魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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『龍騎』が絡むからには、この対決もやっておかないとね。


97.ツーマンセルバトル(前編)

澄んだ青空が広がる、昼真っ只中。

マジカロイド44の変身者、安藤 真琴は庭の花壇に植えられた色とりどりの花に向かって水を撒いていた。事務所に華やかさを求める意味で植えられた花々だが、数が多ければそれだけ手入れの数も増える。真琴自身、面倒な仕事ではあると思っていたが、誰かが手入れしなければ、花達は枯れるのを待つだけだ。

庭の手入れは基本的に、吾郎が丁寧にやってくれていた。が、彼が庭に訪れる事はもうない。その事を真摯に受け止めて、真琴は手入れに勤しんだ。吾郎の仕事を引き継ぐ形で庭中を歩き回り、一通りやり終えたところで、そろそろ休憩しようかと考えていた。

不意に殺気立った視線を感じるまでは。

 

「……!」

 

誰かがこちらを見ている。真琴は注意深く辺りを見渡した。

玄関先に植えられた木の間から、視線の主が把握できた。細く鋭い視線。蛇のような狂気性を感じせるオーラ。

 

「(浅倉……!)」

 

見間違いであってほしかったが、浅倉は真琴に見られている事に気付きつつも、なおも北岡が在住している事務所に顔を向けている。真琴が近づこうと足を動かしたところで、浅倉もその場を離れて、どこかへ行ってしまった。真琴が浅倉のいた地点にたどり着いた時には、影も形もない。

浅倉の狙いは、北岡である事は明白だ。弁護をしてくれなかった事への逆恨みとして、仮面ライダーである北岡を抹殺しようと考えているようだ。

 

「先生……」

 

真琴にしては珍しく、心配に満ちた表情のまま、事務所に顔を向けた。今のままなら、また接触を試みるに違いない。浅倉の事だから、この後すぐにでも決行に移るのではないか。そんな不安が頭によぎった真琴は、水を止めてから急いで玄関に戻る事にした。

今の北岡を見ていても、浅倉改め王蛇やそのパートナーであるカラミティ・メアリに勝てる確信が持てない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その北岡は現在、パソコンと向き合ってデスクワークに勤しんでいた。間も無く依頼先に書類関係を見せる為に事務所を出発する為、指を忙しく動かしていた。文章もようやく終わりに近づいて、時計に目をやろうとしたその時、北岡の視界が歪み、意識を失いかけた。

 

「……っ」

 

そばに立てられていたチェスの駒に手が当たり、幾つか横倒しになったところで、ようやく北岡の意識がハッキリとしたものになった。こうなる事は時々あったが、ここ最近は周期が短くなっているようにも感じる。

 

「……」

 

手のひらと共に、そばに置かれていたカードデッキに目をやる北岡。

 

『医者に告げられた期限は、後どれくらいだ。半年か、3ヶ月か、それとも……』

 

吾郎の死から間もない頃、突然マジカルフォンを通じて現れたシローが言った言葉が脳裏をよぎる。彼が不治の病に侵されている事を見透かすように、シローは淡々と告げた。

 

『戦わなければ、ライダーでいる意味はない。戦いを止めたら最後、死ぬだけだ。それが嫌なら、生きたいのなら、戦うのだ。どう戦うかはお前の自由だが、遅すぎたという事のないように励んだまえ』

 

「……そうだよ。俺は俺のやり方で生き残る。そう簡単に死んでたまるかって話だ。どんな手を使っても生き残る。そうだろ、ゴロちゃん……」

 

そう呟いて、北岡は今一度体に力を込めて残りの分を打ち込む。

ようやく完成し、コーヒーを淹れようとして立ち上がったその時、どこからか視線を感じた。心当たりがないわけではない。北岡は迷いなくカードデッキを手に持った。

玄関に向かって歩き出した、まさにそのタイミングで、真琴が歩み寄ってくる姿が確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

静まり返った北岡法律事務所内に、荒々しい足音が響き渡る。

 

「……アァ!」

 

終始イラついた表情を浮かべながら事務所内を動き回っていたのは、言わずと知れた浅倉 陸。

 

「弁護士さ〜んは金持ちだ〜。命が惜しくて、逃げ出した〜」

 

そう口ずさみながら、浅倉は机の上に横倒しになっていたチェスの駒を、腕を振るって吹き飛ばす。手当たり次第、近くに置かれたものに八つ当たりする中、やつれた雰囲気の中年女性がすぐそばのソファーにどっかりと腰を下ろした。

 

「流石は弁護士。生まれた時から力を有してた奴らしい、豪勢なもので溢れかえってるな」

 

山元 奈緒子は隅々まで見渡して、そう吐き捨てた。実際、最初から恵まれずに力を持たなかった彼女にとって、その空間は自身の手にした力で手に入れたVIPルームとは違い、憎たらしい事この上ないだろう。

暇を持て余す為に、北岡を付け狙う浅倉に同行した奈緒子だったが、とんだ骨折り損だったかもな、と思い知らされる。鍵がかかっていない事に訝しんでいたが、案の定、そこには誰もいなかった。相手がいないのでは話にならない。

