魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

115 / 144
前回もお知らせした通り、年内最後の投稿となります。ただし、『ゆゆゆ』の方は後2話ほど投稿するつもりです。

改めて映画版を見返しましたが、やっぱり龍騎の、叫びながらのドラゴンライダーキックはいつ見ても素晴らしい。


111.愛する者を守る為に

「尻尾を巻いて逃げ出すかと思っていたが、お前にも、それなりの意地があるようだな」

「……」

 

辺りが暗くなってきた頃、灯り始めた街灯の下で、リュウガが皮肉混じりにそう呟く。地面に降下し、ラピッドスワローから降りた正史は、臆する事なく盟友を睨みつけた。その隣で、ここまで送迎してくれたトップスピードもラピッドスワローを握り締めながら並んでいる。リュウガの後方には、彼のパートナーであるハードゴア・アリスが隈のついた瞳を見開いて固唾を飲んでいる。

 

「お前がここに姿を現した。つまりは自らの犠牲を受け入れた、そういう事だな。利口な奴だ。そうさ、お前のようにバカ正直に正義を振りかざす奴さえいなければ、もっと多くの命を救えただろうに。今となっては後の祭りだが、今からでも遅くはない」

 

そう言ってリュウガはカードデッキに手を置き、カードを引き抜こうとする。

 

「待てよ。俺の選択を勝手に決めつけるなよ」

「……?」

 

正史の言葉を聞き、リュウガは動きを止める。

 

「今更命乞いか? だがもう遅い。お前は……」

「俺は、犠牲になんかならないって言ってるんだ、銀斗!」

「何……? お前は死にたくないと言っているのか? ……なら、何故ここに来た。或いはお前の会社仲間を犠牲にしてでも生き残りたいと、俺に宣言しに来たのか?」

「それも違う! 編集長や令子さん、島田さんを見殺しになんかさせない! 俺の居場所を、自分勝手に失わせてたまるか!」

「傲慢もほどほどにしろ! 貴様には自分1人だけの命か、多くの他人の命、どちらかを選べば良いと言った筈だ! どちらも否定する事は、選択肢として認められていない!」

「そう思う事自体が、間違いだったんだ!」

「!」

 

正史の、気迫のこもった一声がリュウガの体を貫く。

 

「どちらかを選ぶ、そう考える事自体がそもそも違ってたんだ! 俺は……どちらも選ばない!」

「正史、貴様……!」

「俺が選んだ道は、たった一つだ!」

 

正史はポケットからカードデッキを取り出し、リュウガに見せつけるようにして叫ぶ。

 

「お前と戦って、勝って、明日もトップスピードが作ったご飯を、食べていけるように生き続ける事だ!」

「正史……!」

「……!」

 

これには、トップスピードもハードゴア・アリスも目を見開く。彼が選んだのは、『犠牲』ではなく、『生存』の為の『戦い』。

リュウガの拳が異様なまでに強く握られているのを、アリスはその目で確認する。

 

「バカも休み休みにしろ正史ぃ! いい加減受け入れろ、自分の運命を! パートナーを守る為に戦うのがお前の正義なら、それでもいい! だがそうやって自分勝手な正義を振りかざして、最後には手痛い思いをした事を、貴様はもう忘れたのか!」

「忘れたわけじゃない! 忘れるなんてできない! 確かに俺はどうしようもなくバカで、弱かった……! でも、だからこそ叶えたい願いがあるんだ! その為に、俺は戦う!」

 

美華を、一度愛した女を死なせてしまった事を忘れる事などできない。ましてやその罪を無かった事にもできない。正史はそれを自覚している。

 

「罪を自覚してなお、生きる事を捨てない、か。ハッ! そうまでして生き恥を晒したいのか! お前がバカなのはガキの頃から目に見えていたが、大人になった今でもそこだけは全くブレないとは、とんだ大バカだな! さっさと死を選べば、生き恥と言う名の地獄を味合わなくても済んだものを!」

 

カードデッキから手を離して、淡々と皮肉るリュウガ。心の弱い人ならば、ここまで罵詈雑言を浴びせられてはいとも簡単に折れていただろう。それでも、正史は諦める姿勢を一切見せつけなかった。

 

