魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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先日、『マギアレコード』でピックアップ中の『かずみ』を60連で3枚出して、運を使い果たしたような気がして不安しかない……。

それはともかく、久々の大乱闘が、始まる……!


108.小さな英雄

「ガイに続き、今度はタイガからの招集ですか。彼も案外、思い切った行動を取るものですね」

 

マジカルフォンに表示されているメールの内容を目に通したクラムベリーは、そのまま近場に放り捨ててから、今一度横になった。そこへマジカルフォンとは別の端末から、ファヴが姿を現した。

 

『あれ? マスターってば行かないつもりぽん? 行けばきっと楽しいと思うぽん!』

「そうかもしれませんがね」

『珍しく歯切れ悪くないかぽん?』

「どうでも良い事です。ただ、前回の成り行きを見るに、あまり乗り気になれないだけです。あの件で脱落したのは仮面ライダー2名。せめてあの時に6、7人死んでくれれば、今回の誘いに乗れたんですけど」

『まぁたマスターのいい加減な面が出てるぽん。まぁいいぽん』

「オーディンやシロー辺りが監視に出向いてくれるでしょうから、今回はパスしますよ」

『はいはい』

 

ファヴはそう言って、その場を後にした。山小屋に残ったクラムベリーが、天井を見上げながら、フサフサした髪をいじる。

 

「(さて、タイガが生き残る可能性は……、まぁ、ほぼないでしょうね。となれば、残る候補生は……)」

 

ふと、クラムベリーは思い出したかのように上半身を起こし、魔法の国特製の端末を起動する。そこには、今回の試験の参加者の情報がプロファイリングされているのだ。そして、脱落した面々を除いて何人かのプロフィールをチェックしていると、ある人物の欄で目が止まった。

 

「……なるほど、これはまた随分と因果の深い。どちらに勝敗が転ぶのか、少し興味がありますね」

 

唇の端をつり上げるクラムベリーの瞳には、黒龍のライダー、リュウガの画像が映っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして舞台は、ミラーワールドへ。

 

『……』

 

主催者のいないステージに、総勢16名の魔法少女、仮面ライダーが己のプライドをかけて戦う。各々が武器を構え、風が動くのを待つ。

 

「ハァッ!」

 

最初に文字通り引き金を引いたのは、ゾルダだった。その銃口は、龍騎に向けられたものである。

 

「って、いきなり俺かよ⁉︎」

「龍騎!」

 

慌てながらも後ずさりながら、銃弾を回避する龍騎。だがその動きには危なっかしさが伺える。トップスピードは龍騎を助けようと、ラピッドスワローに跨り、空中から龍騎を救い出す。その間にゾルダは次の標的を王蛇に向ける。その銃弾をベノサーベルで弾きつつ、砂利の地面を縦横無尽に駆け回る。余裕を醸し出しているのか、それとも快楽に溺れているのか、とにかく王蛇は笑いながら銃弾を避けていた。中々命中しない事に苛立つゾルダに、ウィングランサーを構えたナイトが飛びかかるが、これも銃弾で怯ませる。

 

「ナイト!」

 

これを見てライアはナイトを加勢するべく、エビルウィップを片手に駆け出した。その一方で、トップスピードは次の行動を考えていた。

 

「下手にあの銃撃の中には飛び込めないしな……。姐さんもいるし、ここは遠くから……」

 

『ADVENT』

 

「なっ……⁉︎ おわぁ⁉︎」

 

不意に龍騎を乗せたラピッドスワローがバランスを崩した。別方向から現れたドラグブラッカーが体当たりをし、2人は地面に放り出された。2人の前に、ドラグブラッカーを呼び出した張本人が、黒いドラグセイバーを構え、その剣先を龍騎に向ける。

 

「逃がさん。お前とはそろそろ決着をつけようと思っていたところだ。死ねぇ!」

「リュウガ……! こんのぉ!」

 

対する龍騎も起き上がりながらドラグセイバーで受け止め、そのまま押し出すように前進した。

 

