吹雪と一緒に日誌を書くことになった みらい 。柏木提督からの立案で、今日は艦娘化後初めての演習を行うことになった。
「えーと、みらいさん?航行の仕方は分かりますか?」と、吹雪が訪ねてくる。
「まぁ、船のときは…。乗員の方に操作してもらってましたから…。」
みらいは、艤装を身に付けながらこんなことを言った。既に吹雪は、海の上に立っている。
「要領は、アイススケートに近いと思います。慣れるまで、ちょっと時間が掛かるかもしれませんが、前に進め!と思えば前に進みますし…進みたい方向に体を傾けると、その方向に進みますよ♪覚えているかも知れないですけど・・・。とりあえず、やってみますか!」
多少覚えていたみらいだが、長い間眠っていたので少々、コツを掴むまで時間がかかった。だが、練習を初めてから一時間程で要領も分かり、射撃も出来るようになった。
「ふぅ、なんとか感覚を取り戻したよ 」
と、言いつつタオルケットで汗を拭く みらい。
「それはよかったです♪射撃の方も大丈夫ですか?」と、吹雪が聞いてくる。
「大丈夫よ。こう見えて、タイムスリップ中に怪我はしたけど米海軍のドーントレス40機とやりあってるし第一、私は自衛隊の射撃演習で百発百中だったんだから♪」みらい は自信満々に言った。すると、
「百発百中と言っても、私の航空部隊には勝てるかしら?」
二人は声がする方を見るとそこには、帝国海軍最強と言われた一航戦の加賀と赤城が居た。
「ちょっ!!加賀さん 」赤城が慌てて止めようとするが、
「私がここに転属してきたとき、ここの鎮守府には、海上自衛隊の護衛艦の艦娘達が居ると提督から聞いたわ。帝国海軍の装備だと、演習で戦っても勝てるわけがないと提督が話してた。でも、私の航空部隊もほとんど負けたことはない。あんた達、護衛艦は、鎮守府近海の警備程度しかやってないそうね。たとえ平成の戦闘でも、実戦経験豊富な私達一航戦の攻撃に対応出来るかしら?」
と、明らかに海上自衛隊を見下したような声で加賀が挑発してくる。
「なんですって!?私だって、太平洋戦争を経験しているんですよ!!」
赤城と吹雪が間に入り、二人を止めようとする。
「だったら、演習で戦って証明してみますか?」
「私の実力、なめないでください!」
バタン!!
提督室に飛龍が駆け込んでくる。
「て、提督!! みらいさんと、加賀さんが喧嘩を始めて…。演習で決めようとしてますが…ハアハアハア 」
飛龍は息を切らしながら、提督に伝えた。
提督と飛龍が表に出ると、長門が、二人の仲裁に入っていた。
「二人とも、いい加減にしろ 」
みらいと加賀は睨みあったままだ。その状況を見て、提督は…。
「だったら、帝国海軍と海上自衛隊。どっちが強いか演習で決めようじゃないか。」
その声に、周りに居た艦娘達が愕然とした。
「勿論、演習だから弾は演習用のペイント弾とする。ただし実戦と同じように、両者、油断してはならんぞ。」
ということで、みらい vs加賀 の演習が始まった。
「大破や轟沈の判定は私の他に、長門、吹雪、ゆきなみ、ひゅうが が行う。両者、悔いの無いように全力を尽くすこと。以上!!」と、提督がルール説明をする。
「両者、準備は良いか?」長門が、みらいと加賀に尋ねる。
「大丈夫ですよ」「準備できました。」
二人から無線で返事か来る。
「では、演習を始める。よーい、始め!!」
長門の空砲が合図となり。演習が、始まった。
「よし、みらい。全力でいきます!!」
「第一攻撃部隊、順次発艦!」加賀は攻撃部隊を発艦させていく。それをレーダーで見ていた みらい は、
「電子戦用意!!ECMレーダー ジャミング開始!」
その声と同時に、擬装が唸り始める。
すると、加賀の無線機に異変が起こる。
「第一攻撃部隊、目標接近…………わっ!!」
慌てて、無線機を耳から離す。無線機からは雑音しか聞こえず、攻撃部隊と連絡が取れない。
(…… 一体、どうなっているの?)
