バララララララララ
SH-60J機内では、マリアナ基地に向かう草加 角松 みらい しらね の4人の姿があった。
「あと、30分ほどでマリアナ基地へ到着だな。」
と、腕時計を見ながら角松が呟く。
「ところで角松二佐、左肩に閉まっている物重くはないか?私の経験から推測するには拳銃だろう…。」その言葉に、その場の空気が凍りついた。
「…ま、俺たちは異世界の人間だ。何か起こるかわからない。あくまで、護身用だ。」と、冷静に角松は答えた。
しばらくの沈黙のあと…。
「到着早々、沢井国防軍総監と面会できるものなのでしょうか?」しらね が疑問の声をあげた。
「その心配はない。横須賀の柏木提督とは面識があってな、既に横須賀から連絡が行っているそうだ。」と草加は心配する必要は無いことを伝えた。
「ですが、我々の話…。容易に信じると思いますか?この戦争の行く末を…。」ふと、みらい が話始めた。
「…まぁ、容易には信じまい。だが、来る7月23日のカダルカナル島襲撃の前に…。少しでも多くの、日本軍人を退避させる事が我々の使命であることであることを忘れるな。」と、角松が話していると…。
「副長!レーダーに目標視認。迎撃体制に入ります。ベルトをしっかり締めておいてください。燃料に余裕がありません。突っ切ります!柿崎!ドアガンの射撃用意を!」と、操縦室にいる機長の林原が叫ぶ中、草加は「よい心掛けだ…。」と呟いた。
慌ただしくなる機内で柿崎がドア横に設置された機関銃の用意をする。
「見えた!」
彼方遠くの前方に3機のプロペラ機が見えた。
「機影3 バンク振ってます。」と、林原が話す。
「我が、海軍の海鳥だな。それと、オスプレイは空軍の奴らだ。」と草加が解説すると同時に、相手から無線が入る。
「こちらは日本国国防空軍マリアナ方面航空隊そちらの国籍及び所属、飛行目的を伝えよ。」
SH-60Jの前方マリアナ基地からやって来たのは、国防海軍の[海鳥]と国防空軍のオスプレイだった。林原が国籍と所属等を伝えていると…。
「…流石、国防軍ね。海軍機だけでは分からないから空軍機まで寄越すとは…。」と、しらね が呟いた。角松らが乗ったSH-60Jは出迎えの海軍空軍両航空機に続き飛行する。しばらく飛行していると急に雲が開け視界が一気に良くなった。
「あれが、マリアナ諸島か…。」
と、操縦席で林原が呟いた。
「幹部候補生の時に、航海演習で一度来たことがあるが…。相当、軍事化されてるなぁ…。これじゃ、きれいな海が台無しだ…。」角松はあまりの変わりように暫し苦笑していた。SH-60Jの窓からは眼下に広がる南太平洋の美しい海の中に浮かぶ要塞基地が見えていた。皆が、外の景色に夢中になっていると草加が話始めた。
「…おそらく誘導されるのは基地外れの旧整備場だろう…。あまり目立っては困るらしい。林原機長!着艦目標はあれだ。」
「はっ?」
急に声を掛けられ驚く林原。草加が指差す先には一つの護衛艦の姿があった。
「あそこに見えるのは、我が海軍の改いぶき型護衛艦DDV-194[だいせん]横須賀からの情報だと今、艦内で参謀会議が行われているそうだ。どうせなら、国防海軍のど真ん中に堂々と着艦しようじゃないか。」と、草加が林原に指示する。「許可もなく着艦して大丈夫なのか…?」と、心配する角松をよそにSH-60Jは進路を護衛艦[だいせん]に向きを変えた。
「いかん!奴は[だいせん]へ向かう気だ!」と、急な進路変更に驚く護衛のパイロット達。SH-60Jの機内には護衛の機からの無線が飛び交っていた。また、基地内では急な進路変更により空襲と勘違いしたのかサイレンがけたたましく鳴り響く。
「なんだ、会議中に敵襲か!?」
[だいせん]船内にいた参謀らが外の様子が気になり艦橋へ出てきた。
「命令は無視してそのまま着艦だ。空中線に注意しろ。」草加の指示通り、SH-60Jの機内では[だいせん]の着艦ポイントを探し上空でホバリング状態に入っていた。
「上空で旋回中の航空機は友軍機。発砲は認めず!繰り返す!上空で旋回…。」と、基地全体に放送が入る。
「なんだあのヘリは!?」
「許可もなしに着艦とは無礼な!」
「誰だ操縦してるのは!」
と、参謀らが怒るなか…。一人望遠鏡を覗きながら…。
(…日の丸に海上自衛隊…。あいつか。)と、心の中で思った人物がいた。
キイイイイイイイ イ イ イ ン…。
エンジン音が徐々に下がり、SH-60Jは護衛艦[だいせん]の甲板に着艦した。
「草加少佐誰も出てきませんが…。どうします?」と、林原が心配そうに話すなか草加は上着を脱ぎ正装に着替え扉を開けて降りていった。
「大丈夫だ。この海軍で一番好奇心旺盛な方がやって来るから。」と、草加に続いて角松 みらい しらねが降りていった。
カン コン カン コン …。
着艦したSH-60Jに近づく一人の人間がいた。その人物は、紫色の制服を身に付け胸に国防軍全体を統括していることを示す金色のバッジが付いていた。
「国防海軍 海軍少佐 草加 拓海 ただいま帰艦しました。」と、草加はその人物に向かい敬礼した。