少し待ってみる事にした2人だが、いつになっても戻ってくる気配がない。単なるニアミスか、それとも……。

 

「……あんな奴に限って、それはないか」

 

奈緒子は肩を竦め、もうしばらく寛ぐ事に決めた。浅倉はイライラが収まらないのか、ふてぶてしい表情のまま、窓の外を睨みつけている。

と、その時。事務所に設置されていた電話機から着信音が鳴り響き、2人の視線が集まった。しばらくして、留守電と思わしきメッセージが聞こえてきた。

連絡してきた相手は、市内の証券会社らしく、明日の会合の開始時間を確認するものだった。待ち合わせ時刻を耳にした奈緒子の口元はつり上がり、そして呟く。

 

「……このまま逃げられると思ってるのかい。恐れる事を知らないあたしらからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ真琴。何で出かけなくちゃならないのさ。先方との約束の時間まで、まだかなりあるよ」

 

市街地を進んで、信号が赤になったところで、北岡が腕時計を指差して、助手席の真琴に問いかけた。それに対し、真琴は清々しい表情で返答する。

 

「気分転換に、とでも思いまして。最近は色々と面倒事ばかり続いてましたから、ここいらで一つ、息抜きでもしようかと」

「息抜きねぇ……」

「まぁ差し支えなければ、令子さんの代わりに、私がデート相手になればと」

「……ま、偶にはいいか」

 

北岡はそれ以上詮索しなかった。真琴の言う事にも一理あったし、今の彼女の表情を見て、自分を無理やり外へ連れ出した理由は語ってくれないだろうと思い、そっとしておく事に決めた。

信号が青に変わり、再び発進する北岡の自家用車。助手席の窓から、真琴は外の風景を眺める。相変わらずビルが立ち並ぶ、何ら面白みのない街だったが、それでも2人が出会ったきっかけとなる街である事に変わりはない。

だからこそ、真琴は諦めたくなかった。金に困っていた自分をアルバイトとして雇い、食事や生活に至るまで、あらゆる居場所を与えてくれた先生の期待に生きている間だけでも応えたい。吾郎のような人になりたい。

 

「(先生はもう、戦ってはいけない。これ以上戦えば、勝敗の有無に関わらず、先生の体がもたなくなるでしょうから……)」

 

今は、北岡と因縁のある男と、そのパートナーを近づけさせてはいけない。真琴は決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな計らいがいつまでも続くわけがなく。次の日もまた、真琴はカバンを持ったまま、ネクタイを締めている北岡の元へやって来て口を開いた。

 

「あの、先生。今日は出かけるのを止めといた方がよろしいのでは……」

 

これに対し、北岡の口から出た問いかけは、理由云々ではなく、確認に近いものだった。

 

「浅倉か? それとも……お前の教育係だったカラミティ・メアリ?」

 

真琴の表情が僅かに揺れ動く。北岡は更にこう呟く。

 

「昨日、来てたみたいだしな、ここに。真琴も気づいてたみたいだな」

「……」

 

真琴はだんまりとしている。それでも、彼をこのまま行かせるわけにはいかないという意思表示は見受けられた。それを見て、北岡はフッと笑みを浮かべる。

 

「心配してくれるのは分かるけどさ。俺、今のところはまだ戦いたいんだよね」

「……! でも先生……!」

「体の方なら、まぁこまめに気にかけてれば大丈夫だろうよ。それに、真琴が一緒に戦ってくれるなら、それはそれで心強いし。お互いズル賢いのには定評あるから、上手くいけば最後まで生き残れるだろ」

「先生……」

「ま、何とかなるって」

 

そう言って北岡は真琴の肩を強く叩き、車のある方へ向かっていった。

隣に立って、共に戦う。口で言うのは簡単だが、果たしてこの戦いにどこまで通用するかは、判断しかねる。だが、今はやれるだけの事をするだけだ。

 

「(それが、ある意味で吾郎さんの弔いになるのなら)」

 

真琴は息を一つついて、カバンを揺らしながら北岡の後をついていった。

この日はお得意さんである証券会社と、大人のやりとりが行われる為、早めの昼食を済ませた2人は早速先方が待つ会社まで、車を走らせた。広い道に出たところで、北岡は時刻を確認する。1時を少し過ぎた頃だった。

 

「……あ、ちょっと遅れそうだな。少し急ぐか……⁉︎」

 

不意に北岡が言葉を詰まらせて、急ブレーキをかけた。窓の外に目を向けていた真琴も、何事かと言わんばかりに北岡に目を向けたが、本人は前方を向いていた。それにつられて真琴も顔を動かし、すぐに北岡が急停止した原因を悟った。

車の向かう先に、2つの人影があった。

1人は、見覚えのない女性だった。紫色の長袖にロングスカートという、飾り気のない服装に包まれた、くたびれた中年女性だ。そういう意味では真琴も地味な要素はあるが、少なくとも目の前の女性みたいに、おどろおどろしい雰囲気は持っていない。

