魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

今回、唐突ですが遂にスイムスイムの正体が明らかに……⁉︎(今更感)


113.スイムスイムの正体

「……やっぱり、そう簡単には、会えないよね」

 

夕日が沈み、街灯がちらほらと灯り始めた頃、犬耳の魔法少女『たま』は、比較的高いビルの上から、地上ではなく周囲のビルの屋上を見渡して、肩を落としていた。

スイムスイムのチームから1人内緒で抜け出してやって来た彼女の目的は、先日共闘したトップスピードらと会う事。

いつでも待ってる。その言葉に引き寄せられるように、たまは生前、ピーキーエンジェルズが使用していた、魔法少女の目撃情報まとめサイトを慣れない手つきで操作し、比較的彼女達が現れやすいポイントを絞って、この地に訪れた。

が、いつまで経っても現れる気配がない為、時間もまだあるし、そろそろ別の場所に移ってみようと、そのビルを立ち去ろうとしたその時、上空から何かの気配を察知した。顔を上げると、夜空でもはっきりと分かるぐらいに小さな黒い点がこちらに向かって急接近して来るのが見える。

 

「え、えっ⁉︎」

 

突然の事で慌てふためくたま。このままではぶつかる。たまを身を縮ませて蹲る。

 

「おー! たまじゃねぇか! おいっす!」

 

不意に近くから声が聞こえてきたので恐る恐る両手を顔から離してみる。目の前に何かが浮いている。目が慣れてくると、箒に跨った、西洋の魔女がニヤつきながらこちらと目を合わせていた。見れば、その背中越しに黒いドレスに見を包んだ、目に隈が付いているゾンビのような少女が顔を覗かせている。たまは驚いて尻餅をつくが、魔女は苦笑しながら手を伸ばす。

 

「おいおいそんなに驚く事ないだろ? まぁでも、こんなところでまた会えるなんてな」

 

たまはキョトンとしながらトップスピードの伸ばした手を掴み、立ち上がった。

そしてトップスピードとハードゴア・アリスがビルの屋上に足をつけて、トップスピードは手提げカバンからビニールシートを取り出し始める。

 

「? トップスピード? どうしたの?」

「何って、せっかくだからここで腹ごしらえでもしよっかなって。龍騎もまだ仕事があって来れないって連絡来たし。アリスだけは特別何も無かったみたいで、他の連中も似たようなもんさ」

「そ……ラ・ピュセルは、まだ、用事があって、来れない、と言ってました。それで、トップスピードに誘われて、空の旅を」

 

ハードゴア・アリスはそう呟きながら、トップスピードが敷いたビニールシートに腰を下ろす。手に持っていた人形も地面に下ろした。

 

「んなわけで、ちょっと早いかもしんないけど、あまりは沢山あるし、ほれ! これ口に入れてけよ。腹が減っては何とやらってやつさ」

 

そう言ってトップスピードはラップに包まれたおにぎりを、たまに差し出す。たまは戸惑いつつも、トップスピードからおにぎりを受け取り、同じように腰を下ろす。形がしっかりと整えられており、水々しさを感じさせる。口に含めば、たちまち丁度いい塩加減と、中に入っていた鮭のフレークの香ばしさが味覚を刺激する。

 

「美味しい……!」

「ヘヘッ。喜んでもらえて良かったぜ」

 

たまがおにぎりを一つ平らげたところで、トップスピードがこんな事を聞いてきた。

 

「なぁ、こないだの事だけどさ……。答えとか出たか?」

「……っ、それ、は」

「まぁ無理に答え出せっていうつもりないけどな。そりゃああのルーラが作ったチームなんだぜ? 慣れ親しんだ所離れて、いきなりオレ達の所になんて、難しい話だよな」

「……」

 

ハードゴア・アリス自身、たまにそんな考えがある事をこの場で始めて知ったわけだが、敢えて成り行きを見守る事に。

 

