魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回は後半の方は、ビルドの第47話を意識しております。


120.決断

「(結局、オーディンの事はサッパリ分からなかったなぁ……)」

 

つばめ特製のエビフライを、タルタルソースにつけながら口に頬張る正史は、ボンヤリと虚空を見つめながら、昨日の一件を思い返していた。

シローによれば、オーディンは何かを企んでいる。具体的な事までは探れなかったが、相手は命の奪い合いとも称されるこのゲームのターニングポイントとなり得る人物。野放しにしておくと、後々厄介な事が起きるような気がする。正史とてそれくらいの言葉を理解している。

 

「……し。おい、正史」

「⁉︎ へ、編集長!」

「さっきからボーッとしてるけど、また悩み事か?」

「あ、いやそういうわけじゃ……」

 

どうにかして誤魔化す正史だが、大久保の視線はずっと彼に注がれている。何か勘付いている節もありそうだが、敢えて黙っているようにも見受けられる。

故に大久保は、別の話題を振ってみる事に。

 

「ははーん、さてはつばめのか、もしくはその子供の事でも考えてたんだろ? そういやいつになるんだ? お産の予定日は」

「! そ、それは多分、後1ヶ月もしないうちに、って言ってたんで……」

「そうか。んならさっさと溜め込んでた仕事キッチリと終わらせて、少しでもあいつの側にいてやれるように、お前のその体に鞭打つこったな」

「は、はい……!」

 

それは早く仕事を済ませろ、という命令なのか、2人の事を想ってのエールなのか、定かではないが、一応は2人の関係性を気にかけてくれたようだ。そういう点では先輩に感謝しなければならない。

そう思いながら再び箸を動かしていると、外で食事を済ませてきた令子と島田が戻ってきた。と同時に、デスクの上の固定電話が鳴り出し、令子が代表して電話に出た。

 

「はい、OREジャーナルです」

『やぁ、令子さん。久しぶりだけど、相変わらず美しい声だね』

「……北岡さん?」

 

令子の呟きに反応して、正史は箸を止める。

 

『久しぶりついでに、食事のお誘いをしたくてね。明日の夜、駅前のレストランで、ディナーでもどうかなって』

「明日の夜? ダメダメ、明日は取材があって……」

『えぇ? そんな仕事ばかりじゃどうするんですか? ……じゃあ100万歩譲って、ランチならどうです?』

「ランチ?」

『えぇ』

「あの、お昼も……」

 

令子が適当に理由を作って断ろうとしたその時、正史が彼女の前に立って、待ったをかけてきた。訝しんだ令子は北岡に待ってもらうように告げてから、受話器を離した。

 

「何よ城戸君」

「あ、あの……! OKしてみても、いいんじゃないですか……?」

「えっ? 何でよ」

「いや、その……。たまにはほら、気晴らしも必要ですし、1回ぐらい奢ってもらうのもアリだと思うんです! 仕事の方は、俺の方で少しは引き継ぎますんで、ここは一つ、北岡さんの誘いに乗ってあげてもらった方が……」

 

いつになく食い下がらない正史の姿勢を見て、令子だけでなく、島田も訝しむ。が、最後は令子の方が折れて、結果として北岡の誘いに応じて、場所と時間の確認をする事に。

そのやり取りを見ながら、正史は心の片隅でホッとする感覚を覚えた。彼がここまで執拗に、北岡に華を添えようとしたのは、彼の境遇を知ってしまったからに他ならない。

つばめの定期健診に付き添った際、偶然出くわし、そして知ってしまった、北岡が抱えている爆弾。それを抱えて、今日まで戦い、そして生き残ってきたのだ。

 

「(北岡さんは、いつ死ぬかもしれない恐怖と、向き合ってた。それでも戦ってたんだ。自分が生きる為に……。それだって、戦う理由としては間違いじゃない。……俺も、つばめと、そのお腹の子供を守る為に、俺自身を守りたいから。だから、戦うんだ)」

 

ゲームが始まった頃には、全くそのような考えには至っていなかったが、多くの苦難を経て、つばめを愛おしく思えたからこそ、自らの『願い』を叶える為に、彼は戦う事を決めたのだ。

答えは出せなくて良い。ただし、お前が信じるものを、選択肢に含めろ。

かつて、正史のそばで孫の手を動かしてリラックスしている男の、行き詰まっていた彼にかけてくれた言葉が、再び脳裏によぎった。

願わくば、北岡さんには後悔のない人生を送ってもらいたい。それが、今の正史の、同じ仮面ライダーとして戦ってきた彼に捧げる、ささやかなエールであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きな食べ物は『贅沢なものなら何でも』。好きな言葉は『濡れてに粟』。好きな乗り物は『高級車全般』。好きな角度は『斜め45度』。その性格は、一見すると気さくで社交的にも見えるが、母親から甘やかされて育てられた影響からか、転んでもタダでは起きず、度を超えたナルシスト気質で口が悪く、利己主義的。

