魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
今回は九尾サバイブの性能が明らかになりますが、初めに行っておきます。……そこそこのチート級です。
『ウォォォォォォォォォォォォォォ!』
『ハァァァァァァァァァァァァァァァ!』
男女2人の咆哮が、ガラス窓の方から聞こえてくるのを聞き取れているのは、その声の主と同じ力を持つ者だけ。とある遊園地の片隅にある、普段人が滅多に通らない箇所にて、正史ら7人が、ガラス窓の方を向いたまま、息を呑んでいた。
ガラス窓の向こうにある世界、ミラーワールドで戦っていた九尾とスノーホワイトの姿は、強化形態『SURVIVE』によって変化した。どちらも気迫がこれまで以上に溢れている。
そんな彼らだったが、再び拳や刃を交えた時には、さすがの颯太やつばめ、亜子も困惑した表情でガラス窓に目をやった。
「そんな……! まだ戦う気なのか⁉︎」
「もう十分だろ⁉︎ サバイブにもなれたんだし、あいつらなりに答えは出たんだし……!」
「小雪さん、大地さん……! もう、やめて……!」
亜子は悲痛な面持ちで、腕を震わせている。
ミラーワールドの方では、新たに手に入れた、刀型の召喚機『フォクスバイザーツバイ』を惜しみなく振るってきた九尾サバイブに対し、スノーホワイトサバイブは前転して回避した後、起き上がりながらマジカルフォンを手にし、タップしてから同じく武器としてカードの装填口のないバージョンのフォクスバイザーツバイを握り、斬りかかってくる九尾サバイブを迎え撃った。
しかし、如何に戦闘に特化したスノーホワイトサバイブといえど、経験の場数は九尾サバイブの方が圧倒的に上。九尾サバイブの容赦ない猛攻による斬撃が、スノーホワイトサバイブに襲いかかる。勢いに押されて、手すりに背中をぶつけられても、九尾サバイブはひと吠えして、再び接近する。
回避する対応力が次第に良くなりつつも、九尾サバイブは手を緩めない。フォクスバイザーツバイの斬りだけでなく、蹴りも入れてくる為、スノーホワイトサバイブへのダメージは蓄積されていく。崖のある所まで追いやられて、スノーホワイトサバイブのピンチが伺えた時には、颯太は耐え切れずにマジカルフォンを手にして変身しようとする。
が、その肩を掴んで止めようとする者がいた。驚く颯太の目線の先には正史が。
「ま、正史さん! 何してるんですか! 早く止めないと……!」
だが当の本人は首を横に振るばかり。
「あの2人は、もう止まらない。止められないと思う。こうして見てて、そう分かった」
「! そんな……!」
「大地君も小雪ちゃんも、きっと、最後の瞬間まで、戦いを止めない。後ろばかりを振り返らずに、前へ進んでいく。例えそれが無駄な行為だったとしても、自分の命が尽きるまで、自分の為に、戦う。そう決めたんだよ。俺達みたいに」
「自分の、為に……」
「だろうな。俺も、俺の為に戦うと決めている。華乃もそうだろ?」
「……あぁ」
「華乃……。そっか。お前も、そう決めたんだな」
蓮二、華乃、つばめの会話を耳にしながら、颯太は目線を落として、マジカルフォンに目を向ける。颯太自身、そこまで考えた事はなかった。否、それは亜子も然り。彼らは自然と、大地や小雪に出会えた事に感謝して、彼らの為に戦うと決心して、ここまで戦ってきた。冷静に考えてみれば、他人の為に奮起していた事でもある。もちろん他人の為に頑張れる事は素晴らしい。だが、いつしか彼らは大事な事を忘れていたのではないだろうか。
それは、自分自身の身を優先する事。本当の意味で守るべき存在。
「(他人を愛するには、先ず自分を愛する事……)」
香川から教えられた言葉を思い出して、パートナーである手塚にも顔を向ける。彼は言った。運命は、自分の手で変えるもの、と。誰かに支えてもらう事もそうだが、自分の力で答えにたどり着く事が、本当の意味での強さを得られる。
「(大地も小雪も、今、それに気づいて……)」
そこまで行き着いた時、颯太はマジカルフォンを持った腕を下ろした。
「今の俺達に出来るのは、彼らの運命を見届ける事だ。この運命は、俺にも見抜けないだろうからな」
手塚はそれだけ言うと、ジッとガラス窓の奥で交戦している2人を見つめた。
「ふっ! ハァッ!」
「うっ……!」
フォクスバイザーツバイ同士での打ち合いが続き、次第に互いの体力は消耗しつつある。このままでは埒が明かないと思ったのか、九尾サバイブは、フォクスバイザーツバイを左手に持ち替えて、カードデッキからカードを引き抜き、鍔にあるトリガーを引いて、開いた装填口にカードを入れて押し込み、ベントインした。
