魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

明日は久しぶりとなる『リリカルなのは』シリーズの映画第3弾が公開されますね! 楽しみです!

さて、今回は息抜き回ではありますが、ラストの方で……。


99.息抜きと遊園地と大地の頼み

本格的に冬の寒さが見え隠れし始めた、とある休日。N神社の本殿周りに散らばっている落ち葉を竹箒で払う大地の姿があった。その表情は決して優れているとは言えない。朝早くテンションも上がらないという事もあるのだが、それ以上に彼には悩ましい事情がある。

 

「(結局、小雪とも会えないまま……か。あいつも俺と同じで多分、答えが出てない……。俺には、自分の命以外に背負うものなんて……)」

「あっ、大地君!」

 

不意に呼ばれたような気がしたので顔を上げると、近所に住む龍騎こと正史が手を振りながら歩み寄ってきた。何故か大きなリュックを背負って登場してきた事に訝しむ大地。

 

「城戸さん。どうしたんですかその荷物? まさか家賃が払えなくて追い出されたとか……」

「いや、そうじゃなくて……。まぁそっちもそろそろヤバいかもしれないんだけど、しばらくはここから離れたとこに住む事になるから、その分の荷物を取りに戻ってきてね。仕事も休みだったし」

「……誰かと一緒に住んでるんですか?」

「う、うん。まぁ色々あってね。それで来たついでに寄ったんだ」

 

なるほど……、と呟いた後、再び箒を持つ手を動かし始める。その顔色を見て、正史は声をかけた。

 

「大地君」

「……何ですか」

「最近さ……。元気ない、よね。やっぱり、小雪ちゃんの事で……」

 

小雪の名を聞いたところで、大地は手を止めた。

 

「……だったら何なんですか」

「大地君が本気で小雪ちゃんの事を心配してるのは分かるよ。でも、何もしないままなんて、やっぱり良くないと思う。だからさ、一回会いに行ってみたらどう? もし良かったら、俺が協力してあげ」

「余計なお世話なんですよ! これは俺が自分で解決しなきゃいけない事なのに、そんな簡単に首を突っ込まないでくださいよ! 俺だって……! 俺だって、小雪が困っているなら力になりたい。それをどういう風にするのかは、俺が決める事です! いつまでも他人に頼ってばかりじゃ、俺は結局、前に進めない……! 大人になんか、なれない……!」

 

珍しく感情的になって唾を飛ばしまくる大地を見て、息を呑む正史。少ししてから、大地はハッとした表情で、顔を俯かせた。

 

「……すいません。言い過ぎました」

「い、いや、良いよ。俺も、ちょっと、大地君の気持ちを考えてなかったところがあるからさ……。でも、小雪ちゃんが心配なのは俺も同じだよ。つばめとか、蓮二や華乃ちゃん、颯太君、手塚、それに亜子ちゃんだって、みんな同じ気持ちだよ。だから、1人で抱え込んで立って、きっと、良い答えなんて出ないと思う……。俺は経験したから、よく分かる。トップスピードが、つばめが話しかけてきてくれたから、俺は、彼女を守ろうって、答えを出せたから」

 

つばめ、という人物は初めて聞くが、トップスピードの事を指しているのは理解できた。

 

『君は、自分が思っているほど、孤独を走れる勇気はない』

 

以前、ねむりんが見せた夢の中で、雫に言われた一言が脳裏にチラつく。今ある疑問を解消するには、やはり誰かの力を借りなければならないのだろうか。

 

「……」

 

大地も正史も、口が開かぬまま、一陣の風が2人の頬を撫でた。

しばらくして、空を見上げた正史が、何かを思いついたかのような表情を浮かべて、大地に話しかけた。

 

「ねぇ大地君。この後って予定とかあったりする?」

「……特に、ないですけど」

「じゃあさ、ちょっとお出かけとかしよっか。久しぶりにさ」

 

じゃあ荷物置いたらまた後で、とだけ言い残して、正史はリュックを揺らしながら大地と別れた。1人になったところで、大地はカードデッキを取り出した。その表情からは何も読み取れないが、やがてため息をついてから、カードデッキを戻して、神社に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜。こうやって誰かと散歩とかマジで久しぶりだな! 正史から誘ってくれるとは思わなかったけどさ!」

