魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

おかげさまで、何と100話目を迎える事が出来ました! これも皆様からの温かい応援があっての事です。これからもよろしくお願いいたします!

そして遂に、名挿入歌と共にあの2人が……! 挿入歌もそうですが、その前に流れるBGM(神崎 士郎)もまた良いですよね。


100.叫べこの決意 九尾vsスノーホワイト

時は、小雪がまだ小学生だった頃までに遡る。

 

『小雪は、このままで大丈夫なんでしょうか』

 

家庭訪問の最中、小雪のクラスの担任を受け持っていた香川に対して、小雪の両親が口にした言葉は、小雪に対する不安視だった。

 

『育ての親がこんな事を言うのは良くないとは思うんですが、あの子は、小雪は、心が弱すぎます。高学年になって、そろそろ大人の世界の事も知る年頃になるという段階で、先ほど先生が仰ってたように他人の喧嘩を目撃するだけで泣いてしまう。人との言い争いを好まない。何れ社会に出れば、自分とはそりが合わない人との付き合いも必要になってきたり、時には衝突しあったりする時もあります。……このままだと、小雪は手も足も出せずに、社会に取り残されるかもしれないんです。私も妻も、それが心配で……』

 

小雪の両親は、今現在自室にこもっている娘の今後に不安を抱いているようだ。その悩みをこうして担任にぶつけてみた、という事なのだろう。

これに対し、香川は笑みを浮かべながら、小雪をこう評価する。

 

『あの子は、弱くなんかありません。優しすぎるんですよ』

 

だが小雪の両親もすぐには納得がいかなかった。大人の世界では、『優しい』事も『弱い』事も、一緒の目で見られる。弱者と見られても何ら不思議ではない。彼らはそう語った。香川はさらにこう論じた。

 

『でしたら、優しすぎれば良いじゃないですか』

『優しすぎる……ですか?』

『彼女の優しさは、彼女だけの、唯一無二の武器なのですよ』

『武器……』

『今はまだ小さい欠片です。弱く見られても仕方ありません。臆病、と捉える人もいるでしょう。ですが、いずれ彼女の優しさは、大きなものとなるでしょう。その優しさを、やがて社会が必要とする時が来る。私はそう思ってます』

 

ただし、とここで香川は言葉を区切って、こんな事を語り始める。

 

『それには、優しさに匹敵する強さが、厳しさが必要になります。他者の痛みを知り、感じ、引き受け、あるいは拒絶して、柔らかく包み込む。そんな優しさです。彼女には、その資質があります』

 

確信めいた表情で語る香川を見て、小雪の両親は心の中のモヤモヤが消えかかっている事に気づく。

 

『これから彼女は、いろんな事を経験していくでしょう。世の中は辛い事、苦しい事が多いと思われますが、その度に彼女は強くなり、優しくなるはずです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香川は天才的な学者ではあるが、決して未来を予知できるわけではない。にもかかわらず、それから数年も経たないうちに、香川の予言通り、小雪は過酷な環境に身を置く事となった。優しさだけを振りまいてきた彼女にとって、ライダーと魔法少女同士が、命を懸けて戦う現状は、見るに耐えがたいものがあるのだ。

そして今、彼女の明暗を分けるかもしれない事態が起ころうとしていた。

 

「俺と、戦え。小雪」

 

カードデッキを見せながら、小雪にそう語るのは、小雪のパートナーに選ばれた大地。

他の面々も、大地のとった行動に驚きを隠せず、正史や亜子、颯太は大地に詰め寄った。

 

「だ、大地君⁉︎ 本気、なのか……!」

「大地さんと、小雪さんが……」

「どうして……! どうして小雪と戦う必要があるんだよ! そんな理由なんて……!」

「お前に聞いてない。俺は今、小雪に問いかけてる」

 

大地は颯太を見向きもせず、ジッと戦うべき相手を睨んでいる。

 

「俺は本気だ。本気で、お前を倒しに行く。パートナーだからとか、仲間だからとか、そんなこじつけはいらない。俺は俺の為に戦う。そして見つける。俺の、俺だけの戦う理由を」

 