「……わ、私」

「?」

「私、時々考えるの。どうして、私が魔法少女になって、ここまで生き残っちゃったんだろうって……」

「どういう事だ?」

「私、人間の時からずっと、鈍臭くて特技も何もなくて……。家族からも、全然相手にされなくて……。お婆ちゃんだけだったの。幼い頃の私に、優しくしてくれたのは……。それからは、ガイが、芝浦さんが、私を見てくれていた」

 

たまは首についたリードに手をやる。

 

「でも、お婆ちゃんも芝浦さんも、もういない。誰も、私に構ってくれない……! だから思うの。私、生きてていいのかなって……」

「……なるほどねぇ」

 

トップスピードは卵焼きを頬張りながら考え込む。しばらくゆっくりと咀嚼した後、自分のお腹に目をやってから、たまの方を向いて話し始めた。

 

「……特別にさ。オレの生き残りたい理由ってやつ、教えてやるよ」

「えっ?」

「夢があるんだ。オレと正史、それから……」

 

そして自身のお腹に手を軽く触れる。

 

「ここにいるやつと一緒に、テーブル囲んで、ご飯を食べていく事。そいつが、オレの理由」

「ここって……。! まさか……!」

 

たまは驚きに満ちた表情で、口に両手を当てて、トップスピードの事情を察した。トップスピードをウインクをしてから、料理の入ったタッパーを手に持って呟く。

 

「正直さ、未来がどうなるかなんて分かったもんじゃねぇ。オレが今言った事だって必ずしも叶うとは限らない。だから、少しでもそれが現実になるように、オレは戦うんだ。アリスにだってあるだろ? 生き残りたい理由がさ」

「はい。私は、ラ・ピュセルの、夢を、これからも、応援したい。もちろん、皆さんの、夢も。だから、生きたい」

 

唐突に話を振られるも、アリスは律儀に質問に答える。そんな2人の姿を見て、ますます自分の存在価値感が分からなくなるたま。2人には戦うだけの理由がある。だが自分には、明確に定まったものが何一つない。ガイはより刺激的なスリルを味わいたいが故に、生きようと戦ってきた。皮肉にも、協力してくれていたメアリと王蛇に首を取られる形になってしまったが。

ならば、自分はなぜ今も生きようとするのか? たまの頭はさらに混乱する。そんな彼女を見兼ねて、トップスピードがこう告げる。

 

「無理矢理でもさ、生きてる方がいいんだよ。生きてさえいれば、ご飯も食べられるし、新しい夢も見つかるだろうから」

 

ま、結局決めるのは自分なんだけどな。

肩をすくめてトップスピードはおにぎりにかじりつく。

 

「無理矢理でも、生きる……」

 

たまは復唱する。その短い一言が、たまの中で何か定まり始めたようだ。

 

「わ、私……!」

「?」

「も、もう一度、スイムちゃんの所に、行って、話を、したい……! スイムちゃんに黙ったままなんて、そんなの嫌だ……! 私にはまだ、やりたい事も全然見つからないけど、少しでも気持ちを伝えたい……! 前に、進みたい……!」

 

改めて意思表示を示す。たまはそう宣言し、2人に背を向ける。それから、ふと思い出したように顔だけが振り返る。

 

「あ、あの……! おにぎり、ご馳走さま……! 美味しかった……! また、食べにきても良いかな?」

「おうよ! なら今度から多めに作ってやるから、そん時はちゃんといい面してろよ!」

 

トップスピードが手を振り、たまは頭を下げるとビルを飛び交ってその場を後にする。たまの姿が見えなくなったところで、アリスがボソリと呟く。

 

「……大丈夫、でしょうか? あなたは良いかもしれません。でも、ナイトさんもリップルさんも、きっと反対します。九尾も、もしかしたら……」

「そん時はそん時だ。今度とびきり美味い飯作ってきてやるから見逃してくれ、って頼むだけさ」

 

何ともお気楽な雰囲気で手に残っていたおにぎりを全部口に放り込むトップスピード。どうしてそこまで余裕なのか、釈然としないまま、おひたしを食べるアリス。染み込んだ鰹出汁が良いアクセントになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つかんないなぁ……」