『BLAZE VENT』
「ハァァァァァァァ……! ハァッ!」
右手に従来のブレイズボンバーよりも大きな火球が形成され、それを振り払うように投げつけると、火球が分裂して、スノーホワイトサバイブの周囲を抉った。サバイブによって強化された『ブレイズ・ウィルオ・ザ・ウィスプ』の爆風は凄まじく、スノーホワイトサバイブは軽い火傷を負った。
だが、ここで手を緩めてはいけない。そう直感したスノーホワイトサバイブは、フォクスバイザーツバイを強く握り、黒煙の中を突っ切って九尾サバイブに斬りかかった。
「!」
不意の攻撃に動揺する九尾サバイブ。スノーホワイトサバイブも、軽くステップを踏みながら、確かに九尾サバイブを追い詰めてきている。
「(この短時間で、ここまで来たか。それだけ、あいつも覚悟を決めて……。なら、こっちも真打ちをくれてやる! これが、俺の想いが創り上げたものだ!)」
九尾サバイブは距離を取ってから、新たなカードをベントインした。スノーホワイトサバイブの魔法で聞いていた、九尾サバイブの心の声の真意や、何をベントインしたのかは定かではないが、スノーホワイトサバイブはそのまま斬りかかる。
『WALL VENT』
すると、九尾サバイブとスノーホワイトサバイブの間に現れたものが、スノーホワイトサバイブの攻撃への盾となった。それは『壁』だった。
「⁉︎」
九尾サバイブがやってのけたのは、壁を形成する事だった。だが、九尾サバイブにこのような能力は付与されていない。いや寧ろ、その壁を形成出来る者はスノーホワイトサバイブの記憶の中で1人しかいない。
「ヴェス・ウィンタープリズンの、魔法を……⁉︎」
見間違いでなければ、その壁は、今は亡き魔法少女、ウィンタープリズンが得意とした、『何もない所に壁を作り出せるよ』という魔法によるものだ。仮面ライダーである九尾が使えるはずもない。
『BUBBLE VENT』
と、今度は九尾サバイブの手元に2つの銃口がついた、『バブルショット』が現れて、壁ごとスノーホワイトサバイブめがけて『バブルシュート』を放った。壁は難なく破壊され、壁の欠片がスノーホワイトサバイブに向かって降り注ぐ。スノーホワイトサバイブは素早く後退しながら、フォクスバイザーツバイでなぎ払っていった。九尾サバイブの手にあるのは、4番目に脱落した仮面ライダーシザースが使用していた武器である事を、スノーホワイトサバイブは記憶している。ウィンタープリズンといい、シザースといい、何れも今はこの世にいない者達だ。
もう疑う余地はなかった。今現在、九尾サバイブが使っているのは、これまでに脱落していった魔法少女や仮面ライダーが使っていた能力だ。
「……それが、九尾の新しい、力……!」
スノーホワイトサバイブは思い返した。彼が手にしたサバイブの名は『魂魄』。魂魄とは、死者の魂や人の霊魂を意味する。思えば彼は、『これまでに散っていった命を無駄にせず生きていく』と言っていた。
つまり彼は『死者が紡いだ想いを受け継ぐ』事で、『これまでに死んでいった魔法少女や仮面ライダーの能力の一部を使用できる』事が可能となったのだ。現時点で12人程が脱落している事を考えると、その一人ひとりの能力が使える事が伺える。
「……そうだ。これが、俺が手にした答えだ」
〜君がどんな決断を下そうとも、私達は君の事を見守り続ける〜
ねむりんが見せてくれた夢の中で、雫に言われた言葉を思い返す九尾サバイブ。腰に巻かれているベルトからも、ハッキリと伝わってきている。生きる理由を抱えていた、12人の魔法少女やライダーの魂が。これから先、また多くの魂をこのカードデッキに刻む事になるだろう。だがその度に、彼は心身共に強くなる。そう予感させるように、九尾サバイブの全身に力が漲ってきた。
スノーホワイトサバイブも、もうその事に臆する必要はない。みんなを幸せにする魔法少女になる。その為には、障害となる敵は倒していく。それが自分だけのエゴだったとしても、もう迷わない。内に秘めた大切なものを守る為なら、愛する者を守る為なら、もう刃を手に取る事を躊躇わない。
それを伝える為に、彼らは戦う。戦って、その想いを伝える。
「ウォォォォォォ!」
「ヤァァァァァァァ!」
再びフォクスバイザーツバイ同士が火花を散らす。九尾サバイブの器用な身のこなしは相変わらず圧巻されるが、スノーホワイトサバイブも必死にくいついてきている。護られるだけだった面影は、もうそこにはない。傷がつけられても、もう引き下がらない。
