魔法少女まどか☆マギカ×Fate   作:くまー

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やっとこさ更新。
でも原作基準だとまだ2話目くらいのスローペース。
もう少しペースを上げられるように頑張ります。







あー、士郎からチョコ欲しい。


まどマギ×Fate 8

 すっかり冷めきったコーヒーを飲み干して、暁美ほむらは言った。

 

「じゃあ、私も行くわ。これはコーヒーの代金」

 

 ほむらから500円玉を受け取り、鹿目まどかは言った。

 

「あ、あのね、ほむらちゃん。その……私、マミさんと仲良くしてほしいなって思うの」

 

 まどかの言葉に追随するように、美樹さやかは言った。

 

「そうだよ。2人とも悪い人じゃない事は私たち知っているからさ。その、手を取り合ってほしいというか……」

 

 2人の言葉を聞いて、ほむらは言った。

 

「……無理ね。私とあの人では方向性が違う」

 

 その言葉に、思わずまどかは疑問をぶつけた。

 

「それって……私たちが魔法少女になるかならないかって話に関係があるの?」

 

 じっとまどかの眼を見つめ、ほむらは答えた。

 

「……そうね。関係あるわ」

 

 冷淡さを覚えるような視線から逃げることなく、まどかは言葉を重ねた。

 

「じゃあ、私たちが魔法少女にならない事を誓えばマミさんと仲良くできる?」

 

 その言葉を聞いて。

 ほんの少し、ほんの少しだけ瞳を揺らして、ほむらは言った。

 

「……無理よ。そんな誓いに意味は無い」

 

 思わず立ち上がり、さやかは言った。

 

「あのさっ! ……ほむらはさ、何を根拠にそんな否定をするの?」

 

 感情を消し去った眼のままさやかの方を向き、ほむらは言った。

 

「だって貴女たちは魔法少女に向いていないもの」

 

 ほむらの視線に怯むことなく、まどかは言葉を重ねた。

 

「……それはどういうこと?」

 

 2人に目を合わせることなく、ほむらは言った。

 

「魔法少女は利己的でなくてはならない。……貴女たちは優しすぎるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ まどマギ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 如何に鹿目まどかが正しくあろうと考えていても、いつまでもその状態を継続できるわけでもない。

 鹿目家、まどかの自室。

 帰宅早々にベッドに倒れ込むと、まどかは傍の枕を抱き寄せて顔を埋めた。そして制服に皺が寄るのも気にせずベッドの上で転がり始める。髪が崩れるのも気にせず転がり回る。それは普段の彼女からは想像もつかないほど子供っぽい行為だった。

 暫し衝動に任せるが如く転がり回っていたまどかだったが、10分少々の時間が経過したところで、唐突に起き上がった。

 

「ほむらちゃん……何で……」

 

 呟きに応える者はいない。まどか自身も意図して呟いたわけでは無い。

 一際大きな溜息を吐き出すとともに言葉を吐き出すと、まどかは手元の枕にグリグリと頭を埋めた。そして動きをピタリと止めたかと思うと、そのまま後ろへと身体を押し倒した。

 見慣れた天井。白色の蛍光灯。

 その空間に一人の少女を幻視する。

 暁美ほむら。

 つい先日クラスに転入してきたクラスメートであり、命を救ってくれた恩人であり、魔法少女になる事を拒もうとする少女。

 

『……何でほむらちゃんは私たちが魔法少女になる事を嫌がるんだろう』

『向いていない……だけじゃ納得できないよね』

『うん。……でも、詳しい事は答えてくれなかったし……』

『……ほむら、他に理由を隠しているのかもね』

『さやかちゃん?』

『根拠がある訳じゃないけどさ……何て言うか、納得できないんだよね。まどかはそう思わない?』

 

 思い返すのはさやかとの会話。帰宅時に交わした推測。

 さやかの疑問は当然であった。ほむらは魔法少女になる事を拒む理由を明確にしていない。彼女が言い張っているのは、魔法少女になることによる危険性と性格的な向き不向きのみである。言い分として筋は通っていないでもないが、何故にそこまで頑なに拒むのかの説明が不足している。

 

『……信用されていない、のかな』

『……まぁ、まだ出会って2日くらいだし? これから距離は詰めて行けば良いんじゃん』

『……ふふっ、そうだね』

『そーそー。それよりあれだよ、マミさんのフォローしとかないと』

『うん、そうだね。このままじゃ仲違いしたままだもんね』

『そーゆーこと。とりあえず今日はメールだけ送って、明日2人を説得しよう』

 