「もう、お前の言葉なんかには騙されないし、惑わされたりもしない! 俺は、この道を選んだ自分を信じる! 体や心の痛みも、1人で抱え込むのが無理なら、パートナーや仲間と一緒に分かち合う! その為にも、俺達は絶対に死なない!」

「……ならば」

 

リュウガは目線をトップスピードの方に向ける。

 

「お前にとって、そんなにその女が大切だと言うのなら、そいつの存在さえ消せば、お前の正義は容易く壊れる。悪く思うなよ、トップスピード……!」

「……!」

 

オレを殺しにくるつもりか。トップスピードが身構えたが、その前に正史が前に立って、片手で制す。

 

「大丈夫! 俺が絶対守るから!」

「正史……! あぁ、お前なら、絶対大丈夫だ!」

「銀斗! お前にとって俺が1番の障害だって言うんなら、それでも構わない! なら俺は、障害らしくどこまでもお前の犠牲ありきな考えを否定する! 俺はお前を、自分の弱さを超える!」

「……バカめが」

 

殺気のこもった言葉が、正史の全身を貫く。

 

「ならば、その傲慢極まりない正義に溺れて、どちらも死ぬがいい!」

 

『SWORD VENT』

 

遂に我慢の限界が来たのか、リュウガは黒いドラグセイバーを召喚し、2人めがけて飛びかかった。後方から見守っていたアリスが、間に合わないと思いながらも飛び出そうとするが、それよりも早く、正史が左手でリュウガの右手首を掴む。

そして空いたもう片方の手は、黒いドラグセイバーの表面にかざすようにカードデッキをかざす。

 

「! 俺のドラグセイバーの反射面を利用して……!」

 

正史の狙いに気づくリュウガだが、時すでに遅しとはまさにこの事。腰にVバックルを出現させた正史は右足を振り上げて蹴飛ばした後、右手を左に突き出して叫ぶ。

 

「変身!」

 

『SWORD VENT』

 

カードデッキをVバックルに差し込んで、鏡像が重なると仮面ライダー『龍騎』に変身。すぐさまカードをベントインして、赤いドラグセイバーを構えると、リュウガめがけて駆け出す。

 

「ダァァァァァァァ!」

「!」

 

互いに鍔迫り合いが始まり、2対のドラグセイバーから火花が散る。足を止めてしまえば力に押されて不利が生じる。とにかく足を止める事のないように、2人は動き回りながらぶつかり合っていく。そこには学生ならではの『喧嘩』という領域を超えて、『殺し合い』にも似た圧迫感が、見守っているトップスピードに押し寄せてくる。

 

「トップスピード、さん……!」

 

不意に名前を呼ばれて顔を向けるトップスピード。みれば、ハードゴア・アリスが駆け寄ってくるのが見えた。

 

「アリスか!」

「始まり、ましたね……。私、どちらを、応援すれば、良いのか、自分でも、分からない、です……」

「……まぁ、分からんでもないな。助けてもらった恩があるやつとパートナー。どっちかなんて選べないかもしんないな。でもまぁ、オレはもちろん正史を、龍騎を応援するぜ! あいつが胸の奥に信じたものがどんな強さに変わるのか、見ておかなきゃならないんだ」

「……」

 

ハードゴア・アリスは、それ以上何も言わない。ただジッと、トップスピードと共に両者の決着がつくまで、世紀の一戦の目撃者としての立場を貫こうと決めた。

その頃、龍騎とリュウガの対決はさらに激しさを増した。駆け回っているうちに舞台は公園から近くにあった廃ビルの内部へと移っている。

 

「ハァッ!」

 

龍騎が勢いよくドラグセイバーを突き出すと、リュウガも黒いドラグセイバーでガード。そして龍騎はドラグセイバーを横に振るい、その反動で両者のドラグセイバーを遠くかなたに弾き飛ばした。

そして一度向き直ると、文字通り肉弾戦と化した。そこから先は、カウンターの応酬に近いと言っても過言ではなかった。互いに知らぬ仲ではなかった事が、逆に反撃の一手を生み出す。

龍騎が回し蹴りをしようものならリュウガは屈んでアッパーを打ち付ける。リュウガが右ストレートを放つものなら、龍騎は一歩退いて、顔面ギリギリでかわしてからその腹に殴り込む。