 

それから24時間経った、西門前町の一角。たまは人目につかないように注意を払いながら、屋根の上から捜索を行っていた。

スイムスイムと話をしようと意気込んだのは良いものの、彼女が今、どこにいるのかが皆目検討つかない状況だった。あてもないまま、かつて拠点としていた西門前町に足を踏み入れたのだ。パートナーを殺した元凶でもある王蛇とメアリが、タイガを探しに王結寺へ強襲し、半壊した今、アビスの提案で拠点を転々と移動していた事を思い出し、心当たりのありそうな場所を片っ端から出向いてみた。が、結果は言わずもがな。闇雲に探し回っても時間だけが過ぎていく。そこでたまは思い切って、原点に立ち返って西門前町に戻ってみた。

いくら探しても見つからず、途方にくれるたま。今日はもう諦めようか、いや、ここまで来たのだから全部見て回ろう、などと葛藤が繰り広げられる中、突如ピリオドを打つかのように、マジカルフォンに反応が見られた。モンスターが近くにいる。それも野良ではなく契約したモンスターだ。こうなるとただ事ではない。ライダーや魔法少女同士が戦っている可能性がある。

たま、全身を震わせながらも、スイムスイムがいる事に期待を寄せて、反応をたどりながら屋根を危なっかしい足取りで進んでいく。やがてたどり着いた先に見えたのは、王結寺からでもよく見えていた廃ビル。あそこに同胞達がいるようだ。たまはなるべく大きな音を立てないように廃ビルの中に。

辺りは薄暗く不気味な雰囲気がある。気の弱いたまにとってみれば、心臓が縮み上がりそうだ。懐中電灯でも持ってくれば良かったかな、と考えていたその時、廃ビル全体が揺れ出して、隠れていたであろうコウモリがたまに向かって飛んで来た。悲鳴をあげる暇もなく回避するたま。コウモリはそのまま外へ出て行った。ビルが揺れた後から、何度も衝撃音が耳をつんざく。激しい戦闘が繰り広げられているのは間違いない。

たまは意を決して奥へと進む。廃ビル1階の奥に繋がる道を歩き、赤い光が見えてきて、それを頼りに少しだけ開けた場所に出た。煙が上がり、所々で火の粉が飛び交っている。

やはり誰かが戦っている。たまは気づかれないように顔を覗かせる。左手に見えたのは、際どいビキニとテンガロンハットを被った、ガンマン風の女性。その隣には、紫色の蛇を連想させ、目の前に立っているだけでも本能的に危機感を感じてしまうぐらいに禍々しさを覚えさせる人物が。カラミティ・メアリと王蛇のペアだ。よりにもよってガイを殺したペアと遭遇してしまうとは。たまは震え上がりながら、彼らが対峙している相手に注目してみた。薄ピンク色のスク水に、メアリとほぼ同じぐらいの乳を併せ持つ、薙刀を携える少女。

 

「スイムちゃん……!」

 

思わずか細くはあるが、最恐ペアと対峙している魔法少女の名を呟くたま。スイムスイムの表情は、いつもと違って気を引き締めているようにも見受けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失念していた。まさか奴らがここまでしつこいとは。

相手に気づかれない程度に息を荒げるスイムスイムは、そう自答して感情を押し殺す。

元々、アビスに言われて門前町で使えそうな拠点を確保する為の視察が、スイムスイムに与えられたミッションだった。たまにも手伝ってもらいたかったが、ここ数日、隠れ家にも姿を現さない。何度も拠点を移し替えるうちに場所が分からなくなってしまったのか分からないが、戦力としては期待出来そうにない。仕方なくスイムスイム自らが門前町に戻って、王結寺を中心に使えそうな拠点を探している最中、奴らと出くわしてしまった。タイガに招集されて魔法少女やライダー同士が争いあった一件以来、行方知れずとなっていた2人。前に一度戦った事があるが、その獰猛さは決して侮れない。