「お前、何でそんなに俺を恨んで……! お前は一体、誰なんだ!」

「そんな事にも気づかないとは、つくづく平和な奴だな! ……だが、もうそんな事はどうでもいい。そのままくたばれ!」

「んな事させるか! 龍騎は死なせねぇ!」

 

トップスピードも龍騎を援護する形で、リュウガへの攻撃を開始する。

 

「……トップスピード。お前も、あいつと同じか」

 

リュウガの小さな呟きは、2人の耳には届かなかった。

 

「ハッハッハ! いいね良いねぇ! もっと逃げ惑えよお嬢ちゃん! 久々のシャバだからなぁ! 弾はいくらでも残ってんだよぉ!」

「くっ……! 調子に乗りやがって……!」

 

一方で高々に笑いながら機銃を両手に持ち乱射しているカラミティ・メアリを、リップルは舌打ちで一蹴する。いざとなればサバイブで圧倒する事も可能だが、これだけ敵が多い中で下手に切り札を使うわけにもいかない。奥の手として温存する事に決めたリップルは、短刀を片手に、接近戦に挑んでいく。

それを見ていたスノーホワイトが援護をしに向かおうとするが、横手から銃弾が炸裂し、スノーホワイトは軽くジャンプして回避する。着地してから顔をあげると、マジカロイド44が召喚したマグナバイザーを片手に、対峙している。

 

「さすがにここまで生き残れるだけあって、しぶとさはありマスね」

「……あなたが私の相手に、なるんだね」

「別に誰でもいいんデスけどね。あなたに生きててもらう理由はないデスし、今更人殺ししたってなーんにも感じませんからネ。ここでサヨナラして差し上げマスよ」

「私は、死なない。絶対に生き残る! だいちゃんと約束した! だから……! 戦いから、逃げたりなんてしない!」

「さいデスか。なら、二言はありませんネ」

 

そう叫んで、スノーホワイトはフォクセイバーを召喚。マジカロイド44との一騎打ちに挑んだ。ブースターを駆使して動き回るマジカロイドに対し、スノーホワイトは回し蹴りなどで応戦する。

一方、スノーホワイトのパートナーである九尾は、アビスと対峙していた。フォクセイバーとアビスセイバーが火花を散らし、互いに俊敏な動きで隙を見せる事なく戦っていた。

 

「なるほど、この齢にしてこれだけの対応や決意……。あのお方が一目置くのも、今なら分かる」

「あのお方……? お前のバックには誰かの後ろ盾があるというのか……!」

「答えるつもりはない。俺は知りたいだけだ。お前の内に眠る強さの根源をな!」

「何を目的としてるのか知らないが、やれるものなら……」

 

『ACCEL VENT』

 

「やってみろ!」

 

九尾は高速移動でアビスを翻弄するように動き回った。

そのアビスのパートナーであるスイムスイムは、ルーラを片手にラ・ピュセル、ハードゴア・アリスに向かって振り下ろしている。

 

「フンッ!」

 

ラ・ピュセルは肥大化した大剣で、刃先の鋭いルーラを受け止めている。下手に切り刻まれると、致命傷になりかねない。慎重になりつつも、反撃のチャンスを伺うラ・ピュセル。

一方でアリスは、黒いドラグセイバーを片手に、ラ・ピュセルとは対照的に攻めに入っていた。当然ルーラの斬撃で至る所から血が流れるわけだが、彼女の魔法『どんなケガをしてもすぐに治るよ』は、レアアイテムの武器をもってしても簡単には攻略できない。

隙を見てスイムスイムの右腕にしがみついたアリスは、もう片方の手でドラグセイバーを突き刺した。が、ドラグセイバーの刃先は文字通りめり込んだようにスイムスイムの腹を貫通していた。無論血が流れている様子もなく、スイムスイムは平然とした表情を浮かべている。

 

「アリス、下がって!」

 

