イージスシステム…。別名 神の盾。
イージスとは、ギリシャ神話の中で最高神ゼウスが娘 アテナ に与えたという盾であるアイギスのこと。この盾はあらゆる邪悪を払うとされている。イージス護衛艦はあらゆる方向からの攻撃に対処できるため、駆逐艦の中でもダントツに強い。だが、そのイージスシステムにも弱点がある。
「くそぉ、霧のやつまだ深いぜ。」
艦橋で監視に当たっていた尾栗が呟く。ソーラーマックスによる強力な磁気嵐でイージスシステムがダウンした上に、しらせの観測によると現在も気象条件は濃霧のまま…。回復の兆しはない。
「お前ら!この艦の目と耳になるんだ!しっかり頼むぞ!」
部下の隊員達に尾栗が指示を出す。戦闘が続く中でイージスシステムが使えないのは痛い。
(…どうする?このままだと…。)
CICで菊池は考えていた。敵戦艦を未だに1隻撃ち漏らしていたからだ。
その頃、みらいから発艦し索敵に当たっていた最上の瑞雲が戦艦ル級を捉えた。
(この濃霧の中で単艦行動?でも、被弾していたな…。この、濃霧で下手に撃ったら相手に位置を知られるからな。)
と、パイロット妖精は思った。この濃霧とみらいの攻撃による混乱で随伴艦とはぐれたらしい。そして、そのル級こそ…。みらいが最後に仕留めなくてはならない相手だった。
ドォーン!
「あっ!右舷3時の方向!炎を確認!」艦橋で自衛隊の乗組員達と一緒に監視活動をしていた川内が叫ぶ。尾栗が双眼鏡で望むと確かに赤い炎が見えた。最上の瑞雲がル級に攻撃を仕掛けたのだ。
「CICヘ連絡!3時の方向。爆発炎を確認!」
「了解!爆発炎の方向にトマホーク二発を諸元設定、全てのセンサーを集中しCICへ映像だせ!」
菊池が指示を出すと、艦橋に設置された赤外線カメラの映像がCICのモニターに映し出された。戦艦ル級の姿をハッキリと捉えていた。トマホークの諸元入力完了の報告と同時に「砲雷長!システム回復!行けます!」と、青梅が叫ぶ。どうやら磁気嵐を抜けたようだ。
「対水上戦闘。目標、戦艦ル級、トマホーク二発、発射始め!」
バシュュュー!!!!!
前甲板からトマホークが放たれた。そして…。
「トマホーク全弾、弾着!」
戦艦ル級にトマホークは寸分の狂いもなく命中し、大爆発が起きた。だが、みらいに一瞬の隙があった。
「…え?」
一人の隊員が空を偶然見上げたところ、こちらに向かって飛んでくる砲弾が見えたのだ。
「敵弾!伏せろー!!!」
ドッカーン!!!
ル級のとんだ置き土産の砲弾はみらいの右側面から50メートルほど離れた海中に落下し大爆発を起こした。とてつもない横揺れに揺さぶられ、何人かの隊員が吹っ飛ばされ壁や床に叩きつけられる。その上…。
「うわっ!」
ガァン!
鈍い金属音が艦橋に鳴り響いた。
「か、艦長!」麻生が大声をあげる。目の前には、消火用の配管に頭を強打し倒れている梅津艦長の姿があった。
梅津が負傷した情報は直ぐにCICの角松の元に届いた。一瞬、青ざめた角松だったが…。今は、作戦行動中であることを自覚し指揮を執る。
幸い敵部隊は既に戦闘不能。もしくは無力化していたためにこれ以上の戦闘は起きなかった。キスカ島の部隊の回収は予定より2時間ほど遅れたが無事に収容完了した。この戦闘で護衛艦みらいの被害は負傷者13名(梅津艦長を含む重傷者5名と軽傷者8名)で設備面では、右舷魚雷発射管の配線の故障と一部電子機器類の破損で済んだ。(航行には支障なし。) また、回収部隊と合流後に霧が晴れてきたので最上の瑞雲も回収できた。作戦の勝利判定はA判定。無事にキスカ島の国防陸軍の部隊は無傷で回収できた。
9月23日1435 北海道 襟裳岬沖 40キロ
「…ん。ここは?」
「艦長。気が付きましたか。」
梅津の姿は艦内の艦長室にあった。頭に包帯を巻き、寝巻き姿でベットに横になっていた。ベットの横には桃井が居た。
「…そうか。何より作戦が成功し、犠牲者が出なくて良かった。」梅津は角松から今回の作戦結果について報告を受ける。みらいは今、キスカ島撤収部隊と共に横須賀へ向けて航行していた。このペースでなら明後日の朝には横須賀へ入港できるだろう。
「艦長。怪我の具合についてですが、頭を強打しているので念のため…。横須賀入港後、病院に検査入院していただく必要があります。」カルテを見ながら桃井が呟く。
「…わかった。副長。話がある。済まないが、一旦二人きりにしてくれないか?」
と、梅津は静かに話した。
やっと、キスカ島沖海戦に決着がつきました(あー。大変でしたf(^^;)ちょっと、敵深海棲艦の設定…。強くしすぎましたね。この先の改善点にしようと思います。今回の戦闘では濃霧と磁気嵐の中で何とか勝利しましたが、護衛艦みらいの父親的存在の梅津艦長が大ケガをしてしまいました。これから先、みらいの行く末がどうなるか…。頑張って書いていきますのでこれからもよろしくお願いいたします。