女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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2016/12/21
金曜からの投稿を予定していましたが、もう完成しましたので投稿します。
文字数に関してもいつもより多めです。
ご了承ください。
同日
誤字報告反映。とんでもない誤字でした。大変申し訳ありませんでした。
報告者の方にはお手数をお掛けしました。

2018/09/28
提督(当時)の軍での経歴について修正。

2024/01/04
ちょっと思う所あり一箇所だけルビを追加しました。
7年越しの反省。


かってに改造してもいいの

 提督が倒れた原因は過労だ。それは誰の目にも明らかだった。

 見つけたのは瑞鶴で、一気にパニックになって大騒ぎしたらしい。それが聞こえた皆が駆けつけて提督を医務室に担ぎ込んだ。それで、メールで大淀から連絡が来て、医務室を預かる私の出番となった。

 

 ……死んだように眠る提督は、美しかった。

 ゾッとした。正直、人間だと認識するのに暗示が必要なレベル。人間なのに、不気味の谷に足を突っ込んでいる。なんでそんな逆の現象が起きるのか、その理由は一つしか無い。

 綺麗な顔過ぎて、まるで死んでいるようなのだ。

 蝋人形のような蒼白い肌。長いまつ毛、整った鼻筋。もうなにもかもがあまりに綺麗すぎる。

 こんな人間が居て良いんだろうか。

 

 この人は、美しすぎる。信条も、その姿も。そして、鉄のようだけれどその実こんなにも脆い。

 そして、壊れたのだ。ついに。

 

 ……私のやることはこの人をなんとかして休ませることだった。

 率直に言うと、私はこの人を監禁でもなんでもして仕事から引き離すべきだった。

 けれど、できなかった。そんな無体なことをすることは。

 放っておくほうが、もっと残酷だと知っていても。

 

 川内さんは、『これで反省してほしい』と言っていた。

 山城さんは、『頑張りすぎても不幸になるだけなのに』と嘆いていた。

 大淀は、『もう、おしまいです』と誰よりも諦めていて、けれど最も正確に事態を把握していた。

 

 みんな、提督を心配していた。

 けれど、結局何もできなかった。

 

 ●

 

 

 それからはついに誤魔化しきれなくなって、提督は度々倒れるようになった。

 その都度瑞鶴は提督に泣きついたそうだ。

 

『もうがんばらないで』と。

 

 それでも、提督は笑って誤魔化して働き続けた。

 

 もう、ダメだった。ここはもうダメだった。

 

 ●

 

 最後は、ある夜に血を吐いて倒れていた。

 ずっとくっついていた瑞鶴はまたパニックになって、私を呼び出した。

 

 もう、提督は手遅れだった。

 目で見れば分かる。もう、この人は手遅れだ。

 高熱が酷い。

 それに、血を吐きながら咳き込み続けている。呼吸が上手く行っていない。せめて助けになれば、と酸素マスクを装着、でも咳は止まらない。酷すぎて、体が跳ねている。これじゃ体力を消耗するばかりだ。

 もう体が言うことを聞かないのに、目も霞んでいるだろうに、表情は鬼気迫る。目が、私を見ている。

 

 助けを求めるものじゃない。

 ここから出せと。

 仕事をさせろと、そう言っている。

 

 ダメだ。

 絶対にダメだ。もう、死んでしまう。

 この人は、死んでしまう。

 自身が分かっているはずだ。

 諦めるしか無い。溜まったツケを、ついに支払うことになった。

 その生命で。

 

 私は、無力だった。誰も彼も無力だった。この人を止められなかった。この人の助けになれなかった。

 恨めしい。

 この人のことが恨めしい。私達を助けておいて、こんなところで放り出すことが。

 私達が恨めしい。この人を助けられず、こんな苦しみと共に、あちらに送り出してしまうことが。

 なんて、情けないんだ。

 

 縋って泣く瑞鶴は、もうずっと寝ていない。この人も、落ち着く間もない。ずっと苦しんで、胸を掻き毟って痛みを訴えていて、失神すら出来ない。

 私も、見ていられなくて、でも見ていなくちゃいけなくて、泣くしか無かった。いくじなし。

 私の意気地無しが!

