魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回は、あの北岡先生の名言が登場しますよ!



107.英雄になる為の条件

 

『英雄』

 

才智や武勇が優れ、普通の人には出来ない事を成し遂げる者を指す言葉。

東野 智がそれを調べて知ったのは、小学生の頃。その頃は弟の光希と共にテレビの前で特撮に登場するヒーローに、釘付けになっていた。毎度の如く怪人に勝利して、皆から褒め称えられるその姿に、いつしか智は憧れを抱いていた。物静かな性格が災いしてか、家族以外の誰からも見向きされていなかった智は、英雄になる事で注目を浴びようとしていた。

しかし、いざ英雄になろうと思うと考えるも、これといった才能もなければ、誇れる事もない。どうすれば振り返ってもらえるのか。そんな疑問ばかりが頭をよぎった。その間にも周りはどんどん変化していき、気がつけば弟の光希に急き立てられる形で実家を出て、2人暮らしが始まり、気がつけば光希に誘われて『仮面ライダー育成計画』に手を出していた。

 

「僕も、こんな風になれたら、英雄に近づけるかもしれないのにな……」

 

自らカスタマイズした、アバター姿の仮面ライダー『タイガ』を操作しながら、そう呟く智は、いつしか、タイガの姿を英雄と重ねて、自分も同じ姿になれる事を夢見ていた。

そして、突如としてその理想はある意味で現実のものとなった。シローが彼を本物の仮面ライダーに仕立て上げたのだ。同じ時に光希も仮面ライダー『インペラー』となり、兄弟揃って異能の力を手にしたのだ。

改めて装甲に覆われた自分の姿を確認しながら、智は仮面の下で不敵な笑みを浮かべた。この力があれば、他の者が出来ない事だってやれるようになる。英雄になる事だって、夢じゃない。だが、これだけではまだ足りない。同じ力を手にしているのは、光希もそうだし、N市には他にも仮面ライダーや魔法少女がいる。彼らとは違う形で、真の『英雄』になりたい。

そう考えていた智は不意に、今まで観てきた特撮のヒーローの事を思い出す。全てとはいかないが、ほとんどのヒーローは何らかの形で大切な人の屍を超えて、戦いに挑んでいる。なら、自分にとって大切な人が犠牲になれば、英雄により近づけるのではないだろうか。その時から、智は真の意味で英雄になる道を突き進む決意をした。

そして、彼は今なお夢見ている。自ら編み出した、真の英雄になった自分が、誰かに必要とされる日を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ! ダァッ!」

「ぐっ……!」

 

ミラーワールドの一角で、デストクローによる猛追が激しさを増し、ギガアーマーが吹き飛ばされる。ゾルダとマジカロイド44は後退しつつもマグナバイザーを打ち続け、反撃の機会を伺う。

が、突然2人の懐にあったマジカルフォンから警告音が鳴り響いた。ミラーワールドでの活動時間に限界がきたようだ。

 

「! 時間か……!」

 

タイガと交戦する前まで大量のシアゴーストと戦っていたので、かなり時間を消費していたようだ。返り討ちにする事は叶わないと判断したゾルダは、タイガに向かって話しかけた。

 

「なぁ、お前さ。そんなに英雄になりたいんなら、絶対に英雄になれない条件が一つだけあるんだけど、教えてやろうか?」

「へぇ、そんなのあるんだ」

 

英雄になれない条件。主に『英雄』という言葉に反応したタイガは、デストクローを下ろして聞く耳を立てる。

ようやく話し合える状況になった所で、ゾルダは冷ややかにこう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄ってのはさ。英雄になろうとした瞬間に、失格なのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……⁉︎」

 

一瞬にして、タイガの頭の中で何かが冷め始める。英雄は、なろうとした瞬間に失格……? それなら、英雄を目指してきた自分の行動は……。

 

