女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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彼女が正気だった頃のこと。

2017/11/22
集められた精鋭の艦娘ですが、横須賀は除外しました。あしからず。

2017/11/26
舞鶴を忘れていました。てへ。

2018/08/08
横須賀はやっぱり居ます。色々裏舞台について検証した結果、いることになりました。
本当に申し訳ありません。
ついでに時雨のことを加筆、山城については改訂しました。

2018/08/09
このままだと雪風が何の理由もなくいつのまにか存在していたことになっているので、今更ですがメンバー紹介に加えておきます。
色々変わってしまいますが、ご了承下さい。


労働者A

 北海道東沖に向かう艦隊がやってくるらしい。

 あっちの方に深海棲艦の大拠点があるという事が判明して、そこの征伐に行くんだそうだ。

 戦力集中というわけで、ここも中継地点として使われることになった。最前線は幌筵になるけれど、ここの艦隊では手に余るということで、各鎮守府の精鋭が集められることになった。で、艦隊の装備の保守、幌筵まで送る資源の手配を任された。

 

 中には航空戦隊が居た。

 多分現地で3個艦隊くらいに振り分けられると思うんだけど、6人の正規空母だ。

 一航戦、赤城と加賀。二航戦、蒼龍と飛龍。そして五航戦、瑞鶴と翔鶴。

 赤城は赤い袴に白い道着、長い黒髪。リーダー格。

 加賀は青い袴、黒髪をサイドテール。赤城より艦載機搭載数が多く、おそらくは正規空母最強格だと思う。無愛想に見えるけれど、気が強そうだ。目が違う。

 蒼龍は緑の道着に黒い袴、ツインテール。更に日の丸鉢巻。多分全員の中で一番胸がおっきい。爆弾だ。

 飛龍は橙の道着。黒髪のおかっぱ。蒼龍と同じく鉢巻。蒼龍よりは爆発力で劣るものの……いや、それは良いとしてかなり勇ましそうだ。

 翔鶴は長い銀髪に赤い鉢巻。白い道着、赤い袴。ちょっとアクの強いメンツの中で最もキャラが薄そう。ひどい言い方だけど。あと提督ほどじゃないけど幸も薄そう。幸多からんことを祈るばかり。

 それで、瑞鶴。深緑の髪をツインテール。道着と袴は迷彩色。……彼女は終始沈んだ顔だった。性格は、暗いのか明るいのかよくわからないけれど、何か気が削がれるようなことがあったのは確かだ。

 そう、到着時、皆は妙に消耗していて、瑞鶴だけはピンピンしていた。何故だろう。何か、責任を感じていたのだろうか。リーダーは赤城だって言うのに。何か下手をしたって言う割には、瑞鶴を慰める様子はない。ただ考え込んでいる様子だった。

 

 それで合間を見て、

 

 “そんなに思いつめない

 ほうが良いですよ

 きっと上手くいきます”

 

 って書いて見せて、タブを渡したら、

 

 

 ”そういう問題じゃ

 ないみたいで   “

 

 って返ってきて、

 

 “どうして?”

 

 と聞いた。彼女はやはり浮かない顔で、

 

 ”私は疫病神だから”

 

 それだけ。どうしてそんなに後ろ向きなのかなぁ、と私は思っていたのだけれど、それを言っても多分、『思い違い』だと言うんだろう。この子もなんだか色々あったんだろうな、と思った。普段ツイてないだけで、きっと本番には幸運の女神様が微笑んでくれるだろう。優しい子だと思うから。

 

 さて、こうしてにわかに増えた仕事だったけど、なんとか1日以内で終わらせた。

 全体のスケジューリングから始まり、修復剤の調製計画、資源の手配、高速修復材手配、妖精さんへの着工指示、艦娘本体の修復手配、経過の確認、そして修理竣工。結構なハードスケジュールだったが、一日くらいならばわけはないことだ。仕事は段取り八分とよく言ったものだと思う。スケジューリングのためにかなり聴取などして不確定要素を減らしていったけれど、それが絶対後に効いたと思う。情報を制すれば何事も制する、間違いない。義理も何もないはずなんだけれど、私はあの大隊の正しさを証明し続けていることになるなぁ。まぁ、今回の仕事を10日連続でやれるような無理ない段取りができればもっと完璧なんだけど。

