女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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感想では本編を先に投稿すると返信しましたが、
すまん ありゃウソになった
明日は本編を投稿します。多分。

2016/11/28
段落1マス開け追加。
途切れたままだった文を追加し、文の言い回し修正。
申し訳ありませんでした。


工廠、便利をよくしてあげよう

 ある日、昼の食事が終わった所で大淀からプレゼントを受け取った。おお、これが噂のプレゼント癖か。私にも被害もとい恵みが及んできた。しかもご丁寧にトリコロールの包装紙でラッピングしてあった。箱型だ。それに、見た目で見積もっていたよりちょっと重い。これは電子機器だろうか。そうして手に乗せて中身を推測していると、彼女が茶色の紙袋からもう一つ箱を取り出した。こっちはラッピングしていない。サイズは私のより小さいけれど、幅は同じ……箱を見ると、売れ筋の高性能タブレット端末だった。大淀は林檎派だったのか。

 ラッピングの上から箱を触ると……いや、私の貰ったこれって、箱が何個か固まってるだけ?

 手触りで中身を確かめていると、彼女はすぐにもう2つ箱を出してきた。タブにフリーハンドで記述できる専用ペン、それとキーボードだ。これ、タブレット専用の機器だ。合わせるとほとんどパソコンみたいになる。10万で収まるかどうかだ……。

 数ヶ月前ふとした時に調べたことがあって、値段は覚えていた。欲しかったからなおさら。だからこのプレゼントの重さがちょっと増えたように感じて少し怖気づいてしまった。小脇に抱えて、落とさないようにしながらメモパッドに、

 

 ”これ、高いものじゃないの

 もらっていいんですか   ”

 

 そう書くと、彼女も私と同じように箱を左脇に抱えて、

 

 ”ちょっと儲けが出たから

 おすそわけです     ”

 

 どうってことない、というふうにいつもの微笑み。

 なんて豪快なおすそ分けなんだ。こんな不景気極まる世の中で。バブルじゃないのに。というかちょっと出た儲けの一部だとしても、その“ちょっと”は如何程なんだ。どれだけの規模で取引しているんだろう。私にはとても出来ないと思った。私なんか節約することでしかお金を増やせない人種だから、彼女への尊敬が強まった。彼に聞いたとおりだ。大淀は、すごい。お金のセンスがあるとは言っていたけれど、そんなもんじゃない。きっとここの提督よりお金持ちに違いない。買ったら給金の半分くらいは吹っ飛んでしまいそう。それをなんと2つだ。なんてこった。とんでもないブルジョワジーと仲良くなってしまった。気が引けてくる私に、彼女は

 

 “一緒に使ってみましょう”

 

 そう言ってすごく楽しそうな笑顔だった。掛け値なしの好意に私はまた怯むけれど、気持ちはとても嬉しかった。そんなわけで、私達は仲良く昼休みにセットアップ作業をしたのだった。それからは基本的にこのタブレットが私と彼女の間の会話ツールになった。

 

 ●

 

 ところでこのタブレットなんだけれど、ペンのお陰でそこそこの精度の製図が出来ると気付いた。

 画面も結構大きいし他人に見せやすい。加えてプレゼンテーションがしたければ、画面をプロジェクタやらモニタやらに出力すればいい。とっても便利なので、私はこれを仕事に使うようになった。どうせ肌身離さず持ち歩くものなんだし。

 すると提督は大慌てしちゃって、心配ばっかりしていた。どうしよう、とか。経費で立て替えようか、とか。私は、貰い物ですから、と遠慮したけれど、大淀から貰ったものだと突き止めると、彼女は大淀にお金を渡していた。

 なんというか、複雑な顔をしていたのをよく覚えている。しかもどうやら出処が彼女のポケットマネーだったみたい。上層部は経費として認めてくれなかったらしい。押しの弱い彼女らしい。なんというか、ものすごく不憫だ。

 これからはちゃんと経費で買ったもので仕事しないとね、と二人して反省した。バレないようにすれば……いや、いつもみんなに声を掛けて回っているから無理だ。またバレて同じことになりそう。

 

 なんというか、ここの提督は優しすぎてこっちが心配になる。ちょっと落ち着かない。

 だから居心地は……なんとも言えない。

 決して悪いわけじゃない。むしろ良いほうなんだけれど。

 

