野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

97 / 180

手に汗握る心理戦、というお話



第95話 因果応報

天災博士が送ったゴーレムとの戦いは、見事にIS学園組の全勝で幕を閉じた。

 

ゴーレムを倒し終えた箒とセシリアが千冬に報告へ行くと、既に他の『たんれんぶ』も揃い踏みであった。

皆の顔は一同に明るく、今回の戦いで何かを掴めたようだ。

 

「ふむ。私からは特に言う事も無い、が.....そうだな。勝って兜の緒を締めよ、だ」

 

『たんれんぶ』顧問は、早々簡単に褒めるような甘い人物では無い。

 

「うふふふ.....こう言ってますけど、先程まで笑顔でウンウン頷いていたんですよ」

 

真耶からフォローと云う名の暴露である。

その言葉に皆が温かい目で千冬を見る事になるのだが、瞬時に目線を虚空へ移す。

羅刹と目を合わせる訳にはいかなかった。

 

「アリーナへ行こうか山田君」

「調子に乗ってすいませんでした」

 

羅刹にお米様ダッコされた真耶は、逃げる術を失った。

 

「お前達も今日は寮内で待機だ。事情は何であれ学園は襲撃を受けた事になっているのだからな」

 

そう言って扉から出て行く千冬に、気になっていた事を箒が尋ねた。

 

「あの.....恭一の姿が見当たらないんですけど」

 

そうだった。

襲撃してきたゴーレム5体のうち1体を相手にしたダリル、フォルテ、恭一の3人が此処に居ないのだ。

 

「あのアホ共ならロビーで反省中だ」

「へっ?」

 

それだけ言うと今度こそ千冬と真耶(抱えられたまま)は出て行った。

 

 

「クスクス.....渋川君なにしたのー?」

「うるへー」

 

寮のロビーは、誰もが通る場所である。

箒達が着く頃には、他の生徒達も笑いながら前を通り過ぎていた。

中には彼に一声掛ける生徒の姿もちらほら。

 

「しぶちー、また何か悪さしたんでしょー?」

「俺は悪くねぇ」

 

左からダリル、フォルテ、恭一の順に正座させられているのだが、其々がプラカードを首から掛けられていた。

 

『食いしん坊は』

『卑しん坊の』

『お時間です』

 

((((あっ....))))

 

プラカードに書かれた文字を見た『たんれんぶ』部員は、それだけで察したようだった。

 

 

________________

 

 

 

「.....寮内で待機じゃねぇのかよ」

 

羞恥心罰正座から解放された恭一が部屋に戻ってくると、数人が茶菓子と共に寛いでいた。

恭一の部屋は部室でもあるから、居てもおかしくは無いのだが。

 

「恭一は知らんかもしれんが、此処も一応寮扱いされてるんだぞ」

「えっ、そうなのか?」

 

流石にそれは初耳である。

 

「今日は部活も禁止だしね。夕食まで時間もかなりあるし暇だなぁ」

 

シャルロットはウーンと背もたれに伸びをする。

 

「アンタなにか持ってないの? ボードゲーム的なやつとかさ」

「トランプならあるぜ?」

 

たまに遊びに来るクロエが置いていった物である。

 

「それで、何をして遊びますの?」

「これだけの人数だしなぁ.....色々やってみりゃ良いんじゃないか?」

 

一夏の提案に改めて恭一は、面子を見渡す。

今、此処に居ないのは千冬の手伝いをしているラウラ。

楯無は生徒会長としての事後処理で、それに付き合う簪。

 

「んじゃ最初はシンプルにババ抜きから始めましょ」

 

鈴の言葉に人知れず、恭一の目が光った。

 

(.....憂さ晴らしには丁度良いな)

 

意外に長かった正座の苦痛に加えて、衆人にも笑われた辱め。

恭一は、少しばかり鬱憤が溜まっていた。

悪い笑みを浮かべながら円になった箒達から生贄を探す。

 

(.....標的は)

 

可愛らしい顔の小悪魔(恭一限定)シャルロットと目が合う。

 

「.....ニヤァ」

「....?」

 

(テメェだ貴公子)

 

戦闘に関しては向かう処、敵無しの恭一にもライバル的存在は居る。

というか結構居たりする。

その一人がシャルロットだった。

日常生活の中で隙を見つけては、恭一を揶揄う事に定評のあるシャルロット。

 

このフランスっ子に何度、苦汁を舐めさせられた事か。

 

(―――復讐するは我にありッッ!!)

 

楽しい雰囲気の中にアホが1人紛れ込んでいた。

 

.

.

.

 

「オメーの番だデュノア。分かっちゃいると思うが、どっちかがババだぜ?」

「そうだね」

 

皆は既にアガり終えて、残っているのは恭一のシャルロットのみ。

恭一の手札は2枚で、シャルロットは1枚だ。

簡単に言うと二択でシャルロットのアガり、恭一のドベが決まるのである。

 

シャルロットは右にあるカードに手を掛ける。

恭一にバレないように表情を盗み見ながら。

 

「.......」

 

今度は左にあるカードに手を掛けてみる。

 

「.....フフッ」

 

(ポーカーフェイスの練習をしておくべきだったね恭一)

 

「顔に書いてあっ......!?」

 

ババを引かされたシャルロット。

 

「うわはははは! ババ引いて、したり顔してんじゃねぇよ貴公子ィィィ!! あひゃひゃひゃひゃ!!」

 

指を差して大笑いの恭一。

 

(......イラッ)

 

一回戦終了、続けて二回戦開始。

 

「よしっ! これでアガりね♪」

「私もアガりですわ」

 

次々にアガっていく中で

 

(むっ.....ババを引いてしまったか)

 