 

「グッ……!」

「グフッ……!」

 

両者の口から血が垂れており、段々とダメージが蓄積されていく。それでもまだ、2人は戦う意志を閉じようとはしなかった。

 

「最後の最後まで、俺の邪魔をするというのだな!」

「あぁそうだ! 俺はお前の事をちゃんと見てやれなかった。でも、過去を悔やんでも、運命なんて何も変わらない! だったらそんな自分はもう捨てて、今のお前と向き合う! 俺のやり方で、お前を倒す!」

「図に乗るのも大概にしろ!」

 

逆上したリュウガが龍騎に飛びかかるが、その前に軽くいなした後、その腹に思いっきり蹴りを叩き込む龍騎。不意の一撃で苦悶の声と共に壁をぶち抜いて、地面を転がるリュウガ。龍騎は逃すまいとリュウガの前に駆け寄る。

 

「こい銀斗……いやリュウガ! お前の憎しみも悲しみも、全部俺が受け止めてやる! それで満足できるのならな!」

「……フン」

 

うつ伏せに倒れているリュウガは仮面の下で不敵な笑みを浮かべる。その理由は、手に握られているカード。転がっている間に引き抜いたカードを、起き上がりながらベントインする。

 

『ADVENT』

 

すると、リュウガの隣に契約モンスターであるドラグブラッカーが出現。そのまま龍騎めがけて襲いかかってくる。龍騎が慌てて避けようとしたその時、龍騎の後方の壁を破壊して飛び出してきたのがドラグレッダーだった。

 

「チッ……!」

 

契約モンスターと共に龍騎を追い詰めようとしたが、これでは結果的にモンスター同士が相手になってしまう。さらにドラグレッダーとドラグブラッカーの激突によって生じた砂埃で龍騎の姿が見えない。リュウガが首を動かしていると、後方から龍騎が飛びかかってきた。そしてそのままリュウガを壁に頭から打ち付ける。

 

「そんな程度でぇ、俺を倒せるものかぁ!」

 

龍騎を引き剥がしたリュウガは、腕を締め上げると空いた拳で龍騎の顔面に3発ほどぶつけた。よろめきながらも、龍騎は倒れこむ事はなかった。

 

「今の俺は、お前を倒す、ただそれだけの憎しみが、俺の原動力となっている! お前程度では到底受け止めきれない力の前に、お前如きが、ちっぽけな覚悟しか決めていないお前が勝てる見込みが、あるものかぁ!」

「いいや、俺は勝つ! お前に勝つ! 俺だけの、俺の信じるものの為に!」

 

『STRIKE VENT』

 

「ハァァァァァァァァァ……!」

 

龍騎の右腕にドラグクローが装着され、右腕が後ろにひかれる。

 

「その選択が愚かだと言っている!」

 

『CARSD VENT』

 

対するリュウガは、昨日と同じように、通常形態ならファイナルベントの次に威力の高い攻撃に対処する為にレアアイテムのカードをベントインする。

 

「ダァァァァァァァ!」

 

分かっていても止められない。『ドラグクローファイヤー』はそのまま発射され、カースドベントの能力で弱体化した炎はリュウガの視界を遮る程度にしかならなかった。

やはりお前は、同じ過ちを繰り返す姿が相応しい。

そう言おうとしたそのタイミングで、龍騎の咆哮が耳に届いた。

 

「ッシャアァァァァァァァァァ!」

「⁉︎ 貴様……!」

 

炎の中で見えたのは、ドラグクローファイヤーを放ったまま接近してくる龍騎。炎に視界を遮られて接近に気づくのが遅れたのだ。そしてドラグクローの効力が切れると同時に別のカードをベントインする。

 

『GUARD VENT』

 

「ダァッ!」

「くっ……!」

 

ドラグシールドを装備した龍騎が、油断していたリュウガめがけてその腹に武器を叩き込む。『攻撃が最大の防御』ならぬ、『防御が最大の攻撃』が、リュウガを正面から追い込もうとしている。よろめきながら、リュウガは考え込む。

 

「(俺がレアアイテムを使ってくる事を計算に入れて、別の攻撃を仕掛けてきたか。少しは学習したようだが、押し切るように攻めるようでは、バカの称号は揺るがないぞ!)」

 

