魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。卒論書くのって本当に辛い(泣)

今回流れる挿入歌につきましては、2番の歌詞を意識してますので、そのおつもりで。


115.たまには必要とされたい

「たまァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

トップスピードの悲痛な叫びが、周囲で激しい戦闘を繰り広げていた面々の動きを止める。そして目を見開く。

トップスピードを庇うように両手を広げて立っているたま。その背中から血が滴り落ち、たま自身も出血の影響からか、ガクガクと震えだす。

そして、斬りつけた張本人であるスイムスイムはというと……。

 

「……」

 

無表情のまま、一歩下がった後、なおも退かないたまに対してルーラを振り下ろす。新たに鮮血が飛び散り、たまの首輪が千切れかけた。それでも、たまはその場に踏みとどまる。これ以上先には行かせないという意思表示か、ただ単にトップスピードを守りたいという意思表示か、真意は定かではないが、その姿勢はいつになく強気だ。

これでもまだ倒れないと察したスイムスイムは、ルーラを突き出す。刃が、たまの心臓部分を掠め取り、その体を突き破る。あまりにも容赦のない攻撃を目の当たりにし、動いたのは龍騎だった。

王蛇を引き離して、スイムスイムにタックルをしかけ、ルーラがたまの体から引き抜かれる。スイムスイムは地面を滑るように転がり、再びルーラを構える。龍騎は一瞬だけたまの方を向き、雄叫びと共にドラグセイバーを構えてスイムスイムを押し返した。

 

「イライラするゼェ……! 俺と遊べぇ龍騎ぃ!」

 

王蛇は対戦相手がいなくなってイライラが増したのか、龍騎の所へ追いかけようとするが、

 

「「「ハァッ!」」」

「グォッ……」

 

飛び蹴りで横入りする形で、別行動を取っていたライア、ラ・ピュセル、ハードゴア・アリスが登場。現場の惨状、特にたまが血にまみれながら倒れこむ姿を見て息を呑んだ。

 

「たま……! くっ……」

 

後一歩、間に合わなかった事に地団駄を踏むラ・ピュセル。だがそれも、再び起き上がって首を鳴らし始めた王蛇が向かってくる事に気付いて、そちらに意識を向けざるを得なかった。

リップルもカラミティ・メアリと交戦する中、たまに守られたトップスピードの元へ向かおうとしているが、彼女は隙を与えてくれるわけでもなく。

 

「オラオラァ! そんなにあの犬っころが気になるかい! そんなに心配なら、後を追わせてやるよ!」

「こ、のぉ……!」

 

舌打ち混じりにメアリの構えるデザートイーグルを短刀でいなすリップル。

一方で、震えながらもたまの元にたどり着き、見るからに衰弱の激しい少女の上半身を起こして、必死に呼びかけるトップスピード。

 

「たま……! たま……!」

「……トップ、……スピード……」

「たま……! バカヤロォ……! 何で、オレを、庇って……!」

 

目から大粒の涙を流し、何故自分を庇ったのかを問うトップスピード。たまは限りある意識の中で答える。

 

「……仲間、だから」

「!」

「同じ、魔法少女、だからじゃ、ダメ、かな……? こんな、私の事、仲間だって、言って、くれたの、トップスピード、だったから……。だから……!」

 

そう言って血を吐くたま。限界が近い。

 

「だからって……! お前が、死んじまったら、元も子もねぇだろ! 無理矢理でも、生きるんじゃ、なかったのかよ……!」

「……アハ、は。ゴメン、ね。私は、やっぱり、トップスピードみたいには、なれない、かな……。トップスピードみたいに、心も、体も、強く、ないし……。だから、ずっと、後悔ばかりの、人生しか送れないって、そう、思ってた」

「たま……!」

「……でもね。こんな、私でも、誇れる事が、出来たんだよ。トップスピードを、誰かの幸せに、繋がる、未来を、守れた。それが、私の、自慢……」

 

お婆ちゃんも、きっと、喜んでくれるよね。

そう呟くたまの、体の傷口から流れる血の量が少なくなりつつある。

 

「居場所なんて、ないって、決めつけて、自信も無くなって、こんな私に、それでも、声をかけて、くれて、凄く、嬉しかった……! そんな、トップスピードと出会えて、私、良かった……!」

「たま、お前……!」

「……私は、もう、ここで、終わるけど、トップスピードは、諦めないで、ね……。生きる事、ご飯を、食べる、事」

 