ラ・ピュセルがそう叫ぶと、マジカルフォンをタップして召喚したエビルバイザーを左腕に装着し、ソニックブームを放った。アリスは後方に下がって避けたが、スイムスイムはその場から動かない。そしてソニックブームは、ドラグセイバー同様、彼女の体をすり抜けていった。それを見てラ・ピュセルは舌打ちをしそうになる。

 

「(あれも、彼女の魔法なのか……! だとしたら、どうすればあいつを攻略できるんだ……!このままじゃ僕もアリスも、手の出しようがない……!)」

「私が、前に出て、戦います。ラ・ピュセルは、観察を、続けて」

 

そう言って前に出るアリスだが、血だらけの右腕をラ・ピュセルが掴む。

 

「待ちたまえ! これ以上君を……」

「平気、です。この魔法があれば、私は、死にません」

「それはそうかもしれないが、そんな体を見せられては、僕も黙っていられない……! 大丈夫だ。僕も戦う。君を守る騎士として、何より生き残る為に、戦う!」

「……優しい、です」

 

そう呟くアリスの頬は、どこか紅い。そんな2人のやり取りを気にする事なく、スイムスイムは一旦周囲の状況を確認する。連絡がつかないたまはともかくとして、依然として現状を作り出したタイガが姿を現さない。何を考えているのかは分からないし、今はどうでもいい事だと自己判断したスイムスイムは、再び前進しようとするが……。

 

「!」

 

[挿入歌:Revolution]

 

スイムスイムの背後からしがみつくように現れたシアゴーストが、妨害工作に打って出たのだ。襲われたのは、スイムスイムだけではなく、その場にいた全員を混乱させる。

 

「なっ……!」

「……アァ? なんダァ……!」

「なんだってまたこいつらが出てくるんだよ⁉︎」

 

トップスピードがそう喚く間にも、シアゴーストは四方八方から出没。対人戦は一時中断となり、全員が一旦はシアゴーストの対処にあたった。

 

「き、キリがない……!」

「ハァッ!」

「ま、また増えてるよ!」

「こいつら、一体……⁉︎」

 

その場にいた全員が、大量のシアゴーストの出没に頭を抱える。いくら倒しても、またその背後から同じ個体がぞろぞろと姿を見せて、飛びかかってくる。ヤゴの性質を持っているはずなのに、そのしぶとい有様はどちらかといえば、ゴキブリに近いものがある。

 

「チィ……!」

 

『FINAL VENT』

 

数の多さに苛立った王蛇がベノバイザーにカードをベントインしたのを皮切りに、各々が必殺の体勢に入った。

 

『『FINAL VENT』』

『SHOOT VENT』

『COPY VENT』

『『SURVIVE』』

 

アビス、ナイトが『ファイナルベント』を、ゾルダが『シュートベント』でギガランチャーを出し、それをライアが『コピーベント』で同じくギガランチャーを手に構える。

魔法少女サイドもマジカルフォンをタップし、リップルとラ・ピュセルがサバイブとなり、再度マジカルフォンをタップして必殺技を放つ体勢に入る。マジカロイド44はパートナーと同じくギガランチャーを、スイムスイムはアビスクローを、ハードゴア・アリスは黒いドラグクローを召喚した。なお、カラミティ・メアリだけは武器を召喚せず、四次元袋からロケットランチャーを取り出して構える。

龍騎も皆に続いてカードを取り出そうとしたその時、リュウガに腕を掴まれて、シアゴーストの姿が見えない方向まで引きずられていった。

 

「お、おい! 何すんだよ!」

「……丁度いい。思わぬ邪魔が入ったが、好都合だ。このままサシで相手にしてやる」

「待てって……!」

「龍騎!」

 

リュウガに連れて行かれる龍騎を見て、トップスピードも2人を追いかけて、その場を後にした。

九尾とスノーホワイトも攻撃を仕掛けようとするが、大量のシアゴーストの波に呑まれて、段々と遠ざけられてしまった。

 

「ハァァァァァ!」

 

