魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回は遂に、リュウガの正体が明らかに……!

初めに言っておきますが、本作では『ミラーワールドのライダー』という設定ではないので、オリキャラという形でいかせてもらいます。


109.因縁の再会

タイガの脱落が確定したちょうどその頃。

ミラーワールドの一角でまた一つ、運命の歯車が動き出そうとしていた。

 

「フンッ! ハァッ!」

「ぐっ……! こんのぉ!」

 

側から見れば、同一人物が殴り合いをしているように見える光景だが、その中にいる者は全くの別人だ。色もまた、赤と黒で分けられている。

龍を彷彿とさせる容姿の2人が、激しく対立している。状況は僅かながら黒龍の方が押しているようにも見える。

 

「ダァッ!」

「そんな単調な攻撃が、俺に効くとでも?」

「なっ⁉︎ グフッ……!」

 

龍騎が突き出した右ストレートはまるで予期していたかのようにかわされ、カウンターをくらった龍騎は吹き飛ばされる。リュウガは更に追い討ちをかけるように、龍騎の腕を掴んで無理やり立ち上がらせると、その顔を殴り続ける。

 

「グハッ⁉︎ ……ウォォォォォ!」

 

いつまでもやられっ放しのままではいられないと本能的に感じ、突き出した腕を掴んで背負い投げの体勢に入る。対するリュウガは体を浮かせながらバランスを取り、地面に着地すると龍騎を掴みなおしてフルスイングで投げ飛ばした。地面を転がる龍騎は、息も絶え絶えになりながら起き上がる。

 

「何、で……! 何で、俺の行動が、読まれちまうんだよ……!」

「当然だ。俺とお前の姿がよく似ているように、俺とお前には戦うべき理由がある。その運命からは、逃れられる術はない」

「運命……だと!」

 

そのワードに反応したのか、龍騎は握り拳を固める。

 

「そんな運命、簡単に受け入れたらそれでおしまいだ……! 俺は自分の手で、運命を変える! 守ってやるんだ、大切な人を!」

「それこそが、お前の弱点だ」

「何⁉︎」

「誰かを守る為に変身? お前に出来るはずもない。否、すでにお前は2度も守りきれなかった事に、まだ気づいてないのか」

「⁉︎ どういう、事だよ……! おい、お前は、一体……!」

 

リュウガの口調に訝しむ龍騎。だがリュウガは聞く耳を持たない。そればかりか、憎悪を吐き散らすようなオーラを見せつけている。

 

「あの女と同じだ。俺の事に気づく素振りすら見せない。結局お前にとって、俺はその程度の存在する価値だったわけだ」

 

そう言ってリュウガが取り出したのは、金の指輪。レアアイテムの一つで、龍騎には見覚えがあるものだった。

 

「! それ、まさかファムの……!」

「懐かしいだろ? これはあの時、あの女を葬った時の戦利品だ。正直こんなアイテムを持っていたところで使い道が無かったが、レアアイテムである以上、貰っておいて損はないだろ? 寿命を削ってまで買った度胸は褒めてやるが、所詮は宝の持ち腐れ。脱落は必然だったわけだ」

「お前……! お前がファムを、美華を……!」

 

ファムを、かつての想い人を殺した相手が、目の前にいる。龍騎の中で怒りがこみ上げてくる。段々と理性を失いつつある龍騎の背後から、声が突き刺さった。

 

「龍騎落ち着け! 怒りに囚われてんじゃねぇぞ!」

「! トップスピード……」

 

それは2人の後を追って駆けつけていた、龍騎のパートナー。そして今は、龍騎が全力で守りたい存在。

 

「あいつに何焚きつけられたかは知らねぇけど、目先の復讐で戦おうとすんな! お前には戦う理由が、守りたいもんがあるんだろ⁉︎ だったらそれを忘れんな!」

「!」

 

トップスピードの喝が功を奏したのか、龍騎は次第に冷静になる。

 

「……ありがとう、トップスピード。俺、もう大丈夫だ。……ッシャア!」

「……ほう。パートナーの一言で立ち直ったか。バカらしく突撃してくるかと思ったが、前よりはマシになったか」

「何の事を言ってるのか分からないけど、俺達は支え合って、生き残るって決めたんだ! もうあの時みたいな過ちは犯さない! 俺はお前に負けない!」

「その言葉、そのまま返してやろう。俺は、お前だけには負けるつもりはない!」

 

『『SWORD VENT』』

 