「ほら、天気も良いから散歩日和って感じだし、偶には気分転換もアリかなって」

「お前の口から気分転換、か。嫌な予感しかしないが」

「ちょ、何だよその言い草! もう少し楽しそうにしろよな。折角華乃ちゃんとお出かけ出来たんだしさ」

「……チッ」

 

数時間後、市内の住宅街を歩く9人の姿があった。先頭を歩いているのは、散歩改め気分転換を発案した正史と、彼と同棲しているつばめ。最後方には蓮二と華乃が嫌々そうについてきている。その間には大地を始め、小雪に颯太、手塚、そして亜子が歩いていた。

つばめは真っ先にOKを出し、颯太と手塚もすんなりと提案を受け入れた。どうせならば賑やかな方が良いと考え、正史の方から亜子も誘う事になった。問題は小雪と蓮二、華乃だった。中宿での一件以来、向こうから縁を切っていた小雪の方は説得を続けるうちに、どうにかして了承を得たが、他の2人は別物だった。そもそもこの2人は余計な事にお金を使いたくない主義だった為、説得に時間がかかった。結局ある程度のお金は正史や他の面々から補助してもらうという同意のもとで、向こうから折れてくれた。とはいえ華乃の方はつばめだけでなく、小雪が来ると分かってからまんざらでもない様子を見せているようだが……。

 

「あ、あの……。私なんかがいて、良いんでしょうか……? その……、今まで一緒に行動してたわけじゃ、ないですから、皆さんが楽しんでるのに、邪魔になるような……」

「そんな事ないって。大勢の方が楽しいしさ! だから今日はお金の事なんか気にしないで、子供らしく遊んじゃえばいいよ」

「まぁそもそも、変身前でみんなが揃って出かけるのもこれが初めてだからな」

「は、はぁ……」

 

複雑な家庭環境に身を置いている亜子は、戸惑いながらも頷く。その一方で、松葉杖をつきながら前へ進む颯太は、つばめのお腹に目をやりながら会話をしていた。

 

「でも、びっくりしました。トップスピードのお腹に子供がいたなんて……」

「まぁ今までなるべく内緒にしてたしな。いい事ばっかじゃなかったし色々あったけどさ、俺は正史と出会えて良かったって思ってる。守ってくれるって約束してくれたしな。だから、絶対に生き残ってやるんだ。この子を産んで、幸せにしてやるんだ」

「……(トップスピードが最低でも後半年は死にたくないって言ってたのは、この事だったのか)」

 

お腹を優しくさするつばめを横目でチラリと見ながら、大地はそう納得した。一方でここまでほとんど一言も発していないのは大地だけでなく、小雪も同様だった。ハードゴア・アリスの変身者である亜子と初対面した時は、鍵を失くして探していた少女だと気づいて、一言二言話しただけで、その後は会話すらなかった。普段は些細な話題でも会話に入ってくる小雪も、どこか思いつめたような表情のまま、地面ばかりを見ている。

 

「小雪、大丈夫か? なんか元気なさそうだけど」

「えっ? う、ううん。何でも、ないよ……」

 

颯太からの呼びかけにそう答えて、再び黙り込む小雪。

 

「(こんな時にそうちゃんやだいちゃん、それにみんなと一緒に出かけるのは、楽しくないわけじゃないけど、でも、やっぱりモヤモヤしちゃう……。みんなと違って、私には誰かと戦う勇気なんて……。私、これからどうすれば……。どうやったらこの気持ちが晴れるの……?)」

 

今なお、小雪は戦う事に躊躇しており、一歩踏み出す事が出来ずにいた。段々と正しい魔法少女としての在り方が分からなくなっているのだ。小雪が言葉に出せずに悩んでいると、正史の悲鳴が聞こえた。

 

「おわっ⁉︎」

「ちょっ⁉︎ 何だよいきなり⁉︎ 危ないって!」

 

坂を下る途中に、前方で何かを見つけた正史が、慌ててつばめの背中に隠れたようだ。全員が目を向けた先には、柴犬を連れて散歩している飼い主が。

 