アビスの背後にあった川から契約モンスターであるアビスハンマー、アビスラッシャーが姿を見せると、2体は吸収されるかのように合体し、太古の海に生息したとされる、メガロドンを彷彿とさせる『アビソドン』へと変化。アビスはアビソドンの上に乗り、勢いをつけると、飛び蹴りを放ち、アビソドンと共に、眼前に広がるシアゴーストにぶつかっていく、『アビスダイブ』を放った。これによりシアゴーストは次々と爆散。

それに続く形で、王蛇の『ベノクラッシュ』、ナイト、リップルサバイブの『飛翔斬』が炸裂した。ゾルダとライア、マジカロイドの持つギガランチャーが火を噴き、シアゴーストをまとめて吹き飛ばした。スイムスイムの『アビスマッシュ』、アリスの『ドラグクローファイヤー』、ラ・ピュセルサバイブの『ハイドベノン』も動きの鈍いシアゴーストを一掃し、残党もメアリのロケットランチャーが薙ぎ払った。

辺りが爆撃の轟音から静まり返った所で、再び戦士達は体を向け合う。

 

「ハァッ……、やっと、戦える」

 

人数は多少減ってしまったものの、王蛇の口調からは不満が感じられない。依然として憎っくき相手は目の前にいる。それだけで彼にとっての戦いは充分成立するのだから。

 

「お前とは早いとこ決着つけて、永久にお別れしたいよ」

 

そう言って前に出るゾルダだが、不意にその体がグラついて、頭を抑え始めた。

 

「……ウッ!」

「(! あいつ、まさかまた……!)」

 

その光景に見覚えのあるナイトが駆け寄ろうとするが、パートナーの方がいち早く動いていた。

 

「先生……! 無理をなさらずに、ここは私が行ってきマス……!」

「何をコソコソ話してるのか知らないけど、あたしには分かってるよ! 今のあんたじゃ」

 

『FINAL VENT』

 

と、ここでメアリの言葉を遮るかのように、電子音が響き渡る。

その場にいた一同が辺りを見渡していると、咆哮と共に現れた白い影が、マジカロイドを押し倒し、そのまま引きずっていった。

 

「ヌォォォォォォォ⁉︎」

「マジカロイド!」

 

仰向けになりながら引きずられ、背中から火花を散らすマジカロイドを、デストワイルダーが地面を駆けていく。その先には、デストクローを構えるタイガが待ち構えている。押し倒された衝撃で武器を落としてしまい、為す術もないマジカロイド。

ゾルダが、立ちくらみを起こしつつも、マグナバイザーを構えるが、照準が上手く合わない。万事休すかと思われていたその時、ライアが動いた。

 

「危ない!」

 

『ADVENT』

 

すかさずカードをベントインしたライア。契約モンスターであるエビルダイバーを向かわせて、デストワイルダーに体当たりした。デストワイルダーはバランスを崩して倒れ、マジカロイドは『クリスタルブレイク』の餌食になる事なく、地面に横たわった。

一方で、トドメをさせなかったタイガが動揺する中、

 

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

ハッとなって顔を上げた先には、憤怒しているラ・ピュセルサバイブが大剣をより肥大化させて、タイガめがけて振り回した。とっさにデストクローを盾にするが、勢いを殺しきれず、悲鳴をあげながら吹き飛ばされた。地面に落下したタイガに向けて、ラ・ピュセルサバイブは剣を元のサイズに戻してから剣先を向ける。

 

「不意打ちで敵を討つつもりだったか! 最早仮面ライダーとしてだけでなく、人間としての在り方さえ捨てたのか!」

 

戦うべき相手とはいか、不意打ちという戦法をとったタイガに腹が立っているラ・ピュセルサバイブは、そのままタイガに向かおうとするが、行く手を阻むように、王蛇に蹴られた。

 

「こいつは俺の獲物だ……! お前にはやらん」

 