そう言って大地は、遊園地の奥にある通路に向かって歩き出し、皆も自然と足を運んだ。

人気のない通路はガラス貼りとなっており、大地は迷う事なくガラスに向かってカードデッキをかざす。Vバックルが腰に取り付けられ、右腕を後ろに曲げてから叫ぶ。

 

「変身!」

 

Vバックルにカードデッキを差し込み、鏡像が重なって仮面ライダー『九尾』に変身した大地は、一度小雪に目をやり、首をガラスに向けて振ると、ミラーワールドへ突入した。先に行って待ってる、と言わんばかりに。

 

「小雪……」

「どうすんだよ……」

 

颯太とつばめが不安そうな顔をしている。小雪自身も、不安げな表情を浮かべている。小雪は一旦、そばで黙って見ている蓮二と華乃に目を向けた。蓮二は無反応だったが、華乃は軽く頷いた。

小雪はガラスに目をやり、「変身」と小さく呟いてから、マジカルフォンをタップしてスノーホワイトに変身。後を追うようにミラーワールドへ入り込んだ。残された一同は、ガラス窓の前に立ち、ミラーワールドの様子を外から見守る事にした。

 

「小雪さん……。大丈夫でしょうか。大地さんは、強いです。私には、小雪さんが勝てるイメージが、どうしても……」

「優しすぎる……か」

 

亜子の呟きに、手塚はボソリと小雪に対する印象を口にする。次に口を開いたのは、蓮二だった。

 

「あいつの優しさは分かっている。だが、今は大地と戦って倒しに行く事が、優しさに繋がるはずだ」

「あぁ。『優しさ』を『強さ』に変えるのは、今しかないと思う」

 

華乃も蓮二と似たような言葉を口にする。

手塚は不意にポケットからマッチを取り出して、火をつけて炎をジッと見つめた。しかし、火が消えてからの彼の表情は、困惑を表していた。

 

「……見えない」

「えっ?」

「見えないんだ。この戦いの行く末が。ここまでボンヤリしている未来は、初めてだ……」

 

それはつまり、この戦いがどうなるかを全く予想できない、という事になる。一同は2人が戦う舞台を見つける為に場所を転々とした。彼らに出来る事はただ一つ。2人の戦いの結末を見届ける。ただそれだけに絞られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賑やかだった遊園地の園内とは裏腹に、音一つ聞こえてこないミラーワールド。文字が反転している世界の中で、九尾はスノーホワイトの到着を待った。仮面の下にある目つきは鋭い。少ししてから、ようやく目に見える距離の所に、スノーホワイトがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

舞台は、遊園地からほんの少し離れた陸橋。そこで2人は対峙した。魔法少女と仮面ライダーの、それも運命共同体とも言える、パートナー同士の戦いが、始まろうとしている。

九尾は左腕についたフォクスバイザーの口を開き、カードデッキから取り出したカードを口に入れて閉じた。

 

『SWORD VENT』

 

上空から2刀のフォクセイバーが地面に突き刺さり、九尾はそのうちの1本を引き抜いたかと思うと、スノーホワイトに向かって投げ渡した。互いにフォクセイバーを1本ずつ手に持って、勝負を挑もうというのだろう。

が、近くに落ちたフォクセイバーを、スノーホワイトはすぐには手に取らなかった。実を言うと、スノーホワイトの中で九尾のしようとしている事は、単なる演出ではないかと、心の片隅で思う所があった。自分を奮い立たせる為に、戦わせるように仕向けているだけで、本心で殺しにかかるとは思えない。そう思っていた。

 

「……ラァッ!」

 

瞬時にもう1本のフォクセイバーを引き抜き、スノーホワイトに向かって持ち前の素早さで、スノーホワイトに振り下ろしてくるまでは。すんでのところでスノーホワイトはフォクセイバーを手に持って、九尾のフォクセイバーにぶつけた。軌道はズレて、スノーホワイトの肩を掠め取り、血が流れ出た。スノーホワイトがとっさにフォクセイバーで防御していなければ、体を斜めに斬り裂かれていたはずだ。

 