『TRICK VENT』
「! なら、こっちも……!」
九尾サバイブがシャドーイリュージョンで8体に分裂するのを見て、スノーホワイトサバイブも同様にマジカルフォンをタップして、同数のスノーホワイトサバイブを召喚させた。コンクリートの橋の上で四方八方に散らばり、激しさを増す戦闘。段々と分身が消滅し、気がつけば、オリジナル同士の戦いだけが残っていた。
『ACCEL VENT』
次に九尾サバイブが仕掛けたのは、自身も得意としていて且つ恩師であるオルタナティブも得意としていた高速移動。九尾サバイブは死角になる場所に移動して、後方から一気に攻めこもうと、考えていた。
が、瞬時に九尾サバイブはあるミスに気づいた。スノーホワイトの魔法は、心の声を聴くもの。となれば、今の九尾サバイブよ考えなど、全て見通されているのではないか、と。気づいた時にはもう遅く、最初から魔法を行使して、次の攻撃を読んでいたスノーホワイトサバイブが、フォクスバイザーツバイで受け止めてから、右足を振り上げて、九尾サバイブを蹴り飛ばした。
「ヤァァァァァァァ!」
スノーホワイトサバイブは反撃とばかりにマジカルフォンをタップして、右手に火球を形成した。ブレイズ・ウィルオ・ザ・ウィスプを放つつもりらしい。
「……!」
『CONFINE VENT』
この一撃を回避する為、咄嗟にガイの使っていたカードをベントインして、火球を打ち消した。だが、スノーホワイトサバイブとてその事は予測済み。フォクスバイザーツバイを持ち直して、九尾サバイブに斬りかかった。剣先が僅かに触れて血が流れるが、九尾サバイブは気にせず次のカードをベントインする。
『TRANS VENT』
九尾サバイブは、ユナエルのアバター姿が描かれたカードをベントインし、生き物であるキリンに変異した。その脚力でスノーホワイトサバイブを踏みつけようとするが、ギリギリの所で回避し、スノーホワイトサバイブはフォクスバイザーツバイでその前足に切り傷を入れ込んだ。キリンは後ずさり、九尾サバイブの姿に戻った。フォクスバイザーツバイは手前に落ちて、左腕からは僅かに血が出ていた。が、一方で切り傷を入れる前に、キリンが前足を振り上げた衝撃波で、スノーホワイトサバイブが握っていたフォクスバイザーツバイも手元から離れてしまった。
どちらも武器を手放している。そう理解した2人は足に力を入れて、駆け出した。武器を手に取ったのはほぼ同時。振り下ろしたのもほぼ同時。勝負は再び拮抗と化す。
「ハァッ! ヤッ! オォォォ!」」
「ダァッ! フッ! ッラァッ!」
静かなミラーワールドの中に、金属がぶつかり合う音が響き渡り、その戦闘の激しさを伺わせた。
「ハァァァァァァァ!」
「ウォォォォォォ!」
スノーホワイトサバイブがバランスを崩してよろめいた所に、九尾サバイブがフォクスバイザーツバイを突き出す。対するスノーホワイトサバイブも体を捻らせて、フォクスバイザーツバイを横に振るう。
その刃が届きかけたその時、互いのマジカルフォンから音が鳴り響いた。
「「!」」
刃は、僅か数ミリの所で停止した。
マジカルフォンから鳴ったのは、ミラーワールドでの活動時間に限界がきたという警告だった。
「(……さすがに時間をかけすぎたか。まぁ、これで、良かったのかも、な)」
乱れた呼吸を落ち着かせようと、2人はフォクスバイザーツバイを下ろし、息を整える。すると、気が緩んだのか、スノーホワイトのサバイブ状態が解けて、前のめりに倒れこむ。ハッとなって九尾サバイブは彼女を抱き寄せた。
「き、九尾……」
「引き分け、だな」
そう呟くと、九尾もサバイブ状態が解けた。スノーホワイトは息を荒げながら、コクリと頷く。九尾は黙って彼女を自分の体と密着させた。少しでも、彼女を安心させる為である。それから周りに目をやり、窓ガラスからこちらを覗いている颯太達に目をやって、スノーホワイトに呼びかけた。
「そろそろ出ないとな。歩けるか? 俺が支えてやるから」
「……うん」
スノーホワイトは九尾に支えられながら、2人で並んでミラーワールドを後にした。静けさが、再び戻ってきた。
ミラーワールドを出て、現実世界に戻って来るのと同時に変身が解けて、大地と、彼に支えられている小雪の姿が露わとなった。
「大地君、小雪ちゃん!」
「大地、小雪!」
「大丈夫かお前ら⁉︎」
一同は、つばめはお腹に気をつけながら、2人の元へ駆け寄った。2人の頬や腕には、目立つほどではないが、切り傷がいくつも付いている。2人はそのまま横に寝転がるように倒れこんだ。
