魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
いよいよ『結城友奈は勇者である』の2期が始まり、それに合わせて新作も投稿しましたので、よろしければそちらもお読みいただき、感想等をくださると嬉しい限りです。
「へぇ、じゃあ明日の試合には出れるんだな!」
「あぁ。医者からの許可はもらったからね」
榊原家でのお泊まり会から2日後、一仕事終えて休憩していたラ・ピュセルの口から語られたのは、しばらく休業していたサッカーの試合への出場が出来そう、という吉報だった。
リハビリの経過も順調に進んでおり、まだフラつく時こそあれど、自分の足で立って歩けるようになった事で、顧問の先生から、間も無く行われる他校との練習試合に出てみないか、という誘いを受けて、颯太の復帰戦が決まった。
「多少ブランクはあるけど、みんなの足を引っ張らない程度には、頑張ってみるよ」
ラ・ピュセルは己の足をさすりながらそう答える。スノーホワイトはさも嬉しそうに、笑みを浮かべて口を開いた。
「頑張ってねそうちゃん! 私も応援しに行くから! だいちゃんも行くでしょ?」
「あぁ。その日は特に予定は入れてないし、行けるぜ」
「アハハ。それじゃああまり恥ずかしいプレーは見せられないな」
ラ・ピュセルが苦笑する中、他の面々はというと……。
「そっかぁ。俺も応援に行きたいけど、編集長から仕事を入れられちゃってるしなぁ〜」
「俺も、エコー検査……だっけ? 時期も近いからって、向こうから口酸っぱく言われてるから、そっちにいかなきゃならねぇし……。お互い健康だし、面倒なだけだと思うんだよな」
「……妊婦としてその発言はどうなの」
定期的な妊婦健診を受けているトップスピードのぼやきに、リップルは的確なツッコミを入れる。
リップルとナイトもバイトの都合で応援には向かえそうになく、ライアもまた、用事があって来れないそうだ。よって颯太が出場する試合の応援には、大地と小雪が出向く事になる……と思われていたのだが。
「(あ、そうだ。亜子ちゃんも誘ってみようかな。そうちゃんのサッカーを頑張ってる姿を見た事ないみたいだし)」
スノーホワイトは、現在この場にいない魔法少女の事を思い出し、解散後、早速連絡を入れた。
翌々日、快晴となったこの日。市内最大級の広さを誇る『N川公園』の一角にある広場に、普段は見慣れない数の人達が集まってきていた。そこで行われる、サッカーの練習試合を一目観ようとやって来た面々である。練習試合と呼ばれるだけあり、さすがに周囲を埋め尽くすほどではないが、自分達の中学校の選手の活躍を観ようと、親や学友がコートを覆うように座って応援の準備を進めていた。
キックオフの時間が刻一刻と迫り、両チームの先発メンバーが定位置に着く中、颯太は控えのベンチで他のチームメイトと並んで腰掛けていた。さすがにフル出場する事は叶わず、担当医との相談で、後半から出場する事になっていたので、前半は応援に徹している。
主審の笛が鳴り響き、相手校が軽くボールを小突いた所で、周囲の興奮は一気に高まった。ベンチ内とはいえ、久々の感覚だ。颯太はゴクリと息を呑む。
港での一戦でクラムベリーとオーディンに打ちのめされ、足に怪我を負わされて以来、サッカーはおろか、日常生活でも足を地面につけて歩く事さえ叶わなかった。医者からは、選手生命も危ぶまれる事も覚悟しておいた方がいい、とさえ言われた。その一件を機に起きた、魔法少女や仮面ライダー同士による殺し合い。足を負傷してすぐに、恩師や親しかった者達を亡くし、絶望と失意に暮れていた。生きる事さえ、諦めかけた。
そんな彼を救ってくれたのが他でもない、親友の大地だった。彼もまた、恩師を失った悲しみをバネにし(実際には復讐の為に)、颯太を支えてくれた。その甲斐あって、パートナーであるライアの運命を変える事が出来た。こんなボロボロになった自分でも、やれる事があるのだと気づかせてくれた。魔法少女として、皆を守ると改めて誓った。そのきっかけを作ってくれたのは、同じ魔法少女愛好家として語り合えた、幼馴染みの小雪だ。颯太にとって、この2人はなくてはならない存在になっていた。