どうやら箒がババを引いてしまったようだ。

残っているのは箒、恭一、シャルロットの3人。

 

「ババを引いたな、箒」

「むっ?」

「んでもってコイツがババだ」

「むむっ?」

 

あっさり看破し、わざわざババをゲットした恭一。

 

「な、何故分かったのだ?」

「オメーの顔見りゃ分かるさ、当然だろう?」

「きょ、恭一.....」

 

然り気に言っているが、皆も居るので自重して欲しい。

 

「わ、私の顔を見ても分かりますか恭一さん!?」

「分かりません」

「どちくしょう!」

 

セシリアの道のりはまだまだ長い。

 

「お、俺だって恭一の顔見りゃ何となく分かるんだぜ!?」

「何でアンタが張り合うのよッッ!!」

 

一夏が言ったのはあくまで友としての意味なのだが、誤解を招く言い方だけは本当にやめて欲しい。

ギャーギャー騒ぐ周りを余所に、恭一は又もやシャルロットに挑発的な表情だ。

 

「またまた二択だなぁオイ。どっちがババでしょ~~~か?」

「.......」

 

スッ

 

シャルロットが右に手をやると嬉しそうな顔を浮かべる恭一。

 

スッ

 

左にやると

 

(嫌がる表情になった.....さっきはこのパターンでコレがババだったんだ)

 

読めたよ恭一。

今度は僕が裏をかいてくると思ってるでしょ?

これがセーフティカードだよっ!

 

「......うぐっ!?」

 

彼女が手に取ったのはまたしてもババ。

思わず恭一を見てしまう。

 

「簡単すぎてつまんねぇぜ。随分と底が浅いじゃねぇか、なぁ貴公子さんよぉ? ケケラケラケラ」

 

(.....イライラッ)

 

「もう一回だよ」

 

子供じみた恭一の言葉にもクールに返すシャルロット。 

 

二回戦終了、続けて三回戦開始。

 

.

.

.

 

「イヤッフゥーーー!! 弱すぎんぜ、でゅのっちィィィ!!」

「もう一回だよ」

 

.

.

.

 

 

「ぶしゃしゃしゃしゃ!! ランドセル時代からやり直して来いやァ!!」

「もう一回だよ」

 

何時の間にか、皆が見守るタイマン勝負になっていた。

 

「そろそろ決着の刻だぜデュノア、負けた方は今夜の飯を勝者に奢るのだ」

「......僕は負けない」

 

あっという間に勝負は流れ、恭一の手札は2枚、シャルロットは1枚になった。

 

(もう恭一の顔は見ない。第六感に全てを賭けるッッ!!)

 

「むっ? むむぅ.....っっ」

 

ぎゅむ~~~~~~っ!!

 

シャルロットが掴んだカードを放さない恭一。

 

「ほう.....考えたな恭一」

 

「「「「えぇ.....」」」」

 

箒以外の面々はドン引きである。

流石に大人気無さ過ぎて。

 

「.....放してよ恭一」

「いやだ」

 

ぎゅ~~~~っ.....。

 

「ぐぬぬぬっ.....っっ」

「オラオラどうした、アーン? 早く引っこ抜いてくれよウヘヘヘ」

 

我らが部長のみっともない事この上無し。

 

(鈴.....僕に力を貸してッッ!!)

(まっ....しょうがないわね)

 

シャルロットからのアイコンタクトを受けた鈴は、スススと恭一の後ろへ周り

 

 

こちょこちょこちょこちょ

 

 

「わひゃひゃひゃひゃっ?! な、何しやがる鈴!?」

 

(―――見せたね、隙をッッ!!)

 

「貰ったああああああッッ!!」

「し、しまった!?」

 

 

勝者シャルロット・デュノア、敗者渋川恭一。

 

 

「やったぁーーー!! 勝ったーーーッッ!!」

 

大きく両腕でガッツポーズを掲げるシャルロットの姿は、歳相応で可愛らしかった。

 

「えへへへへ! 弱っちぃね恭一ィィィ!! 底が浅いねしーぶちぃぃぃぃ!! あはっ♪ あはははは!!」

 

今までの鬱憤を吐き出すかの如く、敗者を指差し笑い転げるシャルロット。

 

「ぐぬぬぬ.....徒党を組むとは卑怯なりデュノア」

「あれぇ? あれあれあれぇ? 僕、こんな言葉聞いた事あるよー?」

 

むぷぷぷ、と可愛らしく笑うシャルロットは恭一の眼前まで近づき

 

「負けた人の言葉ってさ.....なーんの意味も無いんだってね♪ 誰から聞いたんだったかなぁ.....しぶかわなんちゃらって人が良く言ってるんだけどなぁ、誰の言葉だっけ、恭一ぃ?」

「ぐっ.....ぐむ」

 

この時、シャルロットの背後から悪魔のしっぽが見え隠れしたそうな。

そして今回に限っては、誰も恭一のフォローに入ろうとはしなかった。

理由は単純、恭一の自業自得だからである。

 

「ちっ.....今回は負けを認めてやる」

 

苦々しく敗北宣言する恭一に対し、ニッコリ微笑み

 

「そんな事より、誰の言葉かちゃんと言ってよ」

 

(((( ドSッッ!! ))))

 

散々自分を馬鹿にした恭一を簡単に見逃す程、今夜の彼女は優しくなかった。

 

逃れられぬ業(カルマ)、少年は大切な事を学んだ。

『仇も情けも我が身より―――』である。

が、彼の事なのできっと明日には忘れているだろう。

 

 

 

次の日、シャルロットの肌はやけにツヤツヤしていた。

 





ワイワイ仲良くしているのを書くつもりが。
どうしてこうなってしまうのか\(^ω^)/

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。