 なんだか、少佐の部隊が少し恋しくなった。

 決して仲良くしていたわけじゃない。でも悪い関係でもなかったと思う。

 やりにくいかと言われると、格段に今より仕事がやりやすかった。

 私達が「あれこれが欲しい」、あと理由を言えば一旦内容を纏めてくれる。その上で私たちに再度検討することを勧めてくる。だから、私達の要求の一部を私達で取り下げることだってあった。要らないものと気付いたら買うことはない。適切なものを適切な値段で手に入れる、これは教訓になった。染み付いたわけではないけれど。

 それでも欲しい、と結論が成れば、きっちり上から予算を取ってきてくれる。

 常に正論の人なだけに弁が立つのだ。というかド正論でここまで上り詰めるには相当な弁舌力がなきゃ無理とも言うけど。

 要するに、提督とは違う方向だ。あそこは……そうだ、学校に似ているんだ。教えることに嘘はない。常に正しく導いてくれた。……最後の戦いの失態は全員の責任だけど、一応作戦は成功したから導きに間違いはなかった。それが不完全だったのだけれど。でも、それなら私達にも考える能力はあったはずだ。それに、進言すれば聞き入れる器の人だった。私たちはちょっと考えなさすぎたと思う。

 

 でも、この実家のような、そう、実家の母親のような、無償の愛で包まれたこの鎮守府は嫌いじゃない。

 哀れみではなく、愛で包まれたここは。

 でも、ここも私達を考えさせる場所ではないのだと思う。危機感がある。

 私はここが、このままパラダイスで有り続けるはずはないと思う。

 

 ……出来ることをしよう。私が出来るのは、コスト節約くらいだけれど、経費節減は重要な課題だ。その他は、それが実現できてからだ。実現できなければ、別の問題を探すんだ。少佐がそうしてきたように、私もそうするだけだ。

 ここをいい鎮守府にしよう。そのために、私は考えよう。

 

 受容(アドプト)。適応(アダプト)。そして改善(インプルーブ)。私達の大隊のスローガンだ。

 状況を認識し、状況を理解し、状況を変化させる。

 そのためには、考えるべきだと。私は、尊敬する、憎らしい、美しき大隊長に習ったとおりに。

 

 ●

 

 そのために、工廠の管理についてはある程度の自動化を進めることにした。

 妖精さんは作業班と道具を出し分けて、指示系統を確立しよう。その上で妖精さんを必要なだけの数をタスクに振り分ける。私はその統率、あとは私にしかできない作業を担当していればいいり幸い妖精さんはみなスペシャリストだ。彼らの仕事ぶりを記録し、それを報告書にまとめて提出、こうして工廠の情報が全て私に集中するようにする。

 妖精さんもタスクの種別ごとにチームを作り、妖精さんからの伝達もある程度収束出来るようにしなければ。同じだ。少佐が昔から積み重ねてきたように、私もここのシステムを構築するんだ。妖精さんは気まぐれではあるけれど、結果を抜きにすれば基本的に協力的だし、従順だ。だから単純な指示をチームに与えてて、それを組み合わせることで大きな作業までスケールアップできる。こうなったら組織図も作ろう。仕事は山積みだけれど、一度雛形を作れば妖精さんと協議が出来る。

 進もう。考えて前に。

 これによって、工廠はエリアを4つ程に分割して稼働させることができる。

 

 ●

 

 まずは全員に模様替えの指示を出すことにした。工廠は現在ワンエリアですべてを賄おうとしているけれど、それでは雑然としてしまうリスクがある。現場の片付けは重要だ。そのリスクを低減するためにはまずエリアわけ、そしてエリアを分けることで独立してエリアごとに別作業を割り当てる。こうして高効率で並行作業が可能になるはずだ。ちょっとしたプラントエンジニアリングだと思うけれど、建設ということならば昔取った杵柄というやつだ。

 やり遂げよう。前に進むために。

 

 ●

 

 妖精さんの数は多い。それに種族の数も多い。だからまずそれぞれを集合させ、そもそもチームを単一職から組むのか、複数職で組んでチームだけで一つの案件を回すのかを検討した。恐らく、前者だろう。規格統一と効率を上げるとなればこれがベストをならば他チームとの橋渡しは私がやればいい。要は組み立てメーカーと部品メーカーを一緒にしないのと同じ。分担させないと、妖精さんが混乱してしまう可能性だってある。仕事に線引きをするんだ。

 

 ●

 

 すぐにエリア分けは終わった。

 工廠も第一室から第四室までで4つの作業をこなせるように最適化が出来た。

 あとは作りたいものによってどういう指示を出せばいいのか、それをテンプレート化していけばいい。

 ここからは日誌が役に立ってくる。私がどういう指示を妖精さんにしてきたか、まとめてきたものが。

 読み解いていくと、どれだけの資材を使わせればどんなものが出来てくるか、ある程度の傾向が見えてきた。

 あとはこれで十分にやっていけるはずだ。

 そう、私の工廠が出来上がるんだ!