 

 瑞鶴は、おかしくなった。

 今度は、何もしなくなった。提督のそばに座り込んで、動かなくなった。

 ただ、呆然として涙を流すばかり。

 

 私のいくじなし。

 二人も壊れてしまった。私は、私は医者じゃあないけれど、この医務室の主なんだ。

 誰かを治すなんておこがましいけれど、それでも命を拾うための仕事をしていたはずなんだ。

 私は、一体、何をしていたんだろう。

 仕事が楽しかった。

 そうだ。

 それだけだ。

 代わりに、みんなが手持ち無沙汰で、提督が全部背負い込んで。

 私は、何もできなかった。

 何もしなかった。提督の目を言い訳に、私の楽を言い訳に。

 なんで、私はこんなに意気地なしなんだ。

 

 ●

 

 2日経った日の夜。

 もう、提督は虫の息だった。脈も弱い。山を超えるもなにもない。

 このままだと、ただ死が待つだけだ。

 そんな中、息で曇った酸素マスクの中で、彼女の唇が動いた。

 私を見ている。目が、私に見ろと言っている。

 

 私は、その唇を読んだ。

 

 ”いしょ”

 

 遺書。

 ああ、ああ、ああ、なんで、いや、そうだけど、聞きたくなかった。

 この人が諦めるところを見たくなかった。私がこんなにもいくじなしだから、最後まで希望を信じたかったから、諦めの中でこの人の死を見たくなかったから、どこかで信じていたんだ。

 この人は死なないと。

 私が、弱いから。何も考えていないから。

 馬鹿だから。

 

 ”よんで”

 

 泣くことしか出来ない私に、彼女が続けた。

 

 読めと。

 

 ”みぎのさんだんめ”

 

 右の、三段目。机のことだ。

 私は、頷いて執務室に走った。瑞鶴を置いて。

 

 ●

 

 鎮守府は機能をほぼ完全に停止させていた。今は大淀が何か必死な顔でパソコンを弄っているくらい。人気の無い司令部を、私は足音なんて気にせずに走る。エントランスを横切る。そして、執務室に駆け込んだ。

 

 無人の、荒れたままの執務室。血の跡が生々しく残る執務机の、その右の引き出し、上から三段目、一番下を開ける。色々なものが詰まっていたけれど、件の遺書はすぐに分かった。白い封筒は、一つしか無い。”遺書”、と。筆文字で書かれただけの、白封筒。

 

 読んで、と言われた。私はそれを読む。

 

 ●

 

 中身は、懺悔だった。便箋に3枚。

 一枚目の途中で、あまりに胸が苦しくなって、どうしても一人で読めなくなって、大淀のところに行った。

 2つ隣の部屋にこもりっきりの大淀のところに。

 

 私が急に部屋に入ると、彼女は驚いて、隈の深くなった目を見開いた。

 泣きながら彼女に縋り付くと、抱きしめて背中をとんとん、と叩いて落ち着かせてくれた。

 そして、二人でそれを読んだ。

 

 ●

 

 

 罪の深い人生を送ってきました。

 誰かがこれを読んでいるということは、私はその報いを受けたということになります。

 その前提で、ここに私は懺悔します。

 

 私は、妹達を戦争の道具にしました。そして、し損ねた上に却って苦しめることになりました。

 私は彼女達の世話に疲れてしまったのです。たった3人の家族だというのに、彼女らの障害を重く感じたのです。大事な妹達なのに、私は、彼女達を艦娘へと改造するよう仕向けました。軍への背信、そして彼女らへの背信です。”治るから”と嘯いて、私もそれを信じて、彼女らの人生を売ったのです。上の妹は、眠るばかりで忍びなく、下の双子の妹達は、動けぬばかりで憐れに思って。家族を憐れんだのです。私は浅ましい女です。それを糧に生きてきたと言っても過言ではありません。

 大事な家族でしたから、捨てることは出来ませんでした。私はそこまで卑劣では無いと言いたいがための、善人であるという証左のために、ただ世話を焼いているふりをしていただけなのかもしれません。自分に自分が善人だと言い聞かせたいがためにそうしていたのかもしれません。なぜなら、そうでなく真心から善人であったならば、きっと私は彼女達をまだこの手に抱いていられたでしょう。私は、彼女達をこの腕に抱くことも許されません。妹達を裏切った姉が、どうして家族でいられましょうか。