 あー、いや。少佐なら『人を増やせ』で一発か。なら今度からは夕張にも修復関連を手伝ってもらおう。提督に許可を貰ってあの子にも仕事を教えてしまえ。

 

 と、思ったんだけどなんか、駄目って言われちゃった。提督もどうしようか困っていたけれど、結局工廠の増設してキャパ自体を増やそうと考えたみたい。それで上に申請したよって教えてもらったけど、どうやら通らなかったらしく、またごめんなさいって言われちゃった。

 あーうん、ここってこういう時くらいしか忙しくならないのは事実だし。どうしたものかなぁ。

 と思ったら夕張が勝手に覚えてた。……とりあえず、褒めとこ。襲われても困るけど、懐かれる分には、まぁ悪くないかも。

 

 ●

 

 それからしばらくして、北伐艦隊が大敗を喫したことを知った。

 私の気掛かりはあの瑞鶴という子で、また思い詰めて悩まないといいな、と思っていた。

 

 そして、何の皮肉だろうか、ここを中継して本港に戻っていく艦隊で、正規空母はあの子しか残っていなかった。艦隊を構成する艦娘達も随分数を減らしていて、中でもあの子だけは傷一つなく、けれどどうしようもなく痛ましかった。

 見ていられなかった。目を泣き腫らして俯き、両手で身を抱いて震える姿。怯えている。どうしようもなく恐ろしいものを見たように。

 ここで一旦軽く整備してから艦隊を解隊するから、またあの子と話す機会があった。

 

 ”気を落とさないで”

 

 そう差し出したタブレットは、彼女の手には渡らなかった。ただそれを見て、私を恨めしそうに見るだけだった。

 いや、恨めしいだけじゃない。どうしていいのか、分からない。迷子の子のような悲しい表情だった。

 私にもどんな言葉がこの子に必要なのか、もう分からなくなって、無力さが情けなくて泣いた。

 

 でも提督は、彼女をただ抱きしめた。その身で受け止めた。涙を流した。彼女のために。失われた命のために。

 あの子も号泣だった。私にそれが聞こえたならば、さぞ大きな泣き声と思ったろう。そう思う。

 

 そうか、言葉は要らなかったんだな。……私と彼は文字で結ばれているけれど、あの子はそれでは届かない。でも、抱きしめることでなら心を伝えられるんだ。私も、彼に抱きしめて欲しくなった。控えめな彼の、熱い心を感じたかった。

 

 ここを去る時、あの子は少しだけ立ち直ったようで、でも提督と離れるのが少し名残惜しそうだった。

 でも提督が笑顔で送り出したから、あの子も笑顔で行った。

 良いことがありますように。あの子が幸せになりますように。そう願わずには居られなかった。

 私も彼女に手を振ると、おずおずとした感じだったけど返してくれた。頑張れ、瑞鶴。

 

 ●

 

 さて、提督がこちらで暮らすようになって3ヶ月ほど。

 いつの間にか高速戦艦が3人も来たと思ったら、みんな戦力外。しばらく提督は凄まじく落ち込んでいて、毎日泣いていた。やつれた顔がもっと酷くて、なのに美しさだけは研ぎ澄まされていくようだった。不吉さもより一層。いつも見せていた無理な笑顔すらも消え去っていた。

 強力な戦力がついに揃ったと思ったらこうなんだから、そりゃ私だって落ち込む。とてつもなくショックだったみたい。でも、本当にそれだけなんだろうか。だって、言ってしまえばここに来るのは例外なく不良品なのだから。だから多分、あの金剛型姉妹、比叡・榛名・霧島は提督にとって特別な艦娘なんだと思う。

