絶望というのは希望の対極的存在である。
絶望があるからこそ希望があるのであり、そのまた逆もしかりだ。その絶望を乗り越えたところに希望はあるのかもしれない。
そんな前向きな思考なんて私には似合わないけど。
「や、やっはろー……」
私は今少し戸惑っていた。
来ないと思っていた由比ヶ浜さんが、登校してきていた。しかも、私に明らかに敵意を向けて。
ははっ。やっぱりそうだよね。多分比企谷くんが、由比ヶ浜さんを学校に来させたのかな?
「お、おはようヒッキー……」
「おう」
…………まあ、いいか。由比ヶ浜さんは由比ヶ浜さんの希望を見出したのかもな。私には関係ないけど。
あーあ。私に絶望を与えてくれる人いないかなー。それか、私と同じになる人いないかな。
絶望に落とす人……。戸部くん……はどうでもいいや。
その時に、声をかけられた。
「神谷。ちょっといいか」
「…………なんですか、偽善王子」
「話がある」
屋上に呼び出された。
風が、私の髪をたなびかせ、鬱陶しいほど邪魔。そして、目の前の男も相当鬱陶しいったらありゃしない。
「それで、こんなとこに連れてきて何の用ですか?一緒に自殺?」
「そうじゃない。君は、もう絶望を広めるのはやめるべきだ」
「…………そんなことだけですか」
なんだ。そんなことか。
私はやめる気はないし、そもそも、私は必要悪だ。
「それだけなら、帰ります」
「君は!……君は誰かに救って欲しいから、そう絶望を求めてるんじゃないのか」
「…………」
ドアを手をかけていた手が自然と落ちる。
誰かに救って欲しい?私が?
…………そんなこと。私は救われるに値しない人間だから。救って欲しいなんて思わない。ただただ周囲に迷惑をかけていく存在でありたい。
「そうじゃない」
「違う。君は自分の気持ちに気付くべきだ。本当は救って欲しいんだと俺は思う」
「…………」
私が救って欲しいと、本当に望んでいる?そんなわけあるか。
「そんなわけない。話が済んだんなら、私は帰る」
ドアを開けて、でていく。
階段を降りながら、さっきの言葉が頭をよぎる。
『誰かに救って欲しいから、そう絶望を求めてるんじゃないのか』
いいや、違う。救って欲しくなんかない。私の家のことについては諦めはついてるし、私はそれを望んでいない。
誰にも踏み込ませない、救って欲しくない。貶めてほしい。
「…………調子狂うな。やっぱ偽善王子だ」
偽善王子は偽善のためにこんな私を救おうとしているんだろう。
誰にも救われなかった私に、手を差し伸べてくれた。でも、私はそれを望まない。
…………そろそろ、ラスボスに手を出そうかな。
でも、それはやめておく。もしかしたら彼は私を倒してしまうかもしれないから。
比企谷八幡。
彼はとてつもない化け物だ。
比企谷八幡と葉山隼人。2人は対極的だがどこか似ている。
人を放ってはおけないのが、彼らの共通点かもしれない。こんな私にですら、希望を与えようとしてくれている。
比企谷くんは、どうも敵かどうか微妙だったのはそのせいだ。
「…………いや、とっくに絶望している私には希望なんて無意味」
そう自分を誤魔化しながら––––––
戸部はナチュラルに外される