野蛮な男の生きる道(第3話までリメイク済)   作:さいしん

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元祖悪ノリコンビ『しぶちー&たっばー』というお話



第93話 負けられない理由

「それでは、開会の挨拶を更識生徒会長からして頂きます」

 

本日はタッグマッチトーナメントの開催日だ。

壇上に立ち、挨拶中の楯無からは淀み無く澄んだ声でスラスラと流れるように言葉が紡がれている。

が、表情は少し硬い。

 

「これにて開会の挨拶とさせて頂きます」

 

楯無が壇上から降りると、大型の空中投影ディスプレイが現れた。

本日のタッグマッチトーナメント対戦表である。

 

『織斑一夏&凰鈴音 vs. 更識楯無&更識簪』

 

『篠ノ之箒&セシリア・オルコット vs. ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルロット・デュノア』

 

第一シード『ダリル・ケイシー&フォルテ・サファイア』

 

対戦カードが表示された事により、生徒達の声が大きくなる。

 

「何処が優勝すると思う?」

「やっぱり更識姉妹チームでしょ! 会長は唯一の『国家代表』だし、妹さんもかなりの腕らしいわよ」

 

どうやら一番人気は、更識姉妹のようだ。

 

「私達としてはやっぱり篠ノ之さんに頑張って欲しいな」

「うんうん、専用機に混じって唯一の訓練機だもんね。いっぱい応援しちゃうよ!」

 

個人的な人気では訓練機で挑む箒が断トツらしい。

そんな中で本日の主役達、主に『たんれんぶ』メンバーの表情は硬いままだ。

と言うよりも覚悟を決めたような、神妙な顔つきである。

 

「絶対に負けらんねぇ」

「当然よ。滅殺してやるんだから」

 

一夏の言葉に鈴も力強く頷きを見せる。

他のペアも同じように瞳をギラギラさせているが、これから行われるタッグマッチの対戦相手に対してでは無かった。

 

本日の出場者は指定されたアリーナへ移動を始める。

第一試合は午後からであり、午前中は其々が各アリーナで最終調整を行わなければならない。

 

「私のバカ姉がすまんなセシリア」

 

第二アリーナにて箒はセシリアに軽く頭を下げた。

 

「ふふふ.....謝る事など何も御座いませんわ。篠ノ之博士が言った事は全て事実なのですから」

 

それは、昨日の事だった。

 

 

________________

 

 

 

「はろろ~ん『たんれんぶ』特別顧問の束さんだよ~!」

 

その日の鍛錬を終えた処で、突如投影ディスプレイが彼らの目の前に現れた。

 

「た、束さん!?」

「おうおう良い顔付きになってきてるねぇ、いっくん!」

 

数年ぶりの対面に一夏は驚くが、それ以上に他の面子も驚きを見せる。

 

「た、束ってISを作ったあの天災博士?」

「それよりも特別顧問って初耳なのですが.....」

 

戸惑う彼女達を余所に束は、要件をパパッと切り出してくる。

 

「明日、IS学園に無人機襲来させるからよろ~!」

 

「「「「「 はぁあああッッ!? 」」」」」

 

束が秘匿で『たんれんぶ』の特別顧問に就任している事を知っていた者は限られている。

部長副部長である恭一、箒。

顧問の千冬に生徒会長の楯無。

 

「どういうつもりだ、束」

「んっふっふ~、言わなくてもちーちゃんなら分かるっしょ?」

「.....ハァ。何時からそんなお節介になったのやら」

 

一言二言で全てを理解した風な千冬だが、周りは納得出来る訳が無い。

 

「ね、姉さん! 何を考えてるんですか!?」

「そうですよ束さん、千冬姉ぇも! 俺達にも分かるように説明してくれ! いきなり言われて、はいそーですかってなる訳無いだろ!」

 

箒と一夏が皆を代表して声を上げる。

恭一と楯無は何かを察した様だが、他のメンバーは違う。

 