そんな2人を相手にどこまでやれるか。

 

「(……やるしかない。強い敵はどんな手を使っても倒せ。ルーラならきっとそうする)」

 

戦略的撤退、という選択肢も出来たが、おそらくこの2人を前にそう上手く事は運ばないだろうと、スイムスイムは考える。ルーラを構え、一旦場所を狭い空間内、つまり廃ビルの中に移し替える所までは成功した。自身の魔法をフル活用する上でも、相手の油断を誘う上でも、この場所は最適だ。スイムスイムはそう自分を納得させる。

 

「随分と狭いところに逃げ込んだもんだねぇ。あんたが何考えてるのか知らないけど、格好の的になりそうじゃないか! なぁ王蛇!」

「どうでもいい事だ。俺は戦えればそれで良いんだ……! スイムスイムぅ……! 俺を楽しませろぉ!」

 

王蛇は雄叫びをあげながら手に持っていたベノサーベルを振り下ろしてくる。スイムスイムはルーラで捌きながらその腹に蹴りを入れるが、全くと言っていいほど効いていない。

 

「オラオラオラオラァ!」

 

そこへメアリが追撃とばかりにマシンガンを両手に持って乱射する。2人は距離を取って回避する。明らかに王蛇を巻き込むような形だったが、当の本人は気にかける素振りを見せない。

 

「逃すかよぉ……!」

 

『STRIKE VENT』

 

次にメタルホーンを右手に装備し、突撃する王蛇。

 

「……アビスラッシャー」

 

パートナーの契約モンスター、アビスラッシャーを呼び出して、王蛇の動きを止めるスイムスイム。その隙に彼女は真下に潜り込んでルーラを突き出す。

 

「!」

 

とっさに身を翻す王蛇。脇腹を掠め、血が地面に滴り落ちる。もっと早く突き出せば仕留めれたのに。スイムスイムは舌打ちしかける。すると王蛇が何を思ったのか、ゲラゲラと笑い始めた。

 

「アァ……! 戦いってのは本当に、楽しいよなぁ……! もっと、もっとダァ……!」

 

背筋に寒気が走るとは、この事だろう。腹から出血している以上、ダメージが入ってないわけはない。にもかかわらず、王蛇は戦いに悦を感じている。ここまで異常な人間がこの世にいたとは。スイムスイムですら、内心驚きを隠せない。

 

「アビスハンマー」

 

しかしここで攻撃の手を緩めては、向こうの思う壺。もう一体の契約モンスターを呼び出して、アビスラッシャーと共に王蛇への攻撃を命じる。

 

「お前らと遊ぶ気はない。こいつとじゃれあってろ」

 

『ADVENT』

 

王蛇はそう言ってベノバイザーに一枚のカードをベントインさせる。どこからともなく現れたベノスネーカーが、2体のモンスターの前に立ちはだかる。尻尾で巻きついてから地面に叩きつけたり、反撃とばかりにアビスハンマーの砲撃を直に受けたりと、激しさがより一層増した。

 

「やっと戦えるなぁ……! もっと俺を楽しませろぉ!」

 

ベノサーベルを片手に再び突撃する王蛇。2体のモンスターが足止めされている今、自分1人しか王蛇を止められない。殺るなら、今しかない。スイムスイムは魔法を行使して、地面に潜り込んだ。

 

「アァ……?」

「チッ! 隠れやがったか⁉︎ 出てこい!」

 

メアリがマシンガンを地面に向けて引き金を引き続ける。次々と地面が抉られていくが、肝心の魔法少女の姿はない。弾も底をつき、新しい銃に切り替えようと、レアアイテムの四次元袋に手を伸ばすメアリ。

 

「(……今!)」

 

メアリの注意が自分から袋に逸れたところを、スイムスイムは見逃さず、ルーラを構える。

 

「! この……!」

 