たまは震える左手で、首元についていた、千切れかけの首輪を弱々しく掴んで、トップスピードに差し出す。同じように震えながらそれを手に取るトップスピード。

 

「もし、良かったら……。それ、持ってて、くれると、嬉しいなぁ……。ガイ、からの、プレゼント、なの。私にとっての、宝物。私の事、忘れないで、くれると、嬉しい……な」

「忘れるわけ、ねぇだろ……! 忘れたくても、絶対に……!」

「……! 嬉しい、なぁ」

 

そう言って薄っすらと微笑むたま。意識が、闇の底に向かおうとしているのが自分でも分かる。だからこそ、たまは絞るように口を開く。

 

「……トップ、スピード」

「な、何だ」

「……私の、分まで、戦って。それ、から……、お腹の中の、赤ちゃんと一緒に、生きて、ね……」

 

視界が、ボヤけ始める。これが、死を迎える間際の光景か。朦朧とする意識の中で、たまはそう考察する。

 

「(千尋ちゃん、先に逝っちゃうけど、ゴメンね。友達になれて、凄く嬉しかった……。お婆ちゃん、芝浦さん。私、今から、そっちにいくね)」

 

レポート作成を通じて仲を深めた友への謝罪と感謝を述べた後、脳裏には自分に密接に関わってくれた者達の所へ訪れる事への嬉しさで胸いっぱいだった。

 

「(2人に会えたら、いっぱいいっぱい、自慢するんだ。『魔法少女育成計画』で、優しい魔法少女にたくさん出会えた事。自分を必要としてくれる人に出会えた事。それから……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ魔法少女の命を、守れた事)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬の一吠えが、弱々しくも辺りに響き渡る。

自然と笑みが零れ、スゥッと溶け込むように、意識は闇の中に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たま……! たまぁ……!」

 

両目から、光が失われている事に気付いたトップスピードが、ぐったりとなっている少女の体を揺さぶるが、返事はない。

すると、たまの体は光に包まれ、犬耳の魔法少女から、どこにでもいそうな、小柄で制服に身を包んだ内気な少女へと変化した。この少女こそが、魔法少女『たま』の人間としての姿なのだろうとすぐに察した。

自分よりも若い少女の死を前に、涙が溢れ出て、止まらない。嗚咽と共に、冷たくなった彼女の体を抱きしめる。

その様子を、黒いエビルダイバーを弾き飛ばした九尾とスノーホワイトは目の当たりにし、九尾は仮面の下で歯軋りをし、スノーホワイトは感情に突き動かされる形で拳を固め、目から水滴が零れる。

やがて、たまの亡骸を抱き寄せるトップスピードの目の前に、足音を響かせながら、アビスが立ちはだかる。

 

「戦う運命にあった他者の死を嘆く、か。なんとも見苦しい光景だな」

「んだと……!」

「力がある限り、戦いの運命からは逃れられない。その犬はその意味を理解する事なく無様に散った。同じ魔法少女によって、自らの野望は絶たれた。弱者にはお似合いの、哀れな最期だったな」

「ッ、て、メェェェェェェェェェェェ!」

 

アビスの冷徹な一言に逆上したトップスピードがたまを下ろし、勢いに任せて殴りかかる。が、アビスは左拳を振るうだけでトップスピードを地面に伏せさせる。そして首根っこを掴むと、胸元を蹴るように遠くへ吹き飛ばした。地面を転がるトップスピードからは呻き声が。

 

「トップスピード!」

「そんなにこの女が侮辱された事が癪に触るか。ならばその未練、断ち切ってやろう」

 

そう言ってアビスは地面に横たわるたまを踏みつけようとするが、

 

『SWING VENT』

 

「ハァッ!」

 

すんでのところでライアが、エビルウィップでアビスに攻撃し、体当たりしてたまから引き離す。

 

「お前に、人の運命を語る資格など……!」

「なおも屍人を守るか。価値のないものに媚びるとはな!」

 

『SWORD VENT』

 

空いた手でベントインしたアビスは、両手にアビスセイバーを召喚し、ライアを斬りつけた。後ずさるライアを吹き飛ばした後、いけしゃあしゃあと語り始める。

 