2人の龍騎士は、ドラグセイバーを手に持ち、すぐさま交戦を始める。激しい打ち合いが続き、火花が散る。何度も背後を取ろうとするリュウガに対し、龍騎は直感で防いでいく。トップスピードは介入する事も忘れて、その戦いを見届けている。

 

『STRIKE VENT』

 

「ハァァァァァ……!」

 

龍騎が新たなカードをベントインし、ドラグクローを装着した右腕を後ろに引く。

それに対し、リュウガが引き抜いたカードは……。

 

『CARSD VENT』

 

「ダァァァァァァァァ!」

 

『ドラグクローファイヤー』をリュウガめがけて放つ龍騎。軌道はズレておらず、確実に命中している。それはトップスピードの方でも確認できた。にもかかわらず、リュウガは炎の波に呑まれる事なく、悠然と立っていた。いくら仮面ライダーといえど、直撃を受けて吹き飛ばされないのはおかしい。

すぐさまその原因が何なのかを察したのは、ドラグクローファイヤーを放った本人だった。

 

「! まさかそれって、レアアイテムの……!」

「ファムに対して使った時も有能だったよ。お前やファムを抹殺する為に購入したアイテムだが、予想以上に役に立った」

「俺とファムを……! お前、それだけの為に寿命を⁉︎」

「あんた、一体何考えてんだよ! そんなに自分の命が惜しくないのかよ⁉︎」

 

トップスピードも喚き立てるが、リュウガは気にも留めない。

 

「言ったはずだ。俺は結局、お前やファムにとって、いてもいなくてもどっちつかずの存在。お前達を道連れに出来るのなら、本望だ!」

「どうしてそこまで……!(もしかして、俺はリュウガの正体を知ってる……?)」

 

頭の中で疑問が湧き上がるが、ずっと考え込んでいる暇はない。リュウガの猛攻がより一層激しくなったからだ。

 

『GUARD VENT』

 

ドラグシールドを装備した龍騎は、リュウガの攻撃を凌ぎながら、隙を見て受け流すように動き回る。リュウガのバランスが崩れ、前のめりになったところで蹴り倒して距離を取り、カードデッキから1枚のカードを引き抜く。と同時に周囲に炎が吹き荒れ、突き出した左腕のドラグバイザーがドラグバイザーツバイへ。口の部分の装填口にカードを差し込むと、

 

『SURVIVE』

 

という電子音と共に、龍騎は強化形態である龍騎サバイブへ。そしてドラグブレードを展開し、リュウガに斬りかかった。サバイブの恩恵もあって、龍騎の攻撃は一つ一つが重くなり、リュウガが段々と下がり始める。が依然として引き下がる様子は見せない。それだけ龍騎の抹殺への執念が深い証拠だ。

 

「ダァッ!」

 

龍騎サバイブも負けじとドラグブレードを振り下ろし、対抗している。リュウガが一歩引いて、斬撃を紙一重でかわすと、体勢を整える為、右手首を右腰に当てるようにスナップを利かせた。

 

「! 今のって……!」

 

それを見た龍騎サバイブの思考が、一旦停止した。今しがたリュウガが行なった動作。龍騎サバイブは、城戸 正史は、それに見覚えがあった。随分と久々に見た事しか思い出せない為、まだ確信は持てないが、もし、リュウガの正体が自分の思い浮かべた通りの人物だったとしたら……。

 

「今までの事も、全部説明がつく……!」

 

出来る事なら外れてほしいと思いながらも、龍騎サバイブは再び接近戦へ。

 

「サバイブの力を使っているからと言って、調子に乗るのもそこまでだ」

「! ハァッ!」

 

ドラグセイバーの突きが龍騎サバイブに襲いかかるが、ドラグブレードを盾代わりにし、必死に踏み止まった。力が拮抗する中、最初に動きを見せたのは、リュウガだった。

 

「オォォォォォォ!」

 

足払いして地面に寝かせた後、ドラグセイバーを絶妙なタイミングで振り下ろし、龍騎サバイブに対して死角を作らないように、狙いを定めている。

これに対し龍騎サバイブは、右に体を捻って回避し、戻った反動でリュウガの脇腹を蹴り上げた。リュウガの口から始めて苦悶の息が洩れる。よろめくリュウガに対して追い討ちとばかりに蹴りを叩き込み、リュウガを遠ざけた。

芯に命中したのか、リュウガはよろめきながら後ずさっている。今なら龍騎サバイブの猛攻に晒されるほどに隙ありだ。

 