 話に一区切りはつけた。悩むのは終わらせた筈だ。

 それでも一人になると勝手に疑問が湧いてくる。ぐるぐると脳裏を過っては戻ってくる。終わりの無い円環。メビウスの輪。

 まどかはもう一度溜息を吐いた。彼女が日に何度も、それもこんな短時間の間に溜息を繰り返すことはそうそう無い。

 

「まどかさーん、溜息を吐くと幸せが逃げるらしいですよ?」

 

 驚かない。もう驚かない。

 いつの間に戻ってきたのか。視線だけを声の方向へと向けると、そこには愉快型魔術礼装ことルビー。周囲の内装に溶け込むことなく、無駄に存在感をまき散らしながら浮いている。何故かボロボロの姿で。

 おかえり、ルビー。

 えー、流されると私の立つ瀬が無いんですけどー。

 短い帰宅の挨拶を交わし、もう一度まどかは溜息を吐いた。

 

「うーん、物憂げに溜息を吐く美少女……アリですね」

「……本当にルビーってルビーだね」

「お褒めに与かり光栄です」

 

 褒めてないんだけどなぁ。

 分かっていますよぅ。

 まるで熟練の夫婦のようなやり取り。この奇怪な存在を受け入れるに留まらず慣れてしまう辺り、まどかは中々の大物である。元マスター辺りならキレて暴れて恋人に宥められて慰められるか、諦めて恋人に慰められるかのどっちかだろう。9:1くらいで前者濃厚。

 暫し困ったような拗ねたような何とも言えない笑顔を浮かべていたまどかだったが、懐からスマホを取り出し、疑問を口にした。

 

「ねぇ、ルビー?」

「何ですか、まどかさん?」

「これなんだけど……」

 

 そう言ってルビーに見せたのは、ほむらにも見せたあの魔法少女の画像。

 

「あれー、杏子さん?」

「今日この画像を見てね、この子が持っているステッキがルビーにそっくりだなって思ったの」

「そっくりも何も私ですよ、これ」

「あ、そうなんだ。やっぱりルビーだったんだ」

「はい、そうです。いやー、綺麗に撮れていますねー」

 

 綺麗に撮れているじゃねーよ。もしもこの場に佐倉杏子が居たらそんな事を思っただろう。この場にはまどかとルビーしかいないのだから、そんな仮定の話に何の意味も無いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くの間、まどかとルビーは取り留めのない会話に興じた。

 アーネンエルベの感想。

 製作者への愚痴。

 冷めても美味しかったアップルパイ。

 キュートでリリカルな魔法少女候補。

 魔法少女らしい衣装。

 製作者への愚痴。

 そう言えばルビー、何だか今日はボロボロだね。杏子さんがマジ切れして危なかったんですよぅ。

 浮いて、動いて。笑って、目元を拭って。

 まどかは枕に顔を埋めた。

 ルビーはそんなまどかの横に移動した。

 

「……あのね、ルビー」

「どうしましたか、まどかさん」

 

 まどかの呼びかけにルビーは普段と変わらぬ様子で応えた。

 

「今日ね、ほむらちゃんとマミさんが喧嘩をしたの」

 

 まどかは口を開いた。

 今日のお茶の席の事についてだった。

 

「ほむらちゃんは私たちを魔法少女にしたくないみたいなの。それでマミさんと口論になっちゃって……」

 

 ほむらが自分たちを魔法少女に関わらせたくない事。

 マミが関わってしまった以上は知るべきだと主張した事。

 ほむらがマミの主張を愚問と言って切り捨てた事。

 マミがほむらの主張は極端すぎると非難をした事。

 結局結論が出なかった事。

 絶対に交わる事の無い平行線の議題だった事。

 一つ一つ述べていく。

 

「でね、どうすればほむらちゃんがマミさんと仲良くできるのか訊いてみたの。でも……」

 

 無理よ。そう言ってほむらはまどかの質問を切り捨てた。

 

「方向性が違うんだって。それでその方向性って言うのは、私たちが魔法少女になることに関係するみたいなの」

「魔法少女、ですか」

「うん。それでね、じゃあ私たちが魔法少女にならない事を誓えばマミさんと仲良くしてくれるかな、って思ったの。……そしたら――――」

 

 無理よ。そうほむらは言った。意味が無いとも言った。

 

「私、どうすれば良かったのかなぁ……」

 

 まどかは心優しい少女だ。

 誰かが喜べば自分の事の様に喜ぶし、誰かが悲しめば自分の事の様に悲しむ。

 そんな彼女だからこそ、誰かが争う姿など見たくない。それが知人なら尚更だ。

 ほむらとマミに仲良くしてほしい。だが当人たちにその気が無い。

 その事実に、枕に顔を埋めたまま、まどかは顔を上げることが出来なかった。

 

「うーん……ならいっその事、ほむらさんに喧嘩を売ってみませんか?」

 

 ルビーの言葉にまどかは顔を上げた。

 ただしそれは、言葉の意味を理解したから――ではない。

 

「ええと……どういうこと?」

「押してダメなら引いてみろってヤツですよ。問いかけるんじゃなく、挑発するのです」

 

 何故か嬉しそうに言葉を発するルビー。気のせいではなく動きも忙しなくなる。柄の部分が尻尾のように振り回されている。

 喧嘩を売る? 押してダメなら引いてみろ? 挑発?

 一拍遅れて、漸くまどかの思考が現実へと回帰する。ルビーの言葉を頭の中で反芻し、彼女が何を言いたくて、何をさせたいのかを推測。

 かかった時間はたっぷり5秒。

 首を傾げ、回答を口にする。

 

「……それってつまり……『マミさんと仲良くしてくれなきゃ、私たちは魔法少女になっちゃうぞ』みたいな?」

「はい、その通りです!」

 

 100点満点です、とでも言いたげにルビーが羽を突き出す。サムズアップに似た形、というかサムズアップだ。だからどうやってやっているんだ。

 

「……あのね、ルビー」

「何ですか?」

「私の話を聞いていた?」

 

 溜息と共にまどかは言葉を紡いだ。頬を膨らませ、眉間に皺を寄せている。

 

「ほむらちゃんは私たちを魔法少女にしたくないんだよ? それなのに魔法少女になったら本末転倒だよ」

 

 それは呆れを隠そうともしない語調だった。まどかにしては珍しく、相手を咎めるような言葉だった。

 

「ルビー、私はね――――」

「けど、今のままじゃ何も変わりませんよ?」

 

 被せられるように放たれたルビーの言葉。

 何気なく放たれたであろうその言葉に、しかしまどかは言葉を重ねることが出来なかった。

 

「まどかさんとほむらさんは友達ですよね?」

「う、うん」

「でもほむらさんはまどかさんの言葉に聞く耳を持ってくれない。自分の意見は押し通そうとしているのに」

「……そう、だね」

「だとしたら、はたして2人の関係は友達と言えるのでしょうか?」

 

 グサリ、と。ルビーの言葉がまどかの胸に突き刺さる。聞きたくなかった。それはまどかが、うっすらとだが感じていた事だった。そして認めたくない事でもあった。

 

「確かにほむらさんの言葉も理解はできます。魔法少女は魔女と戦わなければならない。そしてそんな危険な事にまどかさんたちが関わる必要性は決して無い」

「……うん」

「けど、それはほむらさんの事情です。まどかさんの事情ではありません」

「……」

 

 反論しようと考えていた言葉が出てこない。反論するべきなのに口が動かない。

 気が付けば黙ってまどかはルビーの言葉に耳を傾けていた。

 

「何でもかんでも相手の言う通りにすることが友達であるとは私は思いません。と言うか、そんなのは友達ではなく主従関係ですよ」

「……」

「まどかさんはほむらさんの部下でも下僕でも奴隷でもありません。友達でしょう?」

「……うん」

「なら、黙って言う通りにするのではなく、時には意見をぶつけましょう。間違ったことを正さぬまま心中するのは、友達とは言いませんよ」

 

 ルビーの事がまどかの耳を、脳を、そしてまどか自身を揺さぶる。疑う事を好まないまどかにとって、ルビーの言葉はむき出しの刃のようなものだ。心の殻を突き穿たれる。

 信じるだけが友達じゃない。

 その言葉がひどく重たく聞こえた。

 

「……少しだけ昔話をさせて下さい。私の元マスターの話です」

「元マスター?」

「ええ。……私の元マスターは、人と上辺ばかりの付き合いをする人でした」

「……」

「人と深く関わろうとせず、また関わらせようともしませんでした」

「……ほむらちゃんみたいに?」

「そうですね……いや、質の悪さで言えば元マスターの方が上ですかね」

 

 昔を思い出しているのだろう。

 ルビーの言葉には懐かしむような響きがあった。

 

「ほむらさんと違って、元マスターは他の人に歩み寄ろうともしていませんでした。ある一定の距離を保ったまま、近寄らず近寄らせずの人間関係を構築していたのです」

「……友達がいなかったの?」

「上辺だけの付き合いの人ならいたみたいですが、まどかさんとさやかさんのような仲の友達はいなかったように記憶しています」

 

 想像する。さやかが居ない世界を。一番の友達――いや、親友がいない世界を。

 ……そんなのは、嫌だ。考えたくもない。

 知らず知らず、枕を抱える腕に力が籠る。

 

「困った事に私の進言もあまり聞かない方でして……仕方なくちょっと実力行使に出たんですよ」

「実力行使?」

「はい。まぁぶっちゃけ魔法少女にしただけなんですけど」

「魔法少女……あ、それって、平行世界の能力を使わせるため?」

「鋭いですねぇ……と言いたいところですが、正直当時はそこまで考えていなかったんでよぅ」

 

 彼女が構築した壁を壊すためのインパクトが欲しかったんですよねぇ。

 しみじみと、そうルビーは言った。

 

「まぁその後結構怒られたりもしたんですが、最終的に私は元マスターの殻を破らさせる事に成功しました」

「破らさせた? 破ったんじゃなくて?」

「はい。誰が何を言おうと、最終的に決断し、行動するのは己自身です。私は行動に至るまでの手助けだけしかしていません」

「そうなんだ……それで、ルビーの元マスターさんはどうなったの?」

「一度はっちゃけたおかげで、前よりは大分人付き合いが良くなりましたよ。今は恋人も手に入れてイチャイチャしています……っと、話が逸れましたね」

 

 ゴホン。ワザとらしく咳をして、ルビーは話の軌道修正をする。

 

「つまりは私は、ほむらさんの言葉を100%鵜呑みにする必要は無いと考えているんですよ。勿論何かしらの理由があるとは思いますが、マミさんと仲が悪くなってまでしてもまどかさんたちが魔法少女になる事を拒むのは、はっきり言ってやり過ぎだと思います」

「……」

「だからぶつかっていきましょう、まどかさん。時には相手を止める勇気も必要です」

「うーん……大丈夫かなぁ」

「大丈夫ですよ、多分」

 

 多分じゃダメな気がするけどなぁ。思ったが、口には出さない。出さずに、苦笑いを一つ。

 

「ありがとう、ルビー」

「いえいえ、礼には及びません。私もほむらさんが何故にそこまで頑なに魔法少女になる事を拒むのか、理由が知りたいですからね」

「そう言えばほむらちゃんって、ルビーには辛辣だもんね」

「そうなんですよねー、私と契約する場合は魔女と戦わなくてもいいんですけどねー」

 

 思い出す。今日の帰り道、問答無用で金づちを振り回していたほむらの姿を。人がいなかったとはいえ、一歩間違えたら警察沙汰である。聡明な彼女がそこまでして魔法少女になるのを拒むのは、確かにおかしな話だ。

 てことで、明日訊いてきたら結果報告をお願いします。

 あれ、ルビーは来ないの?

 やや、行きたいですけど、私が同席したらほむらさんまた激おこですよぅ。

 そう言うとルビーは柄を消してヘッドの部分だけになった。そして空いていた窓から外へと出る。

 

「あれ、どこ行くの?」

「ちょっとお散歩です。すぐ帰ってきますよ」

 

 そう言って、ひらひらと羽を振って一回転。ヘッドがまどかに対して若干斜めに向けられる。所謂キメ顔なのだろう。何とはなしに、そうまどかは察した。

 

 

 








おまけ

 ――――イギリス・倫敦

「あら、ミス・トオサカ。今日は一段と酷い顔色ですわね」
「……ルヴィアじゃない。アンタは相変わらずね」
「……ふぅ。顔でも洗ってきなさい。今の貴女は見るに堪えませんわ」
「……どういう意味よ、それ」
「そんなもの自分で考えなさい。私の言葉の意味が分からぬほど愚鈍ではないでしょうに」
「……うん、ごめん」
「……ハァ、本当に調子が狂いますわね。シェロがいなくなって腑抜けすぎでは?」
「いや、士郎は関係ないのよ、多分。うん、多分」
「説得力が皆無ですわね」
「違うのよ……何て言うか、その……どっかで過去のトラウマを美談として利用されているような気がして……」
「……ハァ?」


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