女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

55 / 65
ただいま。

2017/03/31
まーたいきなり誤字ってました。
クスリキマってたとしても推敲はしよう、な!
お兄さんとの約束だ!


<アフターストーリー>リンゴ日和

 知恵の実。禁忌の象徴。それは赤くて、血のように紅に染まっていて、そして愛らしい。可愛らしい。一皮むけば、白い肌。無垢で、そして染まりやすい白。

 

「林檎が剥けたわ」

 

 皿にカットした林檎を乗せて、金剛に差し出す。

 

「ありがとうございマス」

「Warspite、楽しそうデシた。私も嬉しいデス」

「そう?」

「顔に出てマシた」

 

 こうして戯れているときが一番幸せだから、きっと笑っていたのだと思う。

 だから、

 

「あなたとだからよ」

 

 そう返す。口元を緩めて。そう、幸せだから。

 

 瑞鶴の葬式からしばらくの日が経った。今は皆で喪に服している。軍紀に従ったものじゃなくて、各々が思い思いの方法で。

 川内達三姉妹は49日が明けるまで禁酒。

 鳳翔は休業。

 伊勢・日向のコンビは戦艦に逆戻り。

 山城は自己啓発本を読むことにしたらしい。

 望んで不幸に浸り続けることから抜け出して、彼女と違う人生を歩むことが、何よりの供養になる、と言っていた。私にはあまり思いもよらない方法だったけれど、人はそれぞれだ。私がヒトデナシであるように、人の道も違っていていい。だから誰も文句は言わなかった。

 

 金剛は、仕事を休むことにした。彼女が選んだのは休暇だった。仕事から離れて、ただ安穏としている。それが供養になる、と彼女は言った。私もそれでいいと思う。

 私のやり方は、特に思いつかなかった。他人を思いやる方法が、あまり思いつかなかったから。

 

 山城は言っていた。

 

「幸せは、怖くないのね」

 

 私にとっては自明のことでも、彼女にとっては重大な決意だったらしくて、それから彼女は良く笑うようになった。

 電話をしながら晴れの空の下で佇む彼女は、多分明るい方を見ていたのだと思う。

 

「幸せって、怖いものかしら」

「突然デスね」

「私は怖いと思わないのだけれど」

「私は、怖いデス、少しだけ。少しだけ、デスけどね」

 

 金剛は答えた。目を伏せながら、ゆっくりとした口調で。多分、噛みしめるようにそう言ったのだろう。

 

「こうしていていいのか、わからなくなってしまって、それが漠然と怖いのデス」

「いいの。こうしていて」

「ありがとうございマス」

 

 首を傾げながら儚く微笑む姿に、私はまたときめいてしまう。私の悪癖、本性、そして愛。それがこうして首をもたげるのだ。あまりに愛らしい彼女に、不謹慎にも惹かれてしまう。人からすれば蝋人形寸前でも、私にとっては愛しのドールだから。

 

「ほら、食べて」

 

 差し出した林檎の皿の上から、ひとかけらを指で摘んで彼女の口にあてがう。

 

「ハイ」

 

 返事して、彼女はそれを咥えた。

 私のドール。私の思い通りのドール。私のための、究極のそれ。私は彼女をモノとして愛することを決意した。そして、彼女もそれを受け入れてくれた。だから、私はそれに甘えていいのだし、それを当然だと思っていいと知っている。そう、この幸せを恐れなくてもいい。

 

「そういえば気付いたのだけれど、同性愛って禁忌らしいの」

「それも突然デスね」

「でも、私、関係ないと思っているの。それに、知恵あるものがたどり着く愛の形なのかもしれないって、そう思ったわ」

「そうデスか」

 

 彼女は私の言葉にあまり干渉してこない。それもまた、私と彼女の愛の形。禁忌、非道、そんな人の道を行く私達の、拍子抜けするほどの乾き。でも、それが私の望んだ結末なのだ。私も、ひとかけらを指で摘み上げて口に放り込んだ。

 

「林檎は、甘いわね」

「でも、少し酸っぱいデスよね」

「それでいいと思うの」

 

 何故ならば、禁忌は甘酸っぱくて、人間が知るには過ぎたるものだから。

 ヒトデナシの私たちには、きっとお似合いなのだ。




というわけで恥ずかしながら帰って参りました。
Twitter上でお題をもらいながら細々と書く生活を送っていたのですが、ちょうどなんかピンと来るものがありましてアフターストーリー執筆と相成りました。即興で書いたので超短いですが。

そんなこんなで、おさらば二回の後にこの体たらく。恥ずかしいったらありゃしないけれど、恥ずかしげもなく書いてみました。
どうだ、イチャイチャしているぞ!

と弁明したところで今日の体力が尽きました。
それではこのあたりで。
ごきげんよう!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。