「いけるぞ龍騎! このまま……!」

 

トップスピードが龍騎サバイブに向かって声をかける。が、どうした事か。龍騎サバイブは折角のチャンスにもかかわらず、肩で息をしながら、リュウガの様子を眺めているばかり。まるで何かに動揺しているみたいにも見える。

何故反撃しないのか。トップスピードが声をかける前に、龍騎サバイブが口を開く。

 

「……子供の頃から、ずっと遊んでいた友達に、剣道がめちゃくちゃ上手い奴がいたんだ。そいつの試合は必ずといっていいほど観に行って、その素振りも、何度も見てきた……」

「……」

 

リュウガは口を挟まず、ジッと龍騎サバイブを睨みつけている。

 

「それにもう一つ。美華が不良に巻き込まれかけた時、俺とそいつは必死になって美華を守る為に、喧嘩を挑んだ。殴ったり殴られたりの繰り返しで、俺がヤバくなった時は、そいつは自分の事よりも俺の無事を優先して……。独特のポーズで、俺を奮い立たせてくれた。……そうだよ、お前がさっき見せた、そのスナップが、まさにそうだ」

「……」

「ど、どういう事だよ……?」

 

トップスピードが困惑する中、龍騎サバイブは震えながら、左手でリュウガを指差す。

 

「……お前、なのかよ! 銀斗! 黒崎(くろさき) 銀斗(ぎんと)が、リュウガ……!」

「やっと気づいたか。まぁ、ファムよりかは鈍くなくて幸いだったよ」

 

トップスピードには何が起きているのか、全く理解不能だった。話がよく見えてこない。先ほどまで確かに龍騎サバイブの方が僅かに押していた。が、いつの間にか両者の形勢が逆転している。正体を明かされてもなお冷静なリュウガと、狼狽する龍騎サバイブ。

 

「何で……! 何でお前が、仮面ライダーに……!」

「それを知って今更どうする。俺がライダーになった目的はただ一つ。お前と美華を、この手で葬る事だ!」

 

不意に殺気立ったオーラを放ち、突進してくるリュウガ。不意の体当たりに対応できず、吹き飛ばされる龍騎サバイブ。そして彼はそのまま、背後にあった、誰かが放置したままであろうガラスへと吸い込まれるように転がり、現実世界に戻ると同時に、変身が解けた。

 

「正史ぃ!」

 

トップスピードがリュウガを追い越して現実世界に戻り、パートナーの無事を確認する。ぐったりしている彼は、幸いにも大きな怪我は負っていないようだ。

ホッとしたトップスピードは、そこで背後に人の気配を感じて振り返ると、ミラーワールドから出たリュウガが立っている事に気付いた。トップスピードが警戒する中、正史は苦しげな表情を浮かべながら、膝をついて起き上がる。

 

「お前が、リュウガだったのか……。でも、どうして……。何で、美華を殺して……!」

「さっきからそんな質問ばかり、聞き飽きたな。……まぁいい、どの道お前のその声も姿も、見納めになるだろうからな」

「さ、さっきから何言ってんのか分かんねぇぞ⁉︎ 大体、あんたと正史はどんな関係なんだよ⁉︎ ダチなのか、それとも同級生なのか?」

「……どっちも、だよ。俺と美華の、友達だ。子供の頃から、ずっと……」

 

声を掠れさせながら、正史が答える。それに対し銀斗は鼻をフンと鳴らす。

 

「正直、お前に友達と言われて気分が優れないが、事実だから今回は大目に見てやる。……そうだ。俺は黒崎 銀斗。お前のパートナーとは、学生時代からの旧友だった」

 

リュウガはそう言って、カードデッキをVバックルから取り外す。ガラスが割れるような音を立てて鎧は霧散し、中から黒いコートを羽織った、黒髪の青年が露わになる。

銀斗はトップスピードに語りかけるように、その過去を吐露する。

 

「家が近かった事もあって、俺と正史は毎日のようにはしゃぎ回っていた。性格こそ違ったが、根暗な俺をお前や中学からの付き合いだった美華はいつもバカみたいに手を取り、その度に俺を日の当たる場所まで連れ出した。……今にして思えば迷惑千万だったよ」

「……」

「そんな俺達も高校生になり、ある転機が訪れた。それが美華からの告白だった。高校生活もあとで1年に迫った頃に、俺に想いを馳せていた美華の告白を受けた時は、受験で悩んでいた俺にとって良い薬だった。……だが哀しいかな。その頃は俺も恋愛下手でな。不器用さが災いし、結局長続きしないまま、あいつはあっさりと俺との縁を切った。そしてそんなあいつが次に相手に選んだのが、子供の頃からバカでお人好しな正史だった」