「たまだけではない。ルーラもベルデも、タイガもインペラーも、そしてピーキーエンジェルズも、己の欲望を受け止めるだけの器を掲げてなどいなかった。自らの力に酔いしれ、そして無意味に散った。商品価値のない命だったといえよう。元々期待していなかったとはいえ、想像以上に無能な連中だったよ。こんな事なら、初めからチームなど組む時間すら無駄だったといえよう」

「お前が……! たまの、ルーラ達の、命を、語ってんじゃねぇ……! あいつらだって、生き残る為に、必死になって、戦ってきたんだ……! お前は、何も感じなかったのかよ……! 誰よりもチームの中にいて、その素晴らしさを、誰よりも見てきたはずのお前が、何も……!」

 

起き上がりながら、たまのそばに寄ろうとするトップスピードの口調は、穏やかとは程遠い。

トップスピードの怒声を気にも止めず、アビスは悠然とアビスセイバーを構えながらトップスピードに近づく。

 

「この試験が、戦いがどれほどの価値があるものか、興味を抱いたのが間違いだったな。私が求めていた戦いとは程遠い。もはや手をこまねく理由もない。死をもって私を永遠に崇めるがいい! 私こそが、命の管理者にして、最強の仮面ライダーに相応しいのだからな!」

 

これまでに聞いた事もないほど狂気に満ちた、アビスの不気味な嘲笑と共に、トップスピードに向かって飛びかかる。

 

『STRIKE VENT』

 

「⁉︎」

「……語るな」

 

不意に右手首を掴まれたアビスが、状況を理解する間も無く、その腹に形ある何かが押し付けられた。よく見ると、右腕にドラグクローを構える龍騎が、アビスの腹めがけて発射体勢に入っていた。さらに後方に目をやると、ゆっくりとトップスピードが向かってくるのが確認できた。本能的に危機感を覚えたアビスが引き剥がそうとするが、右手首を掴む龍騎の力強さの方が勝っている。

 

「お前が……! お前がぁ……!」

「くっ……! 離せ……!」

「お前みたいなやつが、誰かの、命を……!」

 

そして。

龍騎の隣に立ったトップスピードが左手を、龍騎がドラグクローの付いた右腕を、同時に突き出す。

 

「「語ってんじゃねぇェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」」

 

強烈なパンチが入り、肺から酸素が奪われて、地面を転がりながら咳き込むアビス。

 

「グァッ……、くっ……! 貴様らぁ……!」

 

起き上がろうとするアビスの目線の先に、トップスピードと龍騎を中心に、集結し始める仲間達の姿が。メアリや王蛇、スイムスイム、契約モンスター達を一旦退けた一同は、たまの前に立つ形で、アビスや彼の隣に立ったスイムスイムを睨みつける。

 

「アビス……! お前だけは、絶対に……! 1つしかない、人の命をバカにするお前を、オレは認めねぇ!」

「たまが託した想い。それを否定するお前を、俺は絶対に許さないからな!」

 

怒りのボルテージを上げる龍騎&トップスピードペア。

 

「勘違いしてもらっては困るが、俺はこいつの仇を討つつもりはない。お前達が気にくわない敵だから戦う。それだけだ」

「お前はトップスピードを殺そうとした。なら、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」

 

あくまでドライに、されど明確な敵意を剥き出しにするナイト&リップルペア。

 

「傲慢に満ちたお前の運命を変えてやろう。俺達の手で……!」

「お前達のような魔法少女や仮面ライダーは、例え魔法の国が認めても、僕達が絶対に認めない! 認めてたまるか!」

「価値のない命なんて、ありません……」

 

人の命を蔑ろにする連中に対して戦う意思を示すライア&ラ・ピュセルペアと、ハードゴア・アリス。

 

「アビス、スイムスイム……! 人の命を軽んじるとどんなしっぺ返しを受けるか、思い知れ……!」

「あなた達みたいな魔法少女なんて、仮面ライダーなんて……! 私は、絶対に許さない!」

 

そして、誰よりも早く人の命の儚さに気づき、生き残る事を強く決意している九尾&スノーホワイトペア。

ハードゴア・アリスを除く8人の手に握られた、マジカルフォンや一枚のカードの力を、彼らは一斉に解放した。

 

『『『『『『『『SURVIVE』』』』』』』』

 

[挿入歌:Revolution]

 

それを見て身構えるアビス&スイムスイムペア。そして、王蛇&カラミティ・メアリペアも、待ちくたびれたとばかりに首を鳴らし始める。

 