 これからもきっと色々直すところは出て来るけれど、そもそも考え方が間違っているのかもしれないけれど、これが私のやれることなんだ。問題があれば、受容・適合・改善だ。

 改善がなくなるまで油断せず、でも無理をせずにやっていこう。

 それが彼の、私の望みだから。

 

 ●

 

 そんなご機嫌の時期のある日に、大淀がこんな提案をしてきた。

 

 “読唇術を覚えてみませんか”

 

 場所はいつもの食堂、昼休みの時間だ。タブレットに映った文字はその一行。

 私が顔を上げて彼女を見ると、楽しそうな顔。

 ……私としては、今はそんなに必要ないかなぁ、とも思って、

 

 “これがあるからそんなに困らないと思いますよ”

 

 そう書くと、

 

 “手も使えない負傷者が出たときに、

 口だけ動かせるなら意思疎通が出来る

 それって、結構使えると思うんです ”

 

 あ、そうか。今まで自分の境遇を棚上げしていたけれど、私だってあのときは唇をなんとか読んでもらったんだった。そうだなぁ、それなら、覚えてみてもいいかもしれない。

 大淀はやっぱり私より頭がいい。そんな人が私とこんなに仲良くしてくれるのは、なんだか忍びないところがあるけれど、だからこそ私は頑張ろうと思った。これもまた一つの改善の道だもの。ですよね、少佐。

 

 

 

 ●

 

 それで、練習が始まった。

 大淀の”わたし”を読めた時は結構嬉しかったから、どんどんのめり込んでいった。

 この時、私は目をフルに活用する。

 唇の形・その奥にちらりと見える舌の動きを観察、答え合わせと読唇を繰り返す。

 当然効率が良いからどんどん正確に読めるようになっていった。

 こういう時の役にも立つってのはいいなぁ、と人類のテクノロジーに関心しきり。

 

 それにしても、大淀は綺麗だなぁ。

 大淀は口紅も上手いし、歯も真っ白。舌もなんだか艶めかしい。

 でも何より、話すときの口の動きそのものが綺麗だ。

 私のためにわかりやすく動かしてくれているのかもしれない。

 声もきっと綺麗なんだろうな、と思うけれど。聞けないのは少し残念。

 

 私は思わず、

 

 “大淀のお化粧すっごく綺麗で

 見とれちゃいます

 私にも教えてくれませんか ”

 

 彼女はとても綺麗な笑みで、少し頬を赤らめながら、

 

 “もちろん

 褒めてくださって

 とても嬉しいですから”

 

 私も安心して、笑ってみせた。

 私たちはまた一つ仲良しになった。

 一緒にいて楽しいし、尊敬出来る友人。

 ここに来て本当に良かった。

 彼にも、感謝のメールをしたためようと思う。

 

 ●

 

 前略

 

 今日もメールを送ります。

 

 ありがとう、ここは楽しいところです。

 提督はとても良くしてくださいますし、居心地もいいです。

 すこし心配になるくらい働き詰めなので、なんとかして差し上げたいなぁとも思うんですけれど。

 

 親友と言っていいのかな、そんなお友達も出来ました。

 あなたの妹さんです。言った通りに仲良くしてくれました。

 あなたと会った時を思い出します。

 仕草もなんだか似ていると思うんですけれど、やっぱり兄妹ですね。

 

 仕事も充実しています。工廠の効率化とか、そういう改善するところもまだたくさんありそうです。

 元大隊長に教わったことを、ここでも実践して皆がやりやすい所になるようにしていきたい。

 やれることをやっていきたいから。あなたが安心できるように、ここをいいところにします。

 それがまた楽しみで、ここはやり甲斐のある職場だと、本当に思います。

 

 でも、あなたに会えないのが寂しいと思うのは贅沢でしょうか。

 こんなにたくさんの言葉を貰っているのに。

 会いたいです。いつか、また会える日を待っています。

 

 かしこ

 


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