「そんな事が……」

 

トップスピードが思わずそう呟くように、パートナーとリュウガの知られざる過去を聞いて、彼女は上手く言葉が思いつかない。正史と美華の関係はこの魔法少女、仮面ライダーの世界を通じて知れたわけだが、壮大なストーリーまでは気づいていなかった。

 

「言っておくが、その頃はまだ正史に寝返った事自体を恨むつもりはなかった。自分の不器用さが招いた失敗だ。それを逆恨みにする事など、考えもしなかった」

「だったら、何であんたは正史をそんなに強く恨んで……」

「全ては、お前が美華と破局した事から始まったんだよ」

「!」

 

と、ここで始めて正史の目が見開いた。

 

「お前なら、美華を幸せにできると信じて、俺は敢えて手を引いた。それなのに、このザマは何だ。理由はどうであれ、美華はその身勝手さを発揮し、正史は美華との縁をあっさりと切った! 俺が本来手にするはずだった幸せを、お前達が、お前が奪ったも同然だ!」

 

段々と語気を荒げる銀斗。正史は何も言い返せない。まさか友がそんなにも重い決意を固めていたなんて、思いもしなかったから。

 

「……そして俺は、お前との縁を切った。人知れずお前達の前から姿を消しても、お前達2人は気にも留めてくれなかっただろ? 結局、俺はお前達にとって何の価値もない、見せかけの友情という手のひらで踊らされていた、哀れな道化を演じさせられていたにすぎない」

「ち、違う! 俺は、そんな事……!」

「……だが、それで良かったのさ。おかげで俺は、心の慰めと称して、『仮面ライダー育成計画』に着手し、その結果、シローからのスカウトを受けて、俺は仮面ライダーの力を手に入れた。常識には捉われない、常人を圧倒する力をな」

 

そう言って両手を広げる銀斗。その両腕には外からも分かる通り、力が込められている。

 

「そして仮面ライダーになって幾分か経つうちに、俺に復讐の好機が訪れた。それが、仮面ライダーファム。そして仮面ライダー龍騎。お前達2人の登場だった。ファヴとシローによって生き残りをかけたサバイバルゲームが始まり、情報収集で先手を打つ為に、あらゆるネットワークを介し、お前達の正体を掴めた時は、色々と昂ぶったさ。ましてやお前と同じ容姿だったと知った時は、奇妙な因果さえ感じた」

「……」

「同じ仮面ライダー同士なら、このゲームを介して、何の違和感もなく抹殺できるのだからな。そしてあの日、俺は一つ目の復讐を果たした」

「! ファムを殺した、あの時の事かよ!」

 

トップスピードが声を上ずらせる。

 

「そうだ。奴も最後の最後で俺の正体に気づいたようだが、そんな事はどうでも良かった。本当に憎むべき相手は、最後にとっておいて正解だった」

 

銀斗は冷めた目つきで、愕然とする正史を睨みつける。

 

「もう分かっただろ。何故美華が殺されなければならなかったのか。そして俺が、仮面ライダーリュウガとして、生き残る理由もな」

「……俺が」

 

正史は両膝をつき、青ざめた表情を浮かべた。トップスピードが声をかける前に、正史の口が開く。

 

「俺が、美華を、幸せにしてやれなかったばっかりに……! 銀斗の気持ちに、気づいてやれなかったばっかりに……! お前はライダーの力で、人を殺して……! 美華も、死なせてしまった……! 全部、俺が……!」

「そうだ。全部、お前のせいだ」

 

銀斗の冷酷な一言が、正史の胸の奥に突き刺さる。

 

「だが、仮にもお前は、俺の友だった。過去を反省し、全てを俺に委ねると約束できるなら、少しぐらいは選択の余地を与えてやっても良いだろう」

「!」

「受け入れろ。お前の運命の末路を。お前の存在を消す事で、俺はようやくこの地獄から解放される。お前が死を受け入れた時が、俺の戦いの終わりだ」

「なっ……⁉︎ お前、無茶苦茶言ってんじゃねぇぞ!」

「お前は黙っていろ」

 

銀斗はトップスピードを一蹴し、手に持っていた黒いカードデッキをかざす。

 