そう言ってベノサーベルを構えた王蛇が、タイガに猛威を振るう。王蛇から発せられるオーラに身震いしたタイガが逃げ出そうとするが、すでに距離を詰められてしまっており、たちまち王蛇の猛攻をその身に受けた。

 

「お前の遊びは、あんまり面白くないなぁ」

 

ようやく姿を現した主催者を前に、王蛇は肩を竦めながらベノサーベルを振り下ろす。タイガがいたぶられている間に、隙ありとばかりにゾルダがギガランチャーで王蛇とタイガを狙うが、紙一重でかわされてしまう。

 

「お前は、後回しだ」

 

『ADVENT』

 

「! 先生! 後ろデス!」

「何っ⁉︎」

 

マジカロイドがそう叫び、ゾルダが振り返ると、王蛇の契約モンスターであるベノスネーカーがゾルダを見下ろしている。ギガランチャーから弾を発射するよりも早く、その口から毒液が吐かれた。

 

「手を離せ!」

「!」

 

ライアがとっさにそう叫び、ゾルダはギガランチャーを手放した。するとギガランチャーは毒液を浴びて、ドロドロと溶けていった。もしライアに言われて手放さなかったら、確実に自分もギガランチャーと同じ運命を辿っていただろう。仕方なく腰に提げていたマグナバイザーで応戦する事に。だが、マグナバイザー如きでは、契約モンスターの前では豆鉄砲とさして変わらない。

 

「ゾルダ!」

「おっと。あんたらの相手はこいつらだ! 来な、メタルゲラス、エビルダイバー!」

 

カラミティ・メアリに呼ばれる形で現れた、黒く染まったメタルゲラスとエビルダイバーが、その場にいた他の魔法少女、仮面ライダーに襲いかかった。スイムスイム、アビスはエビルダイバーを、ライア、ラ・ピュセルサバイブ、ハードゴア・アリスはメタルゲラスを相手にし、ゾルダに加えてある程度回復したマジカロイド44はベノスネーカーを相手にした。そしてリップルサバイブは、カラミティ・メアリと再び対決する事に。

その間にも、タイガと王蛇の対決は一方的なものと化していた。

 

「来いよ。遊び方を教えてやる」

 

肩の力を抜いているような動作を見せながら、強烈な蹴りでタイガを圧倒する。

 

「クゥッ……! まだ、だ……! 僕が、英雄に、なる為には……!」

「英雄ねぇ……。興味ないな、俺には。戦えれば、それで十分だろぉ!」

 

何度もタイガの腹を踏み続けて戦いに悦を感じ始める王蛇に対し、タイガは最早声が聞こえてこないほどに吐き気が込み上げてくる。

その後も殴りや蹴りが入り、段々と意識が朦朧とし始めるタイガ。だが、英雄と呼ばれるに相応しい自分が、こんな所で死ぬわけがない。そう自分を奮い立たせて、反撃を試みるタイガだが、相手が悪いこともあり、それも無謀に近い。

そのすぐ近くでは、ゾルダとマジカロイドがベノスネーカーから距離を取りながら銃弾を撃ち込んでいる。そして、近くに王蛇の姿を確認したマジカロイドが、そこへ向かうようにベノスネーカーを引きつけた。彼女の意図を理解したゾルダと肩を並べながらベノスネーカーを誘導し、向こうが毒液を再び吐こうとした瞬間、2人は息を合わせて、横に飛び退いた。それにより、毒液は2人の間をすり抜け、直線上でタイガにトドメを刺そうとしていた王蛇の仮面の左半分に降り注いだ。

 

「ウッ、グアァァァァァァァァァァァァァ!」

 

自らの契約モンスターの攻撃をまともに浴びてしまい、悶え始める王蛇。その隙に、タイガはうさぎの如く跳ねるようにその場から遠ざかった。仮面に覆われている以上、毒液を受けても死ぬ事はないだろうが、それでもかなりのダメージにはなっているのだろう。事実、それまでの荒々しい様子はなくなり、毒液を浴びた左半分を押さえながら狂ったように動き回っている。

