由比ヶ浜と雪ノ下が学校へ来なくなった一週間後、俺は小町からの依頼で由比ヶ浜と雪ノ下を、学校へ連れ戻すということになった。
あいつ、神谷沙織は恐ろしいやつだ。
絶望を求め、絶望に忠実に動く。そして周りの人間を巻き込むはた迷惑なやつだ。
「––––––ったく、思い出したくねえ」
あれは俺が中学の頃。親の都合で転校してきたあいつの一言はこうだった気がする。
『みんな、絶望に染まりましょう』
その頃は気味悪がられて、俺みたいなぼっちだった。でも、俺がす……告白したやつに気に入られ、周りに馴染んでいた。
その様子を横目で見ていたのを俺は覚えている。そして、俺が告白をしたあの時、あいつはドアのそばにいたのだ。
そして、みんなにそれを広めた……。
思い出したくねえつって全部思い出してんじゃねえか。
「はあ……」
思い出すとため息がでる。あいつの依頼については、答えはもうでている。解決法もわかっていたりはするのだ。でも、その解決方法は俺じゃできない。葉山みたいなやつじゃないとできない解決法が。
「––––––ま、んなこたいいか」
まずは、由比ヶ浜の説得からいくか。
由比ヶ浜の家の前。
うわー……女子の家に訪れんのって緊張するわー。っべー。
恐る恐るインターホンを鳴らす。
「……はぁーい」
なんか知らない女の声。まさか不倫!?
と思ったら由比ヶ浜のママ、由比ヶ浜マがだった。
「あら……あ、あなたがヒッキー君、ね?」
「あ、どうも。比企谷八幡です」
由比ヶ浜マ。ものすげえ若えな……。
「とりあえず上がって上がって!」
「あ、ども」
由比ヶ浜のお母さんすげえな……。
とりあえず中にお邪魔することにする。突撃隣の晩御飯とかいったらご飯たべれないだろうか。いや、うちには愛する小町のご飯があるからな!それはできないぜ!
「––––––それで、ヒッキー君どうしたの?」
「あ、えと、由比ヶ浜……さんの説得にきまして」
「きゃんきゃん!」
「おっ!さ、さぶ……佐原どうした?」
「うちの犬はそんな名前じゃないわよー?ふふふ」
なんだっけこの犬……サブロー……サブ八……。サブレイ……サブレだ。
「それで、結衣の説得……ね」
「はい。まずはどんな様子か伺いたいんですが」
「結衣は一週間も部屋に閉じこもってるわねえ。お風呂とトイレとご飯以外は全部部屋にいるわね」
ご飯は食べてんのな……。
「たまに泣いてるのよあの子。『ごめんヒッキー』ってなんどもつぶやいていたわ」
その言葉を受けて、少し戸惑った。
あの時、それはちゃんと終わりにしたはずなのに、なんだかとても胸が苦しかった。
神谷が昔のことを持って来なければ、こうはならなかった……。いや、人のせいにするのはよくないな。すべて自分が悪くて社会が悪い。
「–––––ま、とりあえず説得してくるんで」
「よろしく頼むわー」
由比ヶ浜。お前は間違ってる。
俺は別に気にしてなんていないし、お前は俺みたいにならなくていい。戦うのを放棄して、諦めて閉じこもるのなんて俺だけでいい。由比ヶ浜は由比ヶ浜らしさをだせばいいのだ。普段の優しい由比ヶ浜に戻ればいい。
さて、逃げるのは終わりだ由比ヶ浜。戦え。