そしてようやく、この晴れ舞台に戻ってくる事が出来た。緊張はしていた。数週間とはいえ、足を動かす事から遠ざかっていた自分に最後まで試合についていけるか。そこに一抹の不安を覚える颯太。足に触れていた手が、汗で濡れてきた。
試合の流れはほぼ五分。敵味方問わず、様々な応援が飛び交う中、颯太は試合から目線を外して周囲に目を向けた。不意に見えてきたのは、コートを挟んだ奥に、私服姿でも一目で分かる人影だった。見間違えるはずもなく、大地と小雪が隣り合って試合に注目する事なく会話していた。颯太が前半の試合に出ない事は周知していた為、適当に時間を潰しているようだ。それでも、応援に駆けつけてくれているのは事実なので、颯太は心の中でお礼を言った。
すると、そんな2人に駆け寄ってくる者がいた。小雪よりやや小柄な少女だ。颯太は目を見開いた。
「(ど、どうして亜子まで来るんだよ⁉︎)」
颯太の目に飛び込んできたのは、息を切らしながら大地と小雪に向かって必死にペコペコと頭を下げる、ハードゴア・アリスの変身者である亜子の姿だった。さすがに亜子まで応援に来るとは予想だにしなかった為、別の意味で緊張感が身体中を駆け巡る颯太。先日のお泊まり会で、亜子の本音を知り、夜が明けるまで背中に張り付く形でベッドに並んで横になっていた事もあり、あっという間に眠気が吹き飛んだ記憶がある。異性からあそこまで積極的にされた事を思い返すと、どうしても顔を赤らめてしまう。隣のチームメイトも、どうかしたのかと声をかけてきたが、すぐに平気を装って誤魔化した。
「(うぅっ、まさか亜子まで来るなんて……。ますます緊張してきた……!)」
あの一件以来、颯太は亜子を意識する度に、どうしても心臓がバクバクする感覚に見舞われる。魔法少女の時と同様に、常に威厳を保った騎士でいなければ。そう思った颯太は大きく息を吐いて、グラグラに陥りかけている精神を立て直す。
「……本当に、すみませんでした。この辺りは、ちょっと不慣れといいますか」
「気にしてないよ。そうちゃんの出番はまだだから。集合時間が早かったのもあるし、こっちこそゴメンね。急に誘っちゃって」
「い、いえ。私の方こそごめんなさい……。でも、誘ってくれたのは、嬉しいです。颯太さんの活躍、見たかったから」
途中から合流した亜子が、2人と会話していた。
「でも大丈夫かな? そうちゃん久しぶりだから、凄く不安そうに見えるよ」
「何てったって、あいつ自身の夢に一歩近づく為の試合だからな。緊張はしてるだろうけど、あいつなら大丈夫だ。ああいう状況下で結果を残してきたのが、颯太だからな」
「夢……ですか。颯太さんの夢って確か……」
「あぁ。プロのサッカー選手になって海外で活躍するのが、あいつの目標でもある。俺も小雪も、それを応援してるんだ」
大地の話を聞いて、亜子は感銘を受けた。
「凄い、です。私なんか、そんな余裕はありませんでした……。どうやって死のうか、とかどうすればお二人の役に立てるのか、ぐらいしか、あの頃は考えてこなかったから……」
亜子は羨ましげに、試合の風景を見つめていた。夢が見つかっていない事に劣等感を覚えているようだ。そんな彼女の肩に優しく触れたのは、彼女の憧れでもある小雪だった。
「今すぐに決めなくたって、大丈夫だよ亜子ちゃん。焦らずゆっくり。それで良いんだよ。焦って叶えようとする夢ほど、小さいものはないから。……まぁ、これ全部香川先生から教えてもらった事なんだけどね」
「焦らず……。ありがとう、ございます」
亜子がお礼を言って再び試合に注目しようとしたその時、ホイッスルが鳴り響いた。敵チームの打ったシュートが、颯太のチームのゴールへと吸い込まれるように入ったようだ。
前半戦は、0-1と1点リードされる形で終わり、ハーフタイムの時間を告げるホイッスルが鳴り響く。後半からは、いよいよ颯太が動き出す。事前のウォーミングアップも調子が良く、足にもさほど負担はかかっていないように感じられる。颯太は最後に水分を含もうとして、荷物置き場にある自身のカバンに手をかける。