 

 私達“不良品”の中でも戦える人達は、ちょっと頭がおかしいのばっかりだ。気のいい仲間達でもあるんだけれど。

 

 大井・北上コンビはいっつも一緒で他の艦娘と組むことを拒む。大井はあからさまに、北上はさり気なく他人を拒絶する。レズビアンなんだと思うけれど、物凄い依存心が強いと思う。引き離す言い訳を誰か考えるべきだと思う。でないと二人艦隊でどこかに出すしかない。なまじ瞬間火力は物凄いだけに戦力として無視できないのだし。多分、悪い人たちではないんだけれど。だって邪魔をしない分には気の利く二人組だ。醤油を取ってくれる。ソースも取ってくれた。安い女って笑いたければ笑ってよ。醤油とソースで落ちる女だって。

 

 雪風は……話を聞くと、実は警備府が発足した当時からいるらしい。なんでここに居るのかを聞いてみると、”いごこちがいいので”と言っていた。というか、書いていた。全文ママである。

 彼女は何故かは知らないけど……漢字が書けないし、あんまり読めない。タブレットにちょっと長い文を書いて見せたら、やるせない表情で、”ごめんなさい あたまがよくないので”と書いて返してきた。彼女の立ち振舞とかを見ている限りでは、そう思わなかったのだけれど。ただ、日本語の読み書きがおぼつかないところがあるのは事実だった。

 そのかわり、彼女は異常なまでのツキを持っている。大淀が真っ青な顔で私に話してくれたんだけど、こと”賭け”と言えるものに関して一切負けないというのだ。

 ……バイナリー・オプション、だったっけ。とりあえず二択でお金が増えるらしい。大淀はそういうのは手を出さなかったんだけれど、豪運で有名な”雪風という艦娘”に試してもらおうと思ったのだそうな。もちろん儲けは全額進呈という条件で。

 そうしたら、当たるわ当たるわ。異常なまでに当たる。ハズレが来ない。確かに、当てようと思えば当てられるとは言っても、勝率は5割5分行けば御の字なのだ。けれど、そこで全勝してしまうのだ。金額が大淀すら震え上がるほどに膨らんでしまって、思わずストップをかけた。そこで儲けは全て雪風にプレゼントだ。雪風は、”いくらでも増やしてあげます”と言っていたそうだ。大淀はそこでドン引きしてしまったわけだけれど、雪風は何故か機嫌を良くしたらしい。

 なんでここに居るんだろう?軍人よりギャンブラーのほうが向いてると思うんだけど。

 

 木曾は不良を拗らせてる。何があったのか分からないけれど、カッコつけというレベルを通り越して孤独なのだ。何をするにも一人。でも、大荷物で私が少し困っていると、何も言わずに手伝ってくれる。古式ゆかしいツッパリみたいな子だ。右目は眼帯で覆われているけれど、どうやら見えていないらしい。治らなかったのか、と聞くと、もう神経が切れてると言っていた。私も聴神経が無くなってるからそこは理解できた。一種の仲間だ。お互いにそれを伝えあうと、確かにシンパシーで繋がったのが分かった。

 

 五十鈴は他人の立てる音が生理的にダメで誰とも一緒にいられない。だから声を出せない私は彼女と比較的円滑にコミュニケーションが取れる。ただ、私は耳も聞こえないからどんな音を自分が鳴らしてるか、他人よりも気をつけなきゃならない。彼女自身も自衛のため、他人と居る時は耳栓をするか、テレビかラジオを大音量で鳴らしている。そうやってフィルタするとまだ気にならないらしい。そういう敏感さと音への怒りを生かして対潜戦なんかは十八番なんだけれど、他人と組めないのが本当に残念だ。

 

