、王蛇の全力の蹴りの前では塵芥にも等しい。吹き飛ばされたマグナギガは、後方のマジカロイドを弾き飛ばすと、そのままジェノサイダーが腹に形成したブラックホールに、抵抗する事なく吸い込まれた。

そしてマジカロイドは、悲鳴をあげながら壁に叩きつけられて、地面を転がる。体からは、火花の代わりに血が流れ出て、地面を赤く染める。

まだだ。勝負がつくその瞬間まで、彼女は抗うと誓ったのだ。人間の意地を、最期まであのモンスターペアに見せしめてやる。そしてその暁には、今日の晩ご飯は……。

傷が目立つ体を震わせながら、足に力を込める。ガチャリと金属音が目の前で鳴り、顔を見上げるマジカロイド。同時に、胸の辺りに鉄のようなものが当たる感触が。ボヤけた視界の先に見えたのは、テンガロンハットを被る、豊満な女性の、勝利を確信したような表情。

次の瞬間には、胸の辺りが炎に包まれたように熱くなり、そしてそれは段々と冷めテイき、ソしテ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……せい。先生」

「……、……?」

 

ふと目を開けると、もう2度と見られないと思われていた、数少ない親友の1人の顔が目の前にあるではないか。

 

「……あれぇ、おっかしいなぁ。いよいよ幻覚まで見え始めたのかな、俺」

「俺もよく分かりません。けど、先生がここにいるって事は……」

「……」

 

あぁ、そうか。

彼は思い出す。最後の戦いに出向こうとした矢先、目の前からやってきた彼女に、鼻先にハンカチのようなものを押し付けられて、その匂いを嗅いですぐに意識がなくなって……。

 

「……やれやれ。そうなると、俺もここで終いという訳か。ま、令子さんとのデートが叶わなかったのはちょっと心残りだけど、浅倉に殺されて惨めに終わるよりはマシか」

「先生……」

「なぁ、……ちゃん。俺、ちょっとは人間らしく、振る舞えたかな?」

 

目の前の男に対する問いかけをした彼の表情は、どこか穏やかにも見受けられる。そしてその返答も早かった。

 

「……先生は、立派にやり遂げたと思ってます。だって、俺との約束、最期まで守ってくれたじゃないですか」

「! そっか。そんな単純な事で良かったんだな。人間らしくいるって事はさ」

 

そう思うだろ?

彼はそう呟きながら、目線を別の所に向ける。男性も振り返って驚いた表情を浮かべる。

ゆっくりと歩いてきたのは、ニット帽を被った少女だった。薄っすらと笑いながら、2人の男性に近寄る。

 

「……さぁて、と。向こうの世界でも何か美味しいものでもあると良いな。またあの時みたいに、3人で楽しむとしますか」

「良いですね」

「なら、お酒でも飲んでみたいものですね。私未成年だったのであの時は止められてましたけど、もうそんなの関係なさそうですし。大人の付き合いとやらも経験しておかないと」

「そいつは良いね。じゃ、行きますか」

 

そう呟いた彼の両隣に並び立つように、2人の男女は肩を並べ、光り輝く場所を頼りに、静かに歩き始めた。

そんな3人の後ろ姿を、パジャマ姿の魔法少女が眠たげに目を擦りながら一言。

 

「せぇ〜っかく、ねむりんが夢の中で会わせてあげたのに、ねむりんはガン無視ですか〜……。まぁ、人知れず人助けってのは、魔法少女のセオリーには反してないし、それなりに良い事したよね、うん。……向こうの世界でも、仲良く暮らすんだよ〜……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩も兼ねて『ATORI』を訪れていた正史が、令子から連絡を受けたのは、勤務していた蓮二と口論になりかけていた時だった。

いつになっても、半ば強引にランチに誘ってきた北岡が、指定された場所に来る気配がない。電話越しに、憤り半分、不安半分といった口調で令子はそう語る。

訝しむ正史だったが、不意に嫌な予感がよぎった。北岡が不治の病に侵されている事を知っているのは、魔法少女や仮面ライダーの中でも数人。一般人ともなれば、せいぜい担当医やそこで働いている看護婦ぐらいだろう。令子は当然ながらその事に勘付いている様子はない。

次第に焦りが、正史の全身を支配する。病気の事はさておいても、北岡の身に何かがあったのは間違いない。電話を切った正史はすぐにお金を払って店を出た。異様な雰囲気を感じ取った蓮二も、店長に断りを入れて、正史に同行する事に。彼もまた、北岡が抱えている事情を知る側の1人だからだ。

そうして原付バイクに乗り込んだその時、彼のマジカルフォンにメッセージが送られてきた。こんな時に、と思いつつも開いてみると、そこには短いメッセージと、何千個もあるマジカルキャンディーが添付されているではないか。

 

『あなたなら色々と信用できそうなので、我々のキャンディーをそちらに預けておきます。明日までに私から連絡がなかったら、そのキャンディーはそちらのご自由に。 マジカロイド44』

 

相手は、北岡のパートナー。このタイミングでマジカルキャンディーを全部預ける事の意図が読めなかったが、先ずは北岡の安否確認が最優先だ。

 

「北岡さん! 北岡さん!」

 