『STRIKE VENT』

 

黒いドラグクローを装備したリュウガは、あいも変わらず突進してくる龍騎をエルボードロップで地面にひれ伏させると、ほぼゼロ距離でドラグクローファイヤーを放った。

 

「グァァァァァァァァァァァァッ!」

 

黒炎が龍騎の背中に打ち付けられ、龍騎は焼けるような熱さに耐えきれず、悲鳴をあげながら地面を転がる。

 

「美華と同じやり方で、あの世に送ってやろう!」

 

再度右腕を引いて、ドラグクローファイヤーを浴びせようとするリュウガ。無防備な状態ではまともに攻撃を受ければ如何にスペックの高い龍騎といえど、致命傷になるのは目に見えている。

死が、龍騎に迫りつつある。

 

「っ、ァァァァァァァァァッ!」

 

喉の奥から叫ぶ龍騎。体にまとわりついていた黒炎は消えても、心の中の炎は消えようとはしなかった。ここで諦めたら全てが終わる。トップスピードが作るご飯も食べられなくなる。

だからこそ、死ぬわけにはいかない。

 

『BROOM VENT』

 

ほとんど無我夢中でカードデッキから引き抜いたカードをベントインすると、龍騎の手元に龍を模したラピッドスワローが握られる。力を込めると、勢いよく飛び出し、リュウガのドラグクローファイヤーが頬を掠め取った。

 

「しぶとい奴め! まだ抗うか!」

 

リュウガは苛立ちを隠しきれないまま、ドラグクローファイヤーを連発する。対する龍騎は大きく揺さぶられながらもリュウガの攻撃をかわし続け、タイミングよくラピッドスワローに跨る。

 

「行くぞ、ラピッドスワロー!」

 

龍騎がそう叫ぶと、それに応えるかのようにラピッドスワローが変形し、バイクのような装甲が取り付けられる。そして勢いよくエンジンを吹かせて、狭い空間の中でもリュウガの周囲を飛び続けた。狙いが定まらないリュウガは、翻弄されている。

 

「ウォォォォォォォォォォォ!」

 

不意に急回転して、リュウガめがけて突撃するラピッドスワロー。反応が遅れたリュウガはラピッドスワローに跨る龍騎に体当たりされて、右腕を壁に打ち付けた。それによりドラグクローは粉々に砕け散る事に。そしてなおも龍騎はドリフトしてリュウガに突撃を試みる。

 

「しつこい!」

 

『GUARD VENT』

 

黒いドラグシールドを手に持ち、ラピッドスワローからの攻撃を受け流すリュウガ。

 

「まだまだぁ!」

 

龍騎は身を翻すかのようにラピッドスワローを傾けて、再度攻撃を仕掛けてきた。何度やっても同じ事。そう思う事自体が間違いだと気づいた時には、龍騎はラピッドスワローに足をつけて、踏み台にして飛び上がった。

 

「……!」

 

更に、踏み込んだ際にラピッドスワローは加速。予想以上の速さに対応できず、黒いドラグシールドを構えるよりも早く、ラピッドスワローの柄がリュウガの右目に直撃した。仮面で覆われているとはいえ、勢いよく放たれたラピッドスワローの突きを受けて、右目に激痛が伴い、目が開けられなくなった。

 

「ダァァァァァァァ!」

 

視界が悪くなったところに、龍騎は追い討ちとばかりに上空からかかと落としを決めた。上からの攻撃を受けて、リュウガの真下の地面が亀裂が入ると同時に崩壊し始めた。廃ビルという事もあって、脆く崩れやすくなっていたようだ。そして龍騎とリュウガは重力に従って落下する。両者共に受け身を取る暇もなく、数メートル落下した後に、コンクリート式の地面に叩きつけられた。

互いに苦痛の声を上げながらも、ヨロヨロと立ち上がる姿は満身創痍にほど近い。しかし、同じダメージを受けたにもかかわらず、リュウガにとってこの状況は好機だと悟っていた。

 

「やってくれたな……! だが、ここまで追い詰める為に体力を使いすぎたな。忘れたのか? 俺のパートナーの魔法を」

「……!」

 