ハッと、メアリが地面に波紋が生じたのを確認し、後退する。ルーラが振るわれ、右足を掠め取った。血が流れて蹲ると同時にスイムスイムが全身を地上に出した。

 

「この……クソガキがァァァァァァァァァ!」

 

見下されていると思ったメアリが血管を浮かび上がらせながら、ミニガンを構えて撃ちまくるが、スイムスイムの魔法の前においては、全てすり抜けていく。

 

「何なんだこいつの魔法は……⁉︎」

 

メアリが後ずさりながら引き金を引き続けるが、スイムスイムは臆する事なく距離を詰めて、ルーラを振るう。

 

「クソッタレガァ!」

 

万事休すかと思われたメアリが、この窮地を脱する為にと、袋から小型のボムらしきものを取り出し、口でピンを外しスイムスイムに投げつけた。

刹那、廃ビル内が激しい光によって塗りつぶされる。メアリが投げたのは、閃光手榴弾。俗に言うスタングレネード。それが至近距離で、尚且つ咄嗟のことで油断していたスイムスイムを直に襲う。

 

「……! ウゥ……!」

 

初めてうめき声が洩れた。視界が悪くなり、足取りもおぼつかない。一刻も早く距離を取らねば。スイムスイムは後退しようとする。

 

「ハァッ!」

 

だが逃すまいと、王蛇が無防備な背中に向かってメタルホーンを振り下ろす。メタルホーンをぶつけられ、スイムスイムは背中から流血し、地面をバウンドしながら転がった。手応えはあった。王蛇は仮面の下で笑みを浮かべる。その一方で、王蛇の攻撃が初めてまともに入ったスイムスイムを見て疑問を浮かべたのはメアリだった。

 

「(野郎……。さっきまで弾をすり抜けてたはずが、ここに来て魔法の効力が切れたのか? まぁどっちにしても、今なら殺れる!)」

 

好機が訪れた。メアリは口の両端を吊り上げて、AKを構える。

閃光弾の影響で頭の中がぼやけ始めるスイムスイム。二度も仕留め損なった上に、弱点を突くような形での反撃をくらって、身の危険を感じるスイムスイム。こうなると2人を脱落させる余裕はない。仕方なく撤退を決断するスイムスイムだが、この2人を前に、そう上手くいくはずもなく。

 

「ハッハッハァ! いつまで逃げられるかなぁ⁉︎」

「もっと戦えぇ……!」

 

再びベノサーベルを構えて猛威を振るう王蛇、その後方から銃弾を撃ちまくるカラミティ・メアリ。完全に後手に回ったスイムスイムに容赦なく攻撃の雨が降り注ぎ、ルーラで弾くのが精一杯だ。

それにしても、とスイムスイムは考える。メアリの放つ銃撃は、下手をすれば王蛇に流れ弾が当たってもおかしくない。それだけ王蛇が暴れまわりすぎているのか、メアリが御構い無しに撃ちまくっているのか定かではないが、これだけはハッキリと分かる。

この2人、ペアだからとか関係なく、連携が取れているわけでもなく、自分達のやりたいままに戦っている。味方が巻き込まれようと関係ない。ただ、目の前の障害を抹殺する為に武器を手に持って戦う。それが王蛇とメアリが、ここまで生き残る秘訣なのかもしれない。何にせよ、どちらの攻撃も厄介極まりない。閃光弾の影響はまだ大きく、耳鳴りと視界ジャックがスイムスイムの判断力を鈍らせる。

 

「!」

 

故に気づくのが遅れてしまった。足元には、いつのまにかメアリが投げ込んでいた手榴弾が転がっていた事に。

直後に爆発が起こり、黒煙が上がった。スイムスイムの体が煙の中から出てきて、地面を転がった。もはや呼吸が荒れている事を隠す余裕もない。ギリギリのところで直撃は避けられたが、爆風によるダメージは大きく、スイムスイムは初めて膝をつく。口から、鼻から血がボタボタと流れ、続けざまに放たれた銃弾が彼女の右肩を掠め取り、血が流れる。