「言っただろ。俺は本気だって。気を抜いてたら、死ぬぞ」

「……⁉︎」

 

手加減なしの攻撃に、スノーホワイトは自然と気を引き締める。向こうは最初から殺す気で来ている。本心では殺しに来ないと思っていた自分が甘かった。

 

「ハァッ!」

 

続けざまに九尾の猛攻がスノーホワイトに迫り来る。スノーホワイトはただ、フォクセイバーを盾代わりに、受け止め続けた。完全に防戦一方である。

 

「だいちゃん……。本気、なんだね……!」

「あぁ。俺はお前を倒す。迷ってウダウダするくらいなら、自分に正直になってやる!」

「……私には、無理だよ。九尾みたいに強くもないし、今だって、こうやって受け止めるぐらいしか出来ない。私には、九尾みたいに誰かと戦うなんて、傷つけ合うだけの戦いなんて、耐えられない……!」

「……そうやって、自分を弱いと決めつけて、また逃げ出すのか!」

「⁉︎」

 

九尾の怒号にビクッとなったスノーホワイトに向かって、九尾は容赦なくフォクセイバーを振り回す。切り傷が、至る箇所について、スノーホワイトは悲鳴と共に後ずさる。

 

「いい加減目を覚ませよ! お前も俺も、もうすぐ守られる側から、守る側になる! いつまでもガキのままじゃいられない! 大人になるって事は、自分の強さも弱さも全部知って、それを武器にする事だ! お前が誰よりも優しいのは、この数ヶ月でよく分かった! けどな! お前は優しさを履き違えてる! だからお前は、何も成長出来ていないんだ!」

 

さらなる猛追が、スノーホワイトを襲う。肌だけでなく、口の中にも血が溜まっているのが分かる。

 

「死にたくないんだろ! 生き残りたいんだろ! だったら、そうする為に自分で何が足りないのか気づけ! 俺もこの戦いで、何が足りなかったのかを見つける! だから……!」

 

フォクセイバーがスノーホワイトの太ももを掠め取る。激痛を伴い、膝から崩れ落ちるスノーホワイトに対し、九尾は叫ぶ。

 

「お前の本当の強さ、俺に見せてみろ!」

 

九尾のスノーホワイトに接近し、持ち手の部分でスノーホワイトの胸に打ち付けて、仰向けに倒させた。スノーホワイトの口から、血が滴り落ちたが、九尾は手を休めない。

九尾は勢いよくフォクセイバーを振り下ろす。スノーホワイトは腕に力を込めると、自身が持っていたフォクセイバーで攻撃を受け止めた。押しきろうと、腕により力を込める九尾。スノーホワイトは苦悶の表情を浮かべながらも、

 

「……っ、アァァァァァァ!」

 

がむしゃらに足をバタつかせ、九尾のみぞおちに命中した事で、九尾は初めて後ずさった。九尾が左腕でみぞおち部分を抑えている間に、スノーホワイトは立ち上がって息を整えた。

沈黙が辺りを支配する中、スノーホワイトは考え事をしていた。

 

「(死にたくない……みんなで生き残りたい……。確かにあの時、私はそう言った……)」

 

もちろんそれは今でも嘘ではない。だが、今の自分にはその両方も叶えられる力はない。

強くなりたい。スノーホワイトとて、その気持ちはあった。だが、いくら人助けしても、本当の強さというものには出くわさなかった。分からなかった。分からないが、こうして戦う事で、その強さを見つける事が出来るのだろうか?

 

「……ウゥ、ヤァァァァァァァァァァァ!」

 

スノーホワイトは大声と共に駆け出し、九尾にぶつかっていく。九尾はフォクセイバーで軽く受け流し、横に振るおうとするが、スノーホワイトも絡め取るようにフォクセイバーを振るい、思いっきり横に薙ぎはらった。両者のフォクセイバーが手元から離れて、橋の下に落ちた。

 

「! ウォォォォォォ!」

 

九尾が次に打って出た行動は、拳による戦闘だった。

 

「フンッ! ハァッ!」

「……っ⁉︎」

 