 これを読む誰かが妹達ではないことを祈ります。あの子達には私を恨み続けていて欲しいのです。そうではないと言ったあの子達の、それでも存在するはずの心の底の暗い物の、その受け皿でありたいのです。ですからこんな懺悔でほだされて、却って苦しむことがあってはいけないのです。

 

 私が医者になったのは上の妹を哀れんだがためです。この卑小な自尊心を満たさんがための、幼稚な動機だったと思います。そうして医学では何も出来ないことが素人ながら学び始めてから分かり、せめてこの手を世の人々ために生かせればと思いましたが、それでも私達姉妹にはあまりお金がありませんでした。奇しくも上の妹の障害と生活保護で世話をして慎ましく暮らすことだけは出来ましたが。ですから、私は軍医学校に入学することを目指しました。

 親はとうの昔にいなくなりました。私だけが顔を覚えていますが、居たことを覚えているに過ぎません。どういうわけだったのかは私自身思い出せません。果たして病死だったのか、事故死だったのか、蒸発しただけでまだ生きているのか、それすらも。まだ平和な世の中だったと思いますが、私達の家は茫漠としていました。それでも、私は彼女らを憐れむ心があったから、それだけで善人を気取っていられるだけの道徳を得ました。

 

 

 ●

 

 

 私が世話を焼いていたのは上の妹だけでした。彼女はいつからか意識障害を患っていました。一度眠り始めると数日から数週間は植物状態に近い状態にある一方、時折目覚め、また眠る。そんな人間でした。原因は謎のままでした。障害等級に関してもとりあえず一級が付けられました。軍医学校に通っていた頃はどうにか人に頼むということが出来ましたが、それは双子の妹達が障害者として認定されたからです。障害年金が更に降りました。

 みなしごの私達を疎んだ誰かが、双子の妹達を手に掛けたのです。所謂いじめというもののエスカレートしたもので、それはもはや私刑とも呼ぶべき凄絶なものでした。上の方は足の腱を切られ、そして折られ、下の妹はそれを守ろうと奮闘し、暴力を受けて目と耳に障害を負いました。これを読んでいるのが誰かはわかりませんが、今の榛名と霧島のことです。もうおわかりかと思われますが、比叡、榛名、霧島の三人は私の実の妹です。彼女らの世話に疲れ魔が差した女の、憐れな妹達です。

 

 私は海軍軍医となり、しばらく経験を積むと大尉となりました。そして、その頃から艦娘というものが海の防人となり、私はなるはずだった船医としての立場を失いました。艦がないのです。深海棲艦に尽くが沈められ、もはや持っていても意味のないものとなったのですから。残った僅かな艦のお付きには、私はなれませんでした。せめてもの慰めでしょうか、軍病院に籍が用意され、そこに暫く勤めました。けれども軍は生存者より死者が多すぎて、私が診ることの出来た患者は、ほとんど居ませんでした。

 そうしてこのまま臨床経験もろくにないまま民間に降ろうかと考えていた、そんな私に用意された階級とポストが、中佐であり、ここ大湊の責任者でした。

 艦娘の不良品・失敗作・異常者、そういったものらの運用方法を模索せよ、そういうお達しでした。私は陸に上がることが出来、他人を嫌がる双子達の世話を出来るようになりました。警備府のそばに家を借りて、妹達全員を連れてきました。

 

 

 ですが、私は人に仕事を頼むということが病的に出来ないたちだったのです。あまりに愚かなことだと思いますが、私はそれができなかったのです。私自身自覚はあるのです、けれども、どうしても出来ないことでなければ他人に任せることが出来ないのです。どうか、これを読むのが明石ではありませんように。仕事を任せているのが、ただ私が出来ないからであると、頼りにしたくはないのだと言いたくないのです。

 

 

 ●

 

 

 いずれ私は潰れます。いえ、今が潰れてしまったその時なのです。

 それでも、私はやめることが出来ないのです。そういうたちで、そういう星のもとに生まれてしまったのです。そんな中で、世話に疲れてしまったのです。そして、艦娘への改造が人間の治療技術として先進技術であるということも知ってしまいました。私は医学を修めました。けれど、そんな甘い言葉に、疲れた私はすがりました。立場を利用して、妹達を軍に売り払ったのです。あの子達のためだと、そう言い聞かせて、きっと元気になると妄想を抱いて。

 

