9月25日
この日、朝から護衛艦みらいは慌ただしかった。明日から国防海軍へ編入されるため、各科編入に当たっての書類や新制服への変更などの作業で大忙しだった。護衛艦みらいは外見上の変化はほとんど無かったが、艦積機の海鳥とSH-60Jの[海上自衛隊]という文字を新たに[国防海軍]と書き換える作業等、海上自衛隊と書かれており外部に露出するものに物に関しては文字の書き換え作業が行われた。
「はぁ、今日で海上自衛隊とお別れか。」格納庫ではSH-60Jの文字の前で佐竹が呟いていた。すると…。
「あっ、佐竹さん。今日で海上自衛隊から国防海軍に変更になるんですよね?よかったらどうですか?」
と、片桐がカメラを見せながら話しかけてきた。
「撮りますよ! 」
カシャ!
佐竹達航空科のメンバーがSH-60Jの[海上自衛隊]の文字の前で自衛隊最後の記念撮影をしていると聞きつけ…。いつのまにか後部甲板には制服や作業服姿で並ぶ乗組員達の姿があった。一方、CICでは国防海軍への護衛艦みらいデータ登録の作業が艦娘のみらいと菊池の指揮の下で行われていた。
「ふぅ、新規のデータはこんな感じですね。今は私の艤装のイージスシステムからのデータ移行という形ですけど…。近く、イージスシステムのアップデートが行われると思います。」
と、CICの端末を操作しながらみらいが話す。青梅は近くアップデートされるベースライン8(現在の護衛艦みらいのベースラインはベースライン4-J1型)の操作方法とCICの改修工事の内容を調べていた。改修工事は9月30日から11月15日までの約1カ月半。艦内の一部配線の光ファイバー化工事など、比較的大がかりな改修工事を行うことになった。これにより現在運用されているぶこう型イージス護衛艦と同じ機能が装備されるのだ。また、いままで最大2発までしか誘導できなかったシースパローが3発まで同時誘導可能になるなど…。大きなシステムの変更が行われる。
夕方…。みらいが停泊している埠頭に一台のトラックがやって来た。
「柏木提督から、新制服の支給です。」
とりあえずみらい艦内の食堂へ運び込まれた制服が入った段ボール。手が空いた隊員達が次々と受け取り自室で着替えてくる。中には自衛隊と国防海軍双方の制服を仲間同士で見比べ、片桐に二つ並んだ所を写真に撮ってもらう等…。なんだか楽しんでいるような様子だった。そして角松は…。
(これが国防海軍の制服…。)
自室でロッカーに掛かった二つの制服を見比べていた。海上自衛隊の階級は二等海佐。一方、国防海軍の階級は一等大佐…。遂に新たな護衛艦みらいの艦長として艦のトップに立つ。そう自覚すると緊張していた。
ガチャ。
「お、洋介。まだ着替えてなかったのか?」と、部屋に二等中佐の制服を着た尾栗が入ってきた。
「あぁ、なんだか…。いざ、国防海軍に編入となると少し寂しくてな。」
角松は海上自衛隊の制服を手に取りこう呟いた。
「確かになぁ…。今までの数々の思い出が汗水と一緒に染み渡っているからな。」と、壁に寄りかかりながら尾栗が話す。
「だが、こうなった以上…。着るしかないか。」
角松は海上自衛隊の制服を畳んで、国防海軍の制服を羽織った。鏡を見ると国防海軍の制服姿の自身が映る。一等大佐という、海上自衛隊の一等海佐(艦長)に当たる階級章を改めて見ると…。この護衛艦みらいの最高責任者であることを自覚させられる。
「おっ、なかなか似合っているじゃないか。」尾栗に掛けられるが…。角松は無言で頷くだけだった。
夜になり最後の艦尾の自衛隊旗が降ろされる。明日からはデザインは変わらないものの、新品の国防海軍旗が掲揚される。今まで、掲揚し続けてきた自衛隊旗と明日から掲揚される国防海軍旗…。二つを見比べると自衛隊旗は既に色落ちし数々の戦闘をくぐり抜け自衛隊として活躍してきたことを意味していた。(この自衛隊旗は後日、艦内の食堂に海上自衛隊の思い出として飾られる事となった。)
そして日付が変わり…。国防海軍としての最初の朝がやって来た。9月26日0600 青空の下、新しい国防海軍の日章旗が掲げられる。今日は 国防海軍 護衛艦みらい の新たな船出の日だ。
海上自衛隊から国防海軍に編入されるに当たって、海軍用のシステム変更や制服の変更などで慌ただしい護衛艦みらいの乗組員達。ですが、海上自衛隊の隊員という自覚を忘れないように各自、海上自衛隊最後の一日を送っています。そして新たな船出を迎える護衛艦みらい。彼らを待っているものは一体…。