「やっとその気になったかい。ムカつかせる連中ばかりで嫌になるよ。さっさと消えなぁ!」

「来いよ……! もっと俺を楽しませろぉ!」

 

そうして9人の魔法少女、仮面ライダーは、それぞれ敵を見据えて激しい戦闘を始めた。

 

『THUNDER VENT』

 

「ハァッ!」

「チィッ!」

 

ライアサバイブが発動した『ヴェイパースパーク』により、周囲に放電が起きて、回避に専念するメアリ。その隙を逃すまいと、ラ・ピュセルサバイブが大剣で斬りかかったり、アリスも黒いドラグセイバーを出して一気に追い込む。対するメアリは銃を持ち替えながら距離を置いて迷う事なく引き金を引き続ける。

ナイトサバイブとリップルサバイブは、荒れながらも鋭い攻撃を仕掛けてくる王蛇を牽制しつつ、反撃とばかりにダークブレードを振るう。王蛇は歓喜の雄叫びをあげながら、ベノサーベルを振り回し続ける。お互いに攻めの姿勢を崩す事なく、火花が散り続けた。

 

「ダァッ!」

「ハァァァァァ!」

 

九尾サバイブとスノーホワイトサバイブは、フォクスバイザーツバイを駆使して、スイムスイムに突撃する。可能な限りルーラで攻撃を防ぎ、背後から仕掛けてこようものなら、魔法を行使して地面に潜り込んだ。敵の姿は見えなくなったがある、スノーホワイトには何ら問題はない。魔法によって、どう攻めあがろうか『困っている』心の声を利用し、次にどこから現れるのか、的確に察知していた。

とはいえ互いに有効打を与える事は出来ていない。

 

『SWORD VENT』

 

ファムが使用していたウイングスラッシャーを手に持った九尾サバイブの攻撃も、ルーラとぶつかり合い、均衡が崩れない。

 

「九尾、代わって!」

 

と、今度はスノーホワイトサバイブが前に出て、軽い身のこなしでスイムスイムとぶつかっていった。以前に増して攻撃の動作が素早い事に訝しむスイムスイムだが、顔色1つ変えずに互いの武器をぶつけ合っていく。

 

「同じ魔法少女でも、これだけは、見過ごせない……! あなただけは、許しちゃいけない!」

「……ルーラなら、きっと、こうする」

 

なおも罪の意識を感じさせない一言を呟くスイムスイム。再び鍔迫り合いとなり、スイムスイムは体力の消耗を避けるべく、一気にトドメを刺そうと、魔法で地面に潜ろうとする。が、その時。

 

『NASTY VENT』

 

ナイトサバイブが、王蛇を黙らせるべく発動させた『ソニックブレイカー』による超音波が、スイムスイムにも直撃し、そのうるささに、顔をしかめて気がそれてしまった。

 

『この音、嫌い……!』

「! ヤァッ!」

 

スイムスイムの心の声が聞こえてきたスノーホワイトサバイブは、すぐさま距離を詰めて無防備な頬に向かって、拳をぶつけた。手応えは、あった。

 

「……!」

 

スノーホワイトサバイブに殴り飛ばされたスイムスイムは、思わずルーラを手放してしまった。地面に音を立てて落ちたルーラを、スノーホワイトサバイブはすぐに手に取った。

 

「これ以上、あなたにこの武器で、人を、殺させない!」

「ルーラを、返して……!」

 

スノーホワイトサバイブに没収されてしまっている事に気付いて、すぐに起き上がり、素早くマジカルフォンをタップしてアビスセイバーを構えて攻撃に転じるスイムスイム。が、動揺のあまり、1つ1つの攻撃が先ほどと比べて単調になっていた。それ故に、九尾サバイブはウイングスラッシャーで押さえつけてから、回し蹴りでスイムスイムを逆に弾き返す。

 

「(あの武器を取られて動揺が激しいな。このまま一気に……!)」

 

九尾サバイブが次なる一手を仕掛けようとしたその時、カードデッキの中のカードが光り始めた。新たにカードが追加された証拠である。引き抜いてみると、たまのアバター姿が描かれているカード。彼女の死が、九尾サバイブに新たな力を付与させたようだ。

 

「たま……。一緒に、戦うぞ!」

 

『HOLE VENT』

 