と、その時。カバンの中から耳鳴りのような音が聞こえてきた。それを聞いて手を止める颯太。
「これは……!」
間違いなくマジカルフォンから発せられる、モンスターの出現を知らせる警報だった。音の大きさからして、それほど離れていない場所に出現したようだ。試合を観に来た観客達を狙っているのか。
よりによってこんな時に、と歯を噛み締める颯太。ハーフタイムの時間もそう長くはない。かといってこのまま放っておいては、観客達が危機に晒される。少し悩んだ末、颯太は近くにいたチームメイトに声をかける。
「ゴメン! ちょっとトイレに行ってくるから、監督にそう伝えといて!」
「お、おう。すぐ戻ってこいよ」
「あぁ!」
颯太は誰かに見られないように素早くマジカルフォンを抜き取り、駆け足でその場を後にする。近くの建物の裏手に入り込み、周りに誰もいない事を確認した颯太は、窓ガラスの前でマジカルフォンを構えた。
「変身!」
マジカルフォンをタップして光に包まれた颯太は、ラ・ピュセルへと変身し、窓ガラスを通じてミラーワールドに突入した。
反応をたどって駆けつけた先には、公園に設置されている噴水のそばにイノシシ型のモンスター『シールドボーダー』が水面を凝視している光景があった。水面には、敵チームのサポーターと思しき少女の姿が。彼女を捕食しようと、シールドボーダーが動き出そうとするが、ラ・ピュセルがいち早くその胴体に飛び蹴りを入れた。
「僕が相手だ!」
ラ・ピュセルは鞘から剣を引き抜き、魔法を行使して肥大化させて、起き上がろうとするシールドボーダーに向けた。シールドボーダーは激怒したかのように咆哮を上げ、その図体に似合わないスピードでラ・ピュセルに飛びかかった。両手の鋭い爪に当たらないように大剣で押さえつけながら、隙を見て蹴りを入れるが、元から防御力の高いシールドボーダーにはさほど有効ではない。距離を置いて、大剣をぶつけてみるも、前面にある盾が邪魔をして、シールドボーダーにダメージが通らない。
「だったら挟み込んで……! エビルダイバー!」
ラ・ピュセルはパートナーの契約モンスターの名を呼び、シールドボーダーの後方から襲わせた。シールドボーダーがエビルダイバーに気を取られている間に、ラ・ピュセルは一気に詰め寄って、大剣を突き出した。シールドボーダーの盾から火花が散り、僅かに亀裂が入る。だがそこまでだった。数メートルほど吹き飛ばされたシールドボーダーは起きあがり、体を震わせると、再び突進を繰り出してきた。かなり厄介な攻撃パターンに、ラ・ピュセルは次第に焦りを覚える。
「(こうしている間にも、時間だけが過ぎていく……! 早く戻らないと、仲間に迷惑がかかるだけ……! でもこいつをここで仕留めないと、誰も守れない……!)」
魔法少女としての活動に専念するか、自分の夢の一端に専念するか。ラ・ピュセルの中で迷いが生じ、隙が出来てしまった事で、シールドボーダーの突進攻撃が命中し、ラ・ピュセルは地面を転がった。
「! しまった! 余計な事を考えてたばかりに……!」
起き上がろうとするラ・ピュセルに向かって、シールドボーダーが近寄ってその大きな足で踏みつけようとする。ラ・ピュセルが身構えたその時、横手からシールドボーダーを突き飛ばす影があった。両目の下に隈が出来ているドレス姿の少女が、そこにいた。
「間に合い、ましたか」
「アリス!」
しゃがみこんでラ・ピュセルの無事を確認してきたのは、ハードゴア・アリスだった。突然の妨害に憤るシールドボーダーだったが、
「「ハァァァァァァァ!」」
シールドボーダーの前に2人が現れ、回し蹴りを浴びせられ、巨体は地面に倒れこんだ。
「九尾! それにスノーホワイトも!」
「大丈夫だった⁉︎」
「悪いな。飲み物買いに行ってて気づくのに遅れた。ま、遅れた分はきっちりやるさ」
「助かった! よし、ここからはみんなで……」