 川内は木曾の抑えは出来るけどちょっとネジが飛んでて一匹狼だ。それに加えて夜しか行動できないから、夜戦以外の戦闘ができない。それも彼女が色素欠乏症――――アルビノだからで、いつも黒い服にサングラスだ。黒髪はなんとか染められているみたいだけれど、肌は病的を通り越して石膏のように白い。目も見ることがあるが、うさぎのように赤い。サングラスを取った時は弱い白熱球の光ですら、かなり眩しそうに目と眉を細めていた。生き辛いだろうに破天荒で明るいのが救いだ。いや、だからこそ、そうあるのかもしれない。

 

 神通は他人の心配のしすぎでヒスを起こすから本人が遠慮する。彼女も一体何があったのかは分からないけれど、訓練なんかだとものすごく他人に厳しい。それ以上に己に厳しいのだけれど、同レベルあるいは少し下のレベルを他人に要求すると、己が潰れる前に他人が例外なく全員潰れてしまう。そういったことを何度か繰り返して、神通はもう他人と組むことをやめてしまった。川内は実の姉らしいのだけれど、彼女のホリックぶりには手を焼いているみたいだ。彼女から話を聞こうとしたら、口を噤んだ。何か、重大な秘密があるらしい。そっとしておくべきだ。

 

 鳳翔さんはうーん、まぁ、仕方がないのかも。あの人は戦わないけれど。ここに来た事情はサラッと話してくれたけれど、他人に話す気には全然なれない。ちょっと酷すぎた。人格破綻気味なんだけど、それもやむなしかと思う。あ、でも根はすごく善良。ノリもいいし、やること為すことは“いいこと”ばかり。ただどうやらそれに至る心理が邪悪な感じらしくって。

 

 そして最近やってきた、北海道沖帰りだという山城さんは……めんどくさい。こう言っちゃあ何だけれど。他人の盾になるといえば耳触りはいいに決まってる。けれど、彼女は戦艦だ。耐久力そのものも高いけれど、修理コストも馬鹿にならない。それでも彼女が盾になり続ける。笑って。なんか、怖い感じに。それで訳を聞いてみると、肩を掴まれて顔を近づけられて、『不幸よね、私不幸よね』とか言われた。正直すごく怖かった。唇を読んでてゾワッと来たのはこれが初めてかもしれない。後から聞くと、そういう性癖というより色々あって幸せが怖いという感じらしい。もう少し素直でもいいと思うのにな。

 

 山城さんと同じく北海道沖帰りという時雨という駆逐艦も、私達イカれたメンバーに加わった。……自分で考えてて馬鹿らしくなるけど、まぁ事実だから仕方ないか。

 彼女は山城さんとは違って、”わかりやすく”相当やられていた。大湊への転籍は舞鶴から車でやってきた。艤装と一緒にワゴン車に乗って。運転手はまさかのまさか、舞鶴の提督だったそうだ。提督とは会ったことは無いらしいけれど、聞いた話では”信頼している”ということだそうな。それで、すぐに提督は彼女のカウンセリングに入った。流石にすぐに回復の兆しは現れなかった。……はずなんだけど、いきなりちょっと立ち直り始めて、木曾のやっている、青森-北海道間を行く船の警護に参加するようになった。二人組、ではなく交代要員としてだけれど。木曾が拒否したらしい。ともかく、時雨が言うには、

 

”守るためならね。まだ戦えると思う”

 

 けれど、もう自分から戦場に向かうのは嫌みたいだった。だからこんなところに来たわけで。

 

 ……いろいろな事情を抱えている彼女たち。私も含めて。

 そんなんだから、重要作戦に参加するには無理がある。提督は皆をうまく制御できなかった。皆も自分自身を制御できないんだけれど。協調というものが全く出来ないのだ。艦隊の体を為すことが全くできなかった。でも協力が出来ない代わりに練度はものすごく高いから、もうこの際単騎で行動させればいいと思うんだけれど、提督はものすごく心配してそれを徹底的に拒んだ。なんとか艦隊として行動できないかと、ひたすらに頭を悩ませた。

 そして、徒労だった。

 

 


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