 

「チッ……! 王蛇!」

 

これを見たメアリが舌打ちしながらも、リップルサバイブを蹴って後ずらせると、王蛇を抱えてミラーワールドを出た。ゾルダとマジカロイドもそれに続く。

リップルサバイブも追いかけようとするが、時間切れとなり、ラ・ピュセル同様、サバイブから元のフォームに戻ってしまい、更にはメアリが呼び出したモンスターが足止めに徹しており、ミラーワールドを出れない。

どうにかして引き剥がそうと、手裏剣を構えるリップルだったが、

 

『グォォォォォォォォォ!』

 

どこからともなく聞こえてきた咆哮と共に、2体のモンスターに突進してきたのは、灰色のメタルゲラスだった。

 

「同じモンスターが、2体……⁉︎」

「いや、黒い方は王蛇とメアリの契約しているモンスターだから、あの灰色の方は、オリジナル。となると……」

 

ライアが周りを見渡すと、柱の奥から顔を覗かせていたたまが、ライアから目線を向けられた事で慌てて物陰に隠れる姿が映った。たまが消えた方角へ、仲間であるスイムスイムとアビスが向かい、現場は先ほどと打って変わって静かになった。

なぜ自分達を助けたのかは分からなかったが、お陰で道が開けた事に変わりはない。

 

「よし、俺はゾルダ達の方へ向かう。ラ・ピュセルとアリスは、九尾とスノーホワイトを探しに行ってくれ。ナイトとリップルは、龍騎とトップスピードの方だ。どちらもまだそう遠くへは行っていないはずだ」

「分かった」

「ライアも気をつけて! まだ王蛇が暴れているかもしれないから!」

「心得ているさ。そっちも気をつけろよ」

 

そう言って各々は3方向に分かれていった。

ライアがミラーワールドを出て現実世界に戻って来た時、目の前に広がっていた光景はと言うと……。

 

「北岡ぁ!」

「先生離れて!」

 

変身を解いた浅倉が、同じように変身を解いている北岡に掴みかかり、鉄パイプで殴ろうとしていた。その左目は毒液の影響で炎症を起こしているのか、赤く腫れている。真琴が助けようとするが、それを奈緒子が腕を掴んで妨害している。

 

「ハァッ!」

「チィッ!」

 

ライアは真っ先に奈緒子に飛びかかって真琴を引き離し、今度は浅倉と北岡を引き離すと、そのまま浅倉を殴り倒した。

 

「貴様ぁ……!」

「お前には色々と借りを返さなければならない事があるが、今は後回しだ」

 

ライアを睨みつける浅倉。その隙に奈緒子が、近くにあった乗用車に向かって駆け出す。逃走を試みるようだ。

 

「浅倉!」

「!」

 

浅倉はライアを押しのけると、ドアを開けて助手席に乗り込む。と、その時、人一倍鼻の効くライアが、ドアが開けられた瞬間に異臭を感じ取った。空気よりも重苦しい、独特な感じが、一つの可能性を導き出す。

 

「(これは、油……、いや灯油か! まさか……!) ダメだ! キーを回すな!」

 

ライアがとっさに、運転席に乗り込んだ奈緒子を呼び止めるが、時すでに遅し、奈緒子は勢いよくキーを回し、エンジンをかける。

その直後、ライアの予想通り、乗用車にぶちまけられていた灯油に引火し、内部から大爆発を起こして、外にいた3人はバックファイアの如く吹き飛ばされた。

 

「真琴!」

 

北岡は、衝撃波を受けた、コンクリートの壁に頭を打ち付けて倒れこもうとしている真琴を抱き抱え、その場から遠ざかろうとする。

 

「ウァァァァガァァァァァァァァァァァァ!」

 

すると、割れた窓ガラスから男のものと思しき腕が炎の中から伸びてきて、北岡の腕を掴み、引き摺り込もうとした。浅倉だ。奈緒子の姿は見えないが、このままでは北岡も真琴も道連れにされてしまう。