ラ・ピュセルが起き上がって体勢を整えていると、九尾が左手を突き出して待ったをかけた。
「ラ・ピュセル。お前は戻って試合に出ろ。ここは俺達が引き受ける」
「で、でも」
「お前には、お前のやるべき事があるはずだ。叶えたいものがあるんなら、こんなところで立ち止まるな! 先へ進め!」
「そうだよラ・ピュセル! 私達が、応援してるから! 私はいつもそうちゃんに守られてた! だから今度は、私がそうちゃんの夢を守る!」
「みんな……! 恩にきる! (自分が今やるべき事、それは……!)」
ラ・ピュセルは剣を鞘に収めると、九尾に向かって拳を突き出し、互いに拳を軽くぶつけた。
「後は任せたよ、九尾」
「やれるだけやってこい、ラ・ピュセル」
誓い合った後、ラ・ピュセルは素早くミラーワールドを後にする。それを見届けた3人が、シールドボーダーと交戦を始める。
アリスはマジカルフォンをタップして黒いドラグセイバーを召喚。すぐさまシールドボーダーに斬りかかる。
『SWORD VENT』
九尾はフォクセイバーを両手に持つと、アリスに続いて突撃する。2人を抑え込もうとするシールドボーダーだが、それよりも早く後ろから回り込んだスノーホワイトが、シールドボーダーを羽交い締めして身動きを封じた。2人の斬撃がシールドボーダーの胴体に命中したのを確認して、スノーホワイトも飛び上がって一旦距離を置いた。シールドボーダーは依然として気力が残っているらしく、身体から盾を外して手に持ち、そのまま突進してきた。
『TRICK VENT』
九尾は新たなカードをベントインし、分身を出現させ、シールドボーダーを撹乱させた。分身を含めた九尾がシールドボーダーを相手にしている隙に、スノーホワイトがアリスに近寄ってこう告げた。
「アリス、そうちゃんの応援に行ってあげて! 私と九尾がなんとかするから!」
「えっ……? ですが、お二人は……」
「そうちゃんにとって、アリスの……亜子ちゃんの応援は必要だと思うから。だから行って! 行ってそうちゃんの頑張る姿を、しっかりと見てきて!」
「スノー、ホワイト……」
「心配すんな! 俺達だって、やればできる! ここは俺達を信じて、向こうの様子を見に行ってやれ!」
「九尾……」
九尾にもそう言われ、悩む素振りを見せるアリス。
ラ・ピュセルの事を、颯太の事をもっとよく知りたい。あの日、殺されかけた自分を、危険を顧みず助けてくれた少年が、夢へ執着する姿を見てみたい。その欲が勝ったのか、アリスは意を決して呟く。
「……分かり、ました。でも、無理だけは、しないで、ください」
「大丈夫!」
「そっちは任せたからな」
「はい。それでは……」
アリスはペコリと頭を下げて、先ほどラ・ピュセルが出た窓ガラスへ向かって駆け出した。シールドボーダーがそれに気づいて追いかけようとするも、九尾の分身体が行く手を遮る。
ミラーワールドを出て現実世界に戻ったアリスは、誰もいないのを確認してから変身を解き、試合会場へと駆け出した。息を切らせながらようやくたどり着くと、既に試合は始まっており、前半を遥かに上回る激しさが、サッカーコートという名の戦場で繰り広げられている。その中で、颯太が歯を食いしばりながら、ボールに喰らいついている。どうやら試合開始までには間に合ったようだ。その事を確認してホッと安堵してから、試合を観る事に集中する。
接戦の末、遂に主導権を握ったのは颯太のチーム。仲間からパスを受け取った颯太は、足の故障を感じさせないほどに、素早い動きで相手の猛攻をかわしていく。頭の中には、目の前に見えるゴールへの執着心しかないように感じられる。
これが、夢を目指す者が見せる、底力なのか。亜子は自然と颯太の動きに合わせて目を動かしていた。
「……頑張って」
その小さな呟きは、周りの歓声に掻き消されて、とても周囲に聞こえるものでもなかったが、亜子は両手を胸の前に組んで、ただひたすらと、彼の戦いの応援に徹した。