「束さんも観たよ~、チミ達と『亡国機業』との戦闘」

 

束は文化祭時とキャノンボール・ファストでの『サイレント・ゼフィルス』との戦闘の事を言っている。

 

「いっくん達は既に2回、あの襲撃っ子と戦った訳だけどさ.....どう思ってるの?」

 

どう、と言われても何て返せば良いのか。

 

「束さんは優しいからね、ハッキリ言ってあげるよ。数分とは云え、6人掛りで倒せなかったとか、お話になんないよー? 割と本気で」

「それは......」

 

キャノンボール・ファスト時。

確かに一夏達は、皆で連携して襲撃者を追い詰めた。

が、戦闘不能にまでは至らなかった。

相手は1人こちらは6人居たのに、だ。

 

「箒ちゃんと扇っ子が居なかった事を入れてもね.....そこんとこどうなの?」

「ぐっ....情けないですよ! だから俺達は強くなろうとしてるんじゃないですかッッ!!」

 

言われなくなって皆、分かっている。

悔しい思いをしている。

一夏や箒を除けば、自分達は国を代表する者の1人である。

そんな自分達が数人掛りで仕留めきれなかった。

これ程、屈辱的な事は無い。

 

今回のタッグマッチも、彼らのレベルアップを図るモノである。

イベント事として行う訳では無い。

 

「どんぐり同士で試合っても得られるモノなんてタカが知れてるよね~? しかも普段から『たんれんぶ』で試合ってるんだから、態々大事にする意味無くなぁい~?」

 

(あいたたた.....痛い処突いて来るなぁ)

 

楯無は扇で顔を然り気に隠すが、苦笑いだった。

一夏達も少なからず感じていたのか、言い返す事が出来ないでいた。

 

「沈黙は了承と受け取るよ~? 送っちゃって良いんだね~?」

「1つだけ約束しろ束。他の生徒を危険に晒す事だけはやめろ」

 

千冬の言葉に一夏達も頷く。

 

「それが守られるのなら私は何も言わん、好きにしろ。様々な相手と戦闘経験を積むのは悪く無いしな」

 

どうやら皆も束の押し売り襲撃案を受け入れたようだ。

 

「まぁ今回は別にそれで良いけどね」

 

(みんな分かってるのかな....でも、敢えて束さんが言うのもアレだしなぁ)

 

そんな事を思っていると、良いタイミングで恭一と目が合った。

 

(キョー君任せた!)

(いやどす)

(分厚いお肉とホカホカご飯!)

(任せろい!)

 

「悪者は俺達の事なんか考慮してくれねぇぜ? 其処んとこ、ちゃんと頭に入ってんだろうなお前ら」

「恭一?」

 

今まで無言を保っていた恭一が口を開いた。

 

「他の奴には手を出さないでくれって言ってよ、分かってくれるようなら最初からテロ活動なんざしねぇよなぁ.....『亡国機業』だっけか?」

 

恭一の言葉で、甘い気持ちでいた皆が気を引き締め直す。

 

「確かに恭一の言う通りだよな。こっちの言い分なんて聞いてくれる訳無いよな」

 

そう云う一団を自分達は相手にしているのだと自覚する。

生半可な気持ちではいられない。

 

「いいねいいね! 覚悟が灯った良い表情するじゃないか~♪」

 

うっしっし、と束は嬉しそうに笑った。

 

「今回の無人機は強いかんね~」

「今回の無人機?......あれ、何か忘れてるような」

 

束は以前にも一度、無人機をIS学園に送り込んでいる。

だいぶ昔に感じるが、一夏と鈴のクラス対抗戦の時の事だ。

 

「思い出したわ! あの時の無人機ってもしかして!?」

 

当事者の一人、鈴が声を張り上げた。

 

「ピンポーン! 束さんが作ったレベル1ゴーレムだよ~♪」

 

まるで悪びれずに宣う。

 