剣術でさえまともに出来ていなかった少女が、拳による殴り合いに対応できるはずもなく、スノーホワイトの全身に、打撃による痛みが駆け巡ってくる。息をするのも苦しかった。

加えて隙あらば、蹴りも入れてくる為、スノーホワイトの四方八方から、九尾の猛打撃が飛んできている。

 

「ハァァァァァァァ!」

「ゥアッ⁉︎」

 

スノーホワイトの頬に、右ストレートが決まり、意識が飛びかけてよろめいているところに、九尾が下からすくい上げるようにアッパーを決めて、スノーホワイトを後方に吹き飛ばした。スノーホワイトは悲鳴と共に、橋の欄干に背中から打ち付けられて、横に倒れこんだ。両手を地面につけて起き上がろうとするスノーホワイトのこめかみからは、血が滴り落ちている。

そこへ足音を響かせながら、九尾は歩み寄ってくる。その全身から発せられる覇気は、戦っているスノーホワイトにしか分からない、凄まじいものだった。

 

「……戦え」

 

ただ一言、そう呟きながらゆっくりとスノーホワイトに近づく九尾。スノーホワイトの息は荒い。

 

「戦え……!」

 

よく見れば、九尾の全身も震えていた。やはりパートナーと戦う事に、心の片隅で躊躇いが起きているのかもしれない。だが、もう後にはひけなかった。

 

「(九尾も、苦しんでる……。私と、同じなんだ。自分に何が必要なのかを、見つけようとしてる……)」

 

スノーホワイトは、僅かに残った意識の中でこれまでの自分を振り返った。

 

「(私は、あの時観てたアニメに出てくる魔法少女みたいに、世の為人の為に、魔法を使える魔法少女に、憧れていた……。それが難しいって分かった時は、胸が、張り裂けそうだった……! 否定された事が、とても悔しかった……!)」

 

その時、スノーホワイトの目線の先に、コンクリートの地面の隙間に咲いていた、一輪の小さな花が見えた。寂しそうにポツンと咲いている、名前もパッとは思い出せないような、誰にも振り向いてもらえなさそうな、小さな花が、確かにそこに咲いている。

誰の助けもなく、自分の力で花を咲かせたのだろう。

 

「(……でも、私は)」

 

その花を見ていると、ある時の記憶が蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスの皆が校内の花壇に植えた花に、水をやる係になっていた小雪は、他に係に選ばれたクラスメイトがサボる中、ただ1人、毎日空いた時間があれば、1日に何度でも水やりをする習慣が身についていた。晴れの日も雨の日も、ただ1人で水やりを勤しんでいた。

やがて芽が生え、茎がすくすくと伸び始め、蕾が見え始めた頃。相変わらず小雪は1人で、大量の水を花に提供していた。笑みを浮かべながら水をかけていると、担任の香川が様子を伺いに、花壇に訪れた。水やりをしている小雪に気づいた香川は、彼女の隣に立った。

 

『最近はいつもここにいるみたいですけど、水を撒いているようですね』

『うん! だって毎日お水をあげないと、枯れちゃうから。もうすぐお花も咲くし、もし枯れちゃったら、みんな悲しむでしょ? 私もそんなの嫌だから、お花さんには、いっつも元気でいてほしいの!』

 

花という生命を大切にする、小雪らしい優しさだった。

 

『良い心構えだと、私も思いますよ。……ただ』

『?』

『あまり優しすぎるのも、このお花達にはよろしくないかもしれませんよ』

『えぇ? だって水をあげなかったら、お花さん、死んじゃうんだよ!』

 

担任から自分の考えを否定された事で、小雪が涙目になった。それに対し、香川は微笑みながら目線を合わせるように中腰になって、花壇に植えられている面々に顔を向けた。

 

『小雪君はとても優しい。それは人として、とても大切な事です。でも、この花達は、ずっとあなたの力を借りて生きていかなくてはならないでしょうか? 自分の力で咲かせる事に、花が生きる意味があると、私は思いますよ』

『自分の、力……?』

『えぇ。例え水がなくても、自らの生命力で、枯れる事なく立ち上がれる。自分の意志でね。この花達もそれに気づいた時は、きっと、立派で綺麗な姿になれますよ』

 