 確かに、少しは治りました。けれど、不完全でした。あまりに不安定で、決して治ったとは言えません。比叡は目を覚ましている時間が多くなりましたが、そのかわりに唐突に意識が飛ぶようになりました。榛名は突然歩けなくなるように、霧島は目も耳も回復しましたが突然もとのように見えなく・聞こえなくなります。

 それは却って彼女らを苦しめるものでした。取り戻したものを、いきなり前触れもなくまた奪われる。その絶望が、諦めか如何程かは推察しか出来ません。彼女達は今までよりはましだと、そう言って私を許してはくれましたが、私自身が許せませんでした。非道い姉と罵ってくれれば良かったものを、彼女らはただ私に情けを掛けるばかりです。

 

 私は、罰を受けました。一人で何でも出来ると思いあがった罰を受けました。ですが、それでもこのたちを直せないのです。ですからどうか、私の燃え滓のような体でも、どうにか軍に売り渡して艦娘へと改造するように計らってもらいたいのです。死ぬわけにはいきません。遺書とは銘打ったものの、私は死ぬつもりなどないのです。生きて罰を受けなければならないのです。死ぬ日が、今日であってはいけないのです。

 

 瑞鶴のことをしばらく頼みます。私は死ぬわけにはいきません。あの子が幸せになるためには、私は死んではいけないのです。妹達のためにも、艦娘の皆のためにも、これを読んでいるあなたのためにも、私は死ぬわけにはいかないのです。

 

 どうか、よろしくお願いします。

 

 

 ●

 

 

 最後に署名と実印で締め括られていた。

 それは、あの微笑みの裏に隠し通してきた提督の暗いものだった。

 あまりに重い荷物を、あの人は抱え続けてきたのだ。

 

 このまま死なせてやりたい。

 私には、そのほうが良いとすら思えた。

 

 けれど、瑞鶴。

 彼女のために、彼女を私達は放ってはおけない。

 彼女を憐れむ私達は、提督の命一つを無理やり生かす程度で済むならば、そうするだろう。

 手立てがない。瑞鶴までも失うのか。彼女の正気をもう一度奪うというのか。

 今度は止められない。止めきれない。彼女はきっと狂気の中で死んでいくだろう。

 

 大淀、と唇を動かした。

 彼女は、私を抱きしめて、解くと私の目を見てこう言った。

 

 ”お金は準備できました

 これで鎮守府の機能を 他の基地にしばらく代行してもらいます”

 

 私は、息を呑んだ。

 大淀は、今や提督の代行だった。

 動いていた。提督が働かなくていいように動いていた。

 この鎮守府を守るために。ここの看板を守るために。

 

 私は、頷くと医務室に戻った。

 

 ●

 

 医務室では、提督がドアを見つめて待っていた。

 

 私は入ると、泣いて縋り付く瑞鶴の頭を撫で、そして提督の手を握り頷いた。

 

 彼に、メールを送った。

 

 ●

 

 

 次の日の昼。

 提督の”遺体”を、横須賀から来た車が運び出していった。それを私達は見送った。

 

 瑞鶴はまた壊れてしまった。提督がいないから。

 私達はただ薬を調達して無理やり飲ませてなだめすかすだけだった。すまないと思いながらも、薬で朦朧とした彼女に酒を流し込んで眠らせた。

 

 大淀は実は鎮守府のお金に手を付けていて、それを運用していた。今はもう出た利益だけを動かしていて、既にお金は元に戻しているのだそうだけれど。ほぼ犯罪だと思った私は、かつて私達が練った計画をむりやり実現すべく、私が提督の筆跡を真似て書類を作り、大淀への特別許可が降りていることにした。

 そうして、大淀に全てを賭けた鎮守府運営は続いていく。

 

 そんな日が1ヶ月ほど続いた。

 

 

 ●

 

 

 1ヶ月後、金剛という戦艦の人がやってきた。

 彼女は真っ先に瑞鶴に会いに行き、”帰還”を告げた。

 

 瑞鶴は、ようやく正気を取り戻した。

 そして、縋ってまた泣いた。

 

 この”金剛”は、提督だ。私達が3ヶ月くらいかけた改造を、1ヶ月で終わらせて無理やり戻ってきたのだ。顔色は未だ悪い。どうせならもっと休んでくれればいいのに、と思った。大淀も、肩を落として呆れるほどだった。ただ、命を拾ったことを皆は喜んだし、私も安堵した。

 

 それで、次の提督が来るまでは金剛になった提督が秘書艦ということでしばらくまた仕事をしていた。懲りない人だ。随分体が楽になったそうで、それはそうで良かったのだけれど。

 

 

 ●

 

 

 次の提督が来た。叢雲という駆逐艦娘を伴ってやってきた、車椅子のその人は――――――――

 

 まさかの我らが少佐。

 マジで?