『RECOVERY VENT』

 

ハードゴア・アリスのアバター姿が描かれたカードをベントインすると、黒いオーラが彼を包み、元の気迫を取り戻す。右目や両腕に蓄積されたダメージは全て回復した事になる。

 

「勝負ありだな。全てがリセットされた俺と、立っていられるのもやっとなお前。どちらに分があるのかは、明白だ」

 

常識の範囲内であれば、それは紛れもない事実。

 

「……だだ」

「なっ……」

「まだだ……! まだ、俺は……、戦える!」

 

ただし。

リュウガが相手にしているのは、常識に囚われないバカである事。たった一つ、それだけの事が、決着を遅らせている。体力的にも精神的にも、現時点ではリュウガの方が圧倒的アドバンテージを得ている。にもかかわらず、勝利のイメージが掴めない。それがリュウガを苛立たせていた。言っても聞かないならば、その身をもって分からせるまで。

 

「正史ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「銀斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

互いに『武器』と呼べる手札は尽きている。そこで2人がとった行動は単純明快。

殴り合いだった。

 

[挿入歌:Revolution]

 

「ハァッ! ダァッ!」

「グッ! ウォォォォォ!」

「ガハッ⁉︎ ハァッ!」

「グフッ! ラァッ!」

「グゥ……! ダァッ!」

 

回避もせず、後退もせず、ただひたすらに拳をぶつけ合っていく。段々と装甲にもヒビが入りつつあった。

そんな中、リュウガに一つの疑問が生じた。

 

「何故、だ……! 俺の方が、圧倒的に優位だったはず! すでにボロボロなお前がそこまで立ち向かう原動力は何なんだ⁉︎ 何がお前をそこまで突き動かしている⁉︎」

「……俺は、ガキの頃から難しい言葉使うの嫌ってたから、スッゲェ単純に答えてやるよ……! 俺には! 命の重さを知って、幸せにしたい奴がたくさんできた! トップスピードだけじゃない! 九尾もスノーホワイトも、ナイトもリップルも、ライアもラ・ピュセルも、そしてハードゴア・アリスも! 俺にとって、大切な人達だ! その人達の明日を、守る為なら、俺は……戦える! 美華達が託していった思いは、絶対に俺の中で色褪せたりしない!」

「そんなもので、お前の闘志に火をつけたとでもいうのか⁉︎」

「そうだ! 現に、こうしてお前と対等に渡り合っている! 守りたいものがあるから、俺は、負けたくないんだぁ!」

「愛など、幸せなど、幻に過ぎない! 俺はそれを直に味わった! だから……! こんな道しか、選べなかったんだぁ!」

 

そこから先は、会話が成立する事はなかった。ただ相手を打ちのめす為に、ただ相手から勝利をもぎ取る為に。

 

「死ね! 死ね! 死ねぇ!」

「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

両者の足元には、いつのまにか血の雫が飛び散っていた。そんな中、主人の危機を察して現れたドラグレッダーが、リュウガめがけて突撃してきた。最早回避は間に合わない距離まで迫っていた。ドラグブラッカーは制限時間が来てミラーワールドに帰ったようだが、ドラグレッダーだけは別だった。それだけ龍騎の力になろうと奮闘しているようだ。

 

「!」

 

これに対し、避けられないと直感したリュウガはとっさの判断で龍騎の腕を掴み、身動きを封じた。その直後、ドラグレッダーの体当たりを受けて、リュウガは吹き飛ばされた。ただし、道連れという形で龍騎も同じように吹き飛ばされる。

 

「「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」

 

廃ビルの壁を突き破り、上空まで放り飛ばされた2人。外ではトップスピードとアリスが、2人が落下している事に気づく。そして落下地点は、トップスピードの真上。

 

「……!」

 

それを見た龍騎は震えながらも空中でリュウガの腕を引っ張り、軌道を変えた。これによりトップスピードが押し潰される可能性はゼロとなる。そうして2人は受け身を取る事なく、本日2度目となる地面の落下ダメージを受ける事に。地面をバウンドし、両者との距離が開いた。

 

「龍騎!」

「……!」

 

2人の魔法少女が龍騎に駆け寄るが、それよりも早く、龍騎は立ち上がった。同じタイミングでリュウガも。

 

