9月21日 0430 キスカ島南20キロ
護衛艦みらい以下、キスカ島撤退部隊はキスカ湾へ向けて航行していた。予報通り霧が出始めている。
「このまま晴れねぇでくれよ…。」
艦橋デッキで尾栗が外の様子を見ながら呟いた。キスカ湾は昔から濃霧が出やすい地形であり、先の大戦時に旧日本軍が撤退した際はこの濃霧を逆手に取って米軍の哨戒網をすり抜けたのだ。今回も同様に行ければいいが、海中には戦時中の不発弾や機雷がある可能性が高い。その上、この濃霧では速度を落として航行しなくてはならない。濃霧が晴れてくると予想されている昼まであと5時間。既に陸軍の前線部隊は合流地点ポイントαに集結していると情報が入っている。
0645 キスカ湾入口
「目標探知!敵勢力と思われる艦隊発見!」
「なんだと!?」
青梅の声に菊池が驚く。恐れていた事態が発生したのだ。
「後続艦に敵勢力接近と伝えろ。速やかに湾内へ入れるんだ。」
梅津の指示で回収部隊の船がキスカ湾内へ進路を向ける。
「これより我々は、対艦戦闘を行う。総員、合戦準備!対水上、戦闘用~意!!」
ジリリリリリリリリリリリ
艦内に非常ベルが鳴り響く。敵勢力と接触するまであと15分。この濃霧では艦娘達を下ろすことはできない。たとえ、下ろしたとしても…。高性能レーダーを持つみらいやしらせは大丈夫だが、川内達は遭難の危険性が高い。梅津は、艦娘達と共に艦橋へ移動し戦闘指揮を取り持つこととなった。
(頼む…。早く入ってくれ。)
菊池はCICでしまばらの動きを気にしていた。先を航行する民間徴用フェリーの2隻が遅れをとっていた為に、肝心のしまばらがまだ湾外に居るのだ。
「目標識別確認!戦艦2!重巡1!軽巡1!駆逐2!」
レーダーを見ていた青梅が叫ぶ。その頃吹雪達は桃井の所にいた。
「もうすぐ戦闘が始まるからこれを被って。」予備で積んでいた鉄帽と救命胴衣が吹雪と響に渡される。
「艦長。最上より意見具申です。」
角松が艦内電話で艦橋にいる梅津に伝える。
「霧が酷いですが、索敵の為に瑞雲を飛ばしてもいいでしょうか?」
最上の意見に梅津は少し考えたあと、発艦許可を出した。
0700 みらい後部甲板
ブロロロロロロロロ…。
「霧が深いけど索敵頼んだよ。」
リョーカイ!
最上の持っている瑞雲の妖精が敬礼する。すると、その様子を見ていたみらいが「これを持っていて。」と、最上にGPS受信機を渡す。
「この濃霧じゃ、帰艦出来る確率は低いと思う。でも、少しでも無事に帰艦出来るようにこの受信機を使って。」
「うん!ありがとう。」
最上はパイロット妖精に受け取った受信機を渡した。現在の視界は1000メートル以下、濃霧になるのは確実だ。
「いっけぇー!」
最上のカタパルトから瑞雲が飛んでいく。
「後部甲板より瑞雲発艦。索敵に向かいます。」CICのモニターには飛び去った瑞雲2機が映っていた。
(頼んだよ…。無事に戻ってきて。)
最上は瑞雲が飛び去った方向を見つめていた。
0715 みらいCIC
「しまばらより入電!我、キスカ湾内へ進入。」通信士官がしまばらからの電文を読み上げる。
「あとは、我々が敵勢力を排除するだけだな。」梅津は制帽を被り直しながら呟く。まもなく敵勢力への射程圏内だ。
「目標見えました!」
赤外線カメラで観測していた観測員から敵艦隊発見との情報が入る。目標は軽巡洋艦を先頭に単縦陣だ。1対6。火力は向こうが有利。梅津は砲撃戦を指示した。
「対水上戦闘~。目標、先頭の軽巡洋艦。主砲、攻撃始め!」127ミリ砲が動き始める。
「主砲、打ちー方始め!」
ドオン! ドオン!
菊池の合図で127ミリ砲が火を吹く。最初に発射された砲弾は赤外線カメラのデータの元、敵軽巡洋艦に向けて霧の中へ消えていった。
ドッカーン!
霧の中へ消えた数秒後爆発音がみらいへ聞こえてきた。どうやら機関部に命中したようだ。CICのモニターには操舵不能になり後続の重巡洋艦に衝突する様子が映っていた。だが…。
ズドーン!
大きな大砲の音が聞こえる。すると、艦橋すれすれを敵の砲弾がすり抜けていった!
「目標!発砲してきました!」
少し、このキスカ島の回では艦娘達が出てくるシーンが少なくなってしまうと思います。(濃霧の中で護衛艦みらいから降ろして守りにつかせるのは危ないと思いました。)艦娘達の姿も出来る限り出したいと思いますが、この回ではジパング組が多く出てくると思います。