原付バイクを走らせて、北岡法律事務所に辿り着いたのは、それから10分後。玄関のインターホンを鳴らしても、ドアを強く叩いても、反応はない。かといってドアノブをガチャガチャと回しても、鍵がかかっていて入れない。それならもう外に出かけたのかとも考えたが、遅れて到着した蓮二が車庫に北岡がいつも乗っていたポルシェを発見した事で、その可能性は否定された。

だとすれば、北岡は中にいるはずだ。2人は意を決して、同時に足を突き出してドアを蹴破ろうとする。何発か蹴り込んで、ようやくドアが内側に開いた。

すぐにリビングへと足を運び、そして見つけてしまった。高級そうなソファーの上で、眠るように横たわっている弁護士の姿を。下半身にはブランケットが被らされており、無表情で横たわる北岡の手には、白い花が添えられている。寝かされた後に誰かが持たせたものだろう。胸も上下に動いていない。

それが何を意味するのか。普段彼からバカと称されてきた正史でも、否が応でも理解できてしまう。

 

「手遅れ、だったようだな」

「北岡、さん……! あんた……!」

 

正史は膝から崩れ落ち、蓮二はやるせない表情を見せる。

淀んだ空気が室内に立ち込める中、再びメッセージが送られてきた。もしや真琴か。そう思って2人がマジカルフォンを確認すると、こんな文言が。

 

ファヴ:『はいは〜い! 呼ばれて登場ファヴだぽん! 本日はお日柄もよく……ってそんな前置きはいらないぽん? あぁそう』

シロー:『茶番劇はその辺にして、新たな脱落者を発表する。今回は「2人」だ』

ファヴ:『えぇ〜。先ず1人目は、仮面ライダーゾルダだぽん。ここだけの話、実はゾルダって、とぉっても重い病気にかかってて、みんなに内緒で凄く苦労してたんだぽん! そんな中でも最期まで頑張ったゾルダを、みんな惜しみなく讃えてほしいぽん! それから、もう1人の脱落者は……』

 

もう1人の脱落者がファヴの口から告げられた直後、北岡の亡骸の前に居座っていた2人の目が見開く。北岡が持っていた花が、玄関から入り込んだ風に吹かれて、手元から離れて地面にポトリと落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

鉄骨を蹴りながらイライラを解消させている王蛇の叫び声を他所に、カラミティ・メアリは銃を降ろそうとはしなかった。

積まれた木材にもたれかかるように、小学生のような見た目のロボットが倒れている。胸の中心部に空いた穴からは、火花の代わりに赤い液体が流れて、下半身を、そして地面を染め上げる。白い部分が目立っていたはずのその容姿も、今や赤黒い部分が多く見受けられる。2つの目玉も点滅を繰り返している。

やがて壊れたラジカセのような声が、メアリの耳元に届いた。

 

「……セン、セイ。まタ、美味イ……もの、買っテ、……帰り、マス……」

 

その直後、マジカロイド44の体が光り始め、それが解けると、人間だった時の姿に戻っていった。

安っぽい服の中心部は赤く染まり、鼻と口から血を流している、ニット帽を被ったその少女の表情は、絶望に染まりきった様子もなければ、後悔に押し潰されたものでもない。

言うなればそれは、人間として最期まで何かをやり遂げた、という達成感に満ち溢れたもの、と捉えるべきか。

その表情が、ガンマン風魔法少女をより一層イラつかせる。しかし何よりも彼女をイラつかせたのは、今さっき殺した魔法少女が、北岡と共に散々自分達を翻弄し続けてきた邪魔者の正体が、自分よりもずっと歳下の少女であった事。

自分よりもずっと存在も地位も下のはずの女にここまで翻弄されていたとは、ムカつく事この上ない。その顔を更に赤く染めてやろうか。

再度引き金に手をかけるメアリ。

 

「……チッ」

 

だがメアリは、その引き金を引く事はなかった。そして銃を下ろし、舌打ちを1つするだけで、それ以上の事はしなかった。

今更物言わぬ亡骸に銃弾を撃ち込んだ所で、苦痛に満ちた表情など見せてくれるはずもない。それに……。

 

「初めてだな」

 

魔法少女を殺しておいて、何ら満足感が得られない事など。

 

「……昔の誼だ。今回は手を引いてやるか。……にしても、やっぱガキはあたしをとことんイラつかせるね。……あの嬢ちゃんを思い出すだけで、イライラする」

 

そう吐き捨てて、メアリは王蛇を連れて、その場を立ち去る。

静けさが戻った廃工場に横たわる、1人の少女の懐から、小銭の入った財布がポトリと落ちる。ニット帽の少女がそれを拾い上げる事は、2度と無かった。

お金よりもずっと価値のあるものを、彼女は確かに掴み取ったのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その15≫

 

【ゾルダ(北岡 賢治)、マジカロイド44(安藤 真琴)、死亡】

 

【残り、魔法少女8名、仮面ライダー6名、計14名】

 

 




コメントしてくれている方々の多くはマジカロイド44の生存を望まれていたようですが、今回ばかりはその期待を裏切らせていただきます。(悪気はない)

まぁ原作よりかは活躍させられたと思っておりますので、個人的にはこの結末がベストだと思っております。

昨年からさほどストーリーが進んでおりませんが、一応来年度での完結を目指して頑張りますので、来年度もよろしくお願いいたします!

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