順調に横須賀へ向けて航行する みらい 。しかし、三宅島沖合いに差し掛かったところ発達した低気圧に遭遇した。
「取舵10° 最大戦速!」
みらい の周りには30㍍は超えるであろう高波が多数あった。大きく揺れる船内だが、どこに敵勢力が潜んでいるかわからない。CICでは大きな揺れの中、菊池がレーダーを監視していた。
一方、艦橋では
「左舷前方に高波!推定25㍍!」観測員から連絡が入る。「面舵10°最大戦速!」尾栗が指示を続ける。窓には大粒の雨粒が打ち付け視界が悪くなっている。「予報では小さかったが、ここまで時化るとは…。」窓の外を見ながら、梅津艦長は呟いた。
その頃、揺れる船内の中 吹雪とみらいはジャーナリストの片桐と一緒にミーティングルームで待機していた。片桐はこの機会を逃さんと、みらい達二人を取材していた。「…ところで、お二人は艦娘と呼ばれる存在であり。深海棲艦と戦っていますが…。実際にはどう思っていますか?」大きく揺れる船内で船酔いにならずに次々と質問する片桐に、若干だが…。みらいと吹雪はあきれていた。
ドォーン!!!!!
船体に大きな高波が直撃し船内が大きく揺れる。
「うわぁ!」
「きゃぁぁ!」
カン!カラカラカラ…。
片桐 吹雪 みらいが悲鳴をあげる。
テーブルの上のカメラフィルムのケースが床に散乱し、みらいが飲んでいたアイスコーヒーが床に散らばる。吹雪が横を見るとみらいがソファーから放り出され、床でうずくまっていた。
「みらいさん!大丈夫ですか!?」
あわてて駆け寄る吹雪。
「だ、大丈夫よ。ちょっと左肩を強打しただけだから。」みらいは肩を押さえながら返事をする。
「ですけど…。」心配する吹雪をよそに、みらいは立ち上がり「あとで、湿布を貼るくらいはしておくから大丈夫。それより、片桐さんのフィルムケースを拾うの手伝ってあげて…。」
雨足も弱くなり、嵐から抜けつつある頃…。
「…ん?」
ソナー室にいた観測員が異変に気づく。
「ソナーCIC!本艦前方5000 水深20にUnknown目標探知!」
「なにぃ!?」CICに緊張が走る。
「目標の識別は可能か?」菊池がソナー室に問い合わせるが…。
「高波の影響で識別不能です!」
「なんだと!?」
「艦橋CIC!本艦のすぐ前方にUnknown目標あり!なお、敵味方識別不可能!」
「何だと!?」
艦橋に居た、角松らが驚く。
「くそっ!こんなときに(怒)」
「対潜戦闘用意!」
「面舵いっぱーい!」
みらい は余計な戦闘を避けるため、面舵を取り回避する体制に入った。
ジリリリリリリリリリリリリ
緊急ベルが鳴り、赤いライトで照らされている艦内を大慌てで隊員達が配置場所に移動する。吹雪はその中の一人を捕まえて理由を訪ねた。
「一体どうしたんですか?」
「我々の前方に、Unknown目標が見つかったんだ!」
「えっ!?あ、ちょっと~。」
吹雪に理由を告げた隊員は走り去っていった。
「目標の位置は?」
「ハッ!本艦より2時の方向!距離3100!まもなく、目標の魚雷射程に入ります!」角松が目標の現在地についてCICに問い合わせる。
「了解!ミクシー作動!魚雷戦用意!!目標のデータをアスロックに入力!」
角松の指示により、艦尾から囮のミクシーが放出される。CICでは後部甲板に設置されている監視カメラを使い、目標の詳細を確認していた。
「くっそ…。砲雷長、波が高くてよく見えませんぜ。」青梅が歯を食い縛りながら答える。
「目標との距離は?変わったか?」菊池が尋ねるが…
「いや、ずっと同じ距離を保ったままです…。」
(敵だとしたら隙を見つけて攻撃してくるはずだ…。なぜ攻撃してこない?)全く、相手が動く様子がなくCICでは無言の緊張が走っていた。
「…どうやら、目標は攻撃を行えない状態であるのかもしれん…。このまま迂回して進む。只し、目標の動きに厳重警戒せよ。」
梅津艦長は、Unknown目標の魚雷射程から離れた所を通るよう指示を出した。みらいが迂回しようとしたとき、
「あ!目標機関始動!追尾体制に入りました!」
「何だと!?」突如動き始めたUnknown目標に対して、梅津艦長は「発光信号を送れ!」と指示し、隊員が
「ハッ!発光信号弾!ファイヤ!!!」と叫ぶ。
バシュュュュュュュュュ
みらいから発光信号弾が放出され、眩い光で辺りを照らした。
「Unknown目標!進路変わらず!さらに本艦へ接近
します!敵の魚雷射程まで、あと800!」と、CICで青梅が叫ぶ。
「応答はないか…。」
「艦長!敵の魚雷射程までまもなくです!」
「うむ。敵の姿が見たい。対潜閃光魚雷発射!」
角松の報告をもとに、CICに対潜閃光魚雷による目標確認の指示が出た。
バシュ!