 

「北岡!」

 

すぐさまライアが介入し、エビルバイザーで浅倉の腕を叩いた。それにより浅倉の手は離れ、雄叫びと共に再び炎の海の中へ。

 

「今のうちに!」

「あ、あぁ」

 

ライアは北岡の背中を押す形で、その場から遠ざかる。ようやく日の当たる場所まで逃げた所で、ライアは変身を解いた。

 

「あの乗用車……。俺達が来た時にはなかったはずだ。恐らくは……」

「間違いないね。あの英雄気取りの仕業だ。ったく、小物のくせにやってくれ……!」

 

不意に北岡の声が詰まったかと思うと、気絶している真琴を抱えたまま、地面に倒れこんだ。

 

「! しっかりしろ!」

 

手塚は必死に北岡の体を揺するが、反応はない。何が起きているのかは分からないが、只事ではないと判断し、すぐに携帯を取り出して救急車を呼ぼうとする。

刹那、手塚の後方で轟音が響き渡り、背中が熱くなった。振り返ると、先ほどまでいた地点には炎が吹き荒れている。ナイト達がいなかったのが不幸中の幸いだったようだ。手塚は、車内にいた2人の安否が気になりつつも、しばらく呆然とした表情で、火柱を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッフッフ……! 今頃、誰かが、車のエンジンをかけて、ドガーン……! これで、また1人……! また英雄に、近づいたんだ……!」

 

N川から少し離れた街の中を、変身を解いた智が王蛇に蹴られた腹を押さえながら、ヨロヨロと歩いている。その表情は苦悶ではなく、恍惚としたものが伺える。

 

「ライダーも、魔法少女も、ただの人間なんだ……! 初めから、こうすれば良かったんだ……! こうすれば、もっと早く、英雄になれたかもしれないんだ……! でも、もう大丈夫だ……! この調子で、僕は、真の……!」

 

『英雄になれない条件が、1つあるんだけど、教えてやろうか?』

 

不意に智の脳裏に、北岡のあの言葉が思い浮かぶ。バカバカしいと思いつつ、記憶から消そうとするが、その言葉がリピートされてしまう。

 

『英雄ってのはさ。英雄になろうとした瞬間に、失格なのよ』

 

「……そんなわけない。そんなはずない!」

 

『お前、いきなりアウトってわけ』

 

「黙れ……!」

 

誰もいない歩道で、智の怒声が響き渡った。

しばらく歩いていくうちに、大通りに出た智。交差点に差し掛かり、信号待ちをしていると、向かい側にまだ小学生に満たないくらいの男児2人と、その父親と思しき男性が手を繋ぎ、仲睦まじく待っている姿が。その姿に、かつてまだ、ヒーローを夢見ていた頃の自分と弟、そして父親を自然と重ねていた。

 

「光希……」

 

あの頃は、まだヒーローに憧れるだけだった。テレビの奥に映る、弱い人々を守る、そんな英雄になりたい。それが智のヒーロー像だった。だが哀しいかな、現実はそれらを覆していく。

そしてそれは、いつしか智のヒーロー像を歪める結果となり、弟を手にかけてしまった。もう、目の前にいる親子のような時間は、戻ってこない。

だが、それでも良いと思っていた。ヒーローは常に孤高の存在でなければならない。そこには弟やパートナーの関係は存在しない。英雄は、1人だけで十分だ。そしてその英雄とは……。

信号が後になり、父親は2人の子供を抱き抱え、横断歩道を渡る。智も歩き出し、中間地点に差し掛かった、その時。

前方に見えた、信号無視しているトラックが急に左に曲がった。進行ルート上に、前から歩いてくる親子が。いち早くそれに気づいた智。遅れて迫り来るトラックに気づいて、驚きのあまり動けない父親。

危ない。

そう叫んだその時、智は無我夢中だった。反射的に親子を突き飛ばし、振り返った時には、一瞬だけトラックの姿が映り、後は視界が歪んで頭が揺らされる感覚と共に、目の前に青空が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え」