「おっ、可愛いワンコだな」

 

つばめが腰にしがみついてくる正史をどうにかしながら、柴犬に手を振った。他の面々も通行の妨げにならないように左右に分かれた。その際、蓮二は手すりに乗りながら避けていた。

すれ違った後も、正史はブルブル震えながらつばめにしがみついている。

 

「あ、あの……。もう、過ぎちゃいましたよ」

「何だ正史? ひょっとして怖いのか?」

「い、いや、その……」

「……そういえば、城戸さんは子供の頃から犬苦手でしたよね」

 

大地がふと思い出したように、後方を振り返りながら呟いた。

 

「昔噛まれたからか?」

「……」

 

手塚の問いに、正史は黙って頷く他なかった。

 

「へぇ意外だな! 犬が苦手とか、正史も可愛いとこあんじゃん!」

「あ、あんまり言いふらすなよ……。……って蓮二? どうした?」

 

正史が、犬が登場してから黙り込んでいる蓮二に声をかけた。

 

「……お? 蓮二もひょっとして苦手だったりする?」

「……まさか」

「いやいや、お前さっきめっちゃ逃げてたじゃん! 手すり使って必死にさぁ!」

「うるさい。さっさと歩け」

 

蓮二は話題を逸らそうと言わんばかりに、強引に歩き始める。その動きは普段と違ってぎこちなく感じる。大地と小雪を除く面々は苦笑していた。

と、不意に手塚が正史に尋ねた。

 

「そういえば、誘いを受けたのは良いが、具体的にどこへ行くか決めてるのか?」

「あぁ、それね。これだけの人が集まってワイワイ出来るとこって言ったら、やっぱあそこが一番でしょ」

「……どこ?」

 

華乃が若干イラつきながら問いかけると、正史は笑いながら答える。

 

「遊園地だよ。久しぶりに子供に戻って目一杯遊ぶのもアリだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスを乗り継いで辿り着いたのは、隣町に位置する、大型のアミューズメントテーマパークだった。ジェットコースターや観覧車など、メジャーなアトラクションが数多くあり、休日のお出かけスポットとしては、最適なのかもしれない。

一同が最初に向かったのは、ジェットコースター。正史を初め、様々な人の悲鳴や歓声が、四方八方に飛び散っている。

 

「うぅ〜! 何で観てるだけしか出来ないんだよ〜! 俺だって久々に現役バリにはっちゃけたいのにさ!」

「……今の自分の状態を理解してないな、これ」

 

口元をへの字に曲げてふてくされているつばめの隣で、華乃がため息混じりに呟いた。妊婦ともなれば、乗れるアトラクションにも制限がある。仕方なく、華乃が彼女に付き添う事でどうにか宥める事にした。ちなみに両足を負傷している颯太に関しては、皆で協力して乗り降りを手伝う事で事なきことを得ている。

 

「……遊園地、か」

 

華乃はふと、つばめに聞こえない音量でそうボヤく。母親が再婚を繰り返していく思い出ばかりで、遊園地どころか、外に出て遊ぶ事すら、どことなく遠い過去の思い出として懐かしく思えた。大人の面々はきっと今の自分と同じ年頃には、誰かと遊びに出かける事ぐらい当たり前になっていたのかもしれない。それが出来ないことに歯痒さも感じていた。故に、遊びに金を使う事にバカらしさを感じていた華乃だったが、正史に無理やり連れ出されて、こうして誰かと娯楽を楽しむのも、悪い気分にはならない。

 

「(その点は、まぁ、あのバカに感謝しておこっか)」

 

口が裂けても言えないような事を、華乃は心の中で呟いた。

その一方で、初めてのジェットコースターを堪能し終えた亜子が降りようとした際、不意に以前この遊園地に来た時の情景が頭をよぎった。

 

「(あの時は、お父さんも、お母さんも、仲は良かったし、優しかった……)」

 

3人で笑いながら過ごした、思い出に残る日。年月が経つにつれて、その歯車は錆び始め、その事に亜子は手入れをしていない。そしてある日、歯車は壊れた。もっと早く手を出していれば、自分の存在価値は高いものだったのだろうか。誰にも迷惑をかけない存在になれたのだろうか。