「要するにさ。お前、いきなりアウトってわけ」

「さすがデスね先生。ま、所詮英雄なんてもんになった所で金にならない商売デスし。というわけで、お引き取りくだサイな」

 

そう言って、2人はマグナバイザーから火を吹かせ、タイガは咄嗟にデストクローを盾代わりにして柱に隠れた。ひとまずそこでやり過ごし、反撃に打って出ようとした所で、辺りが静かになった事に気づくタイガ。ハッとなって柱から出てみると、既に2人の姿はない。タイガが隠れた隙にミラーワールドから脱出したようだ。

 

『お前、いきなりアウトってわけ』

 

先程のゾルダの一言が、タイガの全身にこびりつく。

 

「ウガァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

自分でも抑えきれない程に自暴自棄になったタイガは、デストクローを振り回して八つ当たりを始める。英雄を否定するゾルダとマジカロイドの顔が頭をよぎり、タイガのイライラは最高潮に達したと言っても過言ではない。

ひとしきり暴れた所で、フェンスにもたれたタイガはズルズルと腰を下ろして座り込む。そして、異様な程に腹の底から笑い声をあげる。

 

「そんなにみんなして、英雄である僕を否定するのか……! ……あぁ、光希や美奈ちゃん、優奈ちゃんを倒せば、8人の枠に残れば十分だと思ってたけど、もうどうでもいいや。……全員この手で倒せば、英雄になれるんだ。見せてやるよ。真の英雄に相応しいのは、この僕だって事をねぇ! クファッハッハッハッァハッハッハッァハッハッハ!」

 

乾いた笑い声だけが、ミラーワールドに響き渡る。

そして。タイガは、生き残っている仮面ライダー及び魔法少女を殲滅すべく、狂気に満ちた笑みを浮かべながら、作戦を練り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいこれ! みんなで食べてくれよ!」

「オッ、サンキュー! 気が効くじゃねぇか。丁度健康診断で食事制限されててな。これなら問題ないだろうよ。にしても正史。お前も随分と大したやつを選んだもんだな」

「あ、アハハ……」

 

翌日。OREジャーナルに正史を含めたいつもの面々に加え、つばめの姿があった。差し入れを持ってきており、大久保は正史の頭をわしゃわしゃかき回していた。正史も照れており、それを見ていた島田が嫉妬のオーラを前面に押し出している。令子もその視線に気づき、少しばかり居心地の悪さを感じている。

 

「けどまぁ、ここまで家庭的なやつも、ウチにはいないわけだしな。なぁつばめ。子供が産まれてから、もしその気があれば、OREジャーナルに入って仕事でもしてみねぇか? 勿論、育児休暇も手配するし、なんならうちの会社で子供の面倒も見てやるからさ」

「へぇ〜。考えとくよ!」

「良いんですか編集長?」

「正直人手不足ってのもあんだけどな。令子も忙しくなったら、正史だけじゃ頼りないしな」

「ちょ! 俺だってやる時はやりますって!」

「……私が除け者扱いされてる」

 

島田が部屋の片隅で蹲っている事に、一同は気づいていないフリをしている。

真面目な話、つばめもパートナーが勤めている職場の雰囲気は悪くないと思っており、条件が整えば入社しても良いかもな、と内心決めている。

と、その時。正史とつばめの持つマジカルフォンから着信音が鳴り響いた。マジカルフォンから鳴る音は、仮面ライダーか魔法少女にしか聞こえないので、周りの面々からしてみれば、突然ポケットを手探りし始めた2人の様子に訝しんでいる。

 

「? どうしたお前ら?」

「あ、すいません編集長、ちょっと出ます!」

「あ、オレも!」

 

2人は部屋を出て、誰もいないのを確認してからマジカルフォンを開いた。メールが届いており、差出人はタイガだった。

珍しい相手からのメールに顔を合わせる2人だが、文面を読んで、その表情は険しくなった。

 

『今日の18:00に、東区の4丁目にあるN川の下流付近に来て。そろそろこの戦いを終わらせよう タイガ』

 