それが、友人のいない北岡(きたおか) 賢治(けんじ)の、彼をよく知る人物からの手酷い評価である。

幼少期のみならず、大人になって弁護士という職に就いてからも、その性格は変わらず。エリート意識が強くてダブルのスーツを着こなす、スタイリッシュな振る舞いを好む一方で、人間の欲望をこよなく愛し、それを極限まで追求するという主義を併せ持ち、社会主義やプライドよりも、報酬を重視している。それ故に黒い噂も少なくない。そんな中でも表舞台ではイメージアップを計ろうと、どんな不利な裁判でも逆転無罪にするという、「クロをシロに変える」程の実力を持つ『スーパー弁護士』として世間の注目を集め続けていた。これだけ見ると酷評が目立つ彼だが、重病人の高額な手術費用を密かに立て替えたりなどと、実際は根っからの悪人ではないのだ。

その理由は、自らが不治の病に侵されている事にあった。気づいた時には、病の侵攻が身体中に広がっていたらしく、加えて今は亡き秘書の吾郎が巻き込まれた事件を担当していた時期と重なって、発見が大幅に遅れたのである。しかし本人は、病気で死ぬ事を恐れる事なく、吾郎を秘書に迎えて、いつ終わるとも知れない人生を謳歌する事に決めた。

その際、彼が気晴らしにと手を伸ばしたのが、『仮面ライダー育成計画』と呼ばれるアプリゲームであった。最初はバカバカしいと思いながらプレイしていた彼であったが、いざやり進めていくうちに、欲望の赴くままに、自らが作成したアバター『ゾルダ』を強化させていった。

そしてある日、シローが現れて、契約書がない事に訝しみながらも、半ば強引にスカウトされる形で、彼は仮面ライダーとしての力を手に入れた。最初こそ戸惑う彼であったが、これはこれで、欲求を満たす為の商売道具になるのでは、と考えを改めて、人助けやモンスター退治を行なってきた。

N市の中では比較的早い段階で仮面ライダーになった事もあり、オーディンに基本的なマニュアルを学んだ後は、単独で行動する事が目立った。やがてN市に魔法少女や仮面ライダーが増え始めた頃になって、彼は『魔法少女育成計画』のマスコットキャラクター、ファヴの手引きによって、『マジカロイド44』の教育担当となった。後にパートナーとなる彼女にレクチャーするうちに、金絡みで話が合うようになり、彼女の要望で、マジカロイドの変身者、安藤 真琴を事務所のアルバイトとして迎え入れたのである。

弁護士の北岡、秘書の吾郎、そしてアルバイトの真琴。3人の間で絶対的な信頼関係が築かれていくうちに、北岡は自然と『生』に対する欲求が高まってきていた。今の今まで友達が1人もいなかった彼にとって、これほど大きな支えは他にない。

 

「ホント、退屈しないよな、この毎日はさ」

 

思わず本音が口から出るほど、不治の病に侵された弁護士は満足げな生活を送っていた。

戦いが本格化し、秘書を失った今でも、北岡は時折目を瞑って、そんな事を思い出す。あの頃に戻って、和気藹々とした時間の中を生きる事を、密かに夢見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……警察は、N市近辺の市町村に捜査網を張り、検問を強化していく方針を打ち出しており、付近の住民は……』

「……」

 

よく晴れた朝のニュースにて、アナウンサーの隣の画面に映し出されている、かつて自分が弁護を担当した人物の顔写真を、呆然とした表情で見つめている北岡。以前の彼であれば、鼻を鳴らして自分よりも目立っているこの男に対して恨み言の一つや二つは愚痴をこぼしていただろう。しかし今の彼にそのような気迫は微塵も感じられない。

尚もテレビの画面上で、アナウンサーと評論家らしき人物達が、脱獄犯である浅倉 陸について語り合っている。不意に画面が暗くなり、振り返ると、真琴がテレビのリモコンを机に置いて、代わりに両手に2種類の高級感溢れるスーツを持って、北岡に尋ねてきた。

 

「そろそろ約束の時間ですし、着替えた方がよろしいかと。今日の令子さんとのデートの服、どちらにします?」

「真琴」

 

その質問に答える事なく、北岡は口を開いた。

 

「……俺、さ。やっぱり、浅倉とはちゃんと決着つけなきゃいけないと思うんだよね」

「……」

 

一瞬、言葉を詰まらせる真琴だったが、このままでは本当に行きかねない。そして最期には成す術もなく……。

たまらず真琴は反論する。

 

「でも先生! その体ではもう……!」

「勝ち負けの問題じゃないよ」

 

真琴の言葉をそう一蹴する北岡。

 