「お前が死を受け入れれば、お前のパートナーに手を出す必要もない。勿論その仲間もだ。そして俺も、自らの死を受け入れると約束する。お前1人の死が、結果として生存できるものを2枠も増やせる。お前の言う、仲間を死から守り抜く方法として、これ以上に最適な方法はないだろ? パートナーをそんなに守りたいのなら、本望だろう」

「……!」

「変身」

 

銀斗は静かにそう呟き、腰につけられたVバックルにカードデッキをはめ込む。鏡像が重なり、銀斗の姿は黒龍を彷彿とさせる『リュウガ』へと変貌する。そしてトップスピードを突き飛ばし、呆然とする正史の首根っこを掴んで持ち上げた。

 

「ウッ、グァッ……!」

「受け入れろ。自分の罪を。それが、美華に対するせめてもの慰めとしろ」

「……!」

 

何かを諦めたように脱力する正史を見て、リュウガは仮面の下でニヤリと笑う。そして、空いている左手で正史の首を掴もうとした、まさにその時。

 

「ウォォォォォ!」

 

横から強い衝撃がリュウガを襲い、正史の首から離れて地面を転がった。起き上がったリュウガの視線の先には、ラピッドスワローから降り立って正史の横に立つトップスピードの姿が。

そういえば、あいつのパートナーはそんな魔法を使えたな、と思いつつ、再び正史に手をかけようとするが。

 

「それ以上、正史に近づくんじゃねぇ!」

 

トップスピードはマジカルフォンをタップし、ドラグセイバーを構える。

 

「あんたがよっぽど正史を恨んでるって事はよぉく分かった! 確かに正史にだって、悪い所があるのは分かってる! 大切な時間を壊されて誰かを恨む気持ちだって、オレも分かる! けどなぁ、そんな理屈を並べた所で、こいつがオレの目の前で殺されそうになってるのに、見過ごせるほど、オレだってバカじゃねぇんだよ!」

「……お前もその男といつまでもダベっていれば、美華と同じ運命を辿るだけだ。お前にも生き残りたい理由があるんだろ? そんな男とい続ければ、お前も遠からず破滅の運命を辿る」

「……だとしても!」

 

トップスピードは思わず腹に手を当てて叫ぶ。外見からは分からないだろうが、そのお腹には、託された命が宿っている。その命を産み落とし、精一杯育てて幸せな時間を、パートナーと共に過ごす。それがトップスピードの、室田 つばめの生きる理由と決めており、その芯を捻じ曲げるつもりは、毛頭ない。

 

「オレは、正史と一緒に生きるって決めたんだ! オレも正史も、同じように取り返しのつかない罪を犯しちまった。それを見て見ぬ振りしちゃいけない! 憎しみとか恨みとか、そんな重いもんはちゃんと受け入れなくちゃいけねぇんだよ! だから……! こんな所で勝手に死ぬ事を受け入れるなんて、絶対許さねぇからな、正史!」

「……!」

 

その一言で一瞬だけ我にかえる正史。

その一部始終を見ていたリュウガは肩を竦める。

 

「自分から破滅の運命を選ぶとは、罪深い奴らだ」

「なんとでも言いな! オレはもう、選ぶ事を怖がったりなんかしない! ……行くぞ正史!」

 

そう言って正史の腕を掴み、ラピッドスワローの後部座席に乗せると、その場から離脱しようとする。

そんな2人の後ろ姿を見つめながら、リュウガは一言、こう呟く。

 

「明日の午後17:00、美華が死んだあの公園で、決着をつけるぞ。来なかった時は、そうだな……。お前の務めている会社の社員をまとめて葬る」

「「……⁉︎」」

 

その一言に、思わず振り返るコンビ。

 

「選択の余地を与えてやると言ったはずだ。お前が死ねば、他の者には一切手を出さない。それを拒めば、お前は大勢の命を見殺しにする事になる。出来の悪い頭で、どちらがより正しい選択なのか、よく考えて決める事だな」

 

『正史』と『OREジャーナル』。2つの命が天秤にかけられている。その事実にショックを受けつつも、トップスピードは、今はリップル達との合流が先決だと判断し、全速力でリュウガから遠ざかった。てっきり追いかけてくるのかと思ったが、本当に明日に勝負をかけようとしているようだ。

 

「……」

 

リュウガは飛び去る2人の背中を、憎悪を込めた目つきで睨み続けていた……。

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか? 恋愛に関しては私はほぼ皆無ですので、その辺の倫理観はよく分かっておりませんのでご了承ください。

次回、またまたOREジャーナルが……?

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