「改めてよろしく頼むわ、神谷さん」
奉仕部に入部した。
私は、比企谷くんの隣に座り、雪ノ下さんが淹れてくれた紅茶を啜る。
なんとも自然体だろう。私はすごいやと関心を抱いていた。
でも、由比ヶ浜さんは私から一歩引いていた。
まあ、そうだろうな。私は良いことをしたわけじゃないし。雪ノ下さんみたいなほうがレアなんだろう。
「さて、入部してもらってなんなのだけれどそろそろ時間も時間だし終わりにしましょう」
「…………うん」
私は携帯から目を伏せ、そう言う。
…………帰りたくないなあ。
「ただいまー……」
恐る恐る玄関のドアを開けると、でかい靴が見えた。
帰ってきちゃってるかー……。覚悟を決めなければ。
嫌だなあ……。
「ちっ。帰ってきやがった」
「…………」
「なんとか言いやがれ!!」
帰ってきた早々、左頬を殴られた。
–––––––––これだから嫌なんだ。
うちの父さんは酒癖が悪い。おまけに性格はクズ野郎。母さんはストレスでぶっ倒れて死んだ。こいつのせいだ。
「…………」
「黙ってて……これだからガキは」
「…………」
絶望から立ち直ろう、としただけでこれだよ。もう嫌になる。今すぐにでもこんな父親殺したい。
「あーくそ!イライラする!」
と、今度は太ももあたりを思いっきり蹴ってくる。足がぐらつき、その場に倒れた。
父さんは元空手有段者だ。殴られたらひとたまりもない。
「…………っ!」
痛くて声も出ない。またアザができた……。
その後も父さんによって、腹部、足など蹴られる。あちこちにアザが出来始めていた。
くそ……殺したい。こんな父親ぶっ殺したい、
そして、数分経つと私は解放され、部屋にぶち込まれた。
実の娘をなんだと思ってるんだ。
心の中から強い憎悪と怒りが湧いてくる。
…………今日も公園に泊まろう。またいても殴られるだけだし。
公園は寒いな……。もうすぐ入試の時期だからだろうか。
こんな日も公園で一夜過ごさないといけないのは辛い。昔から地獄だ。友達も誰も頼る人なんていないし。
アザに冷たい風が吹き付けて、とても、痛い。
「…………とりあえずなにか飲み物…」
自販機であったかい飲み物飲まないと凍え死ぬ……。
自販機で金を投入して、飲み物を買って飲んでいると、知った顔が公園を通った。横には女の子を連れて。
「比企谷くん……」
比企谷くんが、通り過ぎていった。
そしたら、比企谷くんがふとこちらを見てきて、目が合ってしまった。
そして、こちらに近寄ってくる。
「何してんだお前、こんなところで」
「あー、うん。散歩?」
「女子1人で夜遅くに散歩なんて危ねえだろ。さっさと家帰れ」
「…………うん」
帰りたくない。私は家に帰りたくない。
そして、強い風がふいた。
私が履いていたスカートが、まくれ上がり、私のパンツが……。
「…………見た?」
「…………いや」
「そこは嘘でも見たっていってよ」
「なんでだ……よ?」
比企谷くんが、私の足をじーっと見てくる。
「ごみいちゃんなにしてんの?小町寒いんだから……って誰」
「同じクラスの神谷 沙織だ」
「よろしく」
「よろしくですー。私は妹の小町です」
「小町……さん」
「気軽に呼んでいいですからねー?」
小町さんはものすごく元気だなあ。
私と違って楽しそうだ。私みたいな境遇にはいなさそうだ。
「小町、その辺にしておけ」
「あ、うん。よろしくお願いしますねー沙織さん!」
「あ、うん」
「あー、質問いいか」
「なに」
「そのアザ……なんだ」
私の脚のアザを指しながら質問してきた。
…………正直に答えるべきなんだろうか。助けを求めていいのか?
『だめだよ、沙織。君は絶望なんだ。救われるに値しない人間というのは自分でもよくわかってるでしょう?』
うるさい。
私が救われるに値しない人間なのはわかってる。でも、いいじゃないか求めたって。
「えーと、家庭の事情がね……」
「家庭の事情でそうなるのか?おかしいだろ。素直に言え」
「…………いや、いいよ。私が受けるべき罪だし。明日学校行けなくなるから言っておいてね」
私は走り去る。
引き留める比企谷くんの声は聞こえなかった。