カードをベントインすると、起き上がったスイムスイムの真下の地面がポッカリと空いて、スイムスイムはわけもわからぬまま落下した。たまの魔法によって、瞬時に自分がイメージした場所に穴を開けるのが、このカードの能力のようだと察する九尾サバイブ。

 

「! あれは……! トップスピード!」

「おう!」

 

その一方でアビスを追い詰めていた龍騎サバイブは、九尾サバイブが開けた穴の存在に気づいて、トップスピードサバイブに呼びかける。トップスピードサバイブはラピッドスワローで高速移動を続け、真正面から体当たりをかますと、アビスはカードをベントインする間も無く吹き飛ばされ、そこへ龍騎サバイブのかかと落としが決まり、アビスも穴の中へと吸い込まれるように落下する。

 

「俺達は、お前らなんかに、負けない!」

 

『SHOOT VENT』

『IMPROVE VENT』

 

龍騎サバイブがドラグバイザーツバイにカードをベントインすると同時に、トップスピードサバイブも同じくドラグバイザーツバイを構える。九尾サバイブも援護するように、シスターナナの魔法を行使し、2人の力を引き出す手はずを整える。

2人の周囲にドラグランザーが降り立ち、ドラグバイザーツバイの銃口と、ドラグランザーの口が穴に向けられる。

 

「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」

 

『メテオバレット』が普段の二倍以上の火力で穴の中を埋め尽くし、炎が噴き上がる。

 

「くっ……! こんな、奴らに、殺されてたまるか……!」

 

『LIQUID VENT』

 

穴の奥からアビスの声と、ベントインした音声が流れてきたのを、スノーホワイトサバイブは確認した。攻撃が止んで穴を覗いてみたが、アビスもスイムスイムも、その場にはいなかった。アビスはパートナーカードの能力で液状化して、スイムスイムは落ち着きを取り戻したのか、自身の魔法で地面の奥底に潜り込んで攻撃をやり過ごしたようだ。

だが、反撃を仕掛けてくる様子はないらしく、スノーホワイトサバイブが懸命に反応を辿っても声が聞こえてこない事を考えると、本当に撤退したようだ。

ふと気がつくと、辺りが静寂に包まれている。振り返ると、ナイトサバイブ達がこちらに歩み寄ってくるのが確認できた。

 

「あいつらは」

「途中で撤退した。どっちもそれなりにイラついている様子だったが、まぁしばらくはこっちにちょっかいを出す事はないだろう」

 

サバイブの時間も切れて、元の姿に戻る一同。

そっか、と呟いたトップスピードは、目元を隠すようにとんがりハットを深くかぶり直した。そして龍騎達に背を向けて、仰向けに倒れている少女の所へ。

その後ろ姿は、今まで見てきたどの後ろ姿よりも物悲しさが溢れ出ていたと、後にリップルは語る。

しゃがみこみ、今一度動かなくなった、細身の彼女の体を抱き抱える。血の量が減っているからか、空の弁当箱を持っているような感覚だった。拳がギュッと握りしめられているのを、九尾達は見逃さなかった。どう声をかけたらいいのか戸惑っている者もいる。

不意に内ポケットの中をガサゴソとあさり始めるトップスピード。何かを見つけようとしているようだが、見当たらなかったらしく、少しだけ肩を落としてから、今度は自身のマジカルフォンを開いて、操作する。

程なくして、彼女の端末から、久々に見かけた気もするマスコットキャラクターが飛び出してきた。

 

『はいは〜い! 呼ばれて登場、ファヴだぽん! これから大事な報告があるので、要求なら手短に済ませてほしいぽん! ……と思ってたけど、ここにいるみんなにはその必要はなさそうぽん』

 

ファヴが、横たわる珠の姿を見て、そう呟く。これから、新たに脱落した魔法少女の名を発表するところだったのだろう。

トップスピードはファヴに目向きもせずに、淡々と尋ねる。

 

「……なぁ、ファヴは、オレ達の正体とか全部知ってんだよな。例えば、どこの家に住んでるとか」

『それならまぁ、一応抑えてあるけど、それが、どうしたぽん?』

「……ちょいと、オレの頼み、聞いてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒空の下、民家が密集している地帯の上空を、いくつもの影が飛行していた。