 

 ――――――――あ、これは神の采配だ。

 やった。

 誰の差し金か知りませんけど、ありがとうございます。

 ここは救われる。

 ありがとう。

 

 ありがとう。私達を導いてくれるひとがきた。

 彼女なら大丈夫だ。私が保証する。

 戦争を終わらせた張本人みたいなものだ。情報を徹底的に集めて裏を取り、部下を頼り、そして合理的に使ってくれる人。そうだ、この人のような提督が必要だったんだ、ここには。

 私は最初から分かっていた。

 どんな人間でも扱える人間が、ここには必要なんだって。

 提督、金剛さんの手には余っていたのだから、そもそもダメだったんだ。

 この人ならば、この人の手の平なら、私達は存分に部下として振る舞えるはずだ。

 働き者の彼女にも、金剛さんにも安息を与えてくれるはずだ。

 

 私は安堵して崩れ落ちた。

 それを、隣の大淀が受け止めてくれた。

 ああ、本当に良かった。

 

 

 ●

 

 

 新しい提督によって、私達の業務はゼロから再編された。

 私の趣味、もとい本業だった資金運用も業務に組み込まれ、鎮守府の財源調達に一役買うことになった。そして、給料も純粋に上がった。

 

 ……一度運用を失敗していることについて話をして、その理由について問われて答えると、中佐、新しい提督は私に仕事を任せてくれることになった。また何か起きてもバックアップに提督がいるというのが大きい。

 

 実は、私が一度運用で大損失を出したのは、当時恋人にフラレて虚脱状態にあったからだ。それで気がついたら大損。さしもの私でも逆転不可能な状況に陥っていた。それを兄さんに言ったら、助ける方法として艦娘への改造があると言われた。金が出る、と。口を滑らせたのを聞き逃さなかった私の勝ちだ。そのまま無理やり説き伏せて、私は軍人になり、そのまますぐに艦娘へと改造を受けた。痛かった。担当は兄さんじゃなくて、小難しいことばかり話すハゲ親父だった。生理的にダメだけど、人間的には悪い人じゃなかった。

 

 戸籍はこれからも資金運用を続けるためにちょっと誤魔化して貰った。結構国のシステムもアバウトなものだと思う。まぁ、戦争のゴタゴタの整理が未だについていない、ということでもあると思うけれど。

 かくして艦娘になった私は、素性を知っている兄の差し金、雷撃戦が得意ではないという理由で微妙扱いされたのもあり、大湊に流された。事務員役なら得意だし、と思っていたのだけれど、実際は空前絶後の暇ポストだった。お陰でまた小金持ちになれたのだけれど。私も懲りないけど、お金は好きだし貧乏は大嫌い。

 

 そんな中、彼女がやってきた。兄さんの彼女になった、明石っていう工作艦。すぐに仲良くしてくれて、プレゼント攻撃にも引かないでくれた。

 

 ……そしてあの夜、私は嬉しかった。私の大好きな彼女が、将来の姉が、私を頼ってくれたから。甘えてくれたから。兄さんには、この人を離さないよう祈るばかり。目指せ結婚。そうなると私は嬉しい。だって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の顔を、唇を見つめてくれる人が、

 私の家族(およめさん)になるのだから。

 




番外編-1、これにて投稿終了です。
読了お疲れ様でした。

明石の視線で見る鎮守府の過去、そして大淀との友情。
大淀の内心。
番外1はこういう内容でした。

話タイトルは途中から筋肉少女帯、もとい大槻ケンヂ氏関連の楽曲タイトルを捩ったものです。
特に最終話、「かってに改造してもいいの」は元曲の歌詞を御覧ください。
提督が何になりたかったのか、おわかりいただけるだろうかと思います。

これと番外編2でバックグラウンドは大方整理できました。
何か矛盾点・破綻など見掛けられた方はお手数ですが、感想欄あるいはメッセージにてご一報ください。

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