「……変わらないな、お前は」

 

最初に口を開いたのはリュウガだった。

 

「その女に衝突するのを避ける為に、無意識に体を動かす。思えばガキの頃から、お前はそうやって自分の事になるとダメダメだったが、他人の為なら人一倍強かった」

「お前も、昔から喧嘩は強かったと思ってたけど、やっぱり変わんないな。正直言って、結構キツいんだよ、俺」

「だが、それでもお前は、諦めようとはしない。……本当のバカだ。あの頃のままだ」

「どんなに時間が経っても、変わらないものがあるって聞くけど、本当にそうなんだな」

「だが、それでも、譲れないものがある。お前もそうだろ?」

「あぁ、絶対に生き残る為に、な」

「……パートナーを、愛する者を守る為に、か」

「そうだ」

 

そして両者は同時にカードデッキに手を置く。

 

「なら、今ここで証明してみせろ。俺とお前、どちらか立っていた方が、正義だ」

「……」

 

正史にも、分かっていた。こうして覚悟を決めて戦いが始まれば、このカードを使わざるを得なくなる事を。

何せ、今の今まで、モンスターにしか使ってこなかった力を、初めて人にぶつけようとするのだから、皮肉にもほど近い。

 

「……でも!」

 

でも、もう迷わない。この選択が正しいか間違っているか、その是非を問える者がいたとしても、例え誰かが間違いだと決めつけたとしても。

城戸 正史は、仮面ライダー龍騎は、己の正義を貫く。大切なものを守る為に。

両者共に引き抜いた、魂のカードを手に持ち、左腕のドラグバイザーをスライドし、カードを装填する。

 

「これで……、最後だ!」

「銀斗……! いくぞぉ!」

 

『『FINAL VENT』』

 

文字通り、最後の一手に踏み込む龍騎とリュウガ。

両者の契約モンスターたる2体の龍が旋回しながら降臨する。

偶然にもこの時、2人の脳裏には、学生時代の思い出が駆け巡っていた。美華を含めた3人と共に過ごした、かけがえのない日々。もう、あの頃には戻れない。だとしても、この勝利は譲れない。

それら全てを受け入れるかのように、龍騎は両腕を突き出しながら、喉の奥から枯れるぐらいに咆哮をあげる。それは、リュウガもまた同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ! ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……!」

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ……! オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに構えると、同時に足を動かす。リュウガは宙に浮いて左足を突き出し、龍騎は駆け出して飛び上がり、右足を突き出す。そして両者の龍が2人の後方につき、炎を噴き上げようとする。だがこの時、龍騎の中で体力が底をつきかけようとしていた。度重なる怒涛のラッシュは、彼の意識を朦朧とさせ、必殺技を放つだけの気力も削がれかけようとしていた。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 正史ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

だが龍騎の背中越しに、パートナーのあらん限りの声援が聞こえた途端、龍騎の意識は自分でも驚くほどにハッキリとなる。

そうだ、ここで自分が挫けてはいけないんだ……!

 

『お前が信じるもんだよ』

 

数時間前の、編集長の言葉がよぎる。自分か信じるものを胸にしっかりと刻みこんで、それをぶつける。本当の意味で誰かを守る為に必要な心がけ。それが分かった今、龍騎に迷いはなかった。

 

 

 

戦わなければ、生き残れない!

 

戦わなければ、誰も守れない!

 

戦わなければ……、何も掴めない!

 

 

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

右足を前に突き出して紅蓮の炎を纏う龍騎。左足を前に突き出して漆黒の炎を纏うリュウガ。同じ外見でも相反する2人の、『ドラゴンライダーキック』がぶつかり合い、化学反応を起こしたかのように大爆発を起こし、爆風を撒き散らせた。草木は荒れ狂い、周辺の遊具にも傷が生じる。

トップスピードとアリスは自然と抱きついて互いに吹き飛ばされないように踏ん張った。あまりの衝撃波に、目を閉じてしまうほど、凄まじい一撃が確かにそこで繰り広げられた。

轟音が収まり、ようやく目を開ける2人。最初は黒煙で目の前が全く見えなかったが、次第に晴れてきて、人影が確認された。今回に限ってシルエットは2人とも同じなので、この段階では判断のしようがない。