「これって、まさか……!」

 

正史が息を呑んでいたその時、今度は電話をかけてくる者が。『仮面ライダーナイト』と表記されており、仲間からの連絡だと分かってホッとした正史はすぐに応答した。

 

「もしもし、蓮二?」

『メールの方は見たか?』

「……あぁ。さっき、側にいるつばめと一緒に確認した」

『タイガのやつが、戦いを仕掛けてきた。何様のつもりか知らないが、呼び出しと見て間違いないな。恐らく全員にこのメールが行き渡ってるはずだ。そうなれば、多分浅倉辺りも来るだろうな』

 

自然と、マジカルフォンを握る手を強くする正史。血の気が多い面々が生き残っている以上、戦いは避けられない。だが、極力同胞との戦いは避けたい正史は、どうするべきか悩んでいた。が、それを見透かしているのか、蓮二がこう言い放つ。

 

『お前の事だ。ライダーや魔法少女同士の戦いに介入するか迷ってるんだろ? 迷っているなら足手まといだ。俺と華乃はもう決めている。手塚は知らないが、大地もあの様子だと、来る可能性が高い。やつの呼び出しに応じるかはお前やつばめ次第だが、戦いの邪魔だけはするなよ』

「……」

『小雪にもそう伝えておけ』

 

それだけ告げると、向こうは電話を切った。しばらく呆然とする正史に、つばめが声をかけた。

 

「なぁ、どうすんだ? あいつらなら間違いなく向かうぜ。姐さんも浅倉も、それにスイムスイムも来てもおかしくない。正史は……」

「……いや、行くよ。行って、タイガを止める」

「正史……」

「あいつが何を目的に戦いを仕掛けようとしてるのか分からないなら、あいつから直接聞き出してやる。その上で、絶対に止めさせる。……どの道戦いは避けられないだろうけど、何もしないでジッとしてるわけにもいかないんだ!」

「……だと思ったぜ。オレも、お前についてく。お前1人だと何しでかすか分かんないし」

「大丈夫かよ? 強制参加ってわけでもなさそうだし……」

「今何もしなかったら、それこそ昇一の時みたいに、手遅れになるかもしれねぇ。もう、それだけは嫌なんだ……」

 

俯きながらそう語るつばめを見て、正史は自然と彼女の肩を抱きしめた。

 

「大丈夫。俺は絶対に死なない。もう、つばめを1人になんかさせない」

「正史……。ありがとよ」

 

その一言で気が楽になったのだろう。つばめに笑みが戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も暮れ、人通りの少ない河川敷。そこはまさに、これから先起こる戦場の舞台に相応しいだろう。

一番乗りは、王蛇&カラミティ・メアリペアだった。待ち時間の間、メアリは軽く銃火器の手入れをしており、王蛇はイライラを発散する為に、近くのコンクリートの壁を蹴っている。

しばらくして、2人のいる地点に続々と人影が姿を見せる。最初にゾルダ&マジカロイド44ペア。次に水辺から姿を見せたのはアビス&スイムスイムペア。すぐ後に、リュウガ&ハードゴア・アリスペア。遅れて、ナイト&リップルペア。その後ろをついて来る形で九尾&スノーホワイトペア、龍騎&トップスピードペア、ライア&ラ・ピュセルペア。総勢16名が集結し、中宿での激戦以来の大所帯と化した。が、それで全てではなかった。

 

「……クラムベリーとオーディンがいない」

「たまとは、連絡が取れてない。多分来ない」

 

ラ・ピュセルが周りを見渡しながら、スイムスイムは淡々とした口調でそう呟く。何より気になるのは……。

 

「……タイガの姿がないな」

 

九尾がそう呟いたように、肝心の呼び出し主が、一向に姿を現さないのである。これだけ大胆な呼び出しをしておいて、主催者が尻尾を巻いて逃げ出すほどチキンな男だったのか、と拍子抜けする一同。それを良いことに、龍騎は皆に呼びかけた。