そう言って香川は小雪の頭を撫でる。深い意味は分からなかったが、小雪は香川の言葉を信じて、水やりの回数を減らす事にした。

その年、立派で綺麗な花を咲かせた花壇は、小雪のクラスのものだったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦えぇ!」

「! 私は……!」

 

九尾の、力のこもった拳が、地面に倒れこむスノーホワイトに向かって振り下ろされ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い音が、ミラーワールドの中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「ッ! ハァッ、ハァッ……!」

 

九尾が放った右拳の一撃は、同じく右手だけで、スノーホワイトが受け止めていた。互いのその手は力が拮抗しているのか、震えている。だがそれ以上に九尾が注目したのは、スノーホワイトの目つきだ。軽く赤みの帯びた髪の奥から覗かせる視線は、鋭く尖っている。怒っている時のものとは違う。言うなれば、この瞬間に闘志を燃やしている者にこそ放てる、そんな眼差しだった。

スノーホワイトはそのまま、力一杯右腕を振り払い、九尾を後ずらせた。フラついて倒れそうになるスノーホワイトだが、足に力を入れて踏ん張った。そして、九尾に向けて、こう語りだす。

 

「……自然に、何となく、変わっていくものだって、思ってた。大人になっていけば、心も体も、今よりもっと強くなるって、そう思ってた」

 

でも。それは間違ってた。スノーホワイトは唇を噛み締めながら、確かにそう呟く。

 

「私は、今でも無力だよ。私が弱いせいで、失われた命も、あった……。魔法少女だったのは、姿だけで、憧れているだけで、力もなかった……。みんながボロボロになっても戦い続ける姿を見てると、怖くて、逃げたくなって……! でも守ってもらってばっかりで……。何でこんなに情けないんだろうって、自分に問いただしてばかりだった……!」

 

でも、今は違う。スノーホワイトの拳に自然と力がこもる。

 

「先生にも言われたように、自分を弱いと思う心が、自分をもっと弱くしてたんだ……!」

「スノーホワイト……」

「九尾……ううん、だいちゃん。私の夢を、教えてあげるよ」

「……何だ」

 

スノーホワイトは一度深呼吸をした後、九尾を真っ直ぐ見据えて、こう語る。

 

「私の夢は、『みんなを幸せにする魔法少女になる』。今はまだ、そんな魔法少女にはなれてないと思う。だからって、そこで諦めちゃいけなかったんだ。夢の途中だったなら、今の自分の優しさ、強さ、弱さを受け入れて、夢に向かって……! 進むんだ、変わるんだ! だから……、もう逃げない! 自分の為に辛い事でも立ち向かっていく! それが、魔法少女なんだ……!」

「……そうか。見つけたんだな。お前の、魔法少女としての信念を」

 

九尾は肩の力を抜いて、自身の手のひらを見つめた。

 

「……俺は、力を持っていても何も守れない事に歯痒さを感じてた。同時に、分からなくなってた。何の為に戦うのか。こうして生き残ってる俺がすべき事が、何度考えても、モヤモヤしてばかりだった」

 

でも、分かったんだ。九尾は一歩前に進む。

 

「今日までの間に、多くの魔法少女や仮面ライダーが死んだ。きっと誰もが、生き残りたい理由があった。俺達は今、その人達の屍の上に立って、生き残ってる。確かに弱いのは罪なのかもしれない。けど、こうしてお前と戦う事で、弱さの中にも、一つの強さがあるって、気づけたんだ。だから決めたんだ。俺は生き残っている事に負い目を感じない! 今日まで命を絶った人達の想いも受け止めて、その人達の分まで、精一杯生きていくんだ! これが、俺の見つけた『夢』だ!」

 

言い切った後、九尾はカードデッキに右手を置いた。

 

「口先だけなら、何でも言葉を置き換えれる。そうならない為にも、ここで証明するんだ。自分自身の力で、自分の意志を!」

「私は、強くなる! 生きる為に、守る為に戦う! だから見てて、私の変身を」

「俺もだ。そしてこれが、俺の答えだ」

 