 

「(……っ。ダメだ、また私、自分1人で抱え込んでる……。城戸さんやOREジャーナルの皆さんにも指摘されたのに)」

 

今は楽しむ為に、殺伐としているライダーと魔法少女同士の戦いも、過去の苦い思い出も、奥底にしまっておこう。亜子はそう決意して、小雪達と共に颯太を降ろす手伝いをした。

その後も絶叫系のアトラクションを堪能し、一度羽根を休める為にと、近くにある池に寄って、通常のボートやアヒルボートに乗って、優雅なひと時を楽しんでいた。その際、正史と蓮二が意地を張り合って、どちらが早くこげるかを競争するという一波乱もあったが、つばめの応援があったりなど、茶番ではあったが、結果的には盛り上がった。

流石に急な予定だった為、つばめの手作り料理ではなく、園内のフードコートで食事を済ませた後、一同はゲームセンターに寄った。

 

「ッシャア!」

「85点、ですね」

「やるじゃん!」

「へへっ。どうだ。俺だってやれば出来るんだよ」

「……フン」

 

パンチングマシーンで腕力を自慢している正史と、鼻を鳴らす蓮二。その次にクレーンゲームをする事になって、ここで本領を発揮したのは、ここまで目立っていなかったつばめだった。

 

「……オォ、持ち上がった!」

「んでもって……入ったぁ!」

「アッハッハ! これくらい朝飯前ってもんだ!」

「……ちょっと意外」

 

つばめは両手を腰に当てて高笑いした。その光景を無表情で見つめる大地だったが、不意に目線を外して、別のクレーンゲームコーナーに目を向けている小雪を発見した。その目線の先には、最近テレビで放送している魔法少女ものらしきキャラクターのキーホルダーが景品としてぶら下がっていた。大地は近寄って声をかけた。

 

「……あれ、欲しいのか?」

「……! う、ううん。私は……」

「……そう」

 

それだけ言うと、大地は小雪のそばを離れた。距離が離れる毎に、2人の胸の奥がチクリと痛んだが、それは本人にしか分からない痛みだった。

続いて一同は再び外に出て、アトラクションを堪能した。向かった先は、メリーゴーランドだった。大地、小雪、正史、手塚、亜子が馬に乗り、蓮二、華乃、つばめ、颯太は馬車の方に腰を下ろした。陽気な音楽と共にゆっくり回転する舞台。正史とつばめは心底楽しそうに会話を弾ませていた。

 

「メリーゴーランドかぁ。まだまだ子供だな、正史も」

「つばめがみんなと一緒に楽しめるものって言ったら、これと観覧車ぐらいしか思いつかないし、これはこれでアリだろ?」

「まぁ、嫌いじゃないから良いけどさ!」

 

つばめは笑いながら、膨れた腹に手を当てて、深々と座席に座っている。

そんな中、次に口を開いたのは、蓮二だった。その表情は今までと違い、今いる場所の雰囲気とかけ離れているような、どこか物悲しげな様子だった。

 

「……あいつは」

「?」

「あいつは、恵里奈は、嫌いだった」

「恵里奈……さん?」

 

颯太が首を傾げながらそう呟いていると、蓮二は首から提げているネックレスのホルダーを開いて、そこに写っている兄弟姉妹を見つめた。その脳裏に、どうして嫌いなのかと蓮二が恵里奈に尋ねるという、当時の記憶が重なる。

 

「『1周してくる間に、お父さんもお母さんもいなくなったらと思うと、凄く怖かった』、それが、あいつの言い分だった。……そして、本当に2人はいなくなった」

「蓮二……」

「多分、俺達にはお互いしか、いなかった……。どんな事があっても、すぐに相談できる、そんな相手が……」

「な、なぁ。さっきからよく分かんないとこがあるんだけど、そもそも恵里奈って誰だ? ひょっとして、蓮二の彼氏か?」

「秋山の、実の妹だ」

 