一方、トリックベントの効力も切れ、一体だけとなった九尾、そしてスノーホワイト。シールドボーダーとの一戦に決着をつけるべく、2人同時に飛び上がって間合いを取ってから、九尾は1枚のカードを、スノーホワイトはマジカルフォンを取り出してタップした。九尾は左腕を突き出すと、その手に片刃型の召喚機『フォクスバイザーツバイ』を握り、周囲に光をもたらした。隣にいるスノーホワイトも胸の中心にホルダーが現れた。
[挿入歌:Revolution]
『『SURVIVE』』
九尾はサバイブのカードを狐の顔の形をした柄に装填し、その姿を九尾サバイブに。スノーホワイトはマジカルフォンをホルダーにはめ込んで、スノーホワイトサバイブに、それぞれが進化した。
シールドボーダーは一瞬気圧されるが、そのまま突進してきた。
『SPIN VENT』
九尾サバイブがカードをベントインし、その右手に持ったのは、インペラーが所有していたガゼルスタッブ。突撃してくるシールドボーダーめがけて突き出すと、シールドボーダーは返り討ちにあい、いとも簡単に吹き飛ばされた。ガゼルスタッブを放り捨て、右手に持ち替えたフォクスバイザーツバイでシールドボーダーに斬りかかった。スノーホワイトサバイブもそれに続いて、パンチやキックをシールドボーダーに浴びせる。強化された2人から同時に仕掛けられては、シールドボーダーでも対処が間に合っていないようだ。
分が悪いと判断したのか、離脱しようとして後ろを振り向き駆け出すシールドボーダーだったが、それを逃すはずもなく、九尾サバイブは次の一手を打つ。
『TRANS VENT』
取り出したカードは先日脱落した、ミナエルの魔法を宿すカード。それをベントインし、スノーホワイトサバイブに声をかける。
「スノーホワイト!」
「!」
九尾サバイブはスノーホワイトサバイブに向かってジャンプすると、その姿を生き物以外の物体、つまり長い鞭に変えて、スノーホワイトサバイブに握らせる。その意図を理解したスノーホワイトサバイブは思いっきり鞭を振るって、シールドボーダーに絡みつくように拘束した。
「ヤァッ!」
身動きが取れなくなったシールドボーダーに、スノーホワイトサバイブの飛び蹴りが命中。シールドボーダーは地面を転がり、手に持っていた盾に、大きなヒビが入った。ラ・ピュセル、ハードゴア・アリス、そして九尾の攻撃を何発も受けていた影響で、耐久値は低くなっているようだ。好機は、今だ。
「これで、決める!」
スノーホワイトサバイブはマジカルフォンをタップして、全身に気合いを込める。その間に元の姿に戻った九尾サバイブは、カードデッキから取り出したカードをベントインする。
『FINAL VENT』
直後、九尾サバイブの後方からフォクスロードが進化した、フォクスローダーが雄々しい勇姿で登場し、跳ねて飛び上がると、九尾サバイブもそれに続いて飛び上がり、背中に乗った。すると、フォクスローダーの前足と後ろ足で2対ずつくっつき、車輪が出現し、バイクモードへと変化した。
「ハァァァァァァァ……!」
スノーホワイトサバイブは飛び上がり、右足を突き出すと、その右足が炎に包まれて、威力を増した『ブレイズキック』が、盾を突き出して突進してきたシールドボーダーと激突した。それにより盾は完全に大破し、シールドボーダーは吹き飛ばされた。
そこへフォクスローダー・バイクモードに乗った九尾サバイブが接近。前方につけられたフォクスローダーの目から閃光が放たれて、シールドボーダーの視界を遮った。混乱したシールドボーダーめがけて、そのまま車体を勢いよくぶつけた。九尾サバイブの必殺技『ブレイズシャイニング』が炸裂し、シールドボーダーは吹き飛ばされた先にある噴水に体を沈めて、そのまま水飛沫をあげて爆散した。
無事に勝利を収めた2人は、マジカルフォンからキャンディーを獲得した知らせを受けて、息を整えてから、ミラーワールドを後にした。
2人が駆けつけると、亜子がジッと試合を見つめている後ろ姿が見え、その両隣に2人が立った。
「! 小雪さん、大地さん……! 勝てたん、ですね」
「あぁ」
「試合は、どうなってるの?」
「……まだ、負けてます。でも、颯太さんは、頑張ってます」