「ちょ、ちょっと待ってください束さん! あの時、普通にヤバかったんですよ!? 恭一だって大怪我を負ったんだ!!」

「貴女の妹の箒だって死ぬ処だったのよ!? 何であんな事したんですか!? 箒も言ってやりなさいよ!」

 

鈴は箒に振るが

 

「あー....まぁ私はもう姉さんから説明を受けたしなぁ」

「俺は楽しかったから問題無し」

 

2人共こんな感じである。

 

束本人から漸くあの時の無人機襲来の事実が説明された。

 

「ううっ.....あの時は無我夢中で強さを掴む余裕なんて無かったよ」

「そ・れ・よ・り・も! 一夏にも強くなって欲しいからって、あそこまでする必要は無いでしょうが! 恭一が居なかったらマジで大変な事になってたのかもしれないのよ!?」

 

まだ納得出来ない鈴は束に噛み付くが

 

「おいおい鈴、さっきの話もう忘れたのかよ?」

「何がよ!? って、頭撫でてんじゃ無いわよあんたァ!!」

 

ディスプレイの中の束がニヤリと笑う。

 

「そっちの言い分なんか知らないよ~だ!」

「ふふっ.....姉さんは悪者ですね」

 

つまり、そういう事らしい。

 

「ちなみに今回の無人機は『レベル3ゴーレム』だよ♪ それでも『サイレント・ゼフィルス』よりは多分弱いからね。これに負けるようじゃあの子には到底敵わないんじゃないかなぁ」

 

ムカッ

 

束の挑発的な物言いに、思わず青筋が立つ面々。

其処に恭一、箒、楯無、千冬は入っていない。

束が今言っている相手はあくまで、この間の『キャノンボール・ファスト』で『サイレント・ゼフィルス』と戦った6人の少年少女達である。

 

(鉄火場鉄火場~♪)

 

火種を好く恭一に感化され、火に油を注ぐ事を好きになった迷惑博士である。

 

「ほんと、チミ達は弱いからねぇ」

 

ムカムカッ

 

「ちなみにキョー君なら『サイレント・ゼフィルス』を倒すのに何分要るかな?」

「ふむ.....俺はまだ戦ってはないが」

 

実はもう戦っている。

厳密には『サイレント・ゼフィルス』を纏っていない織斑マドカと、だが。

恭一は6人を相手にした立ち回りの映像を思い返し、自分とのイメージを浮かべてみる。

 

「此処に居る6人の猛者達を相手取ったんだ、相当の腕前と見て良いだろう」

 

その言葉に一夏達の顔が明るくなる。

恭一が自分達を猛者だと評価してくれている事に対して。

そんな彼の答えは

 

「俺なら2秒で釣りくるけどな」

 

それはそれ、これはこれである。

 

「何でだろうね。なぁーんかさぁ.....カッチーン、ときたよ僕」

「上げて落とされた.....」

 

かなりピキピキきているシャルロットに、青い炎を纏っている簪。

そんな様子を嬉しそうに眺める束はまだ止まらない。

 

「むふふ、それならもし明日のゴーレム相手に皆が手こずるようじゃ?」

「うんこだな」

 

「「「「「 ッッッ?!?!!?!? 」」」」」

 

猛者評価からまさかの暫定うんこである。

 

「誰がうんこですってぇ.....ぶっ殺すわよあんたァ......」

「いや、女の子が使っていい言葉じゃないだろ」

 

一夏が突っ込むも鈴の表情には憤激の色が漲っている。

 

(うんこ? ぶっ殺す? どっちに対してアイツは言ったんだ)

 

皆の血相を変えた張本人は、暢気にそんな事を思ったそうな。

 

ピコン!