つばめの疑問に答えたのは、蓮二ではなく馬に乗りながら後方を振り返った手塚だった。蓮二は顔を見上げる。何故お前がその事を知っているのか、と言わんばかりに。

対する手塚は申し訳なさげにこう答えた。

 

「悪かったな。前に須藤が起こした事件を調べていた時に、行方不明になっている人物を調べている時に、偶然その名を見つけてな。もしかしてと思って素性を調べてみた。……間違いなく、秋山の妹だった」

「で、でも行方不明って、まさか……」

「それは違う」

 

真っ先に否定したのは華乃だった。

 

「あの人は、生きている。今はきっと、事情があるんだと思う。私はそれを夢見ているから」

「蓮二、お前……」

「! じゃあ、お前の戦う理由って、その妹さんを見つける為に……」

 

蓮二の戦う理由を知り、空気が重たくなった。大地も黙り込んでいる。と、そこへ正史の声が聞こえてきた。

 

「分かった。それが蓮二のやりたい事なら、俺にも手伝わせて。探すんなら、1人よりも多い方が良いだろ?」

「関係ない奴が首を突っ込むな。そんな事をされる道理は」

「あるよ。仲間だから」

「……!」

「お前が拒んでも、俺が一緒に見つけに行く。だから、こんな戦いは早く終わらせなきゃ、いけないんだ。今の話を聞いてそう思ったよ」

 

蓮二と正史が、顔を見合わせる中、回転が止まり、スタッフの誘導が始まった。

 

「……勝手にすれば良い」

「……あぁ」

 

蓮二は素っ気なく答え、正史は笑みを浮かべる。その光景を見ながら、大地は考え込んだ。

 

「(城戸さんは、自分の意志で戦う事を決めた。きっとみんなも、自分の為に、自分らしく決めた。……今の俺が、小雪にしてやれる事、自分だけの戦う理由を作る方法は……)」

 

『自分らしいやり方で、相手にぶつかっちゃえば?』

 

夢の中でねむりんが語った言葉を頭の中で復唱し、一度目を閉じてから再び目を開く。その表情からは、先ほどと違う雰囲気が出ていた。

メリーゴーランドを降りて、腰を伸ばしながら、正史は皆の方を向いた。

 

「さぁてと、んじゃあ次は……って、大地君、小雪ちゃん」

「な、何ですか?」

「いや、その……。小雪ちゃん、今日全然楽しそうに見えないからさ。無理してるのかなって」

「そ、そんな事は……」

 

後半は声をしぼませながら、返答に迷う小雪。

 

「……辛いのは分かるよ。でもそれは、みんな同じだから。だから今日ぐらいは、その……。小雪ちゃんにも、前みたいに笑っていてほしいんだ」

「私が……ですか」

「うん! 大地君もそう思うだろ?」

 

正史が大地にそう尋ねるが、どういうわけか、当の本人は明後日の方向を見ている。

 

「大地? どうしたんだよ」

 

颯太が呼びかけても、返事はない。その一方で、蓮二と手塚、華乃は何かを察したのか、僅かに表情を変える。

 

「……なぁ、小雪」

「う、うん……」

「お前さ。みんなと一緒に生き残りたい、って、死にたくないって、言ってた事、あったよな」

 

それは以前、初めてハードゴア・アリスと出会い、王蛇から襲撃を受ける前の事。ベルデへの復讐に焦っていた九尾に対して、スノーホワイトが語った、曖昧ながらも誓った決意。

 

「……もし、今でも、本気でそう思っているなら、俺の我が儘に、応えてほしい」

 

そう言って大地が取り出したのは、狐の紋章が刻まれたカードデッキ。それを、周囲に気付かれないようにしながら、小雪に見えるようにかざす。

それが何を意味するのか。理解はしていた一同の表情が一斉に変わるのを見ながら、大地は決意を込めて、口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺と、戦え。小雪」

 

 

 




……というわけで次回はまさかの対戦カードが実現! どれくらいの人が予想してたのかな?

まぁそれはともかくとして、次回は大地と小雪、パートナー同士によるガチマッチが幕を開けます! そして次回でいよいよ100話目に突入するという事で、『アレ』が出たり流れたりしますよぉ! 次回もお楽しみに!

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