「私は国防軍総監 沢井 宗一 。草加君、よく帰ってきた。」と、草加の肩を軽く叩く。
「ところであちらの方は?」
沢井が視線を向けるとSH-60Jの前に角松ら みらいクルーが並んでいた。
「海上自衛隊横須賀基地所属 イージス護衛艦みらい副長 角松 洋介!」
「国防海軍 横須賀鎮守府所属 海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦 みらい!」
「同じく、横須賀鎮守府所属 海上自衛隊 しらね型汎用護衛艦 しらね。」と、三人は沢井総監に敬礼した。
「他に、現在機体整備中の林原機長、柿崎操縦士の合計5名で参りました。」と、角松らが整列して待機していると…。沢井総監はSH-60Jの視察を始めた。
「ふむ…。機体は我が国防軍で使われているのと同じ機体だが…。日の丸に海上自衛隊の文字。明らかにこの世界の代物じゃないね。」と、興味深くSH-60Jを見続ける。
「総監!先日お伝えしたようにお話があるのですがよろしいでしょうか?」草加が沢井に声をかける…。
「おお、すまなかった。つい、見入ってしまったな。」と、苦笑しながら近くにいた水兵に声を掛け角松達を艦内の会議室へ案内した。
「どうぞ、こちらの部屋で少々御待ちください。よろしければ、軽食をお持ちいたしますが…。」
「では、何か飲み物をお願いしたい。」
会議室に案内された角松らは暫し、提供されたコーヒーを飲みながら待機していた。
ちょうど、30分ほどたった頃だろうか…。係りの者に案内されて、基地内の大会議室へ案内された。そこには沢井以下、国防軍参謀らが座って待っていた。
「改めて紹介する、私は日本国 国防軍総監 沢井宗一と申します。あなた方のことは、横須賀の柏木から聞いております。」沢井の自己紹介のあと、右から続けて海軍の軍服を着た初老の男性を指し
「国防海軍 総司令 山本 五十六。」
二番目の海軍参謀の服を着た単髪黒髪でスポーツマンタイプの若い男性は
「国防海軍 作戦指揮担当 滝 雅信」
三番目の黒い顎髭を生やし中太りで茶色の制服を身に付け、扇子を扇いでいる男性は
「国防軍 警務隊参謀 吉岡 勉 」
紫色の参謀服を身に付け大きな丸眼鏡を掛けた男性は
「国防軍 補給物資支援担当参謀 簗瀬 直也」
そして、陸上自衛隊と同様の緑色の迷彩服を身につけたスポーツ刈りの男性は
「国防陸軍 第82普通科連隊 総隊長 棟方 幸一」
沢井総監が紹介した順に、各参謀らから「初めまして。」や「よろしく。」等と簡単な挨拶を交わした。
「あなた方にお会いしに来た理由は、こちらの件についてです。」と、草加は手早くノートパソコンを開きプロジェクターで正面モニターに映した。
「まず、私の不手際により情報の通達が出来ず…作戦遂行が困難になり多大な影響を与えたことについて御詫びいたします。」と、参謀らに向かい深々と謝罪したあと草加は本題に入った。
「…私はこちらにいる海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦[みらい]に助けられ一命を取りとめました。容易には信じられるとは思われないですが、護衛艦みらい は我々と違う世界からやって来ています。」という草加の言葉に改めて沢井達参謀は驚いた。
「護衛艦みらい が居た世界では、深海棲艦はパソコンオンラインゲームの敵キャラクターであることも判明しています。そのなかでも、この現実世界に通じるものがあり…。我々の世界を予言した物が存在していました。」と、草加は一つの書類を机の上に出した。そして…。
「人類は絶滅の危機を脱することはできます。しかし、2018年8月15日日本はアメリカ合衆国に吸収合併され日本国はアメリカの支配下となります。」
みらいCIC 14:25
「…副長は上手くやってますかね?」と、菊池がボソッと呟いた。
「分からんな、草加少佐と一緒の洋介…。いや、副長はいつもと違ってなんか可笑しいなぁ。」と、珈琲を片手にCICに入ってきた尾栗が話す。
「…まぁ、よかろう。副長は根が強い。どんな苦境でも相手に対する対抗心、優しさ、助け合う心は忘れん男だ。なぁに、心配する必要は無いさ…。」と、梅津艦長は二人に安心するようにと伝えた。護衛艦みらい のマリアナ諸島到着まで、あと12時間に迫っていた。
ミクロネシア連邦 ボンペイ島 南150キロ地点現地時間 14:45
アメリカ海軍 第12南太平洋駆逐隊 旗艦アーレイ・バイク級ミサイル駆逐艦[ジョン・フィン]以下、艦隊5隻がマリアナ基地へと向かって居た。
「あと、マリアナ基地まで3日か…。」
アメリカ、ノーフォークからマリアナ基地へ派遣され長旅の影響なのか、乗組員達は深海棲艦の事など忘れ船旅をのんびり楽しみながら過ごしていた。だが、その油断が命取りとなった…。
「前方15キロに積乱雲。総員、シケに対応せよ。」
この時、この積乱雲を迂回すれば無事にマリアナ基地にたどり着くことが出来たのだが…。この、第12南太平洋駆逐隊の勇姿を見た者はこの時を境に2度と無かった。
〔ワレ、敵勢力ト接触…。敵ハ深海棲…。〕
という、電文と救難信号を残して…。