「だろうな。あいつは好きなものなら、最後までしがみついてでも諦めようとしない。サッカーもそうだし、きっと魔法少女の事もそうだったんだろうな。そういう所には、頑固になる。それがあいつの良い所だと思うな、俺は」
「私も……。そうちゃんが魔法少女の事で私と語り合う時に、本気で好きなんだってアピールしてくる姿が、輝いて見えるんだ。だから、夢見てるんだよ。サッカーも魔法少女も、自分の好きな事なら何でも一生懸命に頑張って、人の役に立とうとする。そうちゃんは本当に凄いんだよ」
「……何となく、先ほどまでの颯太さんを見て、分かる気がします」
亜子の目には、いつしかボールを奪い返そうとする颯太の必死な姿だけしか映らなくなっていた。
「あぁ〜あ。結局負けちゃったか……。ゴメンな亜子。勝ちたかったけど、やっぱりそう現実は上手くいかないよね」
「そんな事、ありませんよ。颯太さん、とても頑張ってました。お二人も、そう言ってました」
夕日が見え始めた頃、カバンを手に提げている颯太と亜子は川沿いの道を並んで歩いていた。結果的に試合は後半に入ってから拮抗が続き、どちらも無得点のまま、前半にリードしていた相手校の勝利という形で勝負はついた。颯太は後半フル出場し、ギブアップする事なく最後まで粘り続け、そして戦い抜いた。それだけでも、リハビリの成果が出たと言っても過言ではない。
その後、大地と小雪は用事があるからといってさっさと会場を後にし、残された颯太と亜子が、気まずいながらも歩いて帰宅していた。
「また、練習を積み重ねれば、きっと、大丈夫です。私も、出来る限り、手伝います」
「……あぁ、うん。そうだね。ありがとう」
「? どうかされましたか?」
「いや、うん……」
何故か上の空だった颯太が気になり、亜子が声をかける。颯太は立ち止まって、川の水に映る自分自身を見つめた。
「サッカーも大事だけど、魔法少女として戦う事も大事だなって思ったんだ」
「それは、どういう……」
「今日の事、もし僕が見て見ぬ振りをしていたら、確実に被害が出ていた。モンスターの脅威は、いつどこにでも潜んでいるって考えると、そっちも疎かに出来ないなって思ってね。……魔法少女として、僕も精進していかないと、って考えてたんだ。大地や小雪がそうしているように、僕自身も、強くなりたい。それに、もう直ぐ脱落者が発表される。それよりも早く、脱落者が出てもおかしくない。一瞬でも気を抜けない局面に立たされているんだ、僕達は。だから、絶対に負けたくない」
その決意は、鉄のような硬さを感じさせた。そんな彼の姿を見て、亜子は肩を寄せてこう呟く。
「……私も、強くなりたいです。まだ私では、皆さんの隣にいられるほどの強さは、ありません。だから、お互いに、頑張っていきましょう」
「そうだね。1人で出来なくても、誰かと一緒なら」
「はい。きっと、何とかなる。そんな気がします」
2人は頷きあい、再び歩き出す。しばらくして、颯太の口が開いた。
「亜子、今日は、応援に来てくれてありがとう。おかげで、色々と支えになったよ」
「……お役に立てて、嬉しいです。あの……、颯太、さん」
「んっ?」
不意に亜子は、颯太の手を優しく握った。その行為に戸惑っていると、亜子は顔を紅くして、こう呟く。
「私、まだ具体的に、こうなりたいっていう夢は、ありません。……でも」
「でも?」
「夢を、守る。それは、今の私にも、出来る事だと思います。……だから、私に、颯太さんの夢を、応援させて、もらえますか?」
「あ、亜子……」
最初は戸惑う颯太だったが、自然と表情は柔らかくなり、軽く頷く。そして2人は、羞恥心が捨てきれないのか、手を握りつつも互いにぎこちない歩き方をしたまま、夕日に照らされながらゆっくりと前進した。
今宵もまた、魔法少女及び仮面ライダーとしての活動の時間が、始まりを告げようとしていた。
夢を目指し、戦い続けるラ・ピュセルこと岸辺 颯太。そして夢を持たないが、支える為に奮闘しようとするハードゴア・アリスこと鳩田 亜子。2人の今後に乞うご期待。