そしてもう1人は、嫌という程見てきた男性だ。上下蛇柄の服に、殺気立った目つき。この街に住む者なら、そのほとんどが口を揃えて答えるだろう。

浅倉 陸。数多の犯罪を犯し、その街に恐怖を植え付ける要因となった人物が、イライラを解消する為に、因縁深い弁護士に牙を剥く。

 

「あいつら……!」

「まさかここまでしつこいとは……。どうします? ここはひとまず背を向けて遠ざかるのもアリかと」

「向こうはそれで納得してくれるわけないよね。……向こうには遅れるって連絡しておくか」

 

北岡はため息まじりにスマホを取り出し、素早く証券会社宛に、手短にメールを打って送信する。

全てが整ったところで、北岡はドアを開けて車から降りた。真琴もそれに続き、北岡のそばに寄る。

その間に、浅倉とそのパートナーである奈緒子は2人に急接近していた。北岡は堂々とした態度で2人に毒づいた。

 

「昨日は家を汚してくれてどーも。おかげで久々に軽い運動が出来たよ」

「おかしくなりそうだったぜ。あの時からずっと、お前と戦えなくてな。だが、もう逃がさねぇぞ」

「戦うの一点張りか……。最初から気に入らなかったんだよね。お前の、そうやって無駄に生きてるとこがさ。それに引き換え、何でゴロちゃんがお前らに殺されなきゃならないのさ」

「そんなの知ったこっちゃないね。巻き込まれたのが運の尽きってヤツさ」

 

そう答えたのは奈緒子だった。鼻で笑う奈緒子を見て、ムッとした表情を見せた真琴は、奈緒子の前に立った。

 

「あの浅倉と一緒にいるという事は、あなたがカラミティ・メアリという事でよろしいのですね?」

「山元 奈緒子だ。ま、覚えてもらわなくたって良いけどね」

「もう少し美しい美貌の持ち主かと思ってましたが、真実とは真逆でしたね。こう見えて、一応あなたの美肌には一目置いていたわけですので」

「……フフッ。相変わらずムカつくお世辞だが、まぁ許してやるよ。何てったって、あたしの教え子だからね」

「流石は私の教育係。器の小さいこと」

 

奈緒子は狂気に満ちた笑みを浮かべて、真琴を見下ろしていた。一方で見兼ねた浅倉が、自身のカードデッキを相手に見せつけた。

 

「さぁ、俺と戦えよ北岡……!」

「まったく、こいつを押さえつけるのに、もう監獄は狭いか。なら、俺がお前に相応しい場所に連れ込んでやるよ。監獄がダメなら、地獄にな」

「……ハッ。相変わらず潰しがいがあるなぁ……!」

 

北岡もまた、カードデッキを手に持ち、決闘の意思表示を示している。真琴と奈緒子の間でも、話の決着がつこうとしていた。

 

「で、あんたはどうする? 別にお前と殺り合う理由はないし、何なら使いパシリ程度には可愛がってやるよ」

「その必要はありませんよ。私も、生き残る為に、自分の為に戦うと決めたものでして」

「ほう。そっちもやる気なら、ここはひとつ、2対2といこうじゃないか」

「了解しました。あ、そちらが名乗ったのであれば、こちらも名乗らなければ失礼かと。安藤 真琴ですよ」

「そうかい。ま、数時間後には忘れてるだろうけど」

「先輩らしいですね」

 

2人の女性もまた、引き下がる事なくマジカルフォンに手をかける。

一同は車の窓の前に立ち、ライダーに選ばれた者はカードデッキをかざした。Vバックルが腰に取り付けられ、魔法少女に選ばれた者はマジカルフォンを構える。

そして北岡、浅倉、真琴、奈緒子は同時に叫ぶ。

 

「「「「変身!」」」」

 

ポーズをとってカードデッキをはめ込んだ北岡と浅倉の全身に鏡像が重なり、それぞれ仮面ライダーゾルダ、王蛇となった。真琴と奈緒子も光に包まれ、魔法少女マジカロイド44、カラミティ・メアリに変身。

首を鳴らした王蛇とメアリが先んじてミラーワールドに入り、後の2人もそれに続く。

ゾルダ&マジカロイド44ペアと、王蛇&カラミティ・メアリペア。両者が近くの廃墟で向かい合ったところで、王蛇がベノバイザーにカードをベントインする。

 

『SWORD VENT』

 

王蛇の右手にベノサーベルが握られ、その隣にいたメアリも四次元袋から『PPSH』と呼ばれる銃身の長い武器を構える。ゾルダがマグナバイザーに手をかけると、マジカロイドもマジカルフォンをタップして同じくマグナバイザーを出す。

舞台は整った。後は自然な流れで、戦いは始まる。それがこの場にいる4人に課された宿命なのだから。

 

「オォォォォォ!」

 

王蛇の雄叫びと共に、宿命に導かれし4人の決戦が、幕を開けた。

 

 




ゾルダvs王蛇もそうですが、マジカロイドvsカラミティ・メアリにも注目しつつ、次回もお楽しみに。

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