「大地、小雪! 無茶しやがって……!」
「そう言うなよ……。俺だって、ここまで激しくなるなんて思ってなかったし」
「うん、そうだね……」
本気で心配していた様子が伺える颯太や亜子を見て、当の本人達は苦笑気味に答える。それから、お互いに向き合って口を開いた。
「言葉に出来なくても、戦ってると、何となくお前の気持ちが伝わってきたよ。覚悟も、本当になくやりたい事も」
「私も、だいちゃんに後を押してもらって、やっと分かれたよ。私がこれから魔法少女として何をするべきなのか。逃げてばかりじゃダメなんだって。どんな事があっても立ち向かう事が大切なんだって」
だからね。
小雪は大地の手に優しく触れた。
「だいちゃんと出会えて、本当に、良かったと思ってる」
「……あぁ。俺も、優しい小雪に出会えて、良かったって思ってる」
「俺達の事も忘れないでよ?」
振り向くと、正史達が笑みを浮かべながら2人のそばに寄っていた。
「俺達も、2人と出会えて良かったって思ってるさ。だからさ。これからもお互い助け合って、生きていこうよ。きっといい事あるからさ!」
「だな!」
「……はい!」
「あぁ、その信念さえあれば、運命はきっと変えられる。そう思わないか?」
「……フン」
「……まぁ」
手塚の問いに、蓮二と華乃は相変わらずの反応だった。その様子に、一同は何となく生きた心地を得た。
それから大地と小雪は起き上がり、9人でこれからどうするかを考えていた時、小雪がこう言った。
「あの……。だいちゃんにお願いが、あるっていうか……」
「?」
「あ、あのね。さっきのゲームセンターに戻りたいんだけど」
「あぁ。それが?」
「そ、その……。あの時見てた、キーホルダー。私、欲しいな、って思っちゃって……。その……。一緒に、ついていって、くれないかなぁ、って思って……」
小雪は顔を紅くして、恥ずかしそうに頼み込んだ。
「別にいいけど、何で俺?」
「そ、その……。だいちゃんが隣にいると、なんか、安心するみたいで、そんなに緊張しなくても、いいみたいだから……。で、でも無理に付き合ってもらわなくても、いいけどね」
「……分かった。一緒にやるか」
「本当⁉︎」
「怪我させたお詫びっつうか、まぁ、パートナーの頼み事だしな。断るわけにもいかないだろ」
フッと笑みを浮かべる大地を見て、小雪も自然と笑みがこぼれた。久々に2人揃っての笑顔が見れた。颯太は率直な感想を心の中で述べた。
ゲームセンターへ戻った一同は、小雪のリクエストでクレーンゲームコーナーへ。2人は先ほどまでとは打って変わって、仲睦まじく動き回りながら、小雪が求めている魔法少女のキーホルダーの場所までのルートを確認していた。正史達が見守る中、クレーンは下された。一段と気合いが入っているお陰か、1発で引っ掛ける事に成功。
その際、偶然隣に置かれていた色違いのキーホルダーも同時に引っ掛かり、結果的に2つのキーホルダーが小雪の手元に渡った。そこで小雪は、求めていたキーホルダーを自分のものにして、もう一つのキーホルダーを大地にプレゼントした。魔法少女モノにはあまり疎い大地だったが、素直に受け取る事にした。
一同が遊園地を後にする頃には、夕日が西の空に煌々と輝いていた。
海岸沿いの道路を、バス停のある所まで歩く9つの影。笑いながらお喋りして歩く者や、黙って夕日で輝く海を見ている者、手をつないで歩く者。それらの色はバラバラでも、心は一つ。
運命のいたずらなのか、命をかけた戦いに身を委ねる事となった一同だが、ハプニングを挟んだものの、彼らの表情には、前を向いて、明日を生き抜くという自信に、眩しいほどに満ち溢れていた。
……ねっ? 九尾サバイブってチートクラスでしたでしょ? 無論、今後も物語が進むにつれて能力も増えますから、お楽しみに。
少し駆け足になりましたが、サバイブは出尽くしましたので、後々設定集を投稿しておきます。ちなみに、最後の方のシーンは、『結城友奈は勇者である』のED『Aurora days』の情景を意識してます。トップスピードの中の人繋がりなので、興味のある方は視聴してみてはいかがでしょうか?
また、来週はインターンシップの都合で投稿は出来ませんのでご了承ください。その次の週はお盆休みとなりますが、投稿できるかは未定です。設定集も載せたいし、実はこれが主なんですが、
『そろそろ新作も投稿してみたいなぁ』
という衝動に駆られておりまして……。まだ設定を作ってる途中なのでどうなるかは分かりませんが、決まり次第、この作品のあとがきで報告したいと思います。