「それじゃ、行ってきます」
誰もいない部屋に向けて、挨拶をする。
今日も絶望の広報活動。頑張りますか。と意気込んでいると、目の前に黒い高級車が止まった。
「……………」
なにか、やばい。
私はそそくさと立ち去ろうとするが、降りてきた主によって呼び止められる。
「待ちなさい」
それは、どこか冷たい声で、私を敵視しているような人。
奉仕部部長にして、成績トップ者。2年J組。
「雪ノ下……雪乃……」
「私もいるよー」
と、もう1人。雪ノ下陽乃が、降りてきた––––––
「な、何の用ですか」
「おやー?この前より全然怖くなーい」
雪ノ下さんのそのことには、自分でも思っている。
葉山くんのせいで、調子が悪いのだ。
「姉さんは黙ってて。神谷さん。あなたは何がしたいのかしら。私と由比ヶ浜さんを傷つけるような真似をして。あの男が気づかないとでも思ってるのかしら」
あの男。それは比企谷くんを指しているのだろう。
雪ノ下さんが唯一信頼している男性であり、葉山くんの恋敵。よほど比企谷くんを信用しているんだ。
「………で、なに」
「私はあなたを止めに来たのよ」
「うん。だからどうするの?殺したければ殺していいし、捕縛したいならしなさい?そんなペチャパイで私のでっかい胸に敵うとおもってるのなら」
「今は胸は関係ないわ。それに、胸だけが女性を表すということではないのであり、容姿、性格、行動で判断……」
「雪乃ちゃーん?論点ずれてるよー?」
雪ノ下さんが話題を戻すと、こほんと咳払いしてまた、続けた。
「あなた、そんなに自分の絶望を周りに強要して楽しいかしら」
「楽しくなかったらもうやめてますよ」
楽しいからやる。楽しくないからやらないで動いている。楽しい楽しくないに関わらず、絶望を知れということだ。
まあ、私はまだまだだけどね。
「そういうの、迷惑だからやめなさい」
「素直にやめたらこんなにならないけどね」
「自分をそんなに卑下することとないし、人間は生きてるだけで尊いのよ?殺してくださいだのなんだの言うのは非常に不快だわ」
「そんなに私のこと思ってくれてるんだ。沙織嬉しいなー」
言い合いが続く。
言葉のナイフを交わしていると、横から茶々がはいった。
「神谷ちゃんそんなに絶望したいなら、今すぐ絶望させてあげようか?」
「できるもんならしてくださいよ。私はそれを望んでるんですから」
「…………いや、君は絶望させるのはダメだね。私、本当はわかってるんだよ?君が、救って欲しいと思ってること」
…………違う。
「違う。私は救って欲しくなんかない」
「あれ?違うの?絶望が好きなら普通周りには関わらないんだよ?人間自体に絶望しているなら、ね」
「…………なるほど。神谷さんは人間には絶望していない。だからこそ絶望に落とそうとするのね」
「…………違う」
「人間に期待しているから、人間を落とすんだね?」
………違う。それは詭弁だ、欺瞞だ。そんなの私じゃない。そんなことは私はしない。人間に期待なんてしていない。
期待するだけ無意味ということを知っているから。期待なんてしていない。
「君はそんなに希望が好きだったんだ。だから敢えて絶望が好きなふりをしていた」
「それは絶対にない」
私は絶望が好きだもん。それだけは言い切れる。
「それ、は……ね。それ以外はあるんだ」
「うっ……」
言葉が出ない。考えているけど、言葉が出ない。
…………雪ノ下陽乃。彼女は恐ろしかった。