すぅー、はぁーと深呼吸をする。
緊張しているわけではない。ただ自分の中にある絶望を確認して、奉仕部に広めるということをしようと画策……こほん。思っている。
「なあ」
「…………はい」
後ろから声をかけられた。なんだ、比企谷くんか。
「なに?比企谷くん」
「昨日の依頼なんだが」
昨日の依頼?ああ。本当の私を見つけてーとかなんちゃらこんちゃら。
そういえばあったねー。そんなこと。私には関係ないけど。
「平塚先生に聞いたが、お前は要注意人物なんだってな」
「なんのことでしょう?」
「とぼけるなよ。わかってるんだ。お前は昔、中学の俺を、告白を広めた張本人だろ」
比企谷くんは、詰め寄りそう言ってくる。
はあー。そこまでわかってるかー。私の1番の敵は……やっぱ比企谷くんだね。
「どうなんだ、神谷」
「さあ」
「さあってお前……」
「私からも一つ質問です。あなたは昔にこだわる人でしたか?」
私の問いかけに、少し言葉が詰まった様子。
「過去の因縁を、今、ねちっこく持ってくるんですか?」
黙ったまま反論してこない。どうやら今は私の勝ち、のようだね。
「自分のキャラに合わないこと、するんじゃないですよ」
私はそういい、奉仕部のドアを開ける。
中には雪ノ下さんと由比ヶ浜さんがすでにおり、比企谷くんが最後のようだ。
雪ノ下さんは文庫に目を落とし、由比ヶ浜さんはぽちぽちと携帯をいじっている。
でも私が入った途端、雪ノ下さんは本を読むのをやめ、由比ヶ浜さんは少し私から遠ざかった。
「こんにちは、神谷さん」
「こ、ん、に、ち、は♪」
きゃびるん♪としてみるが、特にこれといった反応もない。
「それで、今回は何の用かしら」
「いやー、本当の私を見つけたっていうんなら毎日来なくちゃと思ってねー?」
「毎日来なくてもいいのに……」
由比ヶ浜さんがそう呟く。まあそういわず。
「そう。それなら比企谷くんのほうが得意だわ。比企谷くん。頼めるかしら」
「…………わかった」
一瞬怪訝そうな顔をした。
なんだ、私の期待通りにはいかないか。まあ、私はそれでも絶望を与えるだけなんだけどね。
まずは雪ノ下さん、君に絶望を与えるよ。
「ねえ、雪ノ下さん」
「なにかしら?」
「雪ノ下さんって比企谷くんをひいたって本当?」
「……………」
「ほんとなんだね?ふーん。なんか面白そうだし、知り合いのマスコミに言おうかなー。大問題だよこれは」
「やめてちょうだい」
やっぱ雪ノ下さんは冷静だね。こんな時でも我を忘れない。
なら、思う存分できるというわけさ。私の絶望は、そんなもんじゃ終わらない。
「えーと、何番だったっけな」
携帯を取り出し、連絡先を想い出すかのように上を向く。
「やめてちょうだい!」
「あ、そうだ」
ボタンをうちこみ、プルルルルっと音がなる。
瞬間、携帯が弾き飛び、私の頬に鋭い痛みが走った。
衝撃がしたほうをみるとら由比ヶ浜さんがこちらにビンタしたようだった。
「ゆきのんをいじめないで!」
「ふーん。由比ヶ浜さんが犬をちゃんと見てたら比企谷くんは車ににかれなくてよかったのにね」
お前も同罪だよ、由比ヶ浜さん。
おっと。私は君たちを糾弾したいわけじゃない。ただただ絶望を与えたいだけなんだよ。
「なっ……!」
「わかってないの?自分のせいなんだよ?自分の不注意でそうなったんだよ?わかってるの?」
「お前、やめろよ」
比企谷くんが止めてくる。
由比ヶ浜さんはうつむき、今にも泣きそうだった。そうだよ。これでいい。もうヒトオシさ。
「雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも、どっちもどっちだよねー。不注意でそうなって、雪ノ下さんに至ってはそれを公表せず隠蔽。由比ヶ浜さんは自分の不注意で比企谷くんを怪我させたんだもんねー。これで比企谷くんが死んでたらどっちも……どっちも絶望に苛まれてたんだろうね」
何て素晴らしい。由比ヶ浜さんと雪ノ下さんはぷるぷると震えだした。
そして、二人とも、ドアから勢いよくでていった。
「比企谷くんは後を追わないんですか?」
「…………言われなくても追うよ」
「そうですか」
そして、部室には誰もいなくなる。
翌日から、由比ヶ浜さんと雪ノ下さんは学校にこなくなった。