そしてメアリの前に王蛇が立つと、首を回しながら新たなカードを引き抜く。

 

「お前との遊びは、もう飽きた。消えろ」

 

『FINAL VENT』

 

王蛇がベントインしたカードは、灰色のサイの顔が刻まれたカード。それをベノバイザーにベントインすると、後方から黒いメタルゲラスが。そしてメタルホーンを装着した王蛇が軽く飛び上がり、両足を黒いメタルゲラスの肩に乗せてもらうと、一気に急加速してスイムスイムに襲いかかる。

ダメージが蓄積しており、回避する余裕はない。『ヘビープレッシャー』が、勢いをつけて、無防備なスイムスイムに襲いかかる。ルーラを握るだけの握力もまだ回復しない。思わず歯をくいしばる。

と、その時だった。

 

「アァ……⁉︎」

 

メタルゲラスの直線上の地面が陥没し、足を踏み外してバランスを崩し、地面を滑るように、王蛇と共に倒れこんだ。スイムスイムは目の前の現象による困惑と、助かったという解放感から意識が薄れかける。両膝をつきかけたところで、誰かにおぶられる感触が伝わる。犬耳の魔法少女『たま』だ。薄れる意識の中でスイムスイムはそう認識する。

 

「ッ! あの犬……!」

 

王蛇がトドメを刺せれなかった事に疑問を感じていたメアリが、介入者の正体を知り、苛立ちを露わにする。ヘビープレッシャーが当たる直前に、たまが魔法を行使して地面に穴を掘り、直撃を阻止したのだ。

すぐに銃口を向けて引き金を引くメアリ。それに対し、たまは悲鳴をあげながらスイムスイムを担いで、素早く身を翻して、廃ビルの外に出た。犬の如く早く直進するたまを相手に、メアリの銃弾は掠りもしなかった。

 

「チィッ……! エビルダイバー!」

 

メアリがそう叫ぶと、黒いエビルダイバーが出現し、たまを追跡させるように命じた。

 

「逃すかよ……! あたしらをコケにしやがって……!」

 

このまま逃して舐められる事を、メアリは忌み嫌っている。不快感を露わにしながら、王蛇を叩き起こす前に止血を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ……! スイムちゃん大丈夫⁉︎」

「ウッ……」

 

走りながら、たまは必死にスイムスイムに呼びかけるが、返事はか細い。

 

「ゴメンね……! 助けるのが遅くなっちゃって……! 本当はもっと早く助けれたんだけど、意気地なしで……! すぐに安全な所に連れてってあげるから!」

「……」

 

涙目になりながら、とにかく前進するたま。どこか隠れられる場所はないかと、必死に頭の中でこの街の地図を思い返そうとするたま。

すると、担がれていたスイムスイムの方に変化が。光ったかと思うと、背丈が一気に縮んで、たまの腕の中にすっぽりとはまり込む。

 

「……え」

 

思わずたまは、逃げ隠れる事も忘れて立ち止まってしまう。先ほどまで、確かにスイムスイムという魔法少女を担いでいたはずだった。背丈はルーラとほぼ同じ。発育の良さはたまをはるかに上回っていたはずだった。

しかし、いくら目をパチパチさせても、自分が抱いているのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たまよりもずっと背丈が小さくてピーキーエンジェルズと同じくらいで、ルーラよりも胸の標高が低く、ねむりんのような幼げある風格。それでもって良家のお嬢様のような容姿。

そんな幼女が、たまの腕の中で気を失っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂凪(さかなぎ) 綾名(あやな)。7歳。

ベルデと共にルーラを陥れ、そのベルデを自ら葬り、トップスピードやハードゴア・アリスにも手をかけようとした、魔法少女の真の姿を目の当たりにして、たまの思考は一旦停止した。

 

 

 




最近、『仮面ライダービルド』が年明けから鬱展開続きで、日本中の母親から多くの苦情が殺到していると聞いていますが、皆さんはどう思いますか?

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