「奴が、ライアの友人や、ファムのお姉さん、つばめ……トップスピードの元旦那に手をかけた事も、そもそもライダーになってメアリと共に悪事を働いてきたのも、多少なりとも、俺の不甲斐なさが招いたって事で、ちょっとばかし責任があると思うんだよね」

「先生……」

「……スーツを着る前に、さ。デッキ、出してくれる、か」

 

そう言って立ち上がる北岡だったが、すぐに足元がぐらついて、机の上に手を置いた。たまらず、真琴は悲痛な声を張り上げる。

 

「先生……! やっぱり、無理ですよ……!」

「行かせてよ、真琴……。このままじゃ俺、何か1つシミを残していく感じで、嫌なんだよね……」

 

そう呟きながら、外の世界に目を向ける北岡。目を細めて、ジッと虚空を見つめている。

 

「……それにしても、今日は、天気が悪いね」

「……!」

 

窓の外に目をやる真琴。空は、雲が少し多いだけで、暖かな日差しがしっかりと差し込んでいる。

 

「真琴の顔が、見えないよ……」

 

そう呟いて、玄関に向かおうとする北岡。

不意にその動きが止まったのは、背中から真琴が腕をお腹周りに回して、抱きついてきたからだ。

 

「生きて、ください、よ……! 最後の、最期まで……! 『仮面ライダーゾルダ』として、じゃなくて……! 『北岡 賢治』先生として……! お願いだから……、いつもの先生らしく、生きてよ……! お願いだから、生きてよ……!」

 

自分でも制御がつかないほど、感情が昂ぶるのを感じている。語気を強めて、彼にとって悲願だった、令子とのデートを全うしてほしい。その一心で、腕に力を込める。

 

「心配して、くれるのか。そいつは、なんか、嬉しい、ねぇ」

 

北岡はうっすらと笑みを浮かべてそう呟く。

 

「……けど、どの道助かりそうに、ないから、ね。戦って死ぬか、このまま、令子さんに会う前に果てる、か。……どうせなら、令子さんには、知られないまま、心配させないまま、逝きたいんだよね」

 

そのまま真琴の腕を引き離そうとするが、腕に力が入らない様子だ。

 

「これが、令子さん、だったら、これ以上に、ない、幸せ者に、なるだろう、なぁ……。……けど、今は、真琴に、看取ってもらえるのが、よっぽど幸せに思える自分が、いるんだよね……」

「……!」

 

思わず腕を緩めてしまう真琴。北岡はまた一歩、戦いの地へと踏み出そうと前に出る。

このままでは、本当に北岡は、戦いの中で命を落とす。どう足掻いても、王蛇やカラミティ・メアリに勝つ可能性など皆無だ。無論漢ならば、戦場で果てる事を恥とは思わず、寧ろ勇敢だと讃えるだろう。

 

「(でも、私にとって、先生は……!)」

 

不意に真琴は、食器棚の上に置かれた、茶色の小瓶に目をやる。稀に北岡が仕事の疲れや病気が悪化したりなど、眠れない時に使う、『クロロホルム』と呼ばれる液体が入っている事を、彼女は周知していた。そしてその小瓶から目が離せなくなり、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックック……! これで全部終わらせてやるさ。あたしに逆らう奴を、ようやくぶっ潰せるねぇ……!」

 

ミラーワールドの一角にて、レイドラグーンの死体の山のそばで、ショットガンを下ろしたカラミティ・メアリが、マジカルフォンを通じて、ある人物にメッセージを送っていた。

送信し終えると、不敵な笑みを浮かべながら、依然として武器を振り回し続けるパートナーに目をやる。

 

「ハァッ! グゥオォォォォォォッ!」

 

空を飛び回る敵を物ともせずに、ベノサーベルを振り下ろし、叩きつける王蛇。敵の数は多いが、王蛇にとって、戦いの舞台としては申し分ない展開……のはずだった。

 

「足りないんだよこれじゃあぁ! もっと戦えぇ! 北岡ぁ!」

 

不満を爆発させるように、レイドラグーンの羽根を破壊していく動作には、人間らしさはなく、モンスターそのものだ。

そんなパートナーの荒々しい姿を、満足げに見ていたメアリは、追加注文とばかりに姿を見せてきた、レイドラグーンの大群に向けて、銃口を向ける。

 

「……にしても、さっきから同じような奴らばかり出てきて、腹の足しにもならないね。やっぱり、モンスターをぶっ潰すよりも、魔法少女や仮面ライダーを殺る方が、気分が良いねぇ!」

 

これから巻き起こるであろう戦いを前に、メアリは軽快に引き金を引いていく。

銃声と、獣に似た雄叫びが、静けさをぶち壊すようにして、ミラーワールド内に響き渡る。

 

 

 




次回が本年度最後の投稿となります。

そして遂に、因縁の対決に終止符が……。

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