 

「な、なぁ。タイガがいないんじゃ、そもそも戦う必要なんてないんじゃないのか? それよりもさ。タイガがいないならこの際、みんなで考えようぜ! あいつの事だから、このまま放っておくわけにもいかないし、協力してあいつを……」

 

龍騎が皆を説得し、タイガへの対策を考案しようとしたが、不意にスノーホワイトが、

 

「! 危ない!」

 

と叫んで龍騎を突き飛ばすと同時に、彼の足元に銃弾が埋め込まれた。みれば、カラミティ・メアリが握る銃の口から煙が上がっている。スノーホワイトの魔法が、メアリの思考を先読みした事で間一髪、銃弾の餌食になるのを避けられたようだ。

 

「ちょ、何すんだよ!」

「勝手に仕切らせやしないよ。主催者がいないからどうしたって話だ。これだけ集まる機会もそうないだろうしね。まとめてぶっ潰すのもアリだろ? そう思わないかい王蛇?」

「フン。まぁこれだけいれば十分楽しめるぜ、俺は……!」

「ま、ある意味でこれがベストメンバーって所か」

「なら、やりマスか?」

 

マジカロイドが皆に問いかけ、ナイトとリップルはすっかりその気になったようだ。リュウガとアリスも表情には出さないが、少なくとも戦いに否定的とは見えない。こうなるとスノーホワイトらの動向が気になる所だが……。

 

「……だいちゃん」

「俺は戦う。俺はもう、迷わないと決めてるから。守りたいものがあるから」

「……そうだね。私も、覚悟を決めたんだから……!」

「やはりこうなったか。運命は中々変え難いな」

「それでも、やるしかないんだ。運命を変えるには、僕達が頑張らなきゃいけないんだ」

「あぁ。行こう、ラ・ピュセル」

 

心配無用と言わんばかりに、それまで非好戦的だった面々は戦闘モードに突入した。

一同、やる気を露わにしつつ、近くに点在していた鏡の破片を使って、ミラーワールドに突入した。

 

「結局こうなるのかよ……! でも、これ以上放っておくわけにもいかないし……!」

「龍騎、行こうぜ! オレ達も!」

「あ、あぁ! 絶対止めてやるからな! ッシャア!」

 

1番最後にミラーワールドへ突入した龍騎とトップスピードが現実世界からいなくなった事で、辺りは川の流れる音だけとなった。

が、しばらくして龍騎達がいた地点に、一台の乗用車が滑り込むように止められた。そこから出てきたのは、呼び出し主である東野 智。

車から降りた彼の手に握られていたのは、液体が詰まっているポリタンク。車のキーを刺したままの状態で、彼は躊躇なく自家用車に向かってポリタンクから大量の灯油を注ぎ始めた。灯油特有の匂いが智の鼻を刺激するが、その時には既に智は興奮状態に近かった。

 

「ライダーなんて……! 魔法少女なんて、最低な奴ばっかりだよ……! あんな奴らに、何言われたって、気にする必要、なかったかもね……! そうだよ、英雄に相応しい僕が、全部正しいに、決まってるんだ……! 僕に逆らう奴は、みんな、消しちゃえばいいんだ……!」

 

一心不乱に灯油をぶちまける智。やがてポリタンクの中身を空にした智は、それを放り捨てて、懐から取り出したカードデッキを、フロントガラスにかざして、腰にVバックルを出現させる。

 

「変身!」

 

独特のポーズを決めてVバックルにカードデッキを差し込むと、鏡像が重なって智は仮面ライダー『タイガ』に変身。車からではなく、川からミラーワールドに突入した。

 

「……どうしよう。私も、止めなきゃ、いけないのかな……? でも、どうやったら……?」

 

その一部始終も遠くから目撃していたたまは、オロオロする他なかった。

 

 

 




次回は、久々の大乱闘となります。

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