航跡41-2:対潜哨戒
8月18日 0830 護衛艦 みらい 艦橋
「いよいよ。今日から本格的に国防海軍と共に行動するのか…。」尾栗が外を見ながら呟いていた。それを聞いた梅津艦長は…。
「まあ、この世界で生きていく以上…。仕方のないことだろう。だが、我々は国防海軍じゃない。あくまで海上自衛隊だ。専守防衛…。その事を忘れてはいかんぞ。」
と、微笑みながら尾栗に話した。護衛艦みらいは今日から3日かけて、ミサイル護衛艦 ぶこう と 汎用護衛艦 あらなみ と共に対潜哨戒任務を行いながら、広島県の呉鎮守府へ入港。呉にて改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦 だいせん と とうや型補給支援艦 あしがら と合流し横須賀へ帰投する。一番の目的は呉鎮守府で開発された海上無人迎撃システム防御浮遊砲台 ユニコーン の量産品の輸送任務の護衛が目的である。
「出港用意!」
ガラガラガラ…。
錨が水しぶきをあげて引き揚げられる。既に先陣を切って ぶこう が動き始めていた。
1200 伊豆半島下田沖 10キロ
護衛艦みらいは国防海軍の ぶこう あらなみ と共に単縦陣で西に向かって航行していた。
カシャッ! カシャッ!
片桐が艦内の写真を撮りながら散策している。艦橋の写真を撮っていたのに尾栗が気づき、あっかんべー をして余裕を見せる。
「…いくら護衛の国防海軍の護衛艦が居たとしても…。日本近海でも深海棲艦の出現情報がありますよね?哨戒網に引っ掛かりませんかね?」と、深海棲艦の哨戒網を気にする片桐。尾栗は…。
「こっちのイージスに比べたら、あっちのレーダーなんて玩具みたいなものさ。見つかる前にこっちが見つけてやる。潜水艦のソナーだって、日本の科学技術の結晶である対潜ソナーの前じゃ、闇夜で懐中電灯を振っているようなものさ…。」
「でも、この前みたいに敵機が大群で押し寄せたらどうするんですか?」
と、片桐が尋ねる。
「そしたら、今度こそ見つかる前に叩くしかないな。スタンダード対空ミサイルで…。」
翌8月19日 1015 和歌山県串本沖 20キロ
片桐が予感していた事態が発生した。敵潜水艦と思われる影が先頭を航行する ぶこう の対潜ソナーに映ったのだ。
「ぶこう より入電。前方8000に敵潜水艦!我、対潜戦闘態勢に入る。貴艦も用意されたし。」通信士官が梅津に伝える。
「了解。総員ただちに対潜戦闘用意!」
ジリリリリリリリ
艦内に戦闘態勢に入ることを知らせる非常ベルが鳴り響く。各隊員達は、所定の位置へ向かい水密扉が閉鎖される。
護衛艦みらい CIC
「ぶこうより入電。目標は2!深海棲艦のソ級と思われます。」と、青梅が梅津に伝える。ソ級といえば、開幕魚雷を撃ってくる可能性が高い。
「了解。砲雷長、アスロックの発射用意を。」
「了解しました。前甲板VLS5~6番!アスロック装填、射撃用意!」
菊池がアスロック装填を指示する。すると…。
「目標!魚雷発射!距離5000!」
と、ソ級が魚雷を発射したことを青梅が叫ぶ!旗艦である ぶこう から射撃許可が降りる。
バシュュュウウウ!!!
1000メートル先を航行するぶこうからアスロックが発射される。そして右に急旋回を取る。
「ぶこう アスロック発射!ソ級へ向かいます! 魚雷、本艦との距離3000!」と、青梅が叫ぶ。
「ぶこうと同じ進路を取る。面舵いっぱーい!」
CICにいる梅津からの指示で、艦橋にいる尾栗が操舵員に指示を出す。後続の あらなみ も面舵を取り、魚雷から回避する。回避直後、左前方でアスロックに取り付けられたパラシュートが開き着水する。
「アスロック着水を確認!インターセプトまで10秒!」
アスロックに気づいたソ級2隻は急速潜行するが…。
ドオオオオオンンンン
左前方で大きな水柱が上がる。
「目標…。消えました。撃沈です。」
CICで青梅が報告する。
「状況終了。対潜戦闘用具収め。」
梅津が指示を出してCICに安心感が流れる。すると、ぶこう から入電があった。
「今回は、我が国防海軍が戦闘を行ったが。あなた方にも、砲を撃ってもらう場合がある。」と、ぶこう の艦長から みらい へ伝えられた。それを聞いた菊池は…。
(この世界で生存していく以上、戦闘時の射撃による敵艦撃沈はやむを得ない。専守防衛は貫くことはできないのか…。)と、自身の立場である砲雷長という身分。一発の射撃で敵の生命を奪うことができる。それを改めて感じた菊池だった。
翌日夕方、護衛艦みらいは広島県の呉鎮守府へ入港した。柏木が管理する横須賀鎮守府とは違い、美しい瀬戸内海を望む赤レンガ造りの鎮守府だった。近くの江田島には国防海軍の幹部候補養成学校がある。(現実世界の海上自衛隊幹部候補生学校にあたる。)
護衛艦みらいは2日間停泊したあと、だいせん あしがら を護衛しながら帰投する。予定では3日間停泊だったが、沖縄海上を進む台風8号が予定よりも早く接近してきた為だ。台風のしけの中で航行するのは熟練の海上自衛隊の乗組員達も冷や汗ものだ。気象情報を聞きながら、尾栗は帰りの航行にかかる時間を気象観測員のメンバーと共に海図室でシミュレーションしていた。
「うーん。この調子だと、横須賀に戻る日には最悪降り始めるなぁ…。」
台風8号は予想よりも発達し始めていた。呉出港の日には九州奄美諸島にかなり接近し、夕方には九州南部に上陸の可能性が出ていた。航行ルートは台風の進路上にあり、台風から逃げる形になっている。尾栗は海図と気象情報を照らし合わせて考え込んでいた。