龍騎か、それともリュウガか。

ゴクリと唾を飲み込むトップスピード。ウサギの人形を握りしめるハードゴア・アリス。2人の表情が変わったのは、黒煙が晴れきってからの事だった。トップスピードは、立ち尽くしていた人物の名を叫ぶ。

 

「龍騎ぃ!」

 

名前を呼ばれた男の全身の装甲は、ガラスが砕ける音と共に本来の姿を露わにする。服もボロボロで、傷が至るところに生じてはいたが、そこにはいつものような笑みがある。トップスピードは我先に駆け寄り、正史に抱きついた。

 

「心配させやがって! でも、勝ったんだな!」

「イデデ……⁉︎ お、おう。何とか、ね」

 

傷口がヒリヒリする感覚に襲われながらも、涙目のトップスピードを優しく抱きしめる正史。それからハードゴア・アリスの方にも顔を向けて、笑みを浮かべる。アリスも一安心したような表情を見せる。

 

「……そうか」

 

正史の後方から声がしたので振り返ると、同じく変身が解けた銀斗が、仰向けになりながら口を開いていた。

 

「お前が、俺より勝っていた、部分。それが、ようやく分かった、気がする」

「銀斗……」

 

苦悶の表情を浮かべながらも起き上がろうとする銀斗を見て、正史が手を貸そうとするが、銀斗は首を横に振ってそれを拒む。

 

「正史……。俺は、お前が、嫌いだ。昔も、今も……。だが、心のどこかで、友である、という自覚もあった。昔も、今も……」

「あぁ、俺も。お前とは、これからもずっと、友達だ」

「ストレートな、奴だ」

 

銀斗はよろめきながらも、落ちていたカードデッキを拾い、正史に疑問をぶつける。

 

「正史。お前には、ファヴとシローから、サバイブの力を渡されていた筈だ。事実、昨日もそれを、使っていた。何故、今回は使わなかった」

「それは……。確かに、サバイブを使えばここまで苦戦しなくても勝てたかもしれない。……でも、俺の中でそれは違うと思ってた。俺がサバイブを使うのは、俺の周りにいる人達を危険から守る為なんだ。誰かを傷つける為に使うものじゃない。……それに、俺は自分を乗り越える為に、これを使おうとはしなかった……ってとこかな?」

「フッ……。余裕をかましているのか単にバカなのか……。まぁ、どちらでもいいがな」

 

そう言いながら、カードデッキから1枚のカードを抜き取り、正史に投げつける。手に取ったそのカードには『CARSD VENT』と表記されている。

 

「! レアアイテムのカード……! お前どうして……!」

「勝利の証、だと思え。俺にはもう、必要ない」

 

そう言ってから、銀斗は背を向けて足取りがおぼつかない様子で3人から遠ざかろうとする。

 

「お、おい。どこ行くんだよ?」

「さすがに疲れた。ここでおさらばするとしよう」

 

すると銀斗は振り返って、真剣な眼差しで正史を見つめる。

 

「……正史。お前には、守りたい奴がいるんだったな。……なら、何があっても、必ずそいつを守り通せ。もし出来なかった時は……、化けて今度こそ、お前を倒す」

「随分と怖い脅しだな……。心配すんな。俺はもう、自分の信じる道を進むって決めたからな」

「……ならば良い」

 

それから、こいつも渡そう。そう言って銀斗が取り出したものを、再び正史に投げつける。それは、金の指輪。かつてファムが購入し、その後リュウガの手に渡ったレアアイテム。美華の形見でもあるそれを手にした正史は、思わず顔を見上げたが、すでにそこには友の姿はなかった。

 

「銀斗……」

「拍子抜けでしたね」

「「「!」」」

 

3人の後方から声が聞こえたので振り返ると、損傷の激しい遊具の上には腰を下ろしている、クラムベリーの姿があった。

 

「九尾ほどではないにしろ、彼にはそれなりに期待してたところがあったわけですが、最後の最後で弱みを見せつけられてしまい、敗北へと至った。非常に残念です。彼には失望しました」

「お前……!」

 

トップスピードはこれでもかとクラムベリーを睨みつけるが、彼女は全く相手にしなかった。

 