 

束の頭に『!』が灯る。

 

「束さんってば、興味無い子の名前は覚えられないんだよねぇ」

 

恐ろしい顔で嗤う天災博士。

 

「ゴーレムに負けちゃうような子は.....むふふふ」

 

((((( アカン )))))

 

付けて良いあだ名と悪いあだ名が世の中には存在する。

今回は間違い無く後者だった。

 

「ね、姉さん? 可愛い妹には、そんな仕打ちしないですよね?」

 

束さんは箒ちゃんが大好きだからね。

安心してよ。

免除するに決まってる、間違いないさ。

 

「その時は、一緒に家庭裁判所へ行こうね♪」

「戸籍変更!?」

 

1人だけハードモードが確定した箒だった。

 

「セシリアァ!!」

「は、はいっ!」

「明日は絶対勝つぞ!! 否、勝たねばならんのだッッ!!」

「と、当然ですわ! 最初から全開でいきますわよ!」

 

箒・セシリアペア以外も鼓舞しあう其々。

 

「守りは貴女に任せるわ、簪ちゃん。私は全てを込めて突貫する」

「うん。お姉ちゃんは傷付けさせない」

 

「束さんはやると言ったらやる人だ、箒も俺も例外じゃない」

「ゴーレムだろうが何だろうが関係無い、滅殺してやるわ。気合入れなさい一夏!」

 

「スプラッターにしてやれば何の問題も無いだろう」

「そうだね。僕とラウラなら大丈夫だよ」

 

絶対に負けられない戦いが、其処にはある。

負ければ最後、不名誉な称号を得る事になってしまうのだから。

 

皆が明日に向けて、全身を炎のように燃え立たせている中

 

パリッ

 

「んぐんぐ.....」

 

音を鳴らしてせんべいを食べている男の姿在り。

 

「ズズー.....せんべいと熱い茶は合うなぁ」

「ふふっ....どれ、私も1つ貰おうか」

 

男の隣りで、これまた寛いでいる教師の姿在り。

 

千冬はまだ良い。

まだ分かる。

そもそも生徒では無いし。

だが。

 

((((( お前は違うだろ )))))

 

発端を作った本人が、何故こんなに風に装えるのか。

 

「随分まったりしてるじゃないか恭一ィ....誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」

 

(((( そうだそうだ! ))))

 

暫定うんこ団体代表者篠ノ之箒が、皆の心のエールを受けながら前に出る。

 

「お前は私の名前がうん....オホンッ.....に変わっても平気なのか?」

 

年頃の乙女な箒にうんこ発言は厳しかった。

 

「え? なんだって?」

 

唐突なラノベスキルは主人公の特権。

 

「今度それ使ったら嫌いになる」

「ごめんなさい」

 

この世界では、やはり通用しないらしい。

気を取り直して、恭一は抗議の目を向ける皆を見渡し

 

「闘る前に負ける事考える馬鹿がいるかよ」

 

豪快に言い放った。

そしてやっぱり束同様、彼も悪びれて無かった。

 

「ぐっ.....確かに正論ではある、が」

 

 

お前が言うなよ。

 

 

全員がそう思ったが、口に出す事すら馬鹿らしくなったそうな。

 

 

________________

 

 

 

アリーナにて準備運動をしながら連携確認をしている箒とセシリア。

 

 

―――ズドォオオオンッ!

 

 

突然、地震が起きたかのように大きな揺れがアリーナを襲う。

 

「ッッ....来ましたわね!!」

 

ISを纏い、身構えるセシリア。

それに続いて箒も『打鉄』を展開する。

 

「セシリア」

「?....どうされました箒さん」

 

何やら決意が満ちた声に振り向くセシリアだったが

 

「明日は恭一とホテルでディナーの約束をしているんだ」

「そんな羨ましい事をどうして今言う必要があるんですか」

 

味方なのに敵とは是如何に。

 

「この戦いに勝ったら、私は明日恭一にいっぱい甘えるんだ」

「......Japanese Flag」

 

 

キュゥゥ.....ゥゥウン

 

 

2人を前に黒き無人機『ゴーレムⅢ』が姿を現した。

 




負けなきゃ良いんだし、ほんとカンタンだから。
ちょっとワッーってやって、パパッと勝って、オワリッていう感じ。

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