右舷の魚雷発射管から閃光魚雷が発射される。
「魚雷命中まで、5秒前!4 3 2 1 0 !」
ドドーン
「ひゃあああ!!!」
みらいの右舷後方の海面が光ったと同時に、海中から人が飛び出してきた。
「ちょっと入らないでください!」
「私はこの船の艦娘なんですよ!入る権限はあるはずです!」CICの入り口で何やら揉め事が起きている。
「砲雷長、目標の分析を頼む。」そう話し席を立つ梅津艦長。入り口に向かうと、そこには吹雪とみらいがいた。
「戦闘中になんだね?」
「艦長!この両名がCICに入れてくれと頼んで来たのですがどうします?」対応していた隊員が尋ねる。
「通常、部外者のCICへの立ち入りは原則禁止だが…」
「艦長!目標の詳細が判明しました!画像出します!」
「まるゆさん!?」驚きの声をあげる吹雪!
「えっ!?」
「あっ、ちょっと!」
隊員の制止を振り払いCIC内のモニター前に駆け寄る吹雪。
「一刻も早く、救助してあげてください!あの子、潜水艇といっても泳ぐの苦手なんです!」
「つまり、敵ではないということか?」
「そうです!敵なんかじゃありません!!私たちと同じ艦娘です!」冷静に聞いてきた菊池に、吹雪は涙ながらに訴えた。
「分かった。Unknown目標を要救助者とする。」
「CIC格納庫!航空科、SH-60Jは飛べるか?」梅津が格納庫で待機している航空科に問い合わせた。
「格納庫CIC!ギリギリのデットラインです。」
「要救助者が漂流している。救助作業に当たってくれ。」
「了解!」
指示を受けてから5分も経たない内に、SH-60Jは発艦し まるゆ の救助へ向かった。
「ん…。んん?ここは…?」
しけで荒れ狂うの海からSH-60Jによって救助されたまるゆ。ヘリで垂直に釣り上げる形で救助されたため、吊り上げられたときの高さで気を失っていた…。
「あっ、気がついた!」
「あれぇ?吹雪さん???」
まるゆが横になっていた医務室内のベット横には、吹雪が椅子に座っていた。吹雪の声を聞き、医務長の桃井一尉がCICに艦内電話にて連絡を入れたあと二人の元へやって来た。
「医務長の桃井です。ちょっと失礼します。」
そう言うと、まるゆの右手を取り脈拍を調べ始めた。
「ところで吹雪さん?ここはどこなんですか…?」
自分が何処に居るのか気になる まるゆ に吹雪は…
「ええ、ここは船の中よ。それも海上自衛隊の護衛艦の中よ。」
「海上…自衛隊…?あれれ?そんな部隊ありました
っけ?」まるゆ が疑問の声を上げていると医務室に梅津艦長が入ってきた。
「お気づきになられましたか…。」
「ええ、こちらのベットです。」
梅津艦長は桃井に案内されてまるゆの元にやって来た。
「海上自衛隊 ゆきなみ形イージス護衛艦 みらい艦長 梅津三郎 です。先程はとんだ勘違いをし、驚かせてしまい申し訳ない。」
まるゆ の前で深々とお詫びする梅津艦長。すると…
「いえいえ、とんでもないです 私が紛らわしい行動をしたばっかりに 」
「ところで、まるゆさんは何をしていたのですか?」と尋ねる吹雪に
「えっ?ああ 」
自分の任務を思い出したのか、まるゆは自分の任務について話始めた。
「私は今、伊豆大島の陸軍の駐屯地で物資輸送の訓練をしているんです。それで、伊豆大島から横須賀へ向かっていたんです。」
「それって…。話しちゃっていいんですか?」
吹雪の顔は若干青ざめていた。
「あっ 」しまった!と思ったのか慌てて口を手で押さえるまるゆ。しかし既に、時すでに遅し…。その場に居た、みらいのメンバーにはもろに聞こえていた。
「まぁ、今の話は聞かなかった事にしておきます。」と言いつつ、梅津艦長は静かに席立った。