「ときに龍騎。これであなたもようやく、仮面ライダーとしての本質を理解したのではありませんか? どんなにこの戦いを否定しようとも、力を手にしている以上、殺し合いは避けては通れぬ道。あなたも薄々気づいていたでしょう? リュウガはもう、助からない事を」

「……」

 

正史は何も語らない。ただジッとクラムベリーを睨みつけている。

 

「あなたには、何も変える事が出来ませんよ。人が辿る運命もね」

「……いいや」

「?」

「一つだけ、この戦いを通じて、変わった事がある」

「……ほう? 何が変わったと?」

「重さだよ」

 

間髪入れずに、正史はトップスピードに支えられながらそう語る。

 

「人の命の重さってやつが、2倍……それ以上に増えた! だから……! これ以上は、お前の思い通りにはさせない!」

 

拳を握りしめ、強い口調で叫ぶ。

 

「俺は、人を守る為にライダーに選ばれたんだから、ライダーも、魔法少女も守ったって良いんだ!」

「「!」」

 

トップスピードとアリスが、同時に正史に目を向ける。彼の揺るがない信念が、生きる決意を凝固させる。

これを聞いて、クラムベリーは乾いた笑みを浮かべる。

 

「それは大変素晴らしい心構えです。あなたらしい、ポジティブな考え方ですよ」

 

でも、無意味なんですけどね。

それだけ告げると、クラムベリーは戦う気が失せたのか、高く飛び上がってその場を後にした。

後に残された3人は、先ほどまで銀斗が立っていた地点に目を向ける。そこには当然、誰もいない。すると、正史とアリスのマジカルフォンにそれぞれ1通ずつメールが届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、銀斗はしばらく歩き続けていたが、意識が朦朧とし始めた頃に、道路沿いに設置されていたベンチに深く腰掛けた。視界が歪み始めているのを感じて、銀斗は全てを悟った。

 

「……そろそろ、死ぬか」

 

その表情に、後悔や絶望は微塵も感じられない。

だがその前に、と己を奮い立たせて、マジカルフォンを取り出すと、メールを打ち込み始める。送信相手は正史とアリスの2人である。

 

『俺のパートナーの事を、お前に任せる』

『これからは、俺の友がお前の支えになる。俺の事は忘れて、強く、生きろよ』

 

「(俺の知らないところで交流はあったようだし、徒労かもしれないが……)」

 

やらないよりかはマシだと思い、送信する銀斗。送信完了を確認した銀斗は、ベンチに全体重を乗せる。見上げた夜空には、都会という事もあって星一つ見えないが、銀斗にはキラキラしたものが見て取れた。

 

「美華……、済まなかった。結局俺は、間違った選択しか、できていなかった……。俺を赦せ、とは言わないが……。また、あの頃に、戻れたら、良いなぁ……」

 

段々と、呼吸する事さえ苦しくなる一方だ。それでも、銀斗は弱々しい笑みを崩さなかった。

 

「……俺も、今から、そっちに、い……くか、ら、な」

 

後は、任せたぞ、正史……。

そう呟いた後、銀斗の瞳はゆっくりと閉じられ、手首がダラリと垂れ下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けて、多くのサラリーマン達が出勤する為に小道を進んでいる。昨晩の爆音の正体が何かで話題が広がる一方で、ベンチに座っている、黒いコートを羽織って目を閉じた青年には、誰一人として気にかける者はいない。その青年が息をしていない事に気づくのはいつになるのか。

誰一人として青年が生き絶えているのに気づかない理由は単純明快だ。その青年の表情は、全てのしがらみから解放されたかのように、清々しい寝顔のようにも見えているのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間発表 その12≫

 

【リュウガ(黒崎 銀斗)、死亡】

 

【残り、魔法少女10名、仮面ライダー8名、計18名】

 

 




久々の長文。そして年内最後であるにもかかわらず、脱落者の発表になるとは……。

今年は色々と忙しく、投稿ペースにも支障をきたしましたが、来年度は就活も卒論作成も始まるので、どこまで進めるか目処が立っていませんが、年内には完結できるように努力します!
来年度も変わらぬご愛好がある事を願いつつ、まだ早いですが、良いお年をお迎えください。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。