先頭を走るトップスピードの腕には、目を閉じている珠が抱かれており、その後ろを、龍騎達が各々の移動手段を用いてついてきている。

目的地が近づいてきたところで、一同は降下し、近隣の住民に気づかれないように、とある民家の玄関前まで降り立った。ネームプレートには『犬吠埼』と刻まれている。珠の家に違いないと確信を得た。

この場所を教えてくれたのは、他でもないファヴだった。

 

『魔法少女や仮面ライダーにも、一応個人情報保護法は適用されるけど、もう死んじゃった魔法少女なら話は別だし、トップスピードのこれまでの頑張りに免じて、教えてあげるぽん!』

 

と言った形で、珠の家の住所を教えてもらい、現在に至る。

ラピッドスワローから降りたトップスピードは、玄関の戸まで運び、ゆっくりと降ろして上半身を立たせる形で、その華奢な体を傷つけないように静かに横たわらせる。

 

「……悪いな。あのままにしておくのも、後味悪い気がしてな。お前は、家族から嫌われてたそうだけど、そいつはきっと、お前の思い込みだろうよ。子供を心配しない親なんて、いるわけねぇだろ? だから、ここがお前の、帰るべき居場所なんだ。魔法の世界なんて関係ない、どこにでもある、そんな場所だ」

 

そして、物言わぬ体をそっと抱きしめる。

 

「……ゆっくり休めよ。後の事は、オレらで何とかしてやるからさ。……お前は、オレの、最高なダチの1人だからな」

 

気が済むままに抱きしめ続けたトップスピードは、珠から離れると、リップルに目線で指示を飛ばす。少しだけ反応に遅れながらも、インターホンを鳴らした。

家の奥から足音が聞こえてきたのを確認した一同は、手早く撤収した。明かりがついていなかったので、暗くてよく見えないかもしれないが、明かりに照らされれば、誰でも傷口や血のついた制服に気づくだろう。後は、向こうの家族の手で解決してもらおう。

名残惜しそうに一瞬だけ立ち止まるトップスピードだが、ラ・ピュセルに催促されて、再び駆け出し、空に向かって飛び上がる。

 

〜私の体、家まで運んでくれたんだね〜

 

ハッとなってラピッドスワローから後方に振り返るトップスピード。明かりがついているのが確認できたが、すでに豆粒ほどに遠ざかっており、姿は確認できない。今頃大騒ぎになっているはずだ。

 

〜最初から最後まで、本当に、ありがとう〜

 

〜トップスピードの言う通りだった。私は、ずっと、自分から殻に閉じこもってただけだった。でも、それが間違ってるって気づけて、本当に良かった〜

 

〜トップスピードは、凄いよ。私にとっての、本当の、魔法少女だね〜

 

ラピッドスワローを握る両手が、震え始める。涙が、止まらない。

 

〜もし、生まれ変われたとしたら、その時は……〜

 

嗚咽が聞こえてきたのを確認した龍騎は、トップスピードに近づいてその小さな体を抱き寄せる。

 

〜その時は、トップスピードみたいに、うんと優しい、自分に自信が持てる人になるんだ〜

 

リップルも、彼女を慰めるべく、なるべく顔を見せないように近づく。

 

〜頑張ってね、トップスピード。生きてね〜

 

刹那、トップスピードの感情がはち切れんとばかりに、夜空に虚しく響き渡った。

自分よりも幼い少女の命を守れなかった事への悔しさ。そして死に絶えながらも、自分の夢を後押ししてくれる事への感謝が入り混じり、いつのまにか自分でも制御が追いつかないほどに、顔をクシャクシャにしながら、2人に体を寄せた。

龍騎は、同情するかのようにその手を握りしめ、彼女を安心させる。

リップルは、トップスピードを悲しませた元凶を恨むように、虚空を睨みつける。

他の面々も、それぞれ思う事は多々あるが、それは今、この場で語るわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間発表 その13≫

 

 

【たま(犬吠埼 珠)、死亡】

 

【残り、魔法少女9名、仮面ライダー8名、計17名】

 

 




色々と元ネタが目立つ回ではありましたが、たまは、本編同様死亡という形をとらせていただきました。だって、生き残る要素が見当たらなかったんだもん……! これでも、自分なりに救いのある最期まで持ってこれたと自慢したいぐらいです。

たまの生存を心待ちにしていた方の期待を裏切るようで申し訳ありませんが、それぐらい、私も非情だと察してください。救いばかりが二次創作ではありませんので(今更)


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