「? どうした」

「声が……。誰かの声が……」

 

大量のシアゴーストを退け、一旦ミラーワールドを出て変身を解いた大地と小雪。元いた場所からは少し離れており、仲間と連絡を取ろうとした矢先、小雪が微かではあるが、心の声と思しきものを聞き取った。周りには2人以外誰もいないので、あり得るとすれば、小雪の持つ魔法によって感知されたと推測される。変身前でこんな事は初めてだった。サバイブの力に目覚めた事が関係しているのだろうか。

ともかく、声の正体をより深めるために、今一度2人は変身。スノーホワイトはそのまま魔法を行使し、九尾はパートナーカードを引き抜く。

 

『MIND VENT』

 

すると、九尾の耳にも確かに声が聞こえてきた。それもかなり弱々しい。

 

『どうすれば……、僕は……』

 

何を困っているのかは、現時点では分からない。声は段々と小さくなっていくのを感じた2人は、声のする方を目指して、なるべく人目につかないように電柱を駆け上がり、電線の上から地上を見下ろす。N川から少し離れた街中に、明らかに不自然な人集りが見えた。その中心には、1人の男性が倒れている。声の発信源はあそこか。

2人は路地裏に降りて変身を解いてから、人集りの方へ向かった。すぐ近くにトラックが停められており、次第にまた野次馬が集まってくる。

どうにかして人集りを掻き分けて、倒れている男性の姿を確認できた。腕からは血が出て、明らかに意識が朦朧としている。倒れている男性に向かって、父親と思しき男性が必死に声をかけており、その息子達であろう兄弟が、何が起こったのか分かっていない表情で、倒れている男性を見つめている。

 

「大丈夫ですか⁉︎ しっかりしてください!」

「いや、触らない方が良い!」

「おい、救急車はまだかよ!」

「どうしよう……!」

 

周囲の人々が騒ぐ中、小雪の耳には、倒れている男性の声しか聞こえない。小さく、弱々しく、今にも消えそうで、なのにはっきりと聞こえてきた。誰に対する投げかけなのかも分からない、困ったような声が。

 

『なろうとした、瞬間に、失格……。……じゃあ、僕は、どうやって……。英雄、に、なるの、かな……。次は、誰を……。……ねぇ、誰か……、答、え……て……』

 

そこで、声が出て途絶えた。ハッとなって顔に注目すると、目が閉じられている。

その一方で、大地は倒れている男性のポケットからはみ出ている、ケースのようなものを凝視していた。青色と、金色の装飾が施されたケース。自分が所持しているものと同系統のアイテム。

2人は察した。英雄を目指していた、仮面ライダー『だった』1人が、今、ここにいる。

小雪は知らぬ間に拳を握っていた。大地は無表情のまま、男性を見つめていた。やがて遠くからサイレンが聞こえてきて、2人はその場を離れた。

 

「だいちゃん。あの人……」

「……」

 

大地は答えない。ただ、前だけを見つめている。少し歩いた所で、振り返る。人集りで姿は見えないが、先ほどの光景から察するに、親子を助けようとした結果、迎える事となった、自称『英雄』の結末があれなのだろう。

 

 

〜バカなやつ〜

 

 

英雄になろうとも思わない少年の皮肉な呟きは、冬風によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

新聞の中に、小さくではあるが『親子を救った英雄』として、『東野 智』の名が記載されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その11≫

 

【タイガ(東野 智) 、死亡】

 

【残り、魔法少女10名、仮面ライダー9名、計19名】

 

 

 




……というわけで、久々となる脱落者の発表。タイガの結末は割と原作通りにしました。個人的に気に入ってるので。

ライダーの中では唯一、願いを叶えて死んだわけですから、佐野君とかと比べれば、ずっと幸せだったと思いますよ。私はそう思います。

そして次回、遂にリュウガが……⁉︎

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