勢いよく引き抜いたカードを手前に持ってくる九尾。『SURVIVE』と表記されている、右翼と光の絵柄のついたカードを見せるのと、懐から素早くマジカルフォンを取り出したのはほぼ同時だった。

 

[挿入歌:Revolution]

 

2人の向かい合う中央付近を中心に光り輝き、2人を正面から照らし出した。ミラーワールドの外から一部始終を見ていた正史達も、開いた口が塞がらない。

両者共に鋭い視線を向けている。今、彼らを突き動かしているのは、刺激された欲望だけ。目の前の相手に、自分の決意の固さを見せる為の、戦い。

九尾は龍騎と同様に左腕を突き出し、装着されていたフォクスバイザーが消える代わりに、左手には狐の頭部を模した柄があり、その口から片刃の刀身が出ており、鍔の部分にはトリガーとカードの装填口がついた、『フォクスバイザーツバイ』が握られた。スノーホワイトの方は、マジカルフォンをタップして胸の中心にホルダーが現れた。

九尾は『SURVIVE』のカードを狐の柄の頭部の部分に向かって差し込む。スノーホワイトはマジカルフォンを閉じて、ホルダーに差し込む。

そして。たった一度与えられた、『(チャンス)』を持つ2人の想いの糧が、新たな力となって、その身に宿される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『SURVIVE』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カードを装填した九尾は、瞬時にフォクスバイザーツバイを横に振るい、スノーホワイトはマジカルフォンをセットした後に、両手の拳を強く構える。

九尾には鏡像が重なり、スノーホワイトには光が包まれる。

やがて、正史達からも見える程に、全容が明らかとなった。

白い毛並みの裃と、前部の開いた袴はこれまでと相違なかったが、背中には荒縄のように太い金色の腰帯がつけられ、仮面の頬に隈取りのような赤い模様が描かれている、『九尾サバイブ』の皇后たる姿が見えた。『SURVIVE 〜魂魄〜』の力によって、強化された形態である。

一方でスノーホワイトの方は、相当な変化が見られた。金色のラインやピンク色のバンドやハートの飾りに加え、上腕部のアーマーは、右が黒、左が白となっており、他にもショルダーアーマーやブーツ、全体的な服装も白黒となっている。頭の蕾も白黒で開花されており、学生服だった姿が、文字通り魔法少女に相応しい衣装となっている。その全体像を見て真っ先に反応を示したのは、小雪と同じ魔法少女愛好家の颯太だ。その印象は、小雪が最初に憧れを抱いた『キューティーヒーラー』を思わせているからだ。『強さ』を象徴するかのような黒と、『優しさ』を象徴するかのような白が強調されている、『スノーホワイトサバイブ』の表情にもう迷いはなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

この胸に生まれついた、『生きる』という威力を武器に替えて、彼らは戦いを決意する。

 

「この先、どんな未来が待ってるかなんて分からない。またいつ弱さが晒け出されるのかも」

「きっと俺達は、これからも迷い続ける。力を手にした以上、戦いが終わる事はない」

 

己の中で覚悟を決めた、2人の眼差しが交差し、そして口にする。

 

「「それでも()は、夢見てる」」

 

そう、彼らはまだ、自分の覚悟を相手に見せているわけではない。この戦いを終わらせるに相応しいのか。それは、これから起こりうる事で分かる。

 

「生きる為に、守りたいものを守る為に、私は、戦うよ」

「命を散らせたみんなの想いを繋いで生きる為に、俺は、戦う」

 

それぞれの『武器』をぶつけ合う戦いが、幕を開けようとしていた。

 




ようやく出せました、九尾サバイブとスノーホワイトサバイブ……! スノーホワイトサバイブのイラストは後で載せますが、リップル、ラ・ピュセル、トップスピードの時と比べて、色々と手直ししたりして、完成に苦労しました。(かといってクオリティが上がってるわけでもない……)
九尾サバイブに関しては、サバイブ設定集を投稿する際に載せます。

今年は夏休みも忙しくなりますので、投稿ペースがあまり早くなりませんが、何卒よろしくお願いいたします。

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