心の中でこう思った。今まで、このようなことは起きたことがない。第一攻撃部隊の安否が気になり、飛んでいった方向を見つめる。
みらい では、向かってきている加賀の攻撃部隊に応戦するための準備が着々と進んでいた。
「数は全部で40機。ワスプ戦の時と同じか…。」
始まる前に、提督からこんなことを言われた。
「資材についてだが、実は海上自衛隊の艦娘用の武器も製作可能なんだ。ただ、一般の武器よりも多少時間はかかるがな。全力を出してこい!みらい!」その言葉を聞いて、みらい は安心した。タイムスリップしたときは、ろくに武器の調達が出来なかったからだ。みらい は深く深呼吸した。まもなく、第一攻撃部隊の目視範囲。
「見えた!!」
みらいが見つめた彼方先の空に、豆粒のように小さな攻撃部隊が見える。さすが、帝国海軍の一航戦の攻撃部隊。無線が使えない中でもきれいな陣形を組んでいる。
「あれか、目標は。」攻撃部隊のパイロット妖精が、みらい を見つける。
「あの程度なら、あっという間に轟沈判定が出るな」
その油断が命取りだった。
「対空戦闘、CIC指示の目標。撃ちぃーかた始め!」
みらい の127ミリ速射砲が火を噴く!
「たった一門の砲で何が出来る!」パイロット妖精は油断をしていた。だが、いきなり機体にオレンジ色の液体が付着する。そう、演習用のペイント弾が命中したのだ。まるで生き物の様に動く みらい の127ミリ速射砲。その方向にいる攻撃部隊の機体が次々とオレンジ色に染まっていく。
「あ~もう!!まだまだ居るのか、こうなったら…。」
みらい は手元にあるタッチパネルを操作し…。
「シースパロ発射始め。サルボー!!」
その掛け声と同時に、ボタンを押す。
それと同時に、艤装のVLSから煙が上がる。
(なんだ、あれは!!)パイロット妖精達は皆、とてつもないショックを受けた。自らが操縦する機体を凄まじいスピードで追いかけ、命中したのだ。あっという間に、みらい の周辺にいたほとんどの機体はオレンジ色に染まり、一部の機体は大慌てで逃げる始末。明らかに混乱しているのは、見学していた提督をはじめとする、帝国海軍勢の艦娘達でもわかった。
「あの、加賀の攻撃部隊でも…。手が出ないとは。」
見ていた長門が驚きの声をあげる。それもそうだ、加賀の攻撃部隊は みらい に対して一つもダメージを与えられていない。
無線が通じない中、加賀の所に第一攻撃部隊が帰還してくる。
「40機上げたのに、無事なのは5機だけ!?」と、加賀は驚きの声をあげる。帰還したパイロットから「あれは化け物だ!!」「俺たちじゃ、手も足もでない。」などと、声が上がる。ふと、無線機からみらいの声がする。
「ー加賀さん、まだ続けますか?」
その言葉に加賀は、少しの沈黙の後
「ええ、一航戦の誇りにかけて最後までやるわ。」と、みらい に伝えた。
「ー分かりました。では、こちらもあなたに撃沈判定が出るまで戦います。」と、言って無線が切れる。
(げ、撃沈判定が出るまでって…!)
その言葉を加賀は半信半疑にしか思えなかった。加賀とみらいの間は、約100キロ離れている。ここまで離れているのに、私を撃沈させるのか。そのようなことはないと、加賀は思った。
それと同じ時刻に みらい はタッチパネルを操作していた。
「よし、データ入力完了。GPS誘導確認。」
みらいが準備していたのは、切り札であるトマホークだ。これは、護衛艦組の中でもみらいにしか搭載されていない。射程距離は500キロ。演習用の為、無弾頭でペイントを積んでいるとはいえ、命中した場合艦娘であっても数メートルは吹き飛ばす威力を持っている。
「目標、正規空母 加賀!!トマホーク攻撃始め!」
みらい の艤装から大きな煙が上がる。
それをテレビモニターで見ていた飛龍が、
「こ、これが21世紀の戦闘なの!!」
と驚きの声をあげる。トマホークは海の彼方、加賀に向かって飛んでいった。その頃、加賀は第二次攻撃部隊を順次発艦させていた。この10分後に酷い目に遭うとは知らずに。
ー正規空母 加賀撃沈判定ー
キィィィィィィン
海面を凄まじいスピードで飛行するトマホーク。まもなく、加賀の目視範囲に入る。何処からか、聞きなれないエンジン音がしてくる
「・・・なに!?」
何事かと思ったのもつかの間、トマホークは加賀の飛行甲板に命中し大きな水柱が上がる。その反動で弓が折れ、搭載されていたオレンジ色のペイントが降りかかる。
「加賀さん!!」見ていた赤城が慌てて近寄る。そこに居たのは、全身オレンジ色になってしまった加賀だった。審判を務める長門達から加賀に対して、撃沈判定が出る。
「……負けたわ。」加賀はこう、呟いた。だか、その顔は全力を出し尽くした顔をしていた。赤城からタオルを受け取り、顔を拭く。
「加賀さん、無茶なことしないでくださいよ 」
赤城は加賀に話した。話をしていると みらい がやって来た。流石にやり過ぎたと謝る みらい 。だが…。
「こちらこそごめんなさいね。自衛隊をバカにしてしまって。これから先は、帝国海軍と海上自衛隊。お互いに仲良くしましょう。」と、手を差し出す。みらいと加賀は、握手をしこの演習は終わった。
(もっと、練度を上げて護衛艦に負けないようにしなくちゃ…。)心の中で、加賀はこう思った。
演習の後、汗をかいた二人は鎮守府内にある入浴施設へ向かった。加賀が風呂に入っていると、
「加賀さん、本当にごめんなさい 服をここまで
汚してしまって…。」みらいは改めて、謝った。すると、加賀は「いいのよ、服が汚れるのは慣れてるし。」
「で、でも…。」と、困る みらい。
「それに今日は、海上自衛隊の事を知ることが出来たわ。あんな力があれば、深海棲艦にも対応出来るかも知れませんね。」風呂に入りながら加賀は みらい に話した。
提督室では、柏木提督が考え事をしていた。
(今日の演習で、みらい の実力がよく分かった。今後の艦隊編成を変更しなければならないかもな…)
バタン!!
提督室に榛名が入ってくる。
「提督…?」話かけたが、返事がない。
仕方ないので少し大きな声で
「提督!!」と声をかける。
「…あっ、榛名か。どうした?」
「コーヒー入りましたよ。」と、榛名はコーヒーを机に置く。
「提督、今日の演習についてですか?」
「ああ…。」
「あの加賀さんですら、あそこまで一方的な敗退をしてしまうとは…。私自身思っていませんでした。」
榛名もあの一方的過ぎる みらい の攻撃に恐怖を感じていた。しかも、完全に射程圏外に居た加賀に対して撃沈判定を出したのだ。こんな船は今まで見たことがなかった。
「もしかしたら、あいつは…。この戦争の行く先を大きく変えてしまうかも知れないな…。」と、提督が呟いた。
「えっ!?」
榛名は疑問の声を上げたが、実際に演習の様子を見ていてここまで恐怖を感じた戦闘はなかった。
「一体、どうなるのか…。今後の艦隊編成を考え直す必要があるかもしれないな…。」
夜の月明かりに照らされている鎮守府を見ながら、提督は呟いた。
夕食後、食堂で吹雪と一緒に日誌を書く みらい。
「みらいさんって、すごい武器を持っていたんですね。あの、加賀さんを攻撃した武器ってなんですか…?」
と吹雪が聞いてくる。
「ああ、あれはトマホークっていう武器なの。まぁ、一種のミサイルみたいなものかな?」
「ミ、ミサイル!?」
「簡単に説明すると、ロケットみたいなものかな?」
「ロケットですか…。」
みらい が説明するが、吹雪にはよく伝わらなかった。
「でも、みらいさんって…。すごい力を持っているのですね。私なんかじゃ、とても太刀打ちできませんよ(笑)」と、冗談半分に吹雪が話す。しかし、みらい から帰ってきたのは以外な返事だった。
「私は、ミサイルとかを使えば…強いけど…。接近戦だと、装甲が弱いからすぐにやられてしまうわ。おまけに艤装の中にあるイージスシステムがなければあんな戦いかたなんて出来ない。あなたも今日の演習見てたでしょ?あれは、イージスシステムがあればこそ出来る芸当だけど、システムがないとミサイルは使えないし、超が付くほどの下手な射撃になってしまうわ。おまけに、私の戦いかたは、敵に接触する前に攻撃している。先制攻撃をしない自衛隊の艦娘としても……攻撃をしている自分が正直、怖いのよ…。」
「…えっ?」
意外すぎる返事に吹雪は驚いた。
「そもそも、タイムスリップ中に米海軍のドーントレス40機とやりあって勝ったなんて、あれは嘘みたいなものよ。戦争を知らない私たち海上自衛隊がはじめて戦場で戦ったんだもの。私が戦闘中に油断したせいで、乗組員5人を死なせてしまったんだから…。」
吹雪はとても驚いた。みらいがタイムスリップしたことは知っていたが、こんな悲惨な状況下で悩みながら行動していたことを知ったからだ。みらいの顔をみると、目には涙が浮かんでいた。
「あ、あの、みらいさん…。」
吹雪が声をかけると、
「吹雪さん、ありがとう。…けど、艦娘としてまた、前線に立つことが出来るんだから…。今度こそ、決して戦闘中に油断しないで皆を守れるように頑張